2016 年 52 巻 4 号 p. 199-204
わが国における農家レストランは,1990年代初頭から,主に農村女性の活動の場として,地元の食材を用いた手頃な価格で提供し,農村の食文化の発展や所得向上に貢献してきた.近年では,農家レストランは多様な形態で拡大してきており,消費者からの多様な関心を集めている.つまり,都市農村交流型の農村ビジネスとして,重要な役割を果たしているということができる.
農家レストランに関する研究成果として,大友(2014),高野(2012),高野・池畑(2013)では宮城県の事例を考察している.高桑(2011)は農家レストランの分化が拡大してきていると述べている.さらに,農家レストラン来訪者の計量分析は浦出他(2006)がある.しかし,その研究の多くは事例分析や来訪者側の計量分析であり,経営者の意識とその要因についての統計的な検証は十分なされていない.かつて,農家レストラン経営者を対象とした大規模な調査は,都市農山漁村交流活性化機構(2001)で行われているが,高桑(2011)が指摘する分化や多様化というその後の展開を踏まえた分析は,これまで十分なされてきているとはいいがたい.
そこで本研究では,農家レストラン経営者の意識と,これまで十分考慮されていない多様化するレストラン経営という現状を明示的に考慮して,経営者の経営の満足度と経営的要因との関連性を計量的に解析して,今後の農家レストランの経営的な発展に向けた支援上の課題を展望する.
農家レストランに関する明確な定義はこれまでなされていない.このため,データのソースによる多少の数値のずれは生じうるといえる.しかし,レストランは,食事の提供という明確な指標があるため,実際の認識上では,実態との乖離は大きくはないと考える.現在,経営の分化と多様化が進展しているため,以下で述べるようにレストラン単独の経営から,他の施設とともに併設されているものも増加してきている.そこで,本稿では農家レストランを,農山漁村の地域食材を生かした料理を提供する経営活動と,規定することにする.
まず,農家レストランの実情とその動向についてみてみよう.2012年度に農林水産省実施による農村ビジネスを意味する農業生産関連事業に取り組む農業経営体及び農協等を対象に行った調査では,全国の農業生産関連事業の年間総販売金額は1兆7,451億円となっている(表1).このうち,農家レストランの年間総販売金額は,農業経営体によるもの276億円(1.6%)と農協等によるもの111億円(0.6%)を合わせて387億円と,その割合は全体のわずか2.2%に止まっており,非常に低い.したがって,この点からすれば,販売金額ベースでみる限り,現段階で農家レストランは,主要な活動となっているとはいいがたい.
区 分 | 年間総販売金額(百万円,%) | |
---|---|---|
農業経営体によるもの | 476,719 | (27.3) |
農産物の加工(農業経営体) | 293,622 | (16.8) |
農産物直売所(農業経営体) | 117,572 | (6.7) |
観光農園 | 37,932 | (2.2) |
農家レストラン等 | 27,593 | (1.6) |
農産物直売所(農協等) | 727,247 | (41.7) |
農産加工場(農協等) | 530,107 | (30.4) |
農家レストラン等(農協等) | 11,052 | (0.6) |
農業生産関連事業計 | 1,745,125 | (100) |
出所:農林水産省(2012a).
1)( )内は年間総販売金額に占める割合.
しかし,2011年の農林水産省による「農村に関する意識調査結果」によると,都市住民が農村地域で今後したい活動として,農家レストランの利用が直売所に次ぎ第2位となっている(図1).したがって,農村ビジネスにおける農家レストランの販売金額シェアでは低くても,その潜在的なニーズは高いことが見てとれる.
農村地域でしたことがある活動と今後したい活動
さらに,農業と観光の連携による取り組みとして観光農園もあるが,2005年から2010年における全国の経営体数の増加率をみると,観光農園では15.7%であるのに対して,農家レストランでは51.1%と極めて高い伸びを示している(表2).その理由は,他の交流活動に比べて,農家レストランの収益率が高いことが要因の一つと考える(表3).表3から,農家レストランでは,農産加工,直売,観光農園などの他の農村ビジネスと比べて,収入が5割以上増加の割合が23.1%と最も高い.このことから,今後も成長が見込める農村ビジネス活動として,農家レストランを分析対象とする意義が認められる.
区分 | 観光農園 | 農家レストラン | |||||
---|---|---|---|---|---|---|---|
年度 | 2005年度 | 2010年度 | 増加率 | 2005年度 | 2010年度 | 増加率 | |
全国 | 7,579 | 8,768 | 15.7 | 826 | 1,248 | 51.1 |
出所:農林水産省(2010).
