教育心理学年報
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巻頭言
I わが国の教育心理学の研究動向と展望
  • ―縦断研究の発展に着目して―
    藤澤 啓子
    原稿種別: I わが国の教育心理学の研究動向と展望
    2024 年 63 巻 p. 1-16
    発行日: 2024/03/30
    公開日: 2024/09/25
    ジャーナル フリー

     本稿は,2022年7月から2023年6月までの期間に発表された,乳幼児期と児童期を対象とした研究の概観を行うもので,二つのパートから構成される。一つ目のパートでは,オンライン方式で開催された日本教育心理学会第65回総会において「発達」部門に発表された研究のテーマを整理し,近年の動向との比較を行った。日本教育心理学会第65回総会における学会企画シンポジウム(「縦断データによる研究の現在とこれから」)や『発達心理学研究』での特集号(「縦断研究は発達の解明にどう貢献するのか」第33巻,第4号,2022)に反映されているように,縦断研究にまつわる関心が新たなフェーズに入ったと見られることから,二つ目のパートでは,日本における縦断研究に着目した概観を行った。具体的には,『教育心理学研究』『発達心理学研究』『心理学研究』,Japanese Psychological Researchや国際誌に掲載された論文のうち,乳児期から児童期を対象にした縦断研究に触れながらその動向と今後の展望について考察した。

  • ―多様性,マルチメソッド,長期・短期の発達観に基づく発達研究の展開に向けて―
    畑野 快
    原稿種別: I わが国の教育心理学の研究動向と展望
    2024 年 63 巻 p. 17-36
    発行日: 2024/03/30
    公開日: 2024/09/25
    ジャーナル フリー

     本稿の目的は,国内外における発達研究を概観し,その特徴から今後のわが国における青年期以降の発達研究の展望を述べることである。まず,国内の研究報告,研究誌の10編の特徴を概観した上で,わが国における青年期以降の発達研究の数が非常に少ないことを確認した。次に,国外の研究64編(青年期,成人形成期から53編,成人期から8編,老年期から3編)に着目し,それらの特徴を概観した。さらに,国外の研究の特徴として(1)多様性への着目,(2)多様な研究手法の活用,(3)マクロ・マイクロの両レベルからの発達研究へのアプローチ,(4)個人内レベルの統計解析手法の活用が確認された。最後に,これらの特徴に沿って,わが国の青年期以降の発達研究の展望を述べた。

  • ―学習と研究法に対するICTのインパクト―
    島田 英昭
    原稿種別: I わが国の教育心理学の研究動向と展望
    2024 年 63 巻 p. 37-52
    発行日: 2024/03/30
    公開日: 2024/09/25
    ジャーナル フリー

     本稿の目的は,教授・学習・認知領域を中心に,直近1年間の教育心理学の動向を展望することと,ICT(情報通信技術: Information Communication Technology)の観点から上記の研究を整理し,教育心理学の未来を展望することである。学習におけるICT活用の概観と考察として,研究キーワードから全体の動向を探った後,オンライン授業に関する研究,対面授業におけるICT活用に関する研究等に分けて論じた。学習におけるICT活用が期待される研究として,自己調整学習に関する研究,協働学習に関する研究等に分けて論じた。研究におけるICT活用として,オンライン実験・調査,実験・調査におけるICT活用に分けて論じた。最後に,課題と展望として,学習におけるICT活用と研究におけるICT活用に分けて,教授・学習・認知領域における教育心理学とICT活用の関係を掘り下げ,将来の方向性について可能性を含めて論じた。

  • 平井 美佳
    原稿種別: I わが国の教育心理学の研究動向と展望
    2024 年 63 巻 p. 53-69
    発行日: 2024/03/30
    公開日: 2024/09/25
    ジャーナル フリー

