水産増殖
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63 巻, 3 号
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原著論文
  • 谷 敬志, 川越 力, 松本 世津子, 水田 浩之, 安井 肇
    2015 年 63 巻 3 号 p. 235-244
    発行日: 2015/09/20
    公開日: 2016/09/20
    ジャーナル フリー
    函館市根崎沿岸において,ガゴメの季節的消長と形態形成について詳細に観察した。その結果,1~7月に発生したガゴメの1年目幼胞子体は10月までゆっくりと生長して約10 cm になり,10月~翌年1月に全てが再生した。再生現象が見られるまでに成熟する胞子体は見られなかった。2年目胞子体は1~7月の期間,著しい生長を示し7月には葉長が 2 m を超える大形体となった。8~10月には腐朽が見られ,約100 cm となるが10~11月に成熟した。標識をつけた2年目胞子体400個体のうち,約40%の胞子体で12月~翌年2月に再生が確認されたがほとんどが4月までに流失し,7月まで生長した胞子体は400個体のうち約2%だけであった。3年目胞子体は8~10月に腐朽したが10~11月には成熟した。その後,12月には全ての胞子体が流失した。
  • 杉浦 省三
    2015 年 63 巻 3 号 p. 245-253
    発行日: 2015/09/20
    公開日: 2016/09/20
    ジャーナル フリー
    本研究は低リン(LP)飼料と高リン(HP)飼料を用いてニジマス(平均体重129および115 g)を飼養し,リン制限下でのリン収支について調べた。同時に数尾の魚を無給餌で畜養し比較した。LP 飼料を給餌した魚(LP 魚)では血漿リン濃度が次第に低下した(0日目93 mg/l;32日目17 mg/l)。一方,HP 飼料を給餌した魚(HP 魚)と無給餌の魚は正常値を維持した(81-130 mg/l)。血漿リン濃度は LP 飼料給餌後,顕著に低下した。LP 魚は水中の溶存リンを少量吸収したが,無給餌魚は少量のリンを排泄した。LP 魚,HP 魚共に,溶存リンは血漿リン濃度に影響しなかった。LP 魚は HP 魚と比べて,全魚体あたりの灰分(65%),リン(67%)およびカルシウム(Ca; 39%)含量が顕著に低下した。魚体 Ca 含量がリン欠乏度の診断に有効と考えられた。
  • 伊藤 慎悟, 笠井 久会
    2015 年 63 巻 3 号 p. 255-259
    発行日: 2015/09/20
    公開日: 2016/09/20
    ジャーナル フリー
    マツカワ稚魚にスクーチカ繊毛虫によると考えられる死亡が発生したため,魚類培養細胞で分離した繊毛虫の病原性と食酢および茶抽出物の殺虫効果を調べた。分離した繊毛虫は PCR 法で M. avidus と同定された。SSN-1 細胞で培養した虫体を用い,マツカワ稚魚への浸漬感染試験と腹腔内接種による感染試験を行い,経過観察した。浸漬感染試験では感染が成立しなかったが,腹腔内接種による感染試験では7日間で全数死亡し,繊毛虫が再分離されたため,本種がマツカワ稚魚に対して病原性を有することが確認された。海水に懸濁した培養虫体を食酢または茶抽出物に曝露し,虫体生存数を MPN 法で測定した。虫体生存数は0.7%食酢または0.01%茶抽出物に30分曝露すると検出限界以下になった。0.01%茶抽出物はマツカワに毒性を示したが,0.7%食酢の影響はほぼなかったことから,実験室レベルでは0.7%食酢に30分曝露することが有効な防除手段と考えられた。
