水産増殖
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キジハタ仔稚魚の側線系感覚器の形成過程
鈴木 伸洋萓野 泰久水戸 鼓
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1996 年 44 巻 2 号 p. 159-168

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抄録

キジハタ仔稚魚の発育にともなう行動の変化 (生態的特性) を推定する目的で, 人工種苗を用いて体表の遊離感丘の出現領域, 形態発育および感覚細胞の感度極性と水槽内における行動との関連を調べた。
キジハタの遊離感丘内には正反対の配列の感覚毛をもつ感覚細胞が対を成して存在し, その最大受容感度方向は体軸の前後方向と背腹の二つの方向からのものに分けられた。
孵化直後の仔魚には, 眼胞と鰓孔とを結ぶ直線のほぼ中点の位置に左右一対の遊離感丘が存在した。この感丘は形態的に完成した構造を呈しており, 感度極性は体軸の前後方向にあった。これは, この時期の仔魚が水槽の中底層に頭を下にして懸垂した姿勢で定位: し, 弱い抗流性を示して浮上と沈降を繰り返す行動と関連があるものと推察された。孵化4日目には, 上顎と下顎の吻端部に遊離感丘が出現し, 全方向性の感度極性が認められ, この極性が摂餌行動における視覚の補助的役割を担っている可能性が考えられた。孵化25日目には, 1つの遊離感丘の感覚細胞数が急激に増加し, 眼の周囲では遊離感丘が管器状に形態変化した。孵化35日目には, 頭部の遊離感丘は鼻孔の周囲を除いて管器に変化し, 管器内の感覚毛もクプラへの形態変化が認められた。この時期の仔魚には群泳行動がみられ, この行動発現と遊離感丘の管器への形態的変化が一致していた。側線系管器の完成は孵化45日目頃からであった。このように, 本種では頭部の管器の形成にともなって成群行動が発現し, 側線系管器の完成時には底生性に移行することから, 遊離感丘の発達は行動の変化と関連があることが示唆された。

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