     本論文の目的は,わが国の教育心理学における社会領域の研究動向について概観し,今後の展望について述べることである。まず,過去の本部門のレビューで使われてきた「教育社会心理学」とは何かについて整理した上で,従来の枠組みに従って2023年の日本教育心理学会第65回総会における研究発表と,2022年7月から2023年6月までに発行された『教育心理学研究』に掲載された論文の内容を整理した。その結果,近年の動向として,対話的学びを含めた教育場面における相互作用を丁寧に検討した研究や学級・学校環境や協働に関する研究,また,心理社会的適応における社会的要因を検討した研究が多いことがわかった。これらの研究を生態学的システム論の観点から整理し,より外側にあるシステムとしての「社会」と個人との関わりを扱う教育心理学研究の展望について例を挙げて論じた。

  • ―非認知能力・社会情動的スキルを巡る議論に対する情動知能研究からの示唆―
    野崎 優樹
    原稿種別: I わが国の教育心理学の研究動向と展望
    2024 年 63 巻 p. 70-95
    発行日: 2024/03/30
    公開日: 2024/09/25
    ジャーナル フリー

     本稿では,2022年7月から2023年6月の間に刊行された研究を中心に,ビッグファイブと近年提唱されている社会情動的スキルの枠組みに基づき,本邦におけるパーソナリティと個人差に関する研究を概観した。その上で,非認知能力および社会情動的スキルを巡る議論に対する情動知能研究からの示唆を論じた。情動知能研究では,現在,心的過程を説明する情報処理モデルが積極的に構築されてきた情動調整研究との理論的統合が推し進められている。そして,この動向は,情動知能研究へのパーソナリティ心理学における社会認知的アプローチの視座の導入と捉えられる。非認知能力・社会情動的スキルを巡る議論に対して,社会認知的アプローチの視座を含めた研究を進めることにより,(1)そもそもこれらの特性や抽象的スキルが,どれほど個人に内在し,かつ状況を超えて安定的に見られるのかを考える手がかりを与えること,(2)変化のメカニズムに関する知見を提供できること,(3)個性記述的な視点が導入できること,の3つの利点を指摘した。最後に,学際的な議論の中でパーソナリティと個人差の心理学が果たす役割を議論した。

  • ―臨床実践の多様性の観点から―
    安藤 美華代
    原稿種別: I わが国の教育心理学の研究動向と展望
    2024 年 63 巻 p. 96-109
    発行日: 2024/03/30
    公開日: 2024/09/25
    ジャーナル フリー

     2023年の日本教育心理学会第65回総会における「臨床」部門での個人発表,2022年7月から2023年6月末までの1年間に『教育心理学研究』『心理臨床学研究』『心理学研究』に掲載された「臨床」にかかわる論文から研究動向を概観し,今後の課題について考察した。その結果,22件の個人発表では,いじめ等対人ストレスの影響と予防対策,発達面を視野に入れた心理行動上の諸課題,うつ・不安,不慣れな環境,養育,援助要請をテーマにした研究が行われていた。41編の学術論文では,心理教育・心理支援,治療的アプローチ,ストレスと対処,発達面の偏りや慢性の病い,ソーシャルスキルに関する研究が行われていた。子ども・若者とその家族の生きづらさの軽減を目指して,多様な要因や支援策に関する取り組みが行われていた。今後は,これらの知見を統合し,実際の現場に適用していくことが重要であろう。

  • ―多様性と生涯発達―
    鳥居 深雪
    原稿種別: I わが国の教育心理学の研究動向と展望
    2024 年 63 巻 p. 110-120
    発行日: 2024/03/30
    公開日: 2024/09/25
    ジャーナル フリー

     特別支援に関する研究の動向には,社会や法制度が影響する。COVID-19パンデミック以降,重要性を増し普及が一気に進んだICTに関する報告,現在の学習指導要領の方向性をふまえた教科指導に関する研究は,障害種を問わず多く見られた。社会全体が多様性を包含する共生社会へ向かう中,インクルーシブな教育やユニバーサルデザインの教育に関する研究も報告されている。通級による指導が高等学校においても制度化されたことや,合理的配慮の提供が義務となりつつあることから,義務教育段階だけでなく,高等学校や大学における特別支援も取り組まれるようになるなど,生涯発達を支える方向に進みつつある。2022年12月に文部科学省が公表した,改訂「生徒指導提要」,「通常の学級に在籍する特別な教育的支援を必要とする児童生徒に関する調査」の結果などは,今後の特別支援の方向にも大きく影響するだろう。

