農林業問題研究
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個別報告論文
牛肉の購買行動における消費者意識構造の把握
―共分散構造分析を用いた解析―
長命 洋佑広岡 博之
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2016 年 52 巻 3 号 p. 160-165

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1. はじめに

わが国の食肉の供給量は,1960年には1人1年当たりわずか3.5 kgであったが,2013年はその10倍の30 kgとなった.1991年の輸入牛肉の自由化を契機に輸入牛肉の消費が増加したが,2001年にわが国で,2003年に米国でBSE(牛海綿状脳症)が発生し,わが国の牛肉消費量は大きく減退し,今もBSE発生前の水準には回復していない.

その一方で,わが国の枝肉市場における枝肉価格は,これまで主に脂肪交雑の程度によって決定され,その価格がそのまま消費者が購入する牛肉価格に反映されてきた.しかし,近年では,海外からの安価な牛肉だけでなく,テレビのグルメ番組などを通じて,様々な情報が容易に手に入るようになり,消費者にとって牛肉はより身近な食べ物となった.今後,消費者の牛肉へのニーズは,高度化かつ多様化していくとともに,購買行動においても重視する点が変化していくことが考えられる.

これまでの先行研究をみてみると,国外では消費者の食肉購買に関与する要因として,消費者の個人的な属性に関する要因,対象の食肉が持つ官能や栄養学的特質,ラベルや生産情報など外的な要因が取り上げられ(Font-i-Furnols and Guerrero, 2014),Bredahl(2003)Reicks et al.(2011)は牛肉に関してこれらの要因の効果の大きさを定量化する研究を行っている.また,わが国では,金他(2001)は,因子分析を用いて,女性消費者における牛肉購買パターンを分析し,ブランドの役割は高級品であるという1次元的な尺度から不確実性の低減など多元的な尺度へと展開していることを指摘している.新山他(2007)は,発話思考プロトコル分析を用いて,店頭での消費者の購買行動を分析した結果,牛肉は野菜や卵,牛乳に比べ提供されている情報数が多く,また探索された情報数も多いことを指摘している.Sasaki and Mitsumoto(2004)佐々木他(2006)は,一般公開のイベントに訪れた来訪者を対象に,牛肉消費に関するアンケート調査を実施し,肉質に対するニーズや購買時の着目点について検討している.しかし,これらの先行研究においては,消費者の購買意識や行動が購買価格に及ぼす影響は明らかにされていない.そこで本稿では,女性消費者を対象とした牛肉の購買と消費に関するアンケート調査の結果を用いて,牛肉の購買行動における意識構造の把握を行ったうえで,実際の購入価格との関係を明らかにすることを課題とする.

2. 用いたデータと分析方法

本稿における調査は,インターネットアンケート会社のマクロミルに依頼し,月に2,3回以上牛肉を購入している全国の女性消費者を対象に,2014年12月17日から2014年12月22日にかけてインターネットアンケートを実施した.調査対象は,表1に示す地域に居住している25歳以上64歳以下の女性消費者(各地域で同人数を抽出)1,040名を対象に調査を行った.本稿では,世帯年収に関する欠損値を除いた839名のデータを分析に用いた.

表1. 調査対象者の内訳と普段購入する牛肉の価格 単位:%,円/100 g
年齢 居住地域 普段購入する牛肉
~29歳 9.2 282.4 北海道 9.8 354.2 輸入牛肉1) 41.5 249.9
30~39歳 25.4 318.2 東北 10.3 307.3 国産牛肉 58.5 445.4
40~49歳 27.8 330.6 関東 19.4 385.1 世帯年収
50~59歳 27.1 413.3 東海・北陸 19.5 357.2 200万円未満 6.3 332.0
60歳以上 10.6 508.7 近畿 21.2 400.9 200~399万円 25.6 347.1
職業 中国・四国 8.9 339.3 400~599万円 29.4 332.9
公務員 2.0 392.1 九州・沖縄 11.0 351.9 600~799万円 18.0 387.4
会社員 19.4 387.9 結婚の有無 800~999万円 9.9 398.0
自営業など 5.0 487.4 未婚 24.8 383.6 1,000万円以上 10.7 440.8
専業主婦 42.8 368.7 既婚 75.2 357.9
パート・ 25.0 308.3 子供の有無
アルバイト 子供なし 33.5 371.2
その他・無職 5.7 372.0 子供あり 66.5 360.9

資料:アンケート調査より筆者作成.

1)輸入牛肉を購入する内訳は,アメリカ産が21.3%,オーストラリア産が78.7%となっている.

