農林業問題研究
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書評
谷口憲治編著『農協論再考』
〈農林統計出版株式会社・2014年11月10日発行〉
板橋 衛
著者情報
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2015 年 51 巻 3 号 p. 236-238

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1. はじめに

本書はこれまで著してきたものから構成されているが,著者としては本書の出版を機に協同組合論・農協論の論議が深まることを期待している.それは,競争関係が先鋭化する今日の社会において,協同組合の存在と役割が注目されるようになってきたためであるが,他方で競争論理を全ての面で適応しようとする動きの中で,協同組合を否定し不要とする議論が高まっているためでもあるとしている.

協同組合の中でも本書の分析対象とする農協に限ってみると,特に2014年5月の規制改革会議農業ワーキンググループが示した「農業改革に関する意見」において協同組合を否定する内容が農協の見直しの中で示され,他方でそれに対する懸念として発表されたICA等による意見内容では今日における協同組合の重要性が示されており,協同組合に対する相克的状況が垣間見られている.そこでは,政府による協同組合への介入と協同組合を否定する株式会社化への動きが問われている.評者は,これらの2つの論点を考えるに当たって,本書がどういった示唆的議論を提供するかに問題意識をもって読み進んだ.

2. 本書の内容

第1部(農協論の再検討)では,農協論研究の分析を通して,農協展開論の課題と研究方法について述べている.農協論研究としては,主に近藤康男氏と井上晴丸氏の論理に対して,資本主義の動きに規定される側面に注目するあまり相対的に独立した経済組織としての主体的な面への注視が希薄であると批判している.そして,経営主体を分析対象とする経営史研究の成果を取り入れることが重要であるとして,農協経営体の外的要因と内的要因の相互関連の分析を強調し,以後の農協分析の視座とている.

第Ⅱ部(日本における産業組合・農業協同組合の展開)は,産業組合を事例とした部分と戦後農協の展開に関する部分に分かれる.産業組合の展開では,京都府南桑田郡宮前村における神前産業組合を事例として,戦前期資本主義社会の発展期における外的要因の影響を受けつつも,在村小地主地域としての村内のまとまりを基礎として全住民参加で組合運営を行い,小作料減免の一部を増資に回すなど独自の対応を行うことで産業組合を発展させてきたことが豊富な資料に基づき論述されている.戦後農協の展開では,戦後混乱期における農協法制定の動向と実際の農協設立の推移を分析し,特に政策的には相対的に独立した動きとして専門農協の設立に注目している.その後の展開に関しては専門農協の多くが解散したことにもよるが,総合農協全般の分析を中心とし,政策からの自立と協同組合組織としての経営展開の実践を課題としてあげている.

第Ⅲ部(地域農業発展に果たす農協の役割)では,中山間地域に位置する3つの農協を事例としている.JA三次とJAいずもの分析では,組合員の高齢化に即した事業展開を行う農協の取り組みの中で,特に高齢者福祉事業に注目し,女性部等の協力を得ながら新しい地域社会組織づくりにも貢献しているとして,今後の農協の役割を示唆している.JA雲南の分析においては,小規模農産物流通システムを構築してきた過程を詳細に紹介し,都市部への販売体制を含めた産直システムを評価している.また,これらの農協の分析では地方行政との協力関係についての指摘も注目される.

第Ⅳ部(中国における農村信用合作社・農村小額貸付センターの協同組合機能)では,市場経済化が進む中国農村における新たな資金需要に対する協同組合的金融組織の機能に焦点を当てて分析を行っている.農村信用合作社の事例分析では,農村信用合作社が組織改革を通して,組合員のニーズに応えた金融サービスの提供と組合員との直接的対話等を実施したことで組合員との相互理解を進展させ,組合員の利用拡大と不良債権の減少により経営が好転した点を明らかにしている.1979年以降における農村信用合作社の政策内容の分析では,何回かにわたる政府の協同組合化を図る方針改定を経て,農村信用合作社が協同組合的性格を明確化されてきた過程について整理されている.また,中国の中でも経済発展が遅れている内陸地域で,農村信用合作社や農業銀行などの金融機関が機能していない地域において,貧困克服と持続的経営展開を目標に組織された農村小額貸付センターの事業実績を明らかにしている.

以上の内容からもわかるように,本書が対象とする農協および協同組合組織は時代的地域的背景さらに事業内容の面からもきわめて多様であり,執筆された時期がざまざまであることから本書全体の論理展開としての事例研究の位置づけは必ずしも明確ではないが,冒頭で述べた問題意識との関連からコメントを行い評者の任務としたい.

