農林業問題研究
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研究論文
6次産業の商品開発と販路開拓に関する一考察
―古座川ゆず平井の里と西日本産直協議会の関係性に着目して―
青木 美紗
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2017 年 53 巻 2 号 p. 49-59

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1. はじめに

6次産業化は,地域資源を活用し新たな価値を創造することによって,地域の所得向上や雇用創出を図り,農業・農村を再生する役割があるとして着目されてきた.2010年には「地域資源を活用した農林漁業者等による新事業の創出等及び地域の農林水産物の利用促進に関する法律」(六次産業化・地産地消法)が制定されるなど政策的支援が整えられたこともあり,全国各地で6次産業化が推進され,2013年度における6次産業の加工・直売による市場規模は1.8兆円,従事者数は46.8万人へと拡大している(農林水産省,2015).このように6次産業化は全国的に広がりを見せており,研究対象としても数多く取り上げられている.そしてそのほとんどが,6次産業化のプロセスに関する研究となっている.

確かに6次産業化を促進する上では,農林漁業者による加工施設の設置から商品の販売に至るまでの方法を明確にすることは重要である.特に,近年では6次産業化ネットワーク活動交付金や6次産業化サポート事業など,ハード面においてもソフト面においても行政支援が整えられており,これらの支援をどう生かすのかが重要であると考えられる.

しかし高屋他(2015)の研究に見られるように,6次産業化の成功事例として捉えられている事例であっても,経営的に事業を安定させることが困難であることが指摘されている.その要因の一つとして,「法人化=支援完了」と捉える傾向があり,法人化後のきめ細かい支援が不足していることが挙げられる(室屋,2016: p. 168).とりわけ,経営資源や市場は常に変化するものであるため,その変化に対応しながら商品開発と販路開拓を柔軟かつ効率的に進めていくことは常に課題であり,新商品を開発した後の販路開拓は,継続的に事業を維持するために重要であると考えられている(櫻庭,2014).したがって,6次産業化を経て法人化し,6次産業としての組織体制がある程度確立された後に,経営を安定させ事業を継続させるための商品開発や販路開拓のプロセスにも着目する必要があると考えられる.

ところが,6次産業化における商品開発および販路開拓に関する先行研究は,農商工連携や食料産業クラスターの側面から捉えているものがほとんどである.前者は生産者と商工業者による商品開発に焦点が置かれており1,後者はワインや焼酎など特定の製品を限られた地域内で生産者・加工会社・販売業者がどのように連携し生産・販売しているのかに着眼点が置かれている2.そのため,両者とも生産から販売まで一貫して取組む6次産業と他企業の連携を対象としたものではない.

また,女性農業者による6次産業の経営者自身が形成するネットワークの役割については,仁平・伊庭(2014)の研究がある.これによると,女性農業者は行政や商工会などとネットワークを構築することで,販路開拓や商品開発に関する有益な情報を得ているということである.しかし,このネットワークは行政機関や第3次産業との連携が主であり,食品加工会社との連携による商品開発や販路拡大については深く言及されていない.

加えて,企業間における商品の価値共創3という観点からは,関係性マーケティングの理論が援用できる可能性が考えられるが,6次産業において関係性マーケティングの視点から商品開発や販路開拓を捉えた先行研究もほとんどない.

そこで本稿では,食品加工会社や農林漁業者が中心となって形成する西日本産直協議会(以下,協議会)という「ネットワーク」に参加することで,他企業と情報を共有し協同して商品開発や販路開拓を行ってきた農事組合法人「古座川ゆず平井の里」(以下,「平井の里」)の事業活動を対象に,その商品開発や販路開拓のプロセスを,企業間の関係性に着目して明らかにすることを目的とする.

なお,本稿における6次産業は,2次・3次産業からのインテグレーションではなく,小林(2013)の6次産業化の定義を参考に,「農林漁業者が,自ら,または2次産業従事者,3次産業従事者と連携して,地域資源に付加価値を付けながら消費者・実需者につながり,その収益部分のより多くを農山漁村地域にもたらして所得を確保し,活力ある地域社会の構築を目指す組織」とする.

