香川県では近年,農地保全や地域農業の存続を図る手段として集落営農を推進する必要性が行政機関によって唱えられている(原,2014).集落営農において米作の作業受委託が行われる場合,農業者が集落営農から得られる利益が作業委託の規模やオペレータ従事量に応じて大きく変わることが考えられる.こうした利益の差異の生じ方を農業者に説明することは,農業者が自己の立場に応じて集落営農にいかに取り組むかを考えるための重要な判断材料になり得ると思われる.しかし,これまで香川県の農業改良普及機関が集落営農の普及のために行った農業者向けの説明(香川県(2015)を参照)では,機械所有が個人所有から共同所有に移ることによって10 aあたり機械償却費が大きく削減されることを指摘することに説明の主眼が置かれ,上述のような集落営農から農業者が得られる利益の差異の生じ方に関して農業者に対し定量的情報が与えられることがなかった1.こうした説明に替わって,作業受委託を伴う集落営農から農業者が得られる利益を彼らの状況に応じて試算し,その試算結果を説明しながら彼らに集落営農の効果を検討するように促す場合,農業者は集落営農の効果をいかに認識,または,理解するようになるだろうか.集落営農の推進普及に関する研究文献2においてこの形の定量的情報が農業者にいかに受け入られるかを詳しく検討した事例は,筆者の知る限りでは存在しない.この形の定量的情報を農業者に効果的に与えるための指針がこれまでよく研究されてこなかったことが,集落営農の推進普及に制約を課すことが考えられるだろう.
本研究では,香川県の農業者が米作の作業受委託を伴う集落営農に参加することによって得られる利益を,彼らの米作付規模,オペレータ従事量に応じて試算する.そして,ワークショップでその試算結果や集落営農の設立手順等を説明しながら農業者に集落営農の効果を検討するように促すとき,彼らが集落営農のもたらす利益をいかに理解,認識するかについて一つの事例に基づき検討する.このワークショップの結果に関する検討から,本研究は,集落営農の推進普及の場で上記のような定量的情報を活用するための指針に関して示唆を導くように試みる.
上述の課題の検討を進めるためのワークショップを香川県三木町田中地区で実施した.同地区は高松市近郊にある平地農村で,集落営農はこれまで行われていない.同地区では水田圃場整備がほとんど実施されず,農地流動化と土地利用型農業での担い手育成はこれまで進んでいなかった.現在,同地区では圃場整備事業計画が作成されつつあり,圃場整備後の水田で集落営農を展開する可能性が三木町役場によって検討され始めている3.筆者は,2015年2月12日に田中北部圃場整備推進会議(同地区の圃場整備事業計画を検討する地権者団体)に属する19名に以下の形のワークショップに参加してもらった.このワークショップの場で筆者は参加者に対し,集落営農の設立効果に関する試算内容を約1時間かけて説明し,それから15分間程度かけて集落営農の設立手順などを説明した(説明内容は次節で述べる).この後,参加者が集落営農に関する考えを一時間程度議論し,最後に筆者が集落営農に関する考えを問うアンケート調査を参加者に対して行った.
参加者の平均年齢は66.4歳で,その平均経営農地面積は67 a(最大は240 a)だった.彼らの経営タイプの内訳では,稲作単一経営を行う人が10名,米麦型の転作複合経営を行う人が2名,稲作と野菜作の複合経営を行う人が4名,土地持ち非農家の人が3名みられた.ワークショップが平日午後2時から開かれたこともあり,参加者に占める基幹的農業従事者の割合は比較的高くなった(19名のうち7名).
本研究では,田中地区の水田作経営の作目が米麦に集中する傾向があることから,集落営農の設立の効果に関する試算では,水田での米麦作に専ら関わる集落営農が設立される場合について想定する方針を採った.試算では,集落営農を進める組織(以下,営農組織と呼ぶ)が水田10 haで集落営農を進め,うち7 haでは営農組織に参加する農業者が個別に米を作付し,その機械作業全体(基肥,耕起整地,田植,防除,刈取脱穀の全て)が営農組織に委託されること,残りの3 haは営農組織によって借り受けされ小麦が作付されることを仮定した.香川県(2015)のモデルに従って,営農組織は,6条施肥機付き田植機(200万円),40馬力トラクター(400万円),3条グレン付きコンバイン(550万円),代掻きハロー(45万円),堆肥散布機(50万円),動力噴霧機(40万円),麦播種機(20万円)を購入すると仮定した.これらの耐用年数は8年であって,麦播種機以外は米麦作で共用されることも仮定した4.
