教育心理学年報
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巻頭言
I わが国の教育心理学の研究動向と展望
  • ―子どもの社会性の発達と養育者・保育者に着目して―
    坂上 裕子
    原稿種別: Ⅰ わが国の教育心理学の研究動向と展望
    2023 年 62 巻 p. 1-13
    発行日: 2023/03/30
    公開日: 2023/11/11
    ジャーナル フリー

     本稿では,『日本教育心理学会第62回総会発表論文集』における個人発表と,2021年7月から2022年6月までの1年間に『教育心理学研究』,『発達心理学研究』,『心理学研究』,Japanese Psychological Researchに掲載された論文のうち,乳幼児期と児童期を対象とした研究の領域や研究方法の傾向を量的観点から探った。領域として,子どもの社会性ならびに養育者・保育者に関する研究が多く行われていることが分かったため,これらの領域の研究を中心に,学会誌論文の概観を行った。その結果を踏まえ,今後の研究に向けた示唆を提示した。

  • ―実践的支援に役立つ研究に向けて―
    相良 順子
    原稿種別: Ⅰ わが国の教育心理学の研究動向と展望
    2023 年 62 巻 p. 14-29
    発行日: 2023/03/30
    公開日: 2023/11/11
    ジャーナル フリー

     本論文では,2022年8月10日から9月10日にオンラインで開催された日本教育心理学会第64回総会の発達部門における青年期以降の研究と,2021年7月から2022年6月末までの1年間に刊行された国内学会誌5誌に掲載された青年期以降の発達研究を概観した。その結果,青年期を対象にした研究の多くが学校やキャンパス生活での具体的問題,成人期以降では社会的立場として抱える問題に関連する研究が多いことが示された。さらに,質的研究と量的研究の相補的利用を通じて,今後期待される発達研究の実践支援への貢献について論じた。

  • 森田 愛子
    原稿種別: Ⅰ わが国の教育心理学の研究動向と展望
    2023 年 62 巻 p. 30-48
    発行日: 2023/03/30
    公開日: 2023/11/11
    ジャーナル フリー

     本稿では,日本教育心理学会における教授・学習・認知領域の研究を概観した。その際,主な対象としたのは,2021年から2022年に『教育心理学研究』に掲載された論文および,2022年8月―9月にオンラインで開催された日本教育心理学会第64回総会の研究発表である。本稿の前半では,言語とコミュニケーションの観点で上記の研究を分類し,その動向を紹介した。後半では,同様の観点から,最近数年の『教育心理学研究』と約10年前の『教育心理学研究』の論文数や内容の比較を行った。その際,他誌における類似研究の動向もふまえ,最近の教授・学習・認知研究における言語やコミュニケーションの研究,および研究ツールとしての言語について論じた。

  • 森永 康子
    原稿種別: Ⅰ わが国の教育心理学の研究動向と展望
    2023 年 62 巻 p. 49-62
    発行日: 2023/03/30
    公開日: 2023/11/11
    ジャーナル フリー

     本論文は,日本教育心理学会第64回総会において発表された個人研究と2021年7月から2022年6月までに発行された『教育心理学研究』の掲載論文の中から,教育社会心理学分野に該当する研究の動向についてまとめた。また,2019年から2022年6月までに発行された『教育心理学研究』の掲載論文の中で,参加者の性別がどのように扱われているかについて,ジェンダーの視点から検討した。その結果,以下の5つのカテゴリーを見出した。(1)研究の目的上いずれかの性別に偏らざるを得ないもの,(2)参加者の性別が記載されていないもの,(3)「方法」において参加者の性別が記載されているが,関連した分析や考察がされていないもの,(4)性別を統制変数として扱っているもの,(5)性別に関連した分析と考察がされているもの。(2)と(3)のカテゴリーが大半を占めていたが,ジェンダーの視点をもった研究やそうした研究に発展する可能性のあるものが,カテゴリーを越えて存在していた。最後に,教育心理学におけるジェンダーに関連した研究の重要性を示唆した。

  • ―パーソナリティの統合的理解に向けて―
    川本 哲也
    原稿種別: Ⅰ わが国の教育心理学の研究動向と展望
    2023 年 62 巻 p. 63-90
    発行日: 2023/03/30
    公開日: 2023/11/11
    ジャーナル フリー