アンケートの調査項目においては,年齢や職業などの基本属性のほかに,新山他(2007)で明らかにされている店頭における表示情報を参考に「牛肉を購入する際に重視する項目」として15項目を質問し,それぞれの項目に対して「非常に重視している」から「全く重視していない」までの7段階評価を設定した.また,牛肉の購入価格に関しては,消費者が普段購入している100 g当たりの牛肉の価格帯について質問を行った.価格帯の設定に関しては,100 g当たり98円から998円までの価格帯は50円刻みで,それ以上の価格帯では100円刻みで最大2,000円以上までの選択肢を設定した.

本稿では,「牛肉を購入する際に重視する項目」に関して,新山他(2007)で指摘された消費者によって探索された情報(外観・賞味期限・国および産地・部位・カット形態・脂肪・価格など)に関する消費者の意識構造を明らかにすることを目的に探索的因子分析を行い意識構造の把握を行った.次いで,普段購入している牛肉の購入価格を被説明変数として取り上げ,「牛肉を購入する際に重視する項目」より抽出した因子を説明変数とした共分散構造分析を行い,牛肉の購入価格を規定している要因の解明を行った.最後に,年齢,職業,収入などの基本属性に関する変数をそれぞれグループに分けて,多母集団の同時解析を行い,各対象グループに同じモデルがどの程度まで仮定できるかの評価を行った.なお,分析には,SPSS22.0およびAmos22.0を用いた.

3. 分析結果および考察

(1) 回答者の基本属性と普段購入する牛肉の価格

本稿で用いた調査対象者の内訳は,表1に示す通りである.調査対象の年齢は,30~59歳までの各層の割合は25~27%前後であり,その他の階層は10%前後であった.牛肉の購入価格は,年齢層が高くなるにつれて購入価格も高くなる傾向が見られた.職業に関しては,専業主婦が多く(42.8%),次いで,パート・アルバイト(25.0%),会社員(19.4%)の順となっていた.牛肉の購入価格は,自営業などで最も高く,次いで公務員,会社員の順で高かった.

居住地域に関しては,近畿地方が最も多く(21.2%),次いで,東海・北陸地方(19.5%),関東地方(19.4%)の順で多かった.このことから,現在の人口分布と比べると北海道・東北の回答者が多く,関東の回答者が相対的に少ないことは留意すべきと考えられる.牛肉の購入価格は,近畿地方が400.9円/100 gと最も高く,次いで関東地方で高かった(385.1円/100 g).一方,最も低かったのは東北地方(307.3円/100 g)であった.結婚の有無に関しては,75.2%が既婚であり,牛肉の購入価格は未婚層で購入価格が高かった(383.6円/100 g).子供の有無では,66.5%で子供がいるとの回答となっており,購入価格に関しては,子供のいない層において高かった(371.2円/㎏).

普段購入する牛肉においては,国産牛肉を購入している消費者は58.5%,輸入牛肉を購入している消費者は41.5%であった.そのうち,アメリカ産が21.3%,オーストラリア産が78.3%となっており,今日でも多くの消費者が,アメリカ産牛肉の安全性に対して不信感を抱いていることが示唆される結果であった.購入価格に関しては,輸入牛肉が249.9円/100 g,国産牛肉が445.4円/100 gとなっていた.

世帯年収に関しては,400~600万円未満が最も多く(29.4%),次いで200~400万円未満の回答が多かった.牛肉の購入価格に関しては,200~399万円の層で高くなっているが,世帯収入が高くなるにつれて,購入価格が高くなる傾向が見られた.

(2) 回答者の牛肉購買意識

2は,調査対象者における「牛肉を購入する際に重視する項目」の平均点および標準偏差を示したものである.最も重視していたのは「価格」であり,次いで「消費期限」,「肉の色つやなどの「見た目」」,「国産・海外産などの「産地名」」,「「バラ」や「肩ロース」などの「部位」」,「加工年月日」が高い値を示しており,標準偏差も相対的に高かった.これらの項目は,新山他(2007)が指摘していたのと同様に,購入に際して重視している項目であるといえる.

表2. 牛肉を購入する際に重視する項目
平均値1) 標準偏差
価格 5.42 1.62
消費期限 5.09 1.69
肉の色やつやなどの「見た目」 4.73 1.66
国産・海外産などの「産地名」 4.66 1.72
「バラ」や「肩ロース」などの
「部位」
4.64 1.60
加工年月日 4.63 1.67
「焼肉用」や「ステーキ用」などの
「用途」
4.37 1.56
赤身部分の多さ 4.28 1.50
肉の周りの脂肪の薄さ 4.18 1.48
霜降りの度合い 4.09 1.46
販売店(または販売組織)の
「信頼度」
4.08 1.62
「松坂牛」や「神戸牛」などの
産地・銘柄の「ブランド」
3.89 1.41
牛肉の熟成の度合い 3.61 1.06
企業名・農場名などの
「生産者」の情報
3.57 1.26
牛の「個体識別番号」 3.07 1.18

資料:アンケート調査より筆者作成.

