農林業問題研究
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研究論文
農協における事業展開上の優位性再考
柴垣 裕司
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2019 年 55 巻 1 号 p. 43-53

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Abstract

In order for the agricultural co-operatives to survive, it is necessary to reconsider the factor of “predominance” and to make adequate use of it. Therefore, this paper aims to theoretically consider the predominance of business developments which agricultural co-operatives can use to demonstrate in their competition with companies. In approaching the task, the predominance of the agricultural co-operative business currently is considered, based on conventional theoretical development regarding predominance. Firstly, the Masuda paper, which conducted an accurate review of the theories on predominance of agricultural co-operatives on business development, in addition, presented some questions to the theories is examined. Secondly, the Kamegai paper and Shibagaki paper, focusing on the comprehensiveness of the agricultural co-operative business, are reviewed. Thirdly, based on the above reviews, as for the current predominance of agricultural co-operative business, the problem is considered in terms of both predominance in common to business and that of each business. As a result, the current predominance of the business needs to incorporate the predominance by the sense of attribution of members, comprehensive business system, co-creation of values with members and co-operatives social responsibility, to consider scope economies and ripple effects in addition to scale economies and organizational strength effects. In addition, not only the predominance common to business but also that of each business should be considered.

1. はじめに

高度経済成長期以降,農村部にも民間資本の参入が相次ぎ,農協は株式会社等との厳しい競争に直面した.その中で,農協が生き残ってこられたのは,「株式会社等にはない固有の強み(優位性)が存在するため」という理論が構築されているが,時代とともに従来の理論が必ずしも妥当しない局面が現れてきている.

近年のグローバル化・規制緩和の進行によって,株式会社等では様々な経営手法の導入により,経営の効率性を著しく高めてきている.導入された手法の一部には,かつて農協が先駆的に取り組んだ利用者(組合員)の囲い込みや予約注文方式等をアレンジした手法もあり,農協の先進的な事業方式が株式会社等に追い越されてしまった感もある.

農協では,組合員農家の多様化・異質化や世代交代が進行しており,組合員の同質性を前提とした「平等」を過度に意識した事業展開が,特に企業的農業経営体やそれらの経営体を目標とする第二・三世代組合員のニーズにはマッチしなくなってきている.また,信用・共済事業の利用を目的とした准組合員の増加により,准組合員数が正組合員数を超える事態となって,外部からは組織の性格がわかり難くなっている.競争激化に対応した農協の大規模広域合併等により,今まで農協を支えてきた第一世代組合員の農協に対する帰属意識の希薄化等,現在様々な要因によって「農協離れ」が顕著になってきている.

加えて,農協中央会制度の廃止や会計士監査の導入等が明記された2015年農協法改正では,事業遂行による高い収益性の実現と収益の投資や配当への還元が謳われる等「協同組合」としての特質を失わせるような方向に改正されている.それへの対応として,農協では「自己改革」が進められており,特に「農業所得の増大」に対応した各種農業資材価格の引き下げや農産物の買取販売の増大等が報道されている.

こうした内部・外部環境の変化のなか,今後もさらに厳しい経営環境におかれるであろう農協が,「協同組合」として生き残っていくためには事業展開上の「優位性」について再考し,それを十分に活用していく必要がある.農業の特性や公共性の強い地域社会・経済の維持発展を考えた場合,効率性を過度に重視した株式会社等ではなく,協同組合としての農協の存在が必要不可欠と考えるからである.そこで本稿は,農協が株式会社等との競争の中で発揮しうる事業展開上の優位性について理論的に再検討することを課題とする.課題への接近に当たり,従来の優位性に関する理論のレビューを踏まえ,今日的な農協事業の優位性について考察する.具体的にはまず,農協が有する事業展開上の優位性に関する学説についての的確なレビューと,それに対する疑問を提示した増田論文について検討する.さらに,増田論文以降の研究成果として,特に事業の総合性に着目した亀谷論文と柴垣論文のレビューを行う.以上のレビューを踏まえ,今日的な農協事業の優位性について各事業に共通する優位性と事業ごとの優位性とに分けて考察する.そして最後に,今後の農協事業における優位性発揮のための課題について提言を行う.

増田論文以降,農協事業の優位性自体に焦点を当てた論文は少なく,また,各事業に共通する優位性と事業ごとの優位性とに分けて検討された先行研究も殆どないため,新たな視点を加えて整理された事業の優位性に関する研究は,農協研究のさらなる発展に資するものとなろう.さらに,現在目に見える自己改革が求められている農協において,事業の優位性についての新たな理論的枠組みは農協のみならず,わが国農業や組合員農家,地域の維持発展にも貢献すると考える.

2. 事業の優位性理論に関するレビュー

(1) 事業の優位性に関する理論の展開

従来の学説では,農協は「営利に関する制約」「協同組合の民主的意思決定からもたらされる行動の非弾力性」「取扱商品や施設利用を含むサービスの種類が組合員の必要性に拘束されること」「資本調達に関する制約」「事業の実施区域が実質的に限定されていること」といった協同組合故の制約条件に縛られているにも拘わらず,株式会社等との競争に生き残ってこられたのは,事業展開の上で協同組合に固有の優位性が大きく貢献しているとして,優位性理論の構築が進められてきた1増田(1992)は,主に農協を念頭に置いて展開されてきたと考えられる協同組合固有の優位性理論についての詳細かつ的確なレビューを行っている.そこで,増田による事業の優位性に関するレビューを簡単に再レビューしたい.