     本稿の目的は,2021年7月―2022年6月の1年間を中心とした近年,本邦において発表・報告されたパーソナリティに関わる個人差変数を扱った研究の動向を概観し,本邦の個人差研究が抱える課題と展望について論じることである。パーソナリティ心理学における個人差研究を概観するにあたり,本稿ではパーソナリティを構成する個人差変数を,通状況的に安定した基礎的特性と,状況・文脈に依存した目標,信念,態度を含んだ特徴的適応の2つに大別した。そして各々のレベルに含まれる個人差変数を扱った研究について概観し,その成果をまとめた。最後に,本邦で行われた一連の個人差研究が,パーソナリティの統合的・包括的な理解に資するために,課題として考えられることを述べた。具体的には,本邦の個人差研究はパーソナリティの種間差を扱う研究や一人ひとりの特異性を扱う研究が不足している点,交互作用への着目が不足している点,特に特徴的適応のレベルを扱う研究において基礎的特性を考慮しないことが多い点などが指摘でき,これらを踏まえて今後の展望を論じた。

  • ―“コロナ禍”に行われた研究に焦点を当てて―
    野中 舞子
    原稿種別: Ⅰ わが国の教育心理学の研究動向と展望
    2023 年 62 巻 p. 91-107
    発行日: 2023/03/30
    公開日: 2023/11/11
    ジャーナル フリー

     本稿では,2021年7月から2022年6月までに公刊された臨床心理学領域の文献を概観した。まず,本稿が対象とする期間は新型コロナウイルス感染拡大による影響が続く時期であり,また緊急事態宣言下で収集された知見が公刊された時期でもあるため,新型コロナウイルス感染拡大と精神的健康との関係に特に着目して議論を進めた。幅広い年代・職種において精神的健康や行動上の問題が見られ,生活習慣の変化や他者によるサポートを得られるかどうかが不調の引き起こしやすさと関連があると考えられた。また,公刊された文献の傾向として,専門職の理解や養成と関係する知見や予防教育やポジティブ心理学の潮流を組む知見の割合が高かった。ポジティブ心理学の知見は文化差の指摘が複数見られ,わが国にあった援助の普及が求められる。1次予防による支援が届きにくく知見の蓄積が難しい対象として乳幼児を持つ親子及び高齢期が想定され,オンラインでの支援が届きにくい対象の実態把握と支援の在り方の検討が今後望まれると考えられた。

  • ―研究デザインの内的妥当性の観点から―
    伊藤 大幸
    原稿種別: Ⅰ わが国の教育心理学の研究動向と展望
    2023 年 62 巻 p. 108-122
    発行日: 2023/03/30
    公開日: 2023/11/11
    ジャーナル フリー
    電子付録

     近年,医学領域から派生した「エビデンスに基づく実践」(EBP)の理念が特別支援教育にも普及しつつある。本論では,EBPにおけるエビデンス階層の概念と注意点について議論した上で,2021年7月から2022年6月までに報告された特別支援教育に関する国内の研究動向について,研究デザインの内的妥当性の観点から分析した。介入研究のうち,集団デザインによる研究では,内的妥当性に問題の多い前後比較デザインを使用した研究が大多数を占めていた一方,シングルケースデザインによる研究では,内的妥当性の高い多層ベースラインデザインを使用した研究が約半数にのぼった。多数の参加者の確保や対照群の設定に困難が生じやすい特別支援教育の研究では,集団デザインよりもシングルケースデザインが有効性を発揮しやすいことが示唆された。観察研究では,研究デザインの種類によらず,交絡因子や選択バイアスの問題に適切に対処しているか否かが研究によって異なっていた。エビデンス階層の概念は,簡便な図式としては有用性があるが,それを機械的に運用するのではなく,その背景にある内的妥当性の概念に意識を向けることの重要性が示された。

  • ―学校心理学,学校臨床心理学,そしてスクールカウンセリング―
    伊藤 亜矢子
    原稿種別: Ⅰ わが国の教育心理学の研究動向と展望
    2023 年 62 巻 p. 123-142
    発行日: 2023/03/30
    公開日: 2023/11/11
    ジャーナル フリー

