2016 年 52 巻 4 号 p. 247-252
日本の農山村地域では,過疎化・高齢化の進行,これに伴う地域経済の沈滞やコミュニティの崩壊,それらが原因となる鳥獣害など生態系のアンバランスといった多くの課題を抱えている.そうした課題を少しでも解決し,農山村を再生・活性化させる方策については,内発的発展論をはじめとして様々議論されてきた.そうした中で,近年,農山村に賦存している自然資源を利用する小水力発電が,農山村地域を活性化させるための1つの素材として注目されている.
農山村における小水力発電の導入に関する先行研究では,農山村のエネルギー自立,あるいはそれをきっかけとした地域の活性化というポジティブな側面と,水利権による法的手続きの煩雑さ,ゴミの除去などメンテナンスの問題,利害関係者の合意形成の難しさといったネガティブな側面との両方から取り上げられ,議論されている.また,小水力発電事業の導入主体については,住民の参加によって管理・運営されることが非常に重要であると論じられている(倉阪,2013).
小水力発電による農山村地域の活性化に関して,既存の研究では,エネルギーの地産地消など,地域活性化に資する経済的側面に多く重点が置かれている.しかし,再生可能エネルギーの普及は地域にとっての経済的側面だけでなく,社会関係資本の構築といった社会的側面にも期待されている(諸富,2014).こうした議論の中で,del Rio and Burguillo(2008)は,持続可能性という視点から,再生可能エネルギー導入の地域への影響は環境・経済・社会の3つの側面から構成されるとしている1.そして,持続可能な地域の実現につなげるためには,地域住民の参加が必要不可欠であることを主張している.
本稿では,地域住民が主体となった小水力発電の導入並びに地域課題の解決に係る諸活動に着目し,del Rio and Burguillo(2008)の主張を援用して,小水力発電の導入が農山村地域の課題解決に向けて果たす役割を環境・経済・社会の3つの側面に分けて検討する.すなわち,小水力発電導入の取り組みが,先に述べたような農山村地域が抱える諸問題の解決のためにどのような働きをなし得るのかを,先行事例をもとに明らかにする.
研究対象とした事例は,岐阜県郡上市石徹白地区と奈良県吉野町の取り組みである.両事例とも過疎化の危機感から,柔軟な形態で住民の参加を促し,地域資源を利用する小水力発電の導入に取り組んでいる.石徹白地区では,小水力発電の導入を機に地域特産品の加工販売が促され,移住者も見られるようになった.さらに,協同組合を設立して売電収入を目的とした小水力発電の導入も進められている.吉野町では,地域の住民による手作りの水車で防災活動が始まり,閉鎖した山村振興施設の復活,都市農村住民の交流を促している.
石徹白は,岐阜県と福井県の県境に位置する集落である.地域の最大の課題は,「過疎化・少子化・高齢化」である.昭和30年代には1,200人を数えた人口が,2013年現在人口約270名,世帯数110戸となっている.過去10年間で人口が約17%減少している.2013年度の石徹白小学校の全校児童は12人,保育園児4人である.65歳以上の割合は50%を超えている.この地区は白山連峰に源を発する豊富な水源に恵まれている.地区内を流れる農業用水には,落差が数多く存在しているため,1924年に小水力発電を導入した歴史がある.当時の事業主体は,「石徹白小水力利用組合」であり,発電した電力を,昼は製材所,夜は各世帯の電灯へ供給していたが,1955年に廃止された.
(2) 石徹白地区の地域課題解決に向けた取り組み石徹白の事例については,既に複数の先行研究がある.後藤他(2009)は地元住民にヒアリング調査を行い,小水力発電などの自主的活動が進むためには潜在的自治力の覚醒が必要であると指摘した.永田・柳井(2014)は小水力発電導入の地域での位置づけに関する研究を行い,小水力発電と地域づくりの関係を構築する際に,合意形成が重要であることを示した.石徹白地区での小水力発電導入の経緯を,これらの先行研究とヒアリング調査から,以下のように整理する(表1).
| 種類 | 螺旋型水車2号機 | 上掛け水車 |
|---|---|---|
| 出力 | 常時500 W 最大800 W |
常時1.5 kW 最大2.2 kW |
| 稼働開始年 | 2008年12月 | 2011年3月 |
| 用途 | NPO事務所の照明,外灯 | 食品加工所の一部電力供給 |
| 初期投資額 | 200万円程度 | 設備工事・土木工事あわせて700万円 |
| 財源 | 科学技術振興機構の委託事業 | 郡上市の委託事業 |
資料:ヒアリング調査により作成.