  • 芹澤 如比古, 金原 昂平, 芹澤(松山) 和世
    2015 年 63 巻 3 号 p. 261-271
    発行日: 2015/09/20
    公開日: 2016/09/20
    ジャーナル フリー
    静岡県御前崎(南方型ワカメ分布域)に生育するワカメの形態の季節変化を明らかにするため,2006年に月1回,約15個体を採集して藻体各部位の測定を行った。1月に確認された小型の藻体にもすでに数枚の側葉,細い中肋,短い胞子葉が認められ,4月に全長(中央葉長+茎長)は232 cm,全幅(中央葉幅+最長側葉長×2)は120 cm,個体生重(付着器を除く)は945 g で最大となった。藻体は8月には消失し,12月には中肋と側葉のない卵型の幼体が再び出現した。形態比較のため,千葉県銚子(北方型ワカメ分布域の南限)でもワカメを5~7月に採集し,同様の形態測定を行った。銚子産ワカメは5月に全長206 cm,全幅110 cm,6月に個体生重777 g で最大となった。両地のワカメはともに全長が2 m を越えるほど大型であり,形態的特徴もほぼ一致し,全長に対するいくつかの測定項目の割合にも大きな違いが認められなかった。
  • Shiela Villamor , 山本 智子
    2015 年 63 巻 3 号 p. 273-282
    発行日: 2015/09/20
    公開日: 2016/09/20
    ジャーナル フリー
    熱帯から温帯まで幅広く分布し,主に熱帯域で重要な資源となっているハナビラダカラについて,資源管理上重要な個体群の特性を調査した。調査は,熱帯に位置するフィリピン各地,亜熱帯の奄美群島及び温帯に属する種子島や薩摩半島の潮間帯で行った。多くの海岸では成熟した個体に比べて未成熟個体が極めて少なく,資源維持の観点から未成熟個体の生息環境を明らかにする必要性が示唆された。雌雄比はいずれの個体群でもどちらかに有意に片寄ることはなく,いくつかの個体群では,雌の殻長の方が有意に大きかった。工芸品として利用するため大型個体を選択的に採集する行動は雌への漁獲圧を高める可能性があり,長期的な資源管理において好ましくない結果をもたらす可能性がある。以上の結果から,本種の繁殖に関する既存の研究も参考にして,資源の持続的利用のための漁業管理の方向性を提案した。
  • 佐藤 正人, 渋谷 和治
    2015 年 63 巻 3 号 p. 283-290
    発行日: 2015/09/20
    公開日: 2016/09/20
    ジャーナル フリー
    サクラマスの回遊経路の推定,成長速度および回帰魚の母川選択率を把握するため,1996年から2010年(2007年を除く)にかけての3-4月に,秋田県米代川から放流群ごとの平均尾叉長の範囲が10.6-17.1 cm のスモルトを合計323,620個体標識放流した。再捕報告があった標識魚は合計501個体であった。再捕結果から標識魚の多くは,降海後に津軽海峡を通過する経路で北上し,オホーツク海で越夏する。また,津軽海峡東部,福井県以北の日本海ないしは宮城県以北の太平洋で越冬し,翌年の夏までに母川回帰すると推定された。尾叉長は,海域における回遊期間では月の経過とともに伸長したが,河川への遡上後は伸長しなかった。海域における標識魚の尾叉長の増加速度は,0.09±0.03 cm/日であった。標識魚の母川選択率は88.9%(32/36個体)であった。
  • 杉浦 省三, 殿山 泰弘, 河内 浩行, 塚田 匡輝, 岡 郷平, 今井 良政, 眞田 的貴, 清水 淑子, 川瀬 利弥, 堀 伸明, 清水 ...
