東日本大震災に伴う福島第一原子力発電所の事故以降,被災市町村において小水力発電を含む再生可能エネルギー全般を非常時の電力として導入する動きが広がっている(浦上,2013).また,2012年の再生可能エネルギー固定価格買取制度(以下,FITとする)の成立を背景に,行政が環境教育や地域のPRを目的として小水力発電を新設する事例(秋山,2012)や,NPO法人等の地域の組織が主体となって小水力発電を導入ないし導入を検討する事例がみられる(平野,2012;水野,2012;秋山他,2014;永田・柳井,2014).これらは非常用電源としての役割や地域社会への波及効果など,小水力発電の社会的価値に対する評価の高まりを示している.2014年に農山漁村再生可能エネルギー法が制定されたことにより,地域のための小水力発電を導入する動きは一層活発化すると考えられる.そのため,今後は導入された小水力発電を如何に維持していくかを解明することが求められている.
ところで,1950年代までの日本社会において水力発電は主要な電力供給源であった.その中で,中国地方では農協等が事業者となって多数の小水力発電を導入し,このうち半数近くを現在まで維持してきた.よって,40~60年近く稼動してきたこれら中国地方の小水力発電の実態を把握することは,小水力発電を維持していくための方策を解明する糸口となると考えられる.
以上をふまえ,本稿では,まず中国小水力発電協会に対する聞き取り調査(調査時期:2015年12月)と文献調査を通して,中国地方の小水力発電の特徴とこれまでの歩みをまとめる.次に,岡山県内の3つの小水力発電事業者(地方自治体,土地改良区,農業協同組合)に対する聞き取り調査(調査時期:2014年4~7月)より,FIT成立以降の動向を整理する.最後に,中国地方の小水力発電と近年の小水力発電導入事例との比較を通じて,小水力発電を維持していくためのマネジメントについて検討する.
なお,本稿における「小水力発電」とは,再生可能エネルギー関連法案における定義に倣い,出力1,000 kW以下の水力発電を指している.
中国地方の小水力発電は,建設時期が1950~60年代に集中しており,事業者の大半が農協であること,そして事業者を取りまとめ,電力会社との価格交渉を行う中国小水力発電協会の存在が特徴である(本田,2016).全国の小水力発電所の26%が1920年代,23%が2000年以降に建設され,事業者の49%が一般電気事業者,いわゆる電力会社であるのに対して,中国地方では55%が1950~60年代に建設され,電力会社が事業者である発電所の割合は23%に過ぎない1.また,既設の水路や堰堤ではなく,発電専用の施設を用いている点も特徴とされる(中国小水力発電協会,2012).
1950~60年代の中国地方において小水力発電が普及した背景には,1952年に制定された農山漁村電気導入促進法が存在する.同法は戦後の農村部における深刻な電力不足の解消を目的としており,低金利の融資によって農業・林業・漁業従事者の団体による小水力発電の導入を支援するものであった.しかし,中国地方では未電化地域への電力供給よりも売電収益の獲得が重要な導入理由であった(秋山,1980;日隈,2014).なぜならば,中国電力が原価主義に基づいた買取価格で発電電力を全量買取する方式を採用していたためである2.小水力発電所の建設が最も盛んであった1951~1966年頃は,出力100 kWの発電所の場合,売電単価が3円/kWhとすると,売電収入2,400千円から運営費(500千円)と減価償却(900千円)を引いた1,000千円が純利益になると言われ,1950~1970年に90施設が造られた(沖,2015).
(2) 高度経済成長期以降の経営状況の悪化しかし,高度経済成長期を経て人件費等が高騰し,小水力発電の維持管理コストが増大した一方で,低コストの大型火力発電との比較によって売電単価が抑制されたことにより,発電所の経営状況は悪化した.中国小水力発電協会に加盟する事業者の売電単価の平均は1954~1973年まで3.53円/kWhに据え置かれ,1967~1978年に事業者の損失の平均額は最も少ない1971年で263千円,最も多い1978年には1,322千円であった(秋山,1980).その後,石油危機に伴って平均売電単価は段階的に引き上げられ,1980年には6.51円/kWhとなった(秋山,1980).さらに売電単価が発電原価に基づいて算定されるようになったことで,一時は収支が改善されたものの,近年は自然災害の多発により多くの施設で修繕が必要となり,再び経営が困難となる発電所が増えた(中国小水力発電協会,2012).そのため,2000年代に入り4施設が廃止している.
2012年7月現在,中国小水力発電協会には29事業者が加盟し,53施設が稼動している.また,FITの設備認定を得ていない事業者の2015年の平均売電単価は9.28円/kWhであり,半数の事業者が赤字である.
