農林業問題研究
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個別報告論文
包絡分析法を用いた野菜作の生産性分析
中川 雅嗣
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2019 年 55 巻 3 号 p. 189-196

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Abstract

This research is to measure the total factor productivity (TFP) of Japanese main vegetables and is to converge in each prefecture. The Malmquist index approach was applied for the calculation of TFP growth using one output (production) and four inputs (land, labor, capital, and other materials) for the period 1972–2007. The result of the Malmquist productivity index of vegetable decreased over this period by 2%, taking a value of 0.98. As technical efficiency was 1.00, and a technical change was 0.98, the factor that caused the decrease in productivity was technological change. The panel unit root test got a result to certainly converge in vegetables that was the highest in the productivity. Moreover, Growth of the productivity advance to the equivalence direction as a tendency, and the productivity of vegetables suggests that the same farm policy is effective.

1. はじめに

近年,野菜作は我が国農業の主要部門として位置づけられているが,農業者の高齢化等により作付面積・生産量が減少傾向で推移している.一方,加工・業務用需要に占める輸出割合は,増加傾向で推移しており,食品の品質問題等を契機として国産野菜に対する国内外の消費者ニーズが高まり,国内産地の加工・業務用需要への対応強化や海外マーケットへの輸出促進が求められている.

これらの課題に的確に応えることにより,野菜の自給率維持・向上を図ることが期待されている.このような状況を踏まえ,国産野菜の生産・経営を検討することは重要な課題となっている.各地域の生産性の動向や経営効率,傾向として生産性が同一方向に進んでいるか否かを把握することは,政策を推進する上で重要と考えられる.既存研究として,木村(1988)が野菜作経営の展開方向として,産地移動,作付体系の変化,高品質生産への努力,市場競争力の向上とコスト低減,産地の再編成をあげている.

包絡分析法を使った研究として,辻他(2006)がウメ生産農家の経営効率性を計測し,栽培管理技術の励行が経営効率を高めるとした.また,技術進歩の変化を計測する方法としてCaves et al.(1982)が提唱したMalmquist生産性指数が用いられる.同指数は,生産性を技術進歩と技術効率性に分解することができるという特徴を持っている.この指数を用いて,Horie and Yamaguchi(2006)は日本農業の技術進歩や技術効率性を分析した.また高松・衣笠(2010)は規模に関して収穫可変を考慮した生産性や技術効率性を計測している.

さらに山本他(2007)は稲作の生産性について,理論かつ計量分析により生産性の変化が,技術変化による上昇する局面,キャッチアップ効果による上昇する局面を実証し,その後,生産性の伸びがゼロになる局面を示唆した.

収束とは,「生産性の低い地域は高い地域より急速に成長し,生産性の低い地域は高い地域にキャッチアップする」と定義される.収束が成立しているなら,地域間で同一方向へ進んでいることがわかり,共通の農業政策が有効であると言える.しかし収束が成立していないならば,地域内で別々の方向に向かっていることとなり,個別の農業政策を検討する方が効果的と判断できる.収束仮説は,「技術伝播による新しい技術開発には時間がかかり,技術を開発した地域が最も早く成長し,周辺地域はその模倣により急速に発展し先進地域に追いつく」とされている.

山口・陳(1999)により農業は各都道府県で大きく異なり,農業生産は絶対収束せず,自然条件,土地条件,経済条件,社会制度的条件を考慮することにより収束することを示した.野菜に関する研究は,野菜需給問題に関する分析,野菜作の経営発展を投入要素や技術展開から展開する分析,野菜作の産地レベルの活動に関する分析に大別される.特に個別産地の展開に即した研究が多く,香月(2005)により農業生産全体における野菜作の研究がされているが,野菜の生産性に関しては,品目に限った研究は散見されるものの,野菜作全体を把握した研究は見当たらず,その収束に関する検討も明らかにされていない.

そこで本研究はこれまで明らかにされていなかった国産野菜の生産性の分析とその収束について考察にすることとしたい.本研究の構成は第2節で指標の計測方法,第3節で収束の検定方法,第4節で分析と収束結果を吟味し,最後に結論を述べる.

