2018 年 54 巻 4 号 p. 177-185
担い手の高齢化と減少や中長期的な国際競争の影響への懸念等を背景にして,日本では土地利用型の水稲経営を中心に,農地の生産性向上を図るための農地流動化の推進が重要な政策課題となっている.近年,農地貸借を通じた集積が進められ,全国の農地面積のうち約5割(平成27年時)が担い手に集積されている.一定程度の集積状況に達したともいえるが,各県レベルでみた際には農地の集積状況には大きな偏りが存在している(農林水産省,2016).
農地流動化に関しては,有本・中嶋(2010)がレビュー論文において,過去の研究の多くが,梶井(1973)が提示した生産力格差に基づく農地取引の必要条件(上層農の剰余≧下層農の米作所得)を基にしていたが,梶井が想定した農地市場と現実の農地市場の状況には差異があると指摘している.さらに,最近の研究動向を加え,流動化を阻害する6つの要因について考察し,その上で定量的な分析による阻害要因の影響に関する検証の必要性を指摘している.
この検証に該当する代表的な研究として,高橋(2010)や中嶋(2008),草苅・中川(2011)による実証分析がある.高橋は,1980–2000年間の府県レベルのパネルデータを用いて,契約形態の違いによる取引費用および諸変数の農地貸借に及ぼす影響を明らかにした.他方,中嶋は,文書契約と相対契約による投資インセンティブの差に着目し,文書・相対の契約選択と土地改良投資の有無を同時に推定した.その結果,契約選択に関して,貸し手と借り手間の信頼関係があるときに相対契約を選択する傾向にあることが見出された.草苅・中川は現実の農地市場は,取引費用と収益の不確実性が存在する不完全競争市場であること,またそれらの影響を理論・実証分析により明らかにしている.
しかし,農地貸借の契約年数に注目した研究は日本において存在していない.海外では,契約年数に注目した研究として,Bandiera(2007)がある.Bandieraは農地の貸し手,借り手,両者の選好が契約年数に影響を及ぼすメカニズムを理論的に考察し,①農地の貸し手は農地利用の柔軟性(flexibility)を重視し,契約更新頻度の高い短期契約を志向する傾向にあること,②長期契約は短期契約に比較して更新頻度が低いため,更新に伴う取引費用が小さく,時間に対する機会費用が大きい貸し手や借り手によって選好される傾向にあることを指摘している.日本においても,契約年数は貸し手と借り手の選好に基づき選択されるため,契約年数により影響を及ぼす諸要因が異なる可能性がある.
前述の既往研究以外にも,転用期待(川喜田他,2017;神門,1996),米価/非農業賃金率(高橋,2010),米価(草苅・中川,2011),区画整備状況(高橋,2010)等,流動化の阻害要因を検証した研究は豊富に存在している.しかし,こうした複数の要因を利用可能な統計をもとに検証した研究は十分ではない.
以上の既往研究を踏まえ,本稿では契約年数の差と地代の有無に注目し,農地貸借に影響を及ぼす諸要因を定量的に検証することを具体的な課題に据える.本稿により導かれた結果は量的な流動化が進展する中で,契約年数の実態とそれに伴う阻害要因の違いを明らかにすることを通じて,安定的な農地利用に寄与することが期待される.次節では,本稿で用いる分析データに関して説明した後,契約年数別の農地貸借純増面積の推計結果を示す.3節では,パネル分析に用いる変数ならびに推定方法を概説する.4節では,推定結果を踏まえ,考察を行う.
本稿は,2010年の農地法改正前後でデータの連続性が損なわれていることより,農業経営基盤強化促進法以降,促進法)による利用権設定が増加した1995–2009年の15年間を対象期間とする.北海道,沖縄県や大都市圏(東京,大阪府,神奈川県)は他都府県と状況が著しく異なるため除外し42府県を対象とする.5年ごとに区分した3期間の府県レベルのパネルデータ(3期間×42府県)を刊行統計資料から構築し,分析に用いる.
本稿では文書契約における地代の有無に配慮した2つの農地貸借指標を推計し,パネルデータ分析の被説明変数として用いる.どちらも農林水産省編集『農地の移動と転用』を用いた貸借指標(貸借純増率)である.有地代が賃借,無地代が使用貸借に区別される1.貸借純増率の詳細な推計方法は次項で,分析モデルについては,3節で説明する.