第一が,東畑理論である.増田は東畑の優位性理論が「協同組合による経済活動の統合が,取扱数量の『特定化』をもたらし,資本主義に特有な市場の無政府性,不確実性を低減し,取引費用を減少させ,それが利潤の消滅をももたらす」と主張したとしている.

第二が,近藤理論である.増田は,近藤が東畑理論の批判者として登場し,「協同組合は利潤を求めざる営業をしており,それが商業利潤の節約をもたらすため,その限りにおいて協同組合は経済的な意義を持つ(商業資本節約説)」と紹介している.なお,増田は東畑理論と近藤理論について,「経済機能論的展開」と位置づけている.

第三が,三輪理論である.増田は三輪理論が近藤理論への「内在的批判」者の立場にあるとして,新たに「事業特性論」の展開を試みたと位置づけている.三輪の優位性理論は近藤理論に欠けていた協同組合の企業形態論的特性に関する視点を持ち込み,「取扱商品の制約,資金調達の制約等はあるが,需要者が固定されているため需要把握費用の大幅な節約が可能となり,それが在庫負担の節約も可能とする」とし,それ故「予約技術の導入や計画的平均購買・共同計算が意味を持つようになる」としている.

第四が,藤谷理論である.増田は三輪理論と同じく,藤谷理論も「事業特性論」と位置づけている.藤谷の優位性理論は「協同組合は個々の経済的弱者では絶対に確保することのできない大規模経済の有利性を確保しうる可能性があること(規模効果),協同組合独自の強みである組織力の効果(組織力効果)を実現しうる可能性がある」としている.そして,「新しく提起する概念としての『組織力効果』とは組合員の団結の力であり,組合員相互の意識的な結合の力であるとし,具体的には,予約,専属利用,統制への服従といった組合員による計画的な協同組合利用方式によるものであり,事業費を節減する可能性を持つはず」との説明を紹介している.

増田は以上の理論が,「協同組合が内部において取引を組織化することによって『計画化』の利益が生じ,それが主としてコストの『節約』につながる点を強調している」と指摘する.これに対し,「計画化が取引相手との(価格)交渉力の強化につながる点を強調する」理論として紹介しているのが,桂理論である.桂の優位性理論は「協同組合による取引規模の拡大,取引の計画化は取引相手との相互依存関係を強め,『交渉力』を強めるとし,①出資・出役・利用での統一的管理(計画化の経済性),②計画の存在による不確実性の縮小とコスト削減,③経営管理機能・資金・労働が内給されることによるコスト節約,といった効果を上げている」としている.なお,増田論文では触れられていないが,桂は別稿で,農協事業に期待される効果として「規模の効果」,組合員が経済活動を専従の農協役職員に託することでより大きな成果を期待する「専従の効果」,「協働の効果」を提唱している(桂,1986:pp. 590–592).

増田は以上の諸理論について,「協同組合の事業的特性は基本的には需要者の固定性に基づく事業遂行上の『計画性』に求められてきたが,このような一般化は時として過度に抽象的で没歴史的」と指摘している.これに対し,「協同組合事業の特性を資本主義の発展段階の差異という歴史的な視点と事業形態の差異という視点を新たに導入することで相対的に把握しようとした」理論として,山本理論を紹介している.山本の優位性理論も「計画性に求めているが,資本主義経済の発達を背景として,多種多様な商品は共同購入方式の実施が困難となっていき,また,店舗購買では『計画化』の実現が困難で組合員が『顧客化』する」とし,「計画化の実現が困難になることの克服策として組合員組織の強化を提言」していることを紹介している.しかし,増田は,「組合員組織の強化によって事業遂行上の『計画性』を回復することは至難の技である」と指摘している.

(2) 従来の理論的な事業の優位性

以上,優位性理論の系譜を見てきたが,農協を念頭に置いた協同組合における事業展開上の優位性についての代表的な理論は,「規模の経済効果」と「組織力効果」に集約できる.規模の経済効果とは,規模拡大に伴う生産量の増大につれて製品一単位当たりの費用が低下することにより,利益率が高まることをいう.組織力効果とは,「組合員の要求と期待を意識的に結集させることによって発揮される一般企業にはない協同組合固有の強みであり,計画化効果と参画効果から構成される.ここでの計画化効果とは,組合員の必要とする経済量の事前把握や取扱商品の種類の絞り込みによる,流通経費の削減と交渉力の発揮である.一方,参画効果とは,農産物集荷場での出役など組合員の無償労働力の提供による費用の削減」をいう(北川・柴垣,2013:pp. 62–64).

このように,株式会社等とは異なり,農協は組合員組織を有する協同組合であること,そして組合員は固定性,あるいは特定性(地域性含む)を持ち三位一体性を有することが,事業の優位性の基礎になっている.すなわち,農協における優位性理論は,利用する事業を組合員が自ら所有し,そのニーズに基づいて運営することから,組合員主体の事業設計や事業改革が可能であり,事業対象が明確化され,計画的な事業利用が可能になる.それによって有利な価格形成や流通コストの削減などが実現されうるという理論であった.

