教育心理学年報
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巻頭言
I わが国の教育心理学の研究動向と展望
  • ―多層的な社会的文脈に着目して―
    長谷川 真里
    原稿種別: I わが国の教育心理学の研究動向と展望
    2022 年 61 巻 p. 1-15
    発行日: 2022/03/30
    公開日: 2022/11/11
    ジャーナル フリー

     本稿では,2020年7月から2021年6月までの1年間に発表された,日本における乳幼児期と児童期を対象とした研究の概観を行なった。対象は,2020年7月から2021年6月までに『教育心理学研究』,『発達心理学研究』,『心理学研究』,Japanese Psychological Researchに掲載された研究論文と,2021年に開催された日本教育心理学会第63回総会の「発達部門」のポスター発表である。第63回総会の全体的な特徴を分析した後,子どもの発達の社会的文脈に着目し,(a)対人関係の文脈に関する研究,(b)家族の文脈に関する研究,(c)学級・学校の文脈に関する研究,(d)複合的な文脈に関する研究の4つのトピックから,学会誌論文の概観を行なった。その結果を踏まえ,研究方法,参加者のタイプ,理論の重要性などの観点から今後の方向性を議論した。

  • ―現状と課題―
    岡田 努
    原稿種別: I わが国の教育心理学の研究動向と展望
    2022 年 61 巻 p. 16-28
    発行日: 2022/03/30
    公開日: 2022/11/11
    ジャーナル フリー

     青年期から成人期にかけての最近1年間を中心とした発達研究について概観した。

     その結果,青年期以降を対象とした研究の多くは具体的な問題解決を目指した実践に近い研究であり,発達現象そのものを対象とした研究は減少傾向にあった。

     日本教育心理学会第63回総会における研究発表については,青年期については親子関係に関する研究が多く見られた。またCOVID-19の影響に関する研究も見られたが,それらは短期的な適応や行動への影響に関するものであり,長期的な発達に対する影響についての研究成果は今後の課題と考えられた。

     また研究方法としてのWeb調査の問題,統計処理における誤用の問題などについて言及した。

  • ―「協働学習」に着目して―
    一柳 智紀
    原稿種別: I わが国の教育心理学の研究動向と展望
    2022 年 61 巻 p. 29-44
    発行日: 2022/03/30
    公開日: 2022/11/11
    ジャーナル フリー

     本稿では,2020年から2021年に『教育心理学研究』に掲載された論文と,2021年8月に開催された日本教育心理学会第63回総会で発表された研究を中心に,近年の教授・学習・認知研究を概観した。レビューの視点として「協働学習」に着目し,学習者,教師,学習デザインに関連する研究に分けて整理を行った。その結果,いずれの区分でも協働学習に関する研究は蓄積されていることが示された。また,今後の展望と課題として学習者に関しては協働学習を通じて何が育まれるのかを長期的に明らかにすること,教師に関しては協働学習で扱う課題を生み出す実践的知識について明らかにすること,学習デザインに関してはより柔軟な協働学習のデザインとその中での学習者の学びを明らかにすることが整理された。

  • ―いじめ研究の動向と課題―
    黒川 雅幸
    原稿種別: I わが国の教育心理学の研究動向と展望
    2022 年 61 巻 p. 45-62
    発行日: 2022/03/30
    公開日: 2022/11/11
    ジャーナル フリー

     本稿の目的は,教育社会心理学研究およびいじめに関する近年の動向を概観することであった。前半では,日本教育心理学会第63回総会における研究発表や2020年7月から2021年6月末までの1年間に刊行された『教育心理学研究』のうち,教育社会心理学研究に関する論文について概観した。後半では,2010年から2021年6月末までのおよそ12年間に,日本教育心理学会総会で発表された研究や『教育心理学研究』において掲載されたいじめに関する論文の動向を概観した。最後に,いじめの定義,学校内で起きるネットいじめ,いじめに関する研究の今後の展望について論じた。

  • 酒井 厚
    原稿種別: I わが国の教育心理学の研究動向と展望
    2022 年 61 巻 p. 63-80
    発行日: 2022/03/30
    公開日: 2022/11/11
    ジャーナル フリー