1)「非常に重視している」の7点から「全く重視していない」の1点までを割り当てた.

以上の結果より,普段消費者が購入する牛肉は,店頭において比較的短期間で判断できる情報,例えば商品ラベルに記された情報などが購買行動に寄与していることが示唆された.その一方で,金他(2001)が指摘していたブランド牛に対する評価や「企業名・農場名などの「生産者」の情報」,「牛の「個体識別番号」」は低い値となっていた.特に個体識別番号は,消費者が牛肉の購買の意思決定に利用しておらず,一般消費者への浸透度が低いことが示された.

(3) 因子分析の結果

以下では,「牛肉を購入する際に重視する項目」に関連する消費者の意識構造を明らかにする.表3は,最尤法・プロマックス回転による最終的な因子分析の結果を示したものである.分析にあたっては,固有値1以上の条件で因子を抽出した.またその際,因子負荷量が0.4に満たない項目を削除し,再度分析を繰り返した.なお,この過程において「価格」は削除されたが,このことは他の項目に対し,包括的に影響を及ぼしていたためと考えられる.

表3. 牛肉を購入する際に重視する項目に関する因子分析の結果
内因性価値 外因性価値 日付表示
赤身部分の多さ 【赤身部分】 0.885 –0.117 –0.097
肉の周りの脂肪の薄さ 【脂肪の薄さ】 0.776 –0.055 –0.046
霜降りの度合い 【霜降り】 0.622 0.118 –0.018
肉の色やつやなどの「見た目」 【見た目】 0.552 –0.018 0.137
「バラ」や「肩ロース」などの「部位」 【部位】 0.530 0.030 0.134
企業名・農場名などの「生産者」の情報 【生産者情報】 –0.058 0.750 –0.082
「松坂牛」や「神戸牛」などの産地・銘柄の「ブランド」 【ブランド牛】 0.064 0.688 –0.038
牛の「個体識別番号」 【個体識別番号】 –0.170 0.594 –0.007
販売店(または販売組織)の「信頼度」 【店の信頼度】 0.081 0.590 0.062
国産・海外産などの「産地名」 【産地名】 0.175 0.487 0.129
消費期限 【消費期限】 –0.036 –0.079 1.029
加工年月日 【加工年月日】 0.044 0.065 0.698
α係数 0.811 0.766 0.841
累積因子負荷量(%) 24.7 41.4 50.6

資料:アンケート調査より筆者作成.

分析の結果,3つの因子が抽出された.第1因子に寄与していたのは,「赤身部分」「脂肪の薄さ」「霜降り」「見た目」「部位」の5変数であった.これらは,牛肉そのものが持つ価値であるため「内因性価値」と呼ぶこととした.第2因子は,「生産者情報」「ブランド牛」「個体識別番号」「店の信頼度」「産地名」の5変数で構成されていた.これらは,外部からの情報によって決まる価値に関する変数で構成されていたため「外因性価値」と呼ぶこととした.第3因子は,「消費期限」および「加工年月日」が寄与していたため「日付表示」と呼ぶこととした.

(4) 共分散構造分析の結果

以下では,抽出された3つの因子が牛肉の購入価格に及ぼす影響を明らかにするために,共分散構造分析を用いて,その因果関係モデルの構築を試みた.

本稿では,3つの因子すべてが「購入価格」に影響を及ぼすことを仮定し分析を行った.結果は,図1に示すとおりである.モデルの当てはまりは,GFI=0.919,AGFI=0.879,RMSEA=0.085であった.牛肉の購入価格に影響を及ぼしているのは,「外因性価値」および「日付表示」の2因子であり,「外因性価値」のパス係数は正の値(0.35)を,「日付表示」は負の値(–0.12)を示していた.以上の結果より,牛肉の購入価格に関しては,牛肉そのものから得られる情報よりも外部からの情報,例えば商品のラベルなどの情報をより重視していることが示唆された.消費者は,商品ラベルに記入されているブランド牛や産地名などの情報を基に,購入するかどうかを判断しているといえる.また,「日付表示」を重視している消費者は低価格の牛肉を購入する傾向が見られた.この結果は,スーパーなどでは牛肉の消費期限が迫って来た場合,値下げ商品となる場合が多く,そのため,消費者は値下げ時期を見計らって,通常価格よりも安価で牛肉を購入していることが結果に反映したと考えられた.

図1.

消費者の購買意識が購入価格に与える影響1)

資料:アンケート調査より筆者作成.

1)誤差項は省いて作図した.

