農林業問題研究
Online ISSN : 2185-9973
Print ISSN : 0388-8525
ISSN-L : 0388-8525
個別報告論文
数理計画モデル分析における気象リスク評価方法の拡張に関する一考察
―気象リスクを考慮した水稲乾田直播栽培の経営的評価を事例として―
孫 雯莉大石 亘ルハタイオパット プウォンケオ松下 秀介
著者情報
ジャーナル フリー HTML

2016 年 52 巻 3 号 p. 136-141

詳細

1. はじめに

国内コメ市場における米価下落の傾向が続いている.このような背景のもと,全国の水田作経営では,水稲作部門における直播栽培技術導入等による生産性向上や省力化・低コスト化,経営所得安定対策等による手厚い助成を背景とした転作田での飼料生産等,様々な対応策が取り組まれている.また,稲WCS(稲発酵粗飼料)の導入等,飼料用稲生産に関する多くの積極的な導入事例が報告されている.

このような背景のもと,本研究では,東北日本海側多雪地域における大規模水田輪作体系の実証研究に注目する.具体的には,実証経営における技術導入試験データ,水田作経営に関する各種経営指標を用いて東北地方のA県B市における大規模経営体を想定した数理計画モデルを構築する.そして,このモデルに気象リスク(降雨による機械作業リスク)を組み込み,実証経営におけるV溝乾田直播導入の効果を分析する.特に,分析手法としての気象リスク評価方法の拡張を検討する.

2. 気象リスク評価研究の動向と本研究の課題

農業経営が直面しているリスクのひとつに気象条件がある.具体的には,個々の農作業はそれぞれの作業適期における気象条件の影響を受け,時期別作業別の投入可能労働時間の年次変動は小さくない.そこで,本研究では,降雨量による作業可能時間への影響に注目し,この事象を気象リスクと定義する.

例えば,気象リスクを考慮せずに営農計画を立てた場合,現実に生じる気象条件次第では,作業の遅延・不能といった不測の事態が生じる可能性がある.このため,大規模水田作経営では,降雨条件などの気象リスクを考慮した営農計画策定とそのための手法開発が求められている.

既往の研究成果においても,気象リスクを考慮した数理計画分析を援用した水田作経営への意思決定支援に関連した研究がいくつか存在する.例えば,過去の気象条件に基づいた作業可能時間の推定と,その結果に基づいた数理計画モデルの構築とその分析を行った研究として,南石他(1996)南石・向井(1997)斎藤(1998),前川(1998),遠藤・須藤(1999)土田(2011)を指摘したい.表1では先行研究における使用したデータの特徴と気象リスクの分析ソフトを示している.

表1. 気象リスク評価研究の動向
文献 分析期間 気象データ
の種類
分析
ソフト
南石他(1996) 1991~1995 降雨データ micro-NAPS
南石・向井(1997) 1990~1992 降雨データ micro-NAPS
斎藤(1998) 1988~1997 降雨データ FAPS
前川(1998) 1987~1996 降雨データ FAPS
遠藤・須藤(1999) 1996~1998 気温と降雨
データ
FAPS
土田(2011) 1991~2000 降雨データ FAPS

資料:筆者らの整理による.

まず,南石他(1996)は,大規模水田経営における不耕起乾田直播栽培技術を評価している.具体的には,分析対象地に最も近いアメダス観測地点の1991年から1995年までの時間降水量データを用い,降雨による作業可能時間の影響を受ける作業制約を考慮し,どの降雨パターンでも作業が実施できるような計画法を提案した.南石・向井(1997)では1990~1992年3年間の降雨条件と各年次のみの降雨条件を考慮し,それぞれモデルを作成し,水田作経営の適正経営面積の推定方法を提示した.

斎藤(1998)は,1988年から1997年までの10年間の降雨状況に対応した営農計画と秋作業時多雨年の3年間を除いた降雨状況に対応した営農計画を検討して直播導入の条件を分析・検討した.

遠藤・須藤(1999)は1996,1997,1998年の各年の気象変動による水稲の生育経過の変化と作業可能時間の変化を考慮した数理計画手法を用いて,水稲直播栽培の導入可能性を分析した.

土田(2011)は1991~2000年10年間のアメダスデータをもとに,降雨による播種・収穫作業への影響を考慮した数理計画モデルを構築し,水田作経営に大麦と飼料用稲が導入される可能性を提示した.

