農林業問題研究
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個別報告論文
地域おこし協力隊員の地域コミットメントの特性
―定住意向との違いに着目して―
柴崎 浩平中塚 雅也
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2017 年 53 巻 4 号 p. 227-234

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1. 背景と目的

過疎・高齢化が著しい農山村地域の人的資源を確保するため,これまで様々な主体によって都市住民の移住・定住を促す取り組みがおこなわれてきた.近年では移住・定住を促進するだけでなく,地域をサポートする人材として移住者を位置づけ,活用するといった地域サポート人材事業も注目を浴びている.例えば,総務省の事業である地域おこし協力隊制度(2009年~)がそれである.同制度の目的は,都市住民に地域協力活動に従事してもらいながら(最長3年間),定住・定着を図ることにある.隊員の主なマネジメント主体は地方自治体行政であり,総務省からは隊員1人あたり年間約400万円(隊員への報酬費等約200万円,その他の経費約200万円)の財政支援がなされている.また,隊員数は89名(2009年度)から3,978名(2016年度)と大幅に増加しており,任期を終えた隊員のうち,「約6割の隊員が同じ地域に定住した」といった報告も挙げられている(総務省,2015).

一方近年では,定住だけではない多様な住み方が志向されているなど,地域との関わり方は多様化している1.そのため移住促進という文脈において,定住を促進し,人口を増加させることのみにこだわらない視点の重要性が指摘されている.例えば図司(2013)は,地域サポート人材事業の評価軸を検討するにあたり,定住を目的とすることに疑念を呈している.また筒井他(2015)は,人口は増えていないものの,新たな考え方や発想,スキルをもつ人材が流入している地域が散見されることに着目し,移住の促進政策を軽率に人口増加政策として位置付けることに警鐘を鳴らしている.以上を受け,農山村地域の人的資源を確保していくにあたっては,定住を促進し,人口を確保するという視点だけではなく,いかに地域と関わり続ける人材を確保していくのか,といった居住の有無にこだわらない視点も必要であると考える.そこで筆者らは,地域コミットメントという概念に着目し,地域と個人の心理的な関係性について検討を重ねてきた2.後述するように地域コミットメントとは,これまで着目されてきた地域への愛着を包含する概念であり,地域に関わり続けるといった行為を説明する変数としても着目されている.しかし,定住意向とどのような違いがみられるかなど,地域コミットメントの特性については十分な検討がなされていないのが現状である.

そこで本稿は,地域サポート人材の一例である地域おこし協力隊員を対象として,地域コミットメントがもつ特性を定住意向との違いに着目して明らかにすることを目的とした.具体的に明らかにする課題は,①定住意向とどのような関係にあるのか,②赴任期間や年代,性別,家族構成といった個人属性とどのような関係にあるのか,またそれは定住意向と個人属性の関係とどのように違うのか,③活動環境とどのような関係にあるのか,またそれは定住意向と活動環境の関係とどのように違うのか,の3つである.

2. 研究の方法

(1) 地域コミットメント

地域コミットメントは,組織行動論などで知見が蓄積されてきた組織コミットメントを地域に援用した概念である.組織コミットメントは,離転職を防ぐものとして注目されはじめ,実際,離転職の意思と一貫して負の関係があるとされている(高木,2003).その主要概念は,大きく2つに分けることができる(鈴木,2002).1つ目は,愛着や同一化,組織メンバーとの仲間意識など,組織への好意的な感情を基に成り立つ情緒的コミットメントである.2つ目は,「活動を中止したら失うか無価値になることから首尾一貫した行動へ結びつく性質」を意味するサイドベットなど,組織との功利的なつながりを意味する概念で構成される功利的コミットメントである.地域コミットメントも同様,情緒的・功利的コミットメントから構成される(中塚,2008).地域コミットメントの被説明変数としては,他出者のUターン志向や地域活動への参加意向が検討されており,その関係が明らかにされている(中塚,2008引地他,2010).また説明変数としては,地域住民の個人属性や経験との関係が明らかにされており,居住期間が長い者ほど情緒的コミットメントが高く,年代が高い者ほど功利的コミットメントが高いこと,そして青年期の役員経験が地域コミットメントにいくらかの影響を及ぼすことなどが明らかにされている(中塚,2008).