(2) 米作の機械利用に要する物財費と作業時間試算では農業者が個別に農業機械を保有し米作を行う場合をベンチマークとして考え,その場合に農業者の機械利用に要する物財費と作業時間の組み合わせが,上述の形で集落営農の作業受委託が行われる場合にいかに替わり得るかを検討した.
ベンチマークの場合の試算方針を述べる.香川県(2015)のモデルに沿って,試算では,ベンチマークの場合に個別に米作を行う農業者は20馬力程度のトラクター,4条田植機,2条刈コンバイン,防除機を総額500万円で購入して用いることを仮定した.また,これらの機械の耐用年数が10~15年だと仮定し5,定額法よりその償却費を年33.3~50万円と評価した.農林水産省(2012~2014)によると,四国地方の米作では,機械修繕・購入補充費と光熱・動力費の和の2010~12年における平均が,50 a未満の作付規模では10.8千円/10 aで,50~100 aの作付規模では12.2千円/10 aだった.ベンチマークで農業者が負担する米作の機械修繕・購入補充費と光熱・動力費は,規模毎にこれらと作付面積を掛け合わせて得られる値から算出した.この額と上述の償却費との和がベンチマークでの農業者の機械利用に関わる物財費を成すと想定した.農林水産省(2012~2014)によると,香川県の米作における基肥,耕起整地,田植,防除,刈取脱穀への投下労働時間は,2010~12年の平均で18.1時間/10 aだった.試算ではベンチマークでの米作の機械作業時間はこの値と作付面積の積によって求められると想定した.以上の想定に基づき,ベンチマークで農業者の米作機械利用に要する物財費と作業時間の組合せが,米作付規模に応じて表1の上半部のように算出された.
| 農業者の米作付規模 | 25 a | 50 a | 75 a | 100 a | ||
|---|---|---|---|---|---|---|
| ベンチマークの場合1) | 機械利用に要する物財費(万円) | 36.0~52.7 | 38.7~55.4 | 42.5~59.2 | 45.5~62.2 | |
| 機械作業時間(時間) | 45.3 | 90.5 | 135.8 | 181.0 | ||
| 集落営農に参加する場合の 正味の金銭負担額(万円) |
オペレータ従事なし | 13.5 | 26.9 | 40.4 | 53.9 | |
| オペレータ100時間従事 | 0.5 | 13.9 | 27.4 | 40.9 | ||
| オペレータ200時間従事 | −12.5 | 0.9 | 14.4 | 27.9 | ||
| オペレータ300時間従事 | −25.5 | −12.1 | 1.4 | 14.9 | ||
出所:筆者作成.
1)ベンチマークの場合に関する説明は,本文中を参照のこと.
次に,集落営農が行われる場合の作業受託費の試算について述べる.(1)で述べた機械装備を営農組織が有する場合の作業受託に要する機械償却費は,定額法より水田10 aあたり17.4千円と算出された.農林水産省(2012~2014)によると,四国地方の米作における機械修繕・購入補充費と光熱動力費の和の2010~12年における平均は,3 ha以上の作付規模で13.0千円/10 aだった.試算の営農組織が作業受託する際,これと同額の10 aあたり機械修繕・購入補充費と光熱動力費がかかることを想定した.このほか,試算の営農組織が基肥,耕起整地,田植,防除,刈取脱穀の作業受託を行うにあたって,前掲の香川県の平均投下労働時間(18.1時間/10 a)と同じ労働時間が必要になることを想定した.さらに営農組織のオペレータ時給が1,300円であることを仮定して,営農組織がこれらの作業受託を行うために要する労働費を23.5千円/10 aと見積もった.営農組織の10 aあたり作業受託費は,以上の費用項目を足した額,すなわち,53.9千円と試算された.
集落営農への参加者に課される10 aあたり作業料金は,この10 aあたり作業受託費と同額に定められ,参加者はこの単価に作付面積を乗じた額を作業料金として支払うことを想定した.以上のようにして求めた参加者の作業料金支払額から,参加者がオペレータとして働いて得る労働報酬を除いた額は,彼らにとって米作機械利用に関わる正味の金銭負担額に相当する.この額が参加者の米作付規模とオペレータ従事量に応じて表1の下半部のように算出された.