以上の研究成果に共通していることは,気象リスク推定に使用したデータが分析対象期間に実際に生じた気象現象に基づいた情報の範囲に限定されているということである.つまり,将来の意思決定場面において,対象期間には発生しなかった気象条件を想定した営農計画策定への意思決定支援には十分に分析力を発揮できないという問題が指摘できる.

一方,前川(1998)は,過去に発生した気象条件から一般的な情報を作り出す試みを行っている.具体的には,1987~1996年の10年間の降雨データから算出した作業可能時間が正規分布に従うものと仮定し,機械毎,旬毎に作業可能時間の平均値と標準偏差を求め,一定の確率で機械作業が支障なく実施できる機械作業可能時間を推定している.また,その結果をもとに,FAPSを援用した数理計画分析を実施している.

本研究では,気象リスク評価方法の拡張を提案し,過去10年間の降雨量の影響を受ける作業可能時間の年次変動による試算結果と本手法で作り出した作業可能時間による試算結果を比較し,提案する手法の分析力を検討する.

具体的に,まず,実証経営における技術導入試験データ,水田作経営に関する各種経営指標を用いて東北地方のA県B市における大規模経営体を想定して,2005年1月1日から2014年12月31日までの過去10年間アメダスの時間降雨量データを用いて数理計画モデルを構築し,各年度における気象条件下での最適解を求める.FAPSにより推定した各年度主要な作業における旬別機械作業可能時間(表2)を基礎データとして,特定の分布を仮定しない無作為復元抽出によりサンプリングし,10万パターンの気象リスクの組合せを得る1.また,これらの組合せをそれぞれ単体表に組み込んで線形計画法(以下LPと略称する)による所得最大化の最適解を求める(以下,10万回シミュレーションと略称する).そして,単年度の気象条件下における最適解と10万回シミュレーションの結果を比較して,拡張した評価方法の分析力を検証する.すなわち,以上の手続きにより,過去に生じた気象現象に関する情報の効果的な利用可能性について検討する.

表2. 分析対象となる旬別機械作業可能時間 単位:時間/旬
機械作業 2005 2006 2007 2008 2009 2010 2011 2012 2013 2014
トラクタ50 ps:水稲播種乾田4月下旬 76.5 31.5 58.5 67.5 49.5 72.0 31.5 63.0 76.5 90.0
田植機6条:水稲田植5月中旬 96.0 86.4 67.2 86.4 81.6 81.6 86.4 96.0 96.0 96.0
田植機6条:水稲田植5月下旬 110.1 90.0 110.1 90.0 110.1 85.0 110.1 110.1 110.1 100.1
コンバイン6条:水稲収穫8月下旬 53.2 44.4 84.3 53.2 62.1 88.7 71.0 97.6 62.1 79.9
コンバイン6条:水稲収穫9月上旬 41.6 66.5 37.4 79.0 83.1 41.6 62.3 45.7 41.6 54.0
コンバイン6条:水稲収穫9月中旬 47.8 79.7 47.8 79.7 67.7 27.9 19.9 51.8 47.8 35.9
コンバイン6条:水稲収穫9月下旬 60.3 52.8 67.9 52.8 71.6 56.6 45.2 56.6 71.6 67.9
コンバイン6条:水稲収穫10月上旬 25.2 46.8 57.6 61.2 21.6 39.6 32.4 57.6 50.4 64.8
コンバイン6条:水稲収穫10月中旬 44.0 64.3 54.2 60.9 33.9 47.4 47.4 30.5 23.7 30.5
トラクタ50 ps:小麦播種9月下旬 60.3 52.8 67.9 52.8 71.6 56.6 45.2 56.6 71.6 67.9
汎用コンバイン2 m:小麦収穫7月上旬 50.1 30.1 70.2 70.2 60.2 90.2 60.2 75.2 45.1 70.2
トラクタ50 ps:大豆播種6月上旬 100.3 80.2 90.2 75.2 85.2 100.3 95.3 95.3 100.3 85.2
汎用コンバイン2 m:大豆収穫10月中旬 44.0 64.3 60.9 60.9 33.9 54.2 54.2 33.9 23.7 30.5
乗用管理機:大豆病害虫防除8月下旬 62.1 44.4 84.3 53.2 71.0 88.7 71.0 97.6 62.1 79.9
湛水条播機5条:水稲播種5月上旬 65.4 93.4 84.1 93.4 93.4 84.1 65.4 60.7 88.7 88.7
湛水条播機5条:水稲播種5月中旬 96.0 86.4 62.4 86.4 67.2 76.8 86.4 91.2 96.0 91.2

資料:筆者らの整理による.

