2015 年 22 巻 p. 72-90
20世紀後半の市民活動は、自立する個人が自由につながるネットワーク型をとることが多く、階層的組織を基礎とするアーカイブズ学の伝統的な枠組ではとらえきれない部分がある。本稿ではそうした問題意識から、ベトナム戦争の時代、米軍からの脱走兵を支援した日本の市民活動記録の事例に、伝統的な枠組と、80年代以降欧米で提唱された新しい枠組を適用し、記録の定義、記録と時空間の関係、そして記録保存の3つの観点から分析を試みる。そのうえで、様々な境界を超えようとする80年代以降の枠組の方が、組織や国境を超えてつながる市民活動の記録を理解するためには有効であることを示す。