農林業問題研究
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大会講演
会長挨拶
増田 佳昭
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2016 年 52 巻 1 号 p. 1-2

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2015年度地域農林経済学会大会にあたり,ご挨拶申し上げます.本日は,本学会大会に多数のご参集をいただき,まことにありがとうございます.大会は今回で第65回を数え,前身である関西農林経済学会以来の長い歴史を持ちます.本学会の目的は,会則に定めるように,「地域の実態に即して農林業問題に関する経済的・社会的研究を進め,農林業の発展に寄与すること」であり,研究上の特徴は,1)地域の実態把握に基づく研究及び研究者・指導者・農業者の相互交流による農林業・農村問題の解決を目指した研究,2)地域を軸に,農業経営,アグロ・ビジネス,政策・制度に関する多面的な接近による研究,3)世界の視野を入れた地域及び地域間の関係を重視した研究,としています.

政府によって「地方創生」が叫ばれている今日ですが,学会名称が示すように,本学会のキーワードはまさに「地域」であり,その使命は地域の課題に即した経済的,社会的研究であります.

農林業および地域社会は,いままさに大きな変化に直面するとともに,大変な危機に直面しています.地域社会の高齢化,人口減少のもとで,経済のあり方も,社会のあり方も,その根本から考え直さざるを得ない状況を迎えています.おそらく,「成長」を第一義とする経済政策や「利潤の獲得」を推進力とする社会の仕組みではもはや人々のくらしに基づいたニーズや期待に応えることができず,本当の意味の豊かさを実現するために,新たな価値と仕組みが必要とされる時代を迎えているといえるでしょう.その仕組みの中に農林業をどう位置づけ,どう運営していくのか,農林業研究に対する期待も大きなものがあります.

ところが,最近「大筋合意」されたTPP(環太平洋経済連携協定)では,多数の農産物の関税が撤廃され,「重要5品目」についても,多くの譲歩がなされたことがわかりました.それだけでなく,限りない利潤を追い求めるグローバル企業に自由な活動の場を与える方向で,多分野にわたる制度の改変が行われようとしています.それらが,日本社会に大きな影響をあたえることは間違いありません.新たなグローバル化は,地域の問題をさらに深刻なものにする可能性が強いでしょう.その意味では,地域研究は否応なしに国際的な問題,いわゆる「グローバル化」をも視野に入れなければならないでしょう.

昨日の地域シンポジウムは,本学会地域支部大会を兼ねて開催されましたが,「地域社会における放置される財の状況と対策,そして今後の課題」と題され,過疎地域における空き家や耕作放棄地,山林の現状と対応の状況等を取り上げて,報告と討論がなされました.このような地域と現実の課題に即したテーマは,まさに地域農林経済学会の設立の趣旨に沿った時宜を得たものだといえるでしょう.学会としても,学会支部活動等と関連させながら,現場と連携した研究ができればと思います.

確かに,こうした地域問題は,そう簡単に解決が図られる問題ではありません.また,それらの現場の課題に研究面から貢献できることは限られているのかもしれません.さらに,研究において割かなければならない労力すなわち「インプット」と,学会誌論文という「アウトプット」とを考えると,実験室や研究室の中での研究と違って,この分野は大変手間がかかるわりに成果が上がりにくい分野かもしれません,しかし,そうした現場が突きつける切実な課題にしっかりと向き合うという姿勢,あるいは現場との緊張感を持つことが,いま,研究者に強く求められているのではないでしょうか.おそらく,そうした研究姿勢やそれと関連する研究手法が,本学会の強みであり,それは日本のみならず国際的にも意味を持つものではないかと思います.そのような意味で,地域農林経済学研究のよりいっそうの深化と発信が求められていると考えます.

さて,本学会はこの間,いくつかの問題に取り組んできました.ひとつは学会の財政問題です.学会財政の硬直化によって,赤字体質に陥っており,その対応が長年の懸案になっておりました.学会事務局費の削減等について検討をしてきたところですが,前期(第19期)に,学会誌のオンラインジャーナル化,紙媒体学会誌の廃止という大きな決断を下して,本年度から実施しているところです.紙の学会誌が届かないということで,いささかの違和感を覚えられた会員もおられると思います.学会誌のオンライン化は経費節減の意味もありますが,学会としての発信力強化にもつながるものと考えています.学会誌はJ-STAGEにxml形式で掲載されますが,従来よりも格段に検索にかかりやすくなっております.その意味ではネット上の発信力は強化されたと考えています.

とはいえ,紙媒体がなくなることで,図書館への所蔵や雑誌形態での一覧性という意味では弱さがないわけではありません.また,学会誌の郵送がなくなることで会員とのつながりが弱まる面があるかもしれません.そこで,ニューズレターの発行を重視して,内容の充実と発刊回数の増加に取り組むことにしています.

また,オンラインジャーナル化によって,学会財政にある程度の余裕が生まれました.その分をどのようなかたちで会員に還元するか,あるいはどのような学会の機能強化に使うか,現在常任理事会を中心に,検討中です.ホームページの充実,地域支部活動の活性化,投稿料への反映などいくつかの案が検討されているところです.会員の皆さんからもご意見,ご提案をいただければと思います.

もう一点は,学会誌の内容の充実です.編集委員会の努力で,個別報告論文の投稿フォームの整備や査読体制の見直しなどによって,改善が図られているところです.個別報告論文は,若手研究者をはじめ研究成果の発表の場として,その重要性は決定的に重要になっています.一方で投稿しやすさが求められるとともに,他方で,学会誌論文としての一定の水準が担保されなければなりません.個別報告論文の質保証と向上が,学会誌の魅力を高め,ステイタスの向上につながるものと考えます.その意味では,投稿者,査読者のいっそうのご尽力を期待申し上げるところです.

最後になりましたが,今回の学会大会では,鳥取大学のみなさまには多大なご協力をいただきましたことに厚くお礼申し上げます.

 
© 2016 地域農林経済学会
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