2016 年 52 巻 3 号 p. 166-171
本稿では,2006年社会生活基本調査(調査票A)の匿名データを使用して,70歳以上の高齢者について家族類型ごとに昼食や夕食のとり方の実態を明らかにするとともに,特に孤食になりがちな単身高齢者が共食している要因をロジットモデルによって明らかにすることを試み,単身高齢者が孤食を避ける方策を探ることを課題とする.
厚生労働省(2014)によれば日本人においては,「ふつう」の身体活動レベルの必要エネルギーは,70歳以上男性で2,200 kcal/日,女性で1,750 kcal/日だと推定されており,目標とするBMIは70歳以上で21.5~24.9と設定されている.ところが現実には,平均エネルギー摂取量は,70歳以上男性2,055 kcal/日,女性1,643 kcal/日に過ぎない(厚生労働省,2015).また,70歳以上ではBMI 21.5未満の者が33%と,25.0以上の26.4%よりも多くなっており(厚生労働省,2014),高齢者においては肥満よりも低栄養・低体重が問題になっている.このような高齢者の低栄養・低体重がもたらす不健康は,高齢者関係の社会保障費の増大を招くことにもなり,政策的にも重要課題の一つといえる.
以上のような低栄養・低体重の要因の一つとして,孤食が指摘されている.高知県土佐町の高齢者を対象としたKimura et al.(2012)は,単身世帯高齢者の93%,家族同居の高齢者の20%が孤食しており,孤食者は共食者に比べてBMIが低いことを指摘し,孤食が栄養不足とBMIの低下をもたらしているのではないかと推測している.また,アメリカの高齢者50名を対象としたLocher et al.(2005)によれば,孤食者は共食者に対して1~2割ほど摂取カロリーが低いことが示されている1.
つまり,単身高齢世帯の者は「孤食になりやすい.孤食になると,栄養不足や栄養バランスが崩れ,身体的,精神的にいろいろな問題が出てくる」と言われている(山中,2012)2.しかし,高齢者の孤食に関する研究は,限定された地域におけるサンプルサイズも数百程度の社会調査に基づいており,大規模な標本によって高齢者の食事のとり方とその要因を明らかにした研究は行われていない.
また,武見・足立(1997)では,単身高齢者は,別居している子どもとの距離が近かったり,友人と会ったり,趣味の集まりが多いと,共食頻度が高いことを指摘しているが,使用したデータが全国から有為抽出した102名に過ぎないため,統計学的な検討は行われていないし,別居子との距離などが共食に与える定量的な効果は示されていない.
そこで,本稿では社会生活基本調査の匿名データ(70歳以上が延べ約4.4万人・日)を用いて,世帯構成によって高齢者の共食・孤食状況の実態を明らかにするとともに,単身高齢者の共食確率に与える要因とその効果を定量的に示すことを目的とした.
本稿で使用する総務省統計局が実施した社会生活基本調査(調査票A)の特徴を述べておく(総務省,2007).社会生活基本調査(調査票A)は,調査対象となった世帯の10歳以上のすべての個人が,連続する2日間の行動を記入する.記入方式としては,15分ごとに「食事」を含む行動20種類から一つを選択して記入するプレコード方式を採用している.したがって,短時間の食事であれば,食事行動として記録されない場合がある.本稿では記録がない場合に「食事なし」として扱うが,(特に夕食の場合には)食事している可能性が高いことに注意すべきである.なお,朝食は一般的に自宅でとることが多いため,昼食と夕食のとり方に限定して検討することとした.
社会生活基本調査では,プレコード方式の行動の種類とともに,各時刻において「一緒にいた人」として,「一人で」「家族」「学校・職場の人」「その他の人」の重複回答選択肢を設けている.本稿では,この項目と食事行動のデータを組み合わせて,食事のとり方を,「不明」(「一緒にいた人」のどの項目も選択されていない場合),「ひとりで」,「家族以外の人と」,「家族が側にいて」(世帯員は食事行動をとっていない場合),「家族と」の5つに分類した.なお,食事時間が30分以上である場合には,複数の分類に該当する可能性があるため,上記分類のうち後掲の分類を優先して採用した.