2003年に,地区の人口減少に対する危機感から,「NPO法人やすらぎの里いとしろ」が設立された.この設立総会で挨拶に招かれたのが,「ぎふNPOセンター」の駒宮博男理事長代行(当時)である.2007年夏,駒宮氏が「やすらぎの里いとしろ」に小水力発電の話をもちかけ,地域内で設置候補地点の調査を行った.2007年秋~翌年春にかけて,「ぎふNPOセンター」が事業主体となり,実験的に3機の水車を設置した.1機は直径60 cmの螺旋型(2号機),残り2機はベトナムから輸入した縦軸型・ターゴ型であった.この小水力発電を導入する際には,自治会の下に置かれている用水委員会から用水路使用の許可を得ている.またこの時期に,マスメディアの報道により,取り組みが広く知られるようになってきた.
2008年秋より,石徹白での小水力発電事業は,「ぎふNPOセンター」から「地域再生機構」に移管され,JST(科学技術振興機構)の委託研究事業として,小水力発電の導入・実用化の研究が行われた.2008年12月には,螺旋型水車2号機がNPO事務所へ送電を開始している.2009年に,石徹白地区地域づくり協議会により,「石徹白ビジョン」が策定された.その頃から,「地域再生機構」では「小水力発電が地域の課題解決の1つの手段になれば」と考えていた.
2011年3月からは,同地区に建てられた「ふるさと食品加工施設」の作業用に,「NPO法人やすらぎの里いとしろ」と「地域再生機構」が主体となり,加工所脇に上掛け水車を設置し,地域特産品であるトウモロコシの加工・生産に使用する電力を一部供給している.これは,郡上市の委託事業でもあり,小さな雇用を生んでいる.また,ピコピカという小規模の螺旋型水車を石徹白小学校の小学生と制作・設置し,地域の掲示板の照明に供給している.
(3) 組織の展開形態2011年に岐阜県庁から,「県と郡上市で石徹白の農業用水を利用して小水力発電を始めたい」との申し入れがあった.行政が建設費の100%を出し,石徹白自治会にも管理料を払うとの提示だった.自治会が岐阜県の調査を受け入れ,それがきっかけとなり,地域住民全体による発電所が計画された.事業内容は,石徹白川の支流になる朝日添(わさびそ)川から水を引き,103 kWの水車を設置・運営するというものである.事業の担い手として,2014年4月1日に103人が出資する「石徹白農業用水農業協同組合」が設立された.資金調達については,2億4000万円のうち協同組合が6800万円を負担する.その内訳は2800万円が地域住民からの出資,残りの4000万円は日本政策金融公庫からの融資である.これまでの小水力発電事業と同様に,収益は,農業の6次産業化や新規就農への支援,用水路の維持管理などに使う予定である(平野,2014).
この地域では,過去にも活性化計画が作成されたが,住民の関心が薄かったため,実行に移すことがなかなかできなかった.そこで,住民有志による小水力発電への取り組み過程において,事業推進の方針を「小水力の導入と地域主体の形成」とし,住民が地域づくりに参加できるような地域横断的なNPO法人を組織した.2009年の「石徹白ビジョン」策定後は,この「NPO法人やすらぎの里いとしろ」が主となり,農業用水を利用した小水力発電を地域のシンボルにすることで,地域づくり活動を展開した.地域のホームページ「石徹白人」を作り,地域内外へ発信も始めた.
