農林業問題研究
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研究論文
子どもの夕食のとり方とその規定要因
―2006年社会生活基本調査の匿名データを使用して―
金子 治平
著者情報
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2016 年 52 巻 2 号 p. 23-33

詳細

1. はじめに

1980年代から孤食が子どもたちの食生活上の問題として認識されるようになりはじめた.一方で,孤食の対義語としての共食の重要性が指摘され,2012年の第2次食育推進基本計画では,国民の「朝食または夕食を家族と一緒に食べる『共食』の回数」を,2010年の週9回から2015年には週10回以上とする数値目標が定められた.共食回数を食育上の数値目標としたのは,とくに子どもたちにとって,家族団らん,バランスのよい食事摂取の習慣形成にとって重要と考えられているためである1

ところで,「一人で食事する」孤食に対して,共食は「家族そろって食事をする」と理解されることが多いが,実際の食事のとり方は,この二値的区分に入らないものが多い.たとえば,家族がそろっていなくても,子どもが母親(あるいは父親)だけと食事をする場合,食事をしていない母親の側で子どもが食事をしている場合,あるいは,子どもが塾などで友人たちと母親の作った弁当を食べる場合などである.したがって,食事のとり方を孤食と共食という二値的に区分するのは無理がある.

そこで,本稿では,調査日の生活行動について調査を行っている2006年の社会生活基本調査の匿名データを使用して,小中高校生2の平日における夕食のとり方について「一人で」(狭義の孤食)や「成人世帯員と」(狭義の共食)だけではなく「成人世帯員が側に」などを含む5つに区分して世帯類型別に集計を行い,夕食のとり方の実態を明らかにする.社会生活基本調査の匿名データを用いた子どもの共食・孤食に関連した先行研究には,野田他(2011)坂田・栗原(2010)栗原(2010)がある.しかし,野田他(2011)では,一人で食べた場合に孤食,誰かが近くにいれば共食とみなす二値的分類を行っているに過ぎないし,坂田・栗原(2010)栗原(2010)では,総体としての夕食のとり方ではなく母(あるいは父)と子どもの食事の同時行動(狭義の共食)の検討に限定されている.

また,足立(1983)足立(2000)などの先行文献によれば,孤食化をもたらす構造的な要因として,(1)世帯類型の変化,(2)核家族化による世帯人員の減少,(3)女性の社会進出や長い就業時間など父母の就業の長時間化,(4)子どもの塾通いなどによる多忙化が指摘されている.しかし,それらの要因が食事のとり方に与える影響の大小についてのモデル分析は行われていない.そこで,両親が存在する世帯について,父母の仕事時間や子どもの塾通いなどを説明変数とし,より実態に即した5区分した夕食のとり方を被説明変数とする多項ロジット分析を行うことにより,夕食のとり方を規定している要因を探るとともに,それら要因が与える影響の大きさを明らかにすることを目的とする.

2. 資料と集計方法

分析には,2006年に総務省統計局が実施した社会生活基本調査の匿名データ3を使用した.社会生活基本調査は,多目的型の統計調査であるために,共食・孤食状況を把握するには,やや複雑な集計が必要になる.そこで,本稿での集計との関連で問題となる社会生活基本調査の特徴を述べておこう.分析に使用する社会生活基本調査(調査票A)では,調査対象となった世帯の10歳以上の全ての個人が,連続する2日間にわたって行動を記入する.記入方式としては15分ごとに,「食事」を含む行動20種類から一つを選択して記入するプレコード方式を採用しているが,「15分間にいくつかの行動をした場合には,そのうち一番時間が長かったものを記入」することとしている.このような記入の場合,食事行動のような短時間に終了する可能性がある項目は,行動として把握できない可能性がある4.そこで,同じく調査日当日の食事摂取状況を調査している国民健康・栄養調査の欠食率と社会生活基本調査の食事行動の記録のない者の比率(いずれも便宜上,「欠食率」と呼ぶ)を比較したものが表1である.

表1. 国民健康・栄養調査と社会生活基本調査の「欠食率」(%)
朝食 昼食 夕食
国民 社会 国民 社会 国民 社会
12〜14歳/中学生 男性 2.7 6.9 0.0 20.6 0.0 4.8
女性 2.1 6.1 0.0 22.9 0.0 5.5
15〜17歳/高校生 男性 8.2 12.3 0.0 19.4 0.0 4.5
女性 7.1 12.6 1.4 21.1 0.7 6.6

1)「国民」は,『国民健康・栄養調査(2006年)』による年齢階級別の「欠食率」で11月中の日曜・祝祭日以外の任意の一日の調査結果.