2. 先行研究の整理と分析枠組み

(1) 関係性マーケティング

関係性マーケティングは,企業と顧客をその場限りの取引相手としてではなく,将来的に取引を続けるパートナーとして捉え,両者が良好な関係を築いていこうとするものである(久保田,2001).この考え方が登場した背景を櫻井(2008)は以下のようにまとめている.まず,製品市場が成熟化し,経済活動におけるサービス部門の重要性が高まり,取引企業間のパワー・バランスが多様化したことである.加えて,類似した製品が市場に出回る状況となり,サービスを付随させた「増幅化した製品」をいかに継続的に買い手に届けるのかが売り手企業の課題となっていることがある.さらに買い手側も市場において積極的なアクターになっており,取引における関係の長期性,継続性,そして相互作用性が着目されるようになったことである.

関係性の定義については論者により異なっており,明確に定義することは難しいとされている(久保田,2001).本稿では櫻井(2008: p. 2)の定義である「売り手と買い手の継続的取引を通じて形成される相互関係およびその維持に関与している利害関係者との関係も含めた社会関係の総体」を用いることとする.こうした関係性を形成するためにMorgan and Hunt(1994)は,関係性マーケティングにおいて重要な媒介変数を示しており,その中核概念に信頼とコミットメント4を置いている.彼らの研究では信頼を,共有された価値,コミュニケーション,機会主義的行動の回避によって高められるものとし,コミットメントは共有された価値と関係性の終止コストが影響するものと提示している.また橋本(2010)は,複数の事例から製品開発における企業と顧客(消費者)の価値共創に関する概念モデルを示した.これにおいても,信頼とコミットメントが中核概念となり,商品の共同開発という価値共創の場が,信頼やコミットメントに影響を与え長期的な関係を構築すると指摘している(図1).

図1.

製品開発プロセスにおける価値共創の概念モデル

出所:橋本(2010)を参考に筆者作成.

(2) 関係性マーケティングと農産物

関係性マーケティングを援用した農産物や食品に関する先行研究では,企業と消費者の関係を論じたものが多い(図2のA).その代表的なものに,有機農産物の生産者と消費者の取引や生活協同組合の産直事業(斎藤,2004)あるいは農産物直売所の事例(櫻井,2008)がある.

図2.

関係性マーケティングにおけるネットワークの種類

出所:櫻井(2003)陶山他(2002)を参考に筆者作成.

しかし櫻井(2003)は,産地マーケティングの観点から,消費者だけでなく食品関連企業との継続的取引に関しても関係性マーケティング論を展開することが必要であるとしている.その理由として,企業との取引は簡単に取引相手を変更できないリスクがある反面,継続性の強さと取引相手の少数性によって双方のコミュニケーションを進化させ,双方にとってより望ましい製品の開発やサービスの充実を生む可能性があるからであるとしている.一方,企業間の関係性に関する研究では,図2のBに示すように,ある企業がどのように複数企業と関係性を構築しているのかに着目しているものが多く,企業と消費者あるいは企業と企業の二者間の関係性を超えて,複数の取引先同士の関係性にまで拡張した流通ネットワーク(図2のC)の研究事例は見られないとしている.新しい農業法人は,複線的な出荷ルートを確立しており,その確立には多様な主体との関係性が実際のマーケティング活動を促進あるいは制約しているため,この複雑な関係性を解明することも重要であると指摘されている.

(3) 分析の枠組み

本研究では,6次産業が食品関連企業で構成されるネットワークに加入することによって生じた商品開発と販路開拓に着目し,そのプロセスについて関係性の観点から分析する.その際,以上の先行研究をふまえ,以下の三点を明らかにすることを目的とする.

第一点目は,企業間の信頼とコミットメントを形成する共有された価値,コミュニケーションがどのようなものであり,機会主義的な行動をどのように回避しているのか.第二点目は,6次産業と他企業が協同して商品を開発し販路を開拓する過程がどのようなものなのか.そして第三点目は,複数の企業が形成するネットワーク内における関係性の構築方法とその特徴についてである.

