農林業問題研究
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個別報告論文
認定地からの距離と生物多様性認証が贈答品の消費者評価に及ぼす影響
―世界農業遺産・静岡の茶草場農法を事例に―
黒川 哲治矢部 光保野村 久子高橋 義文
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2019 年 55 巻 2 号 p. 81-88

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Abstract

The purpose of this study is to analyze consumer valuation of green tea leaves produced through Chagusaba farming in Shizuoka, which is certified as Globally Integrated Important Agricultural Systems (GIAHS). A choice experiment was conducted to determine the effect of GIAHS certification on consumer valuation of green tea leaves for personal use and for gifting purposes. The results are twofold: first, GIAHS certification can enhance consumer valuation of green tea leaves as a gift item, but not when purchased for personal use; and second, the levels of Chagusaba farming that consumers highly evaluated vary across regions. Therefore, imprinting the GIAHS certi­fication mark on a package of green tea leaves meant for gifting purposes is an effective way to promote its sale when produced through Chagusaba farming in Shizuoka.

1. 研究の背景と課題

農村地域の生物多様性をいかに保全するかが,喫緊の課題となっている.生物多様性保全に資する環境保全型農業へ支援も行われているが,財政問題からその予算は充分とは言い難い.

そのような背景から,市場メカニズムを活用した「生き物ブランド」が注目されている.環境保全型農業で作られた農産物は相対的に高い価格で販売できるとの期待もあり,環境保全型農業に取組むインセンティブにもなっている.しかし,従来の生き物ブランドは農業者等による自主認証も多く,厳格な認証基準を有するものばかりではない.

他方,国内でも認定数が増えている世界農業遺産(GIAHS)は,国連食糧農業機関(FAO)が現地視察なども行い審査している.国内GIAHSの中でも,特に「世界農業遺産・静岡の茶草場農法」は,農法や実践者に関する明確な基準の下,推進協議会による審査制をとっている.これは,認定基準の曖昧な生き物ブランド農産物とは一線を画すものである.

茶草場農法の緑茶の主な購入先が5市町に限られ,贈答用など用途別に販売されておらず,実データの利用は困難であると判断し,本稿では表明選好法の選択型実験を用いて,茶草場農法の認定付き緑茶に対する消費者評価について,次の2点に焦点を当て明らかにする.第一に,GIAHS認定地と消費者の居住地の距離が消費者評価に及ぼす影響である.香坂・内山(2016)は地域資源を対象に考察している.応(2016)は,静岡県と首都圏に分けて茶草場農法の認定付き緑茶に対する消費者評価を明らかにしている.しかし,認定地域と県内その他市町では,GIAHSや茶草場農法に対する認知などが異なることから(黒川・矢部,2015),本稿では静岡県を認定地域と県内その他市町に分けて検討する.第二に,生物多様性保全への貢献度が消費者評価に与える影響である.GIAHS認定はその地域の農産物に対する消費者評価を高め(矢部,2017),特に贈答用で顕著である(応,2016).しかし,消費者の購買行動は「状況要因」「対象要因」1に影響されるため(Belk, 1974Dickson, 1982若林,2008),購入目的が生物多様性保全貢献度と相まって,認証付き農産物の評価全体にどう影響するか検討の余地がある.これらを明らかにすることは,生物多様性認証付き商品について地域別に販売戦略を検討するうえで有益であると考えられる.

2. 調査対象の概要

静岡県南部の5市町(掛川市,菊川市,島田市,牧之原市,川根本町)が調査対象地域である(図1).この地域は,とりわけ緑茶栽培が盛んな地域である.特に,深蒸し製法の「掛川茶」は全国的に有名で,全国茶品評会でも上位入賞の常連となっている.

この地域の茶栽培には,晩秋期に茶畑周辺の雑草地(茶草場)に繁茂するススキやササなどの雑草を刈り取って茶畑の畝間に敷き込み,有機肥料にする「茶草場農法」が取り入れられている.茶草場農法はかつて日本各地で行われていたが,現在は静岡県と鹿児島県で行われるだけとなっている.

