教育心理学年報
Online ISSN : 2186-3091
Print ISSN : 0452-9650
ISSN-L : 0452-9650
IV 教育心理学と実践活動
領域固有の概念変化を目指した授業デザインから領域普遍的な認知スキルへ
—教育に対するワーキングメモリ研究の意義—
湯澤 正通
著者情報
ジャーナル フリー

2014 年 53 巻 p. 166-179

詳細
抄録

 1970年代以降,ピアジェの領域普遍的な発達理論が批判され,認知心理学研究の発展に伴い,問題解決における領域固有な知識の重要性が認識されるようになった。そのような中,概念変化は,領域固有な理論の発達に依存すると考えられるようになった。さらに,社会文化的理論の進展により,概念変化は,その概念が使用される文脈に参加できるようになったり,その文脈や対話の仕方が変化したりすることであるという見方も提案されている。そのような中,概念変化を目指した実験研究の多くは,個別の領域での発達や問題解決を丁寧に記述するというアプローチをとっている。他方で,近年,メタ認知,アーギュメントスキル,ワーキングメモリといった領域普遍的なスキルが,新しい概念を学び,生成するソースとして注目されている。中でもワーキングメモリは,発達障がいや学習遅滞と密接にかかわることが明らかになっており,膨大な実験的研究や脳科学的研究の蓄積のうえに立った教育への応用が期待されている。発達障がいを抱える子どもの発達特性を踏まえた学習への参加の支援が成功しつつある現在,ワーキングメモリ理論は,その次のステップである理解や習得への糸口としてその研究の進展が期待される。

著者関連情報
© 2014 日本教育心理学会
前の記事 次の記事
feedback
Top