    2015 年 63 巻 3 号 p. 291-297
    発行日: 2015/09/20
    公開日: 2016/09/20
    ジャーナル フリー
    醤油油は醤油製造の副産物で,飼料原料としては一般に利用されていない。本研究は飼料原料としての醤油油の有効性を,養殖成績,魚肉の脂質含量および食味試験をもとに評価した。醤油油あるいは大豆油(対照区)を 5%添加した飼料でビワマス(平均魚体重176 g)を94日間飼養した。養殖成績,脂質含量および食味試験において,醤油油は大豆油と同等の成績を示した。一方,特定のパネル間で醤油油の添加が養殖魚の食味を有意に向上する効果が認められた。これらの結果から,醤油油は代替飼料原料として有効であり,養殖魚の食味を改善できる可能性が示唆された。本報は醤油油で飼養した魚を食味評価した最初の報告である。
  • 木本 圭輔, 米加田 徹, 高橋 洋, 長澤 和也
    2015 年 63 巻 3 号 p. 299-309
    発行日: 2015/09/20
    公開日: 2016/09/20
    ジャーナル フリー
    大分県の大野川水系支流神原川の最上流部に生息する無斑型のイワメを含むアマゴの3隔離個体群を保全するため,mtDNA の遺伝的構造を調べた。神原川支流波木合川のメンノツラ谷にはイワメが生息し,隣接するまんりょう谷のアマゴとともに生息域の大部分が禁漁である。一方,神原川源流部は禁漁ではないが公式な放流記録がない。得られたハプロタイプのうち Hap-1 はすべての隔離集団に見られ,イワメで固定(100%),神原川源流部のアマゴで優占(90.5%)したが,まんりょう谷のアマゴでは少なかった(10.0%)。また,Hap-1 は神原川全体で採集したアマゴ稚魚でも優占した。これらの結果とイワメ個体群の現在までの存続を考慮すると,メンノツラ谷のイワメと神原川源流部のアマゴは在来個体群であり,まんりょう谷のアマゴは禁漁区の上流側で放流された養殖魚にほぼ置換されたと推測された。
  • 森田 晃央, 鈴木 千恵, 久門 道彦, 道家 章生
    2015 年 63 巻 3 号 p. 311-316
    発行日: 2015/09/20
    公開日: 2016/09/20
    ジャーナル フリー
    京都府の阿蘇海に生育するミヤベモク群落から採取した藻体について3-30 psu の異なる4段階の塩分下において培養し,その生長および栄養繁殖におよぼす影響を調べた。ミヤベモク藻体長は,15 psu および30 psuで良好であったが,3 psuおよび 7 psuでは生長が抑制された。茎からの新たな茎形成数は15-30 psu では差がなかった。また,付着器からの茎の出芽数は,7-30 psu では差がなく,3 psu で阻害された。付着器から出芽した形成茎長は,3 psu および 7 psu で抑制された。阿蘇海産のミヤベモクは生長と栄養繁殖が 7 psu 以下で阻害されるが,低塩分に対して耐性を持つことが明らかとなった。
  • 中川 雅弘, 堀田 卓朗, 吉田 一範, 野田 勉, 水落 裕貴, 島 康洋, 津崎 龍雄
    2015 年 63 巻 3 号 p. 317-324
    発行日: 2015/09/20
    公開日: 2016/09/20
    ジャーナル フリー
    年齢が既知であるクエ人工生産魚102尾(2~7歳)を用いて,鱗及び耳石の輪紋の形成状態と形成期を比較し,年齢形質としての有効性を検討した。鱗は体幹の4カ所から採取し,再生鱗の割合,鱗長及び輪紋数から最適な採鱗部位を検討した。再生鱗の出現割合は,部位Bが有意に高く,有意差は認められなかったが,部位Cが最も低い値を示した。部位Cから採取された鱗は他の部位に比べて有意に長かった。部位Cから採取した鱗の輪紋数は,74~100%の割合で年齢と一致し,他の部位に比べると高かった。耳石の輪紋数は,67~100%の割合で年齢と一致した。鱗及び耳石の縁辺成長率は6月が最も低く,その直前の5~6月が輪紋の形成期であると推察され,これらの輪紋は1年に1回形成される年輪であることが示唆された。これらの結果,Cの部位から採取した鱗と耳石の輪紋は,本研究で用いた年齢の範囲内では年齢査定に有効な年齢形質であった。
  • Alok Kalla , Mohammad Nakib Dad Khan , 荒木 利芳, 吉松 隆夫
    2015 年 63 巻 3 号 p. 325-332
    発行日: 2015/09/20
    公開日: 2016/09/20
    ジャーナル フリー
