農林業問題研究
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個別報告論文
飼料用米・米粉用米の数量払い政策における標準単収値の設定実態とその課題
―地域農業再生協議会に対する全国悉皆調査からの接近―
小川 真如
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2020 年 56 巻 2 号 p. 38-45

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Abstract

In this study, a nationwide survey of standard yield values stipulating a subsidy system for quantity payments for feed rice and rice flour, has been conducted. There are three main findings. First, 61% of the regional agricultural revitalization councils have standardized the standard yields in their respective regions, with an average value of 513.3 kg/10 a. Second, in some regions standard yield values have been set to multiple types, depending on local conditions. Third, a case study has revealed a regional approach to setting multiple standard yields, replacing the previous efforts of rice production adjustment.

1. 課題設定と目的

飼料用米と米粉用米に対する現行の政策的支援は,「水田活用の直接支払い交付金による戦略作物助成」(以下,「戦略作物助成」と略す.),「産地交付金」,「県や市町村の単独助成」,の主に3つである.このうち,戦略作物助成は,最も金額水準が高く,農業経営体による飼料用米・米粉用米の生産を成立させる最も重要な経済的条件である.

戦略作物助成では,一括管理と区分管理という生産方式があり,交付単価は標準単収値を用いた計算式で決定される.一括管理の場合は,指定した圃場から標準単収値の数量を指定の用途(飼料用,米粉用)に出荷することで80,000円/10 aが支払われる.指定した圃場の収量が標準単収値に満たない場合には,他の圃場から生産した米による数量の埋め合わせが必要であり,一方で収量が標準単収値を上回った場合には,上回った数量を主食用米等として出荷することができる.区分管理の場合は,標準単収値の収量であれば80,000円/10 aの交付金であるが,収量に応じて数量払い(傾斜167円/kg)される.数量払いは標準単収値の±150 kg/10 aまで設定されており,交付単価は55,000~105,000円/10 aである.

このように,飼料用米と米粉用米に対する戦略作物助成では,一括管理と区分管理の生産方式の違いに関係なく,標準単収値が交付金額を規定しているのである.

この標準単収値は,地域の合理的な単収に作況変動(ふるい目1.70 mm以上の当年単収÷ふるい目1.70 mm以上の平年単収)を乗じて算出する.この際,地域の合理的な単収の設定方法は各地域農業再生協議会に裁量がある.

標準単収値に規定される交付金体系は,2014年産からの数量払いに伴って導入されたものである.もともと,飼料用米や米粉用米の振興に当たって,全国統一的な単収水準も検討されたが,2013年産までは80,000円/10 aの面積払いが行われた.こうした経緯について大澤誠(2012年当時,農林水産省大臣官房政策課長)は,「全国統一的な単収を設定したりして基準をつくるということが現実に合うかどうかを調べた結果,いま一つ自信がもてないというところですので,当分の間は面積払いにしようということが考え方としてあったと聞いております」(全農林労働組合,2012:p. 23)と述べている.

また,研究では飼料用米について宮田(2010)が,面積払いが単収向上に結び付いていないことを指摘した.政府は2014年度に数量払いを導入し,農林水産省パンフレット「経営所得安定対策等の概要」にて「努力が報われる仕組みだね!」等と示しながら,単収向上が交付金増加につながる仕組みであるとして数量払いの政策枠組みを説明してきた.

数量払いに伴い設定されることとなった標準単収値であるが,標準単収値に着目した既往研究は手薄である.

とはいえ,小川(2017)は,標準単収値の設定値が飼料用米の収益性や,低単収圃場における耕境変動や地代に影響する可能性を指摘しており,数量払いが,捨て作りの防止や個別経営による単収向上の努力を評価することを目的とするならば,制度運用上,農業共済組合が保有する1筆単位の単収データの活用が必要と指摘した.また,鵜川他(2019:p. 64)は「数量払い方式の見直しでは標準単収のあり方がポイントになると想定される」と言及している.

このように現行政策の評価・検討を行う上で,標準単収値のあり方は重要な論点の一つと考えられるが,議論のベースとなる標準単収値の現状は,公表事項ではなく先行研究もないことから把握されていない.例外的に,小川(2017:p. 450)が「西日本のある市で…〔中略〕…全101区分(418~547 kg/10 a)と120 kg以上の差を設けて中山間地域と平場で公平な制度に修正している」と事例を指摘しているが,全国的動向は明らかでない.

