農林業問題研究
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個別報告論文
同一地域における継続的な域学連携の活動実態と意義
萩原 遼井上 憲一
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2019 年 55 巻 3 号 p. 127-134

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Abstract

This study focuses on the goals and characteristics of continuous community–university cooperation activities in the same rural area based on participant observation and interviews. In this study, we analyze the community-university cooperation activities (2012–2017) by the students at Shimane University and the local residents in the Mindani district, Yoshida-cho, Yunnan-shi, Shimane Prefecture. Our main results are as follows: (1) The characteristics of the teaching activities include providing continuous survey results feedback to the local residents and promoting communication among the students. (2) The characteristics of the local residents’ activities include holding various events and communicating with the students. (3) The characteristics of students’ activities include undertaking problem solving activities and providing peer support. (4) The goal of continuous community–university cooperation activities in the same rural area is to promote students’ subjective learning and reinforce local revitalization.

1. 課題と目的

近年,大学生と大学教員が地域の現場に入り,地域の住民やNPOなどとともに,地域の課題解決や地域づくりに継続的に取り組み,地域の活性化や人材育成に資する活動(総務省,2018a;以下,域学連携)が注目されている.域学連携は,地域側において,知識・情報・ノウハウの活用,地域住民の人材育成などが期待され,大学側においても,地域での交流や実践を通じた教育効果などが期待されている.このように,域学連携は,地域と大学双方の学びと実践を深める活動と捉えることができる.

域学連携は,交流型,価値発見型,課題解決実践型,知識共有型(協働型)のように,主体の専門性と地域の当事者意識からいくつかの類型に分類できることが指摘されている(中塚・小田切,2016).一方で,学生の主体性の側面から域学連携をみると,学生個人やサークル活動をはじめ,参画への任意性が高いものから,正課の必修科目としての活動をはじめ,参画への任意性が低いものまで多様である.また,連携の継続性の側面から域学連携をみると,年度単位もしくはイベント単位で地域を変更するもの,複数年にわたり同じ地域と活動を継続しているものがみられる.

これらのなかで,必修科目として複数年にわたり同じ地域と活動を継続している域学連携は,地域と大学双方にとって,次の2点の意義があるものと考える.第1は,必修科目のために,一定人数の学生の参画が毎年見込めるため,地域との継続的な取り組みを,より実現しやすい点である.第2は,複数年にわたって大学が特定の地域と関わり続けることができるため,双方にとって,ノウハウやスキルなどの情報を蓄積しやすいと考える.しかし,先行研究(中塚・小田切,2016)の成果をふまえると,このような域学連携は,次の4点の課題があるものと考える.第1は,毎年同じ地域を対象とするため,学生が取り組むテーマのマンネリ化が生じ,年度を追うごとに学びの幅が狭まることが考えられる.第2は,毎年学生が交代し,学生側の専門性が高まらないため,交流型から高次の類型に移行することが難しいことが考えられる.第3は,受け入れ地域が毎年同じ大学と関わり続けることになるため,「交流疲れ」が地域に生じやすいことが考えられる.第4は,必修科目のため,関心はないが参加せざるを得ないと捉える学生が一定数含まれる可能性があるため,学生のモチベーションを高めるための工夫がグループの学生や教員に求められることが考えられる.

類型化以外の先行研究では,ケース別にみた継続の効果と課題(深沼,2010),科目として活動地域を毎年変更する農体験学習活動の展開と課題(中塚ら,2013),移動コスト(時間距離,交通費)による活動の限定性(内平・中塚,2014),連携の限定性と活動の段階性(中塚・内平,2014),個人・組織・地域からみた内的効果(内平・中塚,2016),大学・大学生と農山村の相互発展モデル(中塚・小田切,2016)などについて多面的な検討がなされつつある.しかし,必修科目として複数年にわたり同じ地域とかかわりつつ活動を展開している域学連携を対象に,活動実態の特徴と,地域・学生双方にとっての意義について詳細に検討した研究は管見の限りみられない.