(2) 貸借純増率の契約年数別推計『農地の移動と転用』から,当該年度に促進法により利用権が設定された面積を知ることができる.このことより,パネルデータの期間単位である5年間の「貸借フローの累計値」(貸借純増面積÷農地面積の期間累計値)として貸借純増率を推計した.ただし,農地貸借の残存期間(以降,契約年数と表記)別の利用権(賃借権)の終了分が記載されていないため,単純に設定分の期間累計値を用いると,高橋(2010)が指摘したように,期間終了後の再契約分の重複により増加分を過剰に評価してしまう.そこで,設定年と契約年数を考慮し,パネルデータの各期末に残存している設定面積のみを各設定年の農地面積で除して期間ごとに足し合わせることで契約年数別の期間累計値である貸借純増面積を推計した.なお,『農地の移動と転用』の促進法・利用権の契約年数に基づき,1–3年未満,3–6年未満,6–10年未満,10年以上,それらの合計“計”の5区分で推計値を求めた.しかし,5年ごとのパネルデータであるため,1–3年未満,3–6年未満は契約年数の仮定により,推計値が異なる.そこで各契約年数の区間幅の最短幅および最長幅(1–3年未満の契約ではそれぞれ1年と3年)まで残存する下での推計値“貸借純増率(計)”を求め,高橋(2010)の算出方法に準じた,促進法「(賃借権設定−終了面積)/農地面積」と比較した(図1).最短幅を仮定した貸借純増率(計)と高橋(2010)の算出方法との相関は最長幅を仮定したときよりも高くなっているが,最短幅での推計値は単年度の影響を受けやすいため,最短幅と最長幅での推計値の平均(長短平均)を貸借純増率として採用した.なお推計上,6–10年未満,10年以上の契約を過剰に評価する恐れがある点に留意する必要がある.
貸借純増率と貸借指標との散布図
資料:農林水産省(1995–2009c, 1995–2010b).
1)最短幅:×直線(y=0.9601x−0.0138 R2=0.8604)
最長幅:○点線(y=0.7519x−0.0149 R2=0.8451)
長短平均:△破線(y=0.8494x−0.0148 R2=0.8579).
分析対象期間における貸借純増面積の契約年数別推移を表1に示す.なお,賃借権は地代を課す契約,使用貸借権は地代を課さない契約を指している.いずれの契約年数においても純増面積は分析対象期間を通して増加している.賃借権の構成比をみると,3–6年未満が常に40%以上を占めており,次いで10年以上が30%前後,6–10年未満が20%前後となっている.対象期間を通して,6–10年未満の比率は微減し,10年以上が微増する傾向にある.
賃借権 | |||||
---|---|---|---|---|---|
期間 | 1–3年未満 | 3–6年未満 | 6–10年未満 | 10年以上 | 計 |
1995–1999年 | 7.9(3.9%) | 85.1(42.2%) | 49.3(24.4%) | 59.3(29.4%) | 201.6 |
2000–2004年 | 11.2(4.4%) | 116.8(45.8%) | 53.2(20.9%) | 73.9(29.0%) | 255.0 |
2005–2009年 | 17.6(4.8%) | 160.5(43.8%) | 70.3(19.2%) | 118.4(32.3%) | 366.8 |
使用貸借権 | |||||
期間 | 1–3年未満 | 3–6年未満 | 6–10年未満 | 10年以上 | 計 |
1995–1999年 | 1.2(5.4%) | 4.7(21.6%) | 1.8(8.3%) | 14.1(64.7%) | 21.8 |
2000–2004年 | 1.6(4.8%) | 10.2(30.0%) | 3.4(10.1%) | 18.7(55.2%) | 34.0 |
2005–2009年 | 3.0(5.3%) | 20.2(35.7%) | 8.5(15.1%) | 24.7(43.8%) | 56.4 |
1)()内は各期間の計に対する割合(%)を示す.
一方,使用貸借権は変動が大きいが,10年以上が44–65%を占め,次いで3–6年未満が22–36%,6–10年未満が8–15%を占めている.構成比の推移は,10年以上が20%近く減少し,他方,3–6年未満,6–10年未満とも増加傾向にある.こうした増加傾向は前述したように,いずれの貸借権設定面積も増加していることや,また使用貸借権設定における10年以上の比率の減少および3–6年未満や6–10年未満の増加に起因するものである.また,使用貸借権設定の増加を受けて,近年,賃借権設定に対する使用貸借権設定面積の比率は増加傾向にある.
