わが国の水田農業では,認定農業者や集落営農組織等「担い手経営」への農地集積が喫緊の課題となっている.このような農地集積による農業構造改革の先進地域として位置づけられているのが,北陸の平坦部であり,経営規模が20 haを超えるような大規模水田経営体への農地集積が加速化している(大仲,2013).これに対して,中山間地域では,平坦部のような大規模な農地集積が困難であるというのが通説となっている.しかしながら,周知のように,中山間地域では農業従事者の減少・高齢化に伴う農地の荒廃が年々深刻化しており,ある意味では平坦部以上に「担い手経営」への農地集積が必要といえる.
一口に中山間地域といっても地形条件は多様であり,増渕(1993)は,中山間地域を大きく「盆地型」と「峡谷型」に分類している.「盆地」と「峡谷」を区別するものは,傾斜度や土地面積の広狭であるが,両者を区別する明確な基準は存在しない1.本稿では,引水形態が地形条件と密接に関連していることを考慮に入れ,「峡谷型中山間地域」を「農地の多くが沢地河川沿いに造成されており,小河川や沢水からの灌漑が卓越しているため,集落単位での水利組織がほとんどみられない中山間地域」と定義する.本稿で対象とする四国の中山間地域では,「峡谷型」が卓越している.上述のように「峡谷型中山間地域」では,水利を紐帯とする集落のまとまりが強固とはいえず,集落営農組織の形成が進んでいない.このため,個別経営体が離農農家や規模縮小農家が手放す農地の受け皿となっているケースが多い.
「峡谷型中山間地域」における今後の農業構造を展望する上で,農地の受け皿となっている個別経営体の実態把握と課題抽出を行うことは有意義といえる.四国中山間地域の水稲作を対象とした研究は,第3セクター等の農作業受託組織を扱ったものが多く(大隈,2004;細川他,2005;縄,2000),個別経営体の農地集積に関しては十分な研究蓄積がない.以上の点を踏まえ,本稿では,「峡谷型中山間地域」として位置づけられる愛媛県上浮穴郡久万高原町を事例に,積極的に水田借入と農作業受託を行っている3つの水稲作個別経営体を分析対象として2,農地集積の実態と制約要因を明らかにするとともに,今後の展望について検討したい.
本稿の調査対象地域である愛媛県上浮穴郡久万高原町は,県の中南部に位置する平均標高約800 mの農山村である.図1により,久万高原町(旧久万町)の河川系統をみると,4つの河川が縦走しており,これら4河川から,「櫛の歯状」に小河川が分岐していることがわかる.河川沿いの渓谷に水田が造成されており,「峡谷型中山間地域」の様相を呈している.2010年センサスによれば,同町の総農家数は1,513戸,経営耕地面積は746 haであり,1990年~2010年の20年間に,前者が36%,後者が41%減少している.総農家数が減少する中で,経営規模が3 ha以上の農家数は,1990年の3戸から2010年の10戸へと3倍以上増加している.また,水田の貸借が活発になっており,田の借入面積は,1990年の61 haから2010年の81 haへと33%増加している.一方,1990年には164 haであった水稲作の基幹3作業(耕起・代かき,田植,稲刈り・脱穀)の延べ受託面積が,2010年には100 haとなり,40%近く減少している.

久万高原町(旧久万町)の河川系統図
表1は,調査対象経営の概況を示したものである.A経営→B経営→C経営の順に水稲作経営面積3が大きくなっている.いずれの経営も,借入地の割合が50%を超えており,とくにB経営は90.5%,C経営は79.8%と高い数値を示している.自作地面積は0.5~1.5 haの範囲である.また,3経営ともに,農業従事者数は4名であり,経営主が高齢であるA,B経営には,20~30歳代の農業後継者が確保されている.農業関連収入(農産物販売,農作業受託,農産物加工による収入)は,最多のC経営が2,000万円弱であり,A,B経営はいずれも500万円台である.A,B経営は米の販売収入が収入の大半を占めるが,C経営は農作業受託や農産物加工による収入のウェイトが高い.米の出荷先をみると,いずれの経営も農協出荷に加えて,消費者への直接販売を行っており,B経営は量販店(大阪)にも出荷をしている.A,B経営は直接販売,C経営は農協出荷のウェイトが高い.農業機械の所有状況をみると,A経営は1セットの機械で水稲作の基幹3作業に対応しているが,B経営はコンバイン,C経営はトラクターを2台所有しており,圃場区画の広狭により使い分けをしている.