そこで本研究では,地域農業再生協議会に対する調査から,標準単収値の設定状況を明らかにし,現行政策が現場段階でどのように運用されているのかを明らかにし,標準単収値をめぐる問題の所在を析出することを目的とする.

なお,各地域段階の農業再生協議会の呼称は多様性があるが,本研究では表現を基本的に「地域農業再生協議会」に統一し,例外として事例分析はそれぞれの組織名に従って表記する.

2. 分析方法

本研究では,全国の地域農業再生協議会に対してアンケート形式の悉皆調査を行い,その結果を踏まえて特徴的な調査対象については聞き取り調査を実施し,標準単収値の設定の現状を明らかにする.

アンケート調査は,郵送アンケート方式によって行い,農林水産省が公表する地域農業再生協議会の全1,471窓口に対して配布した.無効回答はなく,有効回答985(うち無回答は91)であった.なお,有効回答数は合併前の地域農業再生協議会単位で回答して提出された2件分,および,1つの窓口で3つの地域農業再生協議会を担当しているケースから回収した3件分を含む値である.

分析対象となる985の地域農業再生協議会について,標準単収値を統一して1つ設定している場合を「統一設定」,複数設定している場合を「複数設定」として整理し,分析を進める.

回収されたアンケート調査票について,その数と構成比を示すと,「統一設定」が600(61%),「複数設定」が113(11%),「その他」が181(18%),「無回答」が91(9%)であった.

3. 標準単収値の設定状況

(1) 設定状況別の地域概況

標準単収値の設定方法の差異について,水田面積に着目して整理した(表1).本研究の分析対象では,飼料用米51,021 ha,米粉用米3,668 haの生産地域を捕捉しているといえる.これは全国の生産面積85,000 haの64%に相当する.

表1. 標準単収値の設定別にみた米粉用米・飼料用米の生産面積(2018年度) (ha)
飼料用米 米粉用米 飼料用米+米粉用米 全国シェア 分析対象中のシェア
全国 80,000 5,000 85,000 100%
分析対象 51,021 3,668 54,689 64% 100%
統一設定 36,563 2,070 38,633 45% 71%
複数設定 12,960 1,454 14,414 17% 26%
その他 1,038 128 1,166 1% 2%
無回答 460 16 476 1% 1%

資料:全国の値は農林水産省「2018年産の水田における作付状況」(2018年9月15日現在),分析対象の値はアンケート調査結果および農林水産省「地域農業再生協議会別の作付状況」(2018年9月28日)の値を積み上げて筆者作成.

分析対象について,標準単収値の設定別にみると,「統一設定」が生産面積でも大きな割合を占めており71%である.次いで「複数設定」が26%であった.

前述したように,地域農業再生協議会数では「その他」と「無回答」が18%,9%と無視できない割合であったが,生産面積で整理した表1では,それぞれ2%,1%と,極めて低い割合となっている.

これは,表に示していないが,「その他」とした地域農業再生協議会181のうち,84%に当たる152において,飼料用米や米粉用米の生産がないため設定していないと回答をしていることからも確認できる.同様に,「無回答」とした地域農業再生協議会の中には,飼料用米や米粉用米の生産がないため回答しなかったというケースが多いものと考えられる.

以上より,2018年産の飼料用米および米粉用米は,約7割が「統一設定」の地域,約3割が「複数設定」の地域で生産されたものと推定される.

(2) 標準単収値「統一設定」の特徴

統一設定の場合の標準単収値を,市町村別と都道府県別の米単収と比較して表2に示した.

表2. 標準単収値(統一設定)と市町村別単収 (kg/10 a)
標準単収値(統一設定)の地域 2017年産米単収(市町村) 2017年産米単収(都道府県)
データ数 590 1,549 47
最小値 395 100 301
最大値 663 683 629
平均 513.1 508.3 515.4
標準偏差 42.0 54.4 47.6
変動係数 0.08 0.11 0.09

資料:アンケート調査結果および農林水産省「作物統計調査」より筆者作成.

1)市町村は,「事実のないもの」および「統計数値を公表しないもの」を除く1,549市町村を対象とした.

