農林業問題研究
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個別報告論文
モザンビーク北部高地における新たなダイズ作付体系の導入可能性
小出 淳司山田 隆一
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2018 年 54 巻 2 号 p. 53-59

詳細

1. 背景と目的

モザンビーク北部を東西に横断するナカラ回廊は,土壌や気象条件に恵まれた農業生産ポテンシャルの高い地域である.特に,内陸の主要都市であり,ナカラ回廊の中部,西部にそれぞれ位置するグルエとリシンガは,降雨量が多い冷涼高地にあり,周辺一帯にはトウモロコシなど主食穀物の栽培に加え,商品価値の高い豆類などの栽培に適した肥沃土が広がる(国際協力機構(JICA),2010).当地域の農家は,これらの栽培を中心とする半自給・半商業的農業を営んでいるが,その生産性や収益性は低く,フードセキュリティーと所得向上の双方が課題とされている.中でもダイズは,国内の鶏肉需要の増加を背景として近年注目が集まっており,商品価値の高い豆類の一つとして,農家もトウモロコシなどの自給を前提とした増産に意欲的であるが,現状では多くの経営的課題に直面している.特に,化学肥料など生産資材の不足,および作付拡大のための土地,労働力の不足が深刻化しており(山田他,2014),これらの課題に対する具体的なアプローチの一つとして,農家の経営目標に加え,土地利用効率や施肥管理などに着目したダイズ作付体系の適正化と,その導入可能性の解明が望まれる.しかし,そのような研究はこれまで実施されてこなかった.

こうした背景のもと,グルエとリシンガの近郊では近年,国際協力機構(JICA)による農業研究開発プロジェクト1の一環として,新たなダイズ作付体系の導入を目的としたほ場試験が農家の参加,管理のもとで実施された.本稿では,同試験の参加農家を対象として行った調査の結果をもとに,モザンビーク北部高地における半自給・半商業的農業の経営改善に向けた新たなダイズ作付体系の導入可能性について明らかにする.

2. 調査と分析方法

ほ場試験の対象村は,ダイズの市場条件などを考慮し,グルエとリシンガそれぞれ1村ずつ選定された.いずれも市内から20 kmほど離れた幹線道路沿いに位置する.試験参加農家は,村長や農家組合による話し合いをもとにグルエで11戸,リシンガで8戸が選定された.これらの農家は,村全体の人口(グルエの村6,366人,リシンガの村3,162人)からするとごく一部であるものの,典型的な半自給・半商業的経営を営む小規模農家を中心に構成されている.経営耕地としては,両地域ともに自ら開墾した土地や父親などから相続した土地を耕作する場合がほとんどで,試験参加農家についても同様である.なお,試験参加農家を含め,両地域に暮らす農家は農業の他にも様々な農外活動に従事している.農外活動は主に,薪取りや水汲みなどの生活労働,狩猟・採集,漁労などの生業,そして商取引や運転手,石工,裁縫などの農外就労から成る.

調査においては,ほ場試験が開始された2013年以降,各地域の参加農家を対象にまず営農記帳指導を行った.そして,定期的な記帳簿の点検と回収を経て,試験が終了した2015年までにダイズを含む各農家の栽培作物全ての生産量,価格,費用,労働時間等のデータを蓄積した2.また,各農家の全ほ場を回ってGPSにより一筆ずつ面積を測定し,経営面積,単収,収益性等を把握した.この他,各農家の世帯構成や農産物の消費,農外活動等について,調査票を用いて詳細に聞き取りした.

調査データを用いて,まず各地域のほ場試験における新たなダイズ作付体系の収益性を評価し,その上で,農家経営における導入可能性を分析する.導入可能性の分析にあたっては,現状の栽培作物に加え,新たなダイズ作付体系の導入を想定した最適作目構成を,所得最大化を経営目標とした線形計画モデルにより推定する3.その際,土地・労働制約や利益・技術係数は各農家の実績値に基づいて設定し,また主食作物については単収と自家消費量をもとに自給制約式を追加することで,各農家の経営資源や技術水準,さらには食料自給志向を反映した計画モデルを作成する4.加えて,各農家が行っている農外活動のプロセスを追加し,農業部門と農外部門との労働配分に基づく現実的な計画モデルを作成する5.以上の計画モデルから導き出された最適解に関して,新たなダイズ作付体系の採用傾向を農家間,地域間で比較するとともに,ダイズ作をめぐる経営内,地域内の主要な問題を想定した試算を行う.