そこで本研究では,域学連携として取り組み,必修科目として複数年にわたり同じ地域と関わりつつ活動している,島根大学生物資源科学部の「農村調査分析論」を対象とし,その活動実態を明らかにし,同一地域で継続的に域学連携を行う意義について検討する.

2. 対象と方法

(1) 対象

本研究で対象とする島根大学生物資源科学部農林生産学科農村経済学教育コース(以下,コース)の通年必修科目「農村調査分析論」は,「社会科学の基礎である農村調査分析の目的と意義を確認し,その手法を習得すること」を目的とし,次の5つの達成目標を掲げている(シラバスより).(ⅰ)農村調査分析に関して,事前の資料調査の方法を身につける.(ⅱ)課題に即した調査項目を適切に設定できる.(ⅲ)農村調査の実践を通じて,農村・農業等の具体状況を理解できる.(ⅳ)調査結果を適切な方法で処理・分析し,レポートにまとめる方法を身につける.(ⅴ)調査結果・まとめを説得的にプレゼンテーションする能力を身につける.

この科目は,コース2年生(3年次編入学生を含む)18~27人を対象に,担当教員4人(担当教員1人あたり学生4.5~6.8人)により2012年度から開講されている1.この科目では,前期に,学生が各自の関心に対応した班を編成し,5~12月にかけて,必要に応じて現地調査を計画・実施し,調査結果を取りまとめて1月下旬に現地報告を行い,学期末(2月)に1冊の報告書を完成させる.大学-地域間の移動コスト(内平・中塚,2014)のうち,時間距離は片道1時間~1時間30分で,交通費とイベントの諸材料費(学生分)はコースの教育支援経費から充当される.

域学連携の側面からみると,調査結果と提案をフィードバックすることに加えて,地域が実施する各種交流イベントへの参加のほか,当該イベント内のコーナーの企画・実施,学生独自イベントの企画・実施,地域のホームページ開設などを実施している.2017年度まで継続的に連携している地域は,島根県東部の雲南市吉田町民谷地区(2012年度以降)と飯南町獅子地区(2016年度以降)である.そのうち,初年度から連携を継続しているのは民谷地区である.本研究では,同一地域における継続的な域学連携を検討の対象とするため,主に民谷地区での活動に着目する.

民谷地区は標高400~500 m台の山間地域に位置し,旧小学校分校区であるふたつの集落からなり,人口は55世帯170人,高齢化率は45.9%にのぼる(2017年).2011年度末で小学校分校が閉校したことを契機に,2014年度より住民の主導で地域運営組織2(以下,民谷地区振興協議会)が設立され,民谷交流センター(旧小学校分校舎)を拠点に,福祉・生涯学習事業や地域振興事業を展開している.民谷地区において学生が主に関係するイベントは,田植え(5月,都市農村交流),笹巻き・かたら団子作り(7月,地区内交流),稲刈り(9月,都市農村交流),郷土料理教室(12月,学生の提案で開始)である.

(2) 方法

本研究では,6年間(2012~2017年度)の「農村調査分析論」を検討の対象とする.2017年度,筆者らは,域学連携の活動実態を明らかにするため,大学での授業と民谷地区で行われた現地調査とイベントの参与観察を行い,あわせて,民谷交流センター職員や民谷地区女性部への聞き取り調査を独自に実施した.

3. 結果

(1) 「農村調査分析論」における域学連携

「農村調査分析論」における域学連携の体制と実績は表1の通りである.2012~2017年度の連携地域は民谷地区で,2016~2017年度は飯南町獅子地区が加わる形となっている.獅子地区との連携は,民谷地区における活動実績が獅子地区の住民に評価され,獅子地区からの打診を契機としている.獅子地区が加わるまでの2013~2015年度は,民谷地区のキャパシティの制約により,4班のうち1班が吉田町域で活動していたが,獅子地区が加わってからは,民谷地区と獅子地区に分かれて活動している.

