農林業問題研究
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個別報告論文
中山間地域での企業参入による経営耕地面積の拡大要件
―兵庫県養父市における農外参入企業11社への聞き取り調査より―
衛藤 彬史衣笠 智子安田 公治
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2021 年 57 巻 4 号 p. 144-151

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Abstract

This study aims to grasp the characteristics of 11 companies that embarked on agricultural business in Yabu, Hyogo, Japan, and to illuminate the requirements that enabled them to accumulate agricultural land. We analyze the relationship between type of business or scale of business and the size of cultivated area or intention to expand cultivated area in 11 companies interviewed in 2019. The results show that their selection of farm location was related to their potential to expand the scale of their farmlands after embarking on agricultural business. This study concludes that the requirement for a corporation’s entry and expansion of their area of operation after entering is that their type of farming be paddy rice, and the requirement for further scaling up of large-scale farm operations is the cooperation of the residents in maintenance work such as levee weeding.

1. はじめに

農業者の減少と高齢化を主な要因とした国内農地面積の減少と耕作放棄地の拡大を背景に,農業の担い手確保に向けた対策の1つとして企業の農業参入の促進がある.

2009年の規制緩和を受け,リース方式による農業分野への企業参入件数は近年増加傾向にあるが,消費地に近い等の理由から比較的都市近郊農地を貸借する事例が多く,中山間地域への参入事例は少ない(渋谷,2014).

そもそも,企業の農業参入は,2002年の構造改革特区の制度開始に伴い放棄地解消と担い手不足への対応策として展開してきた経緯があり,少なくとも制度開始時点では条件不利地域に限定された参入であった.しかしながら,中山間地域への参入数は伸び悩み,2009年以降の全国展開で5倍以上のペースで件数が伸びた結果,放棄地発生地域での担い手対策としての企業参入の役割は相対的に低下した.

再生可能な荒廃農地は中山間地域で農地全体の半数以上を占めており,放棄地解消という点では中山間地農業への参入事例こそ焦点となるが,前述のように中山間地域への参入数は限られているため,より参入を促すための方策とあわせて,参入事業者あたりの耕作面積を拡大させる方策が求められる.

特に後者の方策提示に向けて,中山間地農業への参入企業が経営耕地面積を拡大させるための条件を解明することは意義があり,事例調査に基づき参入プロセスや参入企業の業種による違い,参入地域との関わりといった点からの分析が待たれる.しかしながら,企業の農業参入が可能となる制度変更が比較的近年になってからであることや,中山間地域への企業参入そのものが少ないこと等から,同視点からの検証は不十分である.以上より,上記検証にとって格好の事例となるのが兵庫県養父市である.

市内全域が中山間地域である養父市では,規制緩和を中心とした農外企業参入を積極的に促し,2014年以降10社を越える企業が新たに市内で農業分野に参入している.

中山間地域では中小規模の建設業の参入割合が高い傾向にあるが,同市では建設業に加えて農機関連業から製本業や住宅関連業,金融業まで,業種・事業規模ともに多様な企業が,同時期に集中して参入している点で特徴的である.

今後,農家数の減少と大規模経営体への農地集積がいっそう進む見通しにある中,農地荒廃等の状況がとりわけ深刻な中山間地域において,担い手としての参入企業の可能性と,そうした担い手への農地集約に向けた課題を精査することは意義がある.

そのため,本研究では近年養父市に参入した企業11社を対象に,農業経営の実態,経営面積の拡大に対する意向の横断的な比較を通じ,参入企業が農地集積を可能にする要件を明らかにすることを目指す.

2. 背景と目的

(1) 農外企業参入に関する既往研究

農外企業参入に関する既往研究は,大きく分けて1)業種別に参入動機や経緯,その特徴等を分析した研究(齋藤・清野,2013大野・納口,2013),2)社会学的観点から参入による地域社会への影響や効果を分析した研究(大仲,2007高山・中谷,2017),3)経営学的観点から参入企業の経営上の課題や強みを分析した研究(石田,2011山本・竹山,2009),4)参入地域の分布や傾向を分析した研究(古田,2018室屋,2015)がある.このように,農外企業参入を対象とした研究は,農業経済学や農業経営学分野を中心に相次いで実証研究が進められているが,真正面から放棄地解消への寄与や農地集積に向けた課題を論じた研究は多くない.

