農林業問題研究
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個別報告論文
地域住民におけるバイオマス利用意向に関する研究
間々田 理彦原 温久田中 裕人
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2017 年 53 巻 1 号 p. 37-42

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1. はじめに

農林水産省(2012)で示されているように,近年のバイオマス利用は従来のバイオマスタウン構想を発展させた「バイオマス産業都市構想」に移行しており,自治体独自あるいは自治体と企業が共同することで,幅広い地域波及効果の観点が強く求められるようになった.このことは重要な観点であるが,一方で,バイオマス利用には資源の地産地消という側面もあり,大規模なバイオマス施設による経済性を重視した利用を追求するだけでなく,地域住民の個人の利用や地域の公共的な施設等での継続的な利用も重要であると考えられる.

このような状況において,行政によるバイオマス利用について,ステークホルダーである住民の理解や関心を高めることの重要性は高まっているといえる.しかしながら,2001年以降に急増した合併した自治体における政策に対する意識は西出(2005)の指摘を踏まえると自治体の地域資源利用政策に対する地域住民の意識も旧自治体の地理的条件や産業構造の影響を起因として大きく異なることが考えられる.

これらのことから合併後の自治体で採用されている地域資源利用政策の中で住民の意識の差について,居住地や年齢等の属性によってどう異なるか,議論することは政策の策定・推進において検討されるべき課題といえる.また,このような議論は,近年合併していなくても多様な地理的条件や複数の産業構造を有する自治体においても有益なものであると考えられる.

合併した自治体を事例としてバイオマスをはじめとする地域資源利用政策に焦点を当てた研究例は間々田他(2015)がある.間々田他(2015)では,バイオマス利用政策を通じた社会貢献に関して一対比較を適用した分析を行い,その結果,バイオマスやバイオマス利用に関する意識には旧自治体毎で差がみられることが明らかとなっている.しかしながら,間々田他(2015)では,ペレットストーブの設置状況や,住民が具体的にどのような利用意向を示し,それが居住地や年齢等の属性毎にどう異なるかについて明らかにしているわけではない.バイオマス利用における住民参画に焦点を当てた研究は原科(2013)岩川他(2004)にみられるものの,住民が考える利用意向について明らかにした研究例はみられない.

そこで本研究では,自治体の地域資源利用政策において重要なステークホルダーである住民を対象に,今後のバイオマス利用意向を明らかにするとともに,利用意向の傾向について,住民属性(性別,年齢,居住地)とバイオマスに対する認知度をもとに検討する.

2. 調査事例地の概要

本研究では愛媛県西予市を事例地とした.愛媛県西予市は愛媛県南予地方に位置する.西予市は2004年に三瓶町,明浜町,宇和町,野村町,城川町が合併して成立した市で,市域は沿岸部から高知県県境の山間部まで広がる.2013年には市域全体が日本ジオパークに登録された.現在の人口は約41,000人である.前述したように,西予市は旧5町が合併した自治体であるが,地理的条件や産業構造が旧町により大きく異なる.三瓶町(三瓶)と明浜町(明浜)は沿岸部に位置しており,柑橘栽培と漁業が盛んな地域である.宇和町(宇和)は市中心部に位置し,平野が広がり,米作が盛んである.野村町(野村)と城川町(城川)は中山間地域に位置しており,かつては養蚕や林業が盛んだった地域である.

西予市では,城川・野村で発生する林産資源の有効利用を目的として木質バイオマス利用の推進に取り組んでいる.西予市における木質バイオマス利用方法はペレット化しストーブやボイラーの燃料とするものである.なお,ストーブの販売会社は野村,ペレット製造工場は城川に所在する.

本研究で使用するデータは2015年1~2月にかけて西予市で郵送法により実施されたアンケート調査によるものである.調査対象は西予市に居住する20歳以上の住民を対象とした無作為抽出で,調査票の配布数は1,500通で返信数は523通であり,回収率は34.9%であった.なお,表1に示すように旧自治体の人口構成を考慮し配布した.個人情報保護に配慮し,配布先の抽出及び送付先のラベル貼り等,最終的な発送作業は西予市役所の職員が担当した.