表1.

「農村調査分析論」における域学連携の体制と実績(民谷地区を中心に)

資料:各年度の「農村調査分析論報告書」,聞き取り調査結果をもとに作成.

1)活動実績の3区分は,中塚・小田切(2016)の類型をもとにした.

2)実線矢印は継続を,点線矢印は別の活動への影響を示す.

科目の体制は,5月までに班に分かれ,授業時間外にグループワークを行い,調査分析の基礎を学んだ後にグループワークの進捗を全体発表し,教員と議論する形式が踏襲された.2017年度における科目の体制の変更点は,(1)授業初期に,前年度の学生有志が経験を伝えた点,(2)前年度の学生有志が活動をサポートした点,(3)後期に,ゼミ形式による学生と教員の協議の機会を授業中に取り入れた点である.現地調査は,大学バスか教員運転の乗用車を移動手段として,必要に応じて逐次実施している.調査結果・提案の地域へのフィードバックは,1月下旬の現地報告会と2月に取りまとめる報告書の送付によって行われている.

(2) 民谷地区における域学連携

民谷地区では,児童数減少により2011年度末で小学校分校が閉校したことを契機として,住民の「分校を残したい」「地域づくりのための施設として使いたい」という声を受け,地域課題の解決や校舎跡地利用を検討するための活性化委員会を設立し,視察や勉強会などを行った(表1).この活動を通じて,住民が悩みや心配事を抱えていること,お互いが協力して生きていくための地域づくりを望んでいること,また,住民が地域づくりへの参加に積極的であることが明らかとなったため,翌2012年度に,地域運営組織設立準備委員会が設立された.域学連携がこの年度から開始されたのは,雲南市役所担当職員(当時)のマッチングによるものである.2013年度には民谷地区振興協議会が設立され,元小学校分校舎を民谷交流センターとして開所した.また,2014~2015年度にかけて,民谷交流センターを拠点として,福祉・生涯学習や地域振興に関する各種のイベントが開始・拡充されている.

域学連携がスタートした2012年度は,集落マーケティング班として,民谷地区に立地する集落営農法人を対象に経営実態を調査し,地域資源を活かした集落マーケティング活動の可能性を検討した.2013~2015年度はイベント班,食文化班,情報化班が,2016年度は前2班が,2017年度は前2班に加え次世代継承班が民谷地区で活動した.イベント班は,都市農村交流を目的に2013年度から民谷地区で取り組まれている田植えイベント(5月),稲刈りイベント(9月)を担当し,イベント内のクイズコーナーの企画・実施,新たな地域イベントの提案,拠点づくりのための既存イベントの充実,アンケートによる既存イベントの評価,他イベントとの比較を行ってきた.食文化班は,2013年度に郷土料理の継承の実態を調査し,食文化継承の取り組みとして,郷土料理教室の開催を提案した.翌2014年度からは,食文化班が郷土料理教室を企画し,民谷地区女性部と民谷交流センターの全面的な協力のもと,民谷地区での共同開催を継続している.また,2013年から吉田町内に道の駅が開設されたことを契機として,郷土料理の商品化にむけての調査が行われた.2015年度は,吉田町に古くからある郷土料理のレシピ集をもとに,民谷地区の女性部から郷土料理を習いつつ分量を追記するなどして一部の郷土料理の改訂版レシピを地区HPに掲載した.2016年度からは,民谷地区の郷土食である笹巻きやかたら団子を作る地区内交流イベントが開催され,学生も調査を兼ねて参加している.また,民谷地区独自のレシピの作成にも着手し,2017年度には「夢民谷(むうみんだに)の味」というレシピ冊子のたたき台を提案している.情報化班は,2013年度から3年にわたり,民谷地区と大学が共同で運営する地区HPを立ち上げて内容を充実させ3,地域の歴史(年表)を整理した.

