農林業問題研究
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個別報告論文
酪農の第三者継承における支援組織の役割と課題
―都府県地域を事例として―
高津 英俊片岡 美喜鵜川 洋樹
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2020 年 56 巻 3 号 p. 93-100

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Abstract

This research clarified the roles and challenges of support organizations through interviews with dairy farmers and members of those organizations based on the Honshu region’s initiatives regarding third-party inheritance of dairy farms. We selected four regions with different types of support organizations. The results revealed that the structure of council-style support organizations enables centralization and information sharing, while contributing to a smooth transfer of property for both the original owners and successors. Second, while those in charge of support organizations knew the identities of individuals who would be leaving farming, they did not compile or disclose such information. Third, the residents living near a farm that was being transferred to a third party objected to the new proprietors for reasons, such as environmental degradation, and council-style support organizations were unable to cope with this type of problem.

1. はじめに

酪農家戸数の減少は止まる兆しを見せていない.農林水産省によると酪農家戸数は2000年33,600戸から2019年15,000戸と半数以下まで減少している.20年間で18,600戸の酪農家の廃業は,基本法農政下で蓄積してきた有形・無形の酪農資産を継承せずに消失したことを意味する.特に都府県では北海道に比べ飼養頭数及び酪農家戸数の減少速度が速く,生産基盤の維持そのものが喫緊の課題となっている.

かかる状況に対して,経営資産を再利用するために,酪農経営を新たに開始したい者と離農予定者とのマッチングを実施し,経営継承を支援する取組みが北海道を中心に見られるようになった.

先行研究でも同様の状況が見られ,北海道を事例とした研究は多数見られる一方で,都府県酪農の第三者継承に焦点を当てた研究は少ない(長田他,2017高津・鵜川,2019山内他,2019山崎,2012).これらの研究では,都府県における個別事例や支援施策に関する報告など,継承時の諸課題の整理が中心となっていた1.北海道と都府県では立地面等で酪農形態が異なることから,都府県地域を事例とした研究の更なる蓄積が求められる.また,酪農における第三者継承の支援組織に焦点を当て,その支援状況の比較分析を行った研究もほとんど見られない.

そこで本研究では,酪農の第三者継承支援に取り組む都府県地域の支援組織を事例に,同組織及び支援を利用した酪農経営者への聞き取り調査から,その役割と課題を明らかにすることを目的とする.調査地域は,組織形態が異なる支援組織(協議会方式2,酪農協主導方式3)を有する4地域を選定した.

2. 第三者継承の特徴と定義

(1) 都府県における酪農の第三者継承の特徴

北海道と都府県酪農はこの30年余で構造的な変化を遂げている.

畜産統計(農林水産省)より飼養戸数の変化を比較すると,1985年から2017年の変化率は北海道では–63.7%,都府県では–84.5%と大幅に減少している.飼養頭数の変化率を見ると,北海道は–3.54%にとどまっている状況に対して,都府県では–58.3%と大幅な減少傾向を示しており,都府県酪農の顕著な縮小傾向を示している.

一戸当たりの飼養頭数は,1985年は北海道46.4頭,都府県20.0頭であったが,2017年は北海道123.5頭,都府県53.8頭と両地域とも増加している.とりわけ北海道では,経営資源の集積に伴う大規模化により,飼養戸数の減少傾向にも関わらず飼養頭数の維持を果たしている.

酪農家の離農問題に対して,北海道では1982年開始の公社営農場リース事業を嚆矢に,同制度をベースに翌1983年から開始した浜中町農協,1995年に開始した別海町,近年ではR&Rおんねない(北海道美深町)など,第三者継承支援が展開された.北海道では酪農が基幹産業となっている地域があり(特に道東),行政や農協の資金投入を含めた積極的関与が見られている.

都府県においても1999年に農水省畜産局によって「新たな酪農・乳業対策大綱」が策定され,「日本型畜産経営継承システム」が提示されたことで,酪農の第三者継承支援が散見されるようになり,支援体制構築の萌芽が見られた.これ以後も,社団法人酪農ヘルパー全国協会が実施した「日本型畜産経営継承システムフォローアップ勉強会」(2004年~2005年)やJA全中が実施している「JA畜産経営継承支援事業」(2001年~),そして全国農業会議所が国の受託事業として実施した「経営継承支援事業」(2008年~2017年)等の取組みにより,第三者継承という用語と取組みが農業関係者を中心に普及した.本研究の対象事例は2000年代後半から2010年代前半に開始されていることから先述した施策を経た後に取り組まれている.

