農林業問題研究
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個別報告論文
滋賀県の環境こだわり米の認証要件に対する消費者評価
山口 道利竹歳 一紀西村 武司
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2018 年 54 巻 3 号 p. 88-95

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1. はじめに

滋賀県では,2001年度より,琵琶湖の環境保全を目的とした環境配慮型の農業生産を「環境こだわり農産物認証制度」として認証する取り組みを進めている.「環境こだわり米」の場合,化学肥料・化学合成農薬を慣行の5割以下に削減するとともに,水田からの濁水流出防止など,琵琶湖をはじめとする環境への負荷を削減する技術が用いられていることが,認証の要件となっている.

環境保全型農産物に対する消費者評価については,これまでも研究事例が蓄積されてきている.しかしながら,琵琶湖を有し環境教育にも熱心な滋賀県において,環境配慮型農産物の認証要件のうちのどの要素が地元消費者に評価されているのかを明らかにすることは,新たな評価事例の蓄積として意義があるものと考えられる.

そこで本論文では,滋賀県「環境こだわり米」を事例として,その認証要件を分解し,要素ごとの消費者評価を明らかにすることを課題とする.

2. 先行研究の概観

環境保全型農産物に対する消費者評価に関する研究は,これまで多く蓄積されてきた.

藤井・中山(2006)は,滋賀県の環境こだわり農産物に対する消費者の購買行動を分析し,園芸品目(ホウレンソウとナシ)では,慣行栽培と比較して環境こだわり農産物に高い消費者評価が得られることを明らかにした.しかしながら,環境こだわり農産物の認証要件の構成要素を分解した分析は行われておらず,また,滋賀県における主要な農産物である米は分析対象とされていない.

一方,合崎(2005)は,茨城県の消費者を対象に,仮想的に作成した米である,生き物ふれあい利用券付き生態系保全米を高く評価する消費者の特性を明らかにした.また,矢部・林(2011)は,兵庫県のコウノトリ育むお米を取り上げ,コウノトリ保全の取り組みに関する知識のある消費者は健康だけでなく自然環境保全に価値を認める一方で,知識のない消費者は生物多様性保全に対する価値を認めないことを明らかにした.これらの研究では,選択型コンジョイント分析により,環境保全型農産物である米を構成する複数の属性を分解し,属性ごとの消費者評価がなされている.ただし,農業生産者による環境保全型農業の取り組みそのものというよりむしろ付随的ないし間接的な結果が注目され,環境保全型農業が持つ環境負荷削減といったよりプリミティブな構成要素の扱いは手薄である.それでも,一部の消費者に対しては,生物多様性といった公共財的価値を米に付加できる可能性が示唆された点は意義深い.

また,氏家(2010)は,首都圏を中心に展開するパルシステム生活協同組合連合会の米購買履歴データと食生活意識に関するアンケート調査結果を用いて,安全安心志向の消費者だけでなく,公益志向の消費者も,環境保全型米および有機栽培米の購入金額が高いことを明らかにした.このことは,利己的動機のみならず,利他的動機が環境保全型米の購入に影響することを示している.ただし,公益志向の変数が地域活性化や途上国支援に対する消費者意識等から構成されることから,公益志向の意味するところに曖昧さを残すことは否定できない.

そこで,本論文では,環境保全型農産物の構成要素として,環境汚染物質の流出防止および化学肥料・化学合成農薬不使用といった属性を持つ米を取り上げ,要素ごとの消費者評価について検討する.後者は,消費者が直接的な受益者となりうるのに対して,前者は,消費者が受益者とはなりにくく,とりわけ公益的な性質を持つものである.以下では,これらの属性を持つ米として,滋賀県「環境こだわり米」を扱う.