2017年度の大きな変化は,民谷地区担当の3班が,他の2班の活動にも原則として全員参加するようになった点である.また,2016年度まで,大学でのグループワークは授業外で行われていたが,2016年度の学生からの意見をふまえ,2017年度後期からゼミ体制を採用し,授業中に班単位で協議する時間を確保した.さらに,2016年度に履修した学生有志が,サポーターとして2017年度の授業や現地調査に自主的に参加し,学生にアドバイスを行っている(民谷地区は1人).2017年度の現地調査は,雲南市内の他地区の農業イベントへの参画・調査(イベント班),地区住民による交流会への参画(次世代継承班)など,学生の主体的な活動や発案がいずれの班においても観察された.

2012~2017年度の民谷地区における域学連携の活動実績をみると(表1),交流の継続を基盤として,年度を追うごとに,価値発見,課題解決実践に関連した活動が積み重なってきている.2014~2015年度の郷土料理に関する調査活動の継続と,2016年度の笹巻き・かたら団子作りの開始ならびにレシピ冊子の着手に明確にみてとれるように,調査活動の蓄積により,より高次の活動や,新たなイベントの開始に波及していることが読み取れる.そこで次に,郷土料理教室を民谷地区と共催している食文化班をケーススタディとして,2016~2017年度における域学連携の活動実態の詳細に接近したい.

2016~2017年度の食文化班の学生と地域の活動実績をみると(表2),2016年度は7月に民谷地区からのレシピ冊子の提案を受け,10月に主体的な活動(民谷交流センターを窓口に,住民と学生が直接コミュニケーション)をスタートしているのに対して,2017年度は4月の班編成時に2016年度履修生の有志1人が自主的にサポート役として参加し,5月には学生の主体的な活動(住民と直接やり取り)が始まっている.その後も,民谷交流センターを窓口とした住民と学生の頻繁なコミュニケーションを経て,6月と11月に現地調査を企画・実施し,2月にはレシピ冊子のたたき台を完成させて住民にフィードバックしている.2年間の食文化班のレシピ冊子に関する活動実績をみると,学生が発意した主体的な活動(表2の●)と,住民と学生とのコミュニケーションの機会(表2の▼と地域・学生間の矢印)が格段に増加していることがわかる.

表2.

食文化班における域学連携の活動(2016~2017年度)

資料:2016~2017年度の「農村調査分析論報告書」,聞き取り調査結果,参与観察結果をもとに作成.

1)▼地域から学生への提案や要望.●学生が発意した主体的な活動.

2)矢印は,レシピ冊子の検討における次の活動への影響を示す.

域学連携を住民がどのように受け止めているのかについて,2017年6月に民谷交流センター職員でもある住民に聞き取り調査を行った結果,「人口は減っているが,現在の住民ができるだけ住みよい暮らしを自分たちで構築することを目指している.子ども達を含めて,住民は学生達から元気をもらえており,住民の目的に合致している」旨の指摘を受けた.

4. 考察

以上の結果をふまえ,本節では,民谷地区を中心に,大学・学生・地域の活動実態の特徴と,同一地域で継続的に域学連携を行う意義について考察したい.

(1) 活動実態の特徴

大学の活動実態の特徴は,次の3点に整理できると考える.第1は,現地報告会や報告書といった地域へのフィードバックを継続している点である.第2は,活動の引継ぎ方法や,学生同士,または教員と密にコミュニケーションが行えるように話し合う時間を確保し,学生が教員や他の学生から助言を受けやすい体制に変更した点である.第3は,同じ担当地区に複数の班が活動できるようにし,他の班の活動にも参加するように促した点である.