しかしながら,こうした理論展開は協同組合の特性や理念に負っている印象が強い.現在の購買事業の根幹は整促事業方式であり,この整促事業方式自体は国の制度の影響を強く受けたもので組合員の主体性は弱い(甲斐,1974:pp. 172–180).このように,わが国農協は,その設立や事業方式に強く国が係わってきたこともあり,組合員が主体的に関与することによる優位性は「協同組合の特性を考慮した場合の理論的帰結」という側面を否定できない.加えて,協同組合の特性として考えられていた「近隣在住の専業農家という組合員の同質性」も1960年代半ば頃から多様化・異質化し,その変化に農協事業が十分に対応できてこなかったことが「組合員の農協離れ」の一因であろう.

(3) 増田による従来の優位性理論に対する疑念

増田(1992)は以上のようなレビューを踏まえ,「労働内給性効果(組合員による無償労働力の提供)は機会費用を考慮した場合,必ず費用節減につながるとはいえない,節減につながる場合でも協同組合に固有の強みとは言い難い」と指摘している.そのため,協同組合固有の優位性は「組合員の計画的事業利用に伴う需要把握の容易さを始めとする各種の費用節減効果『計画化効果』にあると考えられてきた」と結論付けている.そして,計画化効果が発揮される内容として,「①需要量の事前把握による広告・宣伝費用の節減,②取扱商品の合理的絞り込みによる流通経費の削減,③計画的物流による在庫費用の節減など」を提示している.

さらに,増田は山本理論を踏まえ,農協購買事業遂行過程における計画化効果を一つ一つ検討することを通じて,「計画化効果は農協では肥料購買(予約)方式と結び付けて論じられすぎてきたのではないか」との疑念を表明している.また,計画化効果が展開された歴史的要因についても検討を加えたうえで,「計画化効果は店舗購買ではそもそも発揮され難く,近年の流通革命により計画的物流はもはや協同組合固有の機能ではなくなった.しかし,組織購買(共同購入)については,価格設定,販売促進費の面で有利性がある」とし,従来理論の理論的限界について言及している.

この指摘は近年においても該当するが,近年ではさらに,組合員の多様性・異質性や地域住民間の関係性の希薄化により組織購買さえも衰退しており,優位性と呼ぶのはさらに厳しくなっている.ただし,班組織による組織購買に代わって個別宅配による予約注文購買は伸びており,大量の注文があれば一定の価格設定や販売促進費削減に効果はあろう.このことは,多様化・異質化した組合員の意向に沿った事業が展開されているものの,組合員の主体性による展開であるとの確証はなく,従って優位性を発揮できているかについてはさらなる検討が必要である.

さらに増田は,「多様な事業形態の展開を前提にして,協同組合らしい事業のあり方を追求する必要性があり,特定の事業形態(肥料の共同購入)を前提とした事業特性論を相対化する必要性がある.『計画化効果』説も事業特性の一部として的確に位置づけ直される必要性があるのではないか」との見解を示している.

多くの農協が,信用・共済事業の黒字で経済事業の赤字を補填してきたことを考えれば,購買事業を前提とした事業優位性理論はもはや説得力に乏しいことは自明である.今後の経営環境の変化に対応するためには,農協が取り組む様々な事業に適用可能な優位性理論の再構築が求められよう.

増田は以上のように従来理論の限界性を指摘したうえで,新たな事業特性論の展望について,二つの点を指摘している.第一は,「事業の特性を事業形態ではなく事業過程全般(事業分野の特定や事業開発,商品開発,価格設定,利用促進,事業成果評価のフィードバックなど)にわたって組合員の参加がどのように保障されるかが重要である.すなわち,費用節減よりもむしろ,組合員の帰属感,信頼感の確保によるところが大ではないか」との指摘である.第二は,「協同組合の事業特性の検討を狭義の経済・経営機能に限定すべきではなく,組合員教育や対外的な活動(広報,農政)も含めた協同組合事業論の形成が求められる」との指摘である.

筆者もこれらの指摘に賛同する.組合員の帰属感,信頼感の確保により,事業過程全般に対する組合員の関与が高まれば,自分達が求める商品・サービスを自分達で(間接的に)供給できるようになり,事業分量の増大とそれに伴う費用の削減がもたらされる可能性が高まる.もちろん,組合員の帰属感,信頼感の確保は,事業展開のみで達成できるものではなく,組合員教育等が重要な要因になってくるからである.それには,農協が組合員の意向をしっかりと取り入れ,事業方式を組合員と共に改革していくことが前提条件となる.残念ながら従来,組合員の意見や意向が積極的に取り入れられてきたのは所謂「優良農協」と呼ばれる農協に限定されていた.ただ近年では,多様化・異質化した組合員の意向を取り入れていくのは,非常に困難な作業が予想される.組合員を分類し,カテゴリーごとに組合員の参加を促進して,場合によってはカテゴリーごとに異なる事業展開が必要となる可能性が高いからである.さらには,組合員農業経営体の発展を考慮すれば,その発展段階に伴ってカテゴリーを異動することも考えられるため,カテゴリー間の交流も重要になってくるからである.

なお,その他の事業特性論自体を直接扱った研究成果として藤田(1998:pp. 56–68)がある.藤田は増田論文での事業特性論の系譜を踏まえ,各論者の事業特性論を批判的に検討している.各論者が主張する優位性等の論理的整合性に疑問を呈し,検討課題を提示していることには留意する必要がある.

