農林業問題研究
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個別報告論文
地域連携による飲食店事業の展開と課題解決
―神戸市W社と土佐清水市の連携を事例として―
眞鍋 邦大中塚 雅也
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2018 年 54 巻 3 号 p. 149-156

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1. はじめに

近年,農林水産業においては,他産業との連携を深めることによって高付加価値化を実現し,所得と雇用の確保につなげることが求められている.また,農山村地域の行政においては,都市部にアンテナショップをはじめとする交流拠点を設け,地域の特産品を販売すると同時に,消費者のニーズを把握するような動きが拡がり続けている1

一方,都市側でも,2000年代以降,安心安全な食を求める消費者の声の高まりに応じて,地産地消や産地直送をコンセプトに掲げる飲食店が登場するなど,産地との関係性を差別化戦略の一つとして強調する動きも見られるようになってきた.国も,2012年に策定した「食品産業の将来ビジョン」において,わが国最大の産業セクターの一つである食品産業に対して,生産者と消費者の架け橋となり,価値連鎖の形成に貢献することへの期待を寄せている(農林水産省,2012).

このように農山村側,都市側からの相互のアプローチは強まっているものの,実態としては一次産業と外食企業の連携はいまだ活発な状況とは言えず(伊藤,2012),都市・農山村間の関係主体の連携の拡大には,なお課題があるのが現状である.

想定される具体的な課題の一つは,連携主体のマッチングと,それを連携事業として具現化するプロセスである.これらについては農商工連携事業などでも繰り返し指摘されているものの,コーディネーターやプラットフォームの必要性など施策的な指摘にとどまり,個別具体的な対策や手続きは明らかにされていない.

二つ目の課題は,安定的な食材の供給体制の構築と流通コストである.櫻井(2010)などの指摘を待つまでもなく,遠隔地の単一産地との直接取引においては,常にこうした問題に直面する.

それらを踏まえた上で,第三に課題となるのが,連携する主体間の適切な役割分担である.各主体の強みと弱みを相互に補完する役割分担のあり方を示すことが求められている.

以上のことから本稿では,都市部の外食企業が農山村の生産者や商工団体,行政などと連携して取り組む飲食店事業を事例として取り上げることにより,連携による飲食店事業の実態を各主体の関係性を中心に明らかにするとともに,先に示した課題解決の方策について分析することを目的とした.事例として取り上げるのは,兵庫県神戸市に本社を置く株式会社W社(以下,W社)である.W社は,複数の地域と連携しながら,異なるブランドで複数の飲食店を展開しているが,本稿では最も関係が長期に渡り,広範な展開を見せている土佐清水市との連携事業を分析対象とした.

研究の方法としては,上述の視点と目的のもと,W社から提供されたデータおよび資料を精査した上で,各主体への聞き取り調査を実施した.W社へは,担当者へのヒアリングを中心に行った2017年6月および8月の2回と,代表取締役へのヒアリングを中心に行った6月の計3回の訪問に加え,適宜電話やEメールで追加調査を行った.また,連携地域である土佐清水市へは,2017年9月に訪問をし,現地の主要な関係主体である,土佐清水市観光商工課,土佐清水商工会議所,窪津漁業協同組合,高知県漁協清水統括支所,新谷商店らへ,聞き取り調査を実施した.

2. W社と土佐清水市の連携事業

(1) 対象事例の概要

1) 株式会社W

W社は,兵庫県神戸市に本社を置き,「土佐清水ワールド」などの飲食店24店舗(2017年9月末時点)を運営する外食企業である.会社の設立は1996年であるが,現在中核となっている飲食店事業の開始は2002年であり,以後,年に平均1店舗のペースで出店を続けてきた.ほとんどの店舗を神戸市三宮周辺に集中的に出店する戦略はW社の特徴の一つである2.「食によって,郷土と地域をつなぎ,ニッポンの風景を熱くする」の理念のもと,飲食店の立場から地域の課題解決に向き合う姿勢を当初より示しており,近年は,店舗運営のみならず,インターネット通販やB to Bでの食材流通,生産者と連携した商品開発など,食を基軸とした事業展開を進めている.