以上に着目し,6次産業の商品開発と販路開拓のプロセスを明らかにするために,以下の調査を行った.2014年2月13日と8月3日に「平井の里」を訪問し,担当者にインタビュー調査を実施した.その後も電話等で適宜追加調査を行った.加えて,企業間ネットワークである協議会が行った展示会(2013年7月10日,2014年6月26日,2015年7月29日,2016年6月22日)および,現地で生産工程などを見学する視察会(2014年2月12日~13日,2014年8月11日~12日,2016年5月11日~12日)に参加し,参加企業間の関係性について参与観察を行うと同時に,「平井の里」と原料調達や取引に関係する企業にインタビュー調査を実施した.

3. 調査対象の概要

(1) 農事組合法人「古座川ゆず平井の里」

農事組合法人「古座川ゆず平井の里」は,和歌山県古座川町平井集落に位置し,当地で生産される柚子をはじめとした地域農産物の加工および販売を中心に,都市住民との交流などの事業を展開している.平井集落は,総戸数77戸,人口134人,耕地面積12.9 haを有する周囲を山々に囲まれた山間集落であり,高度経済成長期に林業を中心に発展した地域である.消費地からはほど遠く,公共交通機関で行くことは難しい.

「平井の里」の出資者数は,2014年1月時点において95名であり,集落人口の71%を占め,出資総額は約1億1,250万円である.組合員への支払額の約80%が搾汁用の柚子で占めており,柚子の果汁を中心とした加工品の生産に取り組んでいることがわかる.図3は「平井の里」における加工品年間販売額の推移を示しており,年々増加していることが示されている.2007年度から2009年度にかけては,柚子に特徴的な約10年に一度の不作時期であったため一旦減少している.このとき,不作時でも経営を安定化できるように,果汁以外にも柚子の皮などを使用した加工品の開発が必要であることが検討されていた.その後2013年度の年間販売金額1億4,300万円となり黒字経営となっている.

図3.

「平井の里」加工品年間販売額の推移

出所:「平井の里」資料より筆者作成.

「平井の里」の前身は,林業の衰退とともに柚子生産が開始されたことに伴い1976年に結成された「古座川ゆず生産組合」である.1983年に果汁工場を平井集落に建設し,柚子の生産・加工・販売が開始された.柚子は極力農薬や化学肥料を使わずに安全・安心,環境に配慮して生産され,生産された柚子は主に果汁として使用される.そして,搾汁残渣の皮が生じることとなるが,これを有効活用するために1987年に「古座川ゆず平井婦人部」が結成された.その後,婦人部の高齢化が深刻になったことを機に,世代交代によって更なる飛躍を目指すために2004年に法人化し,現在の「平井の里」が設立された.このように,「平井の里」は女性が中心となって発展した6次産業であり,農村女性起業の事例としても全国的に知名度が高い5

「平井の里」における6次産業化や商品開発に関して自治体,県の普及所,民間企業との連携を明らかにした研究には堀田(2012)がある.これによると,自治体は農事組合法人の立ち上げや加工施設建設への助成や助言,カタログ作成に係る費用の支援を,生活改良普及員は新商品生産レシピの提供や加工施設の衛生管理および運営方法の指導を行い,民間企業は商品パッケージやギフトカタログの作成に協力したと報告されている.このような連携によって,中山間地域に位置する「平井の里」の事業を軌道に乗せることができたと述べられている.

また,先行研究では言及されていないが筆者のインタビュー調査によって明らかとなったこととして,生活改良普及員が大手ファストフード店と交渉し,2002年より「平井の里」の柚子果汁を用いた飲料が販売されるようになったことがある.この取引のきっかけは,その生活改良普及員と古座川町に最も近いファストフード店の店長が同級生だったことであり,関係性の中で構築された販路であった.現在においても,このファストフード店は最大の取引先であり,法人化に向けた販路として重要であったことがわかる.このことも安定した経営基盤を整え,事業を軌道に乗せた要因になったと考えられる.

このように「平井の里」は,顧客や食品企業との取引を確実なものにしてきたのではあるが,大西(2013)は,販売面において,県内直売所や通信販売が中心であるため,顧客が伸び悩んでいることから,安定的な販路先を確保することが課題となっていることを指摘している.