本稿の目的は,契約年数と地代の有無に着目し,既往研究で挙げられている各要因の影響に関して検証・比較を行うことにある.神門(1996)や高橋(2010)等を参考に説明変数を設定した.各変数の算出方法・出所先を表2に,また被説明変数,説明変数の記述統計量と符号の予想を表3に示す.なお,被説明変数が期間内の増加率で定義されることを考慮し,各説明変数については,各期間期首年値を用いる2.
変数名と定義 | 算出方法および出所先 |
---|---|
貸借純増率(賃借・使用貸借)=権利設定面積/農地面積の各期間累計値,なお,賃借は賃借権設定のみ,使用貸借は使用貸借権設定を含む. | 農林水産省(1995–2009c)の,残存期間別設定面積より,期間期末時点に終了済みの権利設定面積を除いて,権利設定面積を,農地面積は農林水産省(1995–2010a,1995–2010b)の耕地面積と耕作放棄地面積を足し合わせ算出した. |
転用期待指標=転用収入(市街化区域外)÷農業生産額(市街化区域外)の各期間期首年値 | 転用収入は農林水産省(1995–2009c)各年度版にある用途別転用面積と全国農業会議所(1995–2009)各年度版を用いて転用用途別の転用価格と転用面積の積を乗じて算出した. 農業生産額は総務省(1995–2009)各年度版を用いて,都道府県別(市街化区域外農地面積/農地面積)を求め,農林水産省(1995–2009b)各年度版の都道府県別農業生産額に乗じて算出した. |
非農家経営体率=各期間期首年における(農業経営体数−販売農家数)/農地面積 | 農林水産省(1995–2010b)にある当該統計を用いて算出した.なお,1995年,2000年において農業経営体が記載項目にないため,農家以外の農業事業体と農業サービス事業体の和を,非農家経営体数とみなし,用いた. |
高齢農業従事者率=各期間期首年における65歳以上農業従事者数/農地面積 | 農林水産省(1995–2010b)にある当該統計を用いて算出した.農地面積は上記の算出方法に準ずる. |
借り手指標=各期間期首年における(後継ぎ予定者が農業に従事し,65歳未満農業専従者のいる主業農家戸数)/農地面積 | 農林水産省(1995–2010b)にある当該統計を用いて算出した.農地面積は上記の算出方法に準ずる. |
米価/農外賃金率=(60 kg当たり主産物の粗収益)/1人平均現金給与額(事業規模30人以上)の各期間平均値 | 農林水産省(1995–2009a)および,厚生労働省(1995–2009)にある当該統計を用いて算出した.なお欠損している年度の値は直近のデータを用いて線形補間を行い算出した. |
有効求人倍率=有効求人倍率(季節調整値・年平均)の各期間平均値 | 厚生労働省(1995–2009)にある当該統計を用いて算出した. |
基盤整備率=30 a以上区画整備済みの田面積/耕地面積(田)の各期間平均値 | 農林水産省(1993, 2001, 2004–2007, 2008–2009, 1995–2010a)にある当該統計を用いて算出した.なお欠損している年度の値は直近のデータを用いて線形補間を行い算出した. |
田畑ダミー:水田率(水田面積/耕地面積の各期間期首年値)が30–70%未満であれば1,70%以上であれば0 | 農林水産省(1995–2010a)各年版にある当該統計を用いて算出した. |
1)各期間は1995–1999,2000–2004,2005–2009の3期間を指す.
変数名(略称) | 意味 | 平均 | 標準偏差(SD) | 符号予測 | ||
---|---|---|---|---|---|---|
全体 | 府県間 | 府県内 | ||||
貸借純増率(賃借) | 農地貸借量(有地代) | 0.069 | 0.040 | 0.032 | 0.023 | / |
貸借純増率(使用貸借) | 農地貸借量(無地代) | 0.011 | 0.011 | 0.009 | 0.007 | / |
転用期待指標(CHG) | 転用期待 | 0.369 | 0.251 | 0.216 | 0.131 | 負 |
非農家経営体率(NFO) | 集落営農等の寄与 | 0.009 | 0.006 | 0.003 | 0.005 | 正 |
高齢農業従事者率(RAF) | 高齢化の度合 | 0.525 | 0.141 | 0.137 | 0.037 | 正 |
借り手指標(LFI) | 借り手の存在 | 0.039 | 0.022 | 0.019 | 0.011 | 正 |
米価/農外賃金率(RNR) | 相対的米価 | 0.040 | 0.005 | 0.003 | 0.003 | ? |
有効求人倍率(JAR) | 地域労働市場 | 0.751 | 0.220 | 0.184 | 0.123 | 正 |
基盤整備率(IIR) | 区画整備の度合 | 0.407 | 0.212 | 0.188 | 0.101 | 正 |
田畑ダミー(DP) | 水田率30–70%未満の府県 | 0.524 | 0.501 | 0.505 | 0.000 | / |
既往研究で得られた知見などをもとに,各説明変数の農地貸借量に対する影響の予想を以下に述べる.
