農林業問題研究
Online ISSN : 2185-9973
Print ISSN : 0388-8525
ISSN-L : 0388-8525
個別報告論文
植物工場野菜の流通において卸売市場が果たす役割
浦出 俊和
著者情報
ジャーナル フリー HTML

2019 年 55 巻 3 号 p. 135-142

詳細
Abstract

Because of its economic characteristics, the distri­bution of vegetables produced in plant factories has a high circulation rate outside the market. This study clarifies the role the wholesale market plays in marketing the vegetables produced in plant factories.

This study analyzed the fluctuation in the quantity and price of the vegetables produced in Plant Factory K in a central wholesale market in southern Kyushu. The results show that a wholesale market plays the role of securing demand for the vegetables produced in plant factories. In addition, wholesale markets help improve con­sumer evaluation of the vegetables produced in plant factories.

1. はじめに

植物工場は,「施設内で植物の生育環境(光,温度,湿度,二酸化炭素濃度,養分,水分など)を制御して栽培を行う施設園芸のうち,一定の気密性を保持した施設内で,環境及び生育のモニタリングに基づく高度な環境制御と生育予測を行うことにより,季節や天候に左右されずに野菜などの植物を計画的かつ安定的に生産できる栽培施設」(日本施設園芸協会,2018)と定義され,①温室などの半閉鎖環境で太陽光の利用を基本として,人工光による補光をしていない「太陽光型」,②温室などの半閉鎖環境で太陽光の利用を基本として,特に人工光によって夜間など一定期間補光している「太陽光人工光併用型」,③太陽光を使わずに閉鎖された施設で人工光を利用する「人工光型」,の3つのタイプに分別される.

日本における植物工場の研究は,1974年に日立製作所中央研究所において始まり,1980年代半ば~後半の第一次ブーム(筑波科学万博における日立中央研究所の「回転式レタス生産工場」や,千葉県のショッピングセンター内にダイエーが設置した「バイオファーム」などの実証プラントの設置),1990年代前半~後半の第二次ブーム(農水省の補助金導入によって,キューピー株式会社が人工光型植物工場を設置して野菜の販売を開始するなど,実用化工場による生産・販売の開始)を経て,現在は,2009年に開始された農水省・経産省による国家プロジェクトをきっかけとした第三次ブームにあると言われている(高辻,2014).

日本施設園芸協会(2018)の調査によると,2018年2月末時点で人工光型183 箇所,太陽光人工光併用型32 箇所,太陽光型153箇所1となっており,人工光型が全国的に広がってきていることが分かる.しかし,同調査では,植物工場全体の44.7%,人工光型では58.3%が収支状況の赤字であると回答しており,その背景には①収量・歩留が計画よりも低い,②販路の不足,③コスト高といった植物工場の課題があると考えられる.

これまでの植物工場に関する先行研究では,工場設備や栽培・管理技術に関するものが中心であり,それらの最新の研究成果を取りまとめた文献としては,高辻・古在(2014)安保他(2015)があげられる.一方,植物工場の経済的側面に着目して,その特徴や課題を整理したものに竹歳(2012)藤森(2016)があるが,これらは実際の調査データに基づいた分析はなされていない.全国的な調査データに基づいて,植物工場の実態と課題を明らかにしたものとしては浦出他(2016)がある.浦出らは,植物工場の収益性の低さの要因として,工場稼働率2や重量歩留率3が低いことを明らかにし,生産技術向上の必要性を指摘するとともに,販売・流通における需給調整が植物工場にとって重要な課題となっていることを明らかにし,卸売市場流通の重要性を指摘した.また,このように,販売・流通に焦点を当てて,調査データに基づいた分析を行っている先行研究はほとんどない.

ここで植物工場野菜の流通に着目すると,多くの植物工場では,本来的に需給調整機能を有する卸売市場流通ではなく,市場外流通が中心となっている.しかし,国産青果物に限定した卸売市場経由率は80%を超えていることを考えるならば,国内において,植物工場野菜の流通に対しても卸売市場の果たす役割は,必ずしも小さいものではなく,実際には,少ないながらも卸売市場を経由して流通しているものも存在する.

そこで本研究では,植物工場野菜の供給面の特質および流通実態を整理した上で,九州南部で運営している植物工場K社および同社の主たる取引先であるK中央卸売市場を取り上げ,K中央卸売市場4におけるK社の野菜の取引データの分析を基に,卸売市場が植物工場に対して果たし得る役割とその限界について考察することを目的とする.