3. 新たなダイズ作付体系の収益性

両地域のほ場試験では,新たなダイズ作付体系として,各参加農家がダイズ単作とダイズ+トウモロコシ間作を施肥区,無施肥区に分けて実施した6.ダイズ+トウモロコシ間作は,農家の半自給・半商業的な経営実態と土地利用効率の観点から新たに考案されたものである.ダイズ単作については,グルエの場合,試験前より各農家の裁量で作付けが行われてきたが,試験では新たに播種方法の指導が行われ,裁植密度も統一された.リシンガの農家においては,ダイズ作そのものが初めての試みであった.また,試験では両地域で従来行われているトウモロコシ単作(無施肥),さらにその施肥区も併せて設置された.

1に,これらの試験区から得られた平均単収,所得等を整理した.同表からは,主に次の点が読みとれる.まず,両地域ともにダイズ単作の所得が最も高い.ダイズ+トウモロコシ間作についても,無施肥区では比較的高い所得が得られているが,トウモロコシ単作の所得は施肥にかかわらず低位である.地域的にみると,どの作付体系もグルエのほうがリシンガより所得が高い傾向にある.主な要因としては,リシンガではトウモロコシの単収が高い一方,グルエではトウモロコシより価格の高いダイズの単収が高いことが挙げられる.また,グルエに比べ,リシンガでは雇用労働費が嵩んでいることも一因である.リシンガでは全体の経営面積が大きく(後述),労働力を自給できていない農家が多いことが背景にある.

表1. 農家ほ場試験におけるダイズ,トウモロコシの各種作付体系の平均単収,所得等
グルエ(11戸) リシンガ(8戸)
間作
(無施肥)
間作
(施肥)
ダ単作
(無施肥)
ダ単作
(施肥)
ト単作
(無施肥)
ト単作
(施肥)
間作
(無施肥)
間作
(施肥)
ダ単作
(無施肥)
ダ単作
(施肥)
ト単作
(無施肥)
ト単作
(施肥)
ト単収
(t/ha)
0.27 0.29 n/a n/a 0.22 0.51 0.38 0.88 n/a n/a 0.45 1.34
ダ単収
(t/ha)
0.45 0.41 0.99 1.17 n/a n/a 0.38 0.39 0.74 0.93 n/a n/a
ト販売単価
(Mt/kg)
7.3 7.3 n/a n/a 7.3 7.3 8.5 8.5 n/a n/a 8.5 8.5
ダ販売単価
(Mt/ha)
15.6 15.6 15.6 15.6 n/a n/a 11.4 11.4 11.4 11.4 n/a n/a
粗収益
(Mt/ha)
8,687 8,148 15,236 18,268 1,642 3,643 7,464 11,440 8,244 10,559 3,573 10,863
雇用労働費
(Mt/ha)
1,136 1,136 1,364 1,364 1,445 1,445 5,343 5,343 5,348 5,348 5,360 5,360
種子費
(Mt/ha)
2,796 2,796 2,331 2,331 3,353 3,353 2,796 2,796 2,331 2,331 3,353 3,353
化学肥料費
(Mt/ha)
0 9,600 0 2,100 0 9,600 0 9,600 0 2,100 0 9,600
費用合計
(Mt/ha)
3,932 13,532 3,695 5,795 4,798 14,398 8,139 17,739 7,679 9,779 8,713 18,313
所得
(Mt/ha)
4,755 –5,384 11,541 12,473 –3,156 –10,755 –675 –6,299 565 780 –5,140 –7,450

資料:調査結果に基づき作成.

1)「ト」はトウモロコシ,「ダ」はダイズを示す.「間作」はダイズ+トウモロコシ間作を示す.

2)ダイズ単作の施肥区ではリン酸肥料,ダイズ+トウモロコシ間作とトウモロコシ単作の施肥区ではNPKが施用された.

3)Mtはモザンビークの通貨(メティカル)を示す.

4)平均所得の多重比較(Tukey法)の結果,グルエでは間作(無施肥)とト単作(施肥),間作(施肥)とダ単作(無施肥および施肥),ダ単作(無施肥)とト単作(無施肥および施肥),ダ単作(施肥)とト単作(無施肥および施肥)との間に,それぞれ5%水準で有意差が見られた.他方,リシンガではどの組合せも有意差は認められなかった.

