農林業問題研究
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書評
荒井 聡著『米政策改革による水田農業の変貌と集落営農―兼業農業地帯・岐阜からのアプローチ―』
〈筑波書房・2017年3月31日〉
藤井 吉隆
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2018 年 54 巻 2 号 p. 64-65

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本書は,岐阜県を対象に,2002年の米政策改革以降の集落営農を中心とする水田農業の担い手形成に関する実証的な研究成果が取りまとめられたものである.本書の構成は,2002年から2016年までを期間で区切った4部構成となっており,調査は,岐阜県の平地農村,都市的地域,中山間地域に位置する合計50の事例を対象に行われたものである.まず,本書の概要を紹介する.

序章では,本書が対象とする米政策改革大綱以降の政策の変遷や農業構造の動きを概観し,その関連の中で集落営農展開の特徴を整理している.

Ⅰ部では,「米政策改革胎動期における水田農業と集落営農」をテーマに,2000年代前半の平地農村における集落営農形成の動きと2005年に策定された新基本計画についての整理がなされている.ここでは,平地農村地域を対象に集落ぐるみ型組織における受託型経営から協業型の法人経営への展開論理などを検討するとともに,食料・農業・農村基本計画の特徴である担い手への重点的支援と水田農業の担い手形成の課題が分析されている.

Ⅱ部では,「水田経営安定対策による集落営農再編と水田農業の担い手」をテーマに,水田経営所得安定対策により集落営農の形成が進む中での担い手形成の特徴を明らかにしている.ここでは,水田経営安定対策による岐阜県内の集落営農の特徴などを整理した上で,都市的地域の実情に対応した集落営農の形成およびJA出資型法人と連携した担い手づくりへの取り組みなどが分析されている.

Ⅲ部では,「農政転換期の水田農業と集落営農」をテーマに,水田経営所得安定対策から戸別所得補償制度への政策転換に伴う集落営農形成の動きなどを明らかにしている.ここでは,中山間地域の小規模・高齢化集落における農業と集落営農の展開方向,雇用労働力に着目した集落営農の特徴,土地持ち非農家の地域での役割などについて分析されている.

Ⅳ部では,「農業構造改革による水田農業と集落営農の新展開」をテーマに,農業構造改革が進む中での水田農業や集落営農の新たな展開について明らかにしている.ここでは,集落営農の法人化に伴う収益の分配,メガファームやJA出資型法人などの多様な担い手と集落営農の連携などについて分析されている.

そして,終章では,米価下落による稲作収益の低下,農地の流動化が進展する中で,水田農業の担い手形成と集落営農の果たす役割などについて整理,検討されている.ここでは,これまでの調査結果をもとに,農業地域類型に応じた水田農業における担い手の特徴や集落営農の形成と展開などについての考察がなされている.

本書の特徴は,水田農業及び集落営農を中心とする担い手の形成過程と展開方向を統計データやアンケート調査を含む豊富な事例分析に基づき導き出している点にある.本書で取り上げられている事例はどれも興味深いものであり,集落営農を中心とする水田農業の担い手の形成過程が丁寧に整理されている.岐阜県をフィールドに長年にわたり継続して地道な研究を積み重ねてこられた筆者に敬意を表したい.

本書が分析対象としている2002年から2016年の間に水田農業の姿は大きく変化し,集落営農の形成や水田作経営の大規模化が急速に進んだ時期である.評者も,この期間に自治体職員として集落営農を含む水田農業の担い手育成に関わる業務に従事していた.筆者の指摘から,これらの業務に従事して感じていたこを想起し,当時の取り組みを振り返りながら読むことができた.例えば,筆者は,平地農村,都市的地域,中山間地域の多くの事例を分析する中で,地域や集落の状況に応じて多様な集落営農の在り方があることや担い手形成におけるコミュニティー機能の重要性などを指摘している.当時,集落営農の組織化や支援業務に精通した職場の先輩から,「集落営農は政策や経営の合理性ありきではない.集落営農の在り方は,地域や集落の状況に応じて多様だ.集落を訪れたら,人間関係も含めて集落の状況をしっかりと把握することが重要だ」と繰り返し教えられたことに通じるものであった.

以下では,本書の成果および自治体での実務経験を踏まえ,今後に期待したい点について述べる.

一つ目として,本書では,地域条件に応じた水田農業および集落営農の展開が数多く分析されており,これらの結果から,改めて地域農業の多様性が認識できる.そして,終章では,これらの結果について地域類型毎に整理されているが,同じ地域類型であっても担い手形成の展開には相違がみられる点もある.相違の背景にある多様な条件を整理することは容易ではないが,本書で取り上げられた豊富な事例分析の結果に基づき,これらを体系的に整理して示すことができれば水田農業の展開により一層有益な示唆を与えるものになると感じた.

二つ目として,集落営農の担い手形成に関わる関係機関の支援についてである.集落機能が低下している昨今の状況を踏まえると,今後の地域農業を動かしていく上では,関係機関による働きかけの重要性が高まっている.評者が知る自治体関係者も試行錯誤しながら取り組みを行っているところである.本書では,担い手形成に関わる関係機関の取り組みについても取り上げられており,例えば,第9章では,関係機関によるモデル集落支援や協議会活動への取り組みが重要な役割を果たしていたことが伺える.これらの事例から関係機関による支援の在り方などさらに詳しい分析がなされれば,より厚みを増した内容になるのではないかと感じた.

三つ目として,集落の領域をこえた集落営農の展開についてである.筆者は,今後の集落営農の展開として「集落の領域をこえた集落営農の統廃合が進むことも予想される.こうした中で,集落機能をいかに絡め構成員の参画を促すか,組織運営の鍵となる」(298頁)ことを指摘している.この場合,担い手,集落,関係機関がどのような役割を果たし,どのように取り組んでいけばいいのだろうか.近年,取り組まれつつある集落営農の連携,連合体形成の取り組みに通ずるものであり,その形成の論理や展開方策などについて更なる研究の深化を期待したい.

以上,評者なりに本書を読み終えて感じた点を指摘させていただいた.いずれにしても本書の豊富な事例調査に基づく分析は,集落営農や水田農業の研究に際して重要な示唆を与えるものであり,今後の水田農業の展開を考える上でも大きな意義をもつものである.本書は,農業経営や農業政策に関わる研究者のみならず,これらの実務に従事する自治体やJAなどの関係者にも有意義な内容となっており多くの方々に一読を勧めたい書である.

 
© 2018 地域農林経済学会
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