3. アンケート調査の概要

(1) 調査方法と回答者の主な属性

本研究では滋賀県と共同で実施した滋賀県在住者を対象としたアンケート調査のデータを用いる.調査は,滋賀県全市町ごとに選挙人名簿から無作為抽出した18歳以上の3,000名に対し,2016年11月30日~12月15日の期間に,郵送で調査票を配布,回収することにより実施した.調査票は後述のコンジョイント分析に用いる質問項目の内容により,A票とB票の2種類を作成し,無作為に1,500名ずつ配布した.回収率はA票が46.8%,B票が44.2%であった.

回答の記入は,調査票を送付した宛名人に限らず,その世帯で農産物を日常的に購入する人に依頼した.その結果,回答者の主な属性は以下の通りとなった.まず,性別は女性が67.9%を占めた.年齢は,「60歳代」が26.1%と最も多く,次いで「50歳代」の21.6%となり,50歳代以上が63.2%を占めた.滋賀県内の居住年数は,「30年以上」が68.7%と最も多く,次いで「20年~30年未満」の13.8%であった.中高年齢層の回答者比率が高いことに対応して,長期にわたって滋賀県に在住している回答者が多数を占める結果となった.世帯全体の年収は,「200~400万円未満」が27.1%と最も多く,次いで「400~600万円未満」の23.4%となっている.これも,60歳代の回答者比率が最も高いことによる結果とみられる.

(2) 農産物購入や環境に関する意識

調査では,回答者の農産物購入時の意識や琵琶湖の環境保全への関心,および環境こだわり農産物に対する認知度やニーズなどについて質問した.そのうち,後述の「環境こだわり米」に対する評価分析に関わる質問項目に対する回答結果を以下に示す.

「農産物の安全性について,どのように感じていますか?」という質問に対して,「不安を感じていない」と「どちらかといえば不安を感じていない」の回答を合計すると46.8%,「どちらかといえば不安を感じている」と「不安を感じている」の回答を合計すると48.5%と,ほぼ拮抗する形となった(表1).年齢別に見ると,20~30歳代では「どちらかといえば不安を感じていない」という回答が多いのに対し,40~60歳代では「どちらかといえば不安を感じる」という回答が多くなっている.

表1. 農産物の安全性に対する不安(%)
不安を感じていない 15.3
どちらかといえば不安を感じていない 31.5
どちらかといえば不安を感じている 40.7
不安を感じている 7.8
わからない 3.6
無回答 1.2

「米を購入する際に重視することは次のうちどれですか?」という質問(複数回答)に対しては,「おいしさ」を選んだ回答が最も多く54.2%,次いで,「値段の安さ」34.2%,「新鮮さ(精米した日付)」30.0%となっており,「人体への安全性」や「環境に配慮した生産方法」といった回答は,それらに比べて少なかった(表2).年齢別に見ると,いずれの年代も「おいしさ」が多い一方で,「値段の安さ」は若年層ほど購入時に重視する傾向がみられる.

表2. 米を購入する際に重視すること(%)
値段の安さ 34.2
新鮮さ(精米した日付) 30.0
人体への安全性 18.1
環境に配慮した生産方法 10.2
おいしさ 54.2
産地 26.6
その他 3.9

1)複数回答.

「農薬や肥料などが川や琵琶湖を汚染したり,魚のすむ環境を悪化させたりすると思いますか?」という質問に対しては,「非常にそう思う」「ややそう思う」合わせて86.8%となった.年齢別および地域別に見ても大きな差はなく,農薬や肥料などによる琵琶湖等の環境への悪影響を回答者は懸念しているといえる(表3).

表3. 農薬や肥料などによる環境への悪影響(%)
非常にそう思う 39.0
ややそう思う 47.8
あまり思わない 7.6
全く思わない 0.2
わからない 4.6
無回答 0.7

「水田から流出する泥水(濁水)が川や琵琶湖を汚染したり,魚のすむ環境を悪化させたりすると思いますか?」という質問に対して,「非常にそう思う」「ややそう思う」という回答は合わせて70.1%となった(表4).農薬や肥料による悪影響に比べるとやや低いが,これは30歳代で54.6%,40歳代で61.8%と,率が低くなっているためである.40歳代以下の世代では,滋賀県内での居住年数が比較的短い人も多いため,水田からの濁水による琵琶湖等への環境影響について,認識が低くなったとみられる.