事業種類 | 減った | 特に変化 なし |
1割程度 の増収 |
1~3割程度 の増収 |
3~5割程度 の増収 |
5割以上 の増収 |
無回答 | 計 |
---|---|---|---|---|---|---|---|---|
農産物加工 | 4.4 | 22.4 | 20.0 | 32.7 | 10.2 | 9.8 | 0.5 | 100.0 |
直接販売 | 5.4 | 17.7 | 23.4 | 33.9 | 12.4 | 6.5 | 0.8 | 100.0 |
観光農園 | 5.3 | 10.5 | 18.4 | 31.6 | 23.7 | 10.5 | 0 | 100.0 |
農家レストラン | 0 | 15.4 | 7.7 | 30.8 | 23.1 | 23.1 | 0 | 100.0 |
本研究で分析するデータについては,都市農山漁村交流活性化機構(一般財団法人,以下「まちむら機構」)のウェブサイトに掲載されている全国の農家レストラン事業者のうち,電子メールで連絡を取ることが可能な農家レストラン経営者270名を対象として,農家レストラン経営者の経営状況や意識に関するアンケート調査票をウェブ上で回答する形式,いわゆるウェブ・アンケートで収集した.そのうち63件の経営者から回答を得た(回答率:23.3%,調査期間:2014年12月).
なお,電子メールで連絡を取ることが可能な農家レストランは限られているため,この点で,分析対象サンプルに偏りがあることは,留意する必要がある.また,このウェブサイトで農家レストランは「地域食材を活かした料理を楽しめる農村漁村の直食施設」としているため,本研究では「レストラン単独の経営を行うタイプ(レストラン単独タイプ)」の他に,「宿泊施設の一部または宿泊施設や体験コーナー,直売所などが集積する複合施設内で経営するタイプ(複合施設タイプ)」や「道の駅の一環として経営するタイプ(道の駅タイプ)」の3つのタイプに区分した.なお,本稿の上段で述べた農家レストランの定義は,上記のまちむら機構の定義を踏まえたものであるが,まちむら機構の定義には,「直食」という一般になじみのない表現が使用されているため,本稿では先に示したようにより平易な表現を用いて定義している.
まず,回答者の属性についてみると,女性の割合が高いのではないかという当初の予想に反して,男性が4分3(74.6%)と大部分を占めている.アンケート手法によるバイアスが生じている可能性がある点は,留意する必要があると考える.経営者の年齢では50歳以上が6割(61.9%)で,うち60歳代が31.7%を占めている.学歴では,高校卒44.4%,次いで大学卒/大学院修了が39.7%と両者でほぼ2分された.
経営作目(複数回答)については,大きく3つのタイプに区分可能である.すなわち,耕種農業(76件),畜産・酪農・漁業(15件),そして経営作目なし(17件)である.耕種農業のうち,野菜(29件)が最も多く,果樹(20件),稲作(12件),畑作(11件)の順となっている.畜産・酪農・漁業は,畜産7件,酪農と漁業は各4件であった.経営作目なしの場合は,地元食材を仕入れていると考えられる.
表4でレストラン経営の実態についてまとめてみると,経営して10年以上が7割(71.4%)と大半を占めており,席数では70席未満が6割近くを占めている(58.7%).年間来客数では,3千人以上が4分の3(74.6%)であった.これは,調査票の上限値を,1日当たりおよそ100人と想定して3千人としたためで,実際の来客数はそれを上回っている場合が少なくないと思われる.
項目 | 回答数 | 構成比(%) |
---|---|---|
農家レストランの経営実態 | ||
レストラン年数:10年以上 | 45 | 71.4 |
客席数:70席未満 | 37 | 58.7 |
年間来客数3000人以上 | 47 | 74.6 |
リピーター5割以上 | 27 | 42.9 |
農家レストランの区分け | ||
道の駅タイプ | 23 | 36.5 |
複合施設タイプ | 18 | 28.6 |
レストラン単独タイプ | 22 | 34.9 |
計 | 63 | 100.0 |
経営者のレストラン経営の満足度 | ||
大変満足 | 7 | 11.1 |
満足 | 24 | 38.1 |
普通 | 24 | 38.1 |
不満 | 8 | 12.7 |
大変不満 | 0 | 0 |
計 | 63 | 100.0 |
リピーター率については,その構成比で5割以上が4割(42.9%)を占めていた.