     本稿では2021年7月から2022年6月末までの1年間に,わが国で発表された学校心理学に関する研究の動向を学校臨床心理学の視点から概観し,学校心理学の現状と課題について考察した。学校心理学は,①公的・制度的要請に基づく認知面のアセスメントを原点に持ち,②学校教育活動として支援を行い,③一般の心理学を研究基盤とする。対して学校臨床心理学は,①私的・個別的な個人の要請から出発する臨床心理学をルーツに,②臨床心理学的な視点の提供を実践の中心とし,③事例研究・実践型研究等を重視する。現在スクールカウンセラーの転換期として,学校心理学の実践性や学校臨床心理学との協働が求められている。当該期間の発表論文は,学校心理学の特長を活かす心理教育プログラム関連のものが多い一方で,プログラム評価や間主観的なきめ細やかな理解など学校臨床心理学的な要素も見られた。今後の課題として,心理教育プログラムによる学校現場への貢献や,実践と研究の両面での学校臨床心理学的な要素の付加,臨床心理学的な訓練や国際的な情報交流の重要性が指摘された。

  • ―厳密なテストの観点からの考察―
    山口 一大
    原稿種別: Ⅰ わが国の教育心理学の研究動向と展望
    2023 年 62 巻 p. 143-164
    発行日: 2023/03/30
    公開日: 2023/11/11
    ジャーナル フリー

     本稿では,『教育心理学研究』第69巻3号から第70巻2号に掲載された実証的な論文28本を対象に,事前登録やオープンサイエンスフレームワークの利用およびベイズ統計学的方法を含む最近の統計的分析方法の利用の実態について概観した。結果として,事前登録や研究マテリアルのオープンサイエンスフレームワークでの公開は十分に普及していなかった。さらに,こうした研究実践と統計的方法について,厳格なテストという観点から考察を行った。また,統計的仮説検定の結果を図示する方法として,信頼曲線を紹介した。最後に,こうした新しい研究実践を推進するための方策について議論した。

II 展望
  • ―測定・予測・介入の観点から―
    小塩 真司
    原稿種別: Ⅱ 展望
    2023 年 62 巻 p. 165-183
    発行日: 2023/03/30
    公開日: 2023/11/11
    ジャーナル フリー

     日本では,非認知スキルや社会情動的スキルと同様の心理的特徴の集合を「非認知能力」と呼ぶことが多い。本論文では,非認知能力について基本的な考え方を概観し,心理測定や応用可能性を含む多様な観点から問題点を論じた。非認知能力は4つの観点から概念的に定義された。まず非認知能力が認知的能力以外の多様な心理学的な特徴を含むという概念設定上の定義が確認された。続いて非認知能力の定義として測定可能性,予測可能性,介入可能性の3点が整理された。測定可能性については,信頼性と妥当性の問題,因子分析モデル,そして近年のスキルについての研究動向の問題点から論じられた。予測可能性については,帯域幅と忠実度のジレンマの観点から予測力の大きさの問題,そして社会的な結果指標の問題が論じられた。介入可能性については,介入を行う観点や立場の問題や,変化の対象となった心理特性に関連する別の心理特性の変容の可能性の問題が論じられた。以上の論点を踏まえ,今後さらに検討すべき問題が整理された。

III 教育心理学と実践活動
  • ⻆谷 詩織
    原稿種別: Ⅲ 教育心理学と実践活動
    2023 年 62 巻 p. 184-205
    発行日: 2023/03/30
    公開日: 2023/11/11
    ジャーナル フリー

     2021年から文部科学省「特定分野に特異な才能のある児童生徒に対する学校における指導・支援の在り方等に関する有識者会議」が開催されるなど,ギフティッド児の理解とその支援の必要性が広く認識され始めている。本稿は,ギフティッドの的確な理解と,それに基づく今後の教育心理学分野における研究や実践の発展を目的とする。まず,世界的に共通理解のなされているギフティッドの定義と特性を押さえる。次に,日本における関連研究を概観する。その上で,ギフティッド研究や実践に取り入れると有効と思われる観点を4つあげる。まず,(1)ギフティッド児であれば誰もが特別な支援を要するわけではないという点を確認した上で,誰が支援を要するのかを明確にする。また,(2)ギフティッドの判定や診断の問題と,当該ギフティッド児が身を置く教育環境において特別な支援やプログラムを要するか否かとを分けて考える必要性を論じる。関連して,(3)ギフティッド判定において,その子に潜在的な才能があるかどうかとそれを発揮できるかどうかは分けて検討することの重要性を論じる。最後に,(4)現行の教育制度や実践に存在するギフティッド教育の要素を活かす可能性について論じる。

IV 日本教育心理学会第64回総会
学会企画シンポジウム
学会企画チュートリアル・セミナー
V ハラスメント防止委員会企画講演
VI 日本教育心理学会 公開シンポジウム
VII 第57回(2021年度)城戸奨励賞
VIII 第20回(2021年度)優秀論文賞
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