農林業問題研究
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書評
波夛野豪・唐崎卓也編著『分かち合う農業CSA~日欧米の取り組みから~』
〈株式会社創森社・2019年7月22日〉
中塚 華奈
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2020 年 56 巻 2 号 p. 76-77

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本書は,CSAや産消提携(以下,「提携」)に関心をもつ研究者や生産者で立ち上げたCSA研究会(2014年10月発足)代表の波夛野豪氏と事務局の唐崎卓也氏の編著で,15名の研究者や実践者で執筆されたものである.

CSAとは「Community Supported Agriculture」の頭文字であり,日本語では「地域支援型農業」と訳されることが多い.直訳すると「コミュニティに支えられた農業」となるが,一方向性の支えではなく「有機農業がコミュニティに支えられて持続し,またそのコミュニティを有機農業の実践が支える」といった相互性の上に成立することが含意されている.

本書ではCSAの定義を「地域の生産者と消費者が食と農で直接的に結び付き,コミュニティを形成して生産のリスクと生産物(環境を含む)を分かち合い,たがいの暮らし・活動を支え合う農業」とする.また,特有の方法として,年間購入契約,セット野菜,前払いをあげている.

第1章と第5章ではCSAの概念や理念,普及過程や展開,提携とCSAの比較を講じている.第2~4章では,日本とスイス,アメリカ,フランス,イタリア,カナダでのCSA導入の経緯や仕組み,課題や展望などが紹介されている.「スライディングスケール」,「フリーチョイス」,「交換ボックス」,「職場CSA」などは,従来の日本の提携では導入されてこなかった取り組みであり,非常に興味深い.

評者は,これまでに「CSAの原型は,日本の有機農業運動の提携」だときいたことがあったが,本書によれば,実際には米国のCSAの源流はドイツとスイスに遡るという.日本の提携がCSA以前に同様の内容で取り組まれていたため,前述の言説が出回った可能性があると推察している.生産者と消費者が直接つながる実践が,場所を問わず生まれてくるのは,至極当然のことである.

国内の有機農業の流れとオーガニック市場の環境変化については,「提携は,販路獲得の難しい新規就農者にとって有用」としつつも,新規就農者のなかには「運動体的性格を強く印象づける提携よりも,CSAの呼称に魅力を感じる人」がいることにも触れている.また,平成11年(1999年)版の環境白書で「環境問題の視点から地域と農業のかかわりを示す活動」として紹介され認知度が上がったことをあげ,CSA参加者の動機には「地産地消志向の前提が,農産物の安全だけでなく,それをもたらす栽培方法による環境貢献」にあることにも着目する.オーガニック市場へのアプローチには,安全安心志向への訴求だけではなく,環境貢献志向を持ち込むことの有用性を示唆している.

提携以外でCSAと共通点をもつ活動として,①農産物オーナー制度,②企業(CSRの一環)や消費者の農業体験,③読みものと掲載記事にまつわる食べものがセットで送られる「食べる通信」,④インターネットを介して作物栽培(種代+栽培代)を購入し,実際の作物と連動したバーチャル畑の作物成長を楽しむオンライン契約栽培サービス「Ragri」などをあげている.手法は違えども,これらの共通点は,消費者がプロジェクトに参画した時点で生産者の所得が確実に確保できる仕組みであること,一見,消費者はサービスに対価を支払っているだけのようでも,その農地の運営に出資し収穫物をシェアし,そこの農地を守ると読み替えられることである.

日本でCSAが拡がらない要因には,農地や固定資産の継承問題の存在,前払い方式や生産者と消費者がリスクとコストを均等に負担する運営理念の一般化が困難であることをあげ,他国の先進事例から,CSAを支援し,農家間の連携をはかる組織の必要性と,CSAを単なるビジネスモデルとしてではなく,農業を通じた地域づくりとしての視点で捉えることの重要性を指摘している.また,産消提携とCSAを様々な観点から比較し,CSAを「農産物を生み出す場の生産環境までも包括的に支援されるという点」において,産消提携よりも「前進している」と謳っている.

本書を踏まえ,改めてCSAと提携を比較してみたい.「提携の10原則」に則ると,提携は互いに生命を委ね合うとはいえ,農地はあくまでも生産者の私有財産であり,生産者と消費者は対峙関係にある.消費者は全量引き取りという掟に従って生産者を買い支え,半強制的に届く農産物に対価を支払い,消費する義務に囚われる.時には大豊作を苦痛に思う事態も生じる.また,提携運動に参加しない人を有機農業が培う外部経済効果(環境負荷軽減要素)のフリーライダーと揶揄することもある.

それに対してCSAでは,農地を生産者と消費者のコモンズ(共有財)と見なしている.自然の前では,生産者も消費者も区別なく,大地の恵みを享受する仲間となる.消費者の前払いは,コモンズからの収穫物をシェアする権利の対価であり,農地を耕す生産者には労働の対価が支払われる.共に農地に携わる仲間として,豊作を共に喜び,不作を共に憂う関係が,CSAの理念でもある「健全な地域共生社会の実現」を可能にし得るといえる.

編著者である波夛野氏は,提携に関わる生産者に「運動実践の有無」を問いかけている.「みずからの出荷枠を確保するために,新たな生産者の獲得には積極的でなかった一面がありはしないか」と.また,提携が停滞する一方,環境保護活動や福祉にかかわるNPO活動が盛んであることに着目し,「こうした活動と文字どおり提携関係を形成できればまた違った広がりが期待できたのではないか」と,提携の内包する問題解決の糸口を探る.これは,自らも提携の生産者としての経験を有し,長年にわたり提携を研究しつくしてきた研究者だからこその指摘である.そして,この問題の解決策の糸口にCSAがある.

昨今,世界中でメガFTA交渉が進められる一方,国連では「小農権利宣言(2018年)」が採択され,2019年から2028年を「家族農業の10年」と定めるなど,地域に根付いた小規模農業にも光があてられるようになった.フードセキュリティを見据え,距離や範囲に関係なく,CSAの概念をあてはめ,生産者と消費者がグローカルな視点を有し,大地からの恵みを分かち合う共生関係をつくるシステムの構築が求められるのではないだろうか.地域の概念は多種多様であるが,マクロ的視点に立てば,日本列島という島国の仲間として,宇宙船地球号の乗組員として,共にコモンズである大地に責任を持って関わることが,国連が目標とするSDGsの達成にも寄与しうると考える.

本書は,有機農業が歩んできた激動の時代とともに生き,実際に現場に身をおいてこられた執筆陣だからこそ書ける渾身の力作である.CSAの動向や展開,実践事例と特徴,提携との比較から得られる示唆などが学べる「CSA解説・入門書」として,農業者はもちろん,食べものと関わりのある全ての生活者,地域づくりに関わる政策担当者など,多くの人に手にとっていただきたい一冊である.

 
© 2020 地域農林経済学会
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