店舗の内訳は,W社が地域連携協定店もしくは地域連携強化店と呼び,生産者に加え自治体との緊密な連携をベースに,特定地域の食材を提供するとともに店頭に物販や情報発信のスペースを設け,アンテナショップとしての機能も有する飲食店(以後,地域連携型)が10店舗,それ以外の郷土料理店が14店舗である.

地域連携型の業態は,2015年度より展開を開始し,土佐清水市,青森県,山陰地方(島根県・鳥取県)と連携先を増やしながら3,2017年9月末時点で10店舗を数えている.図1に直近7年間(11月期決算)のW社の店舗総売上の推移を示した.2016年度の店舗総売上は約15億9,100万円,そのうち地域連携型の総売上は約4億9,800万円となっている.2017年度の売上は9月末までの10ヶ月間の数値であるが,地域連携型の売上はすでに約7億6,600万円と前年度を超える成長を見せている.

図1.

W社の売上と店舗数の推移

資料:W社の内部資料より,筆者作成.

1)決算年度は,12月から翌年11月までの1年間.

2)2017年度は,9月末までの10ヶ月間の数値.

また,W社は全店舗を対象としたポイントカードシステムを導入しており,現在会員数は7万人を超える.そのうち,1年に2度以上,店舗に足を運んだ会員には無料で月刊の会員情報誌を送付しており,W社と顧客をつなぐ貴重な情報伝達手段となっている.現在の発行部数は約2万部である.

2) 土佐清水市(高知県幡多地域)

土佐清水市は,高知県の西南部,四国の最南端に位置し,北は四万十市と三原村,西は宿毛市と大月町に隣接している.この5市町村に,四万十市の東に隣接する黒潮町を加えた6市町村で幡多(はた)地域を形成している.

市の面積は,266.34 km2で,ほぼ全域が足摺宇和海国立公園に含まれる.黒潮が近海を流れることから,古くから水産業を基幹産業として発展し,清水漁港は現在も県内有数の水揚げ高を誇っている.とりわけ,足摺岬沖の岩礁域で一本釣りされた大ぶりのゴマサバは「清水さば」というブランド名で県内外に販売されており,また,マルソウダ(高知県内ではメジカと呼ばれる)を原料とする宗田節の生産量では日本一となっている.人口は,3万人を数えた1950年代のピーク時から半減し,2017年8月現在で14,108人,世帯数7,466世帯,高齢化率は45.9%となっている4

(2) 連携による飲食店事業の概要

W社と土佐清水市の各主体の連携による飲食店事業は,「土佐清水ワールド」というブランドで展開されている.特産品である清水さばやカツオ,長太郎貝など,土佐清水沖で獲れた新鮮な海産物を神戸市に直送し,各店舗で郷土の味を提供している.2015年6月に1号店を開店したが,それに先立って締結された地域連携協定に基づき,店内には特産品の販売コーナーが併設されており,アンテナショップとしての機能も果たしている.土佐清水ワールドへの高い評価を背景に,2017年には,幡多地域6市町村の活性化を目的とした新業態の「土佐清水ワールド 幡多バル」の営業を開始するなど,積極的な店舗展開を続けている.2017年9月末時点で神戸市内に5店舗,東京都内で2店舗の合計7店舗が運営されており,表1に示す通り,2017年度の売上高は9月末までの数字で約5億8,600万円となっている.

表1. 土佐清水市との連携店の売上と店舗数の推移            (上段単位:千円)
2015年度1) 2016年度 2017年度2)
売上 92,289 407,757 586,675
店舗数 2 3 7

資料:W社の内部資料より,筆者作成.

1)決算年度は,12月から翌年11月までの1年間.

2)2017年度は,9月末までの10ヶ月間の数値.