ところで,以上の結果において,商品作物であるダイズの単作が,自給作物であるトウモロコシの単作や間作よりも所得優位にあることは想像に難くない.また,現状ではトウモロコシの自給を犠牲にしてダイズ単一経営を志向する農家はいない.そのため,農家にとって望ましい作付体系を検討する上では,トウモロコシとダイズを間作するケースと,両作物を同時に単作するケースとを比較することも重要である.そこで,両ケースを比較的高い所得が得られた無施肥条件下で比較したところ,表2のとおり,所得水準については若干ではあるが間作するケースが上回る結果となった.現状,資金制約などが原因で化学肥料を使用していない農家が多いことも考えると,そのような農家がトウモロコシとダイズを同時に栽培する場合,間作が推奨されうる.しかし,所得水準は農家によって大きく異なる上,単作にせよ間作にせよ,他作物との比較有利性や十分な経営資源が確保されず,導入に至らない可能性もある.

表2. 無施肥条件下での間作と単作の比較
グルエ(11戸) リシンガ(8戸)
間作 単作×2 間作 単作×2
ト単収(t/ha) 0.27 0.22 0.38 0.45
ダ単収(t/ha) 0.45 0.99 0.38 0.74
ト販売単価(Mt/kg) 7.3 7.3 8.5 8.5
ダ販売単価(Mt/ha) 15.6 15.6 11.4 11.4
粗収益(Mt/ha) 8,687 8,439 7,464 5,909
雇用労働費(Mt/ha) 1,136 1,404 5,343 5,354
種子費(Mt/ha) 2,796 2,842 2,796 2,842
費用合計(Mt/ha) 3,932 4,246 8,139 8,196
所得(Mt/ha) 4,755 4,193 –675 –1,287

資料:調査結果に基づき作成.

1)「ト」はトウモロコシ,「ダ」はダイズを示す.「間作」はトウモロコシとダイズの間作を示す.

2)単作×2はトウモロコシ単作+ダイズ単作を意味する.双方の作付面積は同一(0.5ha)としている.

3)リシンガにおける間作と単作の所得差は10%水準で有意である(t検定).

4. 新たなダイズ作付体系の導入可能性

3と表4に,グルエとリシンガにおける各農家の現状作目構成(試験ほ場以外)と,前述の計画モデルに基づく新たなダイズ作付体系の導入を想定した最適作目構成を示した.合わせて,計画モデルの単体表を表5に示した.

表3. グルエの現状作目構成と新たなダイズ作付体系導入を想定した最適作目構成(ha)
現状 導入後
農家1 コメ単作 0.04 0.04
トウモロコシ+キマメ混作 1.04 0
ダイズ+キマメ混作 0.71 1.03
ソルガム単作 0.31 0
ダイズ単作(無施肥) 0 0.43
ダイズ+トウモロコシ間作(無施肥) 0 0.6
農家2 ダイズ+キマメ混作 0.19 0.25
トウモロコシ単作 0.84 0
トウモロコシ+ソルガム混作 0.11 0.06
トウモロコシ+キャッサバ混作 0.09 0.91
インゲン単作 0.16 0.36
トマト単作 0.08 0.08
農家3 トウモロコシ+キマメ混作 0.15 0.8
ダイズ単作 0.62 0
ソルガム単作 0.29 0.26
農家4 トウモロコシ+キマメ混作 1.06 1.14
ソルガム単作 0.36 0
ダイズ単作 0.21 0.13
ダイズ+トウモロコシ間作(無施肥) 0 0.37
農家5 ダイズ+キマメ+ソルガム混作 1.98 2.4
トウモロコシ+キマメ混作 1.91 1.57
ダイズ+トウモロコシ混作 1.77 0
インゲン単作 0.33 0.28
ダイズ単作(施肥) 0 0.96
ダイズ+トウモロコシ間作(無施肥) 0 0.77
農家6 トウモロコシ+コメ混作 0.39 0.39
ダイズ+キマメ混作 1.54 0
サツマイモ単作 0.02 0
ダイズ単作(無施肥) 0 1.57
農家7 トウモロコシ+キマメ混作 0.89 0
ダイズ+キマメ混作 0.04 0.23
トウモロコシ+ソルガム混作 0.05 0.75

資料:調査結果に基づき作成.

1)ほ場試験の参加農家11戸のうち4戸は一部データの欠損により対象外とした.

