農林業問題研究
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大会報告
農業協同組合の存在意義と未来像
―政府の「農協改革」とJAの「自己改革」をめぐって―
辻村 英之
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2019 年 55 巻 1 号 p. 28-29

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2014年5月の規制改革会議「農業改革に関する意見」から端を発する「農協改革」について,「改正農協法」「農林水産業・地域の活力創造プラン」「農業競争力強化支援法」など,改革を促す政府の一連の動きが続いている.これらを受けてJAは,「JAグループの自己改革について」(2014年11月),「創造的自己改革への挑戦」(2015年10月),「『魅力増す農業・農村』の実現に向けたJAグループの取り組みと提案」(2016年9月)に基づいて,単位農協や連合会が「自己改革」を進めている.

「重大な危機感をもって」改革を実行する「農協改革集中推進期間」(~2019年5月)の残りが半年となった今,政府の「農協改革」とJAの「自己改革」はどの程度進んだのか,比嘉政浩(全国農協中央会)による「それぞれの実態・差異と進捗状況」の報告から本セッションははじまった.

「農協改革」については,政府は「劇薬を用意し農協改革を求めている」とし,①信用事業の代理店化(信用事業の主体を信連・農林中金等としJAはその代理店として手数料収入),②准組合員の利用制限(2022年4月までの間,改革の実施状況等を調査し,結論を得る)を挙げた.そして全中は,まず前者について,JAの使命を考慮して,信用事業代理店化が望ましいか総合経営の継続が望ましいか検討するよう,それぞれのJAに要請している.後者については,准組合員を「農業振興の応援団」「地域振興の主人公」と位置付け,准組合員の意思反映・運営参画の機会や仕組みを構築して「准組合員は組合員」を明確にすることで,「組合員の事業利用を制限することはあってはならない」と主張し続けると言う.

JAの「自己改革」については,「営農関係事業は変わらなければならない」と強調し,「自己改革」の重点目標は「農業者の所得増大」「農業生産の拡大」「地域の活性化」だが,この順序であることが重要であると主張した.それゆえ最大目標となる「農産物の販売品取扱高の拡大」について,27~28年の2年連続増の成果報告があり,市場に敏感になった(品薄であるものの単価を引き上げたり,需要のあるものへとシフトした)ことを成功要因とした.

このように営農事業(特に販売事業)改革については,政府の「農協改革」が求めるものであるが,それをJAの「自己改革」としても積極的に推し進めていることがわかった.

さて政府の「農協改革」は,①三面複合体的性格,②総合事業,③准組合員制度など,日本農協の特質を破壊する圧力をかけている.三面複合体的性格とは,協同組合の性格に加え,圧力団体(農政運動体)と行政補助機関の性格を併せ持つことである.全中の権限が削減され,農政活動の法的根拠である行政に対する建議権(農協の利益を代表する行為)を失った.政府に対するロビ活動が有効でないのなら,その「対価」としての行政補助も意義がなくなる.

残される協同組合としての性格についても,総合(多目的)事業であること,准組合員を正組合員以上に抱えることの日本農協の特質は,金融事業の窓口・代理店化によって経済(特に販売)事業中心の専門農協型組合へ,准組合員の利用規制により職能(営農専門)組合への改革圧力がかけられている.

このように政府の「農協改革」を,日本農協の特質を破壊する圧力と捉えることで,それらの特質が構築されてきた歴史を解明する研究や,外国の農協との比較研究の意義が導かれる.

前者の報告「日本農協の特質―三面複合体的性格と総合事業を中心に―」を担う増田佳昭(立命館大学)はまず,農業団体法(1943年)が系統農会(地主・農民団体)と農村産業組合(信用・販売・購買・利用の4種兼営)を統合し,農業会(国策遂行機関)を生み出したが,それが戦後農協の前身であり,行政代行機能を併せ持つ「農業団体」として発足したことを説明した.さらに産業組合の非農家加入者が,農業会において「任意会員」に移行したことを,戦後農協の准組合員制度の起点と位置付けた.

