農林業問題研究
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大会講演
会長挨拶
増田 佳昭
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2017 年 53 巻 1 号 p. 1-2

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第66回地域農林経済学会大会の開催にあたり,会長として一言ご挨拶いたします.本日は日常の教育研究にお忙しい中,ご参集いただいた会員のみなさまにお礼申し上げます.また,本大会の開催にあたり,開会準備に大変なご尽力をいただき,また素晴らしい会場をご提供いただきました近畿大学のみなさまに深くお礼申し上げます.

昨日の特別シンポジウムは近畿大学の会員に企画していただきましたが,「食農教育と大学の地域貢献」をテーマに,食農教育と大学をテーマにした報告とディスカッションがおこなわれました.大変充実したご報告と意見交換がされておりました.また,本日は,「地方創生時代における大学の研究,教育,地域貢献」と題して,パネルディスカッションが行われます.

昨年度の鳥取大会では,地方創生時代における地域農林業のあり方をテーマに大会講演をしていただいております.また,同時に開催された地域シンポも人口減少のもとでの地域の再生のあり方をテーマにしていました.その意味では,いわば二年続きで「地方創生」を取り上げているわけであります.これは何も安倍政権の「地方創生」政策に媚びを売っているわけではありません.地域の名を冠するわが地域農林経済学会にとって,地方創生は避けて通れない重要なテーマだからです.

とはいえ,政府の地方創生には,いささかのというよりはかなりのいかがわしさを禁じえません.そもそもが「地方」という言葉です.もともと,東京一極集中を是正し,地域の人口減少に歯止めをかけ,日本全体の活力を上げる,とされていますから,地方というのは東京以外を意味するようです.国交省によれば,地方というのは三大都市圏以外を指していたようです.しかしそれにしても,地方は中央に対する下位の位置づけのように思われてなりません.かつての日本軍では,軍隊組織以外の社会を「地方」と呼び,軍隊組織以外の人を「地方人」と呼んでいたようです.今回の地方創生も,どうも「上から目線」のように見えてなりません.

地方創生ではKPIと称する数値目標を自治体ごとにさだめるのですが,それを国が精査して交付金算定のもとにするようです.このあたりにも「上から目線」の地方創生の一端がうかがえます.しかも,地方創生に関連して打ち出される政府の政策は,農地の規制緩和や農協,農業委員会の改革等で,基本的には規制緩和です.それが地域に暮らす人々にとって役に立つのであればまだいいのですが,どうもそうではなくて,農村をアベノミクスが売りにする自由な企業活動の場に作り替え,新たなビジネスチャンスを与えようとするもののようです.

農業政策の中身を見ても,6次産業化の推進や農産物輸出1兆円,農業所得倍増などと威勢のいい言葉が並ぶのですが,掛け声倒れといったところです.また,農地中間管理機構や農業委員会の改革と委員選出方法の改変,農協中央会の廃止など,現場の期待とずれた頭でっかちの政策が次々と打ち出されているのが現実です.

この人口減少時代,今政策に求められているのは,徹底した現場へのこだわりと,そこに住んで暮らしを営む人間の目線だと思います.おそらく我々研究者にも,現場における問題の所在とその構造を明らかにし,政策に提言していくことが期待されていると思います.その意味では地域農林経済学会にとっても大きな課題が与えられています.地域に根差し土着の農林業を対象にする学会として会員のみなさんも大いにがんばっていただきたいと思います.

また,地方創生の動きの中で,大学に対しても地域の人々や自治体から多くの期待が寄せられている現実があります.しかも,大学の地域活動への教員,学生の人的貢献だけでなく,研究活動と教育活動でも地域志向が期待される状況にあります.しかし,若い研究者にとって地域に貢献もしながら研究業績も上げるというのは大変むずかしいことです.地域との関わりの中で研究活動も発展するというよい循環が創られるよう,様々な工夫が必要だと思います.そうした研究スタイルを作り上げるために学会として問題意識を持ち,若手支援を中心に必要な取り組みができればと思います.

さて,学会活動としては,最大の出来事は学会誌のオンラインジャーナル化と紙媒体の廃止でした.この件については他学会からも注目されて,学会員の減少はありませんかなどと質問を受けることもあります.幸いなことに,紙媒体の学会誌の廃止を理由に退会されたという事例は聞いていません.また,賛助会員についてもご理解をいただいていると受け止めています.

今回の学会誌オンライン化のメリットは,xml方式での掲載によるオンライン検索での優位性です.pdf方式よりも格段に検索にかかりやすいといわれます.そうした利点を活かして学会誌としての優位性を高めていく必要があります.そのためには,学会誌の内容の充実とレベルアップが重要です.この間,編集委員会が中心になって編集方式と体制の見直しをすすめてくれています.学会誌が届かないというデメリットに対しては,会員とのコミュニケーションをより密に行うために,紙媒体でのニューズレターの編集・発行にも力を入れてきたところです.

紙媒体の廃止にともなって,多少なりとも学会の財政に余裕ができてきました.それを学会活動の充実,会員へのメリット還元にどうつなげていくか,しっかりとした検討が必要だと思います.地域農林経済分野の若手研究者の育成は重要な課題です.今年度は,近畿支部大会で若手研究者主体のセッションを開催するなど,微力ですが若手研究者の自主的な活動を励ます企画にも取り組みました.長期的な視野をもちながら,若手研究者の育成と相互研鑽にどう貢献できるか,学会としての検討が必要だと思います.

このあとのパネルディスカッションでは,大学の研究活動を中心に,貢献のあり方を議論することになっています.今回の大会が地域農林業研究の発展の一里塚となり,皆様の研究の発展につながりますことを祈念して開会の挨拶といたします.

 
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