2. 植物工場野菜の特質と販売・流通の実態

(1) 植物工場野菜の供給における特質

植物工場は,高度に環境制御された施設内で野菜を栽培するので,季節や天候といった外部環境の変化の影響を受けない.ゆえに,その供給において,①定量的な安定生産が可能,②季節性がなく周年栽培(出荷)が可能,③定品質(生産物間のばらつきが極めて小さい)の生産物の出荷が可能,④生産における歩留まりが大きい,⑤栽培期間が,露地栽培や他の施設栽培と比較して,相対的に短い,⑥計画生産・出荷が可能,⑦無農薬栽培が可能で,虫や異物の混入を防ぐことが可能なことから,高い安全性を確保することが可能,という特質を有している(浦出,2015).これらの特質のうち,①~③および⑥の特質は,販売先との取引条件に大きく影響する特質であり,④~⑥の特質は,生産コストに影響を及ぼす特質であると考えられる.さらに,③および⑦の特質は,一般の農産物との差別化に寄与する特質であると言える.特に,①~③および⑥の特質は,植物工場野菜が1年を通じて,定品質かつ定価格で販売可能であることを示唆しており,植物工場野菜の販売上の利点と考えられる.

この植物工場の販売上の利点を活かすためには,年間を通して定価格・定量で取引がなされる固定的取引が望ましいと考えられる.しかし,固定的取引を望む実需者は食品製造・加工事業者に多く見られるものの,それらの事業者は加工仕向けの原材料として,定価格で定量であることに加えて価格の低さを重視する傾向にある.生産コストが高いという課題を抱えている植物工場にとって,低価格での取引は収益性の低下の要因となることから,望ましい取引とは言えないと思われる.また,定品質という特質に着目するならば,スーパーとの取引が考えられる.スーパーの場合,定品質な商品が求められるものの,その取引価格は卸売市場価格の変動に影響を受けると同時に,受注量も変動する.さらに,納品の確実性が重視されている.つまり,毎日定価格で定量出荷が可能な植物工場にとっては,かえって過剰や不足のリスクを生じやすく,収益性も不安定になると考えられる.また,国産青果物の中心的流通である卸売市場については,受託拒否の禁止という原則により生産過剰のリスクが存在せず,浦出他(2016)が明らかにしたように,植物工場にとってバッファとなる融通の利く取引先となり得るが,逆に需給状況を反映して価格が変動することから,植物工場野菜の流通にはなじまないと考えられる.

このように,植物工場野菜の1年を通して定価格・定量販売が可能という特質は,現実には必ずしも販売上の利点となっておらず,価格面や需要変動への対応という点から,むしろ販売先確保の困難性を生じさせる要因となっていると考えられる.

(2) 植物工場野菜の経営・流通実態

ここでは,日本施設園芸協会(2018)の実態調査および浦出他(2016)の調査結果から,植物工場野菜の流通実態を概観する.

既に述べたように,日本における植物工場数は,2018年2月末時点で人工光型183 箇所,太陽光人工光併用型32 箇所,太陽光型153箇所となっているが,2011年3月末時点以降,人工光型は着実に普及してきたが,近年,その伸びは鈍化傾向にある.これは,新規の植物工場の開設が見られることから,新規参入が停滞しているというよりも,既存の植物工場の撤退と新規参入が同時に生じているからであると言える.この背景には,植物工場の課題の一つである収益性の低さがあげられる.図1に,日本施設園芸協会の実態調査結果における2013年以降の植物工場の収支状況の推移を示す.2014年以降,赤字の回答割合が50%を下回るようになったことから,収支状況の改善傾向が見られるものの,黒字の回答割合は未だ40%を下回っており,低収益性であることが伺える.特に,人工光型では,2017年度の調査結果において,赤字の回答割合が58.3%であるのに対して,黒字の回答割合が僅か16.7%しかなく,非常に収益性が低いことが分かる.

図1.

植物工場の収支状況

資料:日本施設園芸協会(20172018).

次に,浦出他(2016)の調査結果5によると,植物工場における取引有の割合が高い販売先は,飲食店(50.0%),次いでローカルスーパー(40.0%)であった.また,固定的取引が50%以上を占める事業者は53.3%であり,そのうち36.7%は固定的取引の割合が100%であった.つまり,飲食店やローカルスーパーとの固定的取引という市場外流通が植物工場の主たる流通となっていると言える.

