農林業問題研究
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個別報告論文
農地改革と税制改革が農家経済に与えた影響について
―「農業経営並農家経済調査集計カード」に基づく山形県を事例として―
岸 郁也古塚 秀夫仙田 徹志浅見 淳之森 佳子
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2015 年 51 巻 3 号 p. 209-214

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1. はじめに

日本の農家経済調査は,1913年に帝国農会によって開始された.それ以来現在に至るまで,この調査は農家の簿記記帳に基づいて毎年行われ,農家経済調査統計として刊行されている.簿記様式は基本的には単記式単計算簿記である.しかし,1942年~1948年の7年間は,京大式農家経済簿(単記式複計算簿記)に簿記様式が変わる(浅見,2009).京大式農家経済簿は複計算簿記であるために,自己監査機能を有している.このために京大式農家経済簿を用いることによって,信頼性が高い農家経済の分析をすることができる.したがって,この期間の資料は,とくに価値が高くなっている.また,この期間において,日本では大きな改革が行われている.すなわち,農地改革と税制改革である.この2つの改革は,農家経済に大きく影響していると考えられる.しかし,京大式農家経済簿に基づいて集計された「農業経営並農家経済調査集計カード(以下,集計カードという)」を利用して,2つの改革の農家経済への影響について分析した研究成果はない.

本研究の目的は,農地改革や税制改革によって農家経済がどのような影響を受けたかを明らかにすることである.研究対象と期間は,「集計カード」に基づく,1942年から1948年における山形県の5戸の農家経済である.山形県を選んだ理由は,都道府県別データで最も山形県が多いことと7年間の時系列分析が可能であることである.研究方法としては,第1に,収入と支出の増減要因を分析する.第2に,資金循環分析を行う.第3に,自計式農家経済簿に関する既往の研究成果を踏まえて,動態的流動性分析を行う.動態的流動性分析の指標としては,後述する既往の研究成果にある韓他(2013)に基づく4つの分析指標を用いる.第4に,貸借対照表を作成して,これに基づいて静態的流動性分析を行う.この静態的流動性分析の指標としては,一般的な4つの指標,すなわち,自己資本比率,固定比率,固定長期適合率,流動比率を用いる.第5に,農家経済の成長を明らかにするために,農家純財産(=農家財産–農家負債)を指標として成長性分析を行う.

2. 予備的考察

第1に,既往の研究成果について述べる.その1として,農家経済の分析方法に関する研究成果についてである.韓他(2013)は,農家経済の動態的流動性分析のために2つの分析指標を考案して,従来の指標2つに加えて4つの分析指標で分析を行っている.本研究でもこの4つの分析指標によって分析を行う.すなわち,所得的収支比率(所得的収入/所得的支出×100(%)),所得的収支過不足による家計支出充足率((所得的収入–所得的支出)/家計支出×100(%)),所得的収支過不足による財産的収支過不足充足率((所得的収入–所得的支出)/(財産的収入–財産的支出)×100(%)),所得的収支過不足による家計支出・財産的収支過不足充足率((所得的収入–所得的支出)/(家計支出+(財産的収入–財産的支出))×100(%))である.その2として,戦後のキャッシュ・フローに関する農家行動をみた研究成果についてである.浅見(2009)は,兵庫県の農家7戸において,戦後,農家の資金繰りは厳しく,固定資産の売却によって資金を調達していたことを明らかにしている.

第2に,農家経済の分析を行う前段階として,次の2つについて述べておきたい.その1として,流動性分析についてである.流動性分析とは,経営体の支払能力を分析するものであり,静態的流動性分析と動態的流動性分析がある.静態的流動性分析は,一時点における支払手段としての資産と,支払義務としての負債をもとに分析を行う.代表的な分析指標は,上述したとおりである.動態的流動性分析は,一定期間における収入と支出をもとに,支払手段である資金の増減変化の要因について分析を行うことができる.本研究では,このような特徴をもつ動態的流動性分析が重要であると考えて,この分析を行う.なお,本研究では,静態的流動性分析と動態的流動性分析は補完的な関係にあると考える.その2として,外部支払現物に関する分析指標についてである.物納小作料,物納租税公課などの外部支払現物は,所得的収入と所得的支出に金額が含まれており,外部支払現物がどの程度それらに含まれているのかを把握する必要がある.そこで,農家経済における資金循環分析では,次の2つの指標を考案している.すなわち,外部支払現物対所得的収入比率(外部支払現物÷所得的収入×100(%)),外部支払現物対所得的支出比率(外部支払現物÷所得的支出×100(%))である.第3に,「集計カード」の利用方法についてである.本研究では,所得的収入,所得的支出,財産的収入,財産的支出を算出する際に,記帳のなかの未収入金や未払金を加算・減算することによって,現金主義に修正している.