そうした中で,企業参入による耕作放棄地の解消や農地集積に言及した研究として,地元建設業に注目した澁谷(2009)は,建設業をさらに詳細な業種として土木系建設業と建築系建設業の2つに分けた上で,業種特性に由来する本業での経営資源の違いから,建築系は高い技術力を要する施設型農業に参入する事例が多い一方で,土木系は露地型と簡易施設型に参入する傾向があるとし,耕作放棄地の回復という観点からは土木系の農業参入がより有効であるとしており,放棄地解消と業種の関係性を論じた点で先鞭をつけている.しかしながら,建設業以外の業種について,また事業規模については比較の対象としておらず,課題として残る.

また,輪木・大隈(2011)は,参入により52haの大規模農地を経営する愛媛県の参入事例を対象に,農地の拡大プロセスを調査し,経年での拡大推移とあわせて貸借期間や小作料等を仔細に示している.しかしながら,結果は主に実態把握にとどまっており,また対象が1事例にとどまるため,同様に業種や事業規模間比較に基づく考察には至っていない.

(2) 中山間水田農業と農地集積に関する既往研究

上述のとおり,農外参入企業を対象とした農地集積に関する研究は不十分といえるが,農外参入企業に限らない農業経営体を事例対象とした農地集積の課題に関する論考は数多く存在する.

これまで大規模経営の展開について,問題点として大きく2点,① 圃場分散問題と,② 農道,水利施設等の地域資源管理問題が指摘されている.

後者について,たとえば細山(2004)は,北陸地域の大規模水田作経営を事例に,大規模借地経営体だけでは地域資源の維持は困難であり,農道や用水路といった地域農業資源の管理作業等を担う集落組織等,大規模経営体と機能分担できる体制が必要であることを指摘している.また,八木・芦田(2012)は,広島県の中山間地域における大規模水田経営体を事例に,畦畔管理作業を委託できる土地持ち非農家や小規模農家が周辺に存在することが,大規模経営体の作業効率化に寄与するだけでなく,地域内作業従事者は再受託により所得を確保できる点で相補関係にあると指摘している.

これら知見より,農外参入企業についても水田作経営の規模拡大には,管理作業を委託できる地域での体制が必要となることが予想されるが,実態調査に基づいた確認が必要であることに加えて,そうした体制構築に寄与する参入企業や地域の特徴について,参入プロセスや農外企業―地域間の関わりの面からの分析が求められる.さらに,参入事業者による営農内容は多様であることもふまえ,水田作以外の営農形態も視野に,実態を解明する必要がある.

(3) 本研究の位置づけ

以上みてきたように,農地荒廃の進む中山間地域における参入企業を事例とすることは課題対応的側面からも重要であると思われるが,中山間地域への企業参入自体が少なく,またエリアや時期が分散していることもあり,業種や事業規模を比較した上で,農地集積について論じた研究はなされていない.

そのため,それらが可能となる養父市への参入事例を対象に,既往研究から中山間地域における農地集積の課題として指摘されている地域資源管理問題について,主に,1)業種や営農形態別に参入経緯や拡大実態等を分析する視点と,2)参入した地域社会との関わりを分析する視点の2つから研究を進める.

なお,農業経営上の課題については,参入企業のうち黒字は3割にとどまり,黒字化までに平均して4.9年を要すること(日本政策金融公庫,2013)が指摘されており,対象事例は参入からおおむね5年以内であることから,本稿では議論の対象としない.

3. 方法

(1) 調査対象

1) 兵庫県養父市

養父市は兵庫県北部の但馬地域の中央に位置する人口約2万4千人の市である.2004年に兵庫県養父郡の八鹿町・養父町・大屋町および関宮町の4町が合併して成立した.面積は422.91km2で,兵庫県の5.0%,但馬地域の19.8%に及ぶが,林野面積が約84%を占めるため可住エリアは狭く,山間を流れる河川に沿って谷筋に集落が形成されている.