茶草場はオミナエシなどの希少植物,カケガワフキバッタ等の希少昆虫の生息場となっており,生物多様性保全に大きく貢献するとともに,良質な茶栽培を目指す農業生産活動と生物多様性保全が両立する世界的に稀有な例である(稲垣,2012楠本,2014).

これらの点が評価され,2013年にGIAHSに認定された.GIAHSは,2002年からFAOが認定している制度である.その目的は,農業の近代化とともに失われつつある伝統的な農業と,それに付随する文化や景観,生物多様性などが組み合わさって一つの複合的システムになっている世界的に重要な地域を,次世代に継承することである(武内,2016).世界で52地域が認定されており,日本では佐渡と能登を皮切りに,2018年7月時点で11地域が認定されている(FAO, 2018).

3. データ収集と分析方法

(1) データ収集

分析に用いるデータは,2014年9月26日から29日にかけて,WEBアンケート調査により収集した.対象は,アンケート調査会社に登録するモニターのうち,5市町,静岡県内その他市町,首都圏(東京・神奈川・埼玉・千葉)に住む20歳以上を対象とした.4,517人に回答を依頼し,1,593人から回答を得た(回答率35.3%).

調査内容は,茶系飲料の購買消費に関する設問,GIAHSおよび茶草場農法に関する設問,環境問題や食品購入に対する意識や態度に関する設問,選択型実験の設問,個人属性に関する設問の5項目から成る.回答者の属性は表1のとおりである.

表1. 回答者の属性
属性 区分 人数(割合)
性別 男性 644人(40.4%)
女性 949人(59.6%)
年齢 20代 300人(18.8%)
30代 332人(20.8%)
40代 330人(20.7%)
50代 327人(20.5%)
60代以上 304人(19.1%)
年収 ~300万未満 162人(10.2%)
~500万未満 396人(24.9%)
~700万未満 307人(19.3%)
~900万未満 219人(13.7%)
900万以上 250人(15.7%)
答えたくない 259人(16.3%)
地域 首都圏 1,053人(66.1%)
5市町 223人(14.0%)
静岡県内その他 317人(19.9%)

(2) 選択型実験

選択対象の緑茶は,静岡県のGIAHS認定地域で生産された一番茶を用いた緑茶(茶葉,品種は「やぶきた」)であるとの前提を説明した.そのうえで,属性と水準について説明した.選択型実験における属性と水準を表2に示す.

表2. 属性と水準
属性 水準
種類・内容量 自家用 普通蒸し 200 g
贈答用 深蒸し 70 g
GIAHS表示 あり,なし
茶草場農法の取組み度 なし,一葉,二葉,三葉
栽培方法 有機栽培,慣行栽培
価格 600円,800円,1,000円,1,200円

1)無農薬・無化学肥料を「有機栽培」とした.

「種類と内容量」は,「自家用普通蒸し200 g」と「贈答用深蒸し70 g」の2種類とした.「世界農業遺産の表示」は,GIAHS認定地域で生産された緑茶であると一目でわかるよう,パッケージに大きな文字で「世界農業遺産」表示があるかである.「茶草場農法の取組み度」2は,パッケージに貼付されている「生物多様性保全貢献度」(図2)に準拠し,4水準とした.「栽培方法」は,茶葉の栽培方法が有機農法であるか否かで,農薬・化学肥料を使用する「慣行栽培」と,それらを一切使用しない「有機栽培」の2水準とした.価格は,実際の店頭販売価格を参考に,4水準(600円,800円,1,000円,1,200円)を設定した.

図2.

パッケージ貼付シール

資料:世界農業遺産「静岡の茶草場農法」推進協議会(2018)

1)図は,茶草場農法の取組み度が三葉のものである.

