『APU言語研究論叢』(APLJ)第10巻は、昨年逝去された立命館アジア太平洋大学前学長、是永駿先生の
ご遺志を偲ぶ追悼特集から始まります。まず、現学長の米山氏が是永教授の業績を改めて位置づけ、その
普遍的な意義を強調しています。続いて張文青准教授が、本追悼号を構成するエッセイ、追悼文、学術論文
を概観しています。
第2部では、言語教育センターの現・元教員による3本の研究論文を紹介します。3名の教員からの寄稿は、
是永教授と同様の言語教育への情熱から生まれたものであり、日本語、英語、アジア太平洋言語プログラム
の中核をなす教育への深い考察と献身を示しています。
1つ目の水戸貴久氏による日本語論文は、語り手と聞き手のみによる「二項関係」の語りと、語り手が描
いたイメージ画を介しての語り手と聞き手による「三項関係」の語りを比較し、語りの構成と語りの形式の
観点から両者の違いを分析、考察したものです。イメージ画という言語によらない自己表現が、言語の語り
に与える貢献の可能性について考えさせられる論考です。
2つ目の論文は、アン・ヘレーラ氏による英語論文です。ヘレーラ氏は担当英語クラスで、マルチモーダル・
アプローチを取り入れたインクルーシブな授業を創ることに精力的に取り組んできました。彼女は各学期の
初めに学習者それぞれが好む学習方法を調査し、その後、それぞれのクラスの特徴、強みを土台に、学習者
が最も苦手と認めているスキルも含め、すべてのスキルの学習を促すように教授法を調整します。この論文
は、能動的でインクルーシブな授業を実践しようと努力するすべての教師、特に日本の学校制度で育った学
習者を教える教師にとって、大いに興味を惹くものでしょう。彼女の研究は、英語の授業を受ける日本人学
生の間に、重要な異質性があることを明らかにしています。
3つ目の論文はマイケル・フィリップス氏による英語論文です。フィリップス氏もまた、大変献身的な教
育者であり、それは教育実践に対する批判的省察の研究にもはっきりと表れています。フィリップ氏の献身
的な姿勢は、担当する各クラスの膨大なフィールドノートからも窺い知ることができます。この論文は、ス
ティーブン・ブルックフィールドが提唱する教師のための批判的省察の4つの観点すべてを実践した事例を
論じた初めてのものであり、教室におけるベストプラクティスの開発に尽力する教育者を鼓舞するものであ
ることは間違いないでしょう。
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