気候は日本海側特有の多雨多湿で,冬季は大陸からの季節風が強く積雪も多い.主な産業は農林業およびスキー場を中心とした観光業であり,主要栽培作物は,水稲(328ha),だいこん(13ha)等の他,但馬牛の繁殖農家を中心とした畜産もさかんである.

高齢化率は35.6%と高く,市内における農家数は6,014戸(1960年)から2,769戸(2010年)と年々減少しており,農地面積も最高時の3,000haから1,500haに減少している.総農家の経営耕地面積は一戸あたり平均41aであり,販売農家でも73a,自給的農家では19aと小規模である.

こうした中で,農地の貸借が進み,自給的農家と土地持ち非農家は農地の貸し手として大きな役割を果たしているが,土地持ち非農家の所有する耕作放棄地の面積は増加している.自給的農家や土地持ち非農家からの農地の貸出圧力は強く,農地の流動化は進んでいるが,その受け手となる担い手が十分に存在しないため,同時に耕作放棄地の増加が進んでいる.そのため,養父市では,不足する担い手の確保を目的に,国家戦略特区(以下,特区)事業の活用に乗り出している.

養父市では,2014年3月に中山間地農業における改革拠点として特区指定を受け,規制緩和を中心とした農業振興に取組んでいる.

具体的な規制改革の内容としては,2013年2月に農地流動化促進の観点から,農業委員会の農地の権利移動の許可関係事務を市町村で担えるようになったほか,担い手不足や耕作放棄地等の解消の観点から,2016年5月から5年間の時限立法として,企業による農地取得を特例的に認める特区法等が施行された.合わせて,養父市では農地の不適切な利用を防ぐために,農地所有権を取得する企業等が満たすべき要件として,農地の不適切な利用が認められた場合,市へ所有権を移転する内容の書面契約を,市,土地所有者および参入事業者の三者で取り交わす等の対策を講じている.なお,11社のうち4社が特区制度に基づき農地を所有しており,調査時点においてアムナックが0.65ha,やぶの花が0.25ha,兵庫ナカバヤシが0.31ha,住環境システム協同組合が0.13haを所有している.

特区指定後,市内に新たに企業が参入したことで,97人の関連雇用創出,21haの放棄地解消につながっている(2019年9月末時点).

2) 兵庫県における農外企業の参入状況

一般法人の農業参入数を都道府県別にみると,兵庫県は2019年3月時点で162法人と全国最多である.主な理由として,阪神間の大消費地に近いことや食品関連企業の立地が多いこと等が想定される.

3) 養父市への参入企業

2014年の特区指定以降,特区事業による規制緩和メニューを利用して,市内に参入した事業者(以下,特区事業者)の概要は表1のとおりである.

表1. 参入企業の概要
No 参入企業名 主な作目 営農形態 耕地面積
1 (株)クボタeファームやぶ 水稲,トマト 土地利用および施設(養液土耕) 10.2ha
2 住環境システム協同組合 リーフレタス 施設(水耕) 0.57ha
3 (株)トーヨー養父農業生産法人 トマト 施設(水耕) 0.3ha
4 やぶファーム ピーマン,葉物 土地利用および施設(水耕) 5.1ha
5 (株)アムナック 水稲(酒米) 土地利用 10.7ha
6 (株)やぶの農家 水稲,ニンニク 土地利用 8.6ha
7 (株)アグリイノベーターズ ブルーベリー 土地利用 1.1ha
8 (株)やぶさん ニンニク 土地利用 0.63ha
9 (株)やぶの花 花卉 土地利用 0.79ha
10 兵庫ナカバヤシ(株) ニンニク 土地利用 13.3ha
11 (株)三大 ハバネロ 土地利用 0.3ha

資料:市提供データおよび聞き取りに基づき筆者作成.

1)No. 2~6は3月4日,No. 7~11は5日に,No. 1のみ15日に調査を実施した.

市内に参入した事業者は13社あるが,うち2社は現地での事業を休止しており,調査時点で活動中の企業は11社である.表中の11社について,概要を順に示す.