このような発信を通じて,石徹白の小水力発電への取り組みと地域づくり活動が先進事例の1つとして認識され,見学者も多く訪れるようになった.そうした見学者やホームページで関心を持った人たちに向けて,公式ホームページ制作委員会が地域のオリジナルグッズを開発し,女性有志者10名ほどで地元の食材を使ったカフェも始めた.こうした地域住民が行う活動により,地域内でも新たな関係が構築されるとともに,見学をきっかけにこの地域のファンも生まれた.水車が回り始めてから,10世帯25人が新たに移住した.なかには,小水力発電の見学がきっかけとなって移住した夫婦2人もいる.
このように組織のメンバー及び地域内部と外部の交流が深まったことで,地域住民が小水力発電への認識を共有化し,地域自治意識が高まっている.こうしたことは,その後,石徹白農業用水農業協同組合の成立に対する意識基盤を作り上げたと考えられる.
奈良県吉野町は奈良県中部に位置する山あいの町で,人口は2015年現在7,671人,この30年間に半減している.2011年に吉野町では地域福祉計画を住民参加で策定した.それをきっかけとし,旧小学校区単位で住民懇談会を開き,地域の課題として「林業の衰退・過疎化・獣害・防災」に焦点を合わせた.その後,岡山県での水車で村を活性化する例を参考に,課題解決策の1つとして,小水力発電が提案された.そして,殿川地区と三茶屋地区で自作の水車による試験的な小水力発電が開始され,2013年1月には住民有志により「吉野町小水力利用推進協議会」が発足した.
吉野町での小水力発電の取り組みの特徴については,「エコでヒューマンな自立できる村づくり」というコンセプトから整理できる.エコ=「水車プロジェクト」で地域を元気にし,ヒューマン=すべての人の町づくりへの参加を保障する地域福祉の理念,すなわち,エネルギーの自立と住民が主体的に町づくりに参加することの両方を兼ねていくことである(岸田,2015).
吉野町の小水力発電の取り組みは,吉野町小水力利用推進協議会が運営主体となっている.表2では発電施設の概要を示した.以下,殿川地区と三茶屋地区の取り組みの内容をヒアリング調査から整理する.
| 種類 | ホイール水車 | 木製上掛け水車 | ホイール水車 | 木製下掛け水車 |
|---|---|---|---|---|
| 出力 | 2.4 W | 4.6 W | 2.4 W | 9.6 W |
| 稼働開始年 | 2012年 11月 |
2013年 3月 |
2012年 9月 |
2013年 6月 |
| 用途 | 外灯 | 家電,携帯 | 警告灯 | 外灯,ライトアップ,トイレの照明 |
| 財源 | 都市農村共生対流・総合対策交付金事業より 362万6千円の補助金 |
|||
| 地区 | 殿川地区 | 三茶屋地区 | ||
資料:ヒアリング調査により作成.
吉野町殿川地区にある小水力発電は,集落の住民グループが取り組んだ事業である.殿川は標高500メートル前後の高地にあり,他の地区とは地理的に孤立している.1947年に国の開拓事業により入植者へ払い下げられ,開墾されてできた集落である.当時は40世帯近くあったが,今は10世帯しか残っておらず,過疎化高齢化が進んでいる.殿川は水道や簡易水道をひいておらず,井戸水をポンプアップして水を得ている.台風や積雪による倒木で断線し停電することがよくあるが,停電が続くと飲み水やトイレを流すのに不自由し,さらに夜は電灯も灯らない.以前から外灯の設置が検討されてきたが,電気料金の負担が生じるために実現できなかった.そうした中,2010年の大雪で同地域は孤立状態を経験した.その後自治会は,災害時に安心して集会所に避難でき,3日間水と食料を確保できることを目的に小水力発電を導入することにした.
殿川地区の取り組みは,地域の資源を活用し,地域の高齢者・子供の安心安全な生活に貢献している.地域の課題を解決するための再生可能エネルギー利用のあり方は,三茶屋地区の自治会が小水力発電に取り組むきっかけとなり,吉野町小水力推進協議会を通して他の集落へも,広がろうとしている.
(3) 三茶屋地区の地域課題解決に向けた取り組み三茶屋地区では,村の行事が減りつつあり,山村振興施設「吉野見附三茶屋」が閉鎖された.この施設をもっとコミュニティの場にしたいという課題があった.施設近くの用水路で水車を回し,元区長は「水車の里」と名付けた.自治会内に小水力発電研究会も発足した.用水路を活用し地元産の杉材を使った水車は,各地域からの見学者を呼び,2013年だけで300名が視察に訪れた.
