2015 年 63 巻 3 号 p. 299-309
大分県の大野川水系支流神原川の最上流部に生息する無斑型のイワメを含むアマゴの3隔離個体群を保全するため,mtDNA の遺伝的構造を調べた。神原川支流波木合川のメンノツラ谷にはイワメが生息し,隣接するまんりょう谷のアマゴとともに生息域の大部分が禁漁である。一方,神原川源流部は禁漁ではないが公式な放流記録がない。得られたハプロタイプのうち Hap-1 はすべての隔離集団に見られ,イワメで固定(100%),神原川源流部のアマゴで優占(90.5%)したが,まんりょう谷のアマゴでは少なかった(10.0%)。また,Hap-1 は神原川全体で採集したアマゴ稚魚でも優占した。これらの結果とイワメ個体群の現在までの存続を考慮すると,メンノツラ谷のイワメと神原川源流部のアマゴは在来個体群であり,まんりょう谷のアマゴは禁漁区の上流側で放流された養殖魚にほぼ置換されたと推測された。