3. 政策・政府との関係に対する視点

1つめの論点である政策・政府と農協との関係についてであるが,政府による農協および協同組合への介入が問題とされる状況の今日において,農協を独立した経済組織として明確に位置づけ,その独自な機能に注目して農協分析と農協研究を進めることの重要性をあらためて示した意義は大きいと思われる.すなわち,農協の性格を社会経済的条件によって一義的に規定されたものとせず,農協経営体そのものを自律して把握することであるが,農協経営体の経済構造と経営行動の相互規定性に注目して農協分析を行うと同時に,社会経済的条件により規定される部分の作用に関しても分析を行うことを指摘している.政策的側面から一方的に農協を規定して分析するのではなく,事例分析からのみ農協のあり方を論ずるのでもないというこうした視点は,今日の農協のあり方と政策への関わり方を考えるに当たってはきわめて示唆的である.

この視点による実証分析がきわめて説得力をもって展開しているのが本書では産業組合に関する事例分析(第4章~第6章)であろう.ここでは,経営体としての産業組合の継続性に注目し,事業のみならず経営の分析も行うことによって経済組織体としての独自の展開を検討していることが特に重要である.この視点は戦後の農協分析でも引き継がれるが,戦後から1990年代までの農協の実証分析が行われていないために,第8章では,戦後復興期における経営再建期の農協の性格を「「自立化」志向から農政主導農協へ」と規定し,高度経済成長期と低成長期においては「農政主導農協の定着」と一方的に規定されているのが残念である.とはいえ,その後の中山間地域の農協と中国の信用事業に関する実証分析においては,産業組合の分析ほどの迫力は有しないが,経済構造と経済行動の相互規定性と社会経済的条件に作用されつつ独自な展開を行う組織の実態が明らかにされており,著者の農協研究の視点は貫かれていると思われる.

1つめの論点に関して本書から学ぶべき事は,政府や政策からの単純な独自性を主張するのみではなく,時々の社会経済的条件の中で創意工夫して地域の農業・社会を維持・発展させていく農協の取り組みを汲み取る研究視点であり,その過程における協同組合的取り組みの意義を見いだすことであると考えられる.

4. 株式会社化をめぐる経営論理との関係に対する視点

2つめの論点に関しては,農協法改正の中に非営利規定の変更や連合会組織の株式会社化の容認などにみられるように政策的な意向も背景にあるが,協同組合としての事業のあり方が問われている今日において重要な論点である.本書においては,中国における農村信用合作社の協同組合化政策の分析の中で,信用合作社の資金調達の点で協同組合化と株式会社化が検討課題になっていることが紹介されており,事業面における効率性という点ではそのあり方が常に論点となるところである.

この点に関する本書の視点は,主に現状分析の中で,協同組合理念や協同組合原則によって事業展開を行っている点に注目して,事例の取り組みの評価が行われているが,特に農協の分析においては,理念や原則以前の基本的農村の構造から協同組合的事業展開の有効性を指摘することが必要ではないかと思われる.すなわち,産業組合の分析でみられたように,在村小地主地域における全員参加による事業運営の中で,村内全員の経済的改善を目的とした取り組みが,地域に基盤を置いている産業組合としては経営的にも有効な事業展開であるとの指摘であり,特に,その経営体としての継続性を考慮した場合はきわめて効率的でもある経営形態であるということである.その事業方式が協同組合的事業展開であり,協同組合原則に指摘されている運営方法であるという点である.

中山間地域において,営農面のみならず生活福祉面への取り組みを農協が行う背景には,組合員からの要望があり,地域のくらしをサポートする協同組合としての使命もあるが,営利を目的とした企業では参入しにくい部分に農協が積極的に取り組んでいかざるを得ない側面がある.しかし,それを実践することにより地域経済が維持され,経営体としての継続性を含めた農協経営としての効率性が高まっているのである.本書では,協同組合の理念や原則を強調しているようにもみられるが,それよりもこういった事例の中から協同組合としての事業の有効性を示唆しているものと読み取れた.

5. おわりに

農協関係者との会話において,競争構造が強まる中で,農協職員にはノルマ達成が常に問われ,それに追われるあまりに協同組合としての事業を行っているという視点を見失うことがあるという意見がよく聞かれる.他方,組合員においても,自分の経営が苦しいことから少しでも安い資材を求め,少しでも高い売り先を求める行動に走る傾向にある.とはいえ,それは農協職員が農協としてのアイデンティティーを常に問ながら日々の業務に携わっているための悩みである.また,農協の組合員としての自覚はあるもののメリットで農協利用を判断している農家の悩みもあろう.こうした問題構造をついて,政府による農協改革への強要があり,組合員と農協や系統組織の分断が図られているのが現状である.

とはいえ,このような状況下ではあるからこそ,地域において協同の組織があることの意義,それを協同組合という事業方式で運営していることの有効性を問い直し,それをくみ上げる研究視点が重要であると思われる.評者としても,協同組合論・農協論の議論が深まることを期待するものである.

 
© 2015 地域農林経済学会
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