農林業問題研究
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個別報告論文
集落における畦畔管理請負の組織づくりと展望
木原 奈穂子中塚 雅也
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2020 年 56 巻 2 号 p. 70-75

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Abstract

The continuity and efficiency of work management of the ridgeways between rice fields have become major issues in Japan. Labor for managing the ridgeways is in short supply, making it necessary to simplify processes, and improve efficiency. Additionally, ridgeways are essential for preserving rural areas and maintaining the landscape; the labor shortage creates problems of maintenance of the area. This study investigated the process of establishing organizations to undertake the management of ridgeways in villages. Consequently, the following three key aspects were identified: 1) Smooth communication between stakeholders, 2) setting of acceptable costs, and 3) improvement of the operation through gradual structuring. Additionally, we found that it was possible to acquire new stakeholders such as non-farmers in the village, thereby making it possible to employ people for maintaining the ridgeways by creating an organization.

1. 背景と課題

(1) 背景

近年,草刈りを中心とした畦畔管理作業の継続性と効率化が農村集落および担い手農家の共通課題となっている.背景には,農家の高齢化とそれに伴い推し進められている担い手への農地集積がある.夏場を中心とする草刈り作業は過酷な重労働であるため,高齢農家には大きな負担となっており,時に,その作業負担は離農の要因ともなっている.一方,耕作や管理が出来なくなった集落の農地などを集約する基幹的な担い手農家は,農地の増加に併せて増える畦畔管理作業に対応できるほど労働力を確保することは難しく,米価が低迷する中,その作業コストを内部化する経営的余裕もない.そのため地権者による草刈り実施を農地賃貸借上の条件に盛り込んだり,草刈り作業の質や量を下げて効率化を図ったりするような対応が見受けられる.しかしながら,このような草刈り作業の簡略化や効率化は,地権者と担い手農家の畦畔管理に対する意識の違いを露呈させ,互いに苦情や要求を言い合うような状況に至る場面も少なくない.

こうした問題に対して,草刈り機など作業機械の改良をはじめ,機械や管理技術面の改善・革新に関しては多く研究され,かつ実践もなされている.

一方,畦畔管理を担う主体に関しては,担い手農業者の経営の変遷とともに変化してきたといえよう.例えば,金子(2007)が集落営農を事例に指摘するように,地縁や血縁関係を基に畦畔管理の作業者を確保してきた.また,細山(2010)などでは,畦畔の管理作業が農業法人や集落営農といった担い手農業者から地権者に再委託される傾向にあることが指摘されている.

さらに近年では,地権者の高齢化により畦畔管理作業の再委託が困難な場合などにおいて,地権者のみならず小規模農家や集落営農等の農業者が受託する例の他,非農家が作業を担う例が取り上げられ,それぞれの特徴や課題等がまとめられている.例えば八木・芦田(2012)では,小規模農家・非農家と大規模経営とが所得向上の面からも補完関係にあることを,竹山他(2013)では,農地を集約する集落営農型法人が,近隣農家へ畦畔管理を再委託するといった作業再委託方式があることを示している.

これらの既往研究は,農業者だけではなく非農家も含めた主体が畦畔管理の担い手となることを示唆している.同時に,いずれの場合においても,農地の借り手である農業者を主体とし,地権者等との個人的な調整によって畦畔管理作業に対応してきたことが分かる.

しかし,これまで作業を請け負ってきた地権者等も,上述の通り,高齢化等により草刈り作業を担い難い状況にあり,草刈り作業の担い手確保が困難になりつつある.そこで筆者らは,市レベルで形態の異なる畦畔管理受託組織の併存とその運営の実態や課題を明らかにするとともに,集落等のレベルでの請負組織の設立を促進し,その担い手人材を育成する必要性を指摘したが(木原・中塚,2020),その具体的な方法は課題としたままである.地域側が主体となり,組織化することにより,借り手農業者と役割分担しながら,人材を確保する新たな地域システムの構築が望まれるが,実践事例もほとんど確認されず,研究上も十分な議論がなされていない.

(2) 本研究の課題

そこで本研究では,先進的に,地域が主体となった地域ぐるみの畦畔管理請負組織を集落レベルで自主的に結成し,農地を集約利用する大規模農家との補完関係を構築している事例を取り上げ,次の2つの課題を設定する.