2)「社会」は,筆者が2006年社会生活基本調査匿名データを使用し,朝食・昼食・夕食の区分は社会生活基本調査の区分にしたがって,中高校生を対象に集計用乗率を用いて集計した.

本表によれば,いずれの年齢階層においても社会生活基本調査の「欠食率」が国民健康・栄養調査の「欠食率」を上回っているが,とくに昼食や夕食では国民健康・栄養調査の「欠食率」はほぼ0%であるのに対して,社会生活基本調査の昼食「欠食率」は20%程度,夕食「欠食率」は5%程度と高くなっている.この差が生じている主な理由は,前述したように,食事時間が時間単位である15分間でもっとも長くなければ,他の行動を行っていたと記録されるためである5.つまり,社会生活基本調査の匿名データを利用する場合に,食事記録データがないことをすべて欠食データとして処理すると,事実としては食事をとっているにもかかわらず欠食扱いしてしまう誤りを犯す可能性がある.そこで,本稿では夕食のとり方を集計するにあたって,表3(後述)の集計を除いて,食事記録のないものは集計から除外した6

次に,共食や孤食という夕食のとり方を,社会生活基本調査の匿名データから集計する方法について説明する.1996年以降の社会生活基本調査では,プレコード方式で記入する行動の種類とともに,「一緒にいた人」として,「一人で」,「家族」,「学校・職場の人」,「その他の人」の重複回答選択肢を設けている.しかし,「一緒にいた」家族が誰であるかは特定できないし,その場所は自宅か否かさえ特定できない.そこで,15分単位の食事行動時に子どもが「一緒にいた人」,その時点での成人世帯員や他の未成年世帯員の行動の種類,および彼らが「一緒にいた人」の回答データを利用して,表2のように「成人世帯員と」,「成人世帯員が側に」,「未成年世帯員と」,「他の人が側に」,「一人で」の5つに区分した7.ただし,食事時間が30分以上であるときには,複数の区分の食事のとり方に該当する可能性がある.その場合には,「成人世帯員と」,「成人世帯員が側に」,「未成年世帯員と」,「他の人が側に」,「一人で」の順で優先的に採用することとした.

表2. 食事のとり方の区分方法
子どもが一緒にいた人 成人世帯員 本人以外の未成年世帯員 区分
行動 一緒にいた人 行動 一緒にいた人
家族 食事 家族 成人世帯員と
家族 食事以外 家族 成人家族が側に
家族 食事 家族 未成年世帯員と
学校職場の人 その他の人が側に
その他の人 その他の人が側に
一人で 一人で

1)「―」は考慮されないことを示す.

さて,1.で述べた孤食化の構造的要因のうち(1)(2)(3)は子どもと夕食を共にする成人の在宅可能性が低下していることを示しており,(4)は夕食時における子ども自身の在宅可能性が低下していることを示している.そこで,これら食事のとり方を規定する要因と考えられることがらの代理変数を,社会生活基本調査の匿名データから検討した.

まず,(1)(2)核家族化による世帯人員の減少の代理変数としては,20歳以上の世帯人員数(以下,「成人の世帯員数」)とした.(3)父母の就業時間に関しては,匿名データ中ですでに加工されている父母の調査当日の「仕事の時間」を採用することとした.なお,父母の就業時間に関しては,坂田・栗原(2010)栗原(2010)は,世帯員に対して「ふだんの1週間の就業時間」を尋ねた項目を代理変数としている.しかし,本稿が対象とした平日の,しかも調査日当日の父母の在宅の可能性の代理変数としては,「ふだんの1週間の就業時間」は不適当である.なぜならば,たとえばサービス業・小売業などの就業者などでは,土・日曜日に勤務し平日が休日となることが一般的であり,「ふだんの1週間の就業時間」と平日の「仕事の時間」には高い相関が見られないことが容易に想定される8.さらに,「ふだんの1週間の就業時間」には,「きまっていない」という選択肢が含まれているし,匿名データを検討すると未回答データも少なからず含まれていた.

また,(4)子どもの塾通いなどの多忙化の代理変数としては,午後6時以降に「その他の人」や「学校・職場の人」がいるところで,「趣味・娯楽」,「スポーツ」,「学業」という3種の行動のいずれかを行った総時間を求め,その時間(以下,「塾通いなどの時間」)を使用した.

