農林業問題研究
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個別報告論文
将来の人口減少が品目別食料自給率に与える影響分析
廣瀬 拓赤堀 弘和近藤 功庸澤内 大輔山本 康貴
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2016 年 52 巻 3 号 p. 148-153

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1. はじめに

今後,日本では長期的な人口減少が見込まれる.こうした長期的な人口減少が日本の食料自給率に及ぼす影響は注目される.人口変化は,短期でみると小さいため,長期でみなければ,食料自給率に及ぼす人口要因の重要性は見落とされやすい.国内需要量は,一人当たり需要量に人口を掛けたものと等しいので,国内需要量は一人当たり需要量と人口に左右される.需要要因の一つである人口の減少は,国内需要量を減少させるので,食料自給率上昇の方向へ影響を及ぼすことになる.

もし将来において,日本の食料自給率が,作付面積や単収などの農業の生産要因(主に農業政策の施策で対応すべき要因)よりも,人口や一人当たり需要量などの需要要因(主に農業政策以外の施策で対応すべき要因)により大きく影響を受ける指標ならば,食料自給率向上の政策目標を農業政策の施策だけで達成することは困難である.はたして将来において,日本の食料自給率は農業の生産要因よりも需要要因に大きく影響を受けやすい政策指標となるであろうか?

日本の食料自給率を分析した先行研究1の中で,廣瀬他(2015)は約50年(1960年から2011年まで)という長期にわたる食料自給率の過去推移において要因分解分析を実施し,「日本の食料自給率は,長期でみると,農業の生産要因よりも消費の需要要因により大きく影響を受けやすい政策指標である」という仮説支持を示唆する結果を得た.しかしながら,長期の将来において,今後見込まれる人口減少が,食料自給率にどういった影響を及ぼすかを実証的に解明した研究は見られない.

そこで本論文では,将来の人口変化が食料自給率変化に与える影響を明確に解明して行くため,「日本の食料自給率は,長期の将来でみても,農業の生産要因よりも消費の需要要因により大きく影響を受けやすい政策指標である」という作業仮説の検証を試みる.

具体的には本論文において,長期の将来を50年後と仮定した分析を試みる.為替の変動,輸入価格の変化,農家の高齢化などの食料自給率に及ぼす人口以外の多様な要因について,長期の50年後にどうなるかを精緻に見通すことは極めて困難である.こうした事情もあって,先行研究や政府による自給率の将来目標値などにおいても,50年後という長期に見込まれる日本の大幅な人口減少要因が食料自給率の上昇に影響するという重要論点が見落とされてきたと思われる.本論文は,人口以外の要因について,需要要因では一人当たり需要量は変化なし,生産要因(作付面積・頭数および単収・一頭当たり生産量)については長期の過去トレンドが50年後の将来まで推移すると大胆に単純化した仮定のシナリオで予測した結果を一例として示すことで,従来見落とされてきた人口減少が自給率の上昇に影響するという重要論点に一つの光を照らすものでもある2

2. 分析方法とデータ

(1) 食料自給率の要因分解モデル

廣瀬他(2015)の過去推移における結果と比較するため,本論文でも廣瀬他(2015)と同じモデルを用いる.この同じモデルを用い,本論文では,新たに一人当たり需要量,作付面積・頭数,単収・一頭当たり生産量の将来予測値を推計し,品目別自給率について要因分解分析を試みる.

食料自給率をsD:国内需要量,Q:国内生産量とするとs=Q/Dであり,両辺を全微分することによって,食料自給率の変化Δs

  

Δs=-QD2ΔD+1DΔQ (1)

と要因分解できる.(1)式右辺の第1項は,長期における需要量の変化量ΔDに起因する食料自給率の変化分であり,本研究ではこれを需要要因と定義する3.第2項は,長期における生産量の変化量ΔQに起因する食料自給率の変化分であり,本研究ではこれを生産要因と定義する.さらにa:人口,b:一人当たり需要量,c:作付面積・頭数,d:単収・一頭当たり生産量とすると需要量や国内生産量の変化は

   D=a×b より ΔD=aΔb+bΔa    (2)   

   Q=c×d より ΔQ=cΔd+dΔc    (3)   

と,(2)式と(3)式のように要因分解できる.ここで,(1)式に(2)式および(3)式を代入し整理すると,食料自給率の変化Δsの要因分解式(4)式を得る.

  

Δs= Q D 2 bΔa Q D 2 aΔb+ 1 D dΔc+ 1 D cΔd (4)

(4)式右辺の第1項は,長期における人口の変化量Δaに起因する食料自給率の変化分であり,本研究ではこれを人口要因と定義する.同様に,第2項を一人当たり需要量要因,第3項を作付面積・頭数要因,第4項を単収・一頭当たり生産量要因とそれぞれ定義する.なお分析結果は,期間内で1年ごとの要因分解結果を累積した値によって算出する(食品需給研究センター,2011).