表4. 水田から流出する泥水(濁水)による環境への悪影響(%)
非常にそう思う 24.5
ややそう思う 45.6
あまり思わない 20.7
全く思わない 1.4
わからない 7.0
無回答 0.8

第1節で紹介した「環境こだわり農産物」について,「県が認証し,以下に示したような認証マーク(図示)をつけて販売されていることを知っていますか?」という質問に対しては,「知らない」という回答が51.6%と半数以上を占めた.農産物を日常的に購入する滋賀県民においても「環境こだわり農産物」に対する認知度は高くないといえる.特に,60歳代以上の層では「知らない」は40%程度であるのに対し,20~30歳代では67%に達し,若年層ほど認知されていないことが明らかになった.

表5. 「環境こだわり農産物」の認知度(%)
よく知っている 15.5
少し知っている 31.6
知らない 51.6
無回答 1.2

4. 「環境こだわり米」への評価

(1) 分析方法

滋賀県により「環境こだわり農産物」の認証を受けた「環境こだわり米」に対する消費者評価を明らかにするために,以下のような手順で選択型コンジョイント分析を行った.

まず,「環境こだわり米」の「化学肥料・化学合成農薬の使用量を慣行栽培の5割以下に削減」および「水田からの濁水流出防止」という認証要件を分解し,「水田からの濁水流出防止(以下,濁水対策と表記)」技術のみが用いられ,化学肥料・化学合成農薬の使用量が慣行と同じという米を仮想的に設定した.そして,①「慣行栽培」,②「濁水対策のみ」,③「環境こだわり米」,④「濁水対策+化学肥料・化学合成農薬不使用(以下の表では,化学肥料・農薬不使用と表記)」,⑤「濁水対策+有機JAS認証(以下の表では,有機JASと表記)」という,①から⑤の順に環境への配慮に関して厳しい要件となっている5つの栽培方法を想定した(表6).そして,米の価格については,5 kgあたり1,500円から400円刻みで3,100円まで,5段階に設定した1(表7).

表6. 想定した栽培方法
属性 濁水
対策
化学肥料
・農薬
有機JAS
認証
慣行栽培
濁水対策のみ
環境こだわり 5割以下
化学肥料・農薬不使用 不使用
有機JAS 不使用
表7. 選択実験に用いたプロファイル
属性 水準
栽培方法 慣行栽培,濁水対策のみ,環境こだわり,化学肥料・農薬不使用,有機JAS
価格
(5 kg当たり)
1,500円,1,900円,2,300円,2,700円,3,100円

これらの栽培方法と価格の組み合わせから構成される2種類の米のプロファイルをD効率性基準に従って16問作成し,それぞれに「どちらも買わない」という選択肢を加え,そのうち8問をA票に,残り8問をB票に掲載した.A票とB票は,サンプルとして選択された県民に対しランダムに送付された.それぞれの回答者は上記の栽培方法①~⑤に関する説明および表6を読んだ上で,8問それぞれにおいて,2種類の米どちらを買いたいか,あるいはどちらも買いたくないかを選択した.

各属性に対する限界支払意志額(MWTP)の推計には,コンジョイント分析の標準的な分析方法の1つである混合ロジットモデルを採用した2.回答者nが選択機会tにおいて栽培方法jをとるi番目の選択肢を選択したときに得る効用Unitは,次のように表される:

Unit = Vnit + unit = αpit + Σjβnjxnijt + βn1ASC1

+ βn2ASC2 + unit, βn.~N(μ., σ.2)

ここで,Vnitは効用のうち観察可能な部分を表し,unitは観察不可能な確率的効用を表す.Vnitは選択肢iの価格pitに関して分離可能であり,かつその係数αはnに関して不変と仮定する.また,xnijtは選択肢iの栽培方法ダミー(慣行栽培を基準とし,j={濁水対策のみ,環境こだわり,化学肥料・農薬不使用,有機JAS})を表す.ASC1と2は選択肢固有の定数項(3番目の選択肢「どちらも買わない」を基準とする)を表し,i=1のときASC1=1,i=2のときASC2=1,それ以外はASC1=ASC2=0となる.βn.は回答者nのランダムパラメータを表し,その値域には制約を設けず,分布は平均μ.,分散σ.2の正規分布を仮定した.各属性に対するMWTPは,–E(βn.)/αによって算出される.

