2021 年 57 巻 2 号 p. 83-89
This study aims to investigate the factors and structures of migrant entrepreneurship clusters and migration in Fukusumi district in Tambasasayama City, Hyogo Prefecture. Currently, an increasing number of people living in urban areas are interested in moving to rural areas. A lot of research has been conducted on entrepreneurship and settlement in these places. However, most of the studies are based on the large-scale industry accumulation and development. Additionally, not many studies have been conducted on comparatively small entrepreneurship in rural areas. Thus, this study investigates the case of Fukusumi, where many rural entrepreneurial activities take place. In addition, Fukusumi has one of the leading rural entrepreneurial clusters. Interview surveys were conducted in order to clarify the structure of ecosystem in Fukusumi. It was found that the people connection network is constructed, encouraging the matching of resources with migrant entrepreneurs.
日本の農山村地域において,人口減少や高齢化などの問題が顕著に生じている一方で,田園回帰と言われるように,若者を中心とした日本の農山村地域への関心の高まりが指摘されている.その中で,移住や起業が多数生じている地域も存在し,こうした地域になぜ起業が多く発生するメカニズムを解明することは,人材不足といった課題を抱える他地域にとっても,移住や起業を促進するための手がかりになる.
関連する先行研究では,筒井他(2015)は,地域の受け入れ側の視点から,外部人材による地域のなりわいづくりや地域資源活用のためには,地域と移住者の交流およびサポート体制が重要であることを指摘している.加えて酒井他(2020)は,兵庫県丹波市を対象に,起業補助金対象地と起業地の関係性の存在や,同市での起業の増加要因として,“結節点”となる市内の支援者(知人,親族,民間の不動産屋)の存在や,ICT/情報ツール活用の重要性,起業者が支援者として活躍するような循環の存在に関して,支援側の実態について述べている.また,筆者らは,岡山県西粟倉村を事例に,中山間地域における起業促進について分析し,起業者の段階に応じて,行政が主導し官民一体の支援システムを構築していることを明らかにしている(中塚他,2020).
このように,農山村の起業を促進する環境については,受け入れ側に求められる要点の整理が進んでいる.しかしながら,農山村地域での移住起業者(利用者)の起業地の選択については分析されていない.関連するものとして,望月(2018)が広島県尾道市を事例に,その集積メカニズムを分析しているが,地方都市部におけるプロジェクト先導型のもので農山村には援用困難な点が多い.農山村地域においては,土田(2020)は,北海道東川町の飲食店を事例に,起業行動と起業の進展要因として,農村思考や家族・親類の存在,小規模経営志向といった起業者の内的要因や,同町の自然環境,都市や空港に近接する立地条件や,サポート人材の存在といった外的要因の作用を明らかにしている.
これに従うと,農山村地域,中でも特に,条件不利地域や過疎地域と言われるような交通の便が悪い地域では,起業の集積が生じることはないと考えられるが,実際には,そうした地域も起業地として選ばれていることが全国で散見される.しかしながら,どのような場所が選ばれ,起業が生じているのかはそのメカニズムは明らかでない.
そこで,本研究では,兵庫県丹波篠山市福住地区を事例地域として分析を試みた.同地は,農山村地域の中でも中心部から遠く,過疎地であり交通の便が悪い地域であるが,近年移住者による起業が相次いでいる.福住地区については,中塚(2013,2018)が空き家活用の展開について分析し,アクターが新たなアクターを獲得していることや,利用希望者(移住者)と集落内部と空き家改修を行う専門家の3つのネットワークとそのハブとなるコーディネーターの存在の機能を指摘しているが,これらもあくまで地区で展開する事象の整理と受け入れ側や支援側の視点分析に基づくものであり,なぜこの地区を選ぶかいう移住起業者視点の分析はなされていない.
以上より,本稿においては同地区における移住起業者に対してインタビュー調査を行い,この地域を選択した理由や移住起業に至った経緯,地域資源等との関連性を分析することにより,集積が形成されたメカニズムを明らかにすることを目的とした.
丹波篠山市は兵庫県の中東部に位置し,京都府や大阪府と隣接している農山村地域である.丹波篠山市(2019)によると,面積は,377.59km2であり,2019年9月末現在の人口は41,395人である.人口は,2045年には,2015年の68%まで減少すると推計されており,全国平均が83.7%であることから,過疎化が比較的進行している地域と言える(国立社会保障・人口問題研究所,2018).一方で,2018年には1,334人の転出があるものの,1,345人が市内に転入しており,市外からの人の動きが見られる.市の中央部に位置する中心市街地および,西部に通るJR福知山線との間のエリアは比較的市街地が存在するが,市の北部や東部,周辺部においては山地や農地から成る中山間地域が広がっている.