さて,父母の仕事時間については,父母の特定が問題となる.つまり,社会生活基本調査では,各世帯員と世帯主との続柄は調査されているが,世帯員間の親子関係は特定できず,子どもの父母が誰であるかが明確ではない.この問題に対して,坂田・栗原(2010)栗原(2010)では両親と子どもだけの世帯に分析を限定するという方法で対処している.しかし,表3に示したように,坂田・栗原らの対象とした子どもたちは,小中高校生の3分の2程度しかカバーしていない.そこで,三世代世帯の子どもが2割程度を占めていることを考慮して,小中高校生の祖父母が世帯主であり,世帯主の子及び世帯主の子の配偶者がそれぞれ1名である場合には,世帯主の子が小中高校生の父(あるいは母),世帯主の子の配偶者が小中高校生の母(あるいは父)であると判断して,分析対象に加えた.

3. 世帯類型別の小中高校生の夕食のとり方

世帯類型別に小中高校生の夕食のとり方を集計した点推定の結果を,表3に示した9

表3. 世帯類型別の小中高校生の夕食のとり方(%)
記録
なし
不明 一人で その他の
人が側に
未成年世
帯員と
成人世帯員が
側に
成人世帯員と 構成比
小学生 二世代 5.0 1.4 2.0 1.8 4.2 14.2 71.4 100.0 66.8
三世代 3.3 0.9 1.4 1.7 0.9 12.3 79.6 100.0 16.0
父子 16.4 0.0 16.4 0.0 8.2 5.2 53.8 100.0 0.6
母子 3.0 0.8 0.5 0.7 9.6 14.7 70.6 100.0 5.5
その他 3.2 2.3 2.6 1.9 4.4 12.8 72.9 100.0 11.1
4.5 1.4 2.0 1.7 4.0 13.7 72.7 100.0 100.0
中学生 二世代 4.8 1.9 3.1 2.6 6.6 21.6 59.5 100.0 61.3
三世代 4.0 0.4 4.0 2.1 1.9 14.4 73.2 100.0 18.1
父子 3.8 0.0 1.6 0.0 34.2 9.3 51.1 100.0 0.6
母子 7.7 0.7 7.1 2.8 15.8 8.8 57.2 100.0 6.5
その他 6.8 3.7 5.2 2.3 6.9 15.4 59.7 100.0 13.5
5.1 1.8 3.8 2.5 6.5 18.6 61.8 100.0 100.0
高校生 二世代 4.4 1.8 5.3 4.6 6.0 21.6 56.4 100.0 58.0
三世代 6.5 1.5 5.7 3.6 1.7 20.0 61.1 100.0 21.0
父子 20.2 0.0 6.4 0.0 13.0 41.3 19.2 100.0 0.4
母子 7.2 4.2 12.4 3.5 10.0 20.6 42.1 100.0 7.0
その他 7.4 3.9 10.4 7.4 9.3 16.9 44.7 100.0 13.6
5.5 2.2 6.6 4.7 5.9 20.6 54.6 100.0 100.0

1)筆者による社会生活基本調査の匿名データの集計結果.

2)集計サンプルサイズは,小学生2,968名,中学生3,746名,高校生3,777名.

3)構成比は,集計用乗率を使用して求めた.

4)「不明」は,「一緒にいた人」が未記入のもの.

5)世帯類型は総務省(2007)の世帯の家族類型にもとづいて分類した.「二世代」は夫婦と子どもの世帯,「三世代」は夫婦,子どもと夫婦の親の世帯,「父子」は有配偶でない父と子どもの世帯,「母子」は有配偶でない母と子どもの世帯,「その他」は上記以外の世帯である.「その他」には,有配偶でない母,子どもと母の親の世帯や,夫婦,子ども,夫婦の親と夫婦の兄弟の世帯など,多様な世帯が含まれる.

本表によれば,小学生,中学生,高校生で成人世帯員と一緒に食事をしているものの割合は,72.7%,61.8%,54.6%である.この数値を,子どもの孤食・共食に関する大規模な統計調査である文部科学省(2008)および日本スポーツ振興センター(2009)と比較して検討しておこう.

文部科学省(2008)で「家の人(兄弟姉妹を含みません)と普段,夕食を一緒に食べますか」に対して「している」「どちらかといえばしている」と回答したものの割合は,小学生6年生で87.7%,中学3年生で80.1%である.また,日本スポーツ振興センター(2009)で「いつもどのように食事をしていますか(夕食)」に対して,「家族そろって食べる」「大人の家族の誰かと食べる」と回答したものの割合は,小学5年生で90.9%,中学2年生で85.0%である.すなわち,文部科学省(2008)日本スポーツ振興センター(2009)の共食率を示す値よりも,社会生活基本調査の集計結果は10%以上低くなっている.この不一致は,「ふだん」「いつも」の状況と,調査日当日の状況の集計による差であると解釈すべきであろう.すなわち,平日5日のうち1日だけ共食をしなくても,「いつも」あるいは「ふだん」は共食しているかという質問項目だと共食率が100%になるのに対して,社会生活基本調査のような調査日当日の状況でみれば共食率は80%になってしまう10