また総合事業の特質について,4種兼営の起源は産業組合であるが,農会の非協同組合的機能(組織指導,農業指導,農政活動)を当初,戦後農協は引き継がず,農業技術指導の一部を公的な農業改良普及制度が担った.しかし1954年,農協中央会制度の下で指導や農政活動を農協が取り込んだ.

このように現在の農協の制度は,歴史的な経緯の中で形成されてきたものであり,それを踏まえて制度改革を検討する必要があると強調された.特に系統農会から引き継いだ農業団体的性格を今後,どう取り扱っていくかが重要であると言う.

後者の報告「販売事業の可能性―フランスの専門農協との比較に基づいて―」を担う小池恒男(農業開発研修センター)はまず,米穀事業を事例として全農の事業改革(政府が求める「中間流通業者への販売中心から,実需者・消費者への直接販売中心にシフト」「委託販売から買取販売へ転換」の達成状況)を説明した.特に買取販売の取り組みをめぐり,①従来の「共同計算+委託販売」方式,②従来方式に精算早期化の改善,③従来方式+一部買取販売,④「委託販売+一部非共同計算」方式(個別委託販売.組合員から預かってプール計算から外す),⑤共同計算を前提にした買取販売,⑥積立金で差損発生に備える買取販売,⑦全量完全買取販売方式,という,多様な対応になっていることを明らかにした.

フランスの専門農協については,上記の日本の買取販売との比較で,委託販売を基本としながらも,「仮払価格があり,補償価格があり,払い戻しがある」という,事後的な修正をともなった弾力的な買取販売を確認できると言う.また日本における従来からの理解[経済(販売・購買)事業のみを展開]とは異なり,営農指導事業(基本的に無料で,他事業やグループ全体の収益からのコストの補填)や「金融にかかわる業務」(農協の生産展開計画に沿った組合員の投資に対する融資)などの多目的事業が展開されていること,農業者の所得増大のための構造変化のダイナミズム(合併,連合会の形成,子会社化・グループ化,海外進出など)が強調された.

さて上記のようにJAは,政府からの専門農協化・営農専門組合化への改革圧力に対抗し,自らを「食と農を基軸として地域に根ざした協同組合」と位置付けた.ただし比嘉が言うように,事業目標の優先順位は「農業者所得増大」>「農業生産拡大」>「地域活性化」となる.「農業者の所得増大」については小池が論じたが,最後に北川太一(福井県立大学)が,「地域活性化」をめぐり,「総合事業・生活事業の存在意義」を論じた.

その存在意義として最初に「第9回全国農協大会(1961年)」の『生活改善活動の積極化についての決議』を引用し,「農業生産力の向上が必要であることは,農協としては当然のことであるが,いわゆる経済問題は,生活のための手段であって,協同組合運動の究極の目的は,人間の住みよい,より豊かで民主的な人間生活を多数の人びとの“協同”によって実現しようとするもの」,すなわち生活改善が目的であり,営農改善はそのための手段であることを強調した.それゆえ家族経営を基盤とする農協は,営農を含めた暮らし全体を守る事業を行うべきと言う.

そして現在の「食と農を基軸として地域に根ざした協同組合」の課題として,①食と農という「異質な成員」の結合原理としての地域(コミュニティ)の位置付け,②農業者の利益確保に資する消費者の理解と行動,③〈効率性〉[「範囲の経済効果」(複数事業の兼営による共通的なコストの削減)]だけでなく,〈有効性〉[「連結の経済効果」(情報や技術,人材といった経営資源が複数の事業において多重に利用される効果)]も視野に入れた経営,を挙げた.

その後の総合討論については字数制限からすべてを記載できないが,①家族経営の企業化が進むと農業経営が家計から自律し(生活改善目的の手段としての営農改善目的という位置付けが難しくなり),農業所得が最優先される(生活事業の存在意義が弱まる)のではないか,②多様化したあらゆる発展形態の農業者ではなく,事業の対象者を特定・限定した方がよいのではないか,③規模の経済性を求める事業コープとしてのみならず,地域密着を求めるコミュニティ・コープでもあることの困難さ(両立させる工夫の重要性),④行政代行・信用の事業の有無と農業団体・協同組合の性格の有無を基軸とした農協の未来像,などについて意見が交わされた.

 
© 2019 地域農林経済学会
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