福住地区は,市の最東部に位置し,東は京都府,南は大阪府と隣接しており,京都および大阪の中心部より,車で1時間程の立地にある.地区の中心部は,京都につながる街道沿いの宿場町として栄え,2012年には当時の篠山市福住伝統的建造物群保存地区(宿場町・農村集落の町並み)に指定され,現在でも宿場町の街並みが残っている.丹波篠山市は,19の旧小学校区(2015年時点)があり,小学校区を基本に19の「まちづくり協議会」(地域運営組織)が設立されている.福住地区も,2007年に「福住地区まちづくり協議会」を立ち上げ,地区単位での地域づくり活動を行っている.2019年9月現在で,19集落,608世帯,1,306人である(丹波篠山市,2019).2009年9月時点での642世帯,1,633人と比べて大きく減少し,2016年春に福住小学校も閉校したが,地元住民や移住者との協働で跡地を活用する動きや,街道沿いの新しい店舗のオープンなど,新たな動きが生じている.
(2) 調査方法本研究では,福住地区における移住起業者を対象に,同地区を選択した理由や経緯について対面によるインタビュー調査を実施した.対象事業者の起業地については,福住地区の場合に限定したが,居住地については,丹波篠山市内に移住した場合を対象にした.ただし,1名(1事業者)のみ,生活の事情から一時的に市外に居住しており,市外から通っているケースがあったが,対象に含めた.
調査は,福住地区まちづくり協議会の協力を得ておこなった.具体的には,まず同地区の移住者のうち,事業を行う者の一覧および起業年のデータを協議会の担当者から入手した.一覧にある31名に書面でインタビューの依頼したところ,計16名に対して調査を実施することができた.このうち,12名6組が夫婦で同一の事業を運営していたため,対象事業者数は10件であった.
それぞれのインタビュー時間は60分程度で,福住地区内の各事業所にて実施した.実施期間は,2020年9月であった.
インタビューは,あらかじめ,地域選択の要素として各種経営資源,人的ネットワーク,生活環境などを想定しつつも,調査対象の起業者に移住起業の経緯を時系列で自由に会話を促す非構造的な方法をとった.
まず,同地区の移住起業者の概要を示す.福住地区内の移住起業は,2011年以降に発生しており,2020年9月末までに全18件が発生している.表1に示すように,前半の2011年~2015年の起業は4件に対し,後半の2016年~2020年の起業は13件であり,近年増加している.このうち,今回インタビューを実施することができた事業所の内訳は,表1括弧内の,対象事業所数に示す通りである.今回インタビューを実施した10事業者のうち市内在住者は(夫婦で実施している場合は2人とも),すべて他地域出身者であるIターン移住であった.なお,同地区の移住起業者による事業において,2020年時点で廃業は0件であるが,2013年開業の1件は現在,休業中である.
| 起業年 | 全事業所数(対象事業所数) |
|---|---|
| 2011年 | 1(1) |
| 2012年 | 2(1) |
| 2013年 | 1(0) |
| 2014年 | 1(1) |
| 2015年 | 0(0) |
| 2016年 | 1(1) |
| 2017年 | 3(1) |
| 2018年 | 2(1) |
| 2019年 | 3(2) |
| 2020年 | 4(2) |
| 計 | 18(10) |
資料:地区担当者整理の一覧表から筆者作成.
表2は,対象事業者の概要と事業規模として,開始年,事業規模について示したものである.事業内容としては,飲食業が3件,ゲストハウスが2件,生活雑貨の小売等を行う事業所が2件,その他Web製作,デザイン業,写真家が1件ずつであり,個人客を対象とした小売やサービス業が多く占める.従業員数はどの事業者も1~3名であり,2名の事業者は全て,夫婦で運営している.
| 事業者 | 事業内容 | 事業開始年1) | 従業員数 | 年間売上規模 | 商圏(市外:市内) |
|---|---|---|---|---|---|
| A | イタリア料理 | 2011 | 2人 | 100~500万円未満 | 8~9:1~2 |
| B | ゲストハウス | 2012 | 2人 | 100~500万円未満 | 9:1 |
| C | Web製作/移住窓口等 | 2014 | 3人 | 1,000~5,000万円未満 | 9:1 |
| D | 珈琲豆焙煎/カフェ | 2017 | 3人 | 1,000~5,000万円未満 | 7:3 |
| E | 生活雑貨販売/美容 | 2018 | 1人 | 100万円未満 | 8:2 |
| F | 生活雑貨製作/販売 | 2019 | 2人 | 100~500万円未満 | 9:1 |
| G | デザイン | 2019 | 1人 | 1,000~5,000万円未満 | 9:1 |
| H | ゲストハウス | 2019 | 2人 | 100万円未満 | 10:0 |
| I | パン屋 | 2020 | 2人 | 500万円~1000万円未満 | 不明 |
| J | 芸術写真家 | 2020 | 2人 | N/A | 10:02) |
年間の売上規模においては,100万円未満が2件,100~500万円未満が3件,500万円~1,000万円未満が1件,1,000~5,000万円未満が3件,時期によって変動があるためわからないが1件であった.各事業所の商圏としては,ほとんどの事業者が1~3割程度は,市内に顧客を抱えているが,主な商圏は市外であった.