店舗が順調に営業を続ける中,2017年には新たな取り組みとしてW社と土佐清水市との共同企画による土佐清水訪問ツアーが実施され,W社の常連客など約20名が参加した.また,その秋には土佐清水市民が神戸の土佐清水ワールドを訪問するツアーが実施され,店舗を超えた相互交流も生まれつつある.

3. 連携の契機と飲食店事業の展開プロセス

(1) 連携の契機

連携の契機は,2010年11月,土佐清水商工会議所の経営指導員(当時)であったT氏と,W社をよく知るコンサルタントのI氏が広島県で開催されたセミナーで出会ったことと言われる.当時,地域経済の縮小を背景に,T氏は会員事業者の県外での販路開拓の支援に取り組んでいた.食を通じた地域の課題解決という理念の下にW社が「長門フェア5」を開催しているということを知ったT氏は,すぐにW社にコンタクトを取っている.以降,T氏は「土佐清水フェア」の開催を念頭に,熱心にW社への情報提供を続け,2012年1月に,W社のK社長を含むスタッフ4名の初の土佐清水市訪問が実現した.その際,T氏は3日間で宗田節加工業者など約10の生産現場を案内した上で,W社と生産者の交流会を企画するなど,顔の見える関係を作り出すための現地コーディネートを行っている.結果的には,この訪問以降現在に至るまで,年に1〜2回の頻度で土佐清水市の生産者とW社のスタッフが双方の現場を行き来する関係性が継続している.

このように,マッチングにおいては,まずW社の理念と商工会議所の外商ニーズが合致した点が挙げられるが,生産者を束ね,産地とW社間のコミュニケーションハブとなり,人的な交流を支えたT氏の存在が,継続的な関係の構築に大きく寄与している.

(2) イベント試行と実店舗開店

初訪問において土佐清水市の食材と生産者の想いに感銘を受けたW社は,すぐに「土佐清水フェア」の企画を始め,翌月には既存店舗でのフェアを実現している.先の訪問で交流のあった生産者の商材は全て取引されたが,消費者の反応が予想以上だったことから,フェアは年に1回の定例的なイベントとなり,季節を変えて毎年開催されることとなった.また,フェアとは別に,既存店舗でも土佐清水沖の鮮魚やだし醤油などが扱われるようになり,複数の生産者とW社の継続的な取引が始まっている.

土佐清水市に特化した飲食店を作るという話が浮上したのは,2015年1月の数度目となるW社の現地訪問の際である.フェアや店舗での食材の評判の良さから,会食の席において実店舗開設への言及があった.まもなくして神戸市で適当な物件が見つかり,K社長からその報せを受けたT氏は,地元で核となる5人のメンバーに意思確認を行い,全員の意見が一致したことで,土佐清水に特化した飲食店の構想が具体的に動き始めた.3月上旬には,その5人が商品提案書を携えてW社を訪問し,メニューの検討が始まっている.また,新店舗の名称は最終的に「土佐清水ワールド」に決まり,2015年6月17日,W社と土佐清水市の連携による飲食店の1号店が三宮に開店した.

以上のように,フェアは各々の食材に対する消費者の反応を確認するためのテストマーケティングの機会として機能しており,またフェアを繰り返すことで,新メニューの開発や食材の集荷,輸送方法の改善の機会としても活かされている.このような段階的な事業化は,実店舗の開店という大きな投資に対して,リスクを軽減する効果を発揮している.

(3) 地域連携協定の締結

連携が進展する過程で考案されたのが,地域連携協定の締結である.実店舗の開店を前にしてK社長よりT氏へ提案があり,T氏が仲介する形で土佐清水市への打診が行われている.市では他県の事例を参考に表2のような連携項目を作成し,市長の全面的な支援のもと,2015年5月11日に土佐清水市とW社の地域連携協定が締結された.協定では,土佐清水市からW社への食材提供のみならず,W社が地域の情報発信や観光PRおよび地元への誘客を実践することなどが定められている.このとき,前例のない地域連携協定を進める上で重要だったのが,W社の姿勢と実績である.市としては,行政における公共性,公平性の観点からW社のような地域外の企業と個別に連携を結ぶのは容易ではない.しかしながら,W社が商取引だけでなく継続的に人的な交流を行っていたこと,また市内の特定事業者のみと取引をするのではなく農産物等へと取り扱いの幅を拡げていたことなど,長期に渡って積み重ねた実績が,広く土佐清水市の活性化に資する企業との評価につながり,協定が実現した.