第4に,研究対象である農家5戸の概要についてである.1942年から1948年における変化は次のとおりである.A農家は所有地が22.7反,貸付地が5.1反で変化はない.水田化率は45.6%から79.7%に上昇している.農家所得は3,522円から252,824円に,農業所得は3,073円から231,247円に増加している.B農家は所有地が9.0反から17.5反に増加し,借入地は11.5反から1.6反に減少している.水田化率は63.6%から62.5%と横ばいである.農家所得は2,530円から324,771円に,農業所得は2,306円から292,068円に増加している.C農家は所有地が0.0反から8.5反に増加し,借入地は11.5反から1.3反に減少している.水田化率は33.2%から30.2%とほぼ横ばいである.農家所得は1,185円から137,049円に,農業所得は945円から95,946円に増加している.D農家は所有地が0.0反から2.8反に増加し,借入地は28.9反から21.6反に減少している.水田化率は66.7%から82.4%に上昇している.農家所得は2,823円から308,456円に,農業所得は2,030円から275,180円に増加している.E農家は所有地が0.0反から6.4反に増加し,借入地は14.0反から6.1反に減少している.水田化率は67.4%から79.7%に上昇している.農家所得は1,971円から224,921円に,農業所得は1,467円から186,341円に増加している.自作農はA農家であり,小作農はB農家,C農家,D農家,E農家である.

3. 分析結果と考察

(1) 収入・支出の要因分析

所得的収入,所得的支出,所得的収支,財産的収支1,家計支出の増減要因を分析するために,増減の要因に対する寄与率(=(当年度の金額–前年度の金額)÷(当年度の合計額–前年度の合計額)×100(%))を算出して考察する.ただし,それぞれの金額は物価指数(1934年~1936年=1;日本銀行百年史編纂委員会,2009:p. 436,p. 438)によってデフレートしている.第1に,所得的収入についてである.その1として,所得的収入の推移である.表1のとおり,農家5戸とも戦中から1945年または1946年まで減少する2.しかし,1945年または1946年以降は増加する.その2として,所得的収入の増減要因である.表2は所得的収入の増減要因のうちで寄与率が大きい上位3つをあげている.表2では,自作農A農家と小作農B農家を示している.紙幅の都合によって,C農家,D農家,E農家は省略している.また,同じ理由によって,1944年,1946年,1948年は省略している.表3から表8についても同様の理由で農家と年を省略している.表2によると,戦中の減少要因は「粳米の販売収入減少」または「上繭の販売収入減少」または「生産奨励金収入の減少」である.戦後の増加要因は「粳米の販売収入」または「上繭の販売収入」である.戦後の所得的収入の増加は米価と繭価格が上昇したことによる.さらに,1948年において,C農家を除く水田化率の高い農家4戸は,「生産奨励金」が増加要因である.

表1. 所得的収支の増減 単位:円
項目 所得的収入 所得的支出 所得的収支
1942年 1945年
または
1946年
1948年 1942年 1945年
または
1946年
1948年 1942年 1946年 1948年
A農家 1,571 240 1,242 283 61 504 1,289 179 738
B農家 1,639 703 1,460 703 209 455 936 493 1,005
C農家 645 109 378 282 24 93 363 85 285
D農家 1,648 372 1,240 823 121 438 645 174 802
E農家 1,270 421 778 546 65 219 724 210 560

出所:「農業経営並農家経済調査集計カード」各年より作成.

表2. 所得的収入の増減要因
項目 1943年 1945年 1947年
A農家 粳米の販売収入減少 未収入金の調整額 粳米の販売収入
農外財産利用収入の減少 上繭の販売収入減少 上繭の販売収入
上繭の販売収入減少 生産奨励金収入の減少 藁工品の販売収入
B農家 未収入金の調整額 未収入金の調整額 被贈収入
上繭の販売収入減少 生産奨励金収入の減少 上繭の販売収入
粳米の販売収入減少 上繭の販売収入減少 生産奨励金収入

出所:「農業経営並農家経済調査集計カード」各年より作成.