次いで,移住起業の目的および,移住候補地・先住地・居住地などの居住地の移動に関する情報を示したものが表3である.移住起業の目的については,住まいが地区内にある場合も含め,事業を実施することを目的に移住してきたと回答した事業者がほとんどであった.
| 事業者 | 移住起業の目的 | 移住起業候補地 | 先住地 | 居住地 | I/Uターン |
|---|---|---|---|---|---|
| A | 広い場所で事業を実施するため | 明確に定めていなかった | 神戸市 | 福住内*1) | I |
| B | ゲストハウスを実施するため | 兵庫県下 | 兵庫県西宮市 | 市外 | I |
| C | 田舎で,地域PRの仕事をするため | 明確に定めていなかった | 大阪市 | 福住内 | I |
| D | 広い焙煎所を構えるため | 大阪から1時間圏 | 大阪市 | 市内 | I |
| E | 自身の事業を実施するため | 福住地区 | 福島県白河市 | 福住内 | I |
| F | 子どもの子育て環境を変えるため | 明確に定めていなかった | 丹波篠山市 | 福住内* | I |
| G | 農村地域で居住し,事務所を構えるため | 丹波篠山市内 | 大阪府茨木市 | 市内 | I |
| H | ゲストハウスを実施するため | 丹波市周辺かつ阪神圏から1時間圏 | 兵庫県芦屋市/丹波市 | 福住内* | I |
| I | パン屋を開くため | 明確に定めていなかった | 大阪市 | 福住内* | I |
| J | ギャラリーや写真の暗室を構えるため | 関西圏 | 神戸市 | 市内 | I |
1)事業所と住居が同一物件の場合は「*」を付記.
移住候補地は,関西圏,阪神圏から1時間圏,明確に定めていなかった,といった,広い地域を対象にしていた事業者が多く,丹波篠山市や福住地区を対象に探していた事業者は,それぞれ1件ずつであった.
福住に移住する前の居住地(先住地)は,8事業者が京阪神からの移住であり,先住地が丹波篠山市である事業者においても,4年前に大阪府豊能郡より移住している.福住地区内に居住地を置いている事業者が6件,このうち,事業所と住居が同一の物件であるのは4件であった.
(2) 移住起業において求めていた条件表4に,インタビューの結果を基に,事業者が移住起業において求めていた条件をまとめた.インタビューの回答を分析すると,物件に関して,店舗ができる物件や事業に適した広さの物件といった,「事業に適する物件」という要素や,農村的な風景や子育て環境,伝建地区のまちなみといった「自然・農村的環境」が抽出された.中でも,「事業に適する物件」は,11事業者中10業者が回答していた.
| 事業者 | 求めていた条件 | |||
|---|---|---|---|---|
| A | 店舗ができる広い物件 | 農村的な風景 | ― | ポツンと一軒家のような,何もないところ |
| B | ゲストハウスができる物件 | 伝建地区のまちなみ | ― | ― |
| C | ― | ― | ― | ひとりあたりの空間が広い場所 |
| D | コーヒー豆の焙煎ができる広い物件 | ― | ― | ポツンと一軒家のような,何もないところ |
| E | 店舗に適した物件があった | ― | ― | ― |
| F | 店舗ができる物件 | 田舎的な子育て環境 | ― | ― |
| G | 自宅に近い場所で事務所を構える物件 | ― | ある程度の街があり,人の流れがあるところ | ― |
| H | ゲストハウスができる物件 | ― | 周りにコンテンツがあるところ | ― |
| I | パン屋ができる物件 | 山と里地のバランスがよい | ― | ― |
| J | 展示ギャラリーが設置できる広いスペースのある物件 | 自然があるところ | ― | ― |
| 抽出要素 | 事業に適する物件 | 自然・農村的環境 | 人や物があること | 周囲に何もないこと |
また,ある程度の街があり,人の流れがあるところや,逆にポツンと一軒家といった「人や物があること」「周囲に何もないこと」といった,相反する条件が抽出された.これは,2017年までに事業を開始したD事業者までと,E以降の事業者で傾向が分かれているとも言える.