(2) 分析結果

全データを用いた選択型コンジョイント分析の推計結果を表8に示す3.価格の係数は負で有意であり,理論的要請を満たしている.一方で栽培方法ごとの係数の大きさの順序は,当初想定していた「環境配慮に関して厳しい要件ほど大きい」という順とは異なり,「化学肥料・農薬不使用」,「有機JAS」,「環境こだわり米」,「慣行栽培」,「濁水対策のみ」の順となった.ランダム係数の標準偏差の推計値を比較すると,濁水対策のみの変動係数が2.9と他と比較して大きくなっており,濁水対策のみ実施した米に対する評価のばらつきが大きいことを示している.

表8. 推計結果(全データ)
属性 係数 MWTP
価格 –1.68×10–3***
濁水対策のみ –0.50*** –298
1.46***(2.9) [–417, –178]
環境こだわり 1.87*** 1,113
0.94***(0.5) [1,022, 1,203]
化学肥料・農薬不使用 2.16*** 1,286
1.07***(0.5) [1,189, 1,384]
有機JAS 2.10*** 1,251
1.47***(0.7) [1,153, 1,348]
ASC1 3.16*** 1,887
1.71***(0.5) [1,800, 1,974]
ASC2 3.00*** 1,788
1.63***(0.5) [1,704, 1,872]
対数尤度 –8,064.38
観測数 29,208

1)係数の上段は期待値,下段はSDの推定値をそれぞれ表す.カッコ内は変動係数.***は1%有意.

2)MWTPの単位は円/5 kg.カッコ内は95%信頼区間.

慣行栽培および3番目の選択肢を基準としたMWTPは表の通りであり,選択肢固有の定数項(ASC1および2)の平均を慣行栽培米のWTPと解釈した場合,「慣行栽培」,「濁水対策のみ」,「環境こだわり米」,「化学肥料・農薬不使用」,「有機JAS」のWTPはそれぞれ1,838円,1,540円,2,951円,3,124円,3,089円であった.これらを一対ごとに比較すると,上位の2者(「化学肥料・農薬不使用」と「有機JAS」)の間には有意差はなかった.

評価が高かった濁水対策+化学肥料・農薬不使用という栽培方法は,環境保全による公益だけでなく生産された米の安全性への期待といった私益もあわせて県民に提供していると位置づけられる.他方,私益との重なりが小さい濁水対策のみ実施という栽培方法に対する評価はばらつきが大きいものの,慣行栽培よりも低いことが明らかになった.

農産物の安全性に対する不安に関する質問(表1)に対して「不安を感じていない」と「どちらかといえば不安を感じていない」の回答を合計して「不安なし」群とし,同じく「どちらかといえば不安を感じている」と「不安を感じている」の回答を合計して「不安あり」群として推計結果を比較したものが表9である5