1) 転用期待指標(CHG)神門(1996)は,1975–1992年を対象とした分析において転用期待が負の有意な影響を与えていることを示しており,抑制的影響を与えているものと予想される.近年のデータを用いて同一手法で売買・貸借別での検証を行った川喜田他(2017)では,貸借においては有意な影響を与えていないという結果が得られているが契約年数別の検証は行われていない.
2) 非農家経営体率(NFO)集落営農などの経営体は地域の農地の借り手として機能している.このような非農家経営体は安定的な経営を目指し,比較的長期の貸借を志向するものと予想される.
3) 高齢農業従事者率(RAF)一般に,農業従事者が高齢になるほど,営農意欲が低下し,所有農地の貸し出しを増やすと予想される.高齢者は時間に対する機会費用が小さいことに加え,相続機会等に備えて,農地利用の柔軟性を重視し,比較的短期の契約を選好する可能性がある.
4) 借り手指標(LFI)農地市場の借り手市場化を鑑みると,農地貸借の量は「借り手」が多いほど,増加するものと予想される.また,本稿が借り手の代理変数として用いた変数の定義では(表2参照),跡継ぎ予定者が農業に従事していることを要件としている.このような「借り手」が多いほど,安定的な規模拡大を志向し,長期の契約を選好する傾向にあると予想される.
5) 米価/農外賃金率(RNR)高橋(2010)は,米価が低いほど,また非農業部門の賃金率が高いほど,小規模農家の退出を通じて農地供給が増加することを示唆している.一方で,草苅・中川(2011)は収益の不確実性や取引費用の増大が借地を抑制することを明らかにしており,それらを統合した影響予想は一意には定まらない.
6) 有効求人倍率(JAR)農家が非農業部門との所得の差を比較する場合には賃金に加え,地域労働市場の状況も判断材料の1つになると考えられる.農外労働機会の増加を通じて農地供給が増加することが予想される.
7) 基盤整備率(IIR)区画整備がなされていない農地では,農地集積による生産性向上への効果は低くなる.高橋(2010)は区画整備が実施されることで,農地の質に関する不確実性が低減され,農地貸借が進むものと論じており,本稿でも同様であると予想される.
8) 田畑ダミー(DP)土地利用型農業である水田は,畑地と比べ集積のメリットが大きく,水田率の高い地域では集積がより速く進むと考えられる.しかし,水田率は年次変動が小さく,府県内の変動を利用する固定効果推定では,水田率は固定効果に吸収されてしまう可能性が高い.そこで,本稿では農林水産省の農業地域類型第2次分類の基準に基づき,分析期間を通じて水田率の平均値が70%以上の府県を水田型(n=20),30–70%未満の府県を田畑型(n=22)の2つに分類し,田畑型を1とする田畑型ダミー(DP)を作成した上で,その他変数との交差項により,水田型をベースに両型間での各変数の影響の違いについて検証する.
(2) 計測方法賃借・使用貸借別,契約年数別の貸借純増率を被説明変数,3.(1)で議論した変数を説明変数とした回帰分析を行う.
また,府県レベルのパネルデータで生じ得る非定常性を単位根検定(Harris-Tsavalis test)により検証したが単位根の存在は棄却された.よって,時間効果を時間ダミーによってのみ考慮する.また,高齢農業従事者率,借り手指標,米価/農外賃金率については高い相関が確認されたため,これら変数の中から1つを除外したモデル,いずれか2つを除外したモデルの推定を行い,多重共線性の影響を検証する.なお分析最終期間(2005–2009年)において農業生産法人による集積が特に進む佐賀県と,市街化区域制度が廃止された香川県については県ダミー変数と当該時間ダミーとの交差項もモデルに加えた3.