| A経営 | B経営 | C経営 | ||
|---|---|---|---|---|
| 水稲作経営面積(ha) (括弧内は借入地面積) |
3.71 (2.25) |
5.27 (4.77) |
7.57 (6.04) | |
| 作業受託面積(ha) (括弧内は委託戸数) |
耕起・代かき | 0.50(5) | 0.53(4) | 5.00(30) |
| 田植 | 1.30(7) | 1.57(6) | 10.00(50) | |
| 稲刈り | 2.00(10) | 2.27(8) | 15.00(80) | |
| 農業従事者(年齢) | 経営主(65) | 経営主(79) | 経営主(39) | |
| 妻(62) | 妻(78) | 弟(31) | ||
| 長男(36) | 孫(30)1) | 父(72) | ||
| 嫁(37) | 孫(27)1) | 母(69) | ||
| 農業関連収入(万円) | 農産物販売 | 米 316 | 米 473 | 米 360 |
| しいたけ 150 | しいたけ 10 | |||
| しきび 10 | ||||
| 農作業受託 | 耕起・代かき 10 | 耕起 3 | 耕起・代かき 80 | |
| 田植 9 | 代かき 8 | 田植 60 | ||
| 稲刈り 40 | 田植 11 | 収穫 300 | ||
| 稲刈り 45 | 畦塗り 80 | |||
| 乾燥・調製 42 | 乾燥・調製 600 | |||
| 農産物加工 | ― | ― | 弁当 300 | |
| 米粉・小麦粉 20 | ||||
| 米の出荷先2)(%) | 農協 | 42.9 | 28.6 | 70.6 |
| 消費者直接販売 | 57.1 | 59.5 | 29.4 | |
| 量販店 | ― | 11.9 | ― | |
| 所有農業機械(台数) | トラクター | 1(37 ps) | 1(23 ps) | 2(41 ps, 34 ps) |
| 田植機 | 1(5条植) | 1(5条植) | 1(8条植) | |
| コンバイン | 1(4条刈) | 2(2条刈,3条刈) | 1(5条刈) | |
資料:聞き取り調査.
1)B経営における経営主の孫2名は,いずれも男性.
2)出荷先の内訳に関して,A,C経営は数量ベース,B経営は金額ベースで計算した.
