農林業問題研究
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個別報告論文
耕作放棄地を利用した太陽光発電の発電量推計と経済性評価
―北海道の全耕作放棄地を対象とした試算―
伊藤 寛幸澤内 大輔山本 康貴
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2016 年 52 巻 2 号 p. 71-75

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1. はじめに

温室効果ガスによる地球温暖化が進展するなか,地球規模での温暖化防止が切望されている.石油などの化石燃料は,発電時に地球温暖化の原因とされる二酸化炭素などの温室効果ガスを排出するほか,その資源量は有限である.また,2011年3月11日の東日本大震災で発生した津波による福島第一原子力発電所の事故をうけ,エネルギー政策は大きな転換点を迎えた.このため,自然環境との共生・調和に貢献する社会システム構築に向け,再生可能エネルギーへの期待は益々高まっている.2012年7月に導入された「再生可能エネルギー特別措置法」の固定価格買取制度(Feed-in Tariff: FIT)により,太陽光,水力,風力,バイオマスなどの再生可能エネルギーの利用拡大への期待はさらに大きくなった.特に,他の再生可能エネルギー発電と比較して工事期間が短く,設置場所の選択肢が多いなどのメリットを有する太陽光発電への関心は,特に高い.

太陽光発電は,建物の屋根,耕作放棄地などの低・未利用地における導入可能性が見込まれている.特に,民間企業の中には,地方公共団体等と連携し,太陽光発電を耕作放棄地に導入しようとする動きも見られるようになってきた.はたして,耕作放棄地を利用した太陽光発電は,どれほどの発電量をもたらす可能性があり,太陽光発電の設備導入による便益は費用を上回る経済性を有するものだろうか.

太陽光発電ポテンシャルに関する研究には,ドーコン(2013)杉原他(2010)などがある.また,太陽光発電の経済評価研究には,竹濱(2010)Dusonchet and Telaretti(2010)Paudel and Sarper(2013)などがある.ドーコン(2013)は,一定規模以上のまとまった耕作放棄地面積を有する農業集落だけを抽出したうえで,太陽光発電設備導入を仮定した場合の発電量を推計している.杉原他(2010)は,GIS(Geographic Information System)を用いた日射量データおよび太陽光発電に対するユーザの意識調査結果から,全国各県における太陽光発電の普及率を推計している.Dusonchet and Telaretti(2010)は,EUの太陽光発電事業を対象に,正味現在価値(Net Present Value),内部収益率(Internal Rate of Return),回収期間(Pay Back Period)を推計している.Paudel and Sarper(2013)は,太陽光発電所プロジェクトへの投資および収益に基づいた経済モデルを構築して内部収益率を推計している.

以上のように,太陽光発電の発電量推計や太陽光発電導入可能性の経済評価に関する研究は存在する.しかし,耕作放棄地に太陽光発電設備を導入すると仮定して,農業集落単位レベルでの発電量推計だけに留まらず,更にこの推計発電量を用いて太陽光発電の設備導入による経済性評価までを試みた研究を見出すことはできなかった.

そこで,本稿では,北海道の全ての耕作放棄地に太陽光発電設備を導入すると仮定して,農業集落単位レベルで発電量を推計し,この推計発電量を用いて太陽光発電の設備導入による経済性評価を試みる.具体的には,以下の手順で分析する.はじめに,農業集落単位の耕作放棄地面積および日射量を推計する.推計された耕作放棄地面積および日射量を用い,北海道の耕作放棄地利用を想定した太陽光発電の利用可能量を算定する.続いて経済性評価のために,算定された太陽光発電の利用可能量とFITで設定されている調達価格から太陽光発電の便益を推定し,既存資料を用いて太陽光発電設備の費用を推計する.推計された便益および費用から,総便益および総費用を算定したうえで,費用便益比率,内部収益率,回収期間を求め,北海道の耕作放棄地利用を想定した太陽光発電導入の経済評価を試みる.

なお現実には,農地法などの法令適用を受け,直ちに全ての耕作放棄地に太陽光発電設備を導入するのは困難である.しかし本稿では,こうした法令適用の影響は無いものと仮定し,北海道の全ての耕作放棄地に対し,直ちに太陽光発電の設備導入が可能と仮定した推計を試みる.