政策的進展がみられる以前は,酪農への就農希望者が現れた時に一部の支援主体(行政,普及所,農協等)が対応してきた.このような支援方法は,取組の継続性や情報の集約・提供の点で課題があったが,酪農が盛んな都府県地域を中心に第三者継承支援のための組織を作り,関連組織が共同で支援する仕組みが構築された4.特に都府県では,地域の酪農の位置づけが小さいことから,北海道とは異なる独自のシステム形成が必要とされている.

例えば福田(2000)は,都府県では農地価格の高騰と家産としての所有意識が強いため,子弟継承の場合とは異なり,第三者継承では経営資産の移譲が困難な場合があると指摘し,所有と経営の分離あるいは,所有と利用の分離を進める必要があるとしている.農地価格の高騰は別として,これらの指摘は現在においても都府県において検討すべき課題であり,賃貸後譲渡する方式や法人化方式など,地域の周辺環境や経営状況を加味した第三者継承支援が求められている.

(2) 本研究における第三者継承の定義

山本(2019)は,農業の第三者継承について「経営内(親族内)で後継者が見つからなかった場合に,血縁関係のない新規就農者(第三者)へ事業を継承するもの」としている.有形資源(農地・施設・機械など)と無形資源(技術・ノウハウ・信用など)の双方を一定の時間をかけながら受け渡してゆくことで円滑な経営権の移譲を果たす取組みである.

先の定義では,後継者のいない農業経営者と新規就農者が想定されるが,本研究で扱う都府県における酪農の第三者継承では,継承者として,経営主たる個人だけではなく,継承過程で法人化したケースも含めている5.また,酪農の第三者継承においては所有権と経営権は必ずしも一体ではないこと,現経営内の雇用人材に経営権を移譲するケースがあることなどが指摘できる.

したがって本稿における第三者継承の定義は,「家族経営内で後継者が見つからない酪農経営者(移譲者)が,酪農経営を希望する第三者に経営資源と経営権を移譲してゆく過程」とする.本稿は経営移譲に際しての支援組織の役割と課題を考察してゆくものである.

3. 事例分析

(1) 支援組織の概要と特徴

1に本研究で調査した4地域の支援組織の概要,表2に支援組織による支援の内容を示した.表1では支援組織の組織形態と特徴を分析するために,事務局機能を担う組織と,支援を行う際に関係している構成組織についての調査結果を示した.表2の支援組織による支援内容については,継承前と継承後の支援の違いに着目した項目を設定している.とりわけ,継承前においては情報収集や仲介方法など先行研究では比較分析されていない項目を設けている.

表1. 第三者継承の支援組織の概要
A県の事例 B県の事例 C県の事例 D県の事例
地域名 中国地方 関東地方 中国地方 中部地方
支援機関の組織形態
(支援機関の名称)
協議会方式
(地域システム確立協議会)
協議会方式
(ワーキングサポートチーム)
協議会方式
(畜産協議会)
酪農協主導方式
事務局機能 県農林水産部 県畜産協会 市農林水産課 地元酪農協同組合
構成組織 ①県農林水産部畜産課 
②   同   農産課 
③県農協中央会 
④県農業会議 
⑤全酪連合会 
⑥中四国酪農大学校 
⑦農林漁業担い手育成財団 
⑧県畜産協会 
⑨共済組合 
⑩地元酪農協同組合
①県畜産協会 
②県農政部畜産課 
③県農業公社 
④県農業事務所 
⑤日本政策金融公庫 
⑥地元JA 
⑦地元市町村 
⑧地元農業委員会
①市農林水産課 
②県地域事務所 
③県酪農協同組合 
④県畜産協会
①地元酪農協同組合 
②酪農経営コンサルタント(獣医師) 
(※取組当初,自治体が参画していた時代もあった.)
取組開始年 2011年 2011年 2007年 2014年
これまでの支援実績 4件 1件 3件 2件

資料:筆者らが実施した聞き取り調査より作成.