3経営への調査結果をもとに,水田借入や農作業受託による農地集積の実態をみていきたい.各経営の水田借入開始年をみると,A経営とC経営はほぼ全てが「2000年代以降」であり,B経営は「2000年代以降」と「1990年代」が概ね半数ずつである(表2).全体を通じて「1990年代以前」からの借入はきわめて少ない.借入の経緯をみると,ほとんどが「相手からの依頼」である.また,3経営ともに,相手は「親戚以外」が「親戚」を上回っている.貸借形態をみると,B経営とC経営はほぼ全てが「賃貸借」であり,A経営は「使用貸借」が「賃貸借」を若干上回っている.賃貸借での小作料は物納であり,10 a当たりの相場は0.5~0.75俵である.借入地の位置については,A経営とB経営ではほとんどが「居住集落内」であるが,C経営では「居住集落外」の方が多い.また,借入地と既存農地との隣接状況をみると,いずれの経営も「非隣接」が「隣接」を上回っている.「峡谷型中山間地域」では,地形的にみて既存農地の近隣に水田を借り入れることが難しく,規模拡大に伴い,水田が沢に沿って縦長に分散する構造にある.A経営の水田配置をみると,この特徴が端的に現れていることがわかる(図2).A経営の場合,自作地はすべて自宅から500 m以内の場所にあるが,既存農地に隣接する水田の借入は少なく(8件中2件),半数以上の借入地は自宅から2 km以上離れた場所にある.借入による規模拡大を進めた結果,水田が縦長に分散せざるを得なくなっているといえる.次に,表1により,農作業受託の延べ面積(基幹3作業)をみると,A経営が3.80 ha,B経営が4.37 ha,C経営が30.00 haであり,経営面積の場合と同様にC経営の数値が突出している.農作業受託による収入は,A経営が59万円,B経営が109万円,C経営が1,120万円であり,C経営では収入の半分以上を占めている.調査対象地域における標準農作業料金は,耕起・代かきが2万円/10 a,田植が7千円/10 a,稲刈りが2万円/10 a,乾燥・調製が1千円/30 kgである.
| A経営 | B経営 | C経営 | ||
|---|---|---|---|---|
| 借入件数 | 8 | 15 | 24 | |
| 借入開始年 | 2000年代以降 | 8(100) | 6(40.0) | 23(95.8) |
| 1990年代 | 0(0) | 8(53.3) | 0(0) | |
| 1990年代以前 | 0(0) | 1(6.7) | 1(4.2) | |
| 借入の経緯 | 相手からの依頼 | 7(87.5) | 15(100) | 20(83.3) |
| 自分から働きかけ | 0(0) | 0(0) | 3(12.5) | |
| 第三者の仲介 | 1(12.5) | 0(0) | 1(4.2) | |
| 相手 | 親戚2) | 1(12.5) | 4(26.7) | 4(16.7) |
| 親戚以外 | 7(87.5) | 11(73.3) | 20(83.3) | |
| 貸借形態 | 賃貸借 | 3(37.5) | 15(100) | 22(91.7) |
| 使用貸借 | 5(62.5) | 0(0) | 2(8.3) | |
| 位置 | 居住集落内 | 7(87.5) | 15(100) | 9(37.5) |
| 居住集落外 | 1(12.5) | 0(0) | 15(62.5) | |
| 既存農地との隣接状況 | 隣接 | 2(25.0) | 5(33.3) | 8(33.3) |
| 非隣接 | 6(75.0) | 8(53.3) | 14(58.3) | |
| 不明 | 0(0) | 2(13.3) | 2(8.3) | |

A経営の水田配置
調査対象経営における水田借入は,多くが農作業受託から切り替わったものであり,この動きは2000年代より顕著になっている.すなわち,1990年代までは「水管理や畦畔除草であれば対応可能」という農家が多く,このような農家は,機械作業のみを「担い手経営」に委託していた.しかしながら,2000年代に入ると,このような農家のリタイアや世代交代が進み,水管理や畦畔除草を行える者が少なくなったため,農作業受委託から水田貸借への切り替えが生じることになる.すなわち,農地の供給が増加している一方で,農作業受委託への需要が減少しているのが,調査対象地域の「担い手経営」を取り巻く今日の状況である.
調査対象地域では,小河川や沢水からの灌漑が行われており,堰ごとに受益農家の話し合いにより取水時期が決定されるとともに,共同での水路清掃が行われている.つまり,堰を単位とした「水系」が形成されている.水系ごとの受益農家数は5~10戸程度であり,1つの集落の中にいくつもの水系がある.このような水利構造の下で,水稲作経営が規模拡大をすると,経営水田が多くの水系に分散する.各経営が関わる水系数をみると,A経営が7,B経営が11,C経営が19であり,規模が大きくなるに従い,増加していることがわかる(表3).
| A経営 | B経営 | C経営 | ||
|---|---|---|---|---|
| 経営面積(ha) | 3.71 | 5.27 | 7.57 | |
| 水田の分散 状況 |
筆数 | 31 | 43 | 110 |
| 水系数 | 7 | 11 | 19 | |
| 一筆面積別 にみた水田 の比率(%) |
10 a未満 | 35.5 | 34.9 | 76.4 |
| 10~20 a | 58.1 | 60.5 | 23.6 | |
| 20 a以上 | 6.4 | 4.7 | ― | |
資料:聞き取り調査,農地台帳.