2. Malmquist生産性指数による生産性の計測

Malmquist生産性指数は,日本農業における技術変化の研究で多く取り上げられており,生産性の変化を技術変化と技術効率性の変化(キャッチ・アップ効果)に分解することができる.Malmquist生産性指数は,ある経済主体が時間を通じ,どの程度変化したかを示す指標である.基準となる時点の技術水準を固定し,当該技術水準の下で各期の技術効率性により計測する1.第s期を基準としたMalmquist生産性指数は以下のとおり.

  
MIs=DCRS,s(χt,yt)DCRS,s(χs,ys) (1)

2期間の幾何平均をとると,

  
MIMIsMIt12 DCRS,s(χt,yt)DCRS,s(χs,ys)DCRS,t(χt,yt)DCRS,t(χs,ys)12 (2)

ここでMalmquist生産性指数を以下のように変形することで,次の要素に分解することができる.

  
MIDCRS,t(χt,yt)DCRS,s(χs,ys)DCRS,s(χt,yt)DCRS,t(χt,yt)DCRS,s(χs,ys)DCRS,t(χs,ys)12 =TECTC (3)

TECは技術フロンティアに近づいたことによる影響を示す指数である技術効率性であり,TCはフロンティア自身が変化したことによる影響を示す指数である技術進歩を表している.

3. 単位根検定による収束の検定

農業政策を考える上で,各地域の農業が傾向として同一方向へ進んでいるか,あるいは発散しているかは重要な問題である.本研究では山口・霍(2004)で用いられた方法により,収束性に関する検定を行う.具体的には,拡張されたディッキー・フラー検定(ADF検定)を用いて検定を行う.

  
モデル1Yt=ϕYt-1+j=1pγjYt-j+ut Yt=βYt-1+j=1pγjYt-j+ut (4)
  
モデル2Yt=μ+ϕYt-1+j=1pγjYt-j+ut Yt=μ+βYt-1+j=1pγjYt-j+ut (5)
  
モデル3Yt=μ+δt+ϕYt-1+j=1pγjYt-j+ut Yt=μ+δt+βYt-1+j=1pγjYt-j+ut (6)

ここで, β=1-ϕ, j=1pγjYt-j は拡張項,μは確定項,tはタイムトレンド(t=1, 2, 3, ...),jは拡張項の次数を表している.パネルデータを用いると計測期間が短いため検定力の低さが指摘されていたが,パネルデータに対応したパネル単位根検定を行う.(Levin et al., 2002; Im et al., 2003; Maddala and Wu, 1999).(以下,LLC検定,IPS検定,MW検定).LLC検定では,すべての経済主体に単位根があるか検定するものであり,帰無仮説が棄却されるとすべての経済主体の確率変数Ytが長期的にゼロに近づき収束することになる.IPS検定とMW検定では少なくとも1つの経済主体は収束していると考えられる.

4. 生産性の分析と収束結果

(1) 使用した統計データ

本研究でMalmquist 生産性指数の計測に必要なデータは,農林水産省の農産物生産費調査報告野菜生産費,農業経営統計調査野菜・果樹品目別統計である2.計測期間は減反政策以降である1972年から2007年までとし,変数の設定に関して生産物は各作物,生産要素は労働,資本,土地,経常財とした.生産物は各野菜の収穫量とし,資本と経常材は農業物価統計(平成22年基準)の価格指数で実質化した.労働は直接投下労働時間,資本は農機具費,建物費,土地改良費,賃借料・料金の合計とし,土地は作付面積,経常財は種苗費,肥料費,農業薬剤費,諸材料費とした.

また,個別の県ごとに得られるMalmquist生産性指数の計測結果を全国平均値等に集計する際に必要となるウェイトは,農林水産省の生産農業所得統計から対象都道府県の粗生産額を用いて計算した.対象作物は野菜生産出荷安定法に定められている指定野菜(さといも,じゃがいもを除く)であるきゅうり,キャベツ,だいこん,たまねぎ,トマト,なす,にんじん,ねぎ,はくさい,ピーマン,ほうれんそう,レタスの12品目(指定野菜)といちご(特定野菜)とした.