以上のことから,「平井の里」に関して,農村女性起業や6次産業化に関する行政および民間企業との連携に着眼点を置いた研究は存在するが,6次産業の維持に必要とされる,他企業とのネットワークによって形成される新たな商品開発や販路開拓については着目されてこなかったことがわかる.そこで本稿では,「平井の里」が6次産業として法人化した後の2010年から参加した6西日本産直協議会をきっかけに始まった商品開発と販路拡大のプロセスに焦点を当てる.

(2) 西日本産直協議会

「西日本産直協議会7」は,2010年4月に発足した食の生産者や生産者団体,加工会社などで構成される協議会である.協議会は,参加団体の独立性を重視しながら,「自然に学び,自然と共に」をテーマとし,販路や業態といった事業面に限らない交流を行っている自発的に発足した任意団体である.活動コンセプトとして,「経営安定」「コラボレーションへの意識向上」「地産地消」「本質を追求」「売り手に迎合しない」「オーナーの考え方の重要性」「商品にプライド」「思いが強い」「行動力」「応援したい」などのキーワードを挙げている.

協議会の参加団体数はおよそ30団体となっており,農業協同組合,漁業協同組合をはじめ,農業関連法人,農産物加工会社,水産物加工会社,畜産物加工会社などで構成され,その大部分が西日本に位置している(表1).参加団体の多くは,大阪府に位置するA生活協同組合(以下,A生協)の取引先となっているが,生協の取引条件に合わない団体であっても,A生協の元バイヤーが生産者や食品会社に積極的に声をかけ,それをきっかけに参加している団体もある.A生協自体は協議会のメンバーとなっていないが,協議会参加団体のコーディネートに重要な役割を担っている.なお,協議会への参加,脱退,参加頻度は各団体の意志に任されており,強制的な活動とはなっていない.

表1. 協議会展示会出展団体数の種別と所在地
参加団体種別 所在地
和歌山 三重 大阪 兵庫 奈良 岐阜 高知 鳥取 群馬 大分 熊本
農業協同組合 1
(1)1)
農業関連法人 5
(3)
1 1
(1)
漁業協同組合 2
(2)
農産物加工会社 4
(3)
1 1 1 1 2
水産物加工会社 1 3
(2)
1 2
(2)
1
畜産物加工会社 1 1
地域おこし協力隊 1 1
イベント企画・製作会社 1
(1)
合計 13 4 3 2 3 1 1 2 2 1 1

出所:西日本産直協議会提供資料(2009~2016年度)をもとにした青木(2016)の表4を筆者が加筆修正した.

1)括弧内の数値は,「平井の里」と取引関係にある,あるいは現地を訪問するなどにより生産・加工・販路に関する情報交換を積極的に行っている団体数を示している.

協議会の主な活動は,年に1回大阪市内で開催される「展示会」の開催である.展示会とは,協議会に参加している団体自身と,参加している団体から紹介を受けた他の団体等が,それぞれの商品やパンフレットを持参し,展示会場に設置されたブースで,来場者を対象に商品や活動について説明する企画である.特徴的なことは,各出展者が各自の取引先を5社程度招待することである.これにより,組織の方針や理念等の考え方が近い取引先と出会う可能性を高め,新たな事業活動への展開や販路開拓の機会を得ることができる.また出展者同士が,製造方法,販路,事業に活用できる製造技術や行政支援などの情報交換も行っており,互いの商品や経営についての理解を得る機会が創出されていることも特徴的である.加えて,行政職員や大手食品加工会社の技術者も参加しており食品関係に従事している県内外の人と人的交流を深める役割も果たしている.なお人的交流の深化について,協議会の展示会に参加した複数の団体から,「展示会に出展した事業者と,展示会に来場する事業者の双方から商品や経営に対する情報をはじめ,商品への思いや情熱を詳細に知ることができるため,通常の見本市等よりも充実した会である」という意見が聞かれた8

協議会のもう一つの主要な活動として,参加団体同士がそれぞれの生産現場を見学し,現地の状況や課題を共有する「視察会」を年に2~3回実施していることがある.視察会では,例えば漁業者が農業者を訪問するなど,異分野の現場を積極的に視察し意見交換を行い,分野を超えて,それぞれに共通する課題,生産地の特有の課題あるいは各団体の経営課題などについて議論を繰り返している.