株式会社クボタeファームやぶ(①)は,農業機械メーカーである株式会社東海近畿クボタからの出資を受け,地元農家5名と共同で2016年1月に設立した.営農面積は参入当初の5haから2019年時点で10.2ha,雇用者数は13名となっている.作目は,水稲と施設でのトマトの水耕栽培である.

住環境システム協同組合(②)は,木材・住宅関連会社による協同組合として,2016年10月に参入している.水耕栽培によりリーフレタスを生産しており,植物工場キットの開発と普及を目指している.

株式会社トーヨー養父農業生産法人(③)は,建設・不動産事業を軸にしてきたトーヨーグループにおいて,再生可能エネルギー事業を主に展開する株式会社トーヨーエネルギーファームからの出資を受け,2015年12月に設立した.水耕栽培によるトマトを生産しており,農業分野と連携しながら畜産関連事業として,家畜糞尿の液肥とメタンガス発酵による再エネ事業にも取り組んでいる.

やぶファーム株式会社(④)は,多角的金融サービス業を展開するオリックス株式会社を主な出資母体に,2015年6月に設立した.水稲および露地でのピーマンや,施設での水耕栽培による葉物野菜を生産している.地域雇用者数として,施設で約20名,露地で15名となっている.同法人の参入に先行するかたちで2014年にオリックス農業株式会社として同市内の空き校舎を活用した植物工場を設置している経緯がある.

株式会社アムナック(⑤)は,建築関連のタイル販売事業を展開する山陽アムナックを母体に,地元住民4名と共同で2015年10月に設立した.不作付地となっていた棚田に酒米である山田錦と五百万石を作付けしている.2015年の参入当初の2.7haから調査時点で約11haを耕作しており,参入地域内の全遊休地を水田復元している.

株式会社やぶの農家(⑥)は,地元建設業者である福井建設株式会社が母体となり,2015年10月に設立した.水稲のほか,ニンニク栽培に取組んでおり,参入当初の2.1haから調査時点で8.6haを耕作している.

株式会社アグリイノベーターズ(⑦)は,地元農家5名による出資を受け2014年8月に法人設立している.アグリイノベーターズと経営メンバーの重複する株式会社Teamsは,2009年より隣接市である豊岡市で営農を開始している農業生産法人である.養父市ではブルーベリーのほか,水稲を栽培しており,耕作地は元々耕作放棄地・不作付地であった土地が大半を占めている.

株式会社やぶさん(⑧)は,農業機械メーカーであるヤンマーホールディングス株式会社の子会社であるヤンマーアグリイノベーションと市内農家3名の出資により2015年4月に設立した.主に,ニンニク栽培に取組んでおり,0.63haを耕作している.

株式会社やぶの花(⑨)は,生花の卸売業者である株式会社姫路生花卸売市場からの出資を主に,2015年2月に設立した.地元で栽培希望者を募り,リンドウや小菊等の花卉を栽培しており,調査時点で約0.8haを営農している.

製本会社である兵庫ナカバヤシ株式会社(⑩)は,2015年に市内で植物工場を設置・稼働させ,リーフレタス等の生産を開始しており,同年秋にニンニク栽培を開始している.製本事業の閑散期と農繁期の重なる作物を栽培することで,周年雇用につなげることを目指している.

株式会社三大(⑪)は,隣接市の朝来市を拠点とする建設業である吉井建設有限会社を母体に2016年3月に設立した.ハバネロ等の唐辛子類を作付けしており,営農地のうちほぼすべてが耕作放棄地となっていたところである.

以上みてきたように,養父市への参入事例は,母体となる企業の業種および事業規模の両面において多様であり,かつ参入が同一時期に集中している.

(2) 分析視角

本研究における,より上位の目的は「人口減少下において中山間地農地をいかに維持するか」である.

目的達成に向けて,担い手の1つの可能性として農外企業参入に注目している.その上で,本論では大きく下記2つをリサーチクエスチョンとして設定する.