まず1つは,畦畔管理を地域ぐるみで担う畦畔管理請負組織がどのようなプロセスを経て,どのように運営されているのかを明らかにすることである.次に,そのような組織・運営の特徴を示すことで,畦畔管理を担う組織づくりの要点を考察する.以上により,地域が主体となった新しい畦畔管理の仕組みの方向性を提示することが本研究の目的である.

2. 研究の対象と方法

(1) 調査対象地域および事例対象

調査対象地域としたのは,兵庫県丹波篠山市今田町の休場集落である.丹波篠山市は,特産品である黒大豆を転作作物とする水田農業を基礎としている.盆地地形のため,中山間地と平地とが混在している上に,多様な雑草が繁茂しやすい気候であるため,畦畔の維持管理が煩雑になりやすい.また,京阪神の主要都市から1時間程度の距離に位置する農村であるため,兼業農家によって農業が維持されているが,近年ではUターン者やIターン者も増えている地域である.

当該地域の西部に位置する休場集落は,約15 haの農地を有し,それらの農地を25名の地権者が保有している.丹波篠山市内でもっとも農地流動化が進んでいる地域の一つであり,集落内の10名程度の小規模農業者と集落外で休場集落の農地を借りて耕作している小規模農業者,集落内で約2 haを耕作する中核農家,および集落外の認定農業者の入り作によって農業が維持されている.なお,集落外の農業者は,利用権設定の際に畦畔管理回数を取り決め,その内容に従って畦畔管理作業を行っている.集落内は他の丹波篠山市の農地と同様に,傾斜地と平地が混在している.当該集落においても多面的機能支払交付金を受託しているが,集落農地の水源であるため池の堤体や水路といった公的な部分の草刈りのみを共同作業の対象としている.私的財産である農地の間の畦畔の多くは地権者が管理してきたが,一部,シルバー人材派遣センターの利用も見られる.

上記のような休場集落では,担い手農業者の規模縮小と高齢化により,農地間の畦畔管理が困難になり,畦畔管理請負組織である「草刈り隊」を設立した.草刈り隊には休場集落内外の農業者および非農業者が参画しており,草刈りを希望する地権者の農地の畦畔を管理している.

(2) 調査方法

本研究では,上記の休場集落を事例対象として取り上げ,畦畔管理請負組織「草刈り隊」の設立を推進し,現事務局メンバーの一人でもあるA氏に聞き取り調査をおこなった.主な調査内容は,集落の農地の概要の他,設立までの経緯や運営方法,活動実態などである.調査は2019年10月に実施した.

3. 組織づくりのプロセスと作業の実施体制

(1) 設立の背景

休場集落では,2019年3月に畦畔管理を請け負う組織として草刈り隊を設立した.その設立の背景に,約4 haを担っていた集落内の農業者が体調不良のため2018年に規模縮小を余儀なくされたことがある.集落内の担い手だけでは上記の農業者が担ってきた農地の管理に対応できず,耕作は集落外の大規模認定農業者がおこなうこととなった.しかしこの認定農業者の管理下では,以前のような回数の草刈りが実施されない事態となった.

これらの担い手農業者は,以前から作業受託や利用権設定による小作を行っており,畦畔管理等の管理作業や小作料の取り決めも相対によって決定し,契約してきた.集落としては,こうした契約は私的なものであるため,内容について他者が関与するものではないと考えられていた.しかし,上記した集落内農家のリタイアをきっかけに,大規模農業者に農地を預ける場合,集落の農地保全や農村景観の維持を可能とする畦畔管理や用水の管理が困難になることが露呈した.そこで,2018年の秋から集落の農業関係の寄合いにおいて,畦畔管理を請け負う集落ぐるみの組織づくりを検討し始めた.

なお,集落では既に多面的機能支払交付金の受託組織が設立されていた.しかし,集落の共有財産のような性質を持つため池や水路の管理に対する活動を,私的な農地の畦畔管理と明確に区分して管理するため,別組織として設立することとした.

(2) 組織づくりの過程

組織設立に際しては,月に2回,合計10回程度,集落の寄合いの際と,別に改めた日に,集落の農業関係者が集まり,話し合いが重ねられている.

話し合いでは,まず,既存の農業者や地権者の他,集落の住民全戸,加えて集落に耕作農地を持つ他集落の農業者等,集落の農地の維持管理に関係するステークホルダーをすべて洗い出し確認している.そして,それらのステークホルダーに対して農地保全の必要性への理解を促し,作業者の確保や各種費用関係など運営に関する対話をおこなった.