上記のもと,Hensher et al.(2005)に倣い,直交計画で32通りのプロファイルを生成し,第1選択肢「緑茶A」と第2選択肢「緑茶B」を作成した.これらに第3選択肢として「この中には購入したいお茶はない」とする選択外選択肢を加え,3選択肢で1セットとする選択肢集合を作成した(図3).コンピュータのプログラム制御により,同一プロファイルが2回提示されないよう,回答者にランダムに6セット提示した.よって,1,593人×6回=9,558のデータが分析対象である.

図3. 選択型実験の設問例
お茶A お茶B この中には
購入したい
お茶はない
種類と内容量 自家用 贈答用
普通蒸し200 g 深蒸し70 g
世界農業遺産の表示 なし あり
茶草場農法の取組み度 なし 三葉
栽培方法 慣行栽培 有機栽培
価格 600円 1,200円

(3) 分析方法

いま,個人nは,提示された2種類の緑茶A・Bと「この中には購入したいお茶はない」を含めた3つの選択肢iから,次式のように定式化される効用Uを得るとする.

  

Uin=Vin+εin

ただし,Vinは選択対象となる財の属性で決まる観測可能な確定効用,εinは観測不可能な確率項である.ランダム効用理論に基づき,個人nは効用が最も高くなる選択を行うと仮定すれば,個人nが選択肢iを選択する確率Prn(i)は,

  

Prni=PrUin>Ujn   for all j,   ij

と表せる.ここでεが第一種極値分布に従うとすれば,その選択確率は次式のような条件付きロジットモデルで表すことができる.

  

Prni=expVinjexpVjn

  

Vin=kβikXikn   (i=1,2,3)

ただし,βは推定すべきパラメータ,Xは緑茶の属性,kは属性である.分析には統計ソフトR 3.5.1およびパッケージsurvival,support.CEsを用いた.

推計に用いた変数を表3に示す.なお,分析では,プロファイルの属性のみを用いた主効果モデルに加え,回答者の属性が選択に影響すると考えられることから,商品属性との交差項を入れた交互効果モデルについても推計を行った.

表3. 推計に用いた説明変数の定義
変数 定義
ASC 選択肢固有定数項(お茶AまたはB=1,この中から購入しない=0)
HGIAHS 自家用「GIAHS」表示(あり=1,それ以外=0)
GGIAHS 贈答用「GIAHS」表示(あり=1,それ以外=0)
HONELF 自家用一葉マーク(あり=1,それ以外=0)
GONELF 贈答用一葉マーク(あり=1,それ以外=0)
HTWOLF 自家用二葉マーク(あり=1,それ以外=0)
GTWOLF 贈答用二葉マーク(あり=1,それ以外=0)
HTHRLF 自家用三葉マーク(あり=1,それ以外=0)
GTHRLF 贈答用三葉マーク(あり=1,それ以外=0)
HORGANIC 自家用有機栽培(有機栽培=1,慣行栽培=0)
GORGANIC 贈答用有機栽培(有機栽培=1,慣行栽培=0)
PRICE 価格
SEX 回答者の性別(女性=1,男性=0)
AGE 回答者の年齢(60歳以上=1,それ以外=0)
INCOME 回答者の年収(700万円以上=1,700万円未満=0)

4. 結果および考察

以下,主効果モデルの結果(表4)と交互効果モデルの結果(表5)を示し,考察を加える.