表4. リシンガの現状作目構成と新たなダイズ作付体系導入を想定した最適作目構成(ha)
現状 導入後
農家1 トウモロコシ+インゲン間作 1.85 0.77
ダイズ単作(施肥) 0 1.08
農家2 トウモロコシ+インゲン間作 1.31 2.76
トウモロコシ単作 1.54 0
ダイズ単作(施肥) 0 0.08
農家3 トウモロコシ+インゲン間作 9.07 7.19
ジャガイモ単作 0.13 0.56
サツマイモ単作 0.39 1.84
農家4 トウモロコシ+インゲン間作 1.33 1.07
トウモロコシ単作 0.63 0.36
サツマイモ単作 0.16 0.7
農家5 トウモロコシ+インゲン間作 1.03 1.23
インゲン単作 0.22 0
サツマイモ単作 0.08 0.14
ラッカセイ単作 0.04 0
農家6 トウモロコシ+インゲン間作 0.33 0.15
サツマイモ単作 0.03 0.21
農家7 トウモロコシ+インゲン間作 2.94 2.94
ジャガイモ単作 0.05 0
サツマイモ単作 0.07 0.12

資料:調査結果に基づき作成.

1)ほ場試験の参加農家8戸のうち1戸は一部データの欠損により対象外とした.

表5. 単体表(グルエの農家5の例)
0 1 2 3 4 5 6 7 8 9 10
定数項 関係 ダイズ
+キマメ+ソルガム混作
トウモロコシ
+キマメ
混作
ダイズ
+トウモロコシ混作
インゲン
単作
ダイズ
単作
(無施肥)
ダイズ
単作
(施肥)
ダイズ
+トウモロコシ間作
(無施肥)
ダイズ
+トウモロコシ間作
(施肥)
農外
活動
0 利益係数(MT) 19,264 4,743 1,414 4,886 12,379 45,411 1,472 –6,820 19,400
1 畑地利用制約(ha) 5.98 >= 1 1 1 1 1 1 1 1
2 農外活動制約 1 = 1
3 トウモロコシ自給制約 600 <= 209.6 28.3 350.6 239.5
4 キマメ自給制約 180 <= 353 157.2
5 インゲン自給制約 60 <= 215.1
6 1月上旬(時間) 810 >= 166 128 48 313 250 125 15 45 207
7 1月中旬(時間) 810 >= 250 154 190 207
8 1月下旬(時間) 810 >= 250 154 48 7 207
9 2月上旬(時間) 810 >= 166 128 138 188 188 22 45 207
10 2月中旬(時間) 810 >= 23 125 125 25 45 207
(中略)
37 11月中旬(時間) 810 >= 198 500 500 357 357 194
38 11月下旬(時間) 810 >= 108 198 194
39 12月上旬(時間) 810 >= 137 75 166 194
40 12月中旬(時間) 810 >= 13 143 155 155 154 154 194
41 12月下旬(時間) 810 >= 47 194

資料:調査結果に基づき作成.

現状作目構成は農家によってさまざまであるが,その中にあって主食のトウモロコシは全農家が栽培し,さらに豆類やイモ類を組み合わせた多角経営が主流となっている.グルエではトウモロコシに加え,ソルガムの自給生産が盛んであり,商品作物としてはダイズのほか,キマメが多く栽培されている.リシンガではインゲンが主要な商品作物として定着しており,サツマイモやジャガイモも小規模ではあるが栽培されている.なお,全体の経営面積は農家によって大きく異なるが,グルエより人口密度が低いリシンガの農家のほうがやや大きい傾向にある.

こうした現状の下,新たなダイズ作付体系が最適作目構成の一環として採用されるケースは,グルエでは7戸中4戸に上り,リシンガでは7戸中2戸となっている.以下,それぞれの採用傾向について具体的にみていく.

グルエでは,まず農家1において,現状の経営面積の過半を占めるトウモロコシ+キマメ混作に代わり,ダイズ単作とダイズ+トウモロコシ間作が採用されている.また,農家4ではソルガム単作に代わってダイズ+トウモロコシ間作が採用されている.農家6の場合は,現状のダイズ+キマメ混作に代わってダイズ単作が採用されている.このように,グルエではソルガム,キマメなど既存の主要作物に代わって,ダイズの作付けが拡大する点が特徴的である.他方,農家2の場合,ダイズの作付けはキマメとの混作によりほぼ現状維持される.また,農家3の場合は,キマメの収益性が比較的高いことと,主食であるトウモロコシの自給生産の必要性から,ダイズに代わってトウモロコシ+キマメ混作の作付けが増す結果となっている.農家5の場合,こうした作目構成の変化は見られないが,作付体系については,ダイズとトウモロコシが現状の混作から単作,間作へと変化している.