山村振興施設は「三茶屋エコ・え~ね館」と名付けられ,木製らせん水車のワークショップも開催された.地域の防災拠点として,2014年には三茶屋自主防災会による避難訓練も実施された.さらに,外の身体障碍者用トイレの外灯を自主電源で担えるようにと,ホイール水車を2基設置した.
吉野町小水力利用推進協議会は小水力発電の取り組みを進めながら,耕作放棄地の再生や,木質バイオマス利用といった活動も展開しており,地域の交流・防災,地域資源を活かした地域振興へ,地元吉野町の企業も巻き込んで活動を広げている.
以下,両事例の内容を踏まえて,環境・経済・社会の3つの側面から,小水力発電が農山村地域の課題解決に果たす役割を検討する.
(1) 環境的側面小水力発電は,太陽光や風力といった他の再生可能エネルギー源と比較したときに,設備稼働率が高い,出力の変動が少ない,発電量が予測・制御しやすいなどの特徴を持っている.東日本大震災による福島第一原発事故以降,原子力発電に対する依存度は下げざるを得ず,同時に地球温暖化防止のためのCO2排出削減も求められている.このような状況では,再生可能エネルギー源の中では相対的に利用効率が高い小水力は,電力の増加による環境負荷の抑制に意義があるといえる(松尾・伊藤,2014).
日本では,山間部が多く水資源が豊富という地形的な特徴を備えていたことで,小水力発電は地域資源の再発見・再利用にも役割を果たしている.石徹白地区ではかつての知恵を使って地域を再生させようと,小水力発電に取り組み始めた.また,吉野町内の小水力発電の可能性についての視察が行われた当初,40年前に使われていた自転車のリムを利用した猪よけの水車を復旧した.
| 分類 | 石徹白地区の取り組み | 吉野町の取り組み | |
|---|---|---|---|
| 環境 | CO2排出削減 | 不明1) | 不明1) |
| 地域資源の再発見・再利用 | 1934年に設置した農業用水路の再利用 | 40年前の猪よけ水車の復活 閉鎖した農村振興施設の再利用 | |
| 経済 | 雇用の創出 | 食品加工所による雇用 | 維持管理に地元労働力を活用 |
| 生産活動の多様化 | 地域農産品の加工・販売,カフェの開設など(女性10名ほど). | 木製螺旋水車製作のワークショップの開催,地域農産物の展示,薪ストーブの導入と活用,カフェ・物品販売スペースの貸し出しなど. | |
| 循環型地域経済の形成 | 年間売電益として約2000万円,地域内再投資力の原資となる2). | 町内外の人が集まり,情報交換できる場を作った. | |
| 社会 | 社会福祉・防災 | 発電した電力は非常用電源としても使用される. | 地域の防災拠点を設立し,避難訓練を実施した.発電した電力を,身障者用トイレの照明,外灯の他,非常用電源に使っている. |
| 交流による移住定住の促進 | 10世帯25人が移住することになった. | 殿川地区の防災ハウスの電気工事に関わったことがきっかけで新たな若い夫婦が移住してきた. | |
資料:ヒアリング調査により作成.
1)CO2排出削減量については,調査により正確な数値を得ることができなかった.
2)石徹白農業用水農業協同組合による発電事業の計画である.
再生可能エネルギーの利用は地域経済の振興に資する可能性を持つ,雇用の増加など経済波及効果に多く期待されている.しかし,小水力発電の設置・維持に関して,大きな雇用効果は見られない.また,発電容量の規模により,1つの発電機に生じる売電益が小さい.del Rio and Burguillo(2008)では再生可能エネルギー導入の経済的な影響として,生産活動の多様化と循環型地域経済の形成を取り上げている.以下,小水力発電による農山村地域の課題解決に向けて,経済的側面からこの2点について分析する.