表4. 主効果モデルの推計結果
首都圏 5市町 静岡県内その他
係数(標準誤差) 係数(標準誤差) 係数(標準誤差)
ASC 0.799(0.095)*** 0.869(0.216)*** 0.690(0.179)***
HGIAHS 0.389(0.046)*** 0.275(0.099)*** 0.379(0.085)***
GGIAHS 0.307(0.051)*** 0.518(0.104)*** 0.412(0.092)***
HONELF 0.183(0.071)*** 0.229(0.136)* 0.201(0.127)
GONELF
HTWOLF 0.178(0.063)*** 0.283(0.137)** 0.263(0.115)**
GTWOLF 0.201(0.131)
HTHRLF 0.303(0.063)*** 0.251(0.116)**
GTHRLF
HORGANIC 0.513(0.050)** 0.591(0.105)*** 0.714(0.090)***
GORGANIC 0.275(0.052)*** 0.189(0.116) 0.327(0.097)***
PRICE −0.001(0.000)*** −0.0004(0.000)* −0.001(0.000)***
回答者数n 1,053 223 317
修正済みρ2 0.07 0.10 0.08
AIC 12943.45 2652.33 3864.47
最大対数尤度 −6462.73 −1317.16 −1923.23

1)***:1%水準,**:5%水準,*:10%水準で統計的に有意に0と異なる.

2)AICが最低となるモデルを最良と判断し,その結果を記載した.

表5. 交互効果モデルの推計結果
首都圏 5市町 静岡県内その他
係数(標準誤差) 係数(標準誤差) 係数(標準誤差)
ASC 0.884(0.094)*** 0.940(0.203)*** 0.730(0.169)***
HGIAHS 0.398(0.045)*** 0.206(0.116)*
GGIAHS
HONELF 0.328(0.142)**
GONELF
HTWOLF 0.178(0.062)*** 0.336(0.135)**
GTWOLF −0.167(0.083)** 0.287(0.129)**
HTHRLF 0.149(0.078)*
GTHRLF
HORGANIC 0.418(0.062)*** 0.549(0.104)*** 0.446(0.113)***
GORGANIC
SEX×HGIAHS 0.379(0.120)*** 0.341(0.149)**
SEX×GGHIAHS 0.426(0.061)*** 0.500(0.136)*** 0.370(0.116)***
SEX×HONELF 0.231(0.086)***
SEX×HTHRLF 0.311(0.170)*
SEX×HORGANIC 0.161(0.083)* 0.480(0.142)***
SEX×GORGANIC 0.264(0.068)*** 0.356(0.120)***
AGE×GGIAHS 0.756(0.208)***
AGE×HONELF 0.777(0.237)***
AGE×HTWOLF 1.005(0.233)***
AGE×GTWOLF 0.627(0.131)***
AGE×HTHRLF 0.466(0.135)*** 1.106(0.246)***
AGE×GTHRLF 0.518(0.245)**
AGE×GORGANIC 0.421(0.254)*** 0.734(0.208)***
INCOME×GGIAHS 0.608(0.179)***
INCOME×GTWOLF 0.440(0.129)***
INCOME×HTHRLF 0.258(0.117)**
INCOME×GTHRLF 0.296(0.100)*** 0.386(0.209)***
INCOME×GORGANIC 0.199(0.091)** 0.311(0.172)***
PRICE −0.001(0.000)*** −0.001(0.000)** −0.001(0.000)***
回答者数n 1,053 223 317
修正済みρ2 0.073 0.103 0.090
AIC 12866.99 2634.32 3802.15
最大対数尤度 −6416.50 −1304.16 −1887.07

1)***,**,*はそれぞれ1%,5%,10%で統計的に有意に0と異なることを示す.

2)AICが最低となったモデルの結果について,紙幅の都合上,有意な変数のみを記載した.

(1) 首都圏の結果

ASCの係数は,主効果,交互効果ともに正の符号で,統計的に1%有意となった.ここから,首都圏在住者は緑茶に関心を持っていることが読み取れる.

GIAHS表示は,主効果では自家用と贈答用の両方が,交互効果では自家用のみ正の符号で有意となり,贈答用と性別の交差項が有意となった.よって,GIAHS表示が付くと,自家用で高評価となる一方,女性(SEX=1)は贈答用にGIAHS表示があると,これを高く評価すると言える.