社会生活基本調査の匿名データによれば,70歳以上のふだんの就業状態は,その他(無職)が43%,家事が37%で,主に仕事をしている者は12%に過ぎない.
集計・分析にはStata 14のサーベイ関連のコマンドを使用し,ウェイトとして社会生活基本調査の匿名データに含まれる集計用乗率を用いた.
20~60歳代と70歳以上の年齢階級別に,昼食と夕食のとり方の集計結果を示したものが,表1である.昼食については,20~60歳代(以下,青壮年)と比較して,食事なしの比率が低く,比較的ゆったりとした食事をとっていると推測される.また,ひとりで食事しているものは青壮年よりも多くなっている.夕食については,青壮年よりも食事なしのものが多く,青壮年よりも比較的短時間で食事をすませている者が多いと考えられる.また,家族と食事をとる者が多い一方,ひとりで食事する者も青壮年よりも多くなっている.
昼食 | 夕食 | |||||||||
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20–60歳代 | 70–74歳 | 75–79歳 | 80–84歳 | 85歳以上 | 20–60歳代 | 70–74歳 | 75–79歳 | 80–84歳 | 85歳以上 | |
食事なし | 17 | 9 | 8 | 7 | 9 | 10 | 5 | 4 | 4 | 2 |
不明 | 2 | 2 | 3 | 2 | 2 | 2 | 3 | 3 | 2 | 2 |
ひとりで | 20 | 27 | 27 | 33 | 27 | 14 | 19 | 21 | 25 | 19 |
家族以外と | 31 | 9 | 6 | 6 | 8 | 6 | 2 | 2 | 2 | 3 |
家族が側にいて | 9 | 10 | 9 | 9 | 12 | 21 | 12 | 11 | 11 | 14 |
家族と | 19 | 43 | 46 | 43 | 42 | 47 | 60 | 60 | 56 | 60 |
計 | 100 | 100 | 100 | 100 | 100 | 100 | 100 | 100 | 100 | 100 |
1)社会生活基本調査の匿名データから,集計用乗率を用いて筆者が集計した.
2)標本誤差を考慮して小数点以下は四捨五入したため,各セルを合算したものが計と一致していない場合がある.
「食事なし」と「不明」を除く70歳以上人口を100%として,家族類型別に昼食と夕食のとり方を集計したものが表2である.昼食は32%,夕食は22%が一人で食事しているが,とくに単身高齢者が昼食・夕食ともに高い比率を占めている.単身高齢者に限定すれば孤食している者の割合は,昼食と夕食それぞれ81%,85%であり,Kimura et al.(2012)の事例研究による孤食率93%よりは低いものの非常に高いことに変わりはない.
昼食 | 夕食 | |||||||
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高齢夫婦世帯 | 高齢単身世帯 | その他世帯 | 計 | 高齢夫婦世帯 | 高齢単身世帯 | その他世帯 | 計 | |
ひとりで | 5 | 14 | 12 | 32 | 2 | 15 | 5 | 22 |
家族以外と | 3 | 2 | 3 | 8 | 0 | 1 | 1 | 2 |
家族が側にいて | 4 | 1 | 5 | 11 | 5 | 2 | 6 | 12 |
家族と | 25 | 0 | 25 | 49 | 29 | 0 | 34 | 64 |
計 | 36 | 18 | 46 | 100 | 36 | 18 | 45 | 100 |
1)社会生活基本調査の匿名データから,集計用乗率を用いて筆者が集計した.
2)標本誤差を考慮して小数点以下は四捨五入したため,各セルを合算したものが計と一致していない場合がある.
3)家族類型は,匿名データの提供時に集計済みの区分を使用した.
4)食事なしと不明を除く.
以上を鑑みて,ひとりで食事をとる者の要因を検討するにあたって,以下ではその大宗を占め,山中(2012)でも問題視されていた単身高齢者に焦点を当てることとする.