一方,卸売市場については,取引有の割合が23.3%(7/30事業者)と低いものの,大手スーパーや食品製造加工の20.0%(6/30事業者)をわずかに上回っていた.そこで,卸売市場との取引がある7事業者を見ると(表1),卸売市場への販売割合が1%~90%まで幅広く,4事業者は50.0%を超えていた.これら4事業者の主要品目がリーフレタスなどのレタス類,ハーブ,ミツバであるのに対して,卸売市場への販売割合が低い他の3事業者ではパプリカ,トマトとなっている.生産規模は,K工場の500株/日からF工場の10,000 kg/日まで格差は大きく,卸売市場への販売割合との間には相関関係は見られない.ここで収支状況に着目すると,7事業者のうち黒字は3事業者であり,そのうち2事業者の卸売市場への販売割合は80.0%を超えていた.黒字の3事業者が他の事業者と比較して本格的稼働年数が長いことや主要品目がレタス類以外であることは考慮しなければならないが,植物工場にとって,卸売市場への出荷は少なからず収益性の向上に寄与していることが推測される.ゆえに,植物工場野菜の流通にとって,卸売市場は必ずしもなじまない流通ではなく,一定の役割を果たしていると推測される.本論文の調査対象であるK工場は,7事業者の中で最も生産規模が小さく,主要品目としてリーフレタス類を生産している典型的な小規模植物工場である.収支状況は赤字であるが,卸売市場への販売割合が高い背景には,卸売市場への出荷によるメリットがあると考えられる.

表1. 卸売市場と取引のある植物工場の個別事例
A工場 B工場 C工場 D工場 E工場 F工場 K工場
生産規模 1,500株/日 65 kg/日 1,400株/日 1,000 kg/日 190 kg/日 10,000 kg/日 500株/日
主要品目 リーフレタス ハーブ フリルアイス ミツバ パプリカ トマト リーフレタス
卸売市場割合 1% 80% 58% 85% 5% 5% 90%
主要販売先 飲食店 卸売市場 卸売市場 卸売市場 ローカルスーパー 食品製造加工 卸売市場
収支状況 赤字 黒字 赤字 黒字 赤字 黒字 赤字
本格稼動開始 2013年 1991年 2013年 2000年 2010年 2005年 2011年

資料:浦出他(2016)

1)浦出他(2016)の調査の個票データから筆者が作成した.

3. 卸売市場における植物工場野菜の取引実態

(1) 事例事業者の生産・販売の実態

以下では,九州南部の県内の県庁所在地市外で建築資材の生産販売を行っているK社の植物工場プラントを取り上げる.K社では,社内に植物工場事業部を設立し,既存の建屋を活用して,完全人工光型植物工場を整備して,2011年5月から栽培を開始し,同年9月から生産物である野菜の販売を開始した.主な栽培品目はリーフレタス(2品種)とフリルアイスであり,これら以外に紅法師という品種の水菜を栽培している.ただし,紅法師は植物工場全体の総生産量の僅か数%を占めるに過ぎない.工場施設の生産規模は,当初,日産1,000株で設計されたが,現在の生産実績は日産500株となっている.当初は設計通り,1株(袋)当たりのサイズを80~100 gとして生産・販売を行っていたが,売れ行きが芳しくないことから,1株(袋)当たりのサイズを120~140 gへ変更して生産・販売するようになったために,生産規模も日産1,000株から500株へ縮小せざるを得なくなったのである.生産規模は縮小したが,サイズを大きくしたことによって,売れ行きは改善した.

表2. K社の植物工場の概要
栽培開始 2011年5月
販売開始 2011年9月
栽培方法 完全人工光型
蛍光灯およびLED補光(2018年春に全ラインをLEDへ転換)
多段水耕栽培
栽培品目 リーフレタス(2品種),フリルアイス,紅法師
生産規模 日産500株
雇用者数 常勤雇用2人,パート4人
主な販売先 卸売市場(90%)

資料:ヒヤリング調査に基づく.

K社の植物工場部門の年間売上(2015年実績)は2,000万円弱であるが,電気代が約1,500万円もかかっており,収支状況は販売開始から赤字が続いている.2018年の春に大規模な投資を行って,これまで蛍光灯だった光源を全てLED光源に転換した.その結果,電気代の約40%の削減が実現した.従来の電気代が半分になれば経営が安定するというヒヤリング調査結果を得ていることから,収支状況はかなり改善したと考えられる.

K社の主たる販売先は,同一県内の県庁所在地市にあるK中央卸売市場であり,総出荷量の約90%を占めている.販売開始当初は,同卸売市場への出荷が100%であったが,同一市内の地元スーパーへの直売や個人販売,さらには病院の職員食堂への直売などが10%程度を占めるようになっている.