1)寄与率の上位3項目を抽出.

2)1943年,1945年は減少要因,1947年は増加要因を示す.

3)分析対象期間において農家5戸に共通する項目は太枠罫線,農家3戸または4戸に共通する項目は下線で示している.

4)戦前からの物価指数(1934年~1936年=1)によってデフレートしている.

5)C農家,D農家,E農家と1944年,1946年,1948年は省略している.

表3. 所得的支出の増減要因
項目 1943年 1945年 1947年
A農家 桑葉の購入支出減少 小機具の購入支出減少 租税公課の支払い
肥料の購入支出減少 雇用労賃の減少 大機具の維持費用
建物の維持費用減少 種苗・苗木の購入支出減少 建物の維持費用
B農家 雇用労賃の支払い 飼料の購入支出減少 租税公課の支払い
肥料の購入支出減少 肥料の購入支出減少 建物の維持費用
桑葉の購入支出減少 桑葉の購入支出減少 農外所得的失費の支払い

出所:「農業経営並農家経済調査集計カード」各年より作成.

1)寄与率の上位3項目を抽出.

2)表2注2)を参照.

3)分析対象期間において農家3戸または4戸に共通する項目は下線で示している.

4)表2注4)を参照.

5)表2注5)を参照.

第2に,所得的支出についてである.その1として所得的支出の推移である.表1のとおり,所得的支出は,農家5戸とも1945年または1946年まで減少する3.しかし,1945年または1946年以降は増加する.その2として,所得的支出の増減要因である.表3によると,戦中の減少要因は「肥料の購入支出減少」または「小作料の減少」である.1947年以降の増加要因は「租税公課の支払い」または「農外所得的失費の支払い」である.「農外所得的失費の支払い」の内訳は,全額が農外の租税公課の支払いである.税制改革は,1947年,1948年に実施されている.その目的の1つとして,財政赤字を解消するための増税政策がある.この税制改革が1つの要因となって,戦後,所得的支出が増加している.

第3に,所得的収支についてである.その1として,所得的収支の推移である.表1のとおり,所得的収支は農家5戸とも戦中から1946年まで減少する4.このことから所得的支出の減少額よりも所得的収入の減少額の方が大きいことがわかる.しかし,1946年以降は増加する.このことから所得的支出の増加額よりも所得的収入の増加額の方が大きいことがわかる.その2として,所得的収支の増減要因である.上述したように,所得的収支の増減は所得的収入の影響が大きい.すなわち,戦中の減少要因は「粳米の販売収入減少」または「上繭の販売収入減少」である.1946年以降の増加要因は,「粳米の販売収入」または「上繭の販売収入」または「生産奨励金収入」である.

第4に,財産的収支5についてである.その1として財産的収入,財産的支出,財産的収支の推移である.表4のとおり,財産的収入は1943年に一度増加するが,1945年まで減少する6.1945年以降は増加する.財産的支出は1945年までは減少する7.1945年以降は増加する.財産的収支は農家5戸とも1945年または1946年までは増加傾向にあるが,1945年または1946年以降は減少する.その2として,財産的収支の増減要因である.表5によると,農家5戸に共通する要因はないが,戦中における財産的収支の増加要因は,「大動物の売却収入」または「預貯金の引出し」がある.戦後の財産的収支の減少要因は「大機具の購入支出」または「土地の購入支出」または「預貯金の預入れ」がある.とくに,1947年以降は,土地,大機具,建物の購入支出が財産的収支の減少要因となっている.小作農にこの傾向が強い.すなわち,戦後,農地改革による小作農から自作農への移行が固定資産への投資を増加させている.

表4. 財産的収支の増減 単位:円
項目 財産的収入 財産的支出 財産的収支
1942年 1945年 1948年 1942年 1945年 1948年 1942年 1945年
または
1946年
1948年
A農家 803 166 930 1,553 279 1,217 −750 −66 −287
B農家 965 451 1,137 1,250 485 1,432 −285 21 −295
C農家 105 54 140 145 89 149 −40 20 −9
D農家 302 129 1,115 537 194 1,115 −235 −65 −356
E農家 320 105 378 548 97 563 −228 8 −185

出所:「農業経営並農家経済調査集計カード」各年より作成.

表5. 財産的収支の増減要因
項目 1943年 1945年 1947年
A農家 大動物の売却収入 預貯金の引出し 預貯金の預入れ
建物の購入支出
講及保険金の支出
B農家 大動物の売却収入 大動物の売却収入 大機具の購入支出
貸付金の回収 預貯金の引出し 講及保険金の支出

出所:「農業経営並農家経済調査集計カード」各年より作成.

