年報カルチュラル・スタディーズ
Online ISSN : 2434-6268
Print ISSN : 2187-9222
人種と文化をめぐる冷戦
第一回黒人作家芸術家会議のリチャード・ライトとジョー ジ・ラミングを中心に
吉田 裕
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2018 年 6 巻 p. 125-144

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抄録
本論文は、第三世界主義の決定的な瞬間の一つである、パリで開催された第一回黒人作 家芸術家会議を取り上げる。そして、英語圏、仏語圏の作家や知識人たちのあいだでの人 種を超えた連帯という表向きの祝祭的な雰囲気の影で密かに存在していた不協和音を検討 する。この論文の主な焦点は、合衆国の黒人作家であるリチャード・ライトによる発表「伝 統と産業化」とバルバドスの作家ジョージ・ラミングによって読み上げられた原稿「黒人 作家とその世界」を分析することにある。当時、パリに逗留していた若きアフリカ系アメ リカ人の作家ジェームズ・ボールドウィンによる会議の報告も一部、検討対象とする。合 衆国の内外での反共主義の隆盛という文脈において考えた時、フランス語圏の知識人たち とのあいだの共通性と差異、そして、目指されなかったものとは何なのだろうか。人種主 義と植民地主義を問題化するということはフランス語圏のアフリカ系知識人やカリブ系作 家らには共有されていたが、英語圏の作家らには別様に捉えられていたのではないだろう か。 前半では、人種主義と植民地主義の見え方に関して、合衆国代表団とフランス語圏の発 表者(特にエメ・セゼール)のあいだに存在していた軋轢に注目するが、その軋轢の要因 の一つとして合衆国代表団に共通してみられたのは何だったのかについて論じる。そして 後半では、この軋轢を反省的にとらえかえすための問いかけの出発点として、恥という情 動にラミングが傾注していることを論じる。そのことによって、冷戦期の情報戦や心理戦 が脱植民地期の「文化」概念に隠然たる影響を与えたことや、その影響に対する抗いの試 みの一端を明らかにする。
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© 2018 カルチュラル・スタディーズ学会
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