次に,狭義の共食比率は,一般に言われているように,小学生,中学生,高校生と,年齢が上がるにしたがって低下しているが,一方で,「成人世帯員が側に」いて食事をしているものの比率は,小学生13.7%,中学生18.6%,高校生20.6%と上昇しており,狭義の共食比率の低下を完全にではないが補っている.その結果,狭義の孤食比率は小学生2.0%,中学生3.8%,高校生6.6%とさほどの上昇を示さない.一定の割合を示している「成人世帯員が側に」は,食事をともにしていなくても家族との会話が行なわれている可能性を示すので,共食の効果として指摘される「家族団らん」や「食事マナー」という点からは,狭義の共食比率の低下が示すほどには深刻な状況ではないかもしれない.

注目すべきは,小中高校生間における狭義の孤食比率の増加程度は世帯類型別によって異なることである.母子世帯の場合には,小学生では1%未満であるが,中学生7.1%,高校生12.4%と急激に上昇している.つまり,母子世帯の中高校生は,二世代世帯や三世代世帯と比較すると,孤食になる可能性が2倍程度高い.

国全体で夕食の取り方別の小中高校生数がどのように変化しているかは,各世帯類型別の夕食の取り方の変化と,各類型別世帯数の推移に依存している.前者は2006年の社会生活基本調査だけでは検討不可能なので,後者について簡単に検討しておく.1995年以降の15年間について,国勢調査報告の公表値から,可能な限り本稿と同じ世帯類型の集計結果を抜き出して類型別世帯数の推移を示したものが,表4である.18歳未満世帯員のいる世帯のうち夫婦と子どもから成る世帯が本稿での二世代世帯の区分に,その他の親族世帯が本稿での三世代世帯やその他世帯の区分に,母子世帯と父子世帯はそれぞれの区分にほぼ該当すると考えてよい.本表に示したように,共食比率の高い二世代・三世代・その他世帯が1995年から2010年にかけて6~9割に減少する中で,中高校生の孤食比率が高い母子世帯は約1.4倍に増加している.したがって,もし世帯類型別の孤食比率が年次によって変化していないと仮定すれば,総数としては孤食している子どもたちの数は増加しつつあると推測される.

表4. 類型別世帯数の推移(千世帯)
1995年 2000年 2005年 2010年
18歳未満世帯員のいる一般世帯 夫婦と子どもから成る世帯 9114 8718 8403 8327
    その他の親族世帯 3922 3309 2816 2321
母子世帯 530 626 749 756
父子世帯 88 87 92 89

1)各年次の国勢調査報告から作成.

2)母子(父子)世帯とは,「未婚・死別又は離別の女(男)親と,その未婚の20歳未満の子どものみから成る一般世帯」なので,必ずしも18歳未満の子どものいる世帯ではない.

なお,表3からは,学校やその他の人が側にいる状況で食事をしているものが,小学生で1.7%,中学生で2.5%,高校生で4.7%程度存在している.塾などで食事をしている子どもたちが少なからず存在していることを示しており,現在の子どもの食生活の特徴の一つとして指摘されよう.

4. 夕食のとり方の多項ロジット分析

孤食化に影響を与えていると指摘されている要因が,実際にどのような影響を夕食のとり方に与えているかを明らかにするために,表3に示したように小中高校生のうち少なくとも約8割と大部分を占める,両親がいる者を対象として多項ロジット分析を試みる11

父親の仕事時間などが,孤食などの夕食のとり方をどのように増減させるかの予想を表5にまとめた.父親の仕事時間,母親の仕事時間,成人の世帯員数はいずれも,夕食時における成人世帯員の在宅可能性を示し,子どもの塾などの時間は夕食時における子ども自身の在宅可能性を示している.したがって,夕食時における成人世帯員の在宅可能性が低いほど,また,子ども自身の在宅可能性が低いほど,「成人世帯員と」の可能性は減少する.「一人で」は,(a)世帯員が誰もいないために自宅において一人で,または(b)塾などの外出先において一人で夕食をとっている,という二通りの状況が想定される.「一人で」(a)の状況は,成人世帯員の在宅可能性が低いほど増加する.一方,「一人で」(b)の状況は,主として外出先で夕食をとっていると想定されるので,成人世帯員の在宅可能性の影響は明確ではないが,子ども自身の在宅可能性が低くなるほど,増加すると考えられる.なお,匿名データから「一人で」(a)と(b)の状況を識別することは不可能である.