学生の活動実態の特徴は,次の2点に整理できると考える.第1は,交流や価値発見に関する活動からスタートし,年度を追うごとに課題解決実践に関する活動を段階的に積み上げている点である.食文化班は,2014~2015年度の郷土料理に関する調査活動の継続が2016~2017年度のレシピ冊子の着手につながっており,価値発見の蓄積により,課題解決実践に波及している.第2は,学生が地区のイベントでコーナーを担当したり,郷土料理教室を共同で計画・実施したりすることを通じて当事者意識が芽生える機会が増えている点である.その顕著な例として,2017年度において,2016年度履修生がサポート役として授業や調査に参加するという自主的な動きがみられた.このことは,2016年度において,当該学生が当事者意識を持って民谷地区で活動できたことを意味しているものと考える.

そして,地域の活動実態の特徴は,次の2点に整理できると考える.第1は,地域運営組織と交流センターを基盤として,連携初期からイベントなどを継続的に展開している点である.笹巻き・かたら団子作りといった学生が参加しやすいイベントを拡充し,学生との交流の機会を複数回提供できている点は,地域運営組織の強みといえる.第2は,地域からの要望や提案を学生に伝え,また,学生からの要望や提案を地域が受け止めて改善する4というサイクルを拡充させている点である.

1節で指摘した4つの課題のうち,テーマのマンネリ化と学生側の専門性が高まらない課題について,まず,テーマについては,ルーティーンの行事に加えて,地域との綿密なコミュニケーションのもとで新たな課題を抽出することで(表2),マンネリ化を回避できていると考える.学生側の専門性については,2節(1)で示した本科目の達成目標(ⅰ)(ⅱ)(ⅳ)(ⅴ)が,年間スケジュールに沿って達成できていることがわかる(表2).達成目標(ⅲ)の「農村・農業等の具体状況の理解」についても,表2矢印のレシピ冊子の検討プロセスからも明らかなように,地域との綿密なコミュニケーションを通じて,地域の実態の理解が進んだものと考える.その傍証として,2017年度学期末に受講生21人中16人(76%)に対して教員が配付・回収した無記名アンケートで,「島根県の中山間地域」に対する理解(4択)は,受講前が「全く~ほとんどできていなかった」81%,「ある程度できていた」19%に対し,受講後が「全く~ほとんどできていなかった」0%,「ある程度できていた」81%,「とてもできていた」19%と明確に高まっている5.これらを実現できた最も大きな要因は,地域と学生との綿密なコミュニケーションであろう.そして,綿密なコミュニケーションが実現できた要因は,継続的な連携により,学生や大学が地域から信頼を得ていることが考えられる6.地域からの信頼が得られたからこそ,学生からの提案を受け入れるか却下するかの二者択一だけではなく,学生に要望・提案する能動的な行動(表2)につながっているものと考える.また,「交流疲れ」の課題に対しては,ノウハウの蓄積はもとより,郷土料理教室などの継続により,価値発見や課題解決実践に関連した活動が生まれたことや,学生への信頼が維持されたことで,課題を回避することができたものと考える.そして,学生のモチベーションの課題に対しては,学生からの要望や提案を受け止めて改善するというサイクルが地域で構築されていったことや,ゼミ形式への移行や他地区のイベントへの参加など,大学・学生側の工夫が重ねられていることから,一定程度は回避できている可能性が指摘できる.

(2) 意義

以上の活動実態の特徴から,同一地域で継続的に域学連携を行う意義として,次の2点が指摘できる.第1は,活動に継続性を持たせることが期待できる点である.第2は,活動を進化させることが期待できる点である.活動実態の特徴からも明らかなように,毎年学生が交代するにもかかわらず,年度を追うごとに,学生の活動が交流や価値発見の活動から課題解決実践の活動に展開している(表1).