(2) 分析と調査の方法

分析は後述するアンケート調査のデータに基づき,以下の流れで進めていく.まず,単純集計および因子分析を通して隊員が保持する地域コミットメントの概要を整理する.そして,地域コミットメントと定住意向の相関分析をおこなう(課題①に対応).その後,個人属性ごとの地域コミットメント・定住意向の平均値を比較する(課題②に対応).最後に,地域コミットメント・定住意向と活動環境の相関分析をおこなう(課題③に対応).

アンケート調査の対象者は現役の地域おこし協力隊員である.調査は2015年11月29,30日に兵庫県で開催された地域おこし協力隊全国サミット(隊員,自治体職員,一般参加者など総勢800名が参加)においておこなった.隊員に直接声をかけ,調査の依頼をおこない,了承が得られた者にはその場でアンケート用紙に記入してもらうようにした.その結果得られた調査票は167部であり,有効回答数は152部であった.質問項目は大きく分けて,地域コミットメント,定住意向,活動環境,属性がある.地域コミットメントの質問項目は表1の通りである.情緒的コミットメントについては,地域への誇りや愛着,地域が抱える問題への同一化について尋ねた3.功利的コミットメントについては,「地域や地域住民との関わりがなくなったことを想定した時,どのような感情を抱く,または状態になるでしょうか」と明記したうえで,周囲からの信頼の喪失や,精神的支えの喪失,経済的ダメージについて尋ねた.定住意向については,「地域に住み続けたいか」と尋ねた.活動環境については,大きく分けて活動に対するやりがいと精神的・技術的なサポートについて尋ねた(表2).前者については,おこないたい活動ができているかといった点や,活動の楽しさや責任感について,後者については,活動の楽しさや苦悩を共有できる知人や,知識・スキルを提供してくれる知人が存在するかといった点について尋ねた.なお,以上に挙げた地域コミットメント,定住意向,活動環境については,いずれも5段階評価(1:全くあてはまらない,2:どちらかというとあてはまらない,3:どちらともいえない,4:どちらかというとあてはまる,5:非常にあてはまる)で尋ねている.

表1. 地域コミットメントの領域と質問項目
領域 質問項目
情緒的
コミット
メント
この地域(住民)と関わっていることを誇りに思う
この地域(住民)に愛着を持っている
この地域(住民)が抱える問題を自分の問題のように思う
功利的
コミット
メント
地域との関わりがなくなると,周囲からの信頼を失うこととなる
地域との関わりがなくなると,精神的な支えを失うこととなる
地域との関わりがなくなると,経済的にダメージを受ける
地域との関わりがなくなると,今後おこなっていきたいと考えている活動ができなくなる

資料:中塚(2008)柴崎・中塚(2016b)をもとに筆者作成.

表2. 活動環境の領域と質問項目
領域 質問項目
やりがい
のある
活動
おこないたい活動ができている
楽しいと思える活動ができている
責任感を感じる活動に従事している
精神的・
技術的
サポート
楽しさや悩みを共有できる知人が身近にいる
自分にない知識やスキルを提供してくれる知人が身近にいる

資料:筆者作成.

3. 結果

(1) 対象者の概要

対象者の概要は表3の通りである.赴任期間は3か月未満が19人,3か月以上半年未満が37人,半年以上1年未満が48人となっており,1年未満の者が68.4%をしめる.年代は20歳代が78人,30歳代が51人となっており,20~30歳代が84.7%をしめる.性別は男性が93人で61.2%をしめ,家族構成は独身が120人で78.9%をしめる.なお,度数の少なかった赴任期間の2年以上3年未満や年代の50歳以上,家族構成の子供あり(既婚)は,それぞれ1年以上2年未満,40歳代,子供なし(既婚)と合計し,分析をすすめることとした.

表3. 調査対象者の個人属性
個人属性 人数
(人)
割合
(%)
赴任
期間
3か月未満 19 12.5
3か月以上半年未満 37 24.3
半年以上1年未満 48 31.6
1年以上2年未満 33 21.7
2年以上3年未満 15 9.9
年代 20歳代 78 51.3
30歳代 51 33.6
40歳代 18 11.8
50歳以上 5 3.3
性別 男性 93 61.2
女性 59 38.8
家族
構成
独身 120 78.9
子供なし(既婚) 24 15.8
子供あり(既婚) 8 5.3

1)n=152.

(2) 地域コミットメントの概要

本節では,隊員が保持する地域コミットメントの概要を整理する.具体的には,単純集計および因子分析をおこなう.