注)A・C・D県の調査は2019年,B県のみ2018年に実施している.

表2. 支援組織による支援の内容
A県の事例 B県の事例 C県の事例 D県の事例
継承前支援 移譲者の情報収集 ・地元酪農協,畜産協会,県農林水産部が,離農予定者のリスト作成 ・県畜産協会→県内JAへの意向調査 ・地元酪農協による募集 ・地元酪農協で離農予定者を探索
継承者への情報提供 ・新農業人フェアへの参加 ・HPや行政を通じて公募 ・中央畜産会からの照会 ・ハローワークなどを通じて従業員として公募
仲介の方法/内容 ・協議会による2年間の受け入れプラン(県の予算措置により常時受入可能な体制の構築) ・移譲者と継承者の両者が現れた時点で,ワーキングサポートチームを発足 ・本事例の場合,継承者からの意向を受け,市と畜産協会が協議会を発足 ・地元酪農協及び酪農コンサルタントによる離農予定者への提案
経営計画の指導 ・協議会による就農計画の策定支援 ・ワーキングサポートチームによる就農計画の策定支援 ・継承者を含めた協議会の開催で,経営分析や経営計画などを検討 ・地元酪農協及び酪農コンサルタントによる経営指導の実施
酪農技術の指導 ・酪農大学校での社会人フィールド研修(2週間・1か月) 
・地元酪農協の臨時(選任)ヘルパーとしての勤務
・ヘルパー利用組合に加入し業務を通じた技術習得,段階的に移譲先での研修割合を増やす仕組みの導入 ・現在は,移譲者との併走期間による技術習得 ・雇用経営体としての従業員教育 
・コンサルタントの提案により業務成績に関する従業員ミーティングの導入
推奨する継承方式(所有権・経営権) ・所有権・経営権共に移譲されるのが望ましいが,事案による ・相続に伴う資産の散逸化を防止のため,所有権,経営権の同時継承を推奨 ・相続に伴う資産の散逸化を防止のため,所有権,経営権の同時継承を推奨 ・株式会社方式を採用し,所有権と経営権を分離させている
譲渡価格の決定 ・移譲者と継承者との交渉 ・地元JAによる資産評価 ・移譲者と継承者との交渉 
・酪農協,県地域事務所による参考価格の提示
・株権を発行し,当座は現経営者や組合員らが保有するが,経営が軌道に乗った時点での売買予定
継承後支援 継承資金の支援例 青年等就農資金,農の雇用事業(併走期),農業次世代人材投資資金等 青年等就農資金,新規就農応援事業(JAバンク)等 スーパーL資金,近代化資金等 株主から出資金供出による対応(借入は地銀を主体.日本政策金融公庫等も含む)等
経営相談/技術指導 ・県酪農経営支援チームによる経営,技術指導 ・ヘルパー時代の人的ネットワークの利用 ・県畜産協会,市が毎月実施する定例簿記研修会に出席し,経営管理技術の向上に努める. ・地元酪農協および酪農コンサルタントが実施.従業員教育は,場長など経験のある社員が実施
支援上の課題 ・2012年に地元酪農協が中心となり離農予定者のリストを作成したが,多くが地域住民らの反対で実施不可能な状況 ・施設設備の適正評価額の算出,継承者の技術熟練度の評価,自給飼料生産用農地の取得,継承者の経営開始後の技術指導 ・地域住民との関係性,地域住民からの苦情や反対で継承困難になるケースも見られる ・地域住民からのクレーム対応

資料:筆者らが実施した聞き取り調査より作成.

注)A・C・D県の調査は2019年,B県のみ2018年に実施している.

事例分析に入る前に事例A,B,C,D各県における酪農業の現状をみると,2000-2019年で酪農家戸数の増減率は,事例C県が–78.7%(都府県全体で–61.7%)と突出して減少している.他の事例は,都府県全体と同等のレベルである.一方で飼養頭数は,都府県全体の同じ期間の増減率–55.7%を全ての事例の県が下回っていることから,酪農家戸数の減少数は大きいが,飼養頭数の減少が少なく,地域産業としての酪農業の存続に注力していると評価できる.