表5には,移住起業経緯の中で挙げられた,サポートを受けた仲介者についてまとめた.最も多いのが移住起業者による仲介であったが,ほとんどの場合において,複数分類の仲介者により2段階の仲介を受けていた.また,前半と後半の移住起業者で仲介者が異なり,最初のA,Bについては市内のまちづくり・空き家活用の団体(N社)より情報を得ていたが,それ以降では,移住起業者からN社(またはその逆),GやIにおいては,移住起業者が地元住民への繋ぎ役を果たしていた.最後のJについては,自身で地元住民の運営による同小学校活用団体のHPより情報を得えていた.なお,E,F,G,Hの仲介役として挙がった移住起業者は,事業の一つとして移住相談窓口も始めたC社であった.

移住起業の仲介者
1)●は1段階目,▶は2段階目の仲介者を示す.
2)Dのみ2組の移住起業者の支援を受けている.
以上の結果から,移住起業者の集積が進むメカニズムについて考察を行う.
まず,事例地の移住起業者は,表2に示すように,飲食店や雑貨店など顧客が直接足を運ぶ形態の事業者が主であり,多くは市外にマーケットを持っていることが分かった.また,地域選択については,表3に示した移住起業の目的と候補地からわかるように,全体として事業実施を目的としつつも,当初の候補地は広範囲にわたっており,更に,表4にあるような「事業に適する物件」「自然・農村的環境」「人や物があること」「周囲に何もないこと」というような条件に合致する候補地を探していた.しかし,こうした地域は,広域で見たときには福住地区以外の場所にも存在する.その中でも同地区が選択された理由は,物件と移住希望者をマッチングする仕組みが存在していることであると考えられる.これは事業を始めるには,必要不可欠なことでもあるが,農村地域ではそうした環境が整っていないことが多く,今回の事例地がもつ特性といえる.なお,この物件とのマッチングの仕組みは,表5で示したとおり,前半から後半にかけてから徐々に変化していることも分かった.
続いて移住起業者の集積が進んだメカニズムについて考察を行う.表3,4より前半の移住起業者は,集積のない“何もない田舎”を期待して移住してきているが,後半は,ある程度,起業集積のある,福住地区の今後に期待感を抱いた事業者が移住してきているという傾向にある.後半で移住起業者が集積した背景として,地元の受け入れ体制が強化されたことはあるが,移住起業者の求める条件にも変化が生じていることが明らかになった.
図1は,事例地区での移住起業者の集積のメカニズムを改めて整理したものである.まず,移住起業者をⅠ~Ⅲの3タイプに分類し,同時に,それらの移住起業者タイプが入り始めた時期を①~③の3時期に分け,横軸に示した.①では,集積が少ない場所に,先駆的移住起業者Ⅰが入り,②では,移住起業者Ⅰの情報を基に,まだまだ集積が少ない土地に,新たな移住起業者を呼ぶタイプの移住起業者Ⅱが入りはじめ,③では,移住起業者Ⅰ,Ⅱがいる場所に,ある程度の仲間や集積を求めてきた移住起業者Ⅲが入り始めた.縦軸には,①,②,③の時期に移住起業者が蓄積していくことにより,地域側の受け入れ体制の強化が生じたことを示している.

移住起業者の集積のプロセス
資料:筆者作成.
以上のことを踏まえると,集積のメカニズムは,1)何もないことを望む人が移住し,2)移住起業者が増えることで,移住起業者を含む“地域”の受け入れの体制が強化され,3)その中で,受け入れを積極的に呼び込み,手引きする人が現れることで,受入れ体制が更に強化され,4)ある程度の集積を求める人が集まってくる,5)更に集積が進む,という連鎖のプロセスとして整理することができる.
以上,本論では,農山村における移住起業者の立地選択理由および集積との関連性について議論してきた.
結果は,地域のアクターとネットワーク(中塚,2013)や,受け入れ側の環境整備やPR活動(土田,2020)といった既往研究で示された要点を,移住起業者側の視点から補完したものであるが,その中でも事業物件へのアクセスが重要であることを新たに確認した.また,移住起業者が地元の受け入れ体制の強化に寄与すること,移住起業者のタイプ(地域に求める条件)を変えながら集積が進むことを明らかにした.
こうした集積のメカニズムは,事業者数の規模から,望月(2018)の事例のようなプロジェクト先導型のダイナミックな集積とは異なるが,農山村地域における一つの移住起業の集積メカニズムを示したものといえる.
なお,本論は,大都市から1時間程度の距離にある場所にある伝建地区を事例とした分析である.異なる環境条件にある農山村地域においても同様の集積が起こりえるのか,といった点など,結果の一般化や妥当性向上については,今後の課題としたい.