4は,表1でみた質問項目について尋ねた結果をまとめたものである.情緒的コミットメントとして設定した項目を上から順にみていくと,平均値は3.95,4.09,3.66,各項目に対して5と答えた者は36.2%,42.1%,25.0%,4は32.9%,34.2%,33.6%となっている.それらを合わせると,69.1%,76.3%,58.6%であり,いずれも半数を超えていることがわかる.一方,功利的コミットメントとして設定した項目を上から順にみていくと,平均値は3.14,2.73,2.49,3.10となっており,いずれにおいても情緒的コミットメントとして設定した項目より低い.各項目に対して5と答えた者は16.4%,11.2%,6.6%,20.4%,4は23.0%,15.1%,12.5%,19.7%となっている.それらを合わせると,39.5%,26.3%,19.1%,40.1%であり,いずれも半数を下回っていることがわかる.

表4. 地域コミットメントに関する集計結果
5段階評価 平均値 標準
偏差
1 2 3 4 5
情緒的
コミット
メント
誇りに思う 1.3(2) 7.2(11) 22.4(34) 32.9(50) 36.2(55) 3.95 1.00
愛着を持っている 0.7(1) 7.9(12) 15.1(23) 34.2(52) 42.1(64) 4.09 0.97
地域の問題を自分の問題のように思う 3.3(5) 11.2(17) 27.0(41) 33.6(51) 25.0(38) 3.66 1.07
功利的
コミット
メント
周囲からの信頼を失う 11.8(18) 18.4(28) 30.3(46) 23.0(35) 16.4(25) 3.14 1.24
精神的な支えを失う 19.7(30) 25.7(39) 28.3(43) 15.1(23) 11.2(17) 2.73 1.25
経済的にダメージを受ける 25.7(39) 25.7(39) 29.6(45) 12.5(19) 6.6(10) 2.49 1.19
おこないたい活動ができなくなる 15.1(23) 20.4(31) 24.3(37) 19.7(30) 20.4(31) 3.10 1.35

1)n=152.

2)単位:%(人).

続いてこれらの質問項目について因子分析(SMC法および最尤法)をおこなった4.その結果,因子数の増加に伴う固有値の変化は2.91,1.60,0.80…というものであり,2因子構造(累積寄与率64.6%)が妥当であると考えられた.共通性についても極端に低い項目はみられなかったため,因子軸の回転をおこなった.その際,因子間に相関関係が想定されることを考慮し,プロマックス回転法を採択した.その結果得られた因子パターン行列は表5の通りである.表1で想定していた通りに因子を抽出することができたため,第1因子を情緒的コミットメント,第2因子を功利的コミットメントと解釈し,分析を進めた.その際,これらの結果から推定された因子得点を用いることとした.

表5. 地域コミットメントの因子分析
質問項目 第1
因子
第2
因子
誇りに思う 0.912 –0.001
愛着を持っている 0.821 –0.001
地域の問題を自分の問題のように思う 0.642 0.001
周囲からの信頼を失う –0.065 0.661
精神的な支えを失う 0.103 0.649
経済的にダメージを受ける –0.104 0.637
おこないたい活動ができなくなる 0.162 0.585
因子間相関 0.348

1)因子負荷量が0.500以上のものを太字で表記.

(3) 地域コミットメントと定住意向の関係

地域コミットメントと定住意向の関係についてみていくにあたり,まず定住意向について尋ねた結果を概観する.「地域に住み続けたいか」と5段階評価で尋ねたところ,5と答えた者は38人(25.0%),4は47人(30.9%)であり,それらを合わせると半数を超える(55.9%).そのため半数以上の者は地域への定住意向を保持しているといえよう.一方で,3と答えた者は38名(25.0%),2は14名(9.2%),1は15名(9.9%)存在していた.また,平均値は3.52,標準偏差は1.24となっている.

地域コミットメントと定住意向について相関分析をおこなった結果をまとめたものが表6である.表にあるように,情緒的・功利的コミットメントともに,定住意向と有意な正の相関関係にあることがわかった(p<0.01).そのため,定住意向が高い者ほど地域コミットメントも高く保持している傾向にあるといえよう.また相関係数に着目すると,功利的コミットメント(r=0.308)よりも情緒的コミットメント(r=0.536)で強いことがわかる.

表6. 地域コミットメントと定住意向の相関分析
情緒的コミットメント 功利的コミットメント
定住意向 0.536*** 0.308***

1)***p<0.01,**p<0.05,*p<0.10.