各事例の2018年の生乳生産量を農林水産省の牛乳乳製品統計からみると,A県,B県は上位1~10位以内,事例Dは10位台前半,事例Cも20位台と酪農が盛んな地域が多い.

まず「支援組織の組織形態」を見ると,今回の調査結果から,A・B・C県にみられる「協議会方式」とD県にみられる「酪農協主導方式」が確認できた.D県の事例では,連携組織として以前は地方自治体が加わっていたが,支援方針等の違いから自治体には支援組織から退出してもらい,現在は酪農協が主導している.

協議会方式であるA・B・C県では,2000年代後半から2010年代前半にかけて支援のための協議会を設立している.今回の調査で最も支援経験があるA県の特徴は,10組織12名と協議会へ参加する構成組織と人数が多いことである.A県担当者によると,協議会方式を確立したことで,各組織・各セクションに分散されていた支援に関わる情報を共有及び一元化できた点を評価している.4県ともにこれまでの第三者継承支援のケースは,北海道と比較すれば多いとは言えないが,支援した経営体はいずれも本調査時点では経営継続している.

2には,各支援組織による支援内容について示した.「継承前支援」として離農予定の移譲者に関する情報収集を行う必要があるが,A・B・C県の事例のように地元酪農協が中心となり実施する場合が多い.

特に,A県では2012年に酪農協の調査により,離農予定者のリストを作成されているが,他県では職員レベルでは離農予定者を把握しているものの,リストの作成までには至っていない.B県では,畜産協会が第三者継承に関する県の補助事業を受託していたため,県内の各JAを訪問して直接情報収集を行っている.

一方,「継承者への情報提供」は新農業人フェアへの参加等(A県),HPでの周知(B県),全国組織からの打診(C県),ハローワーク等を通じた従業員の募集(D県)など幅広い形で実施している.

第三者継承支援の実施は,A県の協議会は2011年度から2019年現在まで国・県から事業予算を確保してきたため6,恒常的な第三者継承の受け入れを行っている.B・C県の事例は移譲者・継承者の両者または一方の出現によって協議会が招集されるという形式をとっている.D県は,移譲者の経営体を株式会社化するため,継承者は株主総会を経て,従業員の中から選出することで継承する予定である.

「経営計画の指導」については,各支援組織が実施しているが,個人を継承者として迎えるA・B・C県の事例では県や市町村が就農計画の策定に加わるため,認定就農者の資格を得やすいというメリットがある.D県の事例は,法人として経営継承するため,多様な酪農経営体を見てきた経営コンサルタントによる助言・指導が行われている.

「酪農技術の指導」は,A県には酪農を専門とした農業大学校があるため,2週間(座学43コマ/実習34コマ)の体験コースを経て酪農ヘルパーとして3ヶ月以上勤務した上で移譲者とのマッチングを行い,移譲者との併走期間で技術習得する7.B県も同様に酪農ヘルパーとして充分に業務経験を積んだ上で,移譲者との併走期間に入ることを推奨している.C県では移譲者との併走期間が技術習得の機会となっている.D県では,会社組織として牧場長など経験豊富な社員が従業員教育を担当している.コンサルタントからの提案で経営成績を従業員間で議論するミーティングの場を提供している.

「継承後支援」として利用された「継承資金の支援例」を挙げているが,協議会方式であるA・B・C県では各種補助金や制度資金の利用指導を行っている.事例Dの場合は酪農協主導で株式会社化を進めることから株主の資金拠出に加えて,民間金融機関の融資を積極的に利用している.

「継承後の相談/指導」についても,いずれの地域でも実施されており,A・B・C県では協議会内の組織が担い,D県では酪農協と酪農コンサルタントが担当している.

調査対象者が述べた「継承支援上の課題」は地域住民との関係性に起因したものが多い.これは住宅地と牧場と近接している都府県ならでは課題である.その要因となるのは飼養牛の糞尿の臭いや水質悪化など地域住民の居住環境に関わる問題である.A県では離農予定者のリストを作成したが,地域住民からの反対もあり,現在は移譲できる経営体が少なくなっている.C・D県の事例でも同様の事態が発生している.D県の酪農協は,地方自治体には住民からの反対意見も尊重せざるを得ない事情もあったことや,各種助成に際して建築確認等に多くの時間を要してしまうことを理由に,支援組織のメンバーからの退出を願い出ている.D県の酪農協では自費で外部機関に依頼し,臭気調査や排水の水質調査を実施するとともに,地域住民への補償を行っている.B県では,他の都府県と同様に施設・設備等の適正な売り渡し価格の算出に課題を持っている.