茶草場農法の取組み度は,主効果モデルでは自家用が一葉から三葉全てで統計的に有意で,取組み度が高い三葉の係数が他に比べて大きい.よって,首都圏では取組み度の高いものが評価される.交互効果をみると,性別では自家用一葉,年齢では贈答用二葉および自家用三葉,所得では贈答用二葉と三葉両方が統計的に有意となった.よって,女性が自家用に一葉を,60歳以上や高所得者が贈答用として二葉を,自家用として三葉を好む傾向があると言える.

有機栽培をみると,自家用・贈答用ともに主効果モデルの係数は有意に正である.有機栽培は用途を問わず高く評価されることがわかる.交互効果モデルでは,性別との交差項,所得と贈答用の交差項が統計的に有意に正となった.女性や高所得者は贈答用で,有機栽培を高く評価していると言える.

(2) 5市町の結果

まず,主効果モデルをみる.選択肢固有定数項,GIAHS表示は,統計的に有意に正となった.交互効果モデルにおけるGIAHS表示の交差項をみると,所得が贈答用で性別が自家用・贈答用の両方で1%有意となった.よって,女性や高所得者は贈答用にGIAHS表示があると高く評価すると言える.

主効果モデルにおける茶草場農法の取組み度は,自家用の一葉と二葉が統計的に有意に正となった.

一方,交互効果モデルでは性別×自家用三葉,所得×贈答用三葉を除き,交差項は有意にならなかった.よって,5市町では,個人属性は茶草場農法の取組み度に対する評価にほぼ影響しないと言える.

有機栽培は,両モデルとも自家用が統計的有意となったことから,自家用で評価されると言える.一方,個人属性の影響をみると,年齢および所得との交差項が贈答用で有意となった.よって,5市町では60歳代以上ならびに高所得者が有機栽培を高評価すると言える.

(3) 静岡県内その他市町の結果

主効果モデルをみると,選択肢固有定数項とGIAHS表示が1%有意となった.茶草場農法の取組み度は自家用の二葉と三葉が統計的有意となった.一方,交互効果モデルでは,性別とGIAHS表示,年齢と自家用の茶草場農法の取組み度全てが有意となった.特に,茶草場農法の取組み度が高いほど係数も大きいことから,60歳代以上の人は茶草場農法の取組みがより高いものを自家用として評価していると言える.

有機栽培は,主効果モデルで統計的に1%有意となった.交互効果モデルでは,性別ならびに年齢と贈答用との交差項が1%有意であることから,女性や60歳代以上の人が有機栽培を高く評価している.

(4) 考察

主効果モデルの結果をもとに3地域を比較すると,首都圏の方が統計的に有意な変数が多い.その理由として,緑茶を飲む機会が多い静岡県民の,多様な評価項目を反映しきれなかった可能性がある.

MWTPの95%信頼区間推計値(表6)をみると,5市町のそれは静岡県内その他市町を,静岡県内その他市町は首都圏を包含していることから,MWTPに有意差があるとは言えない.参考までに,以降では,平均値による比較を行う.

表6. 限界支払意思額の推計結果(主効果モデル)
首都圏 5市町 静岡県内その他
選択肢固有定数項 1,306[1,138–1,547] 2,434[−5,128–12,433] 1,155[870–1,634]
自家用GIAHS表示 636[438–957] 771[−2,675–5,957] 633[304–1,557]
贈答用GIAHS表示 502[334–739] 1,450[−5,161–10,232] 690[360–1,526]
自家用一葉 299[71–574] 641[−2,735–5,407] 337[−85–1,009]
自家用二葉 291[90–543] 793[−2,890–5,916] 440[65–1,198]
自家用三葉 495[292–757] 420[49–1,042]
贈答用一葉
贈答用二葉 563[−1,242–3,489]
贈答用三葉
自家用有機栽培 838[586–1,259] 1,655[−6,522–12,840] 1,195[676–2,881]
贈答用有機栽培 450[255–751] 529[−2,647–5,179] 548[192–1,485]

1)[ ]内はブートストラップ法による95%信頼区間.