1)寄与率の上位3項目を抽出.

2)表2注2)を参照.

3)分析対象期間において農家3戸に共通する項目は下線で示している.

4)表2注4)を参照.

5)表2注5)を参照.

第5に,家計支出についてである.その1として,家計支出の推移である.家計支出は,農家5戸とも1945年までは減少する8.すなわち,A農家93円/605円(1945年/1942年),B農家297円/666円(同),C農家65円/323円(同),D農家174円/645円(同),E農家159円/557円(同)である.1945年以降は増加する.すなわち,A農家366円/93円(1948年/1945年),B農家700円/297円(同),C農家312円/65円(同),D農家430円/174円(同),E農家373円/159円(同)である.その2として,家計支出の増減要因である.表6によると,1945年までの減少要因は「被服及身廻品費の減少」で,1946年,1947年の増加要因は「被服及身廻品費」(の増加)である.このことから家計支出の増減には「被服及身廻品費」が大きく影響していることがわかる.

表6. 家計支出の増減要因
項目 1943年 1945年 1947年
A農家 被服及身廻品費の減少 被服及身廻品費の減少 被服及身廻品費
交際費の減少 諸負搶費の減少 家具家財費
保健衛生費の減少 交際費の減少 交際費
B農家 保健衛生費の減少 被服及身廻品費の減少 冠婚葬祭費
教育費の減少 交際費の減少 嗜好品の購入支出
調味料の購入支出 諸負搶費の減少 調味料の購入支出

出所:「農業経営並農家経済調査集計カード」各年より作成.

1)寄与率の上位3項目を抽出.

2)表2注2)を参照.

3)分析対象期間において農家3戸または4戸に共通

する項目は下線で示している.

(2) 資金循環分析

7の農家経済(A農家)における資金循環分析の結果から次の2つがわかる.第1に,農家5戸は概ね健全な資金循環9であることである.所得的収支,家計支出,財産的収支の符号から判断すると,戦中・戦後において所得的収支によって家計支出と財産的収支を賄うことができない悪い資金循環(古塚他,2009)や,一時的に外部資金を調達し,投資に充てている一時的な資金循環(古塚他,2009)がみられる.しかし,農家5戸は,概ね健全な資金循環を示している.第2に,小作農の外部支払現物対所得的収入比率と外部支払現物対所得的支出比率は戦後,低下していることである.この2つの比率の値は,自作農と小作農では違いがある.戦中における小作農は2つの比率の値が高い.戦後,農地改革による小作料の金納化によって,この2つの分析指標の数値は低下している.すなわち,小作農4戸の平均値は戦中では前者が36.9%,後者が55.0%であり,戦後では前者が0.0%,後者が0.0%である.A農家は戦中には現物による支払いはなく,戦後の平均値は前者が1.7%で,後者が0.0%である.

表7. 資金循環と動態的流動性分析(A農家)
項目 1943年 1945年 1947年
年度始現金(円) 20 378 296
所得的収支(円) 2,456 2,329 71,872
家計支出(円) 1,731 1,215 38,805
財産的収支(円) −636 −852 −32,488
年度末現金(円) 109 639 874
資金循環の分類 健全 健全 健全
所得的収支比率(%) 618.5 394.4 574.7
所得的収支過不足による家計支出充足率(%) −141.9 −191.6 −185.2
所得的収支過不足による財産的収支過不足充足率(%) −386.1 −273.3 −221.2
所得的収支過不足による家計支出・財産的収支過不足充足率(%) −103.8 −112.6 −100.8

出所:「農業経営並農家経済調査集計カード」各年より作成.

(3) 動態的流動性分析

農家経済について動態的流動性分析を行う.表7の動態的流動性分析では,次の2つがわかる.第1に,A農家は,多くの年において所得的収支比率が高く,所得的収支過不足による家計支出充足率と所得的収支過不足による財産的収支比率の絶対値は100%を大幅に上回って,所得的収支過不足による家計支出・財産的収支過不足充足率の絶対値は100%を上回っている.すなわち,動態的流動性は良いことがわかる.第2に,所得的収支過不足による家計支出充足率がマイナス100%より大きくゼロ%未満,または絶対値で100%を上回っているがそれほど高くないときは,所得的収支過不足による財産的収支過不足充足率はプラスの値,またはマイナスの大きい値を示している.すなわち,所得的収支過不足によって家計支出を賄うことができないとき,もしくは所得的収支過不足から家計支出を差し引いて十分な資金が余らないときは,財産的収支過不足によって調整されていることがわかる.動態的流動性分析においては,小作農4戸についても同様のことがいえる.