以上見てきたように,優位性の要因は「費用節減効果」に重点が置かれている.しかし,優位性としては経営面においても収入増加効果が考えられるし,協同組合であるが故の組織面への効果についても考えられる.そこで次節では,費用節減効果以外の効果について言及している理論についてレビューする.

3. 事業推進が及ぼす農協への効果に関する理論

(1) 亀谷の経営収支効果理論

事業推進が及ぼす農協への効果に関する理論として,亀谷(1991)の「経営収支効果」理論がある.農協においては「活動や事業の実施により,一次的にもたらされる当該活動部門への直接収支効果と他部門への波及的な間接収支効果が把握される.併行して,非収支効果{サービス効果(低価格・付帯サービスなどの奉仕効果),組織力効果(活動組織の育成整備・活動組織の結合力が強まる),イメージ効果(イメージアップ・ダウン)}をもたらし,これが組合員の事業利用増加などを通じて二次的収支効果をもたらす」というものである.また,亀谷は収支成果体系を「収支類型」「費用負担方法」「経営効果」として捉える必要性についても指摘している.

(2) 柴垣の総合効果理論

次に,筆者の「総合効果」理論である(柴垣,1993).「総合効果とは,総合農協の活動への取り組みが他活動への影響を含む,組織面,事業面,経営面へ及ぼす効果」をいう.総合効果については,事業への取り組みが組織面,事業面,経営面へ及ぼされる影響を各々「組織面効果」,「事業面効果」,「経営面効果」と呼び,「組織面効果」はさらに「組合員組織力への効果」と「組合員効用への効果」の二つに分けている.前者は,組合員の農協への帰属意識が高揚(マイナスの場合は希薄化)したり,次世代との結び付きが強化(弱化)されたりする効果であり,後者は,組合員欲求の実現と,利用高配当等による組合員効用への効果などがある.「事業面効果」は,当該事業部門へ表れる効果を「直接的事業面効果」,主として,売上高伸長効果によってもたらされる他部門への効果を「間接的事業面効果」と呼ぶ.「経営面効果」は,新規事業への取り組みにより当該事業部門へ表れる効果を「直接的経営面効果」,主として,範囲の経済効果によってもたらされる他部門への効果を「間接的経営面効果」と呼ぶ.

そして,これら組織面,事業面,経営面の効果は財・サービスの提供によって時間の経過とともに,

組織面効果→事業面効果→経営面効果→組織面効果→…

のように循環するとの理論を提唱している.

従来の農協論は「組織」「事業」「経営」各面毎に大別して論じられてきたが,「事業特性論」は事業面についての理論ではあるものの,費用の節減といった(事業)経営面への影響に重点が置かれている.亀谷・柴垣の両理論は,農協事業の優位性について直接言及するものではなく「事業効果論」とも呼ぶべき理論であるが,事業の展開による「組織」「事業」「経営」への効果について各々明確に言及していること,理論の適用に汎用性があることなどから,前述の増田の疑念に応えるための参考となる.特に,組織面における帰属意識の高揚や次世代との結びつき強化,組合員効用の高まり等が間接的に事業利用増加をもたらし,経営面での収入増加や費用節減にも繋がっていくという理論は,従来の費用削減効果に重きを置いた優位性理論を拡充するものと考える.

4. 農協事業の優位性に関する理論的検討

(1) 各事業に共通する優位性について

前述した増田による新たな事業特性論の展望についての指摘に基づき,さらに,筆者の総合効果理論を援用して,新たな「協同組合における事業展開上の優位性」についての理論的検討を行う.検討にあたり,従来の「計画化効果」が特定の事業と強く結びついていたとの指摘に基づき,まず各事業に共通する優位性について検討する2.次に,やはり事業種類別に優位性は異なると考えられるため,事業種類別の優位性についても検討することにしたい.

まず,各事業に共通する優位性とは,第一に,従来の理論でも言及されてきた「規模の経済効果」によるものである.多くの事業では事業量等の増大による規模の経済効果が発揮されよう.しかし,後述するように,高齢者福祉事業のように事業の性格上提供するサービスの内容が相手によって大きく異なる場合は,規模の経済効果は発揮され難い.

第二は,「範囲の経済効果」によるものである.「範囲の経済効果とは,複数の事業で共通にかかる費用を一元化することによって,その削減が図られることであり,相補効果と相乗効果とがある」(伊丹・加護野,1989:pp. 93–108).農協では例えば,信用事業と共済事業を同時に取り組むことにより,総合金融商品の取り扱いや窓口業務の兼任による販促費用や取引コストの削減がもたらされる.このように,農協では総合的な事業の兼営体制において,各事業間の商品やサービスを有機的に結合すること,事業間で経営資源を融通し合うことでコストを削減できる.