(4) 地域コミットメントと個人属性の関係―定住意向との違い―

本節では,個人属性と地域コミットメント・定住意向の関係性についてみていく.具体的には,赴任期間,年代,性別,家族構成ごとに地域コミットメントの因子得点,定住意向の5段階評価得点の平均値を比較する.その際,赴任期間や年代については分散分析をおこなうとともに,多重比較をおこなった.そして性別・家族構成については,まずF検定をおこない,分散に有意差がみられなかったため,等分散の場合のt検定をおこなった.

まず,赴任期間ごとの平均値をみていく(表7).分散分析をおこなったところ,情緒的コミットメントにのみ群間で有意な差がみられた(F(3, 148)=4.00, p<0.01).情緒的コミットメントの平均値を赴任期間ごとにみると,3か月未満で最も低く(–0.56),次いで半年以上1年未満(–0.13)で低い.一方で,3か月以上半年未満(0.19)や1年以上3年未満(0.21)で高いことがわかる.多重比較をおこなった結果,3か月未満よりも3か月以上半年未満で有意に高いことがわかった.なお,功利的コミットメントは分散分析の結果では有意な差はみられなかったものの,多重比較をおこなったところ,3か月未満(–0.41)よりも3か月以上半年未満(0.19)や半年以上1年未満(–0.01),1年以上3年未満(0.02)で有意に高いことがわかった.情緒的コミットメントと同様,3か月未満で低いことがわかる.以上のことから,地域コミットメントは赴任期間の長さで異なること,そして3か月未満の者で低く,3か月以上の者で高い傾向にあると解釈される.

表7. 赴任期間ごとの地域コミットメント・定住意向の平均値の比較
赴任期間 F値 多重比較の結果
(1)3か月未満
(n=19)
(2)3か月以上
半年未満
(n=37)
(3)半年以上
1年未満
(n=48)
(4)1年以上
3年未満
(n=48)
情緒的
コミットメント
–0.56 0.19 –0.13 0.21 4.00*** (1)<(2)***
功利的
コミットメント
–0.41 0.19 –0.01 0.02 2.04 (1)<(2)**,(1)<(3)*,
(1)<(4)*
定住意向 3.37 3.41 3.54 3.65 0.37

1)n=152.

2)***p<0.01,**p<0.05,*p<0.10.

続いて,年代ごとの平均値をみていく(表8).分散分析をおこなったところ,功利的コミットメント(F(2, 149)=2.98, p<0.10)と定住意向(F(2, 149)=3.40, p<0.05)において群間で有意な差があることがわかった.功利的コミットメントの平均値を年代ごとにみると,40歳代以上(–0.33)で低く,30歳代(0.18)で高いことがわかる.多重比較の結果においても,それらの間に有意な差があることがわかった.定住意向の平均値をみると,20歳代(3.27)で低く,30歳代(3.76)と40歳代以上(3.83)で高い傾向にあることがわかる.多重比較の結果においても,20歳代と30歳代の間,20歳代と40歳代以上の間に有意な差があることがわかった.なお,情緒的コミットメントは分散分析の結果では有意な差はみられなかったものの,多重比較をおこなった結果,40歳代以上(–0.32)よりも30歳代(0.14)で有意に高いことがわかった.以上のことから,地域コミットメントと定住意向はともに年代によって異なることがわかった.ただしその内実は異なっており,地域コミットメントは30歳代で高く40歳代で低い一方,定住意向は30歳代や40歳代以上で高く20歳代で低い傾向にあることがわかった.

表8. 年代ごとの地域コミットメント・定住意向の平均値の比較
年代 F値 多重比較の結果
(1)20歳代
(n=78)
(2)30歳代
(n=51)
(3)40歳代以上
(n=23)
情緒的コミットメント 0.00 0.14 –0.32 1.86 (2)>(3)*
功利的コミットメント –0.02 0.18 –0.33 2.98* (2)>(3)**
定住意向 3.27 3.76 3.83 3.40** (1)<(2)**,(1)<(3)*

1)n=152.

2)***p<0.01,**p<0.05,*p<0.10.

続いて性別・家族構成ごとの平均値を比較するためt検定をおこなった(表9).その結果,功利的コミットメントにのみ性別で有意な差があることがわかった(t(150)=1.97, p<0.10).数値をみると,男性は–0.11,女性は0.17となっており,女性の方が高いことがわかる.なお,有意な差はみられなかったものの性別ごとに他の変数をみると,情緒的コミットメント,定住意向ともに男性よりも女性の方が高いことがわかる.以上にみてきたように,功利的コミットメントは性別によって異なり,男性よりも女性で有意に高いことがわかった.ただし,情緒的コミットメントや定住意向においてもその傾向は確認された.