K中央卸売市場には,植物工場立ち上げ時からサポート協力を得ているが,同卸売市場への販売依存度が高い最も大きな理由は,中央卸売市場における「受託拒否の禁止」「全量上場」「即日販売」といった取引原則にある.つまり,中央卸売市場に出荷すれば,必ず出荷量全量を売り切ってくれるからであり,植物工場野菜に対する認知度が低く,技術的に生産が不安定な運営初期の状況下においては,生産の変動に伴う販売上のリスクを抱える必要が無いからである.農業生産への新規参入者であるK社にとって,生産物である野菜の販売先を見つけることは困難であり,中央卸売市場への出荷は確実な販売先の確保と同義である.さらに,K中央卸売市場への輸送手段として,中央卸売市場が運行する集荷の定期便の冷蔵トラックが利用可能なことから,輸送コストの削減につながる点もK中央卸売市場への出荷の理由となっている.

ここで,上述したように,収支状況に着目すると,現状でも黒字を達成しておらず,K社ではより高価格で販売が可能な大手スーパーやホテルへの直販といった市場外流通の拡大を望んでおり,最終的には市外流通の割合を100%とすることを目標としている.しかし,大手スーパーやホテルとの取引では,特売や宴会といった急な需要への対応が必須であるが,K社の現在の生産規模ではそのような急な需要への対応が困難であり,リスク回避の点から中央卸売市場への出荷に依存せざるを得ない状況にあると言える.

(2) 卸売市場における販売動向

K社の主たる販売先であるK中央卸売市場は,県庁所在地市に位置しており,当該市および南九州の生鮮食料品流通の中核的拠点市場としての役割を果たしている.

2に,同市場における2012年1月~2017年12月の期間のK社植物工場野菜であるリーフレタスおよびフリルアイス等6の売上数量の推移を示した.また,同市場においてK社の植物工場野菜と競合すると考えられるサニーレタスおよびグリーンリーフの売上数量の推移をそれぞれ図3,図4に示した.K社のリーフレタスとフリルアイスの売上数量は,2012年以降2016年夏期まで,ともに増加傾向にあり,特にフリルアイス等の方が相対的に大きく増加していたが,2016年夏期をピークに減少に転じていることが分かる.また,夏期に売上数量の減少が見られるものの,その減少はフリルアイス等の方が大きくなっている.一方,サニーレタスおよびグリーンリーフの売上数量の推移を見ると,両者とも夏期には県内産7の入荷が無く,また両者の県外産に対する県内産の割合は,年間で1~3%であることから,K市場のリーフレタス類の供給は,県外産に依存していると言える.そこで県外産のサニーレタス,グリーンリーフの売上数量の推移と,K社の植物工場野菜の売上数量の推移とを比較すると,2012年,2013年といった工場稼働初期の頃は,K社の栽培技術が安定しなかったために,K社の方が年間の売上数量の変動が大きかった.その後の栽培技術の向上によって,年間を通して安定的な出荷が実現するようになり,K社の売上数量の変動が県外産よりも小さくなった.各年ごとに変動係数を算出すると,県外産のサニーレタス,グリーンリーフが,2013年0.241,0.214,2014年0.154,0.240,2015年0.169,0.192であるのに対して,K社のリーフレタスは,2013年0.195,2014年0.097,2015年0.135と下回り,2016年以降は上回る結果となった.同様に,K社のフリルアイス等の変動も県外産のサニーレタス,グリーンリーフよりも小さいが,上述したように,特に,K社のリーフレタスは季節間の変動が小さいことが分かる.

図2.

K社植物工場野菜の売上数量の推移

資料:卸売会社資料.

1)2012年1月の数値を100として指数化.

図3.

市場のサニーレタスの売上数量の推移

資料:卸売会社資料.

1)2012年1月の数値を100として指数化.

図4.

市場のグリーンリーフ売上数量の推移

資料:卸売会社資料.

1)2012年4月の数値を100として指数化.