     2020年7月から2021年6月までの1年間に,日本人研究者が発表したパーソナリティに関する研究の概観を通して,わが国のパーソナリティに関する研究の動向を捉え,今後の研究の在り方の展望を論じた。諸研究は,パーソナリティを総合的に捉えた観点からの研究,特定の構成概念や特性の個人差を扱った研究,社会的態度に関する研究,パーソナリティの形成・発達と適応に関する研究の4つの枠組みから整理された。それぞれの研究動向と展望については,メタ分析や大規模データの二次利用からの特性理解の進展とさらなる展開への期待,多様な構成概念や特性を多角的な視点から検討する研究の蓄積とそれらを統合することの必要性,様々な社会的問題に対する態度を扱った研究の重要性,社会的適応や精神的健康に関して今後の発展が予想される研究テーマの萌芽としてまとめられた。

  • 杉本 希映
    原稿種別: I わが国の教育心理学の研究動向と展望
    2022 年 61 巻 p. 81-99
    発行日: 2022/03/30
    公開日: 2022/11/11
    ジャーナル フリー

     本稿は,2020年7月から2021年6月末までの1年間に,『教育心理学研究』に掲載された論文(第68巻第3号―第69巻第2号),日本教育心理学会第62回,第63回総会において発表された研究を中心に,104本の研究発表,論文の動向を臨床心理学的問題と臨床心理学的援助,臨床心理学主要5領域の視点から分類し概観した。そのうえで,研究方法と研究環境についての課題を述べるとともに,今後発展が期待される領域やテーマについて論考した。

  • ―支援技術(Assistive Technology: AT)による学習保障と新たな学びの創造をめざして―
    丹治 敬之
    原稿種別: I わが国の教育心理学の研究動向と展望
    2022 年 61 巻 p. 100-114
    発行日: 2022/03/30
    公開日: 2022/11/11
    ジャーナル フリー

     本研究は,学習障害等の読み書き困難のある子どもの学習保障や学びの創造をめざして,ICT利用の可能性と今後の研究を展望する。そのために,近年の日本と海外における事例研究及び実証研究から,学習障害のある児童生徒に対するICT活用の効果を整理した。主に,「読み」「書き」「意欲」「自立」「心理的ウェルビーイング」に対するエビデンスに焦点を当てた。これら5つの領域の効果に関する文献検討を行ったうえで,テクノロジー(例えば,音声読み上げ機能,文書作成アプリ,スマートペン,アイデア描画アプリ,音声認識,e-learningシステム)の導入とその使用方略指導が,学習障害の子どもの学習保障と新たな学びの創造に貢献できることが考察された。最後に,GIGAスクールの実現に向けたこれからの日本の学校教育を背景にしながら,(1)ICT活用のアセスメントとフィッティング方法の確立,(2)ICT活用のエビデンス構築,(3)ICT活用を支える学校環境づくり,といった3つの重要な研究課題を提案した。

  • ―国内の研究動向のレビューを通した研究手法の概観―
    水野 君平
    原稿種別: I わが国の教育心理学の研究動向と展望
    2022 年 61 巻 p. 115-132
    発行日: 2022/03/30
    公開日: 2022/11/11
    ジャーナル フリー

     本稿の目的は2020年7月から2021年6月末までの1年間の教育心理学における学校心理学分野の研究動向をレビューし,その課題を論じることであった。まず,日本教育心理学会第63回総会の「学校心理学(PG)」部門で行われた65件の発表について研究の動向を論じた。後半は,学校心理学にかかわる国内和文雑誌3誌から27編の論文を抜き出して研究動向を整理した。最後にレビューした論文の研究手法についての動向の整理と今後の課題を述べた。

  • ―共分散構造分析の適用実態の概観を中心に―
    久保 沙織
    原稿種別: I わが国の教育心理学の研究動向と展望
    2022 年 61 巻 p. 133-150
    発行日: 2022/03/30
    公開日: 2022/11/11
    ジャーナル フリー

     直近の1年間に『教育心理学研究』に掲載された論文で,量的研究法を用いていた24編中9編でパス解析・共分散構造分析(SEM)が利用されていた。本稿ではまず,SEMに焦点を当てて,『教育心理学研究』におけるその利用の現状を報告し,SEMの理論の正しい理解と適切な適用に資する論考を紹介した。近年は,多母集団同時分析や,縦断データ及び階層データを対象としたモデルなど,より複雑かつ高度なSEMのモデルが利用される傾向が見られた。今後は,項目反応理論やベイズ統計モデリングなどさらに数学的に高度な方法論への理解も求められるだろう。高度な手法を利用する研究者には,それ相応の説明責任が伴う。心理統計・測定評価の専門家は,応用研究者が手法を正しく使いこなせるように,ユーザーの視点に立った教育・啓発活動を継続する必要がある。学会には,査読を経た掲載論文の質保証と,執筆マニュアルの充実が望まれる。SEMに限らず,数学的に高度な統計的手法が正しい理解に基づき適切に利用されるためには,「ユーザーとしての応用研究者」,「心理統計・測定評価の専門家」そして「学会」の三者協働による不断の努力が必要不可欠である。