以上の結果によれば,例えば25 aの米作を行う農業者の場合,ベンチマークでは機械利用に関する物財費を36.0~52.7万円負担し,機械作業を45.3時間行う.この農業者が集落営農に参加する場合,オペレータに従事しない状態で機械利用に関わる正味の金銭負担を13.5万円に抑えられるため,作業負担と金銭負担の両面で集落営農から明らかなメリットを享受できることになる.他方で,75 aの米作を行う農業者の場合,ベンチマークでは機械利用に関する物財費として42.5~59.2万円を負担し,機械作業を135.8時間行う.この農業者が集落営農に参加してオペレータに従事しない場合,機械利用に関わる正味の金銭負担は40.4万円になる.この額とベンチマークでの機械利用に関する物財費との差は2万円程度に抑えられ得るから,農業者は集落営農に移行する際に機械利用に関わる負担が軽減されることを感じにくくなることが考えられる.しかし,この農業者は,オペレータとして例えば100時間従事した状態では,機械利用に関わる正味の金銭的負担を27.4万円に抑えられている.つまり,この農業者はベンチマークに比べて36時間ほど短く機械作業に従事した状態で,機械利用に関わる金銭負担をベンチマークに比べて15~32万円程度少なく抑えられる.この場合に,作業負担と金銭負担の組合せから考えて,彼らは集落営農から明らかなメリットが得られることを実感しやすくなるだろう.
ワークショップで筆者は,ベンチマークから集落営農へ移行する際に,以上のように作付規模とオペレータ従事量に応じながら,米作機械利用に関わる作業負担と金銭負担の組合せから考えて農業者がそのメリットを感じやすくなることを説明した.
(3) 集落営農における小麦作の収益の試算(1)で述べた集落営農の営農組織による小麦作の収支について以下のような試算を行って,その結果をワークショップ参加者に対して説明した.
試算例の営農組織は水田に小麦を作付することから,経営所得安定対策の水田活用直接支払交付金(35千円/10 a)を受けられることを想定した.農林水産省(2006~2014)によると,香川県の小麦収量は2005~13年の平均で307 kg/10 aだった.試算では営農組織が小麦作でこれと同じ収量を得られること,営農組織が生産する小麦の品質は平均程度であって,経営所得安定対策のゲタ対策交付金で平均交付単価(6,320円/60 kg)が適用されることを仮定した.これより営農組織はゲタ対策交付金として10 aあたり32.3千円を交付されることになる.試算では,営農組織が小麦作に関して以上の二つ以外は政府から交付金を受けないと仮定した.農林水産省(2012~2014)によると,香川県の小麦作の10 aあたり販売収益は2010~12年の平均で25.7千円だった.試算では営農組織がこれと同じ販売収益を得ることも仮定した.
営農組織による小麦作の物財費は以下のように試算した.営農組織の小麦作の機械償却費は,(1)で述べた条件と定額法より,13.8千円/10 aと算出された.農林水産省(2012~2014)によると,香川県の小麦作における農機具償却費以外の物財費は,2010~12年の平均で27.6千円/10 aだった.試算では,営農組織の小麦作における農機具償却費以外の10 aあたり物財費がこれと同じになると想定した.そして,営農組織の小麦作の10 aあたり物財費を,これらの費用項目の和,41.4千円と見積もった.
以上より,試算の営農組織の場合,小麦作に関わる水田活用直接支払とゲタ対策の交付金と販売収益の和から物財費を除いた額が,10 aあたり51.6千円となった.これが,営農組織が小麦作に関わる労賃,地代,資本利子,利潤に分配し得る額となった.
一方で,農業者が認定農業者の資格を得ずに個別に小麦作を行う場合,水田活用の直接支払交付金を受けられるが,ゲタ対策交付金を受けられない.その農業者が上と同じ単収,品質の小麦を生産できると想定するならば,その小麦作の手取り収入は上の場合に比べて10 aあたり32.3千円少なくなる.香川県の水田作農家は水田の作付規模が1 ha前後以下であることがほとんどなので,その小麦作の10 aあたり機械償却費と物財費は一般に上の営農組織の場合の試算値を大きく上回ると考えられる.よって,以上の場合で農業者が小麦作から労賃,地代,資本利子,利潤に分配し得る額は,10 aあたりで19.3千円(=51.6千円−32.3千円)を一般に大きく下回ると予想される.試算の集落営農による小麦作と,認定農業者の資格を持たない農業者による個別の小麦作を比べると,小麦作から労賃,地代,資本利子,利潤に分配できる額は,前者では後者の3倍程度かそれ以上になると試算し得る.こうして両ケースの間では小麦作の収益性に大きな格差が生じることを,筆者はワークショップ参加者に対して説明した.