畦畔管理の作業委託費用の決定は,個別の対話を経て得られた地権者など集落の農業関係者の意見を盛り込み,寄合いに参加する農業関係者が中心となって検討した上で,会合にて決定されている.農業生産に畦畔管理は当然含まれると考える地権者が,費用を負担してでも請け負ってもらいたいと考える費用を算出するため根拠が必要となり,具体的な費用決定の根拠は以下のように決定された.

この地域では認定農業者は,利用権設定により,10 a当たり1袋(30 kg)の米を納めたり,小作料を支払ったりするなど,地権者ごとに異なる契約で小作してきた.しかし,認定農業者が担う農地が拡大するにつれて,作業そのものだけではなく,小作料の支払い方法や契約の煩雑さも問題視されるようになった.このため,丹波篠山市の認定農業者らは,事務手続き上の簡便さから,年間10 a当たり5,000円の小作料を支払うように一元化を推進してきた.しかし,休場集落の場合,従来通り,米での小作料支払いが継続されている.そうしたことから,草刈り隊に畦畔管理を委託する際に地権者が支払う料金は,この米1袋の市場買取り価格と,丹波篠山市の認定農業者が定める10 a当たり5,000円の小作料との差額相当額(2,500円)を,担い手も地権者も双方納得できる金額として算出した.

作業の詳細も会合で検討し,決定された.作業機械は,自ら所有する刈払い機を利用することを基本としたが,集落で所有する刈払い機や自走式の草刈り機の貸し出しも可能とした.ただし,いずれの場合も作業賃金は同一で,多面的機能支払交付金の共同作業の金額である時給1,000円に揃えられている.この時給は,シルバー人材センターに依頼するよりも低い金額となっているが,作業者の了承の上で決定された.作業日も1年間のうち3日間の草刈り実施日を具体的に決め,作業方法は4~5名の小グループに分けて作業することとした.また,活動の事前に作業者に対してビデオで注意事項等を確認する研修をおこなうこととした.作業時の構成員の損害保険料や飲料代も,草刈り隊が賄うこととした.

加えて,草刈り隊の組織構成についても検討された.上記のような草刈り隊の設立および運営に関する詳細の決定に際しては,農業施策や制度に詳しいA氏が提供した情報を元に,寄合い参加者全員で検討したが,草刈り隊の代表の決定に際しては,全員が納得する人物を選出し,事務局メンバーも経緯や目的を理解する寄合い参加者から選出している.

(3) 組織構成と草刈り作業の実態

1に,設立時の草刈り隊の組織構成および運営体制を示す.構成員は27名で,うち集落外の地権者が2名参画している.農業者が10名,土地持ち非農家が9名,Iターン者や分家の農家子弟を含む非農家が8名である.30~40歳代が数名で,大半がリタイア後の60~70歳代であり,全員が男性である.いずれの場合も希望による参画となっているが,実際には,農業関係者が中心となり,それぞれに声掛けを行うことによって,集落の約8割の家庭から,草刈り隊への参加を可能にしていた.

表1. 草刈り隊の組織構成と運営体制
設 立 2019年3月24日
構成員 27名
所在 集落内 25名
集落外 2名
所属 農家 10名
土地持ち非農家 9名
非農家 8名
年齢 60~70代が最も多い
受託面積 8.6 ha1)
管理回数 3回/年
受託費用 2,500円/10 a2)
作業賃金 1,000円/時間

資料:2019年10月の聞き取り調査を基に筆者作成.

1)畦畔管理を受託した農地の合計面積を示している.

2)受託費用は農地の大きさを元に計算している.

草刈り隊が受託している畦畔は,農地面積で8.6 ha分であり,集落農地の半数以上の畦畔を管理していることとなる.

草刈り作業は,集落外の認定農業者が畦畔管理をおこなう3月と7月,冬期の3回分を避け,原則,4月と6月,9月の年3回,年度当初に草刈り隊事務局で決定した日におこなうこととした.しかし,認定農業者の畦畔管理実施日が不明瞭であったため,実施日が似通ってしまった.このため,作業日の決定には課題を残している.