表1. 配布数と返信数
全体 三瓶 明浜 宇和 野村 城川
配布数 1,500 265 135 635 330 135
返信数 523 88 36 206 98 48
回‍答‍率‍(%) 34.9 26.7 33.2 32.4 29.7 35.6
人口
(割合(%))
40,992(100.0) 7,327(17.9) 3,607(8.8) 17,427(42.5) 8,961(21.9) 3,670(8.9)

1)全体の返信数と旧自治体毎の返信数が一致しないのは居住地の未回答(46通)があるためである.

2)人口は配布直前の平成26年10月31日時点である.

回答者の属性は次の通りである.性別は,男性が45.8%(218名),女性が54.2%(258名)で無回答が46名であった.年齢は,20代が5.1%(26名),30代が8.0%(41名),40代が11.7%(60名),50代が13.4%(69名),60代が27.6%(142名),70代以上が34.2%(176名)で,無回答が8名であった.

3. バイオマス利用に対する住民の意向

(1) ペレットストーブの導入意向

西予市では木質ペレットの利用について,個人でのストーブの利用,公共施設等でのストーブの利用,公共施設等でのボイラー燃料としての利用を進めている.これに関連して,ストーブの導入費やペレットの購入費については,一部補助を行っている.そこで,まず西予地域住民のペレットストーブの導入意向についてペレットストーブの設置状況及び今後の意向に関する回答結果を表2に示す.

表2. ペレットストーブの設置状況
項目 回答数 回答率(%)
設置している 9 1.8
今後設置を考えている 14 2.8
設置予定なし 479 95.4
合計 502 100.0
無回答 21

最も回答が多かったのは,「設置予定なし」で,479人(95.4%)に上り,9割強を占める.一方,ペレットストーブを現在「設置している」と回答した人は,9人(1.8%)であり,また(現在は設置していないが)「今後設置を考えている」と回答した人も14人(2.8%)であった.

このことから,住民の大半は何らかの理由によりペレットストーブを設置していないと推測される2.この点について,ペレットストーブを設置しない理由として,「暖房器具を買い換える必要がない」が217人(45.3%)と最も多く,次いで順に「家の構造上,設置できない」157人(32.8%),「ペレットを燃料とするストーブをよく知らない」114人(23.8%),「従来の暖房器具の方が信頼できる」61人(12.7%),「その他」47人(9.8%),「賃貸の物件に住んでいる」34人(7.0%)という結果となっている.これらの理由から,家の構造上や賃貸の物件を除けば,新築やリフォーム時,また暖房器具の買い換え時といったタイミングであればペレットストーブの設置の可能性があると考えられる3

ただし,稲葉他(2011)の報告においても,木質バイオマスの利用は利便性の向上という観点からは地域住民の利用には馴染みにくい傾向がみられるとしており,この結果からも現状では木質ペレットの個人利用については,普及が難しいことが示唆される.

(2) ペレットストーブを設置しない理由と属性の対応関係

本項では,前項で明らかとなったペレットストーブを設置しない理由と属性の対応関係について明らかにする.本研究では,個々の指標のもつ情報の特徴を明確にするために,コレスポンデンス分析を用いた4.この理由としては,クロス集計では,2指標間での傾向は読み取れるものの,その傾向がその他の指標とどのように対応しているのか読み取ることや図示することが難しいと考えたためである.また,3指標以上の位置関係を視覚的に表した結果は,今後,新たな地域資源利用政策を住民にわかりやすく説明する際の根拠データとして活用できると考える.

分析に使用した指標は,「ペレットストーブを設置しない理由」,「居住地」,「木質ペレットの認知の状況」,「性別」,「年齢」の5つである5.この中で,「居住地」は表1で示したデータを使用し,「ペレットストーブを設置しない理由」については表3で示したデータを使用している.また,「居住地」は地域固有の特性を表す変数として扱った.

表3. ペレットストーブ設置予定なしの理由
項目 回答数 回答率(%)
暖房器具を買い換える必要がない 217 45.3%
家の構造上,設置できない 157 32.8%
ストーブのことをよく知らない 114 23.8%
従来の暖房器具の方が信頼できる 61 12.7%
賃貸の物件に住んでいる 34 7.0%
その他 47 9.8%

1)本項目は複数回答が可能である.

サンプル数は,回答に不備があるものを除く383人で,図1は分析結果を散布図で示したものである.なお,イナ-シャの寄与率は第二軸までで18.2%であった.本研究では分析結果について散布図の象限毎にみてみる.

図1.