(4) その他の説明以上の試算結果に関する説明の後,森本( 2006: pp. 50–51)に従いながら集落営農の設立手順の流れをワークショップ参加者に解説した.作業受委託を伴う集落営農の立ち上げを呼びかけられた農業者は,自分がそれまで行った農業機械投資の効果が作業委託への移行によって自らで回収できなくなることを懸念して集落営農のメリットを疑問視する可能性が考えられる.しかし,上田(2013: p. 51)が示すように,集落営農が設立される際に農業者が保有機械を故障まで使い続けることが認められ,故障後に個人で機械を更新せずに集落営農の作業委託に順次移行していく体制が採られるならば,そのような懸念は該当しにくくなる.筆者は滋賀県法養寺地区等の実例に言及しながらこの点を参加者に説明した.
以上の説明の後で,参加者に集落営農に関する考えを自由に議論,発表してもらった.参加者からは,「集落営農の作業受委託はメリットがある」,「集落営農について前向きに検討したい」,「集落営農を行って米作の収支の赤字を減らしたい」,「個人で営農するときは機械経費が高くついて農業以外の所得を営農に注ぎ込んでいる状態だ.農業後継者がいないので放棄地が増えてきている.経費と後継者の問題を総合的に考えたら,集落営農で機械を共同利用し,皆で地域の農業の問題を考えて良い方向に持っていきたい」という意見が挙がった.このように参加者の一部が集落営農の効果に関する肯定的な意見と集落営農に取り組む意欲を次々述べていた.
他方で,集落営農の効果を疑問視したり,集落営農が円滑に進められるかどうかに不安を訴えたりする声も挙がった.例えば,「TPPなどで米価が下がったときでも集落営農のメリットが得られるかどうかが不安だ」,「集落営農で多少のメリットがあっても後継者確保は期待できないのではないか」,「集落営農を進めるときの営農の責任者の報酬がどこから出るのかわからない」,「農業者が農作業をしたい日は週末に集中するので集落営農で農機具の台数を少なく抑えることは難しいのではないか」,「地域全体で農業後継者が減っているので,オペレータを担当できる人を確保できるかどうか不安だ」といった声が挙がった.ワークショップ前半で筆者は,時間の制約により,集落営農での具体的な経営管理の方法,特に,作業受委託や小麦作を行うために労働力や農地や生産資材をどのように動員,利用すべきかについて明確に説明することができなかった.こうした説明がなされなかったことから,参加者は,集落営農の具体的な方法や効果に関して上記のように不安や疑問を持ちやすくなっていたことが考えられた.
(2) 集落営農がもたらす利益についての考え上の議論の後で,参加者を対象にして集落営農が自分に利益があると思うかどうかを尋ねるアンケートを行った.その結果を表2に示す.これによると,ワークショップの実施前に「集落営農は自分に利益がある」と考えていた参加者は,全体19名のうち6名存在し,ワークショップの実施後にそう考える参加者は10名に増えていた.実施前に集落営農が自分に利益があると思っていたかどうかを尋ねる問いに対して「わからない」と答えたり,無回答だったりした人が合計で10名存在した.実施後に「集落営農は自分に利益がある」と新たに考えるようになった4名は,この10名の中から現れていた.
| 実施後の考え | 合計 (実施前の考えの分) |
|||||
|---|---|---|---|---|---|---|
| 利益がある | 利益がない | わからない | 無回答 | |||
| 実施前の考え | 利益がある | 6名 | 6名 | |||
| 利益がない | 1名 | 2名 | 3名 | |||
| わからない | 3名 | 1名 | 4名 | 8名 | ||
| 無回答 | 1名 | 1名 | 2名 | |||
| 合計(実施後の考えの分) | 10名 | 3名 | 4名 | 2名 | 19名 | |
出所:筆者作成.