草刈り隊事務局が決定した畦畔管理の日時に参加が可能な構成員は当日,草刈り隊代表に出席を報告し,草刈り隊が担う畦畔部分の草刈りを行うこととなる.なお,参加した構成員の作業時間は,代表が参加開始・終了時間を15分刻みで管理しているため,代表は草刈り作業に参加しない.

上記のようにまとまった草刈り隊の組織構成および運営体制の下,実際に草刈り活動が行われた.実際に,活動を始めた2019年度は,4月21日,6月9日,9月1日の3日間に,草刈り作業をおこなった.詳細にみると,4月21日は24名の作業者で延べ136時間かけて作業をおこなっている.この時には,グループ別で作業を実施したが,課題が残った.6月9日は23名の作業者で延べ114時間をかけて作業をおこなっている.この時には,第1回目の反省を踏まえ,参加者の自発的な作業改善の推進と別の管理方法を試行するため,集落をおおまかなエリアに分け,かつ作業内容をブロックに分けて,ローテーションしながら一斉に作業する方法に変更した.9月1日は20名の作業者で,第2回目と同じ方法で,延べ108時間かけて作業をおこなっている.作業中の休憩は小グループ,ブロックごとのいずれの場合も,それぞれの分担ごとに取った.

また,これまで集落としての一斉清掃作業に数回,参加するのみであった非農家が,草刈り隊の構成員として畦畔管理に参加している.実際,全3日間の作業日には,非農家の参加も多数見られた.

収支についてみると,2019年度は,費用として,参加構成員への作業賃金の支払が358,000円,損害保険料や消耗品費が55,000円の計415,000円となっている.一方,地権者から管理に対して支払われた受託費の収入は215,000円であった.不足する200,000円については,資源管理に関わる集落の他の会計から補てんしていた.このような状況の報告を,組織内だけではなく,集落の総会等でも行っている.この仕組みをフローに示すと,図1のようになる.

図1.

草刈り隊による畦畔管理請負の仕組み

資料:筆者作成.

4. 草刈り隊にみる組織づくり

(1) 組織の特徴と課題

以上にみた,草刈り隊の設立経緯および運営体制と実態を基に,事例とした休場集落における集落ぐるみの畦畔管理請負組織の特徴を考察すると,次の3つにまとめることができる.

1つ目の特徴は,集落の農地・景観を協働で保全するという目的への賛同者が設立し,地権者,担い手農家の双方にとって,いわば“痛み分け”をするような仕組みのもと,奉仕的側面を持ちながら運営されていることである.またその上で,不足部分は集落の別会計から補てん,つまり広く全ての集落住民の負担としている.このように,集落・農地に関わる全てのステークホルダーが,少しずつ負担,貢献することを前提とした体制をとっている.

なお,こうした組織づくりには,集落農地を持続的に保全するという共通目的の共有が不可欠であり,これまでの地域活動や今回重ねられた対話を経て,その認識が深められていたことが推察される.

2つ目の特徴は,これまで畦畔管理を人に任せるだけであった土地持ち非農家や非農家,さらには自らの土地だけを管理していた農家も含め,集落に関わるステークホルダーが集落の農地に関心をもち,管理に携わっていることである.農業者だけではなく集落の住民や入り作農家等に幅広く声をかけ,機械の貸し出しを行うなど,参加の促進と敷居を下げる努力がなされている.

3つの目の特徴は,集落やステークホルダーとの間に積極的に活動の透明性や公平性を確保しようとしている点である.草刈り作業においては時間を厳密に記録し,作業内容について詳細に取り決めをおこなっている.支払いや会計も厳密におこない,活動を終えるごとに問題点を整理し事務局メンバーで共有した上で,改善を図る.こうした,いわばアカウンタビリティーは,近年,当然のものとも言われているが,畦畔管理作業や地域組織においては十分でないことが多い.ここでは組織内の情報共有を丁寧におこなうとともに,組織外の集落住民をはじめとするステークホルダーへの共有を重視している.

以上のような新たな形態の草刈り隊であるが,現状としては次のような課題もある.

まず,活動収支の継続的な調整である.現状は,集落からの補てんにより集落全体の負担として収支を合わせているが,個人,作業員,集落の最適な受益と負担のバランスについては,関係者の意向を汲みながら常に見直される必要があると考える.

2点目は,上記と関連することでもあるが,この組織の活動主旨や集落における位置づけに関する理解の更なる浸透である.単なる有償作業サービス,またはボランティアと理解されると,草刈り隊に畦畔管理を任せきりにしようとする動きを助長しかねない.実際そうした地権者の意向を耳にするという事務局の声も聞いており,この仕組みに内在するジレンマとして解決を図る必要がある.