表1の通り,2014年時点で,岡山県内では中国電力と岡山県企業局がそれぞれ18か所で水力発電所を稼働させており,この他には3つの土地改良区と2つの農業協同組合,1村役場が合計7施設を運営している.このうち4事業者(2農業協同組合,1土地改良区,1村役場)が中国小水力発電協会に加盟している3.次節より,タイプの異なる3つの事業者(西粟倉村役場,香々美川土地改良区,津山農業協同組合)のFIT前後の動向をまとめる.なお,調査対象事例の概要は表2の通りである.
| 年代 | 中国電力 | 岡山県企業局 | その他2) |
|---|---|---|---|
| 1939年以前 | 7 | 0 | 0 |
| 1940年代 | 1 | 0 | 0 |
| 1950年代 | 4 | 2 | 0 |
| 1960年代 | 5 | 2 | 4 |
| 1970年代 | 0 | 1 | 1 |
| 1980年代 | 0 | 6 | 1 |
| 1990年代 | 0 | 4 | 0 |
| 2000~2014年 | 1 | 3 | 1 |
| 合計 | 18 | 18 | 7 |
資料:聞き取り調査および岡山県企業局(2014),中国電力株式会社(2014).
1)河川水を利用した水力発電を対象としており,上水道施設への水力発電の導入事例は除く.
2)「その他」は農業協同組合,土地改良区,市町村役場を指す.
| 事業主体 | 西粟倉村役場 | 香々美川土地改良区 | 津山農業協同組合 | |
|---|---|---|---|---|
| 発電所名 | 西粟倉発電所 | 香々美発電所 | 桑谷発電所 | 西谷発電所 |
| 水系 | 吉井川 | 吉井川 | 吉井川 | 吉井川 |
| 河川名 | 吉野川 | 香々美川 | 倉見川 | 羽出西谷川 |
| 発電開始年 | 1966年 | 1970年 | 1965年 | 1967年 |
| 発電方式 | 流込み式・水路式 | 流込み式・水路式 | 流込み式・水路式 | 流込み式・水路式 |
| 水車の種類 | フランシス型 | フランシス型 | フランシス型 | フランシス型 |
| 最大出力 | 280 kW(改修後290 kW) | 540 kW | 420 kW | 480 kW |
| 最大使用水量 | 0.55 m3/s | 0.85 m3/s | 1.1 m3/s | 0.6 m3/s |
| 取水への補償 | 取水区間内の慣行水利権への補償料を支払う(対象水田:約100 ha). | 取水区間内の農地のために取水ポンプを河川に設置(対象水田:約1 ha). 漁業協同組合に補償料を支払う. |
取水区間内に井堰を持つ水利組合に対して,井堰の資材費を支払う. 漁業協同組合に補償料を支払う. |
漁業協同組合に補償料を支払う. |
| 維持管理 | 常勤1人が日常的な計測・除塵を担当. 法律上必要な資格者と年間契約を結ぶ. |
遠方監視システムを導入しており,非常勤1人が日常的な除塵を担当. 法律上必要な資格者に点検等を依頼. |
日常的な除塵や水路掃除は農協職員が実施. 法律上必要な資格者2人を臨時雇用. |
|
| 改修の経緯 | 老朽化のためFIT施行以前より改修計画を立てており,他の補助事業からFITに乗り換えた. | 老朽化のため改修を検討していたところ,中国小水力発電協会よりFITの情報提供を得て改修を決めた. | 老朽化のため廃止を検討していたところ,中国小水力発電協会よりFITの情報提供を得て採算が合うことから改修を決めた. | |
| 電力用途 | 全量売電(改修後は売電収益を再生可能エネルギー普及や林業振興の原資とする) | 全量売電(売電収益で改良区の人件費および支線・末端水利施設を維持管理する水利組合への手当を賄う) | 全量売電(売電収益の使途は特になし) | |
| 発電所に対する住民の反応 | 自治会等への説明を行っているが,住民からの反応はまだ薄い. | 発電所に対する農家の関心は低い.設置場所を知らない農家も多い. | 農協合併の結果,発電所を知らない職員や農家が大多数となった.改修計画に対する農家の反応は特にない. | |
資料:聞き取り調査.
西粟倉発電所の事業者は,導入当初は西粟倉農業協同組合であった.しかし,これは農山漁村電気導入促進法の支援を受けることを目的とした名目上のものであり,実質的な事業主体は当初より西粟倉村役場であった.そのため,発電施設の老朽化と農協合併を機に,2003年に発電所は農協から村へ譲渡された.