ワークショップに参加して有意義に感じた点を参加者に選択回答してもらったところ(ただし,複数選択可),多い順に,①「集落営農の設立手順を知ることができた」(10名),②「集落営農を進めるかどうかについて皆と意識や考えを共有できた」(8名),③「自分とは考えや立場が異なる人の意見を聞けて良かった」(8名),④「集落営農の設立に向けて皆と行動したい気持ちが今までより確かになった」(6名),⑤「集落営農でいかに農家が利益を得られるかを知ることができた」(5名),⑥「集落営農に向けて行動したい人が周りにいることを確認できた」(4名),が挙がった.実施後に新たに「集落営農が自分に利益がある」と考えるようになった4名のうち2名は共に,①~③を「有意義に感じた点」に挙げていた.前述のように参加者の議論の際に集落営農の利益を肯定的にとらえる意見や,集落営農に取り組む意欲を述べる声が次々に挙がっており,事前に集落営農の利益を感じていなかった参加者の一部は,そうした発言や周囲との議論から刺激を受けながら,集落営農の利益に対する考えを肯定的な方向に変えるに至ったことが推察された.
ワークショップ実施後に集落営農は自分に利益があると思うかを尋ねる問いに対して,「利益がない」,または「わからない」と答えるか,無回答を選ぶ人が合計で9名存在した(表2参照).この集団(事後に集落営農の利益について肯定的見解を持てなかった集団)の反応に関する結果を述べる.ワークショップに参加して有意義に感じた点を尋ねた前述の質問に対し,この集団内では①を選ぶ人が5名いたが,②,③を選ぶ人はそれぞれ,2名,3名にとどまった.事後に集落営農の利益について肯定的見解を持てなかった参加者にとって,ワークショップの場で集落営農の是非について他者と意見を交わしたり,他者から影響を受けて集落営農の効果を再考したりすることは難しくなっていたことが伺えた.
一方で,参加者全体に今回のワークショップについて不満を感じた点を選択回答してもらったところ(ただし,複数選択可),多い順に,①「農家が具体的にどうしたらいいかよくわからないままだ」(10名),②「農家間で何を話し合ったらいいのかがよくわからないままだ」(3名),③「試算は地元にあてはまらないと感じた」(3名)が挙がった.(1)で述べたように集落営農における具体的な経営管理や計画の方法を説明できなかったことが,ほぼ半数の参加者に①のような不満を抱かせることにつながったと考えられる.①の選択者の内訳を見ると,ワークショップ実施後に「集落営農が自分に利益がある」と答えた10名中では,①の選択者が3名にとどまっていたのに対して,残りの9名中ではその選択者が7名にのぼった.ここでは,特に後者の集団,つまり,事後に集落営農の利益について肯定的見解を持てなかった参加者たちが,集落営農における具体的な経営管理の仕方に関して説明不足を感じて,①のような不満を抱く傾向を強めていたことが伺えた.
本研究のワークショップの事例では,農業者の状況ごとに集落営農の効果を試算して説明し,彼らに集落営農に関する議論を促すことを通じて,一部の農業者に集落営農が利益をもたらすことを新たに認識させたり,集落営農の設立意欲を高めさせたりすることが可能になった.しかし,この事例では集落営農が自分に利益があると判断できない参加者が半数近く残され,彼らは集落営農での具体的な経営管理の方法に関する説明の不足に不満を持つ傾向を持っていたことが推察された.この結果からは,集落営農の経営管理に関する農業者の理解状況について事前に確認した上で,その理解度合いに応じながら,集落営農の経営管理の方法に関する基礎的な知識と,集落営農の効果に関する試算内容とを適当に織り交ぜて農業者に説明するほうが,彼らに集落営農の効果の理解を促す上でより効果を持っていたのではないかと考えられた.こうした説明の改善手段を探ることが集落営農の普及推進にとって必要になる.本研究の事例とは異なり,集落営農の効果について検討する時間を農業者や公的機関等の営農指導者が十分に確保することが可能だとすると,能美(1988)が示唆するように,営農指導者が農業者から聞き取りを重ねながら地域の労働力,農地等の制約条件に適合した集落営農の事業計画案を作成し,農業者が集落営農の効果を理解しやすくなるまでその修正を繰り返すことが望ましいだろう.今後,集落営農の普及推進に向けて検討すべき研究課題としては,農業者が集落営農の効果についていかに理解を深め得るのか,また,その理解の進み方に応じて集落営農の設立・運営に関する助言や指導をいかに行うのが望ましいかについて,こうした取組みや農業者の意識調査等を通じて分析を進めることが挙げられる.
本研究は香川大学農学部地域農業振興研究基金とJSPS科研費26450314の助成によって行われた.