以上の分析結果を用いて,本論文の作業仮説を以下の廣瀬他(2015)と同じ判断基準で検証する.すなわち,食料自給率の変化における需要要因と生産要因の絶対値の大きさを比べ,需要要因の絶対値の方が大きい品目数が多ければ「日本の食料自給率は,長期の将来でみても,農業の生産要因よりも消費の需要要因により大きく影響を受けやすい政策指標である」という作業仮説の支持を示唆する結果と考える.

(2) 分析データ

分析期間は,廣瀬他(2015)が1960年から2011年までの約50年間の過去推移を分析していることから,本論文でも2011年から2060年までの50年間とした.対象の農産物品目は,廣瀬他(2015)と同じ12品目(小麦,いも類,大豆,野菜,果実,牛肉,豚肉,鶏肉,鶏卵,乳製品,砂糖,濃厚飼料)とした.

本論文では長期的な人口変化が食料自給率に及ぼす影響に注目しているので,大胆に単純化した仮定とモデルを用いた.大胆に単純化された本論文の仮定とモデルは,価格要因や政策要因などを含む様々な仮定のもとで,より精緻なモデルを用いた予測への第1次接近と位置づけられる.具体的には,以下の方法で本論文の各予測値を求めた.

2060年における人口の将来予測については,国立社会保障・人口問題研究所(2012)から,出生中位・死亡中位推計のデータを用いた4

2060年における一人当たり需要量の将来予測については,厚生労働省(2012)国立社会保障・人口問題研究所(2012)を用いて推計した.具体的には,年齢別人口構成比は将来変化するが,年齢階級別摂取熱量は2011年のままで変化しないと仮定し,一人当たり摂取熱量の加重平均値を試算した.その結果,2011年の一人当たり平均摂取熱量は1,836 kcal,2060年は1,822 kcal(2011年比で0.99)と推計された.つまり,将来の一人当たり平均摂取熱量に対する年齢別人口構成比の影響はごくわずかと考えられる.このため全品目についても,一人当たり需要量は2011年から2060年まで変化しないと仮定した.

2060年における作付面積・頭数および単収・一頭当たり生産量の将来予測については,1985年から2011年のトレンドが2060年まで推移すると仮定し,以下の方法で算出した.まず農林水産省(2014a)農林水産省(2014b)農林水産省(2014c)から,品目別に1985年から2011年の作付面積・頭数および単収・一頭当たり生産量のデータを得た.単収・一頭あたり生産量は(生産量)÷(作付面積もしくは頭数)で算出した.次に,これら作付面積・頭数および単収・一頭当たり生産量の自然対数を被説明変数,時間を説明変数とする単回帰式を推計し,作付面積・頭数および単収・一頭当たり生産量の年平均変化率を時間変数のパラメータ推計結果として得た.これら年平均変化率が2011年から2060年まで継続するものと仮定し,2060年における作付面積・頭数ならびに単収・一頭当たり生産量を推計した.

以上の前提のもと,各品目に関する作付面積・頭数の年平均変化率をまとめたものが表1である.年平均変化率は大豆,鶏卵以外の品目で負の値である.このため2060年には現在に比べ大豆,鶏卵以外の品目で作付面積・頭数は減少すると推計された.また,各品目に関する単収・一頭当たり生産量の年平均変化率をまとめたものが表2である.大豆,野菜,果実以外の品目で年平均変化率は正の値をとっている.そのため2060年には現在に比べ大豆,野菜,果実の3品目以外で単収・一頭当たり生産量は増加すると推計された.

表1. 作付面積・頭数の年平均変化率
①1985~2011年の
年平均変化率(%)
②2060年の作付面積・頭数
/2011年の作付面積・頭数
小麦 –0.68 0.72
いも類 –2.00 *** 0.37
大豆 0.46 1.25
野菜 –0.53 *** 0.77
果実 –2.07 *** 0.36
牛肉 –1.08 *** 0.59
豚肉 –1.18 *** 0.56
鶏肉 –0.76 *** 0.69
鶏卵 0.11 1.06
乳製品 –1.27 *** 0.53
砂糖 –0.91 *** 0.64
濃厚飼料 –1.68 *** 0.44

1)農林水産省(2014a, 2014b)をもとに筆者が推計.

2)年平均変化率は,y:作付面積・頭数,t:年度とし,lny=α+βtを用い最小二乗法で推定した,βの推定値.

3)②2060年の作付面積・頭数/2011年の作付面積・頭数は,②=(1+①/100)49で算出した.

4)***は有意水準1%で有意.