表2. 地域連携協定の一部抜粋
(目的)第1条 甲と乙1)は,緊密な相互連携により,神戸市におけるアンテナショップ機能を有する拠点として,乙が運営する飲食店(以下「店舗」と称する.)の活用を推進し,地域の活性化を図ることを目的とする
(連携事項)第2条 甲と乙は,前条の目的を達成するため,次の事項について連携,協力する.
(1) 食材提供の積極的な活用,流通に関すること
(2) 観光PRと誘客活動に関すること
(3) 農産物等の産直システム構築に関すること
(4) 食文化の情報発信に関すること
(5) 関西圏でのイベント等の情報発信に関すること
(6) 移住のPR活動に関すること
(7) 特産物,郷土料理,地酒におていの魅力的なメニュー提供に関すること
(8) 郷土の祭り,民謡,歴史,文化等の紹介に関すること
(9) 大規模災害時の応急復旧活動に関すること
(10) HP,広告,広報,などPR活動に関すること
(11) その他店舗を活用した活動に関すること

資料:W社の資料より,筆者作成.

1)甲は土佐清水市,乙はW社.

このようにして締結された連携協定は,W社にとっては消費者に対して産地との強い関係性を示すシンボルの役割を果たし,土佐清水の各主体に対してはコミットメントを示すことになり,さらなる信頼の醸成に寄与した.一方で,行政にとっても政策的な支援を行う際の後ろ盾として活用できるなど,各方面において好循環が生まれている.

4. 食材供給体制と流通

(1) 食材供給を安定化する取り組み

鮮魚の取引においては,W社はある程度の量のみを指定した発注を行い,魚種の選定を漁協に一任することで,漁獲の変動に伴う産地側の負担を減じている.また,消費地においては三宮周辺に集中的に出店し,産地からの食材を一旦セントラルキッチンに集約した上で,各店舗に配送することで,各店舗での需要の増減に対して,店舗間で需給の調整を行い,柔軟に対応できる体制を整えている.

また,初回のフェアの頃には20種類ほどだった取扱商品は,現在では鮮魚,青果,宗田節や調味料などの加工品,約100種類にのぼっているが,市場ではなく生産者との直接取引によって主な食材を調達する土佐清水ワールドにおいては,店舗の増加に伴い,生産者の開拓や食材の探索を継続的に行う必要があった.この点においては,地域にネットワークを有するT氏が中心となり,行政や生産者と連携しながら,新たに必要となる食材や生産者の情報を提供することで,店舗の増加とともに土佐清水との取引量を増大させていった.店舗網が拡大する中で,土佐清水市とW社の取引は年々増加し,2017年9月時点で,土佐清水市とW社の食材の取引量は月間約1,500万円に達し,常時約20の生産者がW社に出荷している.

このように,不安定な漁獲に伴う産地側の負担に関してはW社が積極的に吸収し,一方で食材の探索に関しては産地側が協力することでW社の負担を抑えるなど,双方の強みを生かすことで持続的で安定的な食材供給の関係を構築している.

(2) 活魚車の導入

流通面では,加工品に関しては土佐清水で集約する動きも生まれつつあるが,基本的には個々の生産者や事業者からW社へ直送されている.その中において特徴的な動きは活魚車の導入である.その背景には,従来から提供していた絞めた状態の清水さばではなく,より郷土の味に近いものを都市部の消費者に提供したいという産地側の要望があった.2016年3月,3号店の開店計画に合わせ,行政と高知県漁協清水統括支所が協力し,活魚車の導入が決定された.加えて,新店舗には大型の生けすが設置され,活魚の清水さばを神戸に輸送できる体制が整った.費用の約1,500万円は,市が国の地方創生交付金を活用し,活魚車の所有者となる高知県漁協清水統括支所に全額補助した.運行に係る経費においても,特産品のPRという目的において,当初は一部が公的な資金によって補助されている.