表5. 説明変数が各夕食のとり方に与える影響の予想
成人世帯員と 一人で その他の人が側に 未成年世帯員と 成人世帯員が側に
(a) (b)
父親の仕事時間(時間) 減少 増加 増加
母親の仕事時間(時間) 減少 増加 増加
塾・習い事などの時間(時間) 減少 増加 増加 増加
成人の世帯人数(人) 増加 減少 減少

1)いずれも,各説明変数の値が長いか多い場合の影響.

分析は小中高校生別に行うこととし12,説明変数の基本統計量を表6に示した.父母の仕事時間は仕事をしていない者を含んだ値,塾などの時間は塾などに行っていない者を含んだ値であり,それぞれ0として計算している.小学生,中学生,高校生と年齢が上がるに従って,父親の仕事時間は若干短くなり,逆に母親の仕事時間は若干長くなる傾向が見られるが,それぞれの平均値は,父親が約10時間,母親が4.30~4.92時間程度で大きな差は見られない.また,塾などの時間は中学生・高校生はほぼ同じで平均0.3時間,小学生は平均0.2時間程度であり,成人の世帯人員数は小中高校生と年齢が上がるにしたがって,若干多くなる傾向がみられるが,さほど大きな差は見られない.なお,父親の仕事時間と成人の世帯員数の相関係数が0.4程度あるが,その他の説明変数間の相関係数はおおむね0.1以下であり,説明変数の独立性は保証されおり,多重共線性は考慮する必要がない.

表6. 説明変数の基本統計量
小学生 中学生 高校生
平均 標準偏差 平均 標準偏差 平均 標準偏差
父親の仕事時間(時間) 10.21 0.092 10.16 0.080 9.80 0.094
母親の仕事時間(時間) 4.30 0.111 4.63 0.105 4.92 0.101
塾・習い事などの時間(時間) 0.20 0.015 0.31 0.020 0.30 0.017
成人の世帯人数(人) 2.37 0.021 2.42 0.018 2.65 0.022

1)社会生活基本調査の匿名データから,筆者が集計用乗率を使用して集計した.

2)サンプルサイズは,小学生2,366名,中学生2,879名,高校生2,827名.

以上の説明変数で,狭義の共食(「成人世帯員と」)をベースとした多項ロジット分析を行う.多項ロジット・モデルは,説明変数をxk(k=1, …, m)とし,選択肢j=1をベースとすれば,選択肢j(j=2, …, n)を選択する確率が

  

p j ( x )= exp( k=1 m β jk x k ) 1+ l=2 n exp( k=1 m β lk x k )

で表現されるモデルである(個体を示す添え字iは省略).

ところで,多項ロジット・モデルの係数βjkの符号そのものは解釈が困難であるが,pj/p1=exp(Σβjkxk)なので,exp(βjk)(以下,相対リスク比)はxkが一単位増加した時にpj/p1が限界的に変化する比率を示している.したがって,ある変数の変化によって,ある夕食のとり方の確率が「成人世帯員と」の確率と比較して相対的に増大すれば,相対リスク比は1より大きくなる.表5における「成人世帯員と」以外の各夕食のとり方が増加している場合には,「成人世帯員と」は減少しているので,相対リスク比は1より大きくなると予想される.逆に,減少の場合に1より小さくなると予想される.また,ある夕食のとり方の確率が不変でも,「成人世帯員と」の確率が低下すれば,相対リスク比は1より大きくなる.

最尤法を用いて推定した結果を,相対リスク比で表7に示した.多項ロジットの場合の各係数が0かどうかの検定結果は,ベースとする選択肢に依存するので注意が必要である.表には示していないが,小学生・中学生・高校生のいずれにおいても,定数項以外の係数がすべて0であるという帰無仮説は,F検定によって1%で棄却された.また,ある説明変数のパラメータがどの選択肢においても0であるという帰無仮説も,Wald検定によって,小学生の「父親の仕事時間」を除いて有意水準1%ないし5%で棄却されている13