第三は,「波及効果」によるものである.「波及効果とは,新規事業等に取り組むことで既存事業,あるいは企業全体の将来に及ぼす効果」のことをいう(伊丹・加護野,1989:pp. 93–108).近年,多くの農協で取り組まれてきた新規事業として,高齢者福祉事業,農産物直売所事業等がある.高齢者福祉事業にいち早く取り組んだ農協では,高齢者介護から解放された高齢者の家族から感謝され,農協の他事業の利用が増加したとの事例報告がある(農協共済総合研究所,1998).このように,多少採算性は劣っていても組合員(世帯)満足度の高い事業を実施することで,組合員が他事業も利用するようになる.波及効果は事業に限らず,協同活動によっても発現できる.近年,株式会社は事業と「社会的責任」とを両立させるような仕組みを模索している(コトラー・リー,2007).社会的責任は直接収益を生むわけではないが,企業のイメージアップなど間接的・波及的に収支に貢献することを期待したものであり,農協の地域貢献事業・活動は,特に社会的責任と事業・活動とを両立させる取り組みと言えよう.

第四は,「組織面効果」によるものである.多様な組合員の多様な要望を取り入れた商品・サービスの提供により,農協に対する帰属意識の高揚,次世代との結びつき強化,組合員効用の高まり等が起こり,それが事業量増加に結びつき,収入増加や費用節減にも繋がっていく.ここで,最近企業で研究が進められている「関係性マーケティング」について言及しておきたい.「関係性マーケティングとは,企業が供給した製品やサービスを顧客が選択するという一方的な関係ではなく,企業と顧客が『信頼』と『コミュニケーション』に基づいた双方向交互作用を通じて融合することでブランド,あるいは価値を共創していくこと」である(和田他,2016).このマーケティング手法はまさに,農協が組合員と価値を共創していくという協同組合的な事業特性に相似しており,このマーケティングを農協がうまく取り入れられるかどうかが,組織面効果発揮のカギとなる.

以上の優位性は,株式会社にも見られるものであり,農協に固有のものではない.また,優位性とは言っても相対的なものである.規模の経済効果については,大規模株式会社等が存立する都市部では,単協,あるいは県段階で完結する事業については相対規模で劣り,優位性とは呼べない可能性も高い.他方,農協(単協)規模でこれほど多くの事業を一事業体で展開している企業は少なく,事業方式や経営資源の利用方法などに影響されるものの,範囲の経済効果や波及効果は競合他社に比べ発揮し易いと考えられる.もちろん,それらの効果を発揮するには,有形・無形の未利用資源の有効活用が必要であり,事業間での組合員情報の共有(一元化)や事業・活動間の融合,多様な組合員からの要望に対応した商品・サービスの提供が前提条件となる.

これらの優位性を発揮するための原動力となるのが組織面効果である.組織面効果による優位性も農協固有のものとは言い切れないが,組合員の存在は会員制の株式会社等を除き,農協(協同組合)に固有のものである.そのため,組合員の事業・活動への関与の仕方や程度が優位性の発揮に大きく影響し,一般にはそれが大きければ大きいほど競合他社に対する優位性となりうる.

しかし,組合員の多様化・異質化に伴って農協と組合員との関係性が希薄化してきており,今後の世代交代でさらに関係性が薄れる懸念もある.そうなれば,組織面効果も今まで以上に発揮できなくなるとともに,その他の優位性も縮小し,逆に農協事業量が減少する負の効果が及ぼされる可能性もある.そのため,組合員教育,その前提としての役職員教育や指導事業,広報活動に加え,多様な組合員の要望を事業の設計から運営,改善に至る各段階で反映させる仕組みを構築することにより,組合員と農協との関連性を強めることが優位性発揮には不可欠の必要条件となろう.

なお,従来の「組織力効果」は,主に経済事業で発揮されるため,各事業に共通する優位性には含めていない.

(2) 事業種類別の優位性について

次に,事業ごとの優位性を理論的に検討する.

1) 信用・共済事業

農協収益の中心事業である両事業の優位性において,規模の経済効果は大きいと考える.その要因には,異質な組合員に影響されない商品・サービスの同質性,事業三ないし二段階制による大規模化,国の助成を受けた制度金融の取り扱い等があげられる.

信用事業は決済機能を有すること,共済事業も他事業や協同活動への取り組みにおいて保険機能が求められることから範囲の経済効果も大きく発揮される.また,信用事業では自動車ローンや農産物収穫体験付貯金など,共済事業では介護サービスが特典となった保険商品など,商品・サービスを他事業や協同活動と結びつけることで範囲の経済効果がより発揮できる.特に,農や食と結び付いた商品・サービスの提供は他事業体では提供が困難なため,これらが及ぼす優位性は農協固有のものと言える.

波及効果については,特に新規准組合員の事業利用時に,他事業と結び付いた商品・サービスの利用,農協事業や活動の広報が実施されれば,農協に対する関心の高まりや他事業・活動への利用・参加に繋がる可能性がある.しかし,既存の組合員が,競合他社の多い信用・共済事業の利用満足度による他事業の利用増加は少ないと考える.

組織面効果についても,提供する商品・サービスの特性上,組合員の要望が競合他社のそれに対してわずかな差しかつけられず,多大な影響を及ぼすとは考え難い.なお,組合員は信用・共済事業が他事業・活動と深く結びついていることを認識しているのであろうか.特に,准組合員に至っては信用・共済事業のみの利用にとどまっており,両事業が他事業や活動と関連して利用者の利便性等を高めているという機能を過小評価している可能性がある.

なお現在,改革に伴って信用事業のあり方が議論されているが,優位性発揮においても中心となる事業であるとの認識を持って議論すべきである.