表9. 農産物の安全性への不安別推計結果
属性 不安あり 不安なし
係数 MWTP(円/5 kg) 係数 MWTP(円/5 kg)
価格 –1.70×10–3*** –1.75×10–3***
濁水対策のみ –0.50*** –292 –0.39*** –225
1.22***(2.4) [–469, –115] 1.32***(3.4) [–376, –74]
環境こだわり 2.14*** 1,253 1.69*** 961
1.24***(0.6) [1,112, 1,395] 1.06***(0.6) [840, 1,083]
化学肥料・農薬不使用 2.57*** 1,507 1.79*** 1,022
1.41***(0.5) [1,351, 1,662] 0.96***(0.5) [899, 1,144]
有機JAS 2.57*** 1,511 1.75*** 997
1.68***(0.7) [1,359, 1,662] 1.52***(0.9) [866, 1,128]
ASC1 2.85*** 1,675 3.68*** 2,101
1.59***(0.6) [1,554, 1,796] 1.57***(0.4) [1,986, 2,216]
ASC2 2.65*** 1,553 3.61*** 2,060
1.50***(0.6) [1,435, 1,671] 1.57***(0.4) [1,947, 2,173]
対数尤度 –3,884.06 –3,804.63
観測数 14,448 13,656

1)係数の上段は期待値,下段はSDの推定値をそれぞれ表す.カッコ内は変動係数.***は1%有意.

2)MWTPのカッコ内は95%信頼区間.

栽培方法ごとの評価の順序はおおむね表8の場合と同じであった.慣行栽培への評価を示すASC1および2のMWTPはいずれも「不安あり」群で500円前後低くなっているのに対し,「化学肥料・農薬不使用」と「有機JAS」のそれは「不安あり」群で同じく500円程度高くなってほぼ相殺されており,この2つの栽培方法は2群の間で評価にあまり差がないことがわかる.これに対して,「環境こだわり米」のMWTPは「不安あり」群で300円程度高くなるにとどまり,「濁水対策のみ」の慣行栽培に対する低評価は2群間で大きな差がみられない.この結果は,安全性に不安を感じる県民は,安全性が体現されていると思われる栽培方法を評価するというよりも,そうした私益との重なりが小さいと感じられる栽培方法への評価を下げることを示している.

農薬や肥料などによる環境への悪影響に関する質問(表3)に対して「非常にそう思う」と「ややそう思う」の回答を合計して「悪影響あると思う」群とし,同じく「あまり思わない」と「全く思わない」を合計して「悪影響あると思わない」群として推計結果を比較したものが表10である.

表10. 農薬・肥料の影響認知度別推計結果
属性 悪影響あると思わない 悪影響あると思う
係数 MWTP(円/5 kg) 係数 MWTP(円/5 kg)
価格 –1.86×10–3*** –1.70×10–3***
濁水対策のみ 0.20 107 –0.40*** –234
0.81*(4.1) [–197, 410] 0.97***(2.4) [–350, –118]
環境こだわり 1.54*** 825 1.93*** 1,137
1.19***(0.8) [548, 1,102] 1.16***(0.6) [1,037, 1,237]
化学肥料・農薬不使用 1.49*** 798 2.28*** 1,347
1.01**(0.7) [528, 1,069] 1.27***(0.6) [1,240, 1,453]
有機JAS 1.23*** 662 2.22*** 1,306
1.41***(1.1) [375, 949] 1.56***(0.7) [1,199, 1,414]
ASC1 3.67*** 1,970 3.24*** 1,914
2.10***(0.6) [1,680, 2,260] 1.61***(0.5) [1,824, 2,003]
ASC2 4.18*** 2,241 2.95*** 1,737
1.85***(0.4) [1,956, 2,525] 1.49***(0.5) [1,650, 1,823]
対数尤度 –656.02 –6,964.32
観測数 2,328 25,464

1)係数の上段は期待値,下段はSDの推定値をそれぞれ表す.カッコ内は変動係数.*は10%有意,**は5%有意,***は1%有意.

2)MWTPのカッコ内は95%信頼区間.

3でも述べた通り「悪影響あると思わない」群の回答者が少なかったため,他の推計と比較するとこの群の推計は不安定である点に留意する必要があるが,「悪影響あると思う」群では「濁水対策のみ」の評価が低くなる一方,「化学肥料・農薬不使用」と「有機JAS」の評価が高くなった.