2. 分析方法とデータ

(1) 太陽光発電の利用可能量の推計方法

太陽光発電の利用可能量は,北海道における各農業集落の耕作放棄地面積を算出し,耕作放棄地面積に日射量など諸係数を乗じて推計する1.利用可能量は,農林水産省(2009)より下式を用いる.

利用可能量(kWh/年)= H×K×P×D÷S

H:年平均日射量(kWh/m2/日)

K:損失係数(%)

P:システム容量(kW)

D:年間稼働日数(日)

S:日射強度(kW/m2

具体的には以下の手順で推計する2.はじめに,独立行政法人新エネルギー・産業技術総合開発機構(2012)の観測地点データ3より各地点の観測範囲を把握したうえで,各農業集落の年平均日射量を確定する.損失係数は,農林水産省(2009)より73%とする.システム容量は,太陽光発電設備製造販売企業の農林業従事者向けカタログ値としてカナディアンソーラー(2015)などから推計する.年間稼働日数は,独立行政法人新エネルギー・産業技術総合開発機構(2012)から得られる日射量データが年平均値で,天候や時間帯も考慮したデータであることから365日とする.日射強度は,農林水産省(2009)に従い1 kW/m2とする.

(2) 太陽光発電の利用可能量の推計データ

1) 北海道における耕作放棄地面積

本稿では,農林統計協会(2012)を利用し,農業集落単位で耕作放棄地面積を算出する.北海道の耕作放棄地全てを対象とする.各農業集落の耕作放棄地面積は,農業経営体が所有する耕作放棄地面積と土地持ち非農家が所有する耕作放棄地面積の合計値とする.以上の方法で求めた北海道における耕作放棄地面積を合計すると12,977 haとなった.なお,この耕作放棄地面積は,秘匿処理などのために,総務省統計局(2011)の市町村別耕作放棄地面積とは必ずしも一致しない(農林水産省,2010農林統計協会,2012齊藤,2013).

2) 日射量

日射量は,真南0°で年間に最大の日射量が得られる角度の年間最適斜角における日射量とし,独立行政法人新エネルギー・産業技術総合開発機構(2012)の日射量観測地点データと農林統計協会(2010)を用いて決定する.

(3) 太陽光発電導入の費用便益分析

費用便益分析は,便益と費用による投資効率性を評価する手法であり,本稿で用いる評価指標は,費用便益比率,内部収益率,回収期間とする.

費用便益比率は,割引率,評価期間,基準年度など前提条件を定めたうえで,推計から得られる便益と費用を現在価値に変換し,プロジェクトの総便益を総費用で除して導き出される.総便益の算定においては,初年度の1ヶ月を施工期間とし,初年度についてのみ,この施工期間1ヶ月分の便益を控除して総便益を算定する.便益と費用の現在価値化に用いる割引率は,公共事業評価の費用便益分析に適用されている社会的割引率の4.00%とする.上月他(2001)吉川他(2011)などにおいても本稿と同様に社会的割引率として4.00%を採用している.太陽光パネルの法定耐用年数は17年である.しかし,各メーカーが発表している太陽光パネルの寿命は概ね20年以上であり,多くの事業計画においても20年間の使用を前提としている.またFITの下では10 kW以上の出力の太陽光発電については,その電力の調達期間を20年間と定めている.そのため,本稿においても評価期間を20年と仮定する.耕作放棄地面積も評価期間(20年)中,不変と仮定する.

内部収益率は,便益の現在価値が費用の現在価値と等しくなる割引率としてもとめられる.

回収期間は,投資額の回収期間として計算される.その値があらかじめ決められている期間内であれば投資を採択する方針となる.

(4) 太陽光発電導入の経済性評価データ

1) 太陽光発電によりえられる便益

太陽光発電によりえられる便益の貨幣評価額は,2012年度より開始されたFITの2015年度調達価格29.16円/kWh(税込み)に,太陽光発電の利用可能量を乗じて求める4

2) 太陽光発電設備にかかる費用

現実に,太陽光発電設備の設置については,地域の土地条件によって地盤補強や整地に係る費用などが必要で,それら費用額も土地条件により異なる.しかし,本稿では,地域の土地条件は一定と仮定し推計する.