表4に推定結果の概要を示す.Hausman検定の結果,計測の多くでランダム効果推定よりも固定効果推定が支持されたため,頑健性と契約年数間の比較の容易さを考慮し,固定効果推定の結果のみを掲載した.また,3.(2)で述べたように,相関の高い変数を除外したモデルを推定し,多重共線性の影響を確認したが,変数の有意性は表4に示した結果とほぼ同様であった.
貸借純増率(計) | 貸借純増率(賃借)・契約年数別 | 貸借純増率(使用貸借)・契約年数別 | ||||||||
---|---|---|---|---|---|---|---|---|---|---|
賃借 | 使用貸借 | 1–3年 未満 |
3–6年 未満 |
6–10年 未満 |
10年 以上 |
1–3年 未満 |
3–6年 未満 |
6–10年 未満 |
10年 以上 |
|
転用期待指標CHG | −0.007 (0.630) |
−0.019*** (0.000) |
−0.001 (0.558) |
−0.009 (0.144) |
−0.009 (0.146) |
0.012 (0.191) |
−0.001** (0.015) |
−0.009*** (0.001) |
−0.005** (0.024) |
−0.005*** (0.001) |
CHG×田畑型ダミー | 0.006 (0.747) |
0.022*** (0.000) |
0.001 (0.398) |
0.017* (0.060) |
0.005 (0.456) |
−0.017 (0.131) |
0.001** (0.015) |
0.011*** (0.000) |
0.004* (0.075) |
0.006*** (0.001) |
非農家経営体率NFO | 0.875 (0.547) |
0.803* (0.072) |
0.025 (0.806) |
−0.461 (0.471) |
0.728 (0.171) |
0.583 (0.436) |
0.035 (0.292) |
0.379 (0.114) |
0.014 (0.814) |
0.375* (0.085) |
NFO×田畑型ダミー | −1.364 (0.359) |
−0.664 (0.158) |
−0.026 (0.804) |
0.000 (0.999) |
−0.741 (0.168) |
−0.596 (0.447) |
0.002 (0.959) |
−0.350 (0.169) |
−0.010 (0.878) |
−0.306 (0.163) |
高齢農業従者率RAF | −0.008 (0.932) |
0.012 (0.759) |
0.016 (0.104) |
0.015 (0.752) |
0.004 (0.877) |
−0.043 (0.426) |
0.000 (0.920) |
−0.003 (0.874) |
0.005 (0.535) |
0.009 (0.582) |
RAF×田畑型ダミー | 0.075 (0.552) |
−0.020 (0.654) |
−0.001 (0.926) |
0.009 (0.891) |
0.009 (0.763) |
0.058 (0393) |
0.001 (0.705) |
−0.001 (0.947) |
−0.010 (0.326) |
−0.010 (0.611) |
借り手指標LFI | 1.723*** (0.008) |
0.049 (0.785) |
0.051 (0.155) |
0.269 (0.381) |
0.470*** (0.004) |
0.933*** (0.003) |
0.010 (0.392) |
0.090 (0.245) |
−0.016 (0.544) |
−0.034 (0.719) |
LFI×田畑型ダミー | −1.214** (0.048) |
0.082 (0.662) |
−0.035 (0.400) |
−0.207 (0.514) |
−0.323** (0.049) |
−0.649** (0.035) |
0.009 (0.606) |
−0.079 (0.343) |
0.051 (0.106) |
0.101 (0.310) |
米価/農外賃金率RNR | −7.942*** (0.000) |
1.633*** (0.003) |
−0.361*** (0.002) |
−2.729*** (0.001) |
−1.189* (0.068) |
−3.663*** (0.001) |
0.119** (0.021) |
0.583** (0.039) |
0.590*** (0.000) |
0.341* (0.086) |
RNR×田畑型ダミー | 7.904*** (0.000) |
−1.164** (0.044) |
0.149 (0.303) |
3.170*** (0.000) |
1.160* (0.069) |
3.426*** (0.002) |
−0.080 (0.123) |
−0.325 (0.280) |
−0.467*** (0.004) |