表7. 多項ロジットの推定結果
小学生 中学生 高校生
相対リスク比 標準誤差 相対リスク比 標準誤差 相対リスク比 標準誤差
一人で 父親の仕事時間 1.048 0.070 1.044 0.071 1.028 0.041
母親の仕事時間 1.018 0.084 1.091** 0.040 1.129*** 0.041
塾・習い事などの時間 1.922** 0.567 1.563*** 0.253 2.191*** 0.236
成人の世帯人数 0.645 0.275 1.069 0.145 0.968 0.092
(定数) 0.034*** 0.042 0.016*** 0.011 0.031*** 0.017
その他の人が側に 父親の仕事時間 1.038 0.050 1.061 0.048 1.170** 0.093
母親の仕事時間 0.929 0.050 0.965 0.038 1.022 0.030
塾・習い事などの時間 3.689*** 0.863 2.236*** 0.278 2.705*** 0.325
成人の世帯人数 0.806 0.219 0.848 0.174 0.892 0.121
(定数) 0.020*** 0.016 0.027*** 0.020 0.012*** 0.011
未成年世帯員と 父親の仕事時間 1.027 0.042 1.121*** 0.042 1.098** 0.051
母親の仕事時間 1.153*** 0.050 1.108*** 0.037 1.126*** 0.035
塾・習い事などの時間 1.372 0.319 2.010*** 0.226 1.440*** 0.202
成人の世帯人数 0.282*** 0.088 0.354*** 0.078 0.521*** 0.084
(定数) 0.262 0.218 0.131*** 0.081 0.081*** 0.046
成人世帯員が側に 父親の仕事時間 1.037 0.034 1.014 0.021 1.044* 0.023
母親の仕事時間 0.994 0.024 1.042*** 0.019 1.033* 0.019
塾・習い事などの時間 1.980*** 0.221 1.956*** 0.163 1.978*** 0.161
成人の世帯人数 0.805* 0.090 0.654*** 0.066 0.983 0.074
(定数) 0.186*** 0.090 0.500** 0.175 0.177*** 0.058

1)社会生活基本調査の匿名データから,調査曜日・世帯情報および集計用乗率を用いて推定した.

2)分析に使用したケース数は,表6と同じ.

3)「成人世帯員と」をベースとした.

4)***は1%,**は5%,*は10%で有意であることを示す.

1と比較した相対リスク比の大きさは,ほとんどの箇所で予想したものと合致している.また,表5から増減が予想された箇所については,t検定もほとんど有意であった.なお,中高校生の「母親の仕事時間」を除いて,「一人で」の成人世帯員の在宅可能性を示す変数が有意でなかったのは,「一人で」(a)の状況は少なく,「一人で」(b)の状況が多いためと考えられる.小中高校生別に定数項以外の係数の推計値を比較すると,比較的近似した値となっていたが,「その他の人が側に」の「塾などの時間」については,小学生が3.689,中学生が2.236,高校生が2.705と大きな相違がみられる.

ところで,表7に示した相対リスク比は,説明変数の単位のとり方によって変化するし,各説明変数の影響はその値のとりうる範囲によっても変化する.また,ある夕食のとり方に対する相対リスク比が有意でない場合でも,他の夕食のとり方に対する影響が有意であれば全体的な夕食のとり方の確率は変化する.そこで,各説明変数が夕食のとり方にどの程度の影響を与えているかをみるために,着目する説明変数以外については平均値を使用し,着目した説明変数を最小値から100パーセンタイル値まで変化させて,夕食のとり方それぞれの確率を求め,図1を作成した(Wald検定が棄却されなかったので効果が認められなかった,小学生の「父親の仕事時間」も参考のために表示している).

図1.

各説明変数の夕食のとり方への効果

1)点線は,集計用乗率を使用して求めた各説明変数の累積相対度数を示す.

本図を詳細に検討するのは煩雑になるので,要点のみ列挙しておく.(1)各説明変数が5パーセントタイル値から95パーセントタイル値まで変化した時に最も影響を与えているのは,小中高校生ともに「塾・習い事などの時間」である.(2)「塾・習い事などの時間」の増加は,「家族と」の食事確率を大幅に減少させるとともに,「成人世帯員が側に」や「その他の人が側に」の食事確率を大きく増加させる.(3)Wald検定で有意であった中学生・高校生においても「父親の仕事時間」は,5パーセントタイル値から95パーセントタイル値への変化ではほとんど影響を与えない,(4)「母親の仕事時間」は,小学生にはほとんど影響を与えないが,中高校生には「家族と」の食事確率を減少させ,「未成年世帯員と」や「一人で」の食事確率を増大させる,(5)「成人の世帯人数」の増加は,小中学生に対しては「家族と」の食事確率を増大させるが,高校生に対してはほとんど影響を与えていない.

以上のように,成人世帯員と食事を共にしていない主な理由は,小中高校生ともに,子どもたち自身の「塾・習い事などの時間」であり,それは狭義の共食は減少させているが,「家族が側に」や「その他の人が側に」を増加させており,それほど「一人で」はさほど増加させていない.「塾・習い事などの時間」が時系列的にどのように推移してきたかをみることによって,この効果が子どもたち全体にどのように影響してきたかを検討しておこう.塾や習い事に行く時間の変化を直接的に示す統計資料は存在しない.が,文部科学省「子どもの学習費調査」によると,公立学校に通う生徒1人あたりの年間学習塾費と校外活動費支出は,1994年以降,高等学校のその他の学校外活動費を除けば,ほぼ横ばいで推移しており,大きな変化は認められない14.この期間に,物価の大きな変動は認められないので,金額の推移は学習塾などに通う時間の推移を示していると考えてよいであろう.したがって,塾などの時間は減少しておらず,2006年の社会生活基本調査の匿名データで示された効果は,あまり変化していないと理解してよいであろう15

