水産増殖
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原子力発電所からの温排水が生物に与える影響について
内浦湾におけるワカメ養殖試験
堀 俊明
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1981 年 29 巻 2 号 p. 88-97

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抄録

福井県高浜町内浦湾奥にある関西電力高浜原子力発電所からの温排水が, 養殖ワカメの生長と成熟にどのように影響するかについて, 試験・調査を行った。その結果は次のように要約できる。
1) 稼動時における同一水深のSt.1およびSt.2とSt.3との平均水温との差は, 水深0.5m層では, St.1とSt.3では3~4℃, St.2とSt.3では1.5~3℃, 2.0, 3.0m層ではSt.1およびSt.2とSt.3とでは1~2℃であった。
2) 稼動時における水温の日較差は, St.1, 2で3~4℃, St.3で2~3℃に達する日がみられた。
3) 着生密度は, 水深1.0m以浅ではSt.1, 2, 3の順で, 1.0~3.5m層ではSt.2, 1, 3の順で低かった。
4) 葉体の生長は, 水深2.0m以浅ではSt.1, 2, 3の順で悪く, それを越えるとSt.1とSt.2とに差がなくSt.3に比べてともに悪かった。
5) 葉体の成熟は, 水深2.0m以浅ではSt.1, 2, 3の順で良く, それ以深ではSt.1とSt.2とに差がなくSt.3に比べてともに良かった。
6) 佐渡, 五島, および有明海でのワカメ養殖場と今回の温排水試験域との水温の比較から, 調査水域の平均水温は養殖適水温とみなされる。
7) 温排水によってワカメの着生密度, 生長, および成熟が受ける影響は, 平均水温の上昇だけではなく, 温度ショックによるものも考えられる。
8) 養殖ワカメは, 温排水の生物に与える影響を調べる良い指標生物といえる。
終りに, 今回の調査期間中終始御指導いただいた福井県水産試験場主任研究員安田徹博士に深謝の意を表します。また, 調査に協力していただいた同場前技師宮内幾雄氏と同場技師小松久雄氏に感謝します。

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