RQ1.参入後に経営面積を拡大している企業参入の特徴や条件は何か

RQ2.大規模経営においてさらなる規模拡大を可能にする企業参入の特徴や条件は何か

ここで企業参入の特徴や条件とは,業種や親会社の事業規模,営農形態といった企業の内的要因と合わせて,参入地域との関わりといった外的要因の両方を指す.

上記のリサーチクエスチョンに答えるための分析視角として,本研究では企業の参入プロセスや経営面積の推移等に関する実態,今後の拡大意向等を把握する.その上で,関連する法制度を含む社会条件や参入地域の地勢的条件の揃った企業参入事例としての比較を通じて,中山間地域において大規模な農地集積を達成する企業参入の特徴や条件を解明する.

(3) 調査方法

市の協力のもと,特区事業者11社に対して聞き取り調査を実施した.聞き取り項目は主に,参入の経緯や雇用実態,経営規模や耕作面積の拡大意向,養父市で農業をすることのメリットやデメリット等に対する事業者としての考え等について尋ねた.

調査対応は,代表者や現地の担当者等,参入の経緯や具体的かつ詳細な取組内容について把握する者に依頼した.対応者には,事前に質問項目が記載されたシートに回答してもらい,その後事務所等を訪問し,詳細について面談で聞き取る方式を採った.

事前調査シートの配布および回収は,2019年2月頃から順に進め,訪問調査は,2019年3月4,5日および3月15日の3日間で実施した.

4. 結果

参入後の経営耕地面積の実態と拡大意向について聞き取り調査からまとめると,図1のようになる.参入後に規模拡大しているのは11社中10社で,拡大していないのは三大のみであった.

図1.

拡大の実態と意向別にみた農外参入企業

資料:聞き取りに基づき筆者作成.

参入後に経営耕地面積を拡大している事業者のうち,5ha以上に拡大している5社を大規模経営として扱い,RQ2の対象とした.

(1) RQ1について

1) 外的要因

市内で自給的農家や土地持ち非農家からの農地の貸出圧力は強いとはいえ,参入企業が農地の受け手として必ずしも貸出先の候補となるとは限らない.

そこで,まず11社を対象に,周辺農家および土地所有者からの貸し出し意向程度について回答を得た.

農地の貸出意向について,11社中8社で貸したい(売りたい)という希望を聞いており,多くの参入企業が周辺農家から打診を受けていることがわかった.傾向として,広域かつ土地利用型で取組んでいる事業者に対する相談件数が多く,営農開始後しばらくすると相談を受け出す点で共通している.しかしながら,参入後に拡大のない三大についても周辺の農家から貸出希望を受けており,そのことが要因となるわけではない.

三大で規模拡大がみられない要因として,地元住民による作業協力の得にくさが挙げられる.三大の参入圃場は山際に位置し,集落人口の高齢化も著しく進んでいるため,前述のように農地貸出に積極的で期待も高いが,住民からの作業協力を得られないことがさらなる拡大を困難にさせている.

2) 内的要因

トーヨー養父は,園芸施設の事業規模拡大に伴い面積が増加しているが,これは参入当初から事業計画として予定されていたものであり,おおむね計画どおりの推移といえる.

住環境システムは,参入当初から経営面積を増やしているが,水耕栽培レタスの植物工場キットの普及がビジネスの主であるため,レタス出荷による農業収入はあるが,キット普及のための展示施設という色合いが強く,今後自社で施設面積を大きく拡げていく予定はない.

やぶの花,アグリイノベーターズ,やぶさんは,現状までの面積拡大についてはおおむね計画どおりであり,今後拡大の意向はないとしている.

施設型と土地利用型に取組むクボタeファームでは,参入当初から拡大している農地は土地利用型の水稲作に向けられている.面積が増えている理由として,参入当初から関わる現場担当者は,事業を実施していく過程で地域の信頼を得ることができたからではないか,と回答している.同様に参入時から規模を5ha以上に拡大している兵庫ナカバヤシ,やぶファーム,アムナック,やぶの農家では,いずれも水稲作で耕作面積を広げている.