(4) 静態的流動性分析

8の静態的流動性分析では,次のことがわかる.すなわち,1942年ではB農家は負債を抱えているが,戦時中に返済を完了しており,戦後も外部資金に頼ることがない.この要因は上述した所得的収支比率が高いこと,すなわち,所得的収支が多いことである.また,この時期は政府による資金統制,たとえば,銀行等資金運用令(1940年~1950年)などが行われている.このため外部資金に頼ることができなかったことが考えられる.ほかの小作農もB農家と同じ傾向を示している.したがって,農家5戸は財務安全性が高いことがわかる.なお,静態的流動性分析指標として,本研究では固定長期適合率を取り上げたが,この指標は表8には示していない.この理由は表8注3)を参照されたい.

表8. 静態的流動性分析 単位:%
A農家 1942年 1943年 1944年 1945年 1946年 1947年 1948年
自己資本比率 100.0 100.0 100.0 100.0 100.0 100.0 100.0
固定比率 87.6 84.4 78.5 62.8 77.2 76.7 63.9
流動比率
B農家 1942年 1943年 1944年 1945年 1946年 1947年 1948年
自己資本比率 99.6 100.0 100.0 100.0 100.0 100.0 100.0
固定比率 69.6 68.2 66.2 40.1 67.0 77.0 71.5
流動比率 8,289.8

出所:「農業経営並農家経済調査集計カード」各年より作成.

1)流動比率の「―」は流動負債がゼロのため,算出することができないことを表す.

2)表2注4)を参照.

3)自己資本比率が100%を示すために固定比率と固定長期適合率は同じ値となる.したがって,固定長期適合率は示していない.

(5) 成長性分析

農家経済の成長として農家純財産(=資産合計–負債合計)が,どれだけ増加しているかをみる.1942年の農家純財産を100.0にしたときの変化を示したものが図1である.この図から次のことがわかる.すなわち,戦中の1942年から1945年にかけて,農家経済の農家純財産は減少している.しかし,戦後,C農家,D農家,E農家はそれが増加している.また,A農家,B農家についても,デフレーターが1.912(1942年)から189.0(1948年)に上昇していることを考慮すると,多額の投資をして成長指数の低下を止めているといえる.このような多額の投資が可能となった要因は上述した所得的収支の増加であると考えられる.すなわち,戦後,所得的収支の増加が農家純財産の増加につながっている.なお,本研究の分析結果と浅見(2009)の分析結果が異なっている理由は次の2つである.すなわち,その1として,山形県(1.4町)は兵庫県(0.7町)よりも1戸当たり耕地面積が大きいこと,その2として,その1と関連するが,山形県(1,328円)は兵庫県(1,182円)よりも1戸当たり農業生産額が高いことである.

図1.

農家純財産の推移

出所:「農業経営並農家経済調査集計カード」各年より作成.

注:表2注4)を参照.

4. まとめ

本研究では,山形県の農家5戸を事例として,次のことを明らかにしている.すなわち,第1に,戦中・戦後における農家経済における資金循環は概ね健全であったことである.第2に,農地改革と農産物販売収入の増加が,小作農の投資額,農家純財産を大きくしていることである.第3に,1947年以降,税制改革が所得的支出に大きく影響していることである.すなわち,2つの改革は農家経済の収支に大きな影響を与えていることを明らかにしている.

謝辞

本稿を仕上げるに当たり野田公夫龍谷大学教授からご指導をいただいた.ここに記して謝意を表します.

1  財産的収支を財産的収入と財産的支出に別けて,増減要因をみることができないため,財産的収支のみを分析している.

2  D農家は1943年に増加する.

3  D農家,E農家は1943年に増加する.

4  B農家,C農家,D農家は1943年に増加する.

5  注1)を参照.

6  A農家は減少し続ける.

7  D農家は1946年まで減少する.

8  A農家,B農家,C農家は1943年に増加する.

9  古塚他(2009:pp. 209–210)に基づくと,健全な資金循環は所得収支によって家計支出と財産的収支を賄っている状態である.

引用文献
 
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