計測都道府県は以下のとおり.きゅうり(岩手,群馬,埼玉,長野,福島,宮崎),きゃべつ(愛知,神奈川,群馬,千葉,長野,兵庫),だいこん(北海道,神奈川,千葉,愛知,岡山),たまねぎ(北海道,愛知,大阪,兵庫,佐賀),トマト(福島,茨城,栃木,千葉,長野,愛知,福岡,熊本),なす(茨城,埼玉,京都,奈良,高知),にんじん(北海道,愛知,千葉,徳島,長崎),ねぎ(茨城,群馬,埼玉,千葉,静岡,鳥取),はくさい(茨城,群馬,長野,愛知,兵庫),ピーマン(茨城,岩手,高知,広島,宮崎),ほうれんそう(群馬,埼玉,千葉,愛知,徳島),レタス(岩手,茨城,長野,兵庫,香川),いちご(栃木,埼玉,三重,奈良,福岡).なお,計測および検定にDEAPVersion2.1及びEViews8を使用した.

(2) 野菜作生産性の計測結果

第2節で紹介した計測方法に従いMalmquist生産性指数による野菜作生産性の変化を計測し,各野菜の生産性の変化を確認した.表1の結果から野菜作平均について,全期間(1972年~2007年)を見ると野菜平均の野菜作生産性は0.98で2%(=(0.98−1)×100)減少した.そのうち技術効率性が1.00,技術変化が0.98に分解されるため,野菜作生産性の低下は技術進歩による.これは生産フロンティアが下方にシフトしたためであり,野菜作生産性は低下していることが明らかになった3

表1. 野菜作における生産性の変化
技術
効率性③
技術
変化②
生産性
変化
③=①*②
キャベツ 第1局面 1.00 0.99 0.99
第2局面 1.00 0.99 0.99
全期間 1.00 0.99 0.99
きゅうり 第1局面 1.02 0.95 0.97
第2局面 1.00 1.00 1.00
全期間 1.01 0.98 0.99
だいこん 第1局面 1.02 0.97 0.99
第2局面 0.99 1.00 0.99
全期間 1.00 0.99 0.99
トマト 第1局面 1.00 0.98 0.98
第2局面 1.01 1.09 1.10
全期間 1.00 1.00 1.00
なす 第1局面 1.00 0.93 0.93
第2局面 1.00 1.00 1.00
全期間 1.00 0.96 0.96
にんじん 第1局面 1.00 0.96 0.96
第2局面 0.99 0.97 0.96
全期間 0.99 0.98 0.97
ねぎ 第1局面 0.99 0.96 0.95
第2局面 1.03 0.97 1.00
全期間 1.00 0.98 0.98
はくさい 第1局面 1.00 0.97 0.97
第2局面 1.00 1.00 1.00
全期間 1.00 0.99 0.99
ピーマン 第1局面 1.00 0.97 0.97
第2局面 1.00 0.99 0.99
全期間 1.00 0.98 0.98
レタス 第1局面 1.00 0.99 0.99
第2局面 1.00 0.99 0.99
全期間 1.00 0.99 0.99
たまねぎ 第1局面 1.00 0.98 0.98
第2局面 1.00 0.99 0.99
全期間 1.00 0.99 0.99
ほうれんそう 第1局面 1.00 0.93 0.93
第2局面 1.00 0.95 0.95
全期間 1.00 0.97 0.97
いちご 第1局面 1.00 0.98 0.98
第2局面 1.00 0.98 0.98
全期間 1.00 0.98 0.98
野菜作平均 第1局面 1.00 0.97 0.97
第2局面 1.00 0.99 0.99
全期間 1.00 0.98 0.98

1)第1局面1972~1988,第2局面1989~2007.

品目別に全期間の生産性を見ると,トマトは1.00で変化がなかったものの,キャベツ,きゅうり,だいこん,はくさい,レタス,たまねぎは0.99であり,ねぎ,ピーマン,いちごは0.98となった.にんじん,ほうれんそうは0.97であり,なすは0.96と大きく低下していることがわかった.この結果は,Horie and Yamaguchi(2006)が都道府県のデータを用いた計測(計測期間1965~1995)において技術変化の低下が大きく,技術効率性に変化がなかった結果と整合的である.