水稲作経営の規模拡大に伴う水系数の増加は,水管理(各経営が個別に行う水路の見回りや水田への引水・落水等)や共同での水路清掃への負担増をもたらす.久万高原町の場合,中小規模の水稲作経営(3.0 ha未満)であれば,灌漑期間中は数日に1回の頻度で,水管理を行えば良いとされている.しかしながら,表4をみると,調査対象3経営は,いずれも水管理を毎日行っており,1日当たり作業時間はA経営が2時間,B,C経営が3時間であることがわかる.また,同表より,水系数の増加に伴い,水路清掃への出役回数と出役時間が増加していることが確認できる.水系数が最も多いC経営の場合,出役回数は年12回,出役時間は48時間である.C経営は,水管理を全て自分で行うことが困難であり,遠隔地にある借入水田(6筆,32 a)の水管理を地権者に依頼している.また,水路清掃に関しても「出役できず,出不足金を払う場合がある」と回答している.
| A経営 | B経営 | C経営 | ||
|---|---|---|---|---|
| 経営面積(ha) | 3.71 | 5.27 | 7.57 | |
| 水系数 | 7 | 11 | 19 | |
| 水管理 (個人) |
頻度 | 毎日 | 毎日 | 毎日 |
| 時間/日 | 2 | 3 | 3 | |
| 水路清掃 (共同) |
回/年 | 6 | 9 | 12 |
| 時間/年 | 11 | 39 | 48 | |
資料:表1に同じ.
久万高原町では,1960年代中頃から構造改善事業による圃場整備が行われ,現在,水田の整備率は約70%である.しかしながら,水田が傾斜地に造成されているため,平地農村のような30 a区画での整備は困難である.表3により,3経営における水田の一筆面積をみると,ほとんどが20 a未満であり,10 a未満の水田もかなりの割合を占めている.とくにC経営は,10 a未満の水田が全体の80%近くであり,水田筆数が110筆と群を抜いて多い.規模拡大に伴う水田筆数の増加は,畦畔面積(法面を含む)の増加を意味し,畦畔除草の負担が大きくなる.とりわけ,傾斜地の水田では,本田面積に対する畦畔面積の割合が大きくなり,調査対象地域の場合は,法面の高さが4 mを超える水田も珍しくない.
表5は,調査対象経営における畦畔除草の実施状況を示したものである.畦畔除草の回数はA,C経営が5回,B経営が3回であり,時期は4月~10月である.使用機械は,A,B経営が刈払機のみであり,C経営は刈払機とトラクターを併用している.延べ作業時間は,A経営が128時間,B経営が224時間,C経営が800時間であり,10 a当たりに換算すると,A経営が3.5時間,B経営が4.3時間,C経営が10.6時間となる(3経営の平均は7.0時間)4.鬼頭他(2010)は,平坦地水田での畦畔除草を10 a当たり2.0時間,傾斜地水田での畦畔除草を8.8時間と試算している5.調査方法が異なるため6,単純な比較はできないが,C経営は,畦畔面積が本田面積を上回るような小区画水田が多く,10 a当たりの畦畔除草時間は,鬼頭らの試算による傾斜地水田での数値を1.8時間上回っている.一方,A経営は,3経営の中では相対的に小区画水田が少なく,法面も高いところで1.5 m程度であるため,畦畔除草時間はC経営の約3分の1である.