次に,先の農家レストランの形態区分により集計すると,レストラン単独タイプ(22件),複合施設タイプ(23件),道の駅タイプ(18件)と,サンプル数でほぼ3分された.
経営するレストランの魅力の上位3位(複数回答)は,味(37件),メニュー(33件),食材へのこだわり(33件)の順で,いずれも提供する食事に関する事柄であった.外装・内装のハード面の事柄は7位(17件)であった.
経営者のレストラン経営に対する満足度(5段階)については,大変満足7件,満足24件,普通24件,不満8件,大変不満0件であり,経営者の不満足の割合は大きくはないものの,大まかに満足度は高い者と低い者に2分されている.
上記の考察を踏まえて,本稿では,農家レストランが3タイプ存在していることから,このタイプの違いが経営満足度の評価選択に作用する固有の特徴(固定効果)を有すると想定する条件付きロジットモデルで,経営満足度とその要因との関連性を分析する.条件付きロジット分析は,選択肢に固定効果を持つ要因が想定される場合,その固定効果を無視した場合に生じるバイアスを回避するための分析手法である(Greene, 2003: pp. 719–724).1970~1980年代の古典的な研究成果として,交通手段の選択や職業選択の分析で適用されている(Greene, 2003: pp. 719–724).その後,条件付きロジットモデルの適用の範囲は拡大し,選択肢固有の効果と,選択主体の属性の双方を想定する広義の条件付きロジットモデルの適用がなされるようになってきている(堀内,2001).本稿においても,経営者の属性といえる3つの経営タイプが選択肢への固有効果を有すると想定し,この選択主体の属性を考慮する広義の条件付きロジットモデルを適用する.
具体的には,レストラン単体のものをタイプ1,宿泊施設の一部または宿泊施設や体験コーナー,直売所などが集積する複合施設内にあるものをタイプ2,道の駅の一環としてあるものをタイプ3として,経営タイプの違いを,選択肢への固有効果を有するグループ変数として考慮した.モデルで使用する変数の概要は,表5のとおりである.被説明変数には経営満足度をおき,上記の満足度のレベルが2分される結果から,大変満足・満足をまとめ「満足」を1,普通・不満・大変不満をまとめ「満足していない」を0とした.説明変数に用いる農家レストランに関する重要な選択主体の属性では経営的要因として,以下の要因を考慮した.すなわち,ロイヤルティーの観点から安定した客の確保状況,食事メニューの優位性,提供する食事の味,外装・内装などのハード面の魅力を考慮した.具体的なそれらの変数は,「リピーターが5割以上(Yes=1, No=0)」,「優れている点がメニューの豊富さ・オリジナルメニューといったメニュー(Yes=1, No=0)」,「優れている点がおいしさ(Yes=1, No=0)」,「優れている点が外装や内装といったインテリア(Yes=1, No=0)」を用いた.
変数名 | サンプル数 | |
---|---|---|
Yes | No | |
経営満足度(満足=1,満足していない=0) | 31 | 32 |
リピーターが5割以上(Yes=1, No=0) | 27 | 36 |
優れている点がメニューの豊富さ・オリジナルメニュー(Yes=1, No=0) | 33 | 30 |
優れている点がおいしさ(Yes=1, No=0) | 37 | 26 |
優れている点が外装・内装といったインテリア(Yes=1, No=0) | 13 | 50 |
経営作目が畜産・酪農・漁業以外(Yes=1, No=0) | 49 | 14 |
また,農業生産に関する経営的要因として「経営作目が畜産・酪農・漁業以外(Yes=1, No=0)」を用いた.これは,レストラン従事に対して時間的な制約が大きいか否かを示すものとして用いた.レストラン活動が労働集約的な点を考慮したためである.計測モデルは,経営に関する満足度であることから,コスト要因についても考慮することにした.しかし,経営上の課題に関する回答(複数回答)としては,コスト上昇を挙げた回答者の割合は5.6%に過ぎないため,モデルⅠではコスト要因を考慮せず,モデルⅡでは考慮することで,コスト要因の影響力に関して,両者の違いをみることにした.他の変数は,両モデルとも同じである.
まず,二つのモデルの計測結果については,タイプの違いによる選択肢への固定効果を考慮することで,良好な結果が得られている.総じて,コスト要因が有意ではなかったこと,そして他の経営的要因については,両モデルで同様に統計的に有意な結果を得ていることから,これらの要因は,安定的に作用する要因ということができる.