以上のように,協議会は食生産に関する中小規模の団体を中心としたネットワークを築き,取引交渉等のビジネス目的のみに止まらず,参加団体間での草の根的な情報交換が活発に行われる場となっており,参加団体の親和性を高め多様なアイディアを生み出す下地となっている.

4. ネットワークを活用した商品開発と販路開拓

(1) 商品開発

「平井の里」では2015年10月時点において約25種の柚子加工品を製造・販売している.そのうち,ポン酢,かりんとう,ジャム,ドレッシングの4商品については,協議会に参加する他企業の商品を原料として使用している.また,「平井の里」で生産している農産物の生産にも,協議会の他企業の商品を活用している.図4は,「平井の里」と協議会の参加企業が関与している商品について,企業間の関係を示している.以下において,それぞれの商品について具体的に述べる.

図4.

「平井の里」における商品開発と協議会の関係

資料:聞き取り調査により筆者作成.

1)網掛けの団体は協議会に直接関与している団体である.

2)実線矢印はモノの流れ,破線矢印はサービスの流れを示している.

1) ポン酢

「平井の里」はポン酢の原料の一部に,大阪府内のB食品加工会社の商品を使用している.B食品加工会社は,「食づくりを通じての豊かな社会の実現」という経営理念のもと「安全で安心」で顧客が満足できる商品の提供に尽力しており,生協や農協の商品も製造している.A生協とも取引関係にあり,B食品加工会社の職員がA生協の店舗に置かれていた「平井の里」のポン酢の存在を知ったことが「平井の里」とB食品加工会社がつながりをもつきっかけとなった.

これを機に,B食品加工会社はA生協の元バイヤーを通じて「平井の里」を紹介してもらい,「平井の里」のポン酢を平井集落からA生協の店舗まで配送するようになる.中山間地域に位置し量産できない「平井の里」にとっては,商品を配送したいときだけ配送してくれるB食品加工会社のような企業を長年探していたという.配送というサービスの関係が深まる中,B食品加工会社で生産された原料を2010年よりポン酢に使用することとなった.というのも,「平井の里」は,地域性を重視した商品開発への理念をもっているため,自社で生産できない原料についてはなるべく近隣の地域から仕入れたいと考えていたことがあり,和歌山県の近くに位置するB食品加工会社の原料を使用することで,より顧客満足度を高める狙いがあったためである.このようにB食品加工会社とは配送というサービス関係が発展して,より地域性の強い商品を開発することとなった.その後もB食品加工会社は,この商品を配送しており,販路構築にも貢献している.

2) かりんとう

C食品加工会社は,和歌山県内に本社を置く1949年創業の米糠加工会社であり,協議会の展示会にも発足当初より毎年参加している.C食品加工会社は,その理念の中に「安全・安心」「環境配慮型事業」を掲げており,A生協と取引があることから,A生協の元バイヤーからの紹介で協議会に参加した.

C食品加工会社と「平井の里」は協議会の展示会を通じて,互いの商品に関する情報交換を行った結果,C食品加工会社の商品である米油を使用したかりんとうを2012年に新商品として開発することとなった.C食品加工会社の担当者が,商品を製造できそうな製造業者を探し,同年,商品開発に成功し販売している.米油は他の油に比べて食物繊維が豊富であるなどの特徴を持ち,同県内で生産された米油を原料にすることで,栄養価の向上や県内産という地域性を商品に加えることが実現され,商品価値を高めている.

3) ジャム

D農業協同組合は,和歌山県内に位置し,かんきつ類の栽培を中心に長年環境保全型農業に尽力している協議会のメンバーである.そして生協とも産直事業において長年取引があり,農業のもつ本来の価値を提供することを基本に,安全安心で美味しい農産物を届けることに務めている.近年は太陽光発電事業にも取り組むなど環境や生産地に配慮した事業を展開してきている.「平井の里」は,D農業協同組合と柚子(青果物)の取引などで,20年以上良好な関係を保ってきた.「平井の里」が協議会に参加したきっかけも,D農業協同組合の組合長からの紹介であった.