平均値は標準単収値が513.1 kg/10 a,市町村別単収が508.3 kg/10 a,都道府県別単収が515.4であり,その差は極めてわずかである.併せて,変動係数にも大きな差はみられない.

標準単収値は非公表事項であることを踏まえて,アンケート調査では回収率向上のため,「統一設定」に関する細かな理由や設定方法を設問項目としなかったため詳細な実態は不明である.とはいえ,「統一設定」された標準単収値が,市町村別単収や都道府県別単収と大きな差がみられないことから,その設定方法は,各地域の当年単収値や平年単収値等といった,市町村別単収や都道府県別単収と整合的なデータを基に算出されているものと考えられる.

(3) 標準単収値「複数設定」の特徴

「複数設定」のうち,標準単収値の種類数,最大値,最小値を回答した91の地域農業再生協議会について,標準単収値の種類数と,最大値と最小値の差(レンジ)を図1に示した.白丸で示した地域農業再生協議会は4節で取り上げる事例を示している.

図1.

標準単収値(複数設定)の種類数とレンジ

資料:表1と同じ.

1からは,標準単収値の種類数が増えるほどレンジが大きくなる傾向が指摘できる.また,種類数は10種類未満が多い一方,100種類を超える地域も複数存在しており,設定の種類数は多様である.

具体的には,2~10種類が63地域農業再生協議会でレンジの平均が61 kg/10 a,11~100種類が21地域農業再生協議会でレンジの平均が114 kg/10 a,101~1000種類が7地域農業再生協議会でレンジの平均が192 kg/10 a,であった.

複数設定した理由について,アンケート調査では回収率向上のため細かな設問項目とせず,先行研究の知見を参考に選択肢①「協議会の対象範囲が広く,地区ごとに単収の差が大きいから」,選択肢②「低単収な地域や圃場でも飼料用米や米粉用米の生産が不利にならないようにするため」,選択肢③「その他」,大まかな選択肢(複数回答可)を設定した.その結果,選択肢①が最も多く84,選択肢②が23,選択肢③は27であった.「複数設定」する地域農業再生協議会では,管内の地理的範囲が広いことを理由にしている場合が多いといえる.

管内の地理的範囲が広いことによって地域内での単収のばらつきが出やすいことも想定されるため,選択肢①と選択肢②は類似した内容であるともいえるが,選択肢①を選択した地域農業再生協議会の75%に当たる63が選択肢①のみを選択しており,選択肢①②を両方選択した地域農業再生協議会が15にとどまった.このように,管内の地理的範囲が広い場合でも,単収差に対する条件不利補正が必ずしも意識されていない場合が多いといえる.一方で,選択肢②を単独で選択した地域農業再生協議会は7あり,低単収な地域や圃場でも飼料用米や米粉用米の生産が不利にならないように意識的に条件不利補正されている地域があることが確認できる.

また,選択肢③「その他」を選んだ調査対象のうち,その詳細を自由記述解答した27について整理したところ,市町村別,地区・集落別,経営体別,品種別,栽培方法別,等の設定方法のあることが明らかになった.具体的には以下の通りである.

市町村別の場合は,市町村単位で統一した標準単収値を設定する方法であり8地域農業再生協議会から回答を得た.数値の決定は,農政局や都道府県,都道府県農業再生協議会が示す単収値を用いるとしている.こうした方法は,「統一設定」と同様であるが,地域農業再生協議会が複数市町村を含むため結果的に複数設定になったケースといえる.

地区・集落別の場合は,8地域農業再生協議会から回答があり,とくに中山間地域と平場地域との単収条件格差の是正を理由としている.また,より細かく経営体別に設定する地域農業再生協議会では,対象戸数の多さや経営体ごとに単収が異なることを理由に挙げていた.

栽培に関しては,1地域農業再生協議会ではあるが,品種別(うるち品種,もち品種)に設定する場合があるほか,栽培方法(慣行栽培,有機栽培,直播栽培,湛水栽培)ごと標準単収値を設定する地域農業再生協議会が3あった.

以上の設定方法は,それぞれ単独ではなく,組み合わせて設定される場合も確認された.

(4) 「統一設定」と「複数設定」の比較

本節(1)~(3)を整理すると,現行政策において標準単収値は,各地域農業再生協議会が定めることとされているなか,運用実態では「統一設定」と「複数設定」に大別されるといえる.