次に計測期間を稲転作事業による転作田による野菜作生産が始まった1972年~1988年(第1局面)と,「食の外部化」が進展し漬物以外の原材料としての需要が増大するとともに,中国産を中心とした輸入野菜が増大した1989年~2007年(第2局面)に分けて野菜作生産性の分析を行った.転作による野菜作付けが増加した1972年~1988年(第1局面)の結果を見ると野菜平均の野菜作生産性は0.97で3%減少した.生産性を要因分解すると技術効率性が1.00,技術変化が0.97に分解されるため,野菜作生産性の低下は技術進歩によって説明される.よって生産フロンティアの下方シフトが確認された.1970年以降,野菜作に従事する生産者は減少し,著しい高齢化が進展した.このことで産地規模の維持が困難となり,育苗作業や選果以降のポストハーベスト作業を委託するなど営農形態の一部外注による経営費の増加が考えられる.品目別に野菜作生産性を見ると,たまねぎ,いちごが0.98,きゅうり,はくさい,ピーマンが0.97,にんじんが0.96,ねぎが0.95,なす,ほうれんそうが0.93となった.この結果から第1局面は技術効率性が維持されているものの,技術進歩が低下したため生産フロンティアが下方シフトし,生産性が低下したことがわかった.特にねぎ,なす,ほうれんそうの生産性低下が大きかったことが明らかになった.野菜需要の増加により,水稲から野菜へ転換が図られたものの,生産性は低下している結果が得られた.

次に輸入野菜が増大した1989年~2007年(第2局面)の結果を見ることにする.野菜作平均の生産性は0.99となっており1%減少した.生産性を要因分解すると技術効率性が1.00,技術変化が0.99に分解されるため,野菜作生産性の低下は技術進歩の停滞によって説明される.ここで注目すべきは,第1局面に比べ低下程度が鈍化したことであり,生産フロンティアの下方シフトに歯止めがかかり,生産性の低下が止まりつつある点である.労働力の減少と高齢化が進展する一方で,個別生産者の作付面積拡大が促進され,それぞれの産地規模は維持されている実態が明らかになっていることから,産地における上層農家への集約が進行している.

つまりフロンティアに近い生産者に集約されたことによって,技術変化の低下に歯止めがかかったと考えられる.品目別生産性を見ると,トマトが1.10,きゅうり,なす,ねぎ,はくさいが1.00,キャベツ,だいこん,ピーマン,レタス,たまねぎが0.99,いちごが0.98,にんじんが0.96,ほうれんそうが0.95となった.トマトは技術効率,技術変化ともに上昇しており,きゅうり,なす,ねぎの生産性も低下していない.これらの品目は野菜作平均生産性の低下をくい止めていると確認できた.

(3) 収束に関する検定結果

各野菜作について,(2)式で求められた野菜作生産性の変化が各都道府県で収束するか否かを計測する.山口・霍(2004)にならい,野菜作ごとに生産性が最も高い都道府県をベンチマーク4とし,その他の都道府県の指標がベンチマークである都道府県に収束するかを確認する.その他の都道府県の生産性との差をとり,以下のような確率変数を作成した.

  
Yt=Yit*-Ybt (7)

(7)式において, Yit* は各地域における作目別野菜作生産性の数値である.

背景となる収束のメカニズムだが,生産性等が低い地域が,高い地域にキャッチアップする傾向にあり,つまり生産性等が低い地域と生産性等が高い地域の差が縮まる傾向にあるということである.(4)式,(5)式,(6)式に(7)式で計測したYtを用いADF検定した結果,次のような結論を得た(表2).分析結果より,(7)式で表される確率変数はすべての野菜作で単位根を持たないことがわかった.またモデルⅡとモデルⅢが棄却される結果を得た.