次に,以上の意義が本事例において実現した要因について,大学,学生,地域の主体別に検討する.まず,大学の要因として,次の2点が指摘できる.第1は,地域へのフィードバックや学生とのコミュニケーションを通じて,「昨年は学生のこういう活動がうれしかった」「授業時に学生同士の議論の機会を増やしてほしい」などの意見や要望を取り入れ,体制を変更していった点である.たとえば,郷土料理教室における学生の料理の持ち寄りを継続させたり,学生同士あるいは教員との議論の時間を増やしたり,などが実現した.この対応により,学生の学びや活動に適した,あるいは地域の求める連携に合致した授業体制に近づけることにつながったのではないかと考える.第2は,本科目の達成目標(ⅳ)(ⅴ)に対応する現地報告会,報告書の継続である.現地報告会では,学生が地域に向けて1年間の活動を発表するため,住民も学生が1年間何に取り組んだのかを理解することができ,あるいは住民の新たな発見の場にもなりえている.報告書の継続は,学生が過年度の活動を学び,新たに何ができるのかを考えることができるため,活動の進化につながりやすかったものと考える.

学生の要因として,次の2点が指摘できる.第1は,学生が地域に向き合う姿勢である.必修科目のために受動的に受講した学生も,地域の活動に参加して住民とコミュニケーションを重ねるうちに,「学生は地域に何ができるのだろうか」という問いが生まれ,能動的な姿勢に変化していったケースは,報告書の感想文にも多く読み取ることができる.第2は,過年度履修生の自主的な参画の実現である(表2の2017年4月を参照).このことは,学生の学びの充実に寄与するだけではなく,地域からの信頼を高める要因にもなっていると考える(住民への聞き取り調査結果から).

地域の要因は,住民が学生に向き合う姿勢である.民谷地区では,笹巻き・かたら団子作りイベントをはじめ,学生も参加しやすいイベントを拡充したり,学生にイベントの一部を担当させたりするなどして,学生の当事者意識が芽生えるような機会を設けている.また,2017年度は,学生と意見交換の場(表2の2017年9月を参照)を設けるなど,学生と一緒に地域の課題を考え,解決していこうとする姿勢が特にみられた.これらの住民の姿勢は,前述の学生の姿勢や過年度履修生の自主的な参画にも大きな影響を及ぼしているのではないかと考える.

(3) 残された課題

本研究の事例は,4人の教員を担当者として配置し,大学-地域間の移動コストが低く,住民組織の基盤が整っている地域を対象にしているという有利性を持つ.その一方で,本研究では,同一地域における継続的な域学連携の普及の限定性について検討することができなかった.また,このような域学連携の発展可能性に接近するためには,より長い期間での検証が求められるものと考える.そして,モチベーションをはじめとする個々の学生の意識面について,本研究では詳細に接近することができなかった.これらの点は,本研究に残された課題としたい.

謝辞

本稿の作成にあたり,民谷地区の皆様ならびに「農村調査分析論」の受講生から多大なご協力をいただいた.記して感謝の意を表したい.

1  2008年度から2012年度まで同学部で開講されていた「農村調査実習」(対象地域を毎年変更,2泊3日の現地調査を夏季に実施)の後継科目として開講されている.2012年度は,本研究の調査対象地域(雲南市吉田町民谷地区)との連携が開始され,科目における学生の現地調査も「農村調査分析論」の方法(対象地域を継続,必要に応じて現地調査)に移行しているため,2012年度も「農村調査分析論」とした.

2  地域の暮らしを守るため,地域で暮らす人々が中心となって形成され,地域内の様々な関係主体が参加する協議組織が定めた地域経営の指針に基づき,地域課題の解決に向けた取組を持続的に実践する組織(総務省,2018b).

3  2016年度以降,地区HPの大学側の管理は,イベント班と食文化班の学生が担当している.

4  2017年9月に住民が主催した学生との座談会(表2)は,その顕著な例といえる.

5  報告書の感想文からも,「地域の理解が進んだ」という趣旨の記述が多くみられる.

6  2017年6月の「学生達から元気をもらえている」という住民(民谷交流センター職員)の指摘は,その証左といえる.

引用文献
 
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