グルエとは対照的に,リシンガではこのような作目構成や作付体系の変化が見られない.2戸の採用ケース(農家1,2)に共通してダイズ単作が採用されているものの,既存の主要作物や作付体系を代替するには至っていない.これは主として,既存のトウモロコシ+インゲン間作が,自給的な役割に加え,ダイズ単作に劣らない収益性を有していることによる.実際,トウモロコシ+インゲン間作は,現状の作目構成はもちろん,最適作目構成においても,ほとんどの農家で大部分の(自給水準を上回る)経営面積を占めている.また,リシンガの場合,ダイズは,特に収益性においてサツマイモなどの他作物に及ばないこともあり,既にこうした他作物の栽培を手がける多くの農家(農家1,2以外)にあって採用される状況にない.

5. ダイズ作の主要な問題を想定した試算

ここまで見てきたように,新たなダイズ作付体系の採用をめぐっては,農家間および地域間の差異が顕著に現れている.そのため,ダイズ作をめぐって顕在化している経営内,地域内の主要な問題を想定しながら,新たなダイズ作付体系の導入可能性を検討することも重要と考えられる.

まず,経営内の問題として,最も注意すべき点の一つが労働コストである.とりわけモザンビーク北部のダイズ作では,雇用労働への依存度が高く,経営費が増大し,一部農家の間では雇用資金の不足も生じている(山田・大矢,2014).そのため,新たなダイズ作付体系の導入可能性を検討する際,労働力の自給を想定した試算は重要である.そこで,上述の採用農家6戸(グルエ4戸,リシンガ2戸)について,雇用労働を利用しない場合の最適解を試算した.その結果,表6のとおり,新たなダイズ作付体系については,労働制約によって規模が縮小するものの,全ての農家において採用されることがわかった.このことは,資金制約などで自家労働に頼らざるを得ない状況下でも,新たなダイズ作付体系の導入が可能であることを示している.

表6. 新たなダイズ作付体系の採用農家における雇用労働の制限に伴う最適解の変化(ha)
雇用
あり
雇用
なし
グルエ
農家1 ダイズ単作(無施肥) 0.43 0
ダイズ+トウモロコシ間作(無施肥) 0.6 0.44
農家4 ダイズ単作(無施肥) 0.13 0.13
ダイズ+トウモロコシ間作(無施肥) 0.37 0.37
農家5 ダイズ単作(施肥) 0.96 0.07
ダイズ+トウモロコシ間作(無施肥) 0.77 0.51
農家6 ダイズ単作(無施肥) 1.57 0.12
ダイズ+トウモロコシ単作(無施肥) 0 0.38
リシンガ
農家1 ダイズ単作(施肥) 1.08 0.78
農家2 ダイズ単作(施肥) 0.08 0.14

資料:調査結果に基づき作成.

1)最適作目構成のうち,新たなダイズ作付体系のみ抜粋.

他方,経営内でなく経営外の条件変化によって,結果的に導入に至らないという可能性も否定できない.特にダイズは商品作物であるため,市場条件が重要であるが,モザンビーク北部では地域によってダイズ価格が変動しやすい.リシンガでは今のところダイズ価格の変動は小さいが,グルエでは近年,ダイズ価格が大きく変動している.グルエの対象農家7戸の場合,いずれもダイズを収穫後間もなく同じ近隣市場で販売しているが,その平均価格は2011年~2015年の5年間でkg当りおよそ11 Mtから17 Mtと幅がある.そこで,グルエの新たなダイズ作付体系の採用農家について,ダイズ価格の下落,具体的には各農家による過去5年間の最低販売価格を想定して,最適解を試算したところ,どの農家においても新たなダイズ作付体系が採用される結果となった(表7).これは,ダイズ価格の下落が生じた場合でも新たなダイズ作付体系が導入されうることを示すものである.中でもダイズ+トウモロコシ間作については,ダイズ単作に比べると,ダイズ価格下落による収益性の低下が限定的であることに加え,トウモロコシの自給生産にも貢献することから,規模縮小が抑えられ,相対的な重要性が増すこととなる.同様の傾向は,実のところ雇用労働の制限による影響(表6)にも現れており,ダイズ作がトウモロコシ作に比べ労働集約的である関係上,ダイズ単作よりもダイズ+トウモロコシ間作の採用面積が相対的に増す傾向にある.従って,労働力の不足やダイズ価格の下落が生じやすい状況ほど,ダイズ+トウモロコシ間作を導入する余地があるといえよう.