2) 販売事業

販売事業では,コメの食管事業方式に代表されるように,全国連に農産物を集約させて規模の経済効果を発揮させてきた.しかし近年では,農協の中核となる農家組合員は農協系統出荷を継続しているものの,独自の販売先を有する大規模農家は農協系統出荷に消極的であり,零細規模の農家は農産物直売所への出荷に傾斜しているため,農協系統出荷の割合が減少することで規模の経済効果が従来に比べ発揮し難い.また,地産地消や地域ブランド化への取り組みも規模の経済効果を発揮させ難くする.

組合員から集めた農産物の販売代金は手数料等を除いて組合員の貯金口座に振り込まれるため,貯金収集コストが軽減される等,範囲の経済効果も発揮される.これには中核農家のみならず,零細農家も含まれる.また,農産物生産を行い農協を通じて販売する組合員については,生産に係わる生産資材購買(事業)も間接的には関連する.それにはもちろん,営農指導が重要な役割を果たす.

波及効果についても,農産物が高く売れることで組合員が他事業・活動の利用を増加させる可能性はある.しかし現在,中核農家については有利販売ができておらず,組合員から批判があがっているため他事業に対し負の波及効果を及ぼしている可能性がある.他方,直売所事業は盛況が伝えられているので,直売所へ出荷する農家にとっては正の波及効果,例えば加工食品(事業)の増加や販売先提供による新規事業者の開拓,学校給食への食材提供等食農教育活動への効果等を及ぼしている場合もあろう.

販売事業は農業所得に直接結びつく事業であること,他に農産物販売サービスに取り組む事業体は少ないことから,農家は農協に頼るか独自で販売先を開拓することが求められるので,その事業成果は組合員の農協に対する評価に直結する.そのため,農産物価格が低迷する現在,中核農家での組織面効果は高まらず,零細農家での組織面効果の方が大きい農協も従来よりは多くなっている可能性がある.

その他販売事業には,従来指摘されてきた計画化効果,すなわち集出荷場での無償労働力の提供による農協経営における費用削減効果や,組合員による出荷農産物規格の統一,出荷時期の調整などによる有利販売の実現などは現在でも発揮されていようが,それらも出荷組合員数の減少とともに縮小していく.

販売事業は農協評価に直結するため,優位性発揮のための組合員協同には最重要事業である.自己改革に伴う資材価格の低下や買取販売の増加等は,今後の優位性発揮にも繋がる取り組みと評価できる.

3) 購買事業

従来の「組織力効果」理論のモデルとされてきた肥料の共同購入に代表されるように,三段階制による購買商品の予約注文方式では,規模の経済効果や組織力効果を発揮してきた.その背景には,同じような規模で同じような作物を生産する農家の同質性があった.しかし近年では,組織購買の主流は宅配事業であり,規模の経済効果は従来ほど発揮できない.また,規模や作目における農家の異質化により,要望される商品・サービスも異なってきたこと,農家数の減少に伴う生産資材需要の減少も規模の経済効果が発揮され難くなった要因である.生活資材購買については,異質な組合員に影響されない商品・サービスの同質性があるため規模の経済効果を発揮できるものの,他事業者に対する価格面での競争劣位や購入不便性等の方がそれよりも大きいことが,事業量の減少要因と考える.

農業機械や自動車等の高額商品購買では,貸出金や共済の事業量増加といった正の波及効果が発揮される.しかも,機械修理も行うなど競合他社よりも取り組む業務範囲が広いため,より発揮され易い.また,それら推進コスト削減,組合員口座からの代金引き落としによる購買品代金徴収コストの削減等,信用・共済事業間で範囲の経済効果も発揮される.

組織面効果については,そもそも農協はメーカーではないため,競合他社と同じような商品・サービスの取り扱いとなり発揮し難い.しかし,国産原料使用,安全性重視,環境への配慮を掲げ,組合員の意見を取り入れて開発されたエーコープマーク品(JAグループのプライベートブランド)は,組織面効果発揮の可能性を秘めていよう.

なお,購買事業では,生活班班長による予約注文受け付け業務に係わる無償労働力の提供といった参画効果も発揮されていたが,近年の(班)組織購買の縮小は同効果も縮小させている.

4) 資産管理事業

資産管理事業については,業務内容により発揮される優位性も異なる.大規模土地造成事業については規模の経済効果が発揮されると考えられるが,組合員の個人資産運用(農地の駐車場やアパートへの転用)については,かなりの件数を取り扱わない限り規模の経済効果を発揮させるのは困難である.

都市部を中心として農地転用の要望は強いため,農業経営規模縮小を志向する零細農家組合員に対する適切な資産運用サービスが提供できれば,範囲の経済効果を発揮できる.例えば,アパートや駐車場建設・管理において,住宅ローンの利用が貸出金推進コストの削減につながり,徴収した賃貸料がオーナー組合員の貯金口座に振り込まれることによる貯金収集コストの削減,アパート建設時の建更・火災共済の加入はそれら推進コストの削減に繋がるといった具合である.また,他事業に比べれば事業での取扱件数や事業分量は少ないものの,建設資材や内装品,家具などが購入されれば,購買事業での推進コストの削減や事業量増加に繋がるなど,正の波及効果は同事業を経営する競合他社に比べても大いに発揮されうる.