単身高齢者が誰かと食事をしたり,誰かがいるところで食事をしたりする場合には,(1)世帯3を共にしていない子供などの家族と,(2)仕事や趣味などの社会活動を共にする他人と,(3)介護者と,の3つの場合が考えられる.
(1)は,同一敷地内などに子供が住んでいる場合には,多くの場合食事を共にすると考えられるし,近所に子供がいれば食事を共にする機会も増えると考えられる.(2)は,仕事をしていれば,特に昼食を共にする可能性が高くなると考えられるし,趣味などの社会活動をしていれば,それだけ友人・知人と食事を共にする機会も増加すると考えられる.(3)は,介護者によって食事を準備されたり,食事行動自体を介護されていたりしている場合である.
以下では,上記に関係する調査項目を社会生活基本調査の結果から選択して分析を行う.なお,就業者が少ない高齢者自身は曜日の影響を受けないと考えられるが,高齢者の子供は就業者が多く曜日の影響を受けると考えられるので,土日曜日を除く平日に限定して分析を行う.クロス表を作成して検討した結果,二項ロジット分析の説明変数として採用した変数の記述統計量を表3に示した4.
調査項目・選択肢 | %・平均時間 | |
---|---|---|
子ども | いない・他地域に居住 | 59% |
同一市町村に居住 | 23% | |
徒歩5分程度に居住 | 9% | |
同一敷地または同居 | 10% | |
介護 | 受けていない | 84% |
週1回未満 | 1% | |
週1回 | 5% | |
週2~3回 | 6% | |
週4回以上 | 4% | |
仕事時間(時間/日) | 0.51時間 | |
社会活動時間(時間/日) | 1.08時間 | |
性別(男性の割合) | 43% |
1)社会生活基本調査匿名データから筆者が集計した.
2)社会活動時間は,調査日当日における趣味・娯楽,スポーツ,ボランティア,交際・付き合いの時間の合計である.
二項ロジット分析は,
で定義される.本稿の場合,共食していればy=1,孤食ならばy=0であり,xiは表4の表側で示したダミー変数,あるいは仕事時間や社会活動時間の連続変数である.なお,通常の二項ロジット分析では線形関数
調査項目・選択肢 | 昼食 | 夕食 | |||||
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係数 | 標準誤差 | 係数 | 標準誤差 | ||||
子ども | 同一市町村に居住 | 0.345 | 0.180 | 0.028 | 0.242 | ||
徒歩5分程度に居住 | 0.257 | 0.260 | 1.187 | ** | 0.298 | ||
同一敷地または同居 | 1.226 | ** | 0.226 | 2.144 | ** | 0.254 | |
介護 | 週1回未満 | 0.055 | 0.582 | –0.321 | 0.629 | ||
週1回 | 0.332 | 0.345 | 0.016 | 0.416 | |||
週2~3回 | 0.549 | 0.324 | 0.157 | 0.338 | |||
週4回以上 | 1.800 | ** | 0.304 | 1.792 | ** | 0.287 | |
仕事時間(時間/日) | 0.219 | ** | 0.339 | 0.036 | 0.055 | ||
社会活動時間(時間/日) | 0.244 | ** | 0.048 | 0.183 | * | 0.075 | |
性別 | –0.002 | 0.090 | 0.090 | 0.130 | |||
定数項 | –2.228 | ** | 0.158 | –2.506 | 0.217 |
1)社会生活基本調査匿名データから集計用乗率を使用して推計.使用したサンプルサイズは4,191延べ人・日.
2)子どもは,いない・他地域に居住を,介護は,受けていないをベースとして推定した.
3)t検定の結果,**は1%有意を,*は5%有意であることを示している.また,F検定によって定数項以外がすべて0であること,およびWald検定によって一つの調査項目の選択肢がすべて0であることは,1%有意水準で棄却されている.
共食を被説明変数として,昼食と夕食についてロジット分析を行った結果が,表4である.子どもの居住地については,昼食・夕食共に同一敷地または同居であれば共食する可能性が高まっており,夕食では徒歩5分程度に居住していても共食の確率が高くなっている.夕食でのみ徒歩5分程度が有意になっているのは,子どもが日中は就業しているため,昼食時の共食が不可能な状況を推測させる.介護は,週4回以上では有意であった.仕事時間や社会活動時間は,長くなるほど共食の可能性が高くなっている.また,性別は共食に影響を与えていない.
