教育心理学年報
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I わが国の教育心理学の研究動向と展望
『教育心理学研究』における測定・評価・研究法の研究動向と展望
―共分散構造分析の適用実態の概観を中心に―
久保 沙織
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2022 年 61 巻 p. 133-150

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抄録

 直近の1年間に『教育心理学研究』に掲載された論文で,量的研究法を用いていた24編中9編でパス解析・共分散構造分析(SEM)が利用されていた。本稿ではまず,SEMに焦点を当てて,『教育心理学研究』におけるその利用の現状を報告し,SEMの理論の正しい理解と適切な適用に資する論考を紹介した。近年は,多母集団同時分析や,縦断データ及び階層データを対象としたモデルなど,より複雑かつ高度なSEMのモデルが利用される傾向が見られた。今後は,項目反応理論やベイズ統計モデリングなどさらに数学的に高度な方法論への理解も求められるだろう。高度な手法を利用する研究者には,それ相応の説明責任が伴う。心理統計・測定評価の専門家は,応用研究者が手法を正しく使いこなせるように,ユーザーの視点に立った教育・啓発活動を継続する必要がある。学会には,査読を経た掲載論文の質保証と,執筆マニュアルの充実が望まれる。SEMに限らず,数学的に高度な統計的手法が正しい理解に基づき適切に利用されるためには,「ユーザーとしての応用研究者」,「心理統計・測定評価の専門家」そして「学会」の三者協働による不断の努力が必要不可欠である。

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© 2021 日本教育心理学会
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