このうち,「統一設定」および市町村別で「複数設定」する場合には,農政局や都道府県,都道府県農業再生協議会が示す市町村別単収等のデータを標準単収値の算出にそのまま活用していると考えられる.

他方,市町村別での設定を除く「複数設定」の場合では,地区・集落,圃場,生産者,品種,栽培方法等の単収差につながる要素に着目し,その上で,これらの差異による単収格差の是正しようと「複数設定」するケースがみられた点が特徴である.

いずれの場合も,各地域農業再生協議会が標準単収値を定めており,運用上の問題はないものの,標準単収値の算出に当たっては,既存データを受動的に使用する場合と,生産条件の不利を是正しようと能動的に設定している場合の2通りがあるといえる.

前者について,例えば,標準単収値の設定方法を「その他」と回答した地域農業再生協議会の中には,「県で設定する」,「県に設定させられる」と回答した地域農業再生協議会もあり,都道府県段階の方針を受動的に受け止めている地域農業再生協議会が存在している実態がある.

すなわち,現行政策において標準単収値の設定方法は各地域農業再生協議会に裁量があるものの,各地域農業再生協議会が必ずしも自律的に標準単収値を設定しているわけではないといえる.また,こうした状況が,「統一設定」および市町村別で「複数設定」する場合に行われていると仮定すれば,「統一設定」の地域で生産された飼料用米・米粉用米が約7割を占める現状において,ほとんどの地域農業再生協議会が自律的に標準単収値を設定しているわけではないといえる.

以上より,「複数設定」は特殊なケースと考えらえるが,その実態を明らかにするため,4節では,図1にて特に種類数の多い,いわき市地域農業再生協議会,鶴岡市農業再生協議会,北陸地方X地域農業再生協議会の事例,および設定方法において旧市町村別と集落別を組み合わせる特徴をもつ小城市農業再生協議会の事例に着目する.これらの事例は,「統一設定」および市町村別で「複数設定」する地域農業再生協議会が多い中で,限定的な事例であり,「複数設定」の場合の特徴がより表出しやすいと考えて選定したものである.

4. 4事例にみる標準単収値の複数設定の詳細

(1) 事例調査対象の概況

事例調査の調査対象の概況と,標準単収値の設定状況を表3に示した.

表3. 事例調査の対象と結果
いわき地域農業再生協議会 鶴岡市農業振興協議会 小城市農業再生協議会 X地域農業再生協議会
範囲(属人) 福島県いわき市内 山形県鶴岡市内 佐賀県小城市内 北陸1市町村内
転作状況 転作① 816 ha 3,665 ha 1,058 ha 1,849 ha
飼料用米・米粉用米② 570 ha 527 ha 66 ha 364 ha
①/② 69.9% 14.4% 6.2% 19.7%
標準単収値 種類 733種類 174種類 14種類 426種類
最大値③ 603 kg/10 a 611 kg/10 a 554 kg/10 a 577 kg/10 a
最小値④ 403 kg/10 a 304 kg/10 a 457 kg/10 a 352 kg/10 a
③−④ 200 kg/10 a 307 kg/10 a 97 kg/10 a 225 kg/10 a
標準単収値の設定 単位 農事組合 農業経営体 地区・集落 集落
設定方法 農業共済が設定する農事組合別単収にふるい目補正等を行う2).農政局が提示する単収や作況を踏まえて補正. 農業経営体別の前年の水稲作付圃場ごとに,農業共済組合が設定する収量等級(1筆単位)から加重平均値を算出し,ふるい目補正(1.8 mm→1.7 mm)して算出.農政局が提示する単収や作況による補正. 旧小城町,旧三日月町は集落単位で算出し,旧牛津町,旧芦刈町は旧町単位で設定.農業共済組合が設定する集落単収の値に,ふるい目補正(1.8 mm→1.7 mm)し,農政局が提示する単収や作況による補正. 農業共済組合が設定する集落単収を用いて算出した後,農政局が提示する単収や作況による補正.
背景・理由 市が広域,かつ高低差が大きいため,主食用米の配分を農事組合別に算出していた.米粉用米・飼料用米は,主食用米に準じて農事組合別に設定. 2005年に1市4町1村が合併した際に,米生産調整の不公平感を解消するため農業経営体別単収を導入.米粉用米・飼料用米は,主食用米に準じて農業経営体別単収を設定. 中山間地域と平場地域や,集落別の生産性格差を踏まえて設定.2005年に4町が合併した際に,各町の主食用米の配分方法が引き継がれた.米粉用米・飼料用米は,主食用米に準じて地区別・集落別に設定. 中山間地域と平場地域や,集落別の生産性格差を踏まえて設定.

