教育心理学年報
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巻頭言
I わが国の教育心理学の研究動向と展望
  • ―子どもとの「関わり」に着目して―
    園田 菜摘
    2021 年 60 巻 p. 1-10
    発行日: 2021/03/30
    公開日: 2021/11/16
    ジャーナル フリー

     本稿では,2019年7月から2020年6月までの1年間に,『教育心理学研究』,『発達心理学研究』,『心理学研究』,Japanese Psychological Researchに掲載された,乳幼児期および児童期の発達を対象とした論文の概観を行った。まず,『日本教育心理学会第62回総会発表論文集』のポスター発表論文について傾向を探ったところ,子どもとの「関わり」に関する研究が多いことが示された。そこで,「家庭での養育者との関わり」,「園・学校での教師との関わり」,「子どもを取り巻く様々な環境における人との関わり」の3つに分類した上で,論文の概観を行った。さらに,その結果をふまえ,今後の研究に向けた示唆を述べた。

  • ―発達研究の多様性と可能性―
    池田 幸恭
    2021 年 60 巻 p. 11-31
    発行日: 2021/03/30
    公開日: 2021/11/16
    ジャーナル フリー

     本稿の目的は,2019年7月―2020年6月までの1年間に国内で刊行された国内学会誌5誌と2020年9月にオンラインで開催された日本教育心理学会第62回総会で発表された青年期から成人期,老年期までの発表を概観し,その現状と課題を明らかにすることである。中学生,高校生,大学生他,青年期の複数時期,成人期以降,多世代の発達時期について,自己,対人関係,学習,キャリア発達,生活という5つの研究領域に関する観点から分類し,研究内容の概要と動向をまとめた。分析の結果,青年期以降の発達研究は,高校生の研究は少ないが,研究対象の発達時期,領域,方法は多様であり,生涯発達に関する知見が着実に蓄積されていると考えられた。研究対象の偏り,研究方法の発展,研究成果の理解という問題について,オープンサイエンスに基づくデータの共有,マクロレベルとミクロレベルの多水準の時間単位の接続,発達観の明示に伴う科学コミュニケーションの必要性と可能性を論じた。これらの展開をとおして,発達研究が一人ひとりの多様な発達の理解に貢献することが期待できる。

  • 垣花 真一郎
    2021 年 60 巻 p. 32-48
    発行日: 2021/03/30
    公開日: 2021/11/16
    ジャーナル フリー

     本稿では,2019年から2020年に『教育心理学研究』に掲載された論文及び,2020年に誌上開催された日本教育心理学会第62回総会の研究発表を中心に,研究法の観点から近年の教授・学習・認知領域における心理学研究を概観した。最初に総会の発表論文集中の「教授・学習・認知部門」の論文の全体的な特徴を分析した後,「量的調査」「質的調査」「実験室実験・小集団実験」「準実験」という区分別に研究を概観した。最後に近年の研究に見られる研究法上の課題を,質問紙法,統計分析法の適用,1群事前事後テスト計画の使用などの観点から述べ,今後の方向性について提案した。

  • 中西 良文
    2021 年 60 巻 p. 49-68
    発行日: 2021/03/30
    公開日: 2021/11/16
    ジャーナル フリー

     本稿の目的は,教育社会心理学に関する近年の動向を概観し,今後の教育社会心理学の実践への貢献について議論することである。まず,本稿の前半では,日本教育心理学会第62回総会における教育社会心理学に関する発表と,2019年7月から2020年6月の間に発行された『教育心理学研究』に掲載された教育社会心理学研究に関する論文について概観した。本稿の後半では,新学習指導要領において取り上げられている「未来社会を切り拓くための資質・能力」を自律性に関わる要因と社会性に関わる要因から捉え,それらの育成に教育社会心理学研究がいかなる貢献ができるかについて議論した。ここでの議論を基に,各教科における教育社会心理学研究がより展開されることと,年齢段階に対応したカリキュラムを充実させることの重要性について論じた。

  • ―ビッグ・ファイブ,感受性,ダークトライアドに焦点をあてて―
    平野 真理
    2021 年 60 巻 p. 69-90
    発行日: 2021/03/30
    公開日: 2021/11/16
    ジャーナル フリー

     本邦におけるここ数年のパーソナリティ研究の動向を2つの観点から概観した。第1に,ビッグ・ファイブを用いた研究を網羅的に概観し,それらの研究の領域的・国際的な拡がりを確認するとともに,それらの知見の適用に関する限界について言及した。第2に,敏感さやダークトライアドといった,病理や不適応と親和性の高いパーソナリティに関する研究を取り上げ,そうしたネガティブな特性のもつポジティブな側面に関する知見について検討した。それらを通して「よい/よわい/わるい」性格の多様な側面に目を向けるなかで,多様な個人の共存に向けたパーソナリティ研究の必要性が議論された。

  • ―特別支援教育にかかわる教育心理学研究の動向―
    井澤 信三
    2021 年 60 巻 p. 91-103
    発行日: 2021/03/30
    公開日: 2021/11/16
    ジャーナル フリー