(2) 支援を受けた継承者の酪農経営の特徴

3に,前節で説明した各支援組織の仲介を経て移譲を受けた継承者への聞き取り調査の結果を示した.各事例の牧場はA・B・Cが山間部,Dは臨海部(海岸部の防風林の中)に位置している.山間部でもAが最も住宅地から遠く,B・Cは比較的近隣に住宅がある.その特徴は以下の3点である.

表3. 第三者継承支援を受けて参入した酪農経営体の概要
A県の事例 B県の事例 C県の事例 D県の事例
創業年 2014年 2015年 2008年 2018年
法人化の有無 有(合同会社) 有(株式会社)
継承者(予定者)前職 システムエンジニア 酪農法人の従業員 自衛官 酪農法人の従業員
経営主の酪農経験 1年4か月の併走期間 8年間の業務経験とヘルパーの業務経験 自衛官を退役後,叔父の経営する酪農経営で1988年から従業員として勤務 他の酪農法人での17年間の業務経験
移譲者年齢(移譲時) 72歳 76歳 82歳(現役)
移譲者の位置づけ ・移譲後2か月間,搾乳機械の導入まで搾乳支援に訪問.その後も随時技術指導に訪問 ・経営継承後も継承者と良好な関係を築き,日常的に作業を補助する関係性 ・前経営者の逝去による第三者継承であり,現在は関係性はない ・数年後に継承者(牧場長)に経営権を移譲予定であるが,現在も社長として経営,作業に参画
労働力 家族労働力 2名(夫37,妻37) 2名(夫36,妻) 3名(夫52,妻58,父) 2名(移譲者夫婦)
雇用労働力 14名(40代3名,20代11名)
飼養 搾乳牛 19頭 34頭 48頭 360頭
育成牛 17頭 10頭 31頭 60頭
飼養施設 放牧酪農(山地酪農) 繋ぎ飼い牛舎 繋ぎ飼い牛舎 フリーバーン牛舎
搾乳施設 4頭タンデムパ-ラー パイプラインミルカー パイプラインミルカー 12頭Wパラレルパーラー
年間出荷乳量 107 t 283 t 523 t 3500 t
乳質 平均乳脂肪率 3.82% 3.68% 3.5%
乳タンパク質 3.29% 3.1%
無脂乳固形分率 8.56% 8.73% 8.76%
体細胞数 30~40万/ml以下 24~28万/ml以下 22万/ml以下 25万/ml以下
細菌数 10万/ml以下 10万/ml以下 10万/ml以下 10万/ml以下
外部委託 ・利用していない ・利用していない ・稲WCS利用 
・酪農ヘルパー利用
・コントラクター利用 
・TMRセンター利用
農地 27 ha 60 a 7.0 ha
牧草地 24 ha 3.5 ha(粗飼料)
購入資金 1,500万円 2,140万円 3,600万円
借入金 1,000万円 1,800万円 2,400万円
自己資金 500万円 600万円 1,200万円
年間売上高 1,300万円 4,500万円 6,300万円 4億2,000万円
今後の意向と課題 増産したい 
・輪換放牧の確立 
・搾乳牛の新規導入
増産したい 
・繁殖,飼料の技術習得 
・乾乳牛舎の建設
現状維持する 
・稲WCSを増量したい 
・従業員を導入したい
増産したい 
・従業員教育の充実 
・一頭当たり乳量の増加

資料:筆者らが実施した聞き取り調査より作成.

注)A・C・D県の調査は2019年,B県のみ2018年に実施している.

第1に,継承支援を受けて就農した酪農家(調査

対象者)は,30~40代で就農しており,A県の事例を除きB・C・D県の事例では酪農法人での勤務経験を持つなど移譲前に酪農技術を習得していたことが特徴である.またC県の事例のように前経営者の急逝に伴う継承とは違い,支援組織のマッチングを経たA・B県(移譲済),D県(移譲中)では,いずれも移譲者と良好な関係を構築している.B県は移譲後も日常的に作業支援を行う関係性を構築している.