以上,流通面においても,地域連協定を背景に,行政が公的な負担によって土佐清水の事業者とW社の連携の取り組みを支援しており,結果,これまで四国内でしか扱われていなかった活魚の清水さばが神戸市内で提供可能になるなど,店舗の付加価値化に貢献している.

5. 地域連携における役割分担

W社と土佐清水市の地域連携による飲食店事業における各主体の役割分担について,齋藤・清野(2014)で示されるフードサービス業の構成機能を参考に整理したのが表3である.

表3. 各主体の役割分担
W社 市役所 商工会議所 生産者1)
出店計画 コンセプト作り
立地調査
物件取得
店舗デザイン
改修
メニュー マーケット調査
食材研究
メニュー開発
原価管理
仕入 食材探索
仕入交渉・購買
供給(各店舗へ)
調理 食材調理
店舗運営 フロアサービス
従業員教育
店舗維持管理
販売促進 地域情報収集
情報発信
販促物
広告宣伝
広報

資料:齋藤・清野(2014)を参考に聞き取り調査より筆者作成.

1)生産者は,鮮魚の出荷者である窪津漁協や高知県漁協清水統括支所,新谷商店らを指す.

まず出店計画においては,店舗内への生けすの導入や宗田節に特化した店舗の開店など,連携が深まるにつれて,コンセプト作りや店舗デザインに地域側の意見が反映されるようになっている.

立地調査やマーケット調査など,消費者の動向に直結する都市部の情報取得はW社が担っているが,店舗で提供する食材やメニューに関しては,できる限り郷土の味に近づけたいというW社の意向から,商工会議所や生産者らも積極的にアイデアを提供している.一方,食材の探索に関しては,現地に強固なネットワークを持つ商工会議所が中心となり,市役所の農林水産課や生産者らと連携しながら,食材の提供者をとりまとめてW社に紹介している.

仕入,調理,フロアサービス等の飲食店における基幹的な業務と,物件取得や店舗改修,賃料や光熱費負担などの店舗維持管理はW社が行うが,販売促進に関わる各業務に関しては,地域側との強い協力体制が築かれている.産地側の各主体が収集した地域の情報はW社をはじめ各主体が共有しながらWEB等で積極的に情報発信をし,広報や広告宣伝に関しては,自治体が地元の報道関係者や県人会への案内を担当し,W社が主に都市部のマスメディアに広報している.

このように,立地調査や物件取得,店舗運営など,飲食店としての基幹的な業務は従来どおりW社が担当しているが,とりわけ食材探索や地域情報発信など,産地が強みを発揮できる業務においては,土佐清水市の各主体への機能分担が行われている.また,店舗デザインやメニュー開発に産地側が携わることで,W社単独では困難な郷土の風景や味の再現が可能となり,消費者への訴求力につながっていると考えられる.広報に関しても,W社が都市部,行政が産地側を担当することで,双方が単独ではアクセス困難な層への周知が可能となり,店舗の集客力に寄与したと考えられる.

6. まとめ

(1) 各主体の連携関係

以上の分析結果を踏まえ,W社と土佐清水市の主体間の関係を示したのが図2である.前節で示したフードサービス業の役割分担に関しては,食材研究やメニュー開発,食材探索において,生産者や商工会議所からW社への情報提供が行われている.また,行政も,W社に対して食材探索や地域情報の提供を行っている.W社は,店舗運営と同時に,販売促進のための広告宣伝を行っているが,情報発信や広報に関しては,産地側の各主体も各々が持つネットワークに情報を提供することで,店舗への集客につなげている.その他,W社と行政は,会員情報誌の作成やツアー企画を共に行っており,店舗運営をきっかけに連携が拡がりを見せている.