     本研究では,わが国における特別支援教育にかかわる教育心理学研究の動向を概観した。はじめに,特別支援教育や教育心理学に関連する主要な学術雑誌を「障害に直接関連しない学術雑誌」と「障害に直接関連する学術雑誌」に大きく分け,それごとに,最近(2017年1月から2020年9月)における「障害に関連する研究」についての数量とその内容からの整理・分析を行った。さらに,自閉スペクトラム症児における介入研究の動向と介入研究が学校教育に貢献できるための方略について文献検討を行った。主として,(1)モノとヒトの環境を最適化していくための1つとしてのエビデンスに基づく実践という捉え方,(2)エビデンスに基づく実践を環境に組み入れる意義,(3)エビデンスを学校教育の実践につないでいくための方向性,また,(4)今後の学校教育に求められるエビデンス,といった4点の視点から論考した。

  • ―心理学研究と学校教育研究の架橋のために―
    藤江 康彦
    2021 年 60 巻 p. 104-121
    発行日: 2021/03/30
    公開日: 2021/11/16
    ジャーナル フリー

     本稿は,主として2019年7月から2020年6月までに日本で発表された学校心理学に関する研究の動向を概観し,今後の学校心理学研究の展望を論ずることを目的としている。学校心理学は,学校教育と心理学を統合した学問であるとされるが,研究知見を統合するための基盤を構築することが必要である。学校心理学においては,学校教育実践を子どもが活用するヒューマン・サービスとして位置づける。では,学校心理学はシステムとしての学校教育にどのようなまなざしを向けているのだろうか。本稿では,学校教育を「制度」-「ローカルな文化」-「個人の行為」の相互規定からなるシステムとして措定し,学校心理学研究がそれぞれ学校教育のどの次元に着目しているのかという観点から学校心理学研究を分類整理した。その結果,当該期間に発表された研究の多くは「ローカルな文化」-「個人の行為」,「個人の行為」の次元のみを含む研究であった。そして,「制度」の次元を含んで学校教育に着目する研究は比較的少ないことが明らかとなった。学校教育と心理学の統合にむけ,学校心理学研究は,「制度」の次元まで念頭におく研究デザインが求められる。

  • ―サンプルサイズ設計を中心に―
    山内 香奈
    2021 年 60 巻 p. 122-136
    発行日: 2021/03/30
    公開日: 2021/11/16
    ジャーナル フリー

     本稿では,2019年7月から2020年6月までの1年間に『教育心理学研究』に掲載された29編のうち,有意性検定を用いた研究論文のサンプルサイズ設計に関する記述状況について概観した。その際,『心理学研究』,Japanese Psychological Research (JPR),Journal of Personality and Social Psychology (JPSP)のそれと比較し論じた。研究のサンプルサイズの根拠について何らかの記述がみられた論文の割合はJPSPが最も高く(93%),他の3誌(7―15%)の約8倍であった。また,検定力分析と同様,統計改革の柱である効果量や信頼区間が分析結果に併記されているかを調べたところ,概して4誌ともサンプルサイズ設計の記載より実践度は高く,JPSPでは対象論文全てにいずれかの記載がみられた。一方,『教育心理学研究』では効果量,信頼区間のいずれも記載がない論文が全体の44%を占め,実践度が最も低かった。最後に,『教育心理学研究』における統計改革の促進について,特にサンプルサイズ設計の実践の促進に向けた方策について筆者なりの見解を述べた。

II 展望
  • ―実践を支える学びの科学を模索して―
    白水 始, 飯窪 真也, 齊藤 萌木
    2021 年 60 巻 p. 137-154
    発行日: 2021/03/30
    公開日: 2021/11/16
    ジャーナル フリー

     本稿では,学習科学の成立と展開を振り返り,次の課題を同定することで,実践を支える学びの科学になり得る可能性を検討した。1990年代初頭の成立から30年が経ち,学習科学は学習者の学びの複雑さや多様性を可視化し,それを支える教師や教育行政関係者,研究者が実践の中で学びについて学び合うことの重要性を明らかにしつつある。それは研究方法論が,特定の学習理論を具現化した教材などのパッケージを提供するデザイン研究から,ビジョンを提示し,その実装を現場主体で行えるようシステム面で支援するデザイン研究や,教育行政関係者も巻き込んだ連携基盤の上で学校や教師集団の自走を狙うデザイン社会実装研究に変化しつつあることとも呼応する。今後は,児童生徒が授業の中でいかに学ぶかの仮説を教育現場が自ら立てて,そのデザイン仮説を実践結果で検証し,学習プロセスの複雑さや多様性についての理解を深めることを支えられる実践学の創成が求められている。

III 教育心理学と実践活動
  • ―学校危機の予防と回復を支えるアプローチ―
    小林 朋子
    2021 年 60 巻 p. 155-174
    発行日: 2021/03/30
    公開日: 2021/11/16
    ジャーナル フリー