表2. ADF検定による収束性の検定結果
β(1) β(2) μ(2) β(3) μ(3) t 結果
レタス 岩手 −1.31 *** −1.31 *** −0.01 −1.31 *** −0.02 0.00 絶対
茨城 −1.42 *** −1.59 *** −0.07 −1.58 *** −0.15 0.00 絶対
長野 −1.15 *** −1.15 *** −0.01 −1.15 *** −0.04 0.00 絶対
香川 −1.46 *** −1.46 *** 0.00 −1.19 *** 0.19 −0.01 絶対
ほうれんそう 埼玉 −1.02 *** −1.05 *** −0.05 −1.16 *** 0.11 −0.01 絶対
千葉 −1.05 *** −1.06 *** −0.04 −1.13 *** 0.08 −0.01 絶対
愛知 −1.25 *** −1.28 *** −0.05 −1.30 *** 0.03 0.00 絶対
徳島 −1.35 *** −1.37 *** −0.04 −1.41 *** 0.09 −0.01 絶対
ピーマン 茨城 −1.32 *** −1.38 *** −0.06 −1.44 *** −0.16 0.01 絶対
広島 −1.18 *** −1.30 *** −0.06 −1.51 *** −0.25 0.01 絶対
高知 −1.47 *** −1.62 *** −0.07 −1.44 *** −0.16 0.01 絶対
宮崎 −1.28 *** −1.28 *** −0.02 −1.30 *** −0.15 0.01 絶対
はくさい 茨城 −1.05 *** −1.07 *** 0.72 −1.07 *** 0.47 0.01 絶対
長野 −1.21 *** −1.21 *** −0.01 −1.23 *** 0.01 0.00 絶対
愛知 −1.04 *** −1.07 *** 0.68 −1.07 *** 0.48 0.01 絶対
兵庫 −1.09 *** −1.09 *** −0.01 −1.09 *** 0.01 0.00 絶対
ねぎ 茨城 −1.15 *** −1.15 *** −0.03 −1.15 *** 0.03 0.00 絶対
群馬 −1.19 *** −1.19 *** 0.01 −1.19 *** 0.00 0.00 絶対
埼玉 −1.52 *** −1.57 *** −0.03 −1.58 *** 0.07 0.00 絶対
鳥取 −1.89 *** −1.92 *** −0.03 −1.98 *** −0.10 0.00 絶対
静岡 −1.21 *** −1.23 *** −0.04 −1.24 *** −0.06 0.00 絶対
にんじん 北海道 −1.23 *** −1.28 *** −0.07 −1.34 *** −0.19 0.01 絶対
千葉 −1.59 *** −1.59 *** 0.01 −1.59 *** 0.05 0.00 絶対
愛知 −1.21 *** −1.21 *** 0.05 −1.21 *** 0.16 −0.01 絶対
徳島 −1.22 *** −1.24 *** −0.04 −1.24 *** −0.01 0.00 絶対
なす 茨城 −0.94 *** −0.95 *** 0.03 −0.96 *** −0.02 0.00 絶対
埼玉 −1.26 *** −1.27 *** 0.03 −1.27 *** 0.03 0.00 絶対
京都 −1.35 *** −1.41 *** 0.08 −1.45 *** −0.03 0.01 絶対
高知 −1.14 *** −1.16 *** 0.04 −1.15 *** 0.00 0.00 絶対
トマト 茨城 −1.14 *** −1.14 *** −0.08 −1.15 *** 0.22 −0.02 絶対
栃木 −1.19 *** −1.20 *** −0.07 −1.26 *** 0.24 −0.02 絶対
千葉 −1.26 *** −1.27 *** 0.09 −1.36 *** 0.62 −0.03 絶対
長野 −1.28 *** −1.29 *** 0.05 −1.39 *** 0.50 −0.03 絶対
愛知 −1.18 *** −1.21 *** −0.15 −1.21 *** −0.13 0.00 絶対
福岡 −1.34 *** −1.37 *** 0.13 −1.45 *** 0.64 −0.03 絶対
熊本 −1.16 *** −1.21 *** −0.17 −1.24 *** 0.09 −0.02 絶対
たまねぎ 愛知 −1.36 *** −1.40 *** −0.05 −1.41 *** −0.09 0.00 絶対
大阪 −1.34 *** −1.37 *** −0.06 −1.39 *** −0.13 0.00 絶対
兵庫 −1.17 *** −1.20 *** −0.05 −1.20 *** −0.10 0.00 絶対
佐賀 −1.31 *** −1.74 *** −0.07 −1.73 *** −0.09 0.00 絶対
だいこん 北海道 −1.23 *** −1.26 *** −0.04 −1.40 *** −0.20 0.01 絶対
千葉 −1.41 *** −1.43 *** −0.04 −1.45 *** −0.12 0.00 絶対
神奈川 −1.10 *** −1.10 *** −0.01 −1.11 *** −0.03 0.00 絶対
岡山 −1.15 *** −1.15 *** −0.01 −1.15 *** −0.02 0.00 絶対
きゅうり 岩手 −1.14 *** −1.14 *** 0.00 −1.15 *** −0.02 0.00 絶対
福島 −1.20 *** −1.22 *** −0.03 −1.26 *** −0.11 0.00 絶対
群馬 −1.11 *** −1.12 *** −0.01 −1.12 *** −0.01 0.00 絶対
埼玉 −1.31 *** −1.31 *** 0.00 −1.36 *** −0.04 0.00 絶対
宮崎 −1.25 *** −1.25 *** 0.01 −1.26 *** −0.02 0.00 絶対
キャベツ 群馬 −1.25 *** −1.30 *** −0.05 −1.34 *** 0.01 0.00 絶対
千葉 −1.19 *** −1.27 *** −0.07 −1.35 *** 0.05 −0.01 絶対
神奈川 −1.39 *** −1.43 *** −0.05 −1.47 *** 0.03 0.00 絶対
長野 −1.30 *** −1.33 *** −0.04 −1.88 *** 0.18 −0.01 絶対
愛知 −1.05 *** −1.12 *** −0.05 −1.15 *** 0.00 0.00 絶対
いちご 埼玉 −1.35 *** −1.36 *** −0.02 −1.38 *** −0.11 0.01 絶対
三重 −1.23 *** −1.28 *** −0.04 −1.28 *** −0.06 0.00 絶対
奈良 −1.27 *** −1.27 *** 0.04 −1.27 *** 0.03 0.00 絶対
福岡 −1.38 *** −1.38 *** −0.04 −1.37 *** −0.07 0.00 絶対