表9. 性別・家族構成ごとの地域コミットメント・定住意向の平均値の比較
性別 t値 家族構成 t値
男性(n=93) 女性(n=59) 独身(n=120) 既婚(n=32)
情緒的コミットメント –0.04 0.06 0.62 –0.03 0.12 0.80
功利的コミットメント –0.11 0.17 1.97* –0.06 0.21 1.55
定住意向 3.43 3.66 1.12 3.45 3.78 1.35

1)n=152.

2)***p<0.01,**p<0.05,*p<0.10.

(5) 地域コミットメントと活動環境の関係―定住意向との違い―

本節では,地域コミットメント・定住意向と活動環境の関係性についてみていく.具体的には,表2に示した質問項目の結果を概観した後,因子分析をおこなう.そして,地域コミットメント・定住意向と活動環境の相関分析をおこなう.

10は,表2でみた質問項目について尋ねた結果をまとめたものである.活動のやりがいとして設定した項目を上から順にみていくと,平均値は3.59,4.02,3.61であり,4や5と答えた者を合わせると56.6%,73.0%,55.9%といずれも半数を超えている.精神的・技術的サポートとして設定した項目を上から順にみていくと,平均値は3.57,3.62であり,4や5と答えた者を合わせると58.5%,61.1%といずれも半数を超えている.

表10. 活動環境に関する集計結果
5段階評価 平均値 標準
偏差
1 2 3 4 5
やりがいのある活動 おこないたい活動への従事 5.3(8) 9.9(15) 28.3(43) 34.2(52) 22.4(34) 3.59 1.10
楽しい活動への従事 2.0(3) 7.9(12) 17.1(26) 32.2(49) 40.8(62) 4.02 1.04
責任感のある活動への従事 3.9(6) 11.2(17) 28.9(44) 31.6(48) 24.3(37) 3.61 1.09
精神的・
技術的サポート
楽しさや悩みの共有 8.6(13) 14.5(22) 18.4(28) 28.9(44) 29.6(45) 3.57 1.28
知識・スキルの享受 5.3(8) 17.8(27) 15.8(24) 32.2(49) 28.9(44) 3.62 1.22

1)n=152.

2)単位:%(人).

続いてこれらの質問項目について先程と同様の手順で因子分析をおこなった5.その結果,因子数の増加に伴う固有値の変化は2.70,1.00,0.58…というものであり,2因子構造(累積寄与率74.3%)が妥当であると考えられた.共通性についても極端に低い項目はみられなかったため,因子軸の回転をおこなった(プロマックス回転法).その結果得られた因子パターン行列は表11の通りである.表2で想定していた通りに因子を抽出することができたため,第1因子をやりがいのある活動,第2因子を精神的・技術的サポートと解釈し,分析を進めた.その際,これらの結果から推定された因子得点を用いることとした.

表11. 活動環境の因子分析
質問項目 第1因子 第2因子
おこないたい活動への従事 0.950 –0.064
楽しい活動への従事 0.711 0.186
責任感のある活動への従事 0.646 0.002
楽しさや悩みの共有 –0.003 0.719
知識・スキルの享受 0.046 0.616
因子間相関 0.514

1)因子負荷量が0.500以上のものを太字で表記.

続いて地域コミットメントと活動環境の相関分析をおこなった(表12).その結果,功利的コミットメントとやりがいのある活動を除くすべての変数間で有意な正の相関にあることがわかった(p<0.01).地域コミットメントとの相関係数に着目すると,功利的コミットメントはそれぞれ,0.144,0.267であるのに対し,情緒的コミットメントは0.418,0.525といずれの場合も高いことがわかる.以上にみてきたことから,活動へのやりがいや精神的・技術的サポートを感じている者ほど,地域コミットメント,なかでも情緒的コミットメントを高く感じる傾向にあり,定住意向も高い傾向にあるといえる.

表12. 地域コミットメント・定住意向と活動環境の相関分析
やりがいの
ある活動
精神的・
技術的サポート
情緒的
コミットメント
0.418*** 0.525***
功利的
コミットメント
0.144 0.267***
定住意向 0.361*** 0.401***

1)***p<0.01,**p<0.05,*p<0.10.

4. 考察

以上の分析から得られた結果は以下の通りである.①地域コミットメントは定住意向と有意な正の相関関係にあり,功利的コミットメントよりも情緒的コミットメントで相関が強い.②属性との関係として,地域コミットメントは赴任期間や年代,性別で,定住意向は年代で異なる傾向がある.③活動環境との関係として,活動へのやりがいや精神的・技術的サポートを感じている者ほど,地域コミットメント,なかでも情緒的コミットメントを高く感じる傾向にあり,定住意向も高い傾向にある.