資料:転作状況は農林水産省「地域農業再生協議会別の作付状況」(2018年9月28日公表)より筆者作成.その他は,アンケート調査結果および各地域農業再生協議会事務局)への聞き取り調査結果より筆者作成.

1)転作面積は,加工用米,備蓄米,新規需要米,麦,大豆,飼料作物,ソバ,ナタネの基幹作物を合計した作付面積である.農林水産省「地域農業再生協議会別の作付状況」のデータの特徴は,表2注2を参照されたい.

2)詳しい計算式は,本文中に記載した.

転作状況でみると,標準単収値が最も多いいわき市地域農業再生協議会では,飼料用米と米粉用米が転作の69.9%を占めており特徴的である.これは東日本大震災の被災圃場での飼料用米生産が推進されていることも背景にあるため例外的と考えられるが,その他の事例のみを比較した場合でも,標準単収値の種類が多いほど,転作に占める飼料用米と米粉用米の割合が高い.

もっとも,「統一設定」の場合でも,これら4事例よりも飼料用米や米粉用米による転作が盛んな地域があるため,標準単収値の種類数が多いほど飼料用米や米粉用米による転作が進みやすいとはいえない.とはいえ,本研究での事例調査対象に限れば,同じ「複数設定」の場合でも標準単収値の種類が多いほど,飼料用米と米粉用米による転作が進む割合が高い傾向が示唆される.

(2) 標準単収値の設定方法にみる各事例の共通点

標準単収値の設定方法は,それぞれ異なるが,方法や背景・理由には共通点がみられる.

まず,設定方法の共通点は,①農業共済組合のデータ活用,②ふるい目補正,③農政局の提示する単収と一致するよう補正,という点である.

具体的な計算方法は事例によって異なるが,たとえばいわき市地域農業再生協議会においては,いわき市の平均収量(7中5)に,「統計補正係数」を乗じて補正した単収値を「ふるい目換算後単収値」で除して算出する.この際,統計補正係数とは合理的単収を算出するためのものであり,当年産地帯別(福島県浜通り)の平年収量から作柄表示地帯別(福島県浜通り)収量(7中5)を除したものである.また,ふるい目換算後単収値は,農業共済組合が定める農事組合別の水稲共済単収から,(1−地域別の1.7~1.8 mmの平均重量割合)を除して求めている.

次に,標準単収値を「複数設定」する背景・理由の共通点は,①地域間の生産性格差の補正,②主食用米での取り組みに準じた設定,という点である.

例えば,鶴岡市農業再生協議会の場合,2005年に1市4町1村が合併した際に,米生産調整に伴う主食用米の配分をめぐって市で統一した単収値に基づく配分はもちろん,旧市町村別単収値で配分を行うと不公平感があるため,農業経営体別単収に基づいて配分することにした経緯がある.米粉用米・飼料用米は,こうした主食用米の配分をめぐる設定方法に準じて農業経営体別に標準単収値が設定されている.算出方法も稲作の生産実績と農業共済組合が設定する収量等級に基づく加重平均値を用いており,生産圃場・面積の実態に即した値に設定されている.

また,小城市農業再生協議会では,2005年に4町が合併した際に,各町の主食用米の配分方法が引き継がれ,平場地域であり単収格差の少ない旧牛津町,旧芦刈町は旧町単位で算出し,中山間地域を含む等,単収格差が大きい旧小城町,旧三日月町は集落単位で算出することとなって現在に至る.この方法を米粉用米・飼料用米にも応用したため,主食用米の配分と同様に,標準単収値は旧町別と集落別の設定方法が並存している.