表2. 単収・一頭当たり生産量の年平均変化率
①1985~2011年の
年平均変化率(%)
②2060年の単収・一頭当たり生産量/2011年の単収・一頭当たり生産量
小麦 0.30 1.16
いも類 0.15 1.08
大豆 –0.10 0.95
野菜 –0.89 *** 0.64
果実 –0.27 * 0.88
牛肉 0.47 *** 1.26
豚肉 0.18 *** 1.09
鶏肉 0.63 *** 1.36
鶏卵 0.18 *** 1.09
乳製品 1.32 *** 1.90
砂糖 1.08 *** 1.69
濃厚飼料 1.38 *** 1.96

1)農林水産省(2014a, 2014b, 2014c)をもとに筆者が推計.

2)年平均変化率は,y:単収・一頭当たり生産量,t:年度とし,lny=α+βtを用い最小二乗法で推定した,βの推定値.

3)②2060年の単収・一頭当たり生産量/2011年の単収・一頭当たり生産量は,②=(1+①/100)49で算出した.

4)***は有意水準1%で有意.*は有意水準10%で有意.

3. 分析結果

3が要因分解の結果である.まず各品目の2011年から2060年までの食料自給率の変化Δsを検討する.表の読み取り方は以下のとおりである.小麦を例に見ると,食料自給率変化Δsは,①需要要因では需要量減少による4.7ポイント増と②生産要因では生産量減少による2.2ポイント減に分解できる.さらに①需要要因は,Ⅰ人口要因では人口減少による4.7ポイント増と,Ⅱ一人当たり需要量要因では一人当たり需要量が変わらないことによる0.0ポイントに分解できる.②生産要因は,Ⅲ作付面積・頭数要因では作付面積・頭数の減少による4.0ポイント減と,Ⅳ単収・一頭当たり生産量要因では単収・一頭当たり生産量増加による1.7ポイント増に分解できる.Δsの前に○がついているものは需要要因の絶対値>生産要因の絶対値である品目で,×がついているものは需要要因の絶対値<生産要因の絶対値である品目である.

表3. 要因分解結果
A
2011年
自給率
(%)
B
2060年
自給率
(%)
Δs
=B–A
=①+②

需要要因
=Ⅰ+Ⅱ

生産要因
=Ⅲ+Ⅳ

人口
要因

一人当たり
需要量要因

作付面積・
頭数要因

単収要因
小麦 11.1 13.6 2.4 4.7 4.7 0.0 –2.2 –4.0 1.7
いも類 75.4 44.4 × –31.0 20.6 20.6 0.0 –51.6 –55.7 4.2
大豆 6.9 12.1 5.2 3.6 3.6 0.0 1.6 2.0 –0.4
野菜 79.5 58.0 × –21.5 24.5 24.5 0.0 –46.0 –17.2 –28.8
果実 37.8 17.5 × –20.3 9.0 9.0 0.0 –29.3 –26.0 –3.4
牛肉 40.4 44.0 3.6 15.8 15.8 0.0 –12.2 –21.6 9.4
豚肉 51.9 46.8 × –5.1 18.2 18.2 0.0 –23.3 –27.6 4.3
鶏肉 65.7 90.8 25.2 29.8 29.8 0.0 –4.7 –27.7 23.0
鶏卵 94.3 160.5 66.2 48.9 48.9 0.0 17.3 6.5 10.8
乳製品 64.8 96.9 32.2 30.9 30.9 0.0 1.2 –48.2 49.4
砂糖 33.4 53.3 19.9 16.7 16.7 0.0 3.2 –18.7 21.9
濃厚飼料 12.1 15.2 3.1 5.2 5.2 0.0 –2.1 –10.9 8.8

1)Δsにある○は需要要因の絶対値>生産要因の絶対値,×は需要要因の絶対値<生産要因の絶対値である品目.

2)理論的にはΔs=①+②,①=Ⅰ+Ⅱ,②=Ⅲ+Ⅳだが,離散量を使うことにより誤差が発生するため,等号は必ずしも成り立っていない.

需要要因の絶対値>生産要因の絶対値の条件を満たし,食料自給率が,農業の生産要因よりも消費の需要要因により大きく影響を受けていると判断できるものは,小麦,大豆,牛肉,鶏肉,鶏卵,乳製品,砂糖,濃厚飼料の8品目である.逆に,需要要因の絶対値<生産要因の絶対値であるものは,いも類,野菜,果実,豚肉の4品目にすぎない.すなわち,食料自給率変化は,生産要因よりも需要要因により大きく影響を受ける品目数の方が多いことが明らかになった.これは「日本の食料自給率は,長期の将来でみても,農業の生産要因よりも消費の需要要因により大きく影響を受けやすい政策指標である」という作業仮説の支持を示唆する結果と考える5

3においてΔsの値が正である品目は,将来,自給率が上昇すると予測された品目である.2011年と比べて2060年に自給率が上昇している品目は,小麦,大豆,牛肉,鶏肉,鶏卵,乳製品,砂糖,濃厚飼料の8品目である.一方,自給率が低下している品目は,いも類,野菜,果実,豚肉の4品目であり,自給率が上昇する品目数の方が低下する品目数よりも多いことが分かる.