第2に,バラエティに富んだ酪農経営体を設立している点である.飼養形態(牛舎)を見ても,山地酪農(牛舎なし),繋ぎ飼い牛舎,フリーバーン牛舎と多様な形態が見られる.これに加え,D県の事例では2018年11月に酪農協が中心となって株式会社方式の酪農経営体を設立したため,年間出荷乳量,販売額が際立って大きい.一方のA・B・C県の事例は,個人による第三者継承であり,現在は家族,特に夫婦2名により営農されている.

第3に,調査対象となった経営体の増産意欲が高いことである.早期に経営を軌道に乗せ,借入金の返済を行いたいとの思いから,搾乳牛の導入や飼料の工夫,更には従業員の導入・教育により生産能力を向上したいとの意向を持っている.C県の事例では,20年償還予定の借入金を12年目で完済したため,現状維持の予定であるが,稲WCSの利用が乳質向上に寄与したため,同飼料の給餌割合を増やしたいなど耕畜連携に向けた取組みを積極的に行っている.

(3) 考察

以上までにおいて,協議会方式であるA・B・C県と酪農協主導方式であるD県の取組みについて見てきた.更なる事例調査は必要であると前置きした上で,これらの2つの方式を比較した結果,以下の2点が明らかとなった.

第1に,協議会方式の特徴と課題である.協議会方式の特徴は,多様な組織がそれぞれ保有している支援,経営,技術に関する情報を集約することができることである(情報の一元化・共有化).継承者側にも協議会主催の検討会などを通じて,様々な助言を提供できたり,検討会では各組織が同席しているため各種手続きが簡略化されたりと利点も多い.

他方,協議会方式の課題としてはD県の事例が直面したように,酪農家と地域住民間でコンフリクトが発生した際に,行政は両者の意思を尊重しなければならず,移譲計画とその実施が遅滞する可能性もある.

第2に,地元酪農協(地元JAも含む)などの役割が大きいことである.協議会の中でも酪農家(生産者)の情報を最も詳細に保有しているのは,地元酪農協であり,離農予定者のリスト化や移譲者の発掘を実施している.また資産評価も地元酪農協が行うことが多く,移譲者と継承者での相対交渉を行う場合においても酪農協による評価額が参考価格として提示されていた.

上記2点および今後の支援組織の面的広がりを重視すると,都府県酪農で第三者継承を支援する場合には行政機関を核としながら,畜産協会,地元酪農協を含めた形態での協議会方式による支援が基本としての支援方式になり得ると考える.その際,地元酪農協(JA組織を含む)の参画が肝要である.

これに加えて,支援方式別に支援内容と受け入れた人材について見ると,「協議会方式」では既存の家族経営のままで「継承」するための支援が重視されるため,個人で酪農経営を希望する者(特に経験者)の受け入れに積極的であることが挙げられる.費用に関しても,飼養施設等の購入費に加えて必要資材の修繕費が中心で,初期投資を多額に行わないため抑えられるという特徴がある.

一方,「酪農協主導方式」では,意思決定過程に参画する組織・主体が少ないことから,スピード感を持って継承プロセスを進められることが挙げられる.加えて,継承プロセスと法人化(株式会社化)は並行して実施されることから,「協議会方式」では対応が難しい事例についても継承を進めることができる可能性がある.事例Dの支援事例の場合は独自のケースであると思われるが,雇用を導入できる規模になるように牛舎を新設したため,多額の費用が必要になった.そのため,移譲プロセスの途上で雇用導入型の酪農法人に転換し,その後は企業同様に社内教育を実施し,未経験者を含めて受け入れている.

4. むすびに

本研究では,酪農の第三者継承支援に取り組む都府県地域を事例に支援組織及び支援を利用した酪農経営者の聞き取り調査を実施し,その結果を比較分析することで,支援組織の役割と課題について明らかにした.

考察の結果,都府県酪農の第三者継承を支援する組織の役割と課題について次の3点が分かった.第1に,協議会方式の支援体制を構築したことが情報の共有や一元化を可能とし,移譲者・継承者双方にとって円滑な継承に寄与していることが分かった.また,協議会方式を補完するものとして酪農協主導方式を位置づけることができる.