     いじめや災害など様々な学校危機が起こるようになってきている中で,学校危機の予防から回復までのあらゆる段階においてレジリエンスは支援のキーワードとなっている。本研究では,(1)学校危機やレジリエンスの概念を説明した後,(2)日本の子どもを対象としたレジリエンス研究についての知見をまとめ,その上で縦断的な研究の必要性を述べた。その後,(3)学校危機を危機発生の前後の「予防段階」と「回復段階」に分け,さらにレジリエンス育成を目的としたプログラムと,学校教育活動で行われている取り組みをそれぞれ俯瞰し,日本の学校現場でのレジリエンスの育成に関する諸課題の整理を行った。そしてその上で,(4)海外の取り組みもふまえ,カリキュラムや学級経営,教師の関わりなどを考察し,(5)学校でのレジリエンス育成を行っていくには,学校が行っている教育活動を活かした,プログラムと学校教育活動の「相互作用」が重要であり,その相互作用によるアプローチを提案した。

  • ―認知カウンセリングの発想を活用したある施設での実践から―
    植阪 友理, 植竹 温香, 柴 里実
    2021 年 60 巻 p. 175-191
    発行日: 2021/03/30
    公開日: 2021/11/16
    ジャーナル フリー

     近年,「子どもの貧困」の問題が脚光をあびるようになり,社会的関心も高まっている。その一方で,貧困をテーマとした論文が『教育心理学研究』に掲載されたことはなく,学会としてこの問題に正面から取り組んできたとは言い難い。一方,他領域,他学会等では,課題はあるものの活発な議論や活動が行われつつある。本稿では,日本における貧困家庭の子どもの支援について,研究知見や官民の取り組みを概観するとともに,そこでの課題を乗り越えるため,著者が生活保護受給者世帯を支援するNPOと連携し,数年にわたって行ってきた学習支援の実践を取り上げる。この実践は,認知心理学を生かして学習者の自立を目指す「認知カウンセリング」の知見を活用しようとする試みである。目に見えて大きな成果が得られているとは言い難いが,確実に変化は見られている。この実践を記述することを通じて,心理学的発想や「認知カウンセリング」の知見は貧困家庭の子どもの支援においてなぜ受け入れられにくいのかという原因を考察するとともに,心理学に基づく支援が活用されるためには,支援者にどう学んでもらうことが効果的なのかを実践を踏まえて提案した。

IV 討論
  • 山森 光陽, 岡田 涼, 山田 剛史, 亘理 陽一, 熊井 将太, 岡田 謙介, 澤田 英輔, 石井 英真
    2021 年 60 巻 p. 192-214
    発行日: 2021/03/30
    公開日: 2021/11/16
    ジャーナル フリー

     この紙上討論の目的は,メタ分析や,メタ分析で得られた結果を多数収集し,メタ分析と同様の手続きでさらなる統合的見解を導く分析(スーパーシンセシス)といった,研究知見の統計的統合が,学術的な教育研究の持つ現象理解と理論形成,社会的要請への応答という二つの役割に対して果たしうる寄与を議論することである。日本の教育心理学におけるメタ分析の受容の経緯と最近の研究動向の概観を踏まえ,研究知見の統計的統合の普及が,個々の一次研究をサンプルと見なし,これらの積み重ねで結論を導こうとする態度の広まりといった,教育心理学および隣接領域での研究上の意義が示された。また,「エビデンスに基づく教育」を推進する動きとその是非に対する議論の活発化といったことも背景として,効果量のみに注目する単純化された見方がもたらされ,研究知見の拙速な利用が促されるといった社会的・政策的影響が見られることも示された。その上で,これらの意義や問題に対して議論がなされた。研究知見の統計的統合は現象理解と理論形成に一定の貢献をするものの,因果推論を行うためには個票データのメタ分析が必要となり,そのためのオープンサイエンスの推進の必要が指摘された。また,研究知見の統計的統合が,精度が高く確からしい知見をもたらし得るものと見なされ,その結果が平均効果量といった単純な指標で示されることから,教育の実践者が持つ判断の余地の縮小や,教師の仕事の自律性の弱化を招きうるといった危惧が表明された。これらの議論を通じて,研究知見の統計的統合は,現象理解と理論形成に対しては,知見群全体の外的妥当性を高めるための有効な手立てであることが示され,構成概念の再吟味や概念的妥当性の検証にも寄与する可能性があり,教育心理学の理論自体の精度と確からしさを高めることにつながる展開が期待できることが導かれた。社会的要請への応答に対しては「何が効果的か」を知りたい,明解でわかりやすい結論が欲しいという要望には応えていることが示された。一方,この討論で指摘された諸問題は,教育心理学が産出する研究知見そのものが研究分野外に与えるインパクトそのものを問うものであることも示された。最後に,研究知見の統計的統合が,現象理解と理論形成,社会的要請への応答という二つの役割をいっそう果たしていくためには,教育心理学の領域の内外で,合理的な知見を伝達し交わし合うことに対する意識が,これまで以上に求められることを論じた。

V 日本教育心理学会第62回総会
VI 日本教育心理学会 公開シンポジウム
VII 第55回(2019年度)城戸奨励賞
VIII 第18回(2019年度)優秀論文賞
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