農林業問題研究
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書評
伊庭治彦・高橋明広・片岡美喜 編著『農業・農村における社会貢献型事業論』
〈農林統計出版・2016年8月30日発行〉
冨吉 満之
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2017 年 53 巻 2 号 p. 117-118

詳細

本書は,農業や農村に関わる領域において,様々な組織が展開している社会貢献型の事業を対象とし,その理論の構築を試みると共に,事例分析により発展方向について検討している.本書は理論編と事例編の2部構成になっており,前者は5つの章,後者は7つの章からなる.以下で簡潔に内容を紹介し,後半で本書の意義や課題について考察する.

まず序章では農業・農村における社会貢献型事業論(以下,本事業論)の背景と意義が語られている.行政サービスのスリム化が進む中で,地域社会の維持に必要となる財やサービスの供給が縮小・停止される状況が全国各地で生じている.それを補完する形で様々な組織が社会貢献型事業を進めているが,組織形成や事業運営に困難をきたしている地域が多い.そのような状況に対して,地域や各種組織が課題を克服し,自立的かつ安定的に事業を展開するために必要な理論の構築が求められている,というのが本事業論の執筆背景とされている.

第1部の理論編では,第1章で社会貢献型事業(以下,本事業)の定義や事業主体を紹介すると共に,ソーシャル・ビジネスやコミュニティ・ビジネスといった既存の類似概念と比較する形でその特徴について考察している.第2章では,本事業に主に関わっている農事組合法人,株式会社,特定非営利活動法人(以下,NPO法人)という3つの経営形態に関わる制度と機能について整理・分析している.第3章では,農村地域において重要な組織主体となっている集落営農組織を対象として,これらの組織が展開する社会貢献型事業の展開論理を明らかにしている.第4章では,協同組合を対象に,本事業が展開される中でみられる地域社会との連携パターンをモデル化している.第5章では,新自由主義の歴史的展開という世界的な視野,観点から,本事業が全国各地でみられるようになった政治経済学的背景を明らかにしている.

第2部の事例編では,農事組合・有限会社・NPO法人(1章),集落営農(2章),生協(3章),農協(4章),四万十川流域(5章),米国家族経営農場(6章),米国フードハブ(7章)といった組織,主体,地域を取り上げ,それぞれが地域社会で展開する社会貢献型事業の紹介と分析を行っている.

本書のユニークな点は,理論編を執筆した5名の著者がそれぞれ事例編において個別の事例に対して分析を行っている点である.理論編と事例編で構成される書籍は多数あるが,各分野の研究者が1対1の対応で理論と事例を扱っている本はあまり見られない.また,既存の非営利事業,コミュニティ・ビジネス,ソーシャル・ビジネスなどといった類似概念では十分に説明することができない領域に「社会貢献型事業」という名前を与え,組織・運営の側面からの理論化を試みた点は大きな意義があると思われる.

本事業の基本概念を検討している第1章では,事業を2軸により類型化することが述べられており興味深い.具体的には,事業目的(農業経営/生活環境の維持)軸と,事業内容(財提供/サービス提供)軸である.これにより,本事業に関わる様々な取組み例が丁寧に類型化されている.

本書の執筆者は様々な専門分野の研究者であり,それぞれの切り口で社会貢献型の事業を分析している.そのことで広範な領域を扱おうとしていることは確かである.しかし,それが故に,「何を社会貢献型事業とするか」という定義,対象において不統一がみられる.理論構築を試みるのであれば,最初に定義の統一もしくは認識の共有を踏まえたうえで,各分野の研究者による議論が展開されるのが妥当であるが,本書を読む限りその形跡が見当たらない.更に,事例編の一部では,タイトルに社会貢献型事業と出ているのみで,本文にはその内容が登場せず,類似概念であるソーシャル・ビジネスに着目した事例紹介と議論が展開されている.また,本書の理論の屋台骨と思われる理論編の第1章と第2章の間ですら,定義が異なっていることは大きな課題である.これらのことは,「社会貢献型事業」に初めて触れる読者に誤解と混乱をもたらし,本書の「論」としての質を下げていると思われる.

事例編で取り上げられている国内外の事例の紹介はとても興味深く,詳細な記述から,読者は様々なヒントを得ることができるだろう.実務者にとっても有意義な情報が多いと思われる.ただし,本書の理論編で構築されたという分析枠組みに沿って,事例の分析と考察が行われている章は事例編の一部にとどまっている.

さて,以下では本書でも一定の位置づけをされている非営利組織(以下,NPO)に関する既往研究の成果を参照しながら,本事業論について若干の考察を加える.本書では非営利事業,非営利組織に関する既往研究の議論が参照されているが,その割には「農業・農村分野における」NPO活動に関する言及がなされていない.1998年に特定非営利活動促進法(いわゆるNPO法)が施行されて以降,特定非営利活動法人(いわゆるNPO法人)による活動の実態についての調査分析は様々な観点から行われてきた.例えば,2004年に『農業と経済』において,「農・食のNPOは新しい風を起こすか」として,本書が対象とする領域に関する特集が組まれている.その中で,田渕(2004)はNPOの4つの社会的機能を提起し,農・食分野におけるNPOの可能性について論じている.また,農業および農村の領域に関連したNPOの活動について定量的な分析をしているものに,中塚(2007)加藤(2011)冨吉(2010)があげられる.いずれも全国のNPO法人のデータベースから法人の目的や内容を検討し,アンケート調査や地理的分布,共起ネットワーク分析によりその組織特性や全国の傾向を明らかにしている.その後,評者は農業や農村に関わる全国のNPO法人を対象としたアンケート調査を実施し,(1)財務状況,(2)法人活動における委託事業の影響,(3)農地の利用や貸借の形態についての分析を進めてきた(冨吉・北野,2014).

なお,平成29年3月末時点での特定非営利活動法人(以下NPO法人)数は,全国で51,526法人である.NPO法人の活動分野のうち「第5号 農山漁村又は中山間地域の振興を図る活動」を対象とする法人は2,090法人となっていた(内閣府,2017).この分野は,平成24年4月のNPO法改正で当該活動分野が追加された比較的新しい分野であるが,本書の対象領域に大きく関わる制度である.公益法人制度改革や一般社団法人の動向と合わせて,本事業論の中でも整理されることが望まれる.

最後に,本書の成果を踏まえ今後の研究展開として期待される点を2点挙げる.まず,社会貢献型事業を展開している組織に関して,全国的な傾向を定量的に把握し,本書で試みられた分析枠組を用いて実証研究を進めることが挙げられる.それにより,今後の農山村における地域コミュニティの維持に向けた重要な含意が得られると思われる.2点目は,現在の農山村などにおける社会貢献型事業に対する助成・補助事業やそれを含めた政策的支援について,整理・類型化を行うことである.1点目で得られた政策的含意と2点目での政策支援の現状を比較することで,今後の展開に向けた有意義な政策提言が可能になると思われる.

引用文献
 
© 2017 地域農林経済学会
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