水田から流出する泥水(濁水)による環境への悪影響があると考える県民は,環境こだわり農法のうち濁水対策の部分に対して高い評価を与えるだろうか.表4において「非常にそう思う」と「ややそう思う」と答えた回答者を合わせて「悪影響あると思う」群とし,同じく「あまり思わない」と「全く思わない」と答えた回答者を「悪影響あると思わない」群として推計結果を比較したものが表11である.

表11. 濁水の影響認知度別推計結果
属性 悪影響あると思わない 悪影響あると思う
係数 MWTP(円/5 kg) 係数 MWTP(円/5 kg)
価格 –2.39×10–3*** –1.49×10–3***
濁水対策のみ –0.61*** –256 –0.41*** –273
1.24***(2.0) [–414, –99] 1.39***(3.4) [–436, –111]
環境こだわり 1.63*** 681 1.97*** 1,324
1.66***(1.0) [537, 824] 0.90***(0.5) [1,197, 1,451]
化学肥料・農薬不使用 1.89*** 790 2.30*** 1,548
1.11***(0.6) [659, 921] 1.24***(0.5) [1,407, 1,689]
有機JAS 1.84*** 771 2.20*** 1,479
1.52***(0.8) [632, 909] 1.45***(0.7) [1,339, 1,619]
ASC1 4.96*** 2,071 2.66*** 1,787
1.52***(0.3) [1,948, 2,195] 1.68***(0.6) [1,671, 1,902]
ASC2 4.81*** 2,008 2.49*** 1,673
1.43***(0.3) [1,894, 2,122] 1.63***(0.7) [1,561, 1,785]
対数尤度 –1,765.04 –5,655.05
観測数 6,600 20,544

1)表10に同じ.

濁水による「悪影響あると思う」群では,「化学肥料・農薬不使用」と「有機JAS」に加えて,「環境こだわり米」への支払意志額が高かった.一方で,この群では,「慣行栽培」だけでなく「濁水対策のみ」に対しても支払意志額が低下する結果となった.濁水による環境への悪影響に関する認知は,濁水対策そのものの評価は高めていない(むしろ,低下させている)が,化学肥料と農薬の使用量を減少させることの評価がそれを打ち消して余りあるほど上昇していることがこの結果から読み取れる.

「環境こだわり米」への評価は,「環境こだわり農産物」について知っている人の方が高いことが予測される.それでは,「環境こだわり農産物」について知っていることは,その認証内容の一部である濁水対策の評価にどのように影響しているだろうか.表5において「よく知っている」と「少し知っている」と答えた回答者を合わせて「知っている」群とし,同じく「知らない」と答えた回答者群との間で推計結果を比較したものが表12である.

表12. 環境こだわり農産物の認知度別推計結果
属性 知らない 知っている
係数 MWTP(円/5 kg) 係数 MWTP(円/5 kg)
価格 –1.85×10–3*** –1.59×10–3***
濁水対策のみ –0.33** –178 –0.69*** –435
1.49***(4.5) [–323, –34] 1.24***(1.8) [–627, –243]
環境こだわり 1.80*** 973 2.07*** 1,305
0.86***(0.5) [863, 1,083] 1.49***(0.7) [1,149, 1,461]
化学肥料・農薬不使用 2.22*** 1,199 2.14*** 1,348
0.76**(0.3) [1,084, 1,315] 1.60***(0.7) [1,186, 1,510]
有機JAS 2.10*** 1,133 2.17*** 1,369
1.14***(0.5) [1,016, 1,250] 1.89***(0.9) [1,204, 1,534]
ASC1 3.51*** 1,895 2.91*** 1,836
1.90***(0.5) [1,784, 2,006] 1.40***(0.5) [1,710, 1,962]
ASC2 3.40*** 1,833 2.73*** 1,722
1.78***(0.5) [1,720, 1,946] 1.20***(0.4) [1,606, 1,838]
対数尤度 –4,115.45 –3,854.61
観測数 15,120 13,920

1)表10に同じ.