第一に,生産活動の多様化に有意義である.石徹白地区においては,人口減少・高齢化という地域の課題に対応するために,小水力発電の導入と合わせて,カフェの開設や地域農産品の加工と販路の拡大といった取り組みを進めた.これらは,小水力発電を地域の外に向けて発信する取り組みと連動して,地域振興のための総合的な生産活動を展開している.吉野町の取り組みも,小水力をきっかけに,農山村振興施設でのカフェ運営・物販や,耕作放棄地の再生による「そば打ち」イベントの開催など,多様な事業へ派生している.
第二に,循環型地域経済の形成を促進できる.石徹白地区では,専門協同組合として新たな発電所の売電開始後,その売電収益は地域の農業経営,農産物の加工・開発,休耕放棄地での農業など地域の維持活動に充てられることになる.こうした小水力発電の導入は,エネルギー自給のみならず,地域内再投資の原資となる.
また,循環型地域経済の形成は,必ずしもエネルギーの消費・売電収益の再利用で実現するのではなく,地域振興の起爆剤・シンボルとして,人・物・カネが循環できる場を作るという考えも可能である.吉野町では,閉鎖した農村振興施設を再利用した.そこで,木製螺旋水車のワークショップの開催,地域農産物の展示,薪ストーブの導入と活用,カフェ・物品販売スペースの貸し出しなど,町内外の人が集まり,交流できる場を作った.しかし,吉野町の場合は,小水力発電事業は模索段階であり,発電量の使途も外灯やトイレの照明に限られている.カフェの運営も継続的な収益を得られず一旦終了となった.また,これらの派生活動と小水力発電の実践とが結びついてこなかったのも事実である.
(3) 社会的側面第一に,農山村における社会福祉,防災,生活の向上という面にも貢献できる.例えば,吉野町の小水力発電導入は,福祉の観点から防災への取り組みとして始まっている.地域の資源を活用し,地域の高齢者・子供が安心安全に生活することを重視している.復活した山村振興施設を地域の防災拠点として,三茶屋自主防災会による避難訓練も実施した.身障者用トイレの照明,外灯の他,非常用電源に使われている.
第二に,交流による活性化と移住定住の促進に効果的である.両事例とも小水力発電が地域のシンボルとして,地域内外の情報発信につながっており,ひいては土地の利活用につながっている.石徹白地区では,外部の見学者に空き家情報を提供している.石徹白への移住希望者に対して,住宅を供給できる体制を整えている.これまで,既に10世帯25人が石徹白に移住することになった.吉野町では殿川地区の防災ハウスの電気工事に関わったことがきっかけで新たな若い夫婦が移住してきた.
本稿では,岐阜県郡上市石徹白地区と奈良県吉野町の取り組みについて,地域住民が主体となった小水力発電導入が農山村地域の課題解決に向けて果たす役割を環境・経済・社会の3つの側面に分けて検討した.①環境的側面としては,CO2の削減,地域資源の再発見・再利用に効果的である.②経済的側面としては,電気料金の節約,売電収益の獲得などである.また,小水力発電での導入による直接の雇用増加は少ないが,小水力発電と連動して,地域の個性を持つ経済活動の開発によって,生産活動の多様化を促進できる.そして,発電事業の成果を地域に還元することで,循環型地域経済の形成につながる.③社会的側面としては,農山村における社会福祉,防災,生活利便性の向上などの役割を果たし得る.また,小水力発電が地域振興の起爆剤となり,地域内外の交流を促進し,地域への移住者が発生するという効果も見られる.
以上の効果を実現するには,事業を立ち上げる際,①住民参加を意識した外部関係者の支援,②情報交換できる「場づくり」が重要と考えられる.石徹白地区では,地域外のNPOが地元のNPOとともに小水力発電に取り組み始めた.吉野町では地元住民を中心に設立された吉野町小水力利用推進協議会が現在では運営の中心であるが,この協議会の発足と運営には,地域外の有志が大きく関わっている.両方の事例とも,こうしたNPOや協議会が内部と外部の情報交換だけでなく,地域の若者から高齢者まで幅広く交わる「場づくり」の役割も果たしている.こうしたことの重要性については本研究を通じて認識されたが,調査により実証することは今後の研究課題としたい.