  • ―研究方法と設計の現状分析を通じた展望―
    梶井 芳明
    原稿種別: I わが国の教育心理学の研究動向と展望
    2024 年 63 巻 p. 121-143
    発行日: 2024/03/30
    公開日: 2024/09/25
    ジャーナル フリー

     本稿の目的は,2022年7月から2023年6月末までの1年間にわたる教育心理学の学校心理学分野の研究動向を概観し,その特徴と課題を論じることであった。具体的には,日本教育心理学会第65回総会の「学校心理学(PG)」部門で発表された74件の研究と,学校心理学に関連する国内和文雑誌5誌から選出した38編の論文を分析した。

     この分析を通じて,各研究観点における主要なテーマや焦点,対象とされる問題点がどのように取り扱われているのかを検証し,それに基づき研究方法や設計の選択が研究成果にどのような影響を及ぼす可能性があるかについての知見を得ることを目指した。

  • ―公募型Web調査の利点と課題を探る―
    脇田 貴文
    原稿種別: I わが国の教育心理学の研究動向と展望
    2024 年 63 巻 p. 144-160
    発行日: 2024/03/30
    公開日: 2024/09/25
    ジャーナル フリー

     本稿は,教育心理学における公募型Web調査の利用の展望と課題について,『教育心理学研究』および「日本教育心理学会第65回総会」での研究発表を踏まえ検討した。本稿では,公募型Web調査は,Web上で公募され,本人の意志により,自身の属性等を登録し,継続的に調査に参加するものと定義する。COVID-19により対面でのデータ収集が困難になった状況もあり,教育心理学研究における公募型Web調査の使用が増加している。

     公募型Web調査の定義やメリットとしては,アクセスが困難な限定された対象へのアプローチ,匿名性の確保,データ収集の効率化が挙げられる。また,課題としては,データの偏り,回答者の回答に対するモチベーションの問題などが挙げられる。課題に対する対策として,Directed Questions Scales (DQS) や回答時間の利用が考えられている。

    様々な課題はあるものの,公募型Web調査のメリットとデメリットは表裏一体であり,リサーチクエスチョンに応じてその利用が適切かどうかを判断する必要があるだろう。公募型Web調査は,今後の教育心理学の研究法として定着していくものと考えられる。

II 展望
  • ―教員養成フラッグシップ大学構想を通じた教師教育の変革―
    木村 優
    原稿種別: II 展望
    2024 年 63 巻 p. 161-176
    発行日: 2024/03/30
    公開日: 2024/09/25
    ジャーナル フリー

     本稿は,これまでの教師研究の重要知見と近年の教師研究の動向を紐解くことで,教師の仕事の本質を明晰化し,教師の専門性開発の方向定位を明確化する。その上で,教員養成フラッグシップ大学の指定を受けた福井大学の構想を事例検討する。教師研究はこれまで,教師の行動・認知過程研究から教師の専門性の中核に省察的実践を定位し,教師の情動・動機づけ研究から教師の専門性の相互作用性を明晰化した。そして,教師の学習・発達研究により教師の専門性開発における協働性の重要性が提起され,「協創する専門職」として教職が再定位される。そして,福井大学の教員養成フラッグシップ大学構想は,教職大学院の学校拠点・長期実践プロジェクト,教育学部の省察的実践の長期漸成サイクルコアプロジェクト,教員研修の実践省察の組織化と学校-教育委員会-地域-大学のネットワーク,を多重に組織化する。この事例から,大学は教師の省察的実践と協創を支えるカリキュラムと組織を構築し,教師研究は教師の省察的実践と協創を支える新知見・理論を生成する必要が示された。

III 教育心理学と実践活動
  • ―30年間の歩みをたどって―
    東原 文子
    原稿種別: III 教育心理学と実践活動
    2024 年 63 巻 p. 177-193
    発行日: 2024/03/30
    公開日: 2024/09/25
    ジャーナル フリー

