2018 年 54 巻 2 号 p. 36-43
本研究では,エチオピアにおけるテフ栽培を事例として取り上げ,農業センターによる種子供給の効果や農家の種子調達の持続性について検討すると共に,国や地域における品種の多様性の維持に関して考察した.政府機関へのインタビュー,現地で得られた資料の分析,農村への追加的ヒアリングを実施した.テフの種子供給に関して,政府機関が開発したQUNCHOという品種が農村にかなり浸透している状況にあった.公的機関による新品種の導入は農家の収量増加に寄与している面もあるが,これらの品種は肥料提供とセットで行われる場合も多く,地域農業の持続性の観点からは課題があるといえる.また,農家は自家採種,近隣農家との種苗交換,市場での購入,改良品種の導入といった様々な方法でテフの種子を確保していた.これらの農家の多様な行動と,政府機関による継続的な新品種の導入とがあわさる形で,テフの品種多様性は維持されていると考えられる.