−0.293 (0.182) |
有効求人倍率JAR | 0.017 (0.411) |
0.002 (0824) |
0.001 (0.564) |
0.002 (0.843) |
−0.003 (0.630) |
0.016 (0.355) |
−0.001 (0.353) |
−0.001 (0.888) |
0.001 (0.605) |
0.002 (0.558) |
JAR×田畑型ダミー | −0.033 (0.282) |
0.006 (0.550) |
−0.002 (0.299) |
−0.028* (0.074) |
0.010 (0.144) |
−0.013 (0.529) |
0.001 (0.222) |
0.003 (0.476) |
0.002 (0.426) |
−0.001 (0.872) |
基盤整備率IIR | −0.032 (0.699) |
0.067** (0.017) |
0.000 (0.925) |
−0.027 (0.496) |
−0.006 (0.805) |
0.001 (0.989) |
0.006*** (0.005) |
0.040*** (0.006) |
0.017*** (0.004) |
0.004 (0.680) |
IIR×田畑型ダミー | 0.093 (0.185) |
−0.041 (0.122) |
0.006 (0.174) |
0.080** (0.040) |
0.013 (0.557) |
−0.006 (0.897) |
−0.005** (0.020) |
−0.025* (0.068) |
−0.014** (0.017) |
0.003 (0.712) |
R2 | 0.814 | 0.819 | 0.630 | 0.805 | 0.610 | 0.672 | 0.727 | 0.818 | 0.781 | 0.598 |
n | 126 | 126 | 126 | 126 | 126 | 126 | 126 | 126 | 126 | 126 |
Hausman test | 54.50 (0.000) |
32.81 (0.000) |
47.21 (0.000) |
27.05 (0.078) |
29.05 (0.048) |
49.40 (0.000) |
265.65 (0.000) |
67.03 (0.000) |
−369.91 | 15.05 (0.521) |
1)*,**,***はそれぞれ有意水準10%,5%,1%を示す.また括弧内の数値は頑健標準誤差を用いたp値である.
賃借の貸借純増率(計)を見ると,借り手指標(LFI)は1%水準で正,米価/農外賃金率(RNR)は1%水準で負に有意となっている.一方,田畑型ダミーとの交差項の符号は,これらの変数の効果を打ち消す方向に有意となっている.このことから,借り手指標や米価/農外賃金率は,特に水田型府県における賃借に影響を与える要因であると示唆される.
使用貸借の貸借純増率(計)をみると賃借とは異なり,転用期待指標(CHG)が負に,米価/農外賃金率(RNR)と基盤整備率が1%水準で,非農家経営体率が10%水準で有意となっている.CHG,RNRそれぞれの田畑型ダミーとの交差項の符号は,これらの変数の効果を打ち消す方向に有意となっている.このことから,CHG,RNRは特に水田型府県の使用貸借に影響を与えていると示唆される.
次に契約年数別の推定結果に着目すると,合計の結果とは異なる結果を得た4.賃借に対し,統計的に有意であった変数ごとに示すと,借り手指標(LFI)は水田型の6–10年未満および10年以上で正に1%水準で,米価/農外賃金率(RNR)は1–3年未満,3–6年未満,10年以上が1%水準で,6–10年未満が10%水準で負に有意である.さらに,交差項の結果より,これらはRNRの1–3年未満を除いて,特に水田型府県の賃借に影響を与えていると示唆される.
一方,使用貸借においても統計的に有意な変数ごとに示すと,転用期待(CHG)が水田型の1–3年未満,6–10年未満において5%水準で3–6年未満,10年以上において1%水準で負に,基盤整備率(IIR)が1–3年未満,3–6年未満,6–10年未満において1%水準で正に有意である.交差項の結果より,これらの変数は特に水田型府県の使用貸借で影響を与える要因であると示唆される.また非農家経営体率が10年以上において10%水準で,米価/農外賃金率(RNR)が6–10年未満において1%水準,1–3年未満,3–6年未満で5%水準,10年以上において10%水準で正に有意であった.なお,交差項の結果より,10年以上を除くCHG,3–6年未満を除くIIR,6–10年未満におけるRNRは,特に水田型府県の使用貸借に影響を与える要因であることが示唆される.
パネルデータ分析から得られた興味深い結果は,まず1つ目に地代の有無に応じて貸借純増率に影響を及ぼす要因が異なるという点である.賃借(地代有貸借)では,借り手農家や米価/農外賃金率が,使用貸借では転用期待,米価/農外賃金率,基盤整備率が影響しており,地代の有無により貸借量の決定要因が異なることが示唆される.