最後に,業種や事業規模,営農形態別にみると,大きく規模拡大をしている営農形態は水稲であるが,業種・事業規模と耕地面積拡大の関連性については特に傾向がみられなかった.

(2) RQ2について

1) 外的要因

今後の拡大意向について,地元住民の作業協力の有無が,さらなる面積拡大の要因となっている.

クボタeファームでは,引き続き耕作してほしいという希望はあるものの,現在は積極的に借り受けていないということであった.今後さらに受け入れるにあたって考慮する条件としては,使用貸借であること,また面的にまとまりのある農地であれば受け入れたいとしている.

借り受けに積極的でない理由として,草刈にかかる労力の捻出を挙げており,地元住民へ日役として出てもらい,作業委託するような協力体制が取れれば受け入れたい,と回答した.

兵庫ナカバヤシは,2015年当初の0.7haから調査時点で13.3haに拡大しているが,現時点で拡大の意向はなく,今後の借り受けは使用条件により検討するとしており,その際に用水路等の維持管理にかかる出役等を引き受け条件の1つに挙げている.

参入当初は20ha程度を耕作する計画を持っていたが,進めていくうちに12から13ha程が限界と感じるようになり,計画を下方修正したという.理由として,繁忙期における草刈の人手不足を挙げており,今後は,燃料費や消耗品費等は事業者が負担するかたちで,草刈作業を地元住民に委託することで協議しているという.

アムナックは,当初約3haから開始し,3年後に10ha以上を耕作しており,今後も規模拡大の意向を持っている.農地を復元しながら拡大していく過程では,耕耘や代掻き,草刈等で手の回らないところを地元農家に支えられるかたちで乗り切ってきたという.参入地域の人・農地プランにも担い手として組み込まれており,集落での放棄地再生事業に位置づけられていることからも,地元と一体的に取組んでいることが伺える.

やぶの農家は,2016年の参入当初の2.1haから2019年時点で8.6haを耕作しているが,農地の受入については希望のあった農地は基本的に借り受けるという方針をとっている.周辺では使用貸借が多い中,借地料を払う代わりに日役等には地権者にも出てもらうようにしているという.水や畦畔は事業者で管理している.

2) 内的要因

拡大意向を持たない内的要因に経営の見通しがある.やぶファームは,当初の計画どおり2018年から施設園芸を開始しており,これを機に農地面積は拡大しているが,今後当面は経営規模を現状維持としている.理由に,施設園芸の稼働初年度で適正な経営規模の見通しが立っていないことを挙げている.

5. 考察

(1) 業種・規模別にみた営農形態の違いと拡大傾向

結果より,まず参入企業の経営耕地面積の拡大意向について,水稲等の土地利用型で拡大意向を持っている事業者が多かった.

施設型は,参入当初に順次拡大していくことを計画的に進めていない限り,設備への初期投資がかかること,また労働集約型であるため人手を増やせない,スケールメリットを活かせないといったことが参入後に拡大意向を持ちづらい理由であると思われる.なお,澁谷(2009)の指摘する本業が建築系等の施設工事に関して高い技術力を持つ事業者が施設型で参入する傾向は,本事例でも見られた.

次に,拡大実態や意向,また営農形態と業種や事業規模の関連性については特に傾向がみられなかった.その理由として,1つには,業種や事業規模を比較するのに十分な件数がないという調査設計上の課題があり,もう1つ,事業規模に関しては,出資比率に制限があるため,母体の資金力が参入事業体の資金規模に直結しにくいことが考えられる.

(2) 課題となる労働力不足と地元との連携体制

規模拡大を望む事業者であっても,まとまった農地でないことや拠点から距離があること等の集約化に関する課題に加えて,労働力不足により想定していたように規模を拡大できないという課題があった.特に,労働力に関しては,草刈作業や用水路等の維持管理が共通して負担となっていた.

一方で,今後もさらなる拡大意向を持つアムナックと,積極的ではないにせよ希望があれば今後も受け入れるとするやぶの農家では,草刈等の一部作業を地元住民が請け負う体制をとっている.このかたちは拡大に向けた条件としてクボタeファームが望む体制であり,兵庫ナカバヤシが今後導入を検討している体制でもある.