1)***は1%で有意,βは各モデルの係数,μは定数項,tはtime trendを表す.( )内数字はモデル番号.

つまりすべての野菜作においてモデルⅠに従い,生産性が最も高いベンチマークに絶対収束することが示された.農業(特に野菜作)は,各地域の気象や自然条件に合わせて栽培し,生産技術の開発をしている.立地条件は異なるが計測した府県は地域を代表する指定産地であり,この結果は長期的にみると生産技術は伝播し,同一方向へ変化することが示唆された.またLLC検定,IPS検定およびMW検定によるパネル単位根検定の結果(表3)から,すべての仮説検定のP値が1%以下となり単位根があるとする帰無仮説が棄却された.

表3. パネル単位根検定による分析結果
検定統計量 P値 ラグ
レタス LLC −10.42 0.00 1.00
IPS −8.34 0.00 1.00
MW 211.86 0.00 1.00
ほうれんそう LLC −9.07 0.00 1.00
IPS −7.25 0.00 1.00
MW 139.83 0.00 1.00
ピーマン LLC −10.33 0.00 1.00
IPS −8.32 0.00 1.00
MW 154.62 0.00 1.00
はくさい LLC −8.22 0.00 1.00
IPS −5.89 0.00 1.00
MW 132.32 0.00 1.00
ねぎ LLC −10.03 0.00 1.00
IPS −7.66 0.00 1.00
MW 197.56 0.00 1.00
にんじん LLC −9.24 0.00 1.00
IPS −7.20 0.00 1.00
MW 389.33 0.00 1.00
なす LLC −7.97 0.00 1.00
IPS −5.81 0.00 1.00
MW 179.92 0.00 1.00
トマト LLC −9.30 0.00 1.00
IPS −6.03 0.00 1.00
MW 239.98 0.00 1.00
たまねぎ LLC −10.97 0.00 1.00
IPS −9.62 0.00 1.00
MW 216.22 0.00 1.00
だいこん LLC −9.08 0.00 1.00
IPS −6.76 0.00 1.00
MW 188.56 0.00 1.00
きゅうり LLC −10.55 0.00 1.00
IPS −7.88 0.00 1.00
MW 351.16 0.00 1.00
キャベツ LLC −9.55 0.00 1.00
IPS −7.44 0.00 1.00
MW 224.09 0.00 1.00
いちご LLC −7.02 0.00 1.00
IPS −4.62 0.00 1.00
MW 152.31 0.00 1.00

1)LLCはLevin-Lin-Chu検定,IPSはIm-Pesaran-Shin検定,MWはMaddala-Wu検定.

つまり,(表2)の絶対収束の結果が頑健であることが確認された.