5. まとめ

以上,社会生活基本調査の匿名データを使用して,従来は共食・孤食という二値的に考えられてきた小中高校生の夕食のとり方を,5つに分類して集計した.夕食を成人世帯員と一緒に食事するという狭義の共食比率は5~7割だが,家族団らんや食事マナーの教育という点では同等の機能を持つ可能性がある「成人世帯員が側に」いて夕食をとっているものが1~2割存在していた.

まず,世帯類型別にみた場合,母子世帯では孤食する中高学生が他の類型と比較して多いことが指摘され,昨今の母子世帯の増加と二世代・三世代世帯の減少から類推すれば,孤食している中高校生が増大しつつあると考えられた.

次に,小中高校生の大部分を占めている両親がいる世帯の子どもに対象を限定して,多項ロジット・モデルの推定と,それを使用した効果量の検討を行った.その結果,成人世帯員と夕食を共にしない主たる要因は,父親・母親の仕事時間(長時間労働)や成人の世帯員数の減少(核家族化)ではなく,子どもたち自身の塾や習い事通いであることがわかった.塾や習い事通いは狭義の共食を減少させるものの,さほど孤食化をもたらさずに,家族団らんの一形態かもしれない家族が側にいる食事や,友人たちとの食事を増加させていた.

以上のように,両親がいる子どもを対象とした分析からは,父親の長時間労働が常態化している現代では,父親の仕事時間の長短は子どもたちとの共食に大きくは影響を与えていなかった.さらに,母親の仕事時間は,中高校生に対しては狭義の共食比率を減少させ,一人で食べたり未成年世帯員だけで夕食をとったりする可能性を高めているが,小学生に対しては狭義の共食比率をさほど低下させていなかった.小中高校生間で母親の仕事時間の長さに大きな差はなかったから,子どもが小学生の間は一緒に夕食をとることが可能なように仕事を行うなど,労働時間の配分を調整している母親像が推測される.

本稿では2006年の社会生活基本調査の匿名データを用い,他の年次については傍証となるデータを使用することによって,小中高校生の夕食のとり方とその変化を類推してきた.家族が側にいて食事をとることが家族団らんとしてどの程度評価できるのか,また友人たちとの食事がどのような社会関係をもたらしているのかの検討は,今後の課題である.また,他年次の社会生活基本調査の匿名データを用いて夕食のとり方の変化の実態を明らかにすることも,他日を期したい.

謝辞

本稿は,独立行政法人統計センターから統計法に基づいて提供を受けた「社会生活基本調査」(総務省統計局)の匿名データを使用したものである.本稿の集計・分析は,筆者が独自に作成・加工したものであり,総務省統計局が作成・公表している統計等とは異なっている.

1  孤食・共食と家族・親子関係等の関連性については,平井・岡本(2005)などでも議論が紹介されているが,本稿では扱わない.

2  正確には,20歳以上の高校生も存在しているため,本稿では20歳未満の高校生に限定した.

3  2006年調査の社会生活基本調査の概要や調査票については,総務省(2007)を参照のこと.また,使用した匿名データは,調査Aの個票を匿名化処理した後,80%でリサンプリングされたものである.

4  小中高校生の場合には少ないと考えられるが,会食や知人との飲食で食事をとった場合には,「交際・つきあい」という行動に分類されることなども,社会生活基本調査では食事行動が捕捉されない要因の一つである.

5  国民健康栄養調査では,欠食に関する調査項目で「砂糖・ミルクを加えないお茶類(日本茶・コーヒー・紅茶など),水及び錠剤・カプセル・顆粒状のビタミン・ミネラルのみをとった場合も欠食に含めます」と定義している.逆に言えば,砂糖・ミルクを加えたお茶類やジュースなどカロリーをもつ場合には飲料でも食事とみなしており,食事概念が非常に広いことも,国民健康栄養調査で「欠食率」が低くなる補助的な理由として指摘できる.

6  社会生活基本調査の食事行動がないものを分析から除外することは,多項ロジット分析においてサンプル・セレクション・バイアスを生じさせる可能性がある.しかし,食事行動が記録されない場合の実態には様々なものが考えられ,このバイアスをモデルに組み込むことには困難をともなうので,本稿では便宜上,食事行動の記録がないものを分析から除外した.