以上のように,調査対象の4事例においては,いずれも米粉用米・飼料用米の数量払いに伴って独自に標準単収値の設定方法を決めたものはなく,主食用米の配分をめぐる生産者間の不公平感を是正する従来の取組の延長として複数の標準単収値が設定されていることが実態調査から明らかになった.

5. 結果と政策的含意

(1) 本研究の結果

本研究の結果,標準単収値を「統一設定」している地域農業再生協議会は61%であり,平均値は513.1 kg/10 aであった.他方,標準単収値を複数種類に設定した地域において,最高値と最低値の差は,2~10種類が平均61 kg/10 a,11~100種類が平均114 kg/10 a,101~1000種類が平均192 kg/10 a,であり,幅広い単収値に対応するほど標準単収値の種類数が増える傾向がみられた.

こうした標準単収値の設定は,いずれも現行政策に従って各地域農業再生協議会が定めているものであるが,その実態は受動的に設定しているケースと,能動的に設定しているケースに大別されることが,アンケート調査結果から明らかとなった.

後者については,標準単収値の設定方法やその背景について,市町村別,地区・集落別,経営体別,品種別,栽培方法別,等による単収条件格差の是正を目的としていることが,アンケート調査結果および聞き取り調査した4事例の結果より明らかになった.この際,事例分析の結果として特徴的な点は,主食用米の配分をめぐる生産者間の不公平感を是正する従来の取組の延長として標準単収値が「複数設定」されている点である.

4事例は,主食用米の配分をめぐる従来の取組として,農業経営体への配分量を算出する際に用いる単収値を統一して設定するよりも,より細かく地区別や圃場別に設定することで,農業経営体間の不公平感を是正してきた地域であり,その方法に準じて標準単収値が設定されていたのである.

市町村別に「複数設定」する場合に加えて,これら4事例が「複数設定」に至る経緯が一般的であるならば,標準単収値を能動的に「複数設定」するケースは一般的に,飼料用米と米粉用米に対する数量払いの導入を機に,標準単収値の算出方法を検討したものではなく,従来の主食用米の配分方法を援用して「複数設定」しているケースが少なくないと推察される.

(2) 政策的含意

本研究では,標準単収値の設定実態として,「統一設定」や市町村別の「複数設定」のように,市町村単位程度の面的広がりで設定されているケースが多いことが明らかになった.「複数設定」は,飼料用米と米粉用米の生産面積シェアにおいて26%占めるが,このうち市町村別に「複数設定」しているケースを除けばさらにシェア率は低くなると考えられ,飼料用米と米粉用米の生産の現状として,約7~8割は市町村単位程度の面的広がりで設定されているものと考えられる.

こうした実態は,大澤が全農林労働組合(2012:23)で述べたような,かつて農林水産省で検討された全国統一的な単収設定というほど画一的ではない.とはいえ,個別の農業経営体にとって,市町村単位レベルで標準単収値が画一化されることは,地区・集落,経営体,品種,栽培方法の差異を要因とする単収格差を背景とした交付金受給額の格差が配慮されにくい制度的条件となっていることを指摘できる.

例えば,聞き取り調査した4事例において,標準単収値が最大値となる最優良地と,逆に最小値となる最劣等地とでは,標準単収値の設定方法の違いにより受給する交付金額は異なる.これを試算したのが表4である.ここでは,アンケート調査結果を踏まえて,2017年産米主食用米単収で標準単収値を「統一設定」した場合と,各地域で実際に2018年産において「複数設定」された標準単収値を用いて,現行の数量払い(区分管理)の交付金額(数量払いの傾斜167円/kg,交付上下限55,000~105,000円/10 a)を踏まえて算出した.なお,ふるい目補正等は無視し,単純に補助金と標準単収値との関係を示している.

表4. 単収実績と標準単収値が一致した場合の受給交付金額 (10 a当たり)
いわき地域農業再生協議会 鶴岡市農業振興協議会 小城市農業再生協議会 X農業再生協議会
2017年産主食用米単収(①) 510 kg 590 kg 549 kg 540 kg
2018年産標準単収値(②) 403~603 kg 304~611 kg 457~554 kg 352~577 kg
標準単収値が②の最大値,単収が②の最大値の場合(A) 80,000円 80,000円 80,000円 80,000円
標準単収値が①,単収が②の最大値の場合(B) 95,531円 83,507円 80,835円 86,179円
A−B −15,531円 −3,507円 −835円 −6,179円
標準単収値が②の最小値,単収が②の最小値の場合(a) 80,000円 80,000円 80,000円 80,000円
標準単収値が①,単収が②の最小値の場合(b) 62,131円 55,000円 64,636円 55,000円
a−b 17,869円 25,000円 15,364円 25,000円

資料:表3と同じ.