組織面効果も,提案・建設・管理・ローン・共済といった組合員への一体的対応が可能であることから,競合他社より発揮し易いと考える.

なお,大規模土地造成事業は組合員のみならず,地域開発,新規住民の流入など地域経済への影響も大きく,組合員の多様性や異質性を増大させるものの,当該地域での農協への関心や地位を高めることで様々な優位性を発揮できる可能性がある.

5) 高齢者福祉事業

高齢者福祉事業,特に介護事業については,サービスの内容が利用者個人によって異なるため,規模の経済効果は発揮し難い.しかし,介護用品のレンタル事業等は,系統組織を利用する事業方式を確立できれば,規模の経済効果を発揮できよう.

介護サービス代金の貯金口座からの引き落とし,介護関連ローン利用,共済の介護特約,ヘルパーの短期共済加入,介護用品の購買及びレンタルなど,他事業との連携により,範囲の経済効果及び正の波及効果が発揮される(柴垣,2005).

組織面効果については前述の通り,組合員世帯における介護労働の縮減が組合員の効用を高め,他事業の利用増加に繋がったという報告がある.そこでは,親の介護に感謝する次世代とのつながり強化も伝えられている.また,助け合い組織での協同活動が活動に参加する組合員の効用を高めたり,願いを充たす効果も発揮される.

その他,助け合い組織での組合員の無償労働力提供による農協経営におけるコスト削減といった参画効果が発揮できる.

5. 今後の事業における優位性発揮のために

従来の「組織力効果」が理論的な限界を迎えるとともに,組合員の多様化・異質化や農協法改正・自己改革といった農協を取り巻く環境が大きく変化するなか,実際の事業展開上でもその効果が非常に薄らいでいるように思われる.そこで本稿では,今日的な農協の事業展開上の優位性について,増田論文等のレビューを踏まえて理論的に検討した.

その結果,今日的な優位性については,規模の経済効果,組織力効果に加え,農協の特徴である総合性を考慮して範囲の経済効果と波及効果を,組合員組織への効果を考慮して組織面効果をも併せて考えるべきである.組合員の帰属意識といった協同組合固有の要因と,その総合事業兼営状況が株式会社等に比べ広範囲にわたっているからである.そして,各事業に共通する優位性理論の構築(事業特性論の相対化)に加え,特定の事業分野ごとにも優位性理論を構築すべきである.本稿では信用・共済,販売,購買,資産管理,高齢者福祉の各事業の代表的な業務についての優位性について理論的な検討を行った結果,事業ごとに発揮し易い優位性が異なっていること,優位性の計測は困難だが,発揮できる優位性の大きさも事業ごとに異なると考えられ,事業ごとの優位性について検討することの重要性も明らかになった.

株式会社等との競争が今後も更に激化し,行政支援が縮小する中,農協が組合員や地域のために事業を展開していくには,優位性の発揮が不可欠である.そこで最後に,事業の優位性を発揮していくための課題について検討したい.規模の経済効果を発揮するためには,商品・サービスの「同質性」が求められる.組合員が多様化・異質化するなかでも,前述の通り信用・共済は同質性が高く,規模の経済効果を発揮できるが,経済事業では組合員ニーズの多様化により規模の経済効果を発揮することが困難になっていた.しかし,自己改革の一環で,多数の肥料商品を汎用性のある化成肥料に集約し,単肥の補充で対応することにより肥料価格が引き下げられたとの報道があり,多様な組合員ニーズの最大公約数を如何にして見つけ,そこに集約できるかが規模の経済効果発揮には重要である.

範囲の経済効果発揮には,主に経営組織,あるいは事業運営組織の再構築が重要である.元々,競合他社とは比較できないほど多種多様な事業・活動を展開しているので,未利用資源の有効活用や事業・活動間の結びつきを強化していけば,範囲の経済効果をより発揮できる.その際に注意すべきが,連合組織による縦割り制である.そのため,連合組織間でもっと連携を深め,範囲の経済効果が発揮できるよう複数事業にまたがる商品・サービスの開発が望まれる.また,組合員対応についても,組合員情報の一元化や様々な事業による一体的対応を行うことで更なる範囲の経済効果が発揮できよう.なお,多様な事業展開による弊害,すなわち経営資源の賦存量を超えるような広範囲にわたる事業展開による負の影響について考慮すれば,協同組合間協同に代表される他の協同組合や事業体との連携,ネットワーク化を図ることで各組合・事業体がより得意分野に特化し,異業種協同組合・事業連合体として優位性を発揮していくことも今後検討すべきと考える.

波及効果については,各事業・活動の満足度を如何に高めるかが重要である.これは,後述の組織面効果と共に最も組合員の多様性の影響を受けると考えられる.それは,組合員のある事業への満足度が他事業・活動へ波及していくが,多様化した組合員において,満足度も非常に多様化しているからである.農協組合員の中心となる中核的中規模農家や企業的大規模農業経営体にとっては,販売事業や生産資材購買事業による農業所得の増加が,零細農家にとっては直売所事業による収入の増加等が期待されていよう.また,零細農家においては資産管理事業による農地の有効活用が,准組合員にとっては信用・共済事業における金利やサービスの充実が,また,全組合員にとって高齢者福祉事業による良質な介護サービスの提供がというように,組合員のカテゴリーごと期待される満足度や事業が異なる.従って,規模の経済効果発揮には制約になるかも知れないが,多様な組合員ニーズに対応した多様な事業方式を構築していく必要がある.さらに,非組合員である地域住民を巻き込んだ地域貢献活動に代表される直接収益を生み出さない活動も満足度を高めることに寄与する.ただし,非組合員や准組合員等農協への関心が高くない人々を活動に巻き込むためには,教育や広報で農協への関心を高め,帰属意識や期待感を醸成していく必要がある.