コレスポンデンス分析によるペレットストーブを設置しない理由と属性等の対応関係

はじめに,第1象限をみると,「家の構造上,設置できない」,「その他」,「木質ペレットについて内容まで知っていた」,「60代」,「男性」がプロットされている.比較的年齢層の高い男性では木質ペレットやストーブには関心があると考えられるが,家の構造からペレットストーブの設置は難しいものと認識しているといえる.

次いで,第2象限に着目すると,「賃貸の物件に住んでいる」,「20代」,「30代」,「40代」の若年層と「宇和」がプロットされている.宇和は西予市の市街地に位置しており,賃貸住宅が多く若年層も多いと考えられ,賃貸である以上ペレットストーブを新たに設置することは困難と考えられる.

第3象限は,「ペレットを燃料とするストーブをよく知らない」,木質ペレットについて「知らなかった」,「名前は聞いたことがあった」,「女性」,「明浜」がプロットされている.明浜は西予市の中でも木質ペレットやペレットストーブの利用への関与が低いことから,認知されていないものと考えられる.

最後に,第4象限は,「暖房器具を買い換える必要がない」,「灯油ストーブやエアコンのほうが信頼できる」,「野村」,「城川」,「三瓶」,「50代」,「70代以上」がプロットされている.この結果として,野村や城川は,市内の中でも特に積雪があり冬季の気温が低いことから,普及が進んでいないペレットの配達等に対する不安があることが考えられる.

(3) ペレットストーブの設置場所への意向と属性の対応関係

本項では,住民が考えるペレットストーブやボイラーの設置場所に関する結果について明らかにする.

まず,自由回答による地域でのペレットストーブ(ボイラーも含む)の設置場所への意向(複数回答)を集計したものが表4である.ここで,公共施設とは,市役所の支所,公民館,集会所の回答を指し,病院や学校,駅等はそれぞれ別の施設として集計した.また,病院は福祉的な性格を重視し,高齢者福祉施設と同じ項目として集計した.回答数の関係からスーパー等は民間事業所に含めている6

表4. 自由回答結果による住民が考えるペレットストーブやボイラーの設置場所
項目 回答数
公共施設 55
駅・道の駅・バス待合室 38
高齢者福祉施設・病院 37
学校関係 30
民間事業所・農業関係等 19
温泉関係 13

1)本項目は複数回答が可能である.

4の結果から「公共施設」に設置を望む人が55人と最も多いことがわかる.次いで回答の多かった項目が,「駅・道の駅・バス待合室」で38人,以下,「高齢者福祉施設・病院」の37人,「学校関係」の30人,「民間事業所・農業関係等」の19人,「温泉関係」の13人と続いた.全体的に公共関連の施設や人目に付く機会が多い箇所が回答されていると考えられる.

次に,ペレットストーブやボイラーの地域での設置場所への意向と属性がどのように対応しているかについて,前項と同様にコレスポンデンス分析を用いて明らかにする.分析に使用した指標は,「ペレットストーブの地域での設置場所への意向」,「居住地」,「木質ペレットの認知の状況」,「性別」,「年齢」の5つである.この中で,「ペレットストーブの地域での設置場所への意向」は表4で示したデータを使用し,居住地については表1で示したデータによる.

サンプル数は,回答に不備があるものを除く423人である.分析結果の散布図を図2に示す.なお,イナ-シャの寄与率は第二軸までで17.1%であった.ここでも図1の解釈同様,分析結果について象限毎にみてみる.

図2.

コレスポンデンス分析によるペレットボイラーやペレットストーブの地域での設置場所への意向と属性等との対応関係

まず,第1象限をみてみると,「20代」や「30代」,「40代」といった若年層の属性とともに「宇和」がプロットされている.宇和地域は市役所が置かれている西予市の中心であり他の地域よりも若年層が多いことからこのような結果になったと思われる.

次に,第2象限をみると,木質ペレットについて「内容まで知っていた」,「60代」,「男性」,「駅・道の駅・バス・待合室」,「民間事業所・農業関係等」,「公共施設」がプロットされている.これらの施設が第2軸でマイナスの値を示した理由としては,経験則として「寒い」思いをする機会が多かったのではないかと示唆される.また,木質ペレットをよく知っている人は,公共的な場所や経済に寄与する場所にペレットストーブを設置したらよいと考えている傾向がみられることが示唆される.ここでプロットされた施設は利用者の範囲が広くなり,地域住民が広く目にすることも期待できる施設であり,特に公共施設や学校等を中心に,まだ導入されていない施設においても導入可能かどうかの調査を検討すべきであろう.