「平井の里」では柚子を使ったジャムを商品として開発する際に,その原料となる農産物をD農業協同組合で生産されているものを使用することとした.なぜなら,D農業協同組合の農産物は環境に配慮して栽培されたものであり,かつ同県内の食材であるため,環境・安心・地域性を付加することで商品価値を高めることが可能であるからである.そして,この商品や「平井の里」の加工品はD農業協同組合の直売所でも販売されており,販路先の一つとなっている.

4) ドレッシング

ドレッシングの原料にも協議会参加企業の商品を活用している.そのきっかけは,2010年にC食品加工会社が試作として,「平井の里」の柚子と自社の米油を使用したドレッシングを作ったことであり,その後商品化された.またドレッシングには油の他にもタマネギ等の野菜が必要であり,それらは環境に配慮した生産を行っているD農業協同組合から仕入れている.

さらに,原料となるこれらの農産物の一部は「平井の里」でも生産している.この農産物を生産する時に,E食品加工会社の商品である有機質肥料を利用している.E食品加工会社は,和歌山県に位置する米の加工会社であり,環境に配慮しながら栄養価の高い米を生産する精米技術を保持しており生協との取引もある.この会社では,米加工の副産物として有機質肥料も生産しており,これ用いて農産物を生産すると甘みが増大するため,ドレッシングに使用する農産物として高い品質を有することとなるという.この有機質肥料について「平井の里」は,D農業協同組合から紹介を受け,協議会が正式に発足する前の2008年より使用することとなった.

このように協議会参加企業の原料や肥料を使用して生産されたドレッシングは,C食品加工会社やE食品加工会社が自社の商品を販売するときの具体的な商品例として顧客に紹介するため,その行動が「平井の里」の商品の販路開拓にも繋がっている.

(2) 販路開拓

「平井の里」の取引先には,約8,000名の個人消費者と約30社の卸売業者や小売業者がある.このうち,協議会と関係する企業は4企業であり,2013年における総売上の約5.7%を占めている.4企業のうちの一つはD農業協同組合であり,前項で述べたように,柚子(青果物)の取引やD農業協同組合の直売所における加工品の販売を行っている.以下では,D農業協同組合を除く3企業との関係性について考察する.図5はその3企業との関係について示している.

図5.

「平井の里」における販路開拓と協議会の関係

資料:聞き取り調査により筆者作成.

1)網掛けの団体は協議会に直接関与している団体である.

2)実線矢印はモノの流れ,破線矢印はサービスの流れを示している.

1) F食品加工会社との取引

F食品加工会社は,鳥取県に位置する水産物加工会社であり,協議会発足当初より協議会のメンバーとなっている.企業理念として,環境・健康・絆・交流・感動を掲げ食べものづくりを通じて,人・社会・自然の健康づくりに貢献することを目指していることもあり,複数の生協とも取引がある.

F食品加工会社は自社の水産物加工品に「平井の里」の柚子の皮を用いた商品を2010年に開発した.「平井の里」の柚子は,農薬や化学肥料の使用をできる限り抑えた農法で栽培されているため,付加価値を高めることができているという.この商品はF食品加工会社の販路を通して,A生協を含む全国の小売業者に供給されている.また,「平井の里」の柚子が不作となったときは一時的に異なる産地からの柚子を使用するが,「平井の里」との取引を打ち切ることはない.

2) G卸売業者との取引

G卸売業者は品質や商品コンセプトにこだわりをもった商品を取り扱っている.「平井の里」は,協議会の展示会でA生協による紹介を受け,2010年に商談を開始した.「平井の里」は,量産ができないため,商談開始時は新たな取引に対して消極的であった.しかし,G卸売業者とは少量の取引が可能であることがわかり2011年に取引を開始した.

G卸売業者は,「平井の里」から商品を受け取った後,各小売業者が発注してきた量に配分し供給しているため,「平井の里」にとっては仕分け作業を省略できる上,より多くの販路を確保できる取引先となっている.また,常に一定量を必要としない取引形態であることも,こだわりを維持するために小規模生産を継続したいと考えている「平井の里」にとっては重要な取引先であると考えられる.

さらに,G卸売業者が取引関係にある異なる卸売業者を「平井の里」に紹介し,関東方面での販売が提案された.その販売地域には既に「平井の里」の他の取引先が販路を持っていたため,既存の取引先との関係を考慮して,通常の販売価格よりもやや高い価格で取引が成立した.このように価格交渉力を高めながら全国規模で販路を構築するきっかけになっている.