(2) 組織づくりを促した要点

また,事例とした組織づくりのプロセスにおける要点を考察すると,次の3点としてまとめられる.

1つ目は,草刈りに関連するステークホルダーの把握とコミュニケーションである.今回の事例では,事務局が中心となり,農業者の他,高齢や兼業など性格の異なる地権者,土地持ち非農家やIターン者,構成員として作業を行う候補者といったような各ステークホルダーを把握し,それらのステークホルダーに対して,それぞれ対話をおこなっていた.またそれを設立準備の会議等で共有していた.これまで個人で管理することが当然であった畦畔管理を,集落で管理する意識に変革することなどは,ステークホルダーと円滑なコミュニケーションを図ることができる環境をつくったことによって達成されていたと考えられる.

2つ目は,上述のコミュニケーションを通して,ステークホルダーが納得できる,ないしは許容できる作業条件を調整,決定できたことである.全ての人が合意できる費用や作業日,作業条件を調整することは容易ではないが,個々人の置かれる状況,収支計画や作業計画を具体的に立て,協議を重ねることで設定できている.

それを具現化する上で,3つ目に重要なことは,漸次的な制度づくりと組織づくりである.事例とした草刈り隊では,全く問題がないと思われる組織や運営体制を設計してから活動を開始したのではなく,問題が生まれるかもしれないと認識しながらも合意できるレベルでまず組織をつくり,各種費用等の条件を設定して実践する.その上で問題があれば随時修正するという進め方をしている.問題があるかもしれないが,まずはやってみるという取り組み姿勢があり,共有されていたことが要点と考える.

5. まとめと展望

(1) まとめ

以上,本研究では,丹波篠山市の先進的な畦畔管理請負の組織づくりを事例として,その組織の特徴と,組織づくりを進めるための要点とを明らかにしようとした.結果,この組織の特徴として,「地域ぐるみ」を越えるような多様なステークホルダーの参画によって行われていること,地域資源の管理という共通目的を共有しながら一定の負担をしあっていること,集落やステークホルダーに向けてアカウンタビリティーを確保しようとしていることを示した.また,組織づくりを可能としたのは,ステークホルダーを把握し,円滑にコミュニケーションを図ることができる関係性を構築できたこと,協議を重ねることで全体が合意できる作業条件を設定できたこと,問題解決を図りながら漸次的に組織づくりをすすめる方針をとったこと,であると要点をまとめた.

(2) 今後の展望

従来,地権者と利用者の間で調整され,それを前提に研究がなされてきた畦畔管理であるが,今後は今回の事例でみたような地域全体で補完する仕組みが必要となってきている.実際,各地で,その実行を担う組織づくりが模索されているものの,その具体的な体制や持続可能な運営の仕組みについては,十分な研究がなされていなかった.今回の事例分析は,その組織づくりについて一つの方向性を示すものである.

また,本研究ではその立ち上げプロセスの要点を示したが,そこで改めて重視されるのは,ステークホルダーの拡大設定とコミュニケーションである.ただし,他地域への展開を考える際には,地域特性を考慮すべきである.ステークホルダーの円滑なコミュニケーションが可能となる範域は地域によって異なるであろう.特性に応じて最適な範囲を選択することが重要と考える.

関連して,結成の目的を理解し共有を得るまでの期間への留意も必要である.事例集落では,比較的短期間にその理解は進んだと考えるが,この必要期間は,集落の経済社会状況,住民の社会的関係,農業や自治に関する組織活動経験などに強く依存する.各集落の実情に応じた組織づくりのスピードを考慮する必要があろう.

なお,本研究では,特定の集落で設立された草刈り隊という一つの事例を対象とし,事務局メンバーへの聞き取りのみとなっている.集落との関係を明らかにするには,集落や構成員への調査も必要である.また,前述の通り,畦畔管理請負組織の設立規模の大きさや地域によって異なる要因がいかに組織づくりや人材確保に影響を与えるかも,検討が必要である.構成員数や作業内容,資金繰りなどの関係性を明らかにし,人材確保との関係性を考慮した上で,畦畔管理請負組織が存続可能な規模を検討する必要がある.いずれも,今後の課題としたい.

引用文献
 
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