①や③の結果からは,地域コミットメントと定住意向が似た特性を保持することが示唆される.しかし②の結果からは,それらが異なった特性を持つことが示唆されよう.以下では,属性との関係に着目しつつ,地域コミットメントと定住意向の違いについて考察を加える.

まず,赴任期間との関係として地域コミットメントは3か月未満の者で低く3か月以上の者で高い傾向がみられたが,定住意向は赴任期間ごとで有意な差はみられなかった.本研究の結果のみで一概に言うことはできないが,地域コミットメントは赴任初期に向上すると考えられる.そして③の結果を考慮すると,地域コミットメントを向上させるきっかけとして活動のやりがいや精神的・技術的サポートといった活動環境が機能していると考えられた.一方定住意向は,活動環境との関連はあるものの影響を受けづらく,3年という期間内で向上しにくいことが考えられる.また地域コミットメント・定住意向はともに,年代によって異なることがわかった.ただしその内実は異なっており,地域コミットメントは30歳代で高く40歳代で低い一方,定住意向は30歳代や40歳代以上で高く20歳代で低い傾向にあることがわかった.地域住民を対象とした先行研究(中塚,2008)では,地域コミットメントは年齢と有意な正の相関にあることが確認されているが,隊員を対象にした場合異なる傾向にあるといえる.さらに性別に関して,地域(功利的)コミットメントは男性よりも女性で有意に高いことが確認された.ただし,定住意向においても同様の傾向が確認された.そのため性別との関係において地域コミットメントと定住意向は異なる特性にあると判断することは難しいと考えられる.

地域サポート人材をマネジメントする主体には,地域コミットメントと定住意向それぞれの特性を考慮した体制を構築していくことが望まれる.また本調査では,55.9%もの隊員が定住意向を保持していることが確認された.この割合は,実際に任期終了後も同じ地域に住み続けている隊員の割合と近い.闇雲に「定住した」割合の高低を議論するのではなく,個々人の定住意向の高低およびその変化の形と任期終了の実態との関係性について議論を重ねていく必要がある.

5. 結論

現役の地域おこし協力隊員に対しておこなったアンケート調査から得られた152名のデータを基に,地域コミットメントの特性を定住意向との違いに着目して明らかにした.

地域コミットメントと定住意向は有意な正の相関にあるだけでなく,それらはともに活動のやりがいや精神的・技術的サポートといった活動環境と有意な正の相関にあるなど,似た特性がみられた.しかし,個人属性(赴任期間や年代)との関係において異なる特性にあった.地域コミットメントは赴任初期に向上する一方で,定住意向は3年という期間内で向上しにくいことが考えられた.そして,地域コミットメントが向上するきっかけには,活動のやりがいや精神的・技術的サポートが機能していることが考察された.また,年代との関係において地域コミットメントは30歳代で高く40歳代以上の者で低い一方,定住意向は30歳代や40歳代以上で高く20歳代で低い傾向にあることがわかった.

なお,本調査の対象者は隊員のなかでも地域おこし協力隊全国サミットに参加している者である.そのため自身の活動環境を好意的に評価している者が多いなど,サンプリングに偏りがあることも考えられる.また,本調査は一時点での調査であるため,地域コミットメントや定住意向の変化に言及した部分は限定的であると言わざるを得ない.これらは今後の課題としたい.

1  筆者らは,農山村へ移住した若者が望む住み方や働き方といった生活像のタイプを4つ抽出している.詳しくは,柴崎・中塚(2016a)を参照されたい.

2  例えば柴崎・中塚(2016b)では,他出した後も地域と継続的に関わる地域おこし協力隊出身者が保持する地域コミットメントを明らかにするとともに,彼らがどのように地域と関わっているのかを明らかにした.

3  本稿における地域の範域は,隊員の主なマネジメント主体が市町村行政となっていることから,大きくても市町村を想定し,アンケート用紙にもそのことを明記した.

4  「愛着を持っている」という項目には天井効果もみられるが,地域コミットメントを把握するうえで重要な項目であると判断し,削除せずに分析を進めた.

5  「楽しい活動への従事」という項目には天井効果もみられるが,活動環境を把握するうえで重要な項目であると判断し,削除せずに分析を進めた.

引用文献
 
© 2017 地域農林経済学会
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