組織面効果については,前述の波及効果と同様に,各事業・活動の満足度を高めること,その一手段でもあるが,「協同活動」にどう取り組んでいくかが重要である.前述の桂理論で触れたが,組織や事業の拡大に伴って組合員が経済活動を専従役職員に託することは「専従の効果」が期待される反面,現実には組合員と役職員間で意識のズレが生じ,それが拡大すると組合員の農協に対する帰属意識が薄れることに繋がる.そうならないためには,組合員による様々な場面での参加・参画が必要である.もちろん,多様な組合員の存在は,参加・参画の仕方も多様化される.従って,多様な組合員と農協とが多様な価値を共創していく「関係性マーケティング」手法を農協がうまく取り入れていく必要がある.そこで有効なのが,組合員による自主的な協同活動である.自主的な協同活動は多様な組合員に対応して,多様な活動が可能であり,さらに多様な活動組織間での連携が組合員間の絆を強めると共に,組織面効果の発揮を促していく.逆に,協同活動が積極的に行われなければ,農協は株式会社等と同様の単なる経済事業体となり,事業が及ぼす各種効果のみで競合他社と競争していかなければならなくなる.そこには効率性が重視され,今日の規制改革推進会議による協同組合を否定するかのような提言に繋がる.組合員が協同活動を通じて農協との関係を深めると共に,協同活動によって事業を補完することで協同組合的な優位性が発揮できるのである.

農協の多様な事業展開や組合員組織の存在は,株式会社等にはあまり見られない特徴である.農協が前述のような優位性を発揮するには,組合員の参加・参画が不可欠であるが,近年は組合員の多様化・異質化に対応できず,多様な参加・参画を促す方法を確立できてこなかった.こうした「農協離れ」が,事業展開上の優位性発揮も当然妨げることになる.まずは,組合員の帰属意識等を高めるために自主的で多様な協同活動をもっと重視すべきであり,それには組合員教育,広報活動,指導事業等の直接収益を生まない活動・事業による一体的な働きかけが重要である.それらは,近年の農協事業における効率性追求の中で疎かにされてきたように思うが,それによって優位性発揮が妨げられてきたことは否定できないであろう.その反省を踏まえた取り組み強化,その重要性や成果を組合員に理解してもらえる工夫が優位性発揮に繋がると考える.

付記

本研究は,科研費(挑戦的萌芽研究,課題番号:20658053)研究代表者:北川太一「農業協同組合を中心とした新しい協同理論構築に向けての基礎的研究」による研究成果の一部である.

1  協同組合であるがゆえの制約条件については,(北川・柴垣,2013:pp. 61–62;小松,1999:pp. 116–120;武内,1986:pp. 516–517)を参照.

2  なお,外部要因による優位性ではあるが,農協は農業の持つ特殊性や公共性により政策的支援,すなわち補助金の授受や独占的地位,さらには,株式会社等に比べて優遇税制が適用されてきたことには言及しておきたい.

引用文献
  • 伊丹敬之・加護野忠男(1989)『ゼミナール経営学入門 第3版』日本経済新聞社.
  • 甲斐武士(1974)『農協経営転換の理論』全国協同出版.
  • 桂 瑛一(1986)「農業協同組合事業の特質」協同組合事典編集委員会『新版協同組合事典』家の光協会.
  • 亀谷 昰(1991)『農協生活活動の新方策―生活総合センターへの道―』全国協同出版,53–83.
  • 北川太一・柴垣裕司(2013)『農業協同組合論 第2版』全国農業協同組合中央会.
  • 小松泰信(1999)「JAの事業」武内哲夫他『新版農業協同組合論』全国農業協同組合中央会.
  •  柴垣 裕司(1993)「農協活動における総合効果の理論的研究―その生活活動への適用―」『農林業問題研究』29(3): 32–39.
  •  柴垣 裕司(2005)「農協における高齢者福祉事業の問題点と連合会支援の課題―静岡県下7農協を事例として―」『協同組合研究』24(1): 76–87.
  • 武内哲夫(1986)「組織力と協同経済組織体」協同組合事典編集委員会『新版協同組合事典』家の光協会.
  • 農協共済総合研究所(1998)『JAの高齢社会への貢献』家の光協会,121–168.
  • フィリップ・コトラー,ナンシー・リー(2007)『社会的責任のマーケティング』東洋経済新報社,1–26.
  • 藤田 教(1998)『農協事業活動の基本論理―制度・機能論から協同活動論へ―』農林統計協会.
  • 増田佳昭(1992)「協同組合の事業的特質と事業論研究の課題」山本修・武内哲夫・亀谷昰・藤谷築次編著『農協運動の現代的課題』全国協同出版,65–82.
  • 和田充夫・恩藏直人・三浦俊彦(2016)『マーケティング戦略 第5版』有斐閣,341–363.
 
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