    スサビノリ Pyropia から調製されたスフェロプラスト(PS)を含む配合飼料の効果を検討するため,ニシキゴイ Cyprinus carpio(平均体重3.0 g)を無作為に13尾ずつ各水槽に収容し,150日間の給餌試験を実施した。無添加および4段階の異なる PS 含量で調製した PS 飼料(15, 30, 45および78% PS)を1日に3回給餌し,閉鎖循環条件で飼育した。その結果,15%PS 区では成長および栄養成分の保持率が増加したが,飼料転換効率(FCR)はコントロール区や他の PS 区と比べて低くなった。一方で,飼料の PS 含量が15%以上の試験区では成長が低下し,FCR が増加した。また,15%PS 区の供試魚の体タンパク質含量は,より高い PS 含量の試験区と比較して高かった。本飼育試験の結果から,PS は魚粉に代わるニシキゴイ用の新たな代替飼料タンパク質源として期待できることが明らかとなった。
  • 樋口 健太郎, 小西 淳平, 高志 利宣, 田中 庸介, 鈴木 絢子, 辻田 明子, 澤口 小有美, 玄 浩一郎, 岡 雅一, 虫明 敬一
    2015 年 63 巻 3 号 p. 333-341
    発行日: 2015/09/20
    公開日: 2016/09/20
    ジャーナル フリー
    電解海水によるクロマグロ受精卵の消毒法を開発する第1段階として,電解海水処理時の卵発生段階(4細胞期,桑実胚期,嚢胚期,5体節期,心臓拍動期,ふ化1時間前)および残留塩素濃度(0.0,0.5,1.0,1.5 mg / l)の違いがふ化に及ぼす影響を調べた。各発生段階の受精卵を用いた2分間の電解海水処理(残留塩素濃度1.0 mg / l)では,4細胞期およびふ化1時間前の受精卵を用いた場合に残留塩素を含まない海水で同じ操作を行った対照区と比較して正常ふ化率が有意かつ顕著に低下した。また,各残留塩素濃度の電解海水を用いた1分間の処理では,残留塩素濃度1.5 mg / l の場合のみで正常ふ化率が有意に低下した。以上より,残留塩素に対する耐性が高い桑実胚期から心臓拍動期の受精卵を用いた残留塩素濃度1.0 mg / l,2分以内の電解海水処理はクロマグロ受精卵のふ化に影響を及ぼさないことが明らかとなった。
  • 宮崎 里帆, 黄 耿琳 , 平坂 勝也, 竹下 哲史, 谷山 茂人, 橘 勝康
    2015 年 63 巻 3 号 p. 343-348
    発行日: 2015/09/20
    公開日: 2016/09/20
    ジャーナル フリー
    養殖ブリのヤケ肉発生時における肉質軟化のメカニズム解明のため,ヤケ肉発生に伴う筋内膜の微細構造の変化を検討した。背部普通筋の感覚色度 L値および圧出水分量は,いずれの保存時間においても夏季の苦悶死魚が夏季および冬季の即殺魚より高く,筋肉 pH は,夏季の苦悶死魚が低かった。筋内膜の走査型電子顕微鏡観察において,夏季および冬季の即殺魚では保存時間を通じてハニカム状の構造が観察され,膠原線維の密な膜構造を呈していた。しかし,夏季の苦悶死魚では保存4時間後にはその構造が崩壊し,膜面に虫喰い状の形態も認められた。また,透過型電子顕微鏡観察において,夏季の苦悶死魚では致死直後から筋内膜の膜厚が薄く,保存2時間以降,膠原線維が断片化した様相が認められた。以上より,ヤケ肉発生時における肉質軟化には筋内膜の崩壊,特に筋内膜の主要構成成分である膠原線維の崩壊が関与することが明らかとなった。
短報
資料
  • 吉田 歩, 山崎 英樹, 伊藤 篤, 崎山 一孝, 阪倉 良孝
    2015 年 63 巻 3 号 p. 361-366
    発行日: 2015/09/20
    公開日: 2016/09/20
    ジャーナル フリー
    クルマエビが捕食するアサリの殻長を定量的に調べた。体長23.1-141.2 mm のクルマエビ人工種苗は,自身の体長の平均6.7%以下(1.3-9.5%)のアサリ人工種苗を捕食した。クルマエビの口器とクルマエビが捕食したアサリの殻長の関係を見ると,クルマエビが捕食したアサリの最大殻長とクルマエビの第二顎脚長がほぼ一致することが分かった。また,クルマエビが捕食できる最小のアサリはクルマエビの第一小顎の長さで決定すると考えられた。以上の結果から,クルマエビは着底後の小型のアサリを捕食している可能性が高いと考えられた。さらに,クルマエビと殻長10 mm 以上のアサリとの複合養殖が可能と考えられた。
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