西粟倉発電所の設備は老朽化が進み,水圧管から水が噴出するほどであった.しかし,水圧管の改修には費用がかかる上に,発電所を一時停止しなければならないため売電収益も得られなくなることから,村は補助金を利用して改修することを検討していた.その後,当初新設の小水力発電のみが対象とされていたFITにおいて,2012年に大幅な改修を条件に既設の小水力発電も対象として認められるようになったことから,FITを利用しての改修に踏み切った.2015年にFITの設備認定を受けて,同年中に改修工事が完了した.
西粟倉発電所の2003~2006年までの年間収益は607千円~1,573千円(平均1,080千円)であったが,FITの設備認定後は収益が約4.5倍増加する見込みである.そこで,村では再生可能エネルギーの導入への助成金として,また森林の間伐や作業路開設のために売電収益を活用する計画を立てている.加えて,最大出力5.0 kWの小水力発電を新たに開発中であり,再生可能エネルギーを学べる教育観光の場として村をアピールすることにより,村の知名度の向上や訪問客の増加を図っている.さらに,発電設備の維持管理のための新規雇用も検討されており,村人口の維持につながることが期待されている.
こうした積極的な取り組みは行政主導で行われていることもあり,役場から自治会等へ説明が行われているものの,住民,特に若・壮年層からの反応は未だ薄い.しかし,新聞やテレビ等で西粟倉村の取り組みが度々紹介されてきていることから,今後,住民の認知度が向上し,何らかの反応につながることが期待されている.
(3) 香々美発電所(事業者:香々美川土地改良区)香々美川土地改良区は,売電収益を県営ダムの管理費の支払いに充てるために香々美発電所を建設した.香々美発電所は中国地方の小水力発電の中で比較的新しく,導入当時には電力不足は問題となっていなかった.導入後は,売電収益でダムの管理費や人件費を含む土地改良区の維持管理費を賄うのみならず,支線・末端の水利施設を維持管理する下部組織の水利組合に対しても維持管理費助成金を支給してきた.「もし発電所がなければ改良区は解散していたかもしれない」と改良区職員が語る通り,香々美川土地改良区では,小水力発電が土地改良区の財政安定化に大きく貢献するのみならず,農業者による支線・末端水路の維持管理に対する支援も可能としている.しかし,発電所に対する農家の関心は低く,設置場所を知らない農家も多い.
香々美発電所は老朽化が進んでおり,改良区は今後の改修の必要性を認識していた.そのため,2012年に,中国小水力発電協会の研修会で既設の発電設備も条件付きでFITの対象となるとの情報提供を受けて,改修を決断した.改修計画については,総代会等で農家に説明を行ったが,農家からの反応は特になかった.2015年に改修工事計画を立て,FITの設備認定を申請している.なお,改修前後で発電電力の用途に変更はない.
(4) 桑谷・西谷発電所(事業者:津山農業協同組合)桑谷発電所の事業者は建設当初は加茂農業協同組合,西谷発電所は奥津町農業協同組合であったが,2度の合併を経て,現在は津山農業協同組合が事業者となっている.いずれも電力供給より売電収入を農協の経営に役立てることが導入の目的であった.現在は,発電所建設から数十年が経過して当時を知る農家が減ったことや農協合併が進んだことにより,農家のみならず職員も大多数が発電所を知らない状態である.また,発電所に関する資料も一部しか残されていない.
両発電所では,発電機自体は交換していないものの,コイルや水車等の部品交換が重なり,清掃に支障をきたすほど水路が老朽化していた.また,専門技能を持つ管理者が高齢のため,維持管理の人員確保も問題となっていた.そのため,2009年には発電所の廃止が検討されていた. しかし,香々美川土地改良区と同様,中国小水力発電協会の研修会でFITに関する情報を得て,FITの設備認定が得られれば改修費用の調達と今後の採算性確保がかなうと考え,改修を決断した.改修計画については,理事会や総代会で説明が行われたが,農家からの反応は特になかった.特に発電所が立地しない地域の農家は発電所に対する関心が薄い.
桑谷発電所は2015年内,西谷発電所は2016年内に改修が完了する予定である.津山農業協同組合としては,発電事業は本業とはいい難いものの,採算が合うならば地域貢献の一環として今後も事業を継続する意向である.なお,発電電力の用途に関しては,改修前後で変更はない.