3. 分析モデルの概要

分析モデルにおいては,経営耕地50 ha,借地可能面積10 ha,全て水田とし,地代は2万円/10 a,労働力は専従者3名,臨時雇用可能人数6名と設定した.助成金等に関する制度に関しては,平成27年度の水準に設定とした.FAPSを用いた試算モデルにおける目標に関する設定については,最低所得1,500万円(第一目標),平均所得4,000万円以上(第二目標)と設定した.また,制約条件として,転作率の下限を20%とした.他方,飼料米への手厚い補助金のためにこれへの作付が多くなりやすいと考えられたため,飼料用稲の様々な負の外部性を考慮し,飼料米の作付面積を20%以下とする制限を設けた.他方,降雨条件によって作業可能時間が制限される機械作業は,水稲では移植・播種・収穫,小麦及び大豆では播種・防除・収穫であるとした2

設定する営農プロセスは水稲移植,水稲湛水直播,小麦,大豆,稲WCS湛水直播,水稲V溝直播(飼料米)と水稲V溝直播(主食米)である(表3).

表3. 想定する営農プロセスの変動費及び収益性
作物名 品種 技術体系 移植(播
種)時期
収穫時期 収量
(kg/10 a)
単価
(円/kg)
補助金
(円/10 a)
粗収益
(万円/10 a)
第1次変動費(万円/10 a) 利益係数
(万円/10 a)
水稲 あきたこまち 移植 5月中旬 9月下旬
10月上旬
580 192 7,500 11.87 4.85 7.02
水稲 あきたこまち 湛水直播 5月上旬 10月上中旬 500 192 7,500 10.33 3.60 6.74
水稲 まっしぐら
主食米
V溝直播 4月下旬 9月下旬
10月上旬
543 130 7,500 7.81 4.13 3.68
水稲 まっしぐら
飼料米
V溝直播 4月下旬 9月下旬
10月上旬
600 30 84,160 10.22 4.15 6.07
稲WCS 夢あおば 湛水直播 5月上旬 9月上中旬 1,040 20 93,000 11.37 4.34 7.03
小麦 ネバリゴシ ドリル播き 9月下旬 7月上旬 300 17 58,214 6.33 2.96 3.37
大豆 リュウホウ 粉剤 6月中旬 10月中旬 210 113 55,824 8.45 2.63 5.81

資料:筆者らの整理による.

4. 分析結果及び考察

(1) 過去10年間の降雨実績による経営評価

FAPSを用いて計算した単年度の降雨条件による機械作業可能時間を基礎とした最適結果は表4のとおりである.水稲V溝直播(飼料米)は10年間のうち7ヶ年において導入されている.作付面積は最小1.1 ha,最大8.7 haまでである.他方,水稲V溝直播(主食米)は利益係数が低いため,どの降雨パターンにおいても導入されていない.

表4. FAPSによる計算結果の概要
降雨パターン 2005 2006 2007 2008 2009 2010 2011 2012 2013 2014
最適解 農業所得(万円) 1,116 1,639 1,671 1,722 997 1,336 1,134 1,577 1,440 1,593
年間総労働時間(h) 5,195 5,680 5,519 5,890 5,138 5,544 5,316 5,984 5,910 5,946
作付面積計(10 a) 475.6 500.0 500.0 500.0 473.2 500.0 493.7 500.0 500.0 500.0
水稲直播(湛水) 0.0 1.6 19.5 35.2 0.0 0.0 0.0 17.3 0.0 20.9
水稲移植 117.6 183.8 143.0 183.8 100.8 173.6 151.2 204.2 204.2 204.2
小麦 167.7 47.3 34.2 22.2 200.7 135.3 181.2 76.8 117.6 70.3
大豆 93.3 136.0 129.3 127.5 71.8 114.9 114.9 71.8 50.3 64.6
稲WCS 97.0 100.0 87.3 100.0 100.0 65.1 46.5 100.0 97.0 83.7
水稲V溝直播(主食米) 0.0 0.0 0.0 0.0 0.0 0.0 0.0 0.0 0.0 0.0
水稲V溝直播(飼料米) 0.0 31.3 86.9 31.3 0.0 11.2 0.0 29.9 30.9 56.3

資料:FAPSを用いて計算した.

(2) 気象リスク評価方法の拡張による経営評価

10万回シミュレーションの結果から,プロセスの作付状況をもとに13の作付パターンを得た(表5).