さらに本稿では,個人属性に関連する変数をグループに分けて,多母集団の同時解析を行い,グループ間のパス係数の比較を行った.分析に用いたグループの因果関係は,図1と同様であり,その結果を示したのが表4である.「普段購入する牛肉」に関して2つのグループを比較したところ,「外因性価値」および「日付表示」の2因子とも「購入価格」に対するパス係数に有意な差が見られた.普段購入する牛肉として国産牛肉を購入している場合,「外因性価値」を重視している消費者ほど,牛肉の「購入価格」が高くなる傾向がある一方で,「日付表示」を重視している消費者ほど,「購入価格」が低くなる傾向にあることが明らかとなった.また,「日付表示」において,専業主婦以外の層,子供のいる消費者,600万円未満の消費者で有意差がみられた.ただし,これらの変数において,グループ間の差を検定したところ,パス係数に有意な差は見られなかった.

表4. パス係数の推定値とグループ間の多母集団同時解析
外因性価値1) 日付表示1)
年齢 50歳未満 0.300 *** –0.119 **
50歳以上 0.318 *** –0.247 **
有意差の検定 0.225 –1.446
職業 主婦 0.318 *** –0.121
主婦以外 0.330 *** –0.148 **
有意差の検定 –0.132 –0.329
結婚の有無 未婚 0.393 *** –0.182
既婚 0.310 *** –0.125 **
有意差の検定 0.680 –0.427
子供の有無 子供なし 0.395 *** –0.050
子供あり 0.305 *** –0.180 **
有意差の検定 –1.036 –1.135
普段購入する牛肉 輸入牛肉 0.040 –0.028
国産牛肉 0.355 *** –0.174 ***
有意差の検定 3.707 *** –1.874 ***
世帯年収 600万円未満 0.281 *** –0.181 ***
600万円以上 0.408 *** –0.064
有意差の検定 1.238 1.021

資料:アンケート調査より筆者作成.

1)有意差検定の絶対値が「1.96」以上であればパス係数の差が5%水準(**)で有意,絶対値で「2.33」以上であれば1%水準(***)で有意である.

牛肉は,実際に食べてみないとおいしいかどうかわからないうえに,購入したものは一度しか消費できないものである.工業とは異なり,同じ産地や生産者,ブランド牛(品種)であっても品質が一定とは限らない.そのため消費者にとって外部からの情報が商品購入の重要な指標となっているといえる(佐々木他2006).新山他(2007)では,食品の購入時において,多くの情報を提示しても消費者は短時間で判断できず,利用されない可能性が高いことを指摘したうえで,表示の信頼性を高めることが重要であると述べている.また,消費者は健康,倫理,安全性,文化といった外面的観察だけではとらえることのできない部分に関心の重点が移ってきているため,食品の持つ情報を正確かつ効率的に消費者に伝えることが社会的な要請として顕在化してきていることを茂野(2012)は指摘している.

本稿の結果は,BSE事件や牛肉偽装表示問題などの発生により,消費者がより牛肉購入に慎重になったため,外部からの情報をより重視していることが結びついたと考えられる.TPP交渉が大筋合意に至り,今後,海外産の牛肉がより身近な存在になることも考えられるため,これまで以上に外部からの情報の信頼性が重要となってくることが示唆される.

4. おわりに

本稿では,女性消費者を対象とした牛肉購買行動に関するアンケート調査より,牛肉の購買行動における意識構造の把握を行った.分析の結果,以下の2点が明らかとなった.第一に,牛肉購入時に重視している点として3つの因子が抽出された.それらは,牛肉そのものが持つ価値に関する「内因性価値」,外部からの情報によって決まる価値を示す「外因性価値」および消費期限・加工日を示す「日付表示」に関する因子であった.第二に,牛肉購入時に重視する項目と牛肉の「購入価格」との関係を分析した結果,「購入価格」に影響を及ぼしているのは,「外因性価値」「日付表示」の2つの因子であった.「外因性価値」を重視している消費者は,商品ラベルなど外部からの情報を重視し,より高い牛肉を購入していること,また「日付表示」を重視している消費者は,消費期限が迫った割引商品を購入することで,より安く牛肉を購入していることが示唆された.

今後は,如何なる外因性価値の情報を牛肉および商品ラベルに付記していくのか,有効な情報提示に関する検討を行っていくことが重要であるといえる.また,本稿の調査対象は,月に2,3回以上牛肉を購入している女性消費者としたため,男性を対象とすることや購入回数の制限をなくした分析を行うことで,多面的な考察を行うことが可能と考える.

謝辞

本稿は,日本学術振興会科学研究費助成事業(基盤研究(C)特設分野課題番号:26520306)および伊藤記念財団研究調査助成による研究成果である.改めて感謝の意を示す.

引用文献
 
© 2016 地域農林経済学会
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