| A経営 | B経営 | C経営 | |
|---|---|---|---|
| 経営面積(ha) | 3.71 | 5.27 | 7.57 |
| 水田筆数 | 31 | 43 | 110 |
| 作業回数 | 5 | 3 | 5 |
| 作業時期 | ①4月末 ②5月末 ③6月末 ④7月末 ⑤8月末 |
①5月 ②6~7月 ③8月 |
①5月 ②6月 ③7月 ④8月 ⑤10月 |
| 使用機械 | 刈払機 | 刈払機 | 刈払機 トラクター |
| 延べ作業時間1) | 128(3.5) | 224(4.3) | 800(10.6) |
| 作業精度 | 十分 | 不十分 | 不十分 |
資料:表1に同じ.
1)括弧内は10 a当たりの数値.
また,B経営は「法面の高い水田では,全部の草を刈ることができない場合がある」,C経営は「畦畔面積の大きい水田では,トラクターで草刈りを行っているが,刈払機と比較して精度が低い」と回答しており,経営面積が5 haを超えるこれら2つの経営では,畦畔除草における十分な精度の確保が困難になっていることがわかる.さらに,C経営の場合,遠方にある借入地では,地権者に畦畔除草を依頼することもある.
3経営の水稲作経営規模に対する今後の意向は,A,C経営が規模拡大,B経営が現状維持である(表6).また,規模拡大を希望しているA経営とC経営に対して,借入に特化した場合と農作業受託に特化した場合の二つのケースに分け,最大でどの程度までの耕作面積の拡大が可能かを尋ねた.その結果,借入に特化した場合は,A経営,C経営ともに10.00 ha,農作業受託に特化した場合は,A経営が耕起・代かき30.00 ha,田植30.00 ha,稲刈り20.00 ha,C経営が耕起・代かき15.00 ha,田植20.00 ha,稲刈り25.00 haと回答していた.
| A経営 | B経営 | C経営 | |||
|---|---|---|---|---|---|
| 経営面積(ha) | 3.71 | 5.27 | 7.57 | ||
| 今後の意向 | 規模拡大 | 現状維持 | 規模拡大 | ||
| 最大 耕作 可能 面積 (ha) |
借入に特化 | 10.00 | ― | 10.00 | |
| 農作業 受託に 特化 |
耕起・ 代かき |
30.00 | ― | 15.00 | |
| 田植 | 30.00 | ― | 20.00 | ||
| 稲刈り | 20.00 | ― | 25.00 | ||
資料:表1に同じ.
次に,A経営を念頭に置いて,①借入に特化して最大限に規模拡大を行う場合(経営面積は10.00 ha),②農作業受託に特化して最大限に規模拡大を行う場合(受託面積は耕起・代かき30.00 ha,田植30.00 ha,稲刈り20.00 ha)の所得をそれぞれ試算した(表7).前者の場合は,所得が800万円程度である.一方,後者の場合は,水管理や畦畔除草の必要がなくなるため,前者の2~3倍の面積での作業が可能となり,種苗費,肥料費,農業薬剤費,諸材料費,支払地代の負担もないので,1,000万円を超える所得が見込まれる.
| ケース | 借入に特化 | 農作業受託に特化 | ||
|---|---|---|---|---|
| 最大耕作可能面積 | 10.00 ha | 耕起・代かき | 30.00 ha | |
| 田植 | 30.00 ha | |||
| 稲刈り | 20.00 ha | |||
| 収入1),2) ① | 米販売収入 13,160,000円 | 耕起・代かき | 6,000,000円 | |
| 田植 | 2,100,000円 | |||
| 稲刈り | 4,000,000円 | |||
| 計 | 12,100,000円 | |||
| 経費 ② | 種苗費3) | 697,900円 | ― | |
| 肥料費3) | 1,128,300円 | ― | ||
| 農業薬剤費3) | 719,100円 | ― | ||
| 光熱動力費4) | 392,322円 | 580,352円 | ||
| その他の諸材料費3) | 543,000円 | ― | ||
| 農機具費5) | 874,980円 | 740,500円 | ||
| 支払地代6) | 307,440円 | ― | ||
| 租税公課 | 163,000円 | 163,000円 | ||
| 計 | 4,826,042円 | 1,483,852円 | ||
| 所得 ③=①–② | 8,333,958円 | 10,616,148円 | ||
1)米の販売量は500 kg/10 a(A経営における平年値)とした.また,出荷先は農協40%,個人販売60%と仮定し,農協出荷の米単価は14,100円/60 kg(久万高原町産米の2013~15年度の平均),個人販売単価は16,920円/60 kg(農協出荷の20%増)と仮定した.