次に,経営的要因についての各パラメータを吟味してみよう.「リピーターが5割以上」,「優れている点がメニューの豊富さ・オリジナルメニュー」,「優れている点がおいしさ」,「優れている点が外装や内装といったインテリア」,といずれも正で統計的に有意であった.農業生産の経営的要因については,5%有意で正となった(表6).つまり,これらの経営的要因が,経営者の経営満足度を高める要因であることが明らかとなった.なかでも,パラメータの値が最も大きいのは,おいしさの点で優れている点であり,レストラン経営者らしい特徴を示している.
被説明変数:経営満足度 | モデルⅠ | モデルⅡ | ||||
---|---|---|---|---|---|---|
説明変数 | パラメータ | z値 | VIF | パラメータ | z値 | VIF |
リピーターが5割以上 | 1.2964* | 1.81 | 1.05 | 1.4722** | 1.97 | 1.05 |
優れている点がメニューの豊富さ・オリジナルメニュー | 1.3985** | 1.99 | 1.17 | 1.8721** | 2.31 | 1.26 |
優れている点がおいしさ | 2.2170*** | 2.83 | 1.11 | 2.6529*** | 2.99 | 1.14 |
優れている点が外装・内装といったインテリア | 2.0886** | 2.32 | 1.08 | 2.0173** | 2.13 | 1.15 |
経営作目が畜産・酪農・漁業以外 | 1.8678** | 2.13 | 1.24 | 2.0376** | 2.18 | 1.24 |
今後のレストラン経営の課題がコストの上昇 | ― | ― | ― | -1.5277 | -1.50 | 1.20 |
サンプル数 | 63 | 63 | ||||
尤度比カイ二乗値 | 27.95*** | 30.41*** | ||||
疑似決定係数 | 0.3659 | 0.3982 |
1)***は1%,**は5%,*は10%水準で係数が統計的に有意であることを示す.
2)モデルⅠ,ⅡのVIFは最小二乗法による.
また,最小二乗法による計測では,多重共線性や分散不均一性についてもみられなかった.
(2) 考察農家レストランの経営的な要因であるリピーターの確保,メニュー,味,外装・内装の魅力といったレストランに関わる経営的要因が正で有意になったことから,顧客の満足度を高めることが経営者の満足度を高める最も有効な要因となっていることを理解できる.経営作目が畜産・酪農・漁業以外が有意になったことについては,家畜などの世話を365日しなければならない畜産・酪農などと比べ,農閑期のある耕種農家や地域から食材を仕入れて調理する農家レストランは,本来の農業従事に関する労働時間の制約が少ないためであると考えられる.
また,コスト面の問題や性別や年齢,学歴など個人の属性の影響については,今回の分析では統計的に有意な関連は検出されなかった.この他,経営に関する変数では営業年数についても変数に用いて計測を行ったが,有意とはならなかったため,モデル上では示していない.営業年数が有意ではなかったことは,経験の蓄積による経営上の効果(経験効果)がみられないことを示唆している.
以上の計測結果から,3つのタイプの農家レストランの固定効果を明示的に考慮した分析モデルは,有効といえる.したがって,そうした多様化の進展を前提として,今後の農家レストランの展開とその課題を考えることが重要といえる.
本研究では,これまで十分考慮されていない農家レストランの多様化と経営的要因を明示的に考慮して,経営者の経営満足度に関する要因分析を行った.その結果,メニュー・おいしさ・外装やインテリアを重視し,かつ,リピーターが多い点で「顧客が満足する経営」への指向を有すると考えられるレストラン経営者の満足度が高いということを,統計的に検証できた.特に,食事のおいしさは経営者の経営満足度に,最も影響を与えている要因である.
ここから,農家レストランの多様化を念頭において,これらのレストラン経営要因に関連する経営者能力の向上を図ることが重要であるといえる.したがって,その支援についても必要と考える.
しかし,今回の分析では,経営タイプと具体的なコスト面の問題点や経営者の年齢などの人口統計学的な要因との関連性は検出できなかった.また,畜産・酪農・漁業を扱う経営者以外の満足度が高いという点の原因については,推測的段階に止まっており,具体的な経営成果の調査による詳細な分析を加える必要がある.また,本稿で用いたウェブ・アンケート調査による回答者属性に関する偏りなど留意する必要がある.条件付きロジットモデルの適用の限界についても,適用例の蓄積の中で検証する必要がある.これらの点は,今後の課題としたい.
本研究には,科学研究費補助金No. 26283017,No. 25450342およびNo. 16K14996を受けた.