太陽光発電設備の建設費は,固定価格買取制度における調達価格等の検討に向けた経済産業省(2015)の「平成27年度調達価格及び調達期間に関する意見(案)」における資本費を用い,kW当たりシステム費用290.0千円,土地造成費4千円,接続費用13.5千円,合計307.5千円とする.維持管理費は,パネル表面の破損,架台の腐食,配線の損傷などの設備の保守,保全,保安などを含め多様な費目が想定される.維持管理費は,同様に,経済産業省(2015)に基づき,6千円/kW/年とする.

3. 分析結果

(1) 太陽光発電の利用可能量の推計結果

1に太陽光発電の利用可能量の推計結果を示す.北海道の全耕作放棄地を利用した太陽光発電の利用可能量は,10,342百万kWh/年と推計された.これは,2014年度における北海道合計の一般電気事業者販売電力量29,811百万kWh/年(ほくでん,2014)の約3割(34.7%)に相当する.

表1. ほくでん販売電力量に対する推定利用可能量の割合
推定利用可能量 販売電力量 割合
③=①/②
百万kWh/年 百万kWh/年
10,342 29,811 34.7

1)販売電力量は2014年度(ほくでん,2014).

(2) 費用便益分析の分析結果
表2. 費用便益分析の分析結果
総便益 4,237,432百万円
総費用 4,109,262百万円
評価指標 費用便益比率 1.03
内部収益率 4.50%
回収期間 14年

分析結果を表2に示す.総便益は4,237,432百万円,総費用は4,109,262百万円で,費用便益比率は1.03であり,太陽光発電の設備導入による便益は費用を上回る経済性を有することが示唆された.内部収益率は4.50%,回収期間は太陽光パネルの法定耐用年数(17年)以内の14年と推計された.ヨーロッパの複数国での太陽光発電事業について費用便益分析を実施したDusonchet and Telaretti(2010)では,各国における太陽光発電事業の内部収益率は1.18%から12.92%の範囲で,回収期間は8年から19年の範囲でそれぞれ推計されている.本稿の計測結果もこの範囲内に位置する結果となった.

4. おわりに

本稿では,北海道の全ての耕作放棄地に太陽光発電設備を導入すると仮定して,農業集落単位レベルで発電量を推計し,この推計発電量を用いて太陽光発電の設備導入による経済性評価を試みた.主な結果は以下の通りである.

第1に,北海道の全耕作放棄地を利用した太陽光発電の利用可能量は,2014年度における北海道合計の一般電気事業者販売電力量の34.7%と推計された.第2に,FITの2015年データを用いた費用便益分析による分析結果は,費用便益比率は1.03,内部収益率は4.50%,回収期間は14年と推計された.

以上の分析結果から,北海道の全耕作放棄地を利用した太陽光発電は,北海道合計の一般電気事業者販売電力量の3割強もの発電量をもたらす可能性があり,こうした太陽光発電設備導入による便益は費用を上回る経済性を有している可能性が示唆された.

謝辞

本稿の草稿を第65回地域農林経済学会大会(2015年11月1日,鳥取大学)で報告した際に,座長の藤栄剛先生(明治大学)をはじめ,フロアの先生方からは有益なコメントをいただいた.さらに,査読者からは論文を完成させるにあたり的確なご指摘を頂いた.いずれも深く謝意を表する.また,朝霧貴俊氏には,データの収集や解析など,本研究を遂行するにあたり,多大なご協力を頂いたことに対し謝意を表する.本稿は,JSPS科研費25660175の助成を受けた研究成果の一部である.

1  本稿では,GISを用いて地域特性を考慮して分析するなど,周辺環境や立地条件など太陽光発電設備の設置場所を勘案した費用の設定にはいたらなかった.

2  発電設備の設置場所の条件による日射強度や発電設備の種類などの条件によっても太陽光発電の利用可能量は変化すると考えられるが,本稿ではこれら条件の詳細な検討までにはいたらなかった.

3  観測地点データとは,独立行政法人新エネルギー・産業技術総合開発機構(2012)により提供されている北海道内14エリア(宗谷,上川,留萌,石狩,空知,後志,網走,根室,釧路,十勝,胆振,日高,渡島,桧山)における162箇所の気象観測地点ごとの年平均日射量である.

4  太陽光発電の利用可能量を求める耕作放棄地面積については2010年度データを用い,日射量については2012年度データを用いており,データの制約上,分析年度(2015年度)とデータの出典年次は必ずしも一致しない点に留意されたい.

引用文献
 
© 2016 地域農林経済学会
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