     教育における情報化の波は目覚ましく,また,時を同じくしてインクルーシブな環境に関する意識改革の波も訪れて,「特別支援教育におけるICT活用」への関心が急速に高まるのではないかと期待される。本稿では,まず①この分野のこれまでとこれからを考える土台となる国の教育政策の状況を整理した。次に,②知的発達に遅れや偏りのある,知的障害や発達障害の児童生徒の教育へのICT活用研究について,約30年間の流れを振り返った。対象児の活動に焦点を当て,「見る」「聞く」「読む」「正しい選択刺激を選択する」「画面上の『物』を動かす」「実物に似せた環境でシミュレーション学習をする」「話す」「書く」「プログラミング」「遠隔通信を利用する」の10の枠組みで諸研究を整理した。その結果,効果的な指導理論に基づいた実践は時代を超えて繰り返し出現し,GIGAスクール環境でのハード・ソフトの充実により,簡単に教材が作成できるようになったため,教材作成ではなく教材試行や試行結果の評価に研究の重点がシフトしてきたことがわかった。また,新型コロナウイルス感染症の影響もあり,遠隔通信の活用などは飛躍的に進んだことがわかった。

  • ―精緻化する支援とそれを支える研究可能性―
    太田 光洋
    原稿種別: III 教育心理学と実践活動
    2024 年 63 巻 p. 194-206
    発行日: 2024/03/30
    公開日: 2024/09/25
    ジャーナル フリー

     本論文では,保育における子育て支援の実践とそれを支える研究の動向についてレビューを行い,今後の実践と研究の課題について検討した。子育て支援の実践が始まって約30年が経過し,支援の実践も精緻化してきた。本稿では,子育て支援がこれまで保育の場でどのように位置づけられてきたかについて概観する。特に,最近10年以内に発表された研究動向のレビューを通して,これまで取り組まれてきた研究や実践について検討した。子育て支援の充実とともに対象とする支援内容が広がり,専門性の高い心理学的アプローチも多く試みられるようになってきている。本稿では,実践から生じた課題をふまえ,(a)支援者に関する研究,(b)利用者の視点に立った研究,(c)生態学的な環境の変化に着目した研究,(d)子育て・子育ちの現代的課題に関する研究という4つのトピックを検討した。その成果や課題,今後の子育て支援に対して心理学的研究がどのように貢献できるか,その可能性について議論した。

IV 討論
  • ―教育・研究・実践の観点から―
    武藤 世良, 篠原 郁子, 針生 悦子, 仲 真紀子, 三宮 真智子
    原稿種別: IV 討論
    2024 年 63 巻 p. 207-225
    発行日: 2024/03/30
    公開日: 2024/09/25
    ジャーナル フリー

     「非認知」は,今や一般の家庭や保育・学校現場においても広く普及した概念となりつつある。いわゆるIQや学力などの「認知」能力と対比され「非認知」という言葉が日常的に使用されることで,「非認知的なスキルや能力には認知が伴わない,関わらない」という考えや,逆に,「認知的なスキルや能力には非認知的な要素が伴わない,関わらない」といった考えもまた一般に広まっているかもしれない。このように,近年の「非認知」概念の普及と喧伝は,認知と非認知の対立構造や非認知の重要性を強調するものではあっても,認知と非認知のバランスや,認知と非認知の「あいだ」にあるものを冷静に見極めたり,認知を専門とする研究者と非認知(社会情緒的側面)を専門とする研究者が協働したりする機会をあまり生産してこなかったと言わざるを得ないのではないだろうか。そこで,本論文では,一方は認知,他方は非認知を精力的に研究してきた会員が集い,教育や研究,実践の観点から認知と非認知の意味や関係性を整理し,認知と非認知の「あいだ」について討論する。

V 日本教育心理学会第65回総会
学会企画シンポジウム
学会企画チュートリアル・セミナー
VI ハラスメント防止委員会企画シンポジウム
VII 日本教育心理学会 公開シンポジウム
VIII 第58回(2022年度)城戸奨励賞
IX 第21回(2022年度)優秀論文賞
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