最優良地で生産する場合は,「複数設定」の方が「統一設定」と比較して交付金額は低下する.他方,最劣等地で生産する場合には,「複数設定」の方が「統一設定」と比較して交付金額は増加する.このように「複数設定」は同じ市町村内の中でも単収条件が不利な圃場に考慮された交付金額に是正されている.例えば,鶴岡市やX農業再生協議会は「複数設定」することによって,「統一設定」した場合と比較して,25,000円/10 aに相当する支援措置になっていると指摘できる.

以上を逆に考えていくと,「複数設定」ではなく「統一設定」することで,より高単収な圃場ほど交付金の受給額が増加する.例えば,いわき市において「統一設定」された場合には,最優良地では前年の主食用米単収の水準を収穫しても95,531円/10 aを受給できるのに対して,再劣等地では前年の主食用米単収の水準を収穫するだけでは62,131円/10 aにしかならず,単収格差が交付金額の差額33,400円/10 aに反映されるのである.

したがって,全国の地域農業再生協議会のうち約7~8割は市町村単位程度の面的広がりで設定されていると考えられることを踏まえるならば,現状では,より生産性が高い圃場,地区での飼料用米や米粉用米の生産振興に貢献しているのである.このため,より広域な標準単収値の統一は,高単収地域において飼料用米や米粉用米が,他の米と競合したり,低単収地域における飼料用米や米粉用米の生産が阻害されたりしている要因の一つであると指摘できる.

また「複数設定」の場合には,従来の主食用米生産時の単収格差が,飼料用米や米粉用米生産による交付金受給を介して条件不利性が緩和されていると考えられ,耕境に近い最劣等地の圃場や,収益性や地代に影響を与えていると考えられる.

以上のように,努力が報われる仕組みとして謳われる数量払いであるが,「統一設定」の場合,平年並みに生産した際の交付金額が個別経営間で異なるため,同じ交付金額を得る場合でも求められる努力の程度や,制度的環境が異なる.数量払いは,捨て作りの抑制や個別経営の増収意欲の促進といった個別経営レベルに焦点が当てられている一方で,現場の標準単収値の設定方法いかんによって地域選別的な側面ももつのである.

こうした特徴を持つ標準単収値について,国は設定方法を各地域に委ねている.このため,どのような圃場で飼料用米や米粉用米を振興するかを検討することが各地域に問われている構造といえる.

本研究の分析結果より「統一設定」が全国的に多いことや,「統一設定」の場合,劣等地よりも優等地の方が飼料用米や米粉用米の生産に取り組みやすい制度的環境であることが明らかとなった.

他方で,標準単収値の設定は耕境における営農継続条件にも直結する.地域農業再生協議会が主体となり標準単収値を細かく「複数設定」することによって,圃場や地区の間の生産性格差が戦略作物助成の交付額に影響を与えないように補正することが可能であり,農家の単収向上の努力を優等地から劣等地まで公平に評価する制度として戦略作物助成を運用できる.標準単収値について,「複数設定」する4事例では,従来の主食用米の配分方法を援用して設定されていたが,不作付け水田を課題とする地域では,劣等地の水田保全・活用の観点を取り入れた戦略的な設定も検討されてよいと考えられる.

付記

本研究はJSPS科研費(19K15933)の研究成果である.

引用文献
  •  鵜川 洋樹・ 高津 英俊・ 山本 麻貴(2019)「飼料用米生産における数量払い導入と単収変動」『農業経営研究』57(2):59–64.
  • 小川真如(2017)『水稲の飼料利用の展開構造』日本評論社.
  •  宮田 剛志(2010)「モデル対策下の飼料用米・飼料用稲の到達点と課題」『農業と経済』76(13):29–39.
  • 全農林労働組合(2012)「研究会:平成23年度食料・農業・農村白書をめぐって」『農村と都市をむすぶ』62(8):4–49.
 
© 2020 地域農林経済学会
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