表5. 10万回シミュレーションLP結果の作付パターン
作付パターン 水稲湛水直播 水稲移植 小麦 大豆 稲WCS 水稲V溝直播
(主食米)
水稲V溝直播
(飼料米)
出現回数
0 1 1 1 1 0 0 36,329
1 1 1 1 1 0 1 34,234
0 1 1 1 1 0 1 17,870
1 1 1 1 0 0 1 4,185
0 1 1 1 0 0 0 3,952
0 1 1 1 0 0 1 1,767
1 1 0 1 1 0 1 1,303
1 1 1 1 1 1 1 148
0 1 1 1 1 1 1 96
0 1 0 1 1 0 1 66
1 1 1 1 0 1 1 41
0 1 1 1 0 1 1 8
1 1 0 1 1 1 1 1
出現回数 39,912 100,000 98,630 100,000 90,047 294 59,719 100,000
利益係数
(万円/10 a)
7.02 6.74 3.68 6.07 7.03 3.37 5.81

1)表中の1は選択されたこと,0は選択されなかったことを示す.

このとき,出現回数が一番多い作付パターンは①水稲移植と小麦,大豆,稲WCSの組合せであり,3.6万回を超えている.②は水稲湛水直播,水稲移植と小麦,大豆,稲WCS,水稲V溝直播(飼料米)の組合せであり,出現回数が約3.5万回である.他方,③水稲移植と小麦,大豆,稲WCS,水稲V溝直播(飼料米)の組合せの出現回数も1万回を上っている.総じて,10万回シミュレーションの結果では,慣行体系としての水稲移植,大豆,小麦と利益係数が高い稲WCSについては選択結果が安定し,10万回シミュレーションの中約9万回以上採用されている.他方,水稲V溝直播(飼料米)は手厚い補助金があるため,約6万回採用されており,相対的に積極的に作付されることがわかる.

また,単年度の気象条件の場合とは異なり,本研究でのシミュレーションでは,水稲V溝直播(主食米)が採用されるケースも存在した.しかしながら,利益係数の低位性により,その出現回数は10万回中約300回程度と限定された.

(3) 過去10年間の降雨実績による経営評価と気象リスク評価方法の拡張による経営評価の比較

10万回シミュレーションから得られた最適解の中においては,過去10年間の降雨実績による最適解とほぼ同様の結果も得られている(表6).

表6. 10万回シミュレーションに含まれる過去10年間の降雨実績による最適解
年度 最適所得(万円) 出現回数
2005 1,115.9 15
2006 1,638.5 2
2007 1,670.9 (1)
2008 1,721.9 (1)
2009 997.1 300
2010 1,336.1 26
2011 1,133.6 93
2012 1,577.4 25
2013 1,440.1 16
2014 1,592.7 (3)
最適所得の加重平均 1,099.5

1)カッコ内数値は,完全に一致しないが,類似する最適解(誤差1未満)の数を示している.

具体的に,2009年度気象条件の最適解が300回出現したが,2006年度気象条件の最適解は2回しか出現していない.加えて,2007,2008,2014年度における気象条件の最適解と完全に一致する最適解は出現しなかったが,類似する結果が存在した.

また,単年度の気象条件下における最適所得と10万回シミュレーションの最適所得の間で平均値を比較すると(表7),後者は約1,242万円であり,前者の1,422万円より小さい.10万回シミュレーションの最適所得を一様分布に当てはめて95%の信頼区間で評価した場合,456.8万円から1,748.9万円の範囲に位置づけられた.これは単年度気象条件の最適所得の最小値と最大値の範囲より大きい.

表7. 単年度の気象条件下における最適化と10万回シミュレーション結果の比較(単位:万円)
単年度の気象条件下における最適所得 10万回シミュレーション最適所得
平均値 1,422.4 平均値 1,241.7
標準偏差 353.6
最大値 997.1 平均値の
95%信頼区間
下限 456.8
最小値 1,721.9 上限 1,748.9

1)信頼区間の計算:最適所得の結果の分布が一様分布に従うと仮定し,最大値と最小値からそれぞれ2.5%の範囲を除いた.

水稲V溝直播(飼料米)が作付されるケースについては,単年度の気象条件下では7ヶ年度において作付されており,作付面積は最小値1.1 ha,最大値8.7 haであった.一方で,10万回シミュレーションの結果では,水稲V溝直播(飼料米)が約6万回作付されており,紙幅の制約により具体的な数値は省略するが,推定された作付面積は0.1 haから10 haの範囲に分布していた.