3) 他地域の農事組合法人との取引

D農業協同組合の紹介により,2009年より他地域の農事組合法人とも加工品である柚子茶を取引している.この農事組合法人も多くの生協を取引先としており,安全安心に加えて環境や地域に配慮した生産に取組んでいる.したがって生産や商品への共通の理念があり,「平井の里」にとっては消費者を確保しやすい販売先となっている.

4) A生協の組合員との交流

「平井の里」はA生協の取引条件に適合しないため,A生協と定期的な取引はしていない.しかしA生協の各店舗において,「平井の里」の職員が直接A生協の組合員に商品を紹介する実演販売を年に数回実施する機会を得ている.これは,西日本産直協議会の中心となっているA生協の元バイヤーが,少しでも「平井の里」の商品を組合員に知ってもらい,販売の協力をしたいという想いから始まったものである.また,A生協の組合員活動のひとつである産地交流の訪問対象地として,組合員に産地の状況や商品の特徴を説明する機会を得た経験がある.このように,消費者と直接コミュニケーションを図ることによって,商品の改善点が明らかとなることもしばしば生じ,消費者が求める商品を考案するきっかけとなっている.同時に,「平井の里」の職員が,自社商品の価値を見出す機会にもなっており,商品の説明や「平井の里」の取組み内容を説明する経験を重ねることができている.

5. 考察

本節では,前節で見た「平井の里」の商品開発と販路開拓について,第2節(3)で示した3つの視点から,協議会に参加している企業との関係性の構築に着目して考察する.

(1) 企業間の信頼とコミットメントの形成

まず企業間の信頼とコミットメントを形成する共有された価値とコミュニケーションについて述べる.「平井の里」が協同によって商品開発や販路開拓に取り組んでいる企業は,食の安全・安心,環境への配慮,健康,生産地への貢献などの理念を掲げている傾向があり,生協と取引関係にある企業も多いことがわかる.またこれらの理念は,協議会のキーワードにもあてはまっていることから,同じような理念をもつ企業が協議会に参加し互いの考え方を共有しているといえる.

コミュニケーションに着目すると,協議会では展示会や視察会を通して,商品の価値だけでなく生産現場や生産技術,取引先に関する情報を積極的に,かつオープンに交換していることがわかる.企業にとってこのような情報交換をすることは互いの信頼構築に繋がるものである.また「平井の里」の生産現場を他企業が訪問することで,中山間地域で小規模ながらも付加価値の高い商品を製造する「平井の里」を他企業が「応援したい」気持ちになると考えられる.

このようなオープンな関係を構築していることに加えて,各企業の担当者がA生協の元バイヤーに強い信頼を置いており,協議会のキーワードにあるような「売り手に迎合しない」姿勢,すなわち機会主義的行動の回避に貢献していると考えられる.

(2) 商品開発と販路開拓のプロセス

まず,商品開発において,協議会に参加する他企業とコミュニケーションを図ることによって,お互いの商品を使って何かできないかを一緒に考えながら,他企業の商品を原料として使用し「平井の里」の新商品を開発していることがわかる.これによって,栄養,安全・安心,環境配慮,地域性などの価値を付加しながら原料まで説明できる商品を消費者に供給することが可能となっている.協議会には生産ラインの技術者も参加しており,「平井の里」は製造に関するアドバイスも受けることができている.

次に,販路開拓について考察を行う.上述したように,原料の製造会社が自社製品とともに「平井の里」の商品の販路を展開していることが明らかとなった.同時に,協議会参加団体からの紹介により「平井の里」が独自の販路を開拓しているケースがあることもわかる.一般的に「平井の里」のような山間部に位置する小規模な農事組合法人は量産が難しく,取引において不利になるケースが多いと考えられる.しかし,「平井の里」と価値を共有する企業が協議会に多数参加しているため,協議会のネットワークを活用することで,互いの販路先として取引が成立しやすい環境を整えていると考えられる.

さらに消費者組織である生協の組合員とのコミュニケーションが商品開発や販路開拓に生かされていること,A生協の元バイヤーが「平井の里」と組合員を積極的に結び付けようと努力していることが,商品の考案や生産地に対する理解者の増加に繋がっている.