賃借では,米価の下落は貸借量の増加に寄与しており,高橋(2010)の結果と整合的である.しかし,地代の発生しない使用貸借では,米価の下落は逆に流動化を抑制する方向に働いていた.賃借と比較して使用貸借地の多くが劣等農地であり,貸し手の主な貸付動機は所有農地の維持・保全あることが流動化抑制の一因になっていると考えられる.すなわち,米価の下落による収益性の低下は貸し手の貸付行動に影響を及ぼさないが,一方で,一部の借り手に返還インセンティブを与えるため,結果として,使用貸借を縮小させる方向に作用する.賃借市場においては,収益性の低下により供給量が増加し,借り手市場が形成される.そのため,米価の下落は貸し手の貸付インセンティブを強め,一方,米価水準にかかわらず地代を支払っても所得を確保できる条件的に有利な農地ならば,借り手は借り入れる動機をもつ.ただし,米価の下落と農地賃借量との関係については,ほかにも,草苅・中川が指摘した米価の下落による不確実性の増大や取引費用の減少といった,米価の変動と市場の不完全性の影響にも注意を払う必要があるが,本稿では推定モデルの制約から,その効果を考察することはできない.
2つ目は契約年数を考慮することで,その長さにより影響する要因が異なる点である.借り手指標は水田型の府県において賃借の合計に対し有意に正の影響を与えていた.しかし,この影響は契約年数別にみると,6–10年未満,10年以上の比較的長期の契約においてのみ観察された.農地面積当たりで借り手となる農家の数が増加すると,長期の契約が志向される傾向にあることが示唆された.
使用貸借の合計・水田型府県で有意であった非農家経営体指標は10年以上でのみ有意であった.農地面積当たりの農家以外の経営体数が,長期の無地代貸借に寄与する傾向にあることが示唆された.
加えて,転用期待指標については使用貸借で負に,米価/農外賃金率は賃借においては負に,使用貸借においては正に,いずれの区分においても統計的に有意であり,転用期待,米価/農外賃金率が契約年数を問わず,頑健な影響を生じていることが示唆された.
本稿では推定式を個別に推定した結果を報告したが,農家は地代の有無と,契約年数について意思決定を行っている.各推定式の誤差項間に相関が生じている可能性があるため,賃借と使用貸借の合計の2本,賃借の契約年数別の4本,使用貸借の契約年数別の4本,の推定式について,それぞれSUR(Seemingly unrelated regression)により同時推定を行った.賃借と使用貸借の合計間で有意に負の誤差項の相関が確認され,賃借と使用貸借は全体として代替関係にあることが示唆された.使用貸借の契約年数間で誤差項が正の相関を持つ傾向にあったが,賃借の契約年数別の誤差項間に有意な相関は見られなかった.使用貸借の純増率は,その契約年数によらず,本稿の推定式では捉えきれていない要因の存在が示唆される.地代が発生しない使用貸借は説明変数に含まれない地域レベルの制度の変化の影響をより強く受けている可能性がある.なお,全ての推定式で同じ説明変数を用いているため,係数の推定値は個別推定と同時推定の間で差は生じない.
本稿は,農地貸借量に影響を及ぼす要因が地代の有無や契約年数により異なることを示した.地代の有無については,借り手農家の存在が賃借の増加に,基盤整備率が使用貸借の増加に寄与することが,また,米価の下落は賃借の増加と使用貸借の減少を招くことを示唆する結果を得た.これは賃借・使用貸借に寄与する要因を明らかにしたとともに,米価下落局面にある近年において基盤整備が十分でない条件不利な地域では農地貸借が停滞・縮減する可能性も示唆している.
また,契約年数別については,農地の借り手が増加するほど長期の賃借を通じて流動化が進んだこと,農家以外の経営体の増加が地代を伴わない長期貸借の増加に寄与することを示唆する結果を得た.これは借り手農家が長期貸借を志向していること,地域の農家以外の農業経営体が条件不利農地の長期的管理・利用に寄与している可能性を示唆している.
現在の施策である農地中間管理機構は,長期貸借のマッチングを円滑化することによる流動化を推進している.借り手となる農家や農家以外の経営体が育っている地域には適した施策であると言えよう.一方,農業従事者の高齢化・担い手不足は今後も続くと考えられ,地代により需給を調整することのできない農地の供給増加が予想される.このような農地への整備が,特に中山間地域などの条件不利地域の農地の維持という観点から重要となるだろう.
本稿は農地貸借の決定要因を契約年数別に検討するという点に独自性を有する一方で,農地貸借市場が不完全競争市場であるという草苅・中川(2011)の実証結果を反映していない.完全競争市場を仮定したアドホック・モデルの改善は今後の課題である.