5. おわりに

本研究は野菜作の生産性を計量分析の側面から明らかにすることであり,Malmquist生産性指数による野菜作生産性を計測し,その収束を確認した.全期間(1972年~2007年)の野菜平均の野菜作生産性は0.98で2%減少し,そのうち技術効率性が1.00,技術変化が0.98に分解されるため,野菜作生産性の低下は技術進歩の停滞によることがわかった.稲転作事業による野菜作生産が始まった1972年~1988年(第1局面)と,「食の外部化」が進展し漬物以外の原材料の需要が増大し,輸入野菜が増大した1989年~2007年(第2局面)に分けて野菜作生産性の分析を行ったところ,第1局面(1972年~1988年)の生産性変化は0.97であり,そのうち技術効率性は1.00であり,技術変化は0.97であった.

また,第2局面(1989年~2007年)は生産性の変化は0.99であり,そのうち技術効率性は1.00であり,技術変化は0.99となった.よって第2局面においても生産性の低下は,技術変化によるものとわかった.両局面ともに,生産性が低下傾向にあるが第1局面に比べ,第2局面の技術変化の低下に鈍化が見られることが明らかになった.さらに生産性指数が野菜品目毎に収束するか否かを検定した.単位根検定の結果から,生産性指数は各品目において生産性が最も良好な都道府県に絶対収束する方向にあることが示唆された.

このことから,各品目の生産性は,傾向として同一方向に進んでおり,収束することから野菜作について地域別に異なる施策を講じる必要性は乏しいといえよう.本研究は2007年をもって終了したため,計測期間以降の実証分析はされておらず,直近の野菜作生産を明示するに至ってないが,計測結果から同様の傾向にあると推測される.稲作生産性の伸びが停滞しつつあるとされるなかで,野菜作生産性はすでに低下していることが示唆された点は注目される.また収束の検定によって絶対収束が確認された.

これらのことから生産性の高い地域が低下しながら,生産性の低い地域はキャッチアップされていることがわかった.地域間共通の農業政策を実施しながら,生産技術の開発が重要であることが明らかになった.今後の課題として,全要素生産性(TFP)をより適切に計測するため,multilateral生産性指数などindex number approachと比較検証する必要があると思われる5.またわが国の野菜作生産性を低下させた要因を詳細に分析し,総合生産性以外の指標も検討することは,今後の重要な研究課題である.

謝辞

神戸大学名誉教授の山口三十四先生に多くのご指摘,ご指導を頂きました.心より感謝の意を表します.

1  包絡分析法は,生産関数や費用関数の推定によって生産性フロンティアを求めるパラメトリックな方法と異なり,線形計画法(LP)を用いた最適化計算によって生産性フロンティアを求めるノンパラメトリックな方法である.よって技術後退を意味する生産性フロンティアの下方シフトは期間中にたびたび生じる現象であると推定している.

2  野菜は野菜生産出荷安定法に定められた品目を適用し,継続的にデータを得られる指定野菜12品目と特定野菜1品目としている.途中で生産費調査から品目別経営統計に調査変更されたが,連続した数値として計測した.作柄等の関係で欠測値があった場合,前年までの傾向を基に推計している.

3  生産経済学では,ラスパイレス指数,パーシェ指数,tornqvist指数など様々なタイプの指数が提案されている.これらの指数計測において,その生産活動が常に効率的であることが仮定されているが,これらの指数は生産技術が多入力多出力型のトランスログなどの何らかの生産関数で表現されている場合を仮定している.一方Malmquist生産性指数は特定の関数を用いないノンパラメトリックな手法であるため,生産フロンティアが下方シフトする場合がある.

4  各野菜のベンチマークとなる都道府県は以下のとおり.レタス:兵庫,ほうれんそう:群馬,ピーマン:岩手,はくさい:群馬,ねぎ:千葉,にんじん:長崎,なす:奈良,トマト:福島,たまねぎ:北海道,だいこん:愛知,きゅうり:長野,キャベツ:兵庫,いちご:栃木.

5  Malmquist 生産性指数にはdimensionality problemのため,サンプル・サイズが変数の数に比べて十分確保できない場合,生産フロンティアに不安定さが発生する(Suhariyanto and Thirtle, 2001).

引用文献
 
© 2019 地域農林経済学会
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