農林業問題研究
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大会報告
若手研究者にとって魅力的な地域農林業研究とは何か?
中村 貴子本田 恭子
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2019 年 55 巻 1 号 p. 30-31

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1. 本報告の経緯とねらい

秋津元輝と中村は,21期の組織担当理事である.地域農林経済学会には「若手の会」があり,組織担当は若手の会を補佐する役目を担う.秋津は,若手の会事務局の代表を務める本田に,「若手研究者に魅力のある地域農林経済学会を追求し,若手の研究活動を活性化すべき」という命題を与え,第68回地域農林経済学会大会特別セッションでの公開討論を提案した.本田はこの提案を受け,本学会の学際的特徴について教授を受けるべく,河村能夫にその分析を依頼し,本人は若手の会の活動の振り返りを担当し,さらに会員のデータベースから若手の分析を木原奈穂子が行った.当日のコーディネートを中村が務めた.特別セッションでは有意義なコメントを会場からも頂戴したが,紙幅の関係上報告者三者の内容報告にとどめることを最初に詫びたい.

2. 三者による報告の概要

(1) 第1報告 地域農林経済研究は何を目指してきたか

第1報告では,河村が地域農林経済学会の特徴について整理した.河村の整理を大胆にまとめれば,「現場に基づいた実証研究が地域農林経済学会の特徴」ということである.ただし,同じ実証研究と呼んでも,アプローチの仕方には「強い仮説」と「弱い仮説」があると表現した.

強い仮説とは,「妥当性のある理論で先行研究が進められており,現場での調査は,仮説を裏付ける手段である.ゆえに,仮説に必要な因子以外は求めない.それに伴って,仮説以外の説は見いだせない可能性がある.しかしそれ故に,従属変数と決定因子(独立変数)が明確に識別されており,隙がないように見える」.一方,弱い仮説とは,「現場からデータを集めて分析する際,見過ごしているかもしれないという姿勢が常にある.したがって,参与型で収集するデータなども含め,できる限り多くの側面からデータを集め,全体を見るところから始まる.そのため,統計的にいえば,説明変数に対し,独立変数が多くなり,それらのうちから効いている変数がどれになるのかを見ることになる.」と解説している.強い仮説は演繹的方法論であり,弱い仮説は帰納的方法論だとも表現する.そして,「これらはどちらも重要であり,地域農林経済学会は,この双方を認めてきた点に特徴があるといえるのではないか,一人の研究者が両方をするのは難しいが,2つのタイプの研究者が集まって,認め合ってきたのが本学会だと思う.今後もその姿勢は重要で,学会としてどちらかに偏ってはだめだと考える.若い研究者はこの間で苦しんでいるのではないか,と感じている.」と地域農林経済学会の振返りと若手の思いを慮った.

また,この点に対する解決策を河村なりに模索した考えも披露した.一つは,アメリカでも同じような時代があり,その学問的展開過程には学べる点があるということだ.ただし,河村が最後に締めくくったのは,アメリカとアジアの地域性の違いを前提に「国内のほとんどの学問が欧米型を中心に進んできたので,現実的に我々が必要だと思っているところでは進んでいないのではないか.今,日本を含め,アジアに必要なのは,統合的な総合的分析で地域(メゾ)を見直すことなのではないか,普遍性と固有性を析出する方法論をどう構築していくか,メゾ・レベルの研究蓄積と成果の還元は,グローバル化の国際社会において,日本の農林業研究者の社会的役割であることがポイントとなる.」という地域農林経済学会編『地域農林経済研究の課題と方法』を引用して発言した.そしてもう一つは,日本村落研究学会で取り組んできたパラダイム転換の方法で,若手研究者にアンケートを取り,年齢間のギャップを客観的に捉えることから始め,学会の在り方を変えていったというものだった.

以上の河村の報告は若手・中堅,そして学会が持つ迷いを言葉にしたことに価値がある.

(2) 第2報告 データベースからみる会員の状況

第2報告では,木原が会員の研究動向の変化について分析した.データは,1997年,2006年,2010年の会員名簿および2018年の学会登録者一覧,および2018年9月13日~9月30日に実施した会員向けのWebアンケート調査結果である(89の回答).

会員名簿の分析より,40代,50代の会員数はやや上昇にあるものの,20代,30代は減少傾向にあり,特に20代の減少幅が大きいことが分かった.また,60代でも学会からリタイアする者が多いことも改めてわかった.

アンケート結果から次の事が分析されている.研究テーマについて,1980年代は農林水産政策,農村社会,農業史の割合が高かったが,2010年代以降は,農林水産政策が高いものの,農林水産政策を100として見た時,1980年代に比べて高くなっているのは,フードシステム,マーケティング,農商工連携・6次産業化,農村社会の分野であった.また若手支援には何が必要かを尋ねたところ,図1の結果となった.一方,若手が学会に期待することは,論文発表の場,最新の研究動向,同じ専門分野の研究者からのコメントの順であった.自由回答も含めて木原は分析しているが,紙幅の関係上ここでは割愛する.

図1.

望む若手支援(n=89)

資料:会員向けのWebアンケート調査より木原作成

木原は,若手から期待される学会のあり方は,開かれた研究の場であること,研究手法を学ぶことであり,雇用状況に応じた対応の指導と結んだ.

(3) 第3報告 若手の会のこれまでのとりくみと課題

第3報告では,本田が若手の会の歴史を振り返り課題の把握に努めた.

若手の会設立のきっかけは,2011年7月の近畿支部大会での発表者全員が院生で「同世代と気軽に話せる場がほしい」という意見が出たことだった.若手の会は,2012年以降,毎年,研究報告会や特定テーマでの勉強会を行ってきた.また,2012年には学会HP上に「若手の会」のページ開設や学術振興会若手アカデミー委員会への参加などを行い,2013年には『農業と経済』の書評を試験的に実施した.2016年には,近畿支部大会でランチセミナー「若手研究者からみた大学の地域連携―研究と地域連携との両立・節合を目指して」を開催した.このセミナーの目的は,遠方の若手との交流機会の創出に加えて,若手の働く環境を知ってもらうことにもあった.さらに,2018年には「海外発表に関する基本的な内容を知りたい」との意見が出たことを受けて,ランチセミナー「国際学会での発表を目指す院生・若手研究者の相談会」を開催した.この相談会を契機として,会員有志による英語論文執筆集中ワークショップが開催され,若手の会からも複数名が参加した.

以上のように,若手の会は7年に渡り多数の研究会等を開き,若手研究者同士の交流や先輩研究者との交流の機会を作ってきた.しかし,今後の活動継続のためには,企画を担ってきた事務局員の世代交代が必要である.ただし,関西地区内でこうした企画に携わる時間的余裕のある院生・若手研究者が減少している現状がある.そのため,本田は,若手研究者が厳しい状況下にあることをふまえると,研究会・勉強会を中心とする現行のあり方や会の名称変更も今後検討していく必要があると指摘した.

 
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