図2.

地域連携による各主体の連携関係

資料:聞き取り調査より筆者作成.

1)生産者の中で核となるメンバーが.食材提案等を行った.

2)ポイントカード会員のうち,1年に2度以上,店舗に足を運んだ会員に無料で月刊の会員情報誌が送付される.

3)実線は各主体,二重線はW社の事業を表す.

(2) 連携課題への対応

以降では,本稿で設定した連携課題について,W社ならびに土佐清水市の各主体の対応を改めて整理するとともに,今後の連携展開への要点として考察を加えながらとりまとめる.

①マッチングと事業化の課題に関してであるが,マッチングにおいては,産地と外食企業のコミュニケーションの基点となる仲介者の存在がとりわけ重要である.仲介者が,双方のニーズを汲み取り,調整を行い,継続的な人的交流の基盤となることで,各主体間の信頼の醸成が促進される.そのように構築された信頼を担保し,連携を持続するためには,協定のような明示的な承認が,関係主体間のみならず対外的にも非常に有効であろう.事業化のプロセスでは,イベント等での試行を通じた,段階的なプロトタイピングがリスクの低減に効果的であると考えられる.

②食材供給体制と流通の課題に関しては,まず産地の負担を軽減するために,発注や加工,調理などいずれかの段階において需給のミスマッチを調整する仕組みが必要である.そういった仕組みを用意した上で,食材の探索や生産者の開拓で産地との協力体制を築けば,安定的な食材供給が期待できる.流通面での政策的な支援は,遠隔地との取引であればあるほど消費者への付加価値の提供につながり,差別化戦略の一つとして有効に機能すると考えられる.

③役割分担の課題に関しては,飲食店の業務のうち,地域の情報に関連する部分においては産地の各主体に役割を分担することで,各々の強みが発揮される.また,各主体によって異なるネットワークを有する場合には,それぞれが広報や情報発信を行うことで,連携全体での発信力の強化につながる.

以上のように,地域間の連携において想定される課題に対して,W社ならびに土佐清水市の各主体は解決の方策を生み出し,連携による飲食店事業として一定の成果を挙げている.さらには新たな動きとしてツアーの実施も見られ,W社と土佐清水市の連携は,店舗を単なる食材提供の場から,農山村と都市を結ぶ交流の場へと変化させつつあると見ることもできる.

W社では,土佐清水市との連携を契機として,青森県や山陰地方へと地域連携が拡がりを見せている.都市部での販路拡大や人的交流に課題を抱える農山村地域と,生産者との関係を強めることで競争力強化を図りたい外食企業の双方にとって,地域連携による飲食店事業は今後の展開を期待できるビジネスモデルであると言えよう.特に,独自にアンテナショップや交流拠点を持つことが困難な小規模な自治体にとっては,都市部での有効な戦略の一つとなりうる.

しかしながら,本稿では,土佐清水市とW社の連携という限定的な範囲での展開を分析するにとどまっており,想定される課題への対応が,汎用性を持った解決策であるかは現時点では確認できていない.地域間の比較分析による展開要因の抽出を今後の課題としたい.

1  一般財団法人地域活性化センターが発表した「平成28年度自治体アンテナショップ実態調査報告」によると,2016年4月1日現在の東京都内の店舗数は65を数え,2001年以降,増加の一途をたどっている.

2  店舗立地の内訳は,神戸市内に21店舗,東京都内に2店舗,大阪市内に1店舗であり,神戸市内の店舗は三宮・元町周辺に集中している.

3  山陰地方とはまだ連携協定は締結していないものの,W社は地域連携強化店と名づけ,地域連携協定を締結済みの土佐清水市と青森県と同業態に位置づけている.

4  土佐清水市の面積や人口に関する数値は,土佐清水市(2015)より最新の情報を引用した.

5  長門は,山口県長門市のことである.W社は,当時から関係のある地域から産地直送の食材を仕入れ,既存店舗でフェアを開催していた.

引用文献
 
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