つまり,10万回シミュレーションによる最適化の作業は,単年度の気象条件下における最適化の結果よりも最適所得の範囲が広く,また,プロセス毎の選択面積の上限下限とその分布を詳細に推定可能となっている.すなわち,作付パターンの出現頻度,期待される最適所得水準の範囲の視点から,よりリスクを考慮した結果になっていることがわかる.

5. まとめ

本研究では東北地方のA県B市における大規模経営体を想定し,気象リスクを数理計画モデルに組み込み,水稲V溝乾田直播導入の可能性を分析した.方法的な面では,過去に生じた気象現象に関する情報の効果的利用可能性も検討した.

分析結果から明らかになったことは以下の2点である.

まず,10万回シミュレーションの結果から得られる最適所得の分布は,単年度の気象条件下における最適化から得られる最適所得の分布よりもばらつきをもって出現していることが確認された.つまり,本研究で取り組んだ気象リスク評価方法を拡張する試み(10万回シミュレーション)では,作物の組み合わせによる経営計画の実現可能性について,よりリスクを考慮した結果になっていることがわかる.

また,水稲乾田直播栽培の経営的評価の視点からは,10万回シミュレーションの結果から,水稲V溝直播(飼料用米)の導入による所得増大効果と労働投入の省力化効果が定量的に明らかとなった.また,慣行体系としての移植水稲,麦,大豆と補助金の高い稲WCSが積極的に選択されることが確認された.加えて,単年度の気象条件下における最適化では採用されなかった水稲V溝直播(主食米)が採用されるケースの評価も可能であった.

以上の結果,水稲V溝乾田直播導入の可能性を検討する経営的評価分析を事例とした気象リスク評価方法の拡張の提案を通じて,過去に生じた気象現象に関する情報の効果的な利用可能性の視点から,その手法の分析力が確認されたと考える.

一方で,本研究で取り扱うことができなかった課題は以下の通りである.

まず,本研究では,過去に生じた気象現象(降雨量)による作業可能時間への影響に注目して気象リスク評価方法の拡張を検討したが,例えば,気象条件の変化による利益係数の変化(反収等の変化)については考慮できていない.

次に,10万回シミュレーションにおいては,その前提となる仮定として,使用した旬別の降雨データが旬毎に相互に独立していることを採用していた.この仮定の信頼性については,さらに検討する余地が残されている.

加えて,例えば市場リスクなど,気象リスク以外のリスクも考慮する数理計画モデルの構築についても,取り組むべき重要な視点である.

以上の諸点への取り組みを,残された課題としたい.

付記

本研究は「攻めの農林水産業の実現に向けた革新的技術緊急展開事業(うち経営評価研究及びマーケティング研究)」における「土地利用型作物を対象とする革新的技術体系の経営経済的効果と地域的インパクトの解明(課題ID:14537980)」(平成26~27年度)による研究成果の一部である.

1  試算においては,10万回,50万回,100万回のランダムサンプリングを行ったが,結果のパターン数は同じであり,各パターンの出現頻度もほぼ同程度であった.そこで,本研究では10万回の結果を採用する.

2  各作業の作業係数と作業限界降水量はFAPS内の参考資料によって設定した.乾田直播播種の作業限界降水量は移植と湛水直播より厳しく設定した.作業可能時間の推定は,FAPSのシステム内で自動計算の結果を援用した.

引用文献
  •  遠藤 宏幸・ 須藤 英弥(1999)「生育予測モデルを考慮した水稲直播栽培の経営的評価」『東北農業研究』52,261–262.
  •  斎藤  隆(1998)「水稲専作個別経営体をモデルとした水稲直播栽培の技術評価―宮城県北部平担地を対象として―」『東北農試総合研究(B)』12,83–95.
  •  土田 志郎(2011)「新輪作営農システムの経営的評価(北陸における高品質大麦—飼料用イネ輪作システムの確立)」『ファーミングシステム研究』9,214–228.
  •  南石 晃明・ 長野 間宏・ 小柳 敦史(1996)「大規模水田作経営における不耕起乾田直播栽培技術の経営的評価:確率的多目的計画モデルによる分析」『1996年日本農業経済学会論文集』,23–28.
  •  南石 晃明・ 向井 俊忠(1997)「作業リスクと水田作経営の適正経営面積:作業可能時間の年次変動を考慮した数理計画モデル分析」『農業経営研究』34(4),67–77.
  •  前川 英範(1998)「大規模経営におけるスターホイルトラクタによる湛水直播栽培の経営的評価―福井県坂井平担地域を対象として―」『東北農試総合研究(B)』12,18–30.
 
© 2016 地域農林経済学会
feedback
Top