2)10 a当たり作業料金は,耕起・代かきと稲刈りが20,000円,田植が7,000円して計算した.
3)現在のA経営における10 a当たり種苗費は6,979円,肥料費は11,283円,農業薬剤費は7,191円,その他の諸材料費は5,430円である.規模拡大に伴いこれらの経費が比例的に増加すると仮定した.
4)A経営が現在所有する農業機械をそのまま利用し,規模拡大に伴い経費が比例的に増加すると仮定した.トラクター,田植機,コンバイン,籾すり機,乾燥機に関しては,愛媛県(2009)に記載されている経費のデータ,刈払機に関しては,A経営からの聞き取りをもとに試算をした.
5)A経営が現在所有する農業機械の減価償却費を計算した.
6)借入地の40%が賃貸借と仮定し,10 a当たり小作料は9,000円(米30 kg分)として試算した.
このように,調査対象地域の水稲作経営は,借入に特化するよりも農作業受託に特化する方が,所得面で優位性を持つ.しかしながら,前述のように,調査対象地域では水管理や畦畔除草を行える農家の減少に伴い,農作業受委託への需要が減少している.A経営,C経営のいずれも「今後は,農作業受委託から水田貸借への切り替えが進み,受託面積を増やせる見込みは少ない」と回答している.
本稿の調査対象地域である愛媛県久万高原町では,水稲作個別経営体が借入や農作業受託による農地集積を進めている.しかしながら,「峡谷型中山間地域」特有の地形条件により,規模拡大に伴い,小区画の水田が沢に沿って縦長に分散するとともに,多くの「水系」にまたがる構造にある.水管理や畦畔除草への負担が大きくなるため,借入に特化した場合の経営面積の拡大は10 ha程度までが限界と考えられ,水稲作所得は800万円程度である.一方,農作業受託に特化した場合は,20~30 haの規模での作業が可能となり,1,000万円を超える所得が期待できる.しかしながら,近年は水管理や畦畔除草を行える者が少なくなっており,農地供給が増加する一方で,機械作業に限定される農作業受委託への需要が減少している.このため,「担い手経営」が農作業受託面積を増やすことは困難な状況にある.
今回の調査対象である「担い手経営」のうち,経営規模が5 haを超えるB,Cの2経営は,すでに十分な畦畔除草の精度を保てなくなっており,今後借入面積を増やした場合,畦畔除草の粗放化がさらに進行することが懸念される7.また,調査対象地域では,堰や水路の管理体制も少数の農家による脆弱なものであり,農業従事者の減少・高齢化が進むことにより,「担い手経営」のみに負担が集中する恐れがある.この問題の解決に向けては,水管理や畦畔除草を行える人材を組織化することが必要であり,日本型直接支払の一つである「多面的機能支払交付金」の活用が有効と考えられる.2016年度に久万高原町で同交付金が支給されたのは171集落中17集落であり,未支給集落において農業者もしくは地域住民による受け皿づくりを進めることが課題となろう.1.で述べたように,当該地域は集落自体の紐帯が強固とはいえないため,流域あるいは水系単位での組織化を図るなど,「峡谷型中山間地域」の地形条件を活かした体制づくりが望まれる.