FIT成立以降の中国地方の小水力発電の共通点は次の2点にまとめられる.第一に,小水力発電は導入後40年以上が経過し発電設備が老朽化していたものの,設備の更新にかかる多額の投資が困難な状況にあった.しかし,FIT成立を契機として大幅な設備更新が行われ,将来に渡り安定した運営が続けられるようになった.このことより,中国地方の小水力発電は事業の採算性,すなわち発電事業の経済的側面によってその存続が左右されてきたことがうかがえる.このことは,近年の導入事例において小水力発電の社会的価値が重要視されている状況と対照的である.これらを合わせると,小水力発電を将来に渡り維持していくためには,小水力発電が地域社会で一定の役割を発揮しながら,事業の採算性を維持・向上させることが必要となると考えらえる.つまり,これからの小水力発電のマネジメントは,発電事業の経済的側面と社会的側面の両立が主要な目的となるといえる.調査対象事例のうち,西粟倉村は発電設備の改修以降,売電収益を地域活性化や再生可能エネルギーの普及に活用していく計画を立てていることから,採算性の維持と社会的役割の発揮の両立を試みている事例として位置づけられる.
中国地方の小水力発電に関する第二の共通点は,小水力発電に対する住民の関心の薄さである.売電収益の一部を地域住民に還元していた香々美川土地改良区も含めて,全事例において発電所の改修計画に対する住民の関心は薄く,そもそも小水力発電に対する住民の認知度自体も非常に低かった.この背景には,導入後40年以上が経過し,小水力発電の導入当時を知る住民が減少していることに加えて,発電効率の観点から設備が上流部の山中に置かれ,維持管理も少数の技術者のみで行われており,さらに発電電力が全量売電されていることから,導入後に住民が小水力発電と関わる機会が極めて限られているという状況が存在する.すなわち,発電事業の採算性を重視して設置場所や維持管理方法を決めた結果,小水力発電を長期に渡り維持できるようになった反面,地域住民と小水力発電との接点が少なくなり,住民の関心や認知度が低下してしまったと考えられる.一方で,既往の研究成果では,加工所に隣接する水路に発電設備を設置しているため,山間部に設置するよりも落差が少なく発電効率は劣るものの,従業員による維持管理が容易となっている事例が報告されている(秋山他,2014).この事例は,発電出力の制約となり,ひいては採算性の悪化につながる立地条件(落差の小さい水路)が,住民との物理的・心理的距離が近いという点で住民の関心や参加を促す際に有利な条件となる可能性を示唆しており,本稿の調査対象事例と対照的である.これらより,小水力発電事業の採算性と地域住民の関心・関与はトレードオフの関係にあると考えられる.
小水力発電事業を維持する上で採算性を維持・向上させることは不可欠である.一方で,小水力発電が地域社会において一定の社会的役割を発揮するためには,小水力発電に対する地域社会の関心や関与が欠かせない.よって,小水力発電事業の採算性と地域住民の関心・関与の間に存在するトレードオフに配慮しながら,小水力発電を管理・運営していくことが必要である.
本研究では,農業者団体(農業協同組合,土地改良区)や公的機関が40年以上運営してきた中国地方の小水力発電の近年の動向を把握すると共に,近年の小水力発電の導入・導入予定事例との比較を通して,これからの小水力発電マネジメントのあり方を検討した.
調査結果より,中国地方の小水力発電の現状は次の2点にまとめられる.第一に,FITの成立により,中国地方の小水力発電所は老朽化した設備を更新し,安定的な運営を続けられるようになった.このことから,近年,地域社会への波及効果といった小水力発電の社会的側面が重視されているのとは対照的に,中国地方の小水力発電においては採算性が重視されてきたことがうかがえる.第二に,売電収益が地域へ還元されてきた事例も存在したにもかかわらず,いずれの事例についても小水力発電に対する住民の意識は薄かった.この背景として,発電設備の設置場所や管理方法に関して事業の採算性や効率性を考慮した結果,地域住民が小水力発電と関わる機会が限られ,小水力発電に対する住民の関心が低下してしまっている状況が指摘できる.すなわち発電事業の採算性と住民の関心・関与の間にはトレードオフが存在する可能性がある.したがって,小水力発電を維持していくためには,小水力発電の社会的側面と経済的側面の両立を図るようなマネジメントが必要であり,両者のトレードオフ関係に如何に対処するかがマネジメント上の重要な課題となると考えられる.
なお,本稿の結果は,あくまでも事業者への聞き取り調査に基づくものである.そのため,経営指標を用いて発電事業の採算性に関する分析を行い,本稿の結果を検証することが必要である.今後,中国地方の小水力発電に関する実証的な知見の蓄積によって,小水力発電を持続可能なものとするための具体的なマネジメント手法が明らかになると考えられる.
本稿は山陽放送学術文化財団および生協総合研究所の助成を受けた研究成果の一部である.