係数だけでは,それぞれの効果量が不明確なので,着目する変数以外は平均値を使用し,着目する変数の値を変化させてそれぞれの場合の共食確率を求め,着目した変数の効果を確認する.なお,ダミー変数に着目する場合には,当該ダミー以外は0,当該ダミーを1とする(すべての変数に平均値を入れた場合,昼食の共食確率は17%,夕食の共食確率は12%である).
昼食では,子どもが同一敷地あるいは同居している場合には36%になる.夕食では,子どもの居住地が徒歩5分程度では25%,同一敷地あるいは同居の場合には47%になる.すなわち,同居していれば共食確率が高まることはいうまでもないが,老親世帯・子ども世帯の別居の適切な距離を意味する「スープの冷めない距離」(徒歩5分程度)以内にいることが,日常的な夕食の共食確率を約2倍以上に高めている.介護を受ける頻度による共食確率の変化は,昼食では週4回以上では53%に,夕食でも週4回以上では44%に上昇する.すなわち,週の半数以上介護を受けるような状況になれば,誰かが側にいて食事をとるようにならざるを得ないことを示している.
仕事時間と社会活動時間の効果を図1に示した.仕事が0時間の場合に16%程度の共食確率は,4.5時間になれば33%に上昇している.しかし,パーセンタイル値を見ればわかるように,70歳以上の高齢者は88%が仕事0時間であり,仕事時間の増大による共食確率の上昇している者の数はごくわずかである.一方,社会活動が0時間(66パーセンタイル値)である場合の共食確率は昼食13%,夕食10%であるのに対して,1.75時間(80パーセンタイル値)では昼食18%,夕食13%,4時間(95パーセンタイル値)ではそれぞれ28%,19%に上昇している.つまり,社会活動を行うことによって,共食確率が約2倍に高まっている単身高齢者が数多く存在することがわかる.
仕事時間と社会活動時間の共食効果
1)パーセンタイルは,仕事時間と社会活動時間のパーセンタイル値.
2)有意でない夕食の仕事時間は表示していない.
社会生活基本調査の匿名データを集計することによって,70歳以上高齢者の昼食や夕食の孤食・共食状況を明らかとし,さらに,共食の要因とその効果量を二項ロジット分析によって明らかにしてきた.
70歳以上高齢者全体では,昼食で32%,夕食で22%が一人で食事しており,とくに単身世帯の高齢者は昼食と夕食でそれぞれ81%,85%と高い孤食率を示していた.そこで,孤食化しやすい単身高齢者を対象として,共食している要因を二項ロジット分析によって確認し,各要因が共食確率をどの程度高めるかを定量的に示した.その結果,介護を週4日以上受けていたり,子どもが同居・同一敷地内,あるいは徒歩5分程度の場所に住んでいたりすれば,共食確率が2倍以上に高まること,仕事を4.5時間あるいは社会活動を4時間程度行えば共食確率が約2倍に高まることが明らかとなった.介護や子どもの居住地および仕事時間は,高齢者自身で選択することは容易ではない.しかし,趣味・娯楽,スポーツ,ボランティア,交際・付き合いという社会活動を進んで行うことは可能であろう.そのことによって,高齢者の健康を維持する一助とすることは可能ではないだろうか.
なお,外食可能な店舗が近隣に存在するかどうかや都市・農村地域の相違なども食事の取り方に影響を与えると考えられるが,社会生活基本調査の匿名データという制約から,地理的な条件が食事の取り方に与える影響については触れることができなかった.この点に関する実態調査などは今後の課題としたい.
本稿は,独立行政法人統計センターから統計法に基づいて提供を受けた「社会生活基本調査」(総務省統計局)の匿名データを使用したものである.本稿の集計・分析は,筆者が独自に作成・加工したものであり,総務省統計局が作成・公表している統計等とは異なっている.