II 展望
  • ―学校教育に関する研究を中心に―
    岡田 涼
    原稿種別: II 展望
    2022 年 61 巻 p. 151-171
    発行日: 2022/03/30
    公開日: 2022/11/11
    ジャーナル フリー

     本論文では,日本での自己調整学習とその関連領域における研究の動向を明らかにし,今後の研究の方向性を明らかにすることを目的として研究レビューを行った。特に,近年の学校教育において自己調整学習への関心が高まっていることに鑑み,小学生から高校生を対象とした研究に焦点をあてた。2011年以降に日本の主要雑誌に掲載された論文を検索し,52論文を抽出した。レビューの結果として,(a)小学生から高校生までを対象とした研究があり,英語や算数・数学における研究が多いこと,(b)自己調整学習の主要な要素であるメタ認知,動機づけ,学習方略のいずれも研究の対象となっているものの,3つの要素すべてを扱っている研究は少ないこと,(c)自己調整学習の要素を用いて学業成績を予測するような調査研究から,介入によって自己調整学習を促そうとする実践的な研究まで幅広くみられること,が明らかになった。日本における今後の研究の方向性として,自己調整学習の理論と教育実践とのつながりをもつ研究が増えていくことが予想される。そのなかで,「理論をもとに実践を創る研究」と「理論をもとに実践を切り取る研究」の2つの方向性を示唆した。

III 教育心理学と実践活動
  • 高橋 知音
    原稿種別: III 教育心理学と実践活動
    2022 年 61 巻 p. 172-188
    発行日: 2022/03/30
    公開日: 2022/11/11
    ジャーナル フリー

     発達障害のある大学生(入試の受験者を含む)の能力をテストで適切に評価するために,実施方法の変更・調整(テスト・アコモデーション)が必要になる場合がある。本稿では,発達障害のある大学生へのテスト・アコモデーションにおいて,エビデンスに基づいて適切な判断を行えるようにするための資料を提供することを目的とする。そして,より適切な判断ができるように,今後さらにどのような研究が必要か,近年の研究動向をふまえて提言する。国内外の関連研究をレビューした結果,試験時間延長は発達障害のある学生に効果的であることが示された。記述試験におけるパソコンを使った解答は,タイピングに習熟すれば有効である。文字の拡大等,問題提示方法の変更は,発達障害のある学生対象の研究ではないものの,解答時間が長くなる可能性が示されている。別室受験は,有効性のみられる人がいる一方,LD,ADHDのある学生全体としては効果がみられず,むしろ成績を低下させる場合もある。発達障害のある学生は個人差が大きいことから,個別ケースにおける判断においても,研究においても,診断名ではなく,機能障害の状態の評価結果を重視することが求められる。

  • 楠見 孝
    原稿種別: III 教育心理学と実践活動
    2022 年 61 巻 p. 189-206
    発行日: 2022/03/30
    公開日: 2022/11/11
    ジャーナル フリー

     本稿は,高校公民科への心理学教育の導入について論じた。最初に,心理学が教科ではなく,公民科の科目の一部として教えられてきたことを述べた。つぎに,米国と英国における高校の心理学は,人気のある選択科目であり,科学としての心理学を重視している点で,日本における公民科「倫理」における心理学とは目標が異なることについて論じた。つづいて,日本の公民科カリキュラムにおける心理学的内容の変遷について述べ,その内容が,青年期の心理や現代思想としての精神分析に重点があり,60年近く変わっていなかったという問題点を指摘した。そして,学会などによるこれらの問題点を解決するための取組みについて述べた。そして,2022年から実施される新学習指導要領の公民科「倫理」において,個性,感情,認知,発達などの心理学の内容が導入されたことについて述べた。また,新学習指導要領における他教科においても,心理学に関連する内容が取り扱われており,科目横断的に学ぶことの必要性を述べた。最後に,教員と生徒における高校公民科への心理学教育の導入に関わるニーズと,心理学者と学会が解決すべき今後の課題について考察した。

IV 日本教育心理学会第63回総会
学会企画シンポジウム
学会企画チュートリアル・セミナー
V ハラスメント防止委員会企画シンポジウム
VI 日本教育心理学会 公開シンポジウム
VII 第56回(2020年度)城戸奨励賞
VIII 第19回(2020年度)優秀論文賞
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