元々地権者が各自で管理していた農地での生産作業と管理作業,また皆で管理していた共同部分のうち,すべてを事業者が賄おうとした場合に限界が出てきている.日役等により管理作業への地権者等の地元住民の作業協力が一定程度あることが,さらなる面積拡大の要因になっているといえる.

(3) 参入地域の選定方法

最後に,事業者による参入地域の選定方法と参入後の耕作面積の拡大傾向について言及したい.養父市は全域が中山間地域のため,全国的に生産条件の良い土地柄とはいえないが,中でもアムナックの参入農地は棚田のため急傾斜であること,また多くが不作付地であったことから,市内でも決して生産条件が良い農地であるとはいえない.

一方で,やぶファームやトーヨー養父の参入した地域は,比較的開けた平野部であり,生産条件は市内では悪くない.こうした地域の場合,参入後に参入当初のような地点周辺にまとまった農地の貸出希望が出てくることが起きづらいのではないかと思われる.

そのため,生産条件ではなく,地元の要望の高さや不作付地が発生しているといった状況を基準に参入農地を選定した場合で,参入後に面的な広がりが起こっており,農地集積が進んでいることが見受けられる.結果として,そうした判断から参入地を選定した事業者が,より広域な放棄地解消の担い手となっている.一方で,土地持ち非農家等の高齢化が進み過ぎていると,維持管理の作業協力を得にくいというジレンマがある.なお,本論の主眼ではないため詳述は避けるが,企業による農地の所有面積は全体で1.3haにとどまっており,特区により所有が可能となっても,農地取得は限定的で,中山間地域における参入企業による農地所有は現時点において進まないと思われる.

6. おわりに

本稿では,養父市への企業の農業参入を事例に,営農形態や参入地域との関わりに着目し,農外参入企業の経営面積の拡大について論じてきた.

まず,参入企業の経営耕地面積の拡大実態について,水稲等の土地利用型で参入後に面積を大規模に拡大している事業者が多かった.しかしながら,こうした営農形態と業種や事業規模の関連性については特に傾向がみられなかった.

次に,大規模経営においてさらなる規模拡大を可能にする企業参入の特徴として,日役や水路管理に関する地元の作業協力が一定程度あることに加えて,新たな借り受け農地が集約されていることや参入拠点と近接していることがあり,そうでない参入事例とこうした違いが生じる背景には,参入地域の選定段階において生産条件の高さを重視したか地元住民からの要望の高さを重視したかが一定程度関係していることがわかった.

本稿では,11社のうち,参入後に経営面積を拡大し比較的大規模に耕作する5社は共通して土地利用型であること,さらなる規模拡大には周辺作業にかかる労働力をいかに確保するかが要点となっており,その際に地域の協力体制が拡大意向に関わることをみてきた.こうした結果は,先述の水田農業の大規模化に向けた体制に関する知見とも一致しており,妥当性が高い.そのため,農地の面的維持や耕作放棄地の解消を企業参入促進の第一義とみるならば,土地利用型の営農を検討する企業と,担い手への要望が高い(=周辺に農地の引き受け手がおらず,すでに遊休地となっているか数年以内にそうなる可能性が高い)エリアのマッチングを積極的に促すことがより効果的といえる.

以上より,新たな担い手による耕地面積の拡大および担い手への農地集積に向けては,農外企業をはじめとした新たな農業の担い手の誘致とあわせて,地域内の農道や用水路等の管理作業を担う団体の組織化といった地域での体制づくりに向けた対策が両輪で求められるといえる.

なお,事業者の業種や事業規模の違いによる放棄地解消や農地集積との関連性については論点の析出にとどまった.この点についてはさらに詳細な検討が必要であるため,今後の課題としたい.

謝辞

本研究は,JSPS科研費19K15927,18K11752の助成を受けて実施した.また,調査の実施にあたり,養父市国家戦略特区チームの皆様,さらに調査に応じていただいた養父市内特区事業者の皆様には多大な協力を得た.記して感謝申し上げる.

引用文献
 
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