次に,K社のリーフレタス,フリルアイス等,県内産および県外産のサニーレタスの単価の推移を図5に示した.県内産と県外産のサニーレタスの価格水準を比較すると大きな差は見られないものの,これらの価格水準と,K社のリーフレタス,フリルアイス等の価格水準とを比較すると,前者が1/3~1/2の低い水準となっている.また,K社の植物工場野菜の単価の推移が,県内産の入荷が無い夏期に高価格,冬期に低価格という傾向を示していることから,需要が集中する夏期に価格が上昇し,需要が減退する冬期に価格が低下するというK市場における需給動向が反映されている結果であると言える.また,年間の最低価格と最高価格の価格差は,K社の植物工場野菜の方が大きいものの,月別の単価の変動はK社の植物工場野菜の方が小さくなっている.つまり,K社の植物工場野菜の単価は,市場全体の需給動向の影響を受けているものの,その影響が小さいことを示唆している.特に,K社の植物工場野菜の単価が高位に推移しているのは,K社の植物工場野菜に対する需要が高まってきていることが反映されていると考えられ,単価が低迷する冬期でも需要が確保されていることによって,年間の価格変動も小さくなっていると考えられる.この点については,卸売会社の担当者へのヒヤリング調査において,K社の植物工場野菜に対する認知度が年々向上していることや,棚持ちが良い,外葉も含めて全て使えるから歩留が良いといった品質面の評価が高まっていることが確認された.そのため,K社の植物工場野菜を補完的にではなく,メインに購入する飲食店やホテル,スーパーが現れてきており,業務需要として高価格であっても年間を通じて購入する実需者がいることもあり,季節間の価格変動も小さく,年間を通して,相対的に高価格で推移するようになったと考えられる.実際に筆者は,現地のローカルスーパーにおいて,高価格なK社の植物工場野菜が販売されているのを確認している.

図5.

K社植物工場野菜および市場のサニーレタスの単価の推移

資料:卸売会社資料.

以上のように,植物工場野菜にとって,卸売市場への出荷は,需要の確保に加えて,その認知度や品質評価の向上を実現したと言えるが,その背景には卸売会社の主体的な対応があったことも無視できない.K社の植物工場野菜を取り扱い始めた当初,可能性のある実需者に対して売り込みを行ったことが認知度の向上につながったと言える.また,需要が減退して商品が過剰になる冬期に,買い手を探して売り込む一方で,需要が高まるにも関わらず,県内産が入荷しない夏期には,不足しがちな商品を必要とする実需者へ広く行き渡るように分配して販売するなどの卸売会社の販売努力に拠るところが大きいと考えられる.また,K社の植物工場野菜は全量が相対取引であり,卸売会社が主導的に価格形成を行っていることも,年間を通して高水準の価格形成が実現している要因の一つである.これらは,植物工場事業者の努力だけでは実現が困難であり,卸売市場における卸売会社だからこそ実現し得たと言える.

4. おわりに

植物工場は,1年を通して定品質な野菜を定量的かつ定価格で販売可能という供給の特質を有している.この特質は,植物工場野菜の販売上の利点と考えられる一方で,販売先の確保の困難性を生じさせる要因ともなっていると考えられ,需給状況を反映した価格形成が行われる卸売市場では,植物工場野菜の取引はなじまないとされていた.しかし,本研究では,卸売市場の販売努力によって,その需要の確保や認知度・品質評価の向上に寄与するという役割を果たし,その結果,卸売市場の需給状況の影響を受けるものの,高水準の価格形成が実現していることが明らかにされた.

これらのことは,卸売市場は植物工場にとって需給調整のバッファとなる融通の利く取引先であるというこれまでの位置づけだけではなく,植物工場野菜の流通において,重要な販売先の一つとなり得ると考えられる.さらに,卸売市場の役割をより高めるためは,年間を通して十分な買い手を確保し,季節間変動が少ない固定的な取引に近づけることが重要な課題となる.しかし,卸売市場取引では,季節間変動の縮小や価格の高水準の維持には限界があり,卸売市場の取引だけで植物工場の収益性を高位に安定させることは困難であると考えられる.この点を踏まえるならば,高価格水準での固定的な直接取引について,植物工場自身も一定以上の割合を確保するための販売努力をすることが重要である.

1  施設面積が概ね1 ha以上で養液栽培装置を有する施設(大規模施設園芸)に限る.

2  工場稼働率=実生産量/最大生産可能量.

3  重量歩留率=実生産量/生産計画量.

4  本中央卸売市場と取引のある県内の植物工場事業者は1社であるため,市場名称を明らかにすると,調査対象事業者が特定されることから,本論文では市場名称を伏せることとする.

5  2015年8月~9月に全国の植物工場197事業者を対象に実施したアンケート調査.有効回答数30(有効回答率14.7%).

6  卸売会社から得たデータでは,フリルアイスと紅法師が同じカテゴリーで集計されており,両者を区分することが出来ない.しかし,同社の担当者からのヒヤリングにより,紅法師の割合は5%以下であることから,売上数量および単価の推移は,ほとんどフリルアイスの売上数量および単価の推移とみなせる.

7  ここで県内産とは,K社植物工場野菜を除いたものである.

引用文献
 
© 2019 地域農林経済学会
feedback
Top