3の需要要因と生産要因をさらに要因分解した結果を図示したものが図1から図3である(なお,本分析では一人当たり需要量要因はゼロと仮定しているため,図示を省略).これらの図は,横軸に食料自給率変化Δs,縦軸に各要因をプロットしている.人口要因や単収要因は自給率上昇に作用する一方で,作付面積・頭数要因は自給率低下に作用していることが分かる.これらの結果は,長期の将来でみると,技術進歩などによる単収・一頭当たり生産量増加による自給率の上昇要因が,耕作放棄などによる作付面積減少や頭数減少による自給率の低下要因で,打ち消されてしまう可能性を示唆している.

図1.

食料自給率変化Δsと人口要因の散布図(%)

図2.

食料自給率変化Δsと作付面積・頭数要因の散布図(%)

図3.

食料自給率変化Δsと単収・一頭当たり生産量要因の散布図(%)

4. おわりに

本論文では,将来の人口変化が食料自給率変化に与える影響を明確に解明して行くため,約50年(2011年から2060年まで)という長期にわたる食料自給率を予測して,「日本の食料自給率は,長期の将来でみても,農業の生産要因よりも消費の需要要因により大きく影響を受けやすい政策指標である」という作業仮説の検証を試みた.この仮説を検証するため,人口の将来予測については,国立社会保障・人口問題研究所(2012)の出生中位・死亡中位推計のデータを用い,人口以外の要因は,変化なし(一人当たり需要量)もしくは長期の過去トレンドが2060年まで推移すると仮定して,2011年から2060年の期間で品目別の食料自給率変動の要因分解分析を試みた.さらに需要要因は日本の総人口と一人当たり需要量,生産要因は作付面積・頭数と単収・一頭当たり生産量の要因に峻別して分析した.

主な分析結果は,次の通りである.2011年から2060年までの食料自給率変化は,長期の将来でみると,生産要因よりも需要要因により大きく影響を受ける品目数の方が多かった.これは「日本の食料自給率は,長期の将来でみても,農業の生産要因よりも消費の需要要因により大きく影響を受けやすい政策指標である」という作業仮説の支持を示唆する結果と考える.

分析結果では,2060年に自給率が上昇する品目数の方が,低下する品目数よりも多い点も示された.しかし,自給率上昇の要因は,需要要因の貢献が大きく,農業の生産要因の貢献は小さい傾向にある.今後将来に向け自給率をより大きく上昇させるには,農業技術進歩を通じた単収・一頭当たり生産量の増大に加え,耕作放棄などによる作付面積や頭数の減少傾向を緩和ないし反転させる政策的支援が,重要であることが示唆される.

謝辞

本論文の草稿を第65回地域農林経済学会大会(2015年10月31日,鳥取大学)で報告した際に,座長の竹歳一紀先生(龍谷大学)及びフロアの先生方から有益なご意見を頂いた.改稿に際しては査読者から的確なご指摘を頂いた.これらの方々に深く謝意を表する.本稿は,JSPS科研費26252036,23580308の助成を受けた研究成果の一部である.

2  50年後という長期において,人口以外の要因について,より詳しく具体的な将来予測を試みる点は,今後の課題である.

3  本研究と同様の要因分解分析を行なった小林(2000)にならい,本研究でも(1)式の右辺第1項を需要要因と解釈している.ただし同項は長期における需要量変化ΔDと–Q/D2との積であるため,Q及びDの水準も需要要因の大きさに影響を及ぼす点に注意が必要である.同様の注意点は(1)式の生産要因,(4)式の人口要因,一人当たり需要量要因,作付面積・頭数要因,単収・一頭当たり生産量要因についても指摘できる.

4  出生中位・死亡推移推計によると,2011年に1億2,775万人であった日本の人口は2060年には8,674万人に減少する.

5  2060年における将来予測については,作付面積・頭数および単収・一頭当たり生産量(y),年度(t)の片対数モデル(lny=α+βt)だけはなく,両対数モデル(lny=α+βlnt)でも分析した.両対数モデルの結果では,需要要因の絶対値>生産要因の絶対値となる品目数は,片対数モデルよりも多い全12品目となり,本論文の仮説は支持された.

引用文献
 
© 2016 地域農林経済学会
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