7  同様の方法によって集計を行った栗原由紀子(2010),坂田・栗原(2010)が指摘しているように,社会生活基本調査では,家族を世帯員に限定していないため,本稿で採用した区分では,実態よりも過大に狭義の共食を推計する可能性がある.たとえば,成人世帯員Aが世帯員外の家族と夕食をとっており,同時刻に,未成年世帯員B・Cが別の場所で夕食をとっていた場合である.しかし,このような事例が生じる可能性は小さいとみなした.

8  本研究で使用した匿名データについて,「ふだんの1週間の就業時間」が「不詳」「きまっていない」を除いて,各選択肢の上限・下限の平均値を階級値(60時間以上は70時間とした)として,本稿が対象とした小中高校生の父母の「仕事の時間」と「ふだんの1週間の就業時間」の相関係数を求めたところ,父親は0.25,母親は0.53であった.

9  社会生活基本調査は標本調査であるために,サンプル・サイズが小さいと,推定の精度は低くなる.たとえば,父子世帯の小学生のうち一人で食事をしているものが点推定では16.4%であるが,信頼係数95%で区間推定を行った場合,下限が2.4%,上限が61.0%と大きな幅を持っている.一方,母子世帯の小学生のうち一人で食事をしているものは,点推定結果は0.5%であるが,信頼係数95%で区間推定を行うと,下限が0.1%,上限が1.7%であった.すなわち,ある程度以上のサンプル・サイズが確保されている二世代,三世代,母子,その他の世帯については,信頼性がある数値といえるが,父子世帯については参考程度にしか利用できないと理解すべきである.

10  食事のとり方や就業状態のように,日々変化する可能性があることがらを調査する場合には,ユージュアル方式とアクチュアル方式があるが,一般に共食・孤食に関する調査は文部科学省(2008)日本スポーツ振興センター(2009)のようにユージュアル方式が採用されている.この「ふだん」や「いつも」の状況を尋ねるユージュアル方式は,山口他(2014)が指摘しているように,偶発的な変動には強いが回答者の主観に回答が左右され,厳密に定義されないという欠点を持つ.なお,社会生活基本調査では短時間の食事が記録されないということも,共食率の低さをもたらしているかもしれない.

11  母子世帯や父子世帯には,父親の仕事時間あるいは母親の仕事時間が存在しないために,本稿の多項ロジット・モデルを推計することができない.また,平日のサンプルの大きさは,母子世帯の小中高校生が各200人程度,父子世帯の小中高校生が各20人程度であり,母子世帯・父子世帯の小中高校生を対象とした多項ロジット・モデルの推計は安定的な結果が得られない.なお,紙幅上詳細な記述は省略するが,両親がいる世帯では10時間以上仕事をしている母親の割合が小中高校生ともに5%程度であるのに対して,母子世帯では10時間以上の仕事を行っている母親の割合が小中高校生それぞれ約8,15,9%と高い.また,両親がいる世帯よりも母子世帯では,とくに小中学生で塾・習い事の時間が短い.これらのことが母子世帯で孤食になりがちな要因であると推測される.

12  坂田・栗原(2010)などは,小中高校生に対して説明変数が同じ影響を与えているという仮定をおいて,小中高校生全体をプーリング・データとして扱い,小中高校生を示す定数項ダミーを使用した分析を行っている.2006年の社会生活基本調査の結果によれば年齢によって食事行動者率も異なっているので小中高校生のサンプルを同一母集団として仮定できるか不確かであり,それぞれを独立して分析対象としても十分なサンプル・サイズが確保できるので,それぞれを対象として別々の多項ロジット分析を行った.なお,本稿で示したように,小中高校生それぞれに対して説明変数の与える影響は異なっていた.

13  使用した社会生活基本調査の匿名データは,層化多段抽出法によって各曜日ごとに世帯を抽出し,世帯内の世帯員は全員調査しているので,各個人のウェイトが異なる.そのため厳密には最尤法の前提になる各ケースの独立性を満たしていないので,STATAのSVY:MLOGITコマンドを用いて擬対数尤度を最大化する最尤法を採用した.また,一般にロジット・モデルで利用される尤度比検定や擬決定係数を使用せずに,F検定やWald検定を行っているのも,同様の理由による.標本調査データを使用した分析の検定等については,Lee and Forthofer(2006)Heeringa et al.(2010)を,多項ロジット分析については,Cameron and Trivedi(2010)を参照.

14  文部科学省(1996–2014)による.なお,本調査のサンプル・サイズなど詳細は公表されていない.

15  経済産業省(2015)によれば,2004年以降,学習塾の受講生数(小中高校生の区分は不明)は微増ないし横ばいで推移している.

引用文献
 
© 2016 地域農林経済学会
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