続いて第3象限をみると,地域では「野村」,「城川」,「三瓶」が,属性では「50代」と「70代以上」,設置希望場所として「温泉関係」,「高齢者福祉施設・病院」,「学校関係」がプロットされている.これらの施設は利用者の範囲が限定されるが,比較的暖房設備が整った施設といえる.また,野村や城川,三瓶は農村部であり,高齢者は農村部に比較的多く居住していることから,よく利用すると考えられる温泉施設や高齢福祉施設・病院に設置をしたらよいのではないかと考えている傾向が把握できる.なお,温泉施設についてはすでに1箇所でペレットボイラーが導入されているが,他にも数カ所の施設があり,今後のボイラー交換時期にはペレットボイラー導入の検討がなされている.

一方,第4象限には「明浜」や「女性」とともには「木質バイオマスについて知らなかった」がプロットされている.ここでは第1象限とともに具体的な施設がプロットされなかったことから,第1象限の結果を加味すると,本事例地では年齢が高い住民の方がこれらの施設への設置に関心が高いことが考えられる.

4. おわりに

本研究では,西予市の今後の地域資源利用政策を念頭に置き,西予市で利用が進んでいる木質バイオマスを対象に,住民の木質ペレットの認知状況やペレットストーブの設置状況と設置しない理由及び地域でのペレットストーブ・ボイラーの設置場所に関する住民の意向とそれに関連する属性による意識の差異について明らかにした.

本研究における地域住民のペレットストーブ設置に関する分析結果からは,中山間地域に位置する野村や城川等の地域で木質ペレットについて認識しつつも,城川や野村は冬季の寒さが厳しく,ペレットストーブ導入のメリットやデメリットまで認識していることが示唆される.

一方で,明浜や宇和ではペレットの認知度が低い傾向や賃貸住宅に居住しているという傾向がみられた.つまり,若年層を中心に賃貸住宅等の制約により,物理的に設置が不可能な割合が一定数存在する傾向がみてとれた.ただし,現状として,現在ペレットストーブを設置している住民と導入予定という回答もあわせると5%弱であった.導入費用や排気用の煙突の設置,灰の処理といったペレットストーブ導入における様々な制約を考えると,導入に関する意識は比較的高いといえる.このことから,今後は,逆に,どのような属性であれば導入できるかについて検討する余地があると考えられる.

次に,地域でのペレットストーブの設置場所の意向としては,高齢者の場合は温泉施設や高齢者福祉施設などに,木質ペレットについて内容まで認識している人は公共的な場所や地域経済に関連する場所に設置したらよいと考えている傾向がみられた.

このことに関連して,野村や城川ではストーブやボイラーの設置意向が多くみられた一方で,宇和や明浜といった地域や若年層等の属性では設置意向への意識的な関与が中高年層よりも遠い傾向となった.これらのことから木質ペレットを知らない人が多い明浜や若年層が多い宇和では,木質ペレットに関する情報を伝え,引き続き関心を高めていく施策が必要であると考えられる.

ただし,本研究での図1及び図2の累積寄与率は既往の研究よりも低く分析結果における信頼性の担保は十分はといえず,あくまでも利用意向の傾向を把握するに留まるため,本研究の結果を入り口とした詳細な実証研究が望まれる.また,本研究では一括りとしたペレットボイラーとペレットストーブの設置意向についてそれぞれ分けた調査・分析をすることも今後の課題であろう.

謝辞

アンケート調査の実施においては西予市産業建設部林業課の岡山孝志氏から多大なご協力をいただきました.記して感謝の意を表します.

1  本論文と同一のデータを利用した研究に間々田他(2015)がある.ただし,研究目的や分析手法は全く異なる.

2  本調査では「導入した理由」については項目を設定していない.

3  本調査では,「価格」を回答する項目について設定してない.価格は導入において重要な要因の一つであるが,この点については今後の課題としたい.

4  分析にはSPSS Statistics 18を使用した.SPSSではコレスポンデンス分析を実行する際にデータの標準化を行っている.

5  本研究での「木質ペレットの認知度」については間々田他(2015)を参照のこと.

6  なお,本研究では,調査票のスペース等の問題等により一括りでの自由回答方式を採用し,その回答を著者らが集計した結果を使用したため,回答者がどちらかを念頭において回答したかを考慮することはできない.

引用文献
 
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