2)表中の数値の単位は円.

GIAHS表示のMWTPへの影響は,自家用は3地域ともほぼ同額なのに対し,贈答用では5市町が1,450円,静岡県その他市町が690円,首都圏が502円と,GIAHS認定地域から離れるほど評価額が低くなっている.よって,5市町では贈答用にGIAHS表示することが効果的である.

茶草場農法の取組み度がMWTPに及ぼす影響をみると,自家用二葉では,5市町が793円,静岡県その他市町が440円,首都圏が291円と,認定地から離れるほど評価額が低下している.自家用一葉でも同様の傾向が見られる.また,静岡県内その他市町では自家用二葉と自家用三葉がほぼ同額なのに対し,首都圏では自家用三葉が自家用二葉の1.7倍になっている.この理由として,茶草場農法の認知度の差が考えられる.茶草場農法の認知度に地域差があるか検定を行ったが,首都圏と静岡県内その他市町に統計的有意差は見られなかった.首都圏で茶草場農法に関する説明が影響したと見られる.以上から,自家用・贈答用といった対象要因や,認定地域からの距離によって,茶草場農法の取組み度に対する評価が異なる可能性がある.と同時に,首都圏向けには自家用として茶草場農法の取組み度が高いもの,5市町向けには中程度のものを中心に商品展開するのが効果的だと言える.

有機栽培がMWTPに与える影響は,地域に関係なく,贈答用よりも自家用の方が大きい.また,認定地域に近い地域ほど,この評価値が高い傾向にある.これは,緑茶が茶葉に湯を注ぎ抽出して飲むものであることに由来する,食の安全・安心への配慮による影響であると同時に,茶葉で淹れた緑茶を飲む機会の多さにも起因していると考えられる.

5. 結論

本稿は,世界農業遺産・静岡の茶草場農法を事例に,GIAHS認定地と居住地の距離や緑茶の購入目的,生物多様性認証が緑茶に対する消費者評価にどう影響するか,地域別に検討した.その結果,次の2点が明らかになった.

第一に,茶草場農法の取組み度やGIAHS表示は,消費者の緑茶に対する評価を潜在的に向上させる.特に,5市町では,贈答用緑茶にGIAHS認定地域の緑茶であると明示すると,評価が大きく向上することがわかった.

第二に,茶草場農法の取組み度は,単純に高水準のものが評価されるわけではなく,高評価される水準は地域ごとに異なることがわかった.同じ取組み水準でも,GIAHS認定地域から遠いほど,茶草場農法の取組み度に対する評価は低下する傾向がある.

以上から,GIAHS認定は,認定地域の農産品の価値評価向上につながると言える.特に,GIAHS認定地域で贈答用にGIAHS認定表示することで,大きな効果が期待できる.

謝辞

第68回地域農林経済学会大会(2018年10月13日,東京農業大学)での報告時,座長の藤本高志先生(大阪経済大学)やフロアの先生方,ならびに査読者から有益なコメントを頂いた.記して感謝申し上げます.本稿は,農林水産政策研究所 農林水産政策科学研究委託事業(課題名:我が国の独創的な農文化システムの継承・進化に向けた制度構築と政策展開に関する研究)の成果の一つである.

1  状況要因は,慶弔事や旅行先での購買など,購買・消費の状況に関わる要因である.対象要因は,誰のための購買かなど対象に関わる要因である.自分以外のために購入する贈答は,対象要因に該当すると考えられる.

2  世界農業遺産・「静岡の茶草場農法」推進協議会は,経営茶園面積に対する茶草場面積の割合を5%未満,5~25%未満,25~50%未満,50%以上の4段階に分け,それぞれ「無印」,「一葉」,「二葉」,「三葉」のマークを与えている.これを茶草場の維持および生物多様性保全に対する貢献度の指標としていることを回答者に説明した.

引用文献
 
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