第2に,現場の担当者レベルでは離農予定者を把握しているものの,リストとしての取りまとめ及び更新が進展していない状況が分かった.

第3に,第三者継承の実施段階になった際に,近隣住民が環境悪化などを理由に継承者による経営開始に反対する状況も見られ,協議会方式の支援組織ではこうした問題への対応が困難になる場合があることが分かった.このことは性格の異なる組織同士が支援を実施する難しさを示していると指摘できる.

山内ら(2019)の調査においても,島根県内の新規参入者及び地元中小乳業への調査から,「地域住民の理解の乏しさ」を酪農の新規参入における課題として示している.こうした課題は本研究においても,都府県酪農における共通的な課題として確認したとともに,行政や酪農協などの中間組織が入っても近隣住民への理解促進が難しいことを明らかにできたことが,本研究における新たな示唆である.協議会方式では行政が深く関与しているため,地域住民の意向を重視し,理解促進を図るよりも,第三者継承による酪農継続を断念させてしまうほうを選択する状況も見られている.こうした状況に対してD県の事例では,行政を介さず酪農協主導で第三者継承の受け皿となる組織を設立したことで,継承事業を遂行している.

都府県酪農において第三者継承を進めていく上では地域住民からの理解を得ることが必要条件になる.このため長期的な視点に立てば,酪農教育ファーム活動など通じて,地域住民が幼少期から酪農に触れる機会を創出することが,地域住民への理解促進を促し,引いては地域酪農の生産基盤の維持にも繋がる重要な取組みであると考える.

今後の研究課題として,以下の2点が挙げられる.第1に,今回の研究実施によって,2つの支援方式が確認できた.特に酪農協主導型のD県の事例は株式会社による酪農経営継承を検討する一助になるものであり,稿を改めて検討したい.

第2に,今回の研究では協議会方式と酪農協主導方式の2形態の支援組織を見てきたが,他形態の支援組織の分析を進める必要があると思われる.加えて,北海道や四国・九州を含めた分析を行い,更なる研究の蓄積から酪農における第三者継承の支援方策を明らかにしたい.

1  長田他(2017)山内他(2019)では,酪農の第三者継承にも言及されているが,主な研究対象となっているのは酪農の新規参入全般と広い.加えて,長田他(2017)は酪農への新規就農者の就農プロセスとそこから見えた課題の抽出を中心としており,山内他(2019)は前半部では栃木県内の2農協の新規参入に関する状況をアンケート調査等から分析し,後半では島根県における第三者継承の実態をヒアリング調査から明らかにしている.しかし両研究ともに,第三者継承支援については単一事例の調査となっている.山崎(2012)高津・鵜川(2019)は都府県部での第三者継承に焦点を当ているものの,やはり単一事例の分析にとどまっている.

2  本研究における「協議会方式」とは,第三者継承支援事業を行う地域の行政機関に事務局組織を設置し,畜産協会,生産者組織など関係機関が,第三者継承の円滑な実施のための情報共有や連絡調整,実際の支援を行う方式である.

3  「酪農協主導方式」とは,第三者継承支援を行う地域にある酪農協が事務局組織となり,第三者継承の支援を実施する生産者組織主導型の方式である.

4  当時の組織化は,本稿で定義した「協議会方式」が主なものであった.

5  今後担い手が縮小する中で多様な在り方を検討する必要があるためである.

6  2011~2012年度は県単事業,2013年度は国の産地収益力向上支援事業,2014~2017年度は県単事業,2018~2022年(予定)は国の畜産クラスター事業である.

7  その後も3年程度の期間,酪農ヘルパーとして勤務して,搾乳・飼養技術を習得することを推奨している.

謝辞

本研究は,2019年度「乳の社会文化」学術研究(乳の社会文化ネットワーク)の採択を受けたものです.執筆に当たり,調査にご協力いただいた各県組織のご担当者様と酪農経営者様の皆様,研究上のご助言をいただいた並木健二様(中央酪農会議),山本淳子様(国立研究開発法人農業・食品産業技術総合研究機構)に厚くお礼を申し上げます.

引用文献
 
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