表7. グルエの採用農家におけるダイズ価格の下落を想定した最適解(ha)
下落前 下落後
農家1 ダイズ単作(無施肥) 0.43 0
ダイズ+トウモロコシ間作(無施肥) 0.6 0.6
農家4 ダイズ単作(無施肥) 0.13 0
ダイズ+トウモロコシ間作(無施肥) 0.37 0.18
農家5 ダイズ単作(施肥) 0.96 0.96
ダイズ+トウモロコシ間作(無施肥) 0.77 0.77
農家6 ダイズ単作(無施肥) 1.57 1.57
ダイズ+トウモロコシ単作(無施肥) 0 0

資料:調査結果に基づき作成.

1)最適作目構成のうち,新たなダイズ作付体系のみ抜粋.

6. 結び

以上,グルエとリシンガのほ場試験参加農家を対象として行った調査の結果を分析し,モザンビーク北部高地の半自給・半商業的農業経営における新たなダイズ作付体系の導入可能性を探った.その結果として得られた主な知見を以下に整理することで結びに代える.

まず,新たなダイズ作付体系の収益性に関しては,ダイズ単作において優位であるが,トウモロコシも同時に栽培する場合には,単作より間作が推奨されうる.

しかし,新たなダイズ作付体系の導入可能性は農家によって異なり,各農家の技術水準や食料自給志向,農外活動などの実態を反映した線形計画モデルによる分析の結果,最適作目構成の一環として新たなダイズ作付体系が採用されたケースは全体の半数程度(14戸中6戸)であった.

さらに,その採用傾向には地域差が認められ,リシンガでは既存の作付体系に代わって新たなダイズ作付体系が採用されることはないが,グルエではこうした作付体系の入れ代わりが生じ,既存の主要作物に代わってダイズの作付けが拡大する.

ダイズ作をめぐる主要な経営内問題の一つとして,雇用労働を制限した場合でも,新たなダイズ作付体系は採用されるため,資金制約などで自家労働に頼らざるを得ない状況下でも,新たなダイズ作付体系の導入は可能である.さらに,地域的な問題として,ダイズ価格の下落が生じた場合でも,新たなダイズ作付体系の導入は可能である.

中でもダイズ+トウモロコシ間作については,これらダイズ作をめぐる主要な問題が顕在化しやすい地域,農家ほど導入の余地があり,半自給・半商業的農業経営において有用な作付体系の一つとなりうる.

ただし,個々の経営条件の違い,とりわけ主食作物の自給制約や,ダイズと他の商品作物との相対的な収益性の違いから,ダイズ+トウモロコシ間作を含む新たなダイズ作付体系の導入が例外なく進むわけでないことに留意する必要がある.

謝辞

本稿は,JICA・モザンビーク国ナカラ回廊農業開発研究・技術移転能力向上プロジェクトの一環として,国際農林水産業研究センター(JIRCAS)が実施した調査結果に基づいている.この調査はモザンビーク国立農業研究所の協力を受けて行われたものである.ここに謝意を表します.

1  同プロジェクトの正式名称は,JICA・モザンビーク国ナカラ回廊農業開発研究・技術移転能力向上プロジェクトである.

2  調査村の農家は例年,11月~12月に耕起,播種を行い,その後は数回に分けて除草を行った後,5月~8月の間にほとんどの作物を収穫する.

3  線形計画法の計算では,BFMmz(大石他,2017)を使用した.

4  主食作物は,各農家の年間自家消費量上位3品目とし,自給制約式はそれぞれの主食作物につき「自家消費量≦単収×作付面積」として設定した.

5  農外活動はいずれも多くの労働時間を周年利用し,特に狩猟・採集,漁労などの生業,および農外就業では一定の季節性も見られることから,計画モデルでは各活動の年間の旬別労働時間(実績値)を反映したプロセスを追加した.

6  本稿では,ほ場に1種類の作物を作付けすることを単作(Monocropping),ある作物の畝間や株間に他の作物を一定の間隔で作付けすることを間作(Intercropping),複数の作物を一定の間隔をとらず無秩序に作付けすることを混作(Mixcropping)と定義する.

引用文献
 
© 2018 地域農林経済学会
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