「環境こだわり農産物」を「知っている」群では,「化学肥料・農薬不使用」と「有機JAS」に加えて,「環境こだわり米」への支払意志額が高くなり,この3者間では有意な評価差がみられなくなった.一方で,この群では,「濁水対策のみ」に対して支払意志額が低下する結果となった.これらの結果より,「環境こだわり米」への県民の評価は,濁水対策によるものではないと考えられる.

5. まとめ

「環境こだわり米」は慣行栽培と比較して5 kgあたり681円~1,324円のプレミアムが認められた5.しかし,その評価は濁水流出防止対策に化学肥料・農薬不使用や有機JAS認証を組み合わせた商品よりは低いケースが多くみられた.なかでも特徴的な結果は,濁水対策のみ実施することへの評価が,慣行栽培への評価より低いことであった.環境こだわり農産物を知っていることや,農薬・肥料などが琵琶湖や河川の環境に悪影響をもたらすと思っていることは,濁水対策のみ実施した米に対する評価を引き下げていた.琵琶湖を背景に環境配慮型の生産技術や認証制度など先進的な取り組みを進めている滋賀県の消費者にあっても,「環境こだわり米」をはじめとする環境配慮型の水田作による米に対するプレミアム評価は,もっぱら化学肥料と化学合成農薬の使用削減からもたらされていることが明らかになった.

代かき・田植え時期における農業濁水の発生については,これまでの対策により長期的には改善傾向にあるものの,抜本的な解決までには至っていない(滋賀県農政水産部,2017)とされている.本論文の分析結果によれば,濁水対策の実施を地元消費者にアピールするだけでは米の販売価格の上昇は望めず,濁水対策の実施・推進にかかる費用を米の販売価格から賄うことは難しい.環境や生態系の保全がもたらす公益のなかでも,私益との重なり合いが小さい濁水対策への支払意志額が低い一方で,化学肥料・化学合成農薬使用量削減に対する評価が高いという実態は,公益と私益の「抱き合わせ」によって環境保全政策の費用が節約できていることを示しているとも考えられるだろう.

本稿の接近は一次的なものであり,個人属性の評価への影響など重要な点に関する検討が今後の課題として残されている.また,今回の調査結果では,「慣行栽培」「濁水対策のみ」と「環境こだわり」との間に支払意志額の差が観察されたが,「環境こだわり」が評価の参照点となっている可能性についても,残された課題として稿を改めて検討したい.

1  化学肥料・農薬不使用や有機JASで濁水対策を実施しないものを想定することも可能であるが,本調査では回答のしやすさを考慮して含めなかった.濁水対策のみに対する評価は,このことによる下方バイアスが生じている可能性がある.

2  混合ロジットモデルは,無関係な選択肢からの独立性(IIA)の仮定を要しないため,近年多くの研究で採用されている(栗山・庄子,2005).プロファイルの作成および推定は,STATAのuser written command(dcreateおよびmixlogit(Hole, 2007))を用いた.

3  選択実験において全て「買わない」を選択した回答者が75名(有効回答のうち6.1%)存在する.調査設計の不備から抵抗回答を識別できなかったため,推計にはこれらを含めた.この結果,推定結果は保守的な方向にバイアスしていることが考えられる.

4  「不安あり」と「不安なし」群の係数が全て等しいとする帰無仮説の尤度比検定統計量は,表8および9に記載されている対数尤度より751.37であり,自由度13のχ2分布の99%点である27.69を上回るため,帰無仮説は1%有意で棄却される.以下のいずれの2群間比較でも,この帰無仮説が1%有意で棄却されることが表10〜12から計算できる.

5  このプレミアム評価は,既存研究や実勢価格と比較すると高い水準にある.支払意志額は市場均衡価格とは異なるため,これが直ちに評価のバイアスを示すものとはいえないが,実際の支払いを伴わない選択実験の限界として,上方バイアスが生じている可能性は否定できない.ただし,そうしたバイアスの存在は以降の結論には影響しない.

引用文献
 
© 2018 地域農林経済学会
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