(3) 複数企業間の関係性構築とその特徴

「平井の里」が複数企業間との関係性を構築できた理由として,協議会の理念に共感できる企業が協議会に結集していること,また協議会に参加している企業の紹介によって新たな企業が協議会に参加していることが挙げられる.これによって,「平井の里」と協議会が共通の理念を保持することが可能となり企業間の関係性をより構築しやすくしていると考えられる.

そして複数企業が協議会に参加していることによって,アイディアやノウハウを共有し,それらの企業と商品開発や販路開拓に連鎖的に取り組むことができている.これによって,6次産業にとっては負担となりがちな取引費用(取引先を探す費用や取引先と交渉する費用)を抑制することが可能となっているといえる.

6. 結論

「平井の里」は6次産業の中でも成功事例として紹介されている.その成功要因として,先行研究で挙げられているように,6次産業化の段階において,リーダー的人材が存在したこと,行政や民間企業との連携があったことがあり,これらは組織の土台を形成し発展させる上では非常に重要であった.

それらに加えて,6次産業が確立された後においても他企業とのネットワークを活用し,相互に良好な関係性を構築することによって,商品の付加価値を高め,「平井の里」の生産条件や経営規模に適した販路先を,取引費用を抑制しながら開拓し,より安定的な経営を維持する基盤が整えられていることも,重要な一要因であることが本研究によって明らかとなった.

このような環境を生み出す背景には,共通した理念を持つ企業とネットワークを構築しプラットフォームとなる協議会においてオープンなコミュニケーションを図り,複数企業間において信頼構築とコミットメントを高めていたことがある.

以上より,6次産業が複線的な取引先を長期的に確保するためには,多様な主体間によって形成される関係性に基づいたマーケティングと他企業との価値共創が可能なプラットフォームの構築が有効であるといえる.

なお本稿は「平井の里」のみに着目したが,それ以外の協議会内の企業も関係性を構築し,本稿の内容と同じように商品開発や販路開拓を展開している.今後は,協議会に参加する他の団体に関する研究をさらに進めることを通じて,協議会が食品産業や生産地に与える具体的な効果について調査を行い,関係性によって構築されたプラットフォームの役割についての研究をより深化させていきたい.

謝辞

本研究は,平成25年度JA研究奨励費(一般研究)を受けて得た調査内容を基に,さらに深化・発展させた研究であるため,ここに感謝の意を表したい.

1  農商工連携の事例として,室屋(2008)は,(株)オハラ,(株)恵那川上屋,JA氷見市の取組みを,また林他(2012)は新潟県村上市の大洋酒造の取組みについて取り上げている.

2  国内における食料産業クラスターの事例研究としては,紀州南高梅(斎藤,2004),勝沼のワイン(影山他,2006),南九州の焼酎産業(山崎,2005),石狩の大豆(森嶋・斎藤,2009),市田柿(唐沢,2013)などがある.

3  村松(2015)は価値共創を,「顧客の消費プロセスで企業と顧客が相互作用することで文脈価値を生み出すこと」と定義しており,企業と消費者による価値共創を主に取り上げている.本稿では,企業同士の関係にも着目するため,価値共創を「企業と顧客が継続的な相互作用を行うことで,複数企業によって顧客の文脈価値を生成すること」とする.また文脈価値を,「商品あるいはサービスを利用する顧客が認知する価値」とする.

4  信頼とは,交換を行う相手を信じ頼りにしようとする感情であるとする.またコミットメントとは,相手との継続的関係を維持しようとする意志とする(橋本,2010).

5  農事組合法人「古座川ゆず平井の里」を対象とした農村女性起業が地域社会における6次産業化事業として展開した組織的要因については,原・堀田(2014)を参照されたい.

6  実際には,協議会発足のきっかけとなった2009年の展示会から参加している.

7  西日本産直協議会に関するデータは,著者の聞き取り調査(2013年7月10日以降)によるものである.

8  著者による西日本産直協議会の展示会時の聞き取り調査による(調査日:2015年7月29日).

引用文献
 
© 2017 地域農林経済学会
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