農林業問題研究
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個別報告論文
中山間地域の集落営農法人における世代交代のプロセス
―島根県Y法人を事例として―
髙田 晋史柴崎 浩平中塚 雅也
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2021 年 57 巻 4 号 p. 152-158

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Abstract

In this study, the process of generational change and the support system for successors in a small-scale community-based farming corporation in a hilly and mountainous area are considered. For this purpose, several interviews were conducted with the successors and other people concerned. As a result of the analysis, the following points about generational change were revealed. First, in order to secure successors from within the community, it is necessary to provide them with opportunities to be involved in agriculture from an early age. Second, after securing successors, management resources should be concentrated to provide a friendly working environment for them. Third, generational change is usually accompanied by a long period of time for successors. However, more time is needed for tasks where experience is required. Therefore, support from former manager and executives is necessary to continue after a generational change.

1. 課題と方法

全国の集落営農法人では,生産年齢世代の人材確保及び定着が課題である.島根県では,担い手不在集落が1,094あり,県の農業就業人口に対する65歳以上の割合は77.6%と全国で最も高齢化が進んでいる1.こうした中で,県は全国に先駆けて集落営農を推進し,集落営農の組織化が早くから進んだ.集落営農は土地の所有権を個人に残したまま,その利用権を集落あるいは地区全体に設定し,農地を共同で管理しようとするシステムである.島根県など中国地方の中山間地域では,過疎化や高齢化の進展を背景に,数人の専従者に作業を任せるタイプが一般的である(松永,2012).現在,島根県では,集落営農組織が651,うち法人組織が247設立されている(2019年3月現在).特に,集落営農法人の多くが中山間地域に位置し,7割以上が経営面積20ha以下と小規模である2

現在,多くの集落営農法人が抱えている課題は,後継者の確保や後継者への世代交代である.農業経営における後継者の確保率は低下しており,かつ継承時期の高齢化が指摘されている.特に,集落営農においては前経営者の体力限界などを背景に,準備段階を経ずに継承される傾向にあることも報告されている(高橋・牛腸,2017梅本・山本,2019澤田,2019).こうした中で,いかにして後継者を確保し,スムーズな世代交代を実現するかが課題である.

以上から,本研究では島根県内で最も若い組合長へと世代交代したY法人を事例とし,世代交代のプロセスや後継者へのサポート体制を考察し,中山間地域における小規模な集落営農法人の世代交代の要点を考察する.特に,今回取り上げたY法人は,時間をかけて戦略的に若い後継者への世代交代を実現した事例であり,中山間地域における小規模な集落営農法人の世代交代を考える上で多くの示唆を与えると考える.

研究にあたっては,現地での対面およびオンラインにてヒアリング調査を複数回実施した.ヒアリングの対象は,島根県担当職員,Y法人の組合長と前組合長,研修生A氏とB氏であり,2020年8月~2021年5月にかけて調査を実施した.

2. 既往研究の整理

農業経営における後継者への世代交代及び経営継承に関する研究は一定程度の蓄積がある.

まず,世代交代のプロセスにおいて,山本・梅本(2008)山崎(2018)は,農業経営の第三者継承における現経営者と後継者の併走に着目して分析を行っている3.具体的に,山本・梅本(2008)は,第三者継承にあたり併走期間が短いと無形の経営資源が確実に継承されないリスクがあり,併走期間が長いと信頼関係が失われるリスクが高くなることを指摘している.また,山崎(2018)は経営形態や後継者のタイプにより多様な併走方法があり,併走における課題の克服にあたっては,より多くの事例の積み重ねが必要であると指摘している.このような世代交代及び経営継承における併走の重要性については,角田(2015)山本(2011)などの研究でも指摘されている.また,柳村(1998)山本(2011)の研究では,後継者に交代した後も継続したサポートが必要であることも指摘されている.

次に,農業の世代交代を議論する上で,家族間での継承か,第三者への継承かに分けて考える必要がある.これまでの農業経営は,家族経営を軸に親から子への継承を前提としてきたが,この仕組みが限界にきており,第三者への継承を視野に入れた人材確保と育成の重要性が指摘されてきた(迫田,2004).その一方で,集落営農の特性から考えると,世代交代において最も理想的なのは,組合員世帯から後継者を確保し世代交代を図ることである.加えて,一般的に農業の経営継承では,資産の継承などにも着目した議論をすべきであるが,農家集団として設立・運営されている集落営農法人は,資産の継承などについて独自のものは存在しない(柳村,2003).このことは,本研究が経営継承ではなく,世代交代という用語を用いている所以である.

これらの研究はいずれも,丁寧に分析されたものであるが,小規模な集落営農法人を対象とした研究の蓄積は十分ではない.また,組合員世帯から後継者を確保して世代交代をする場合は,後継者の確保が容易ではなく,これについては幼少期から農業に関わるよう働きかけをすることが効果的とされている(山本,2011).そして,有望な後継者を確保した場合,何をどのように継承していくかという視点はもちろん大切だが,中山間地域における小規模な集落営農法人を想定した場合,限られた条件の中でいかにして後継者に資源を集中させていくかという視点も重要になってくる.この点において,既往研究では十分な議論がされてこなかった.したがって,本研究では世代交代のプロセスを考察する過程で上述の点にも着目する.

3. Y法人の組織構造と運営

1はY法人の概要を示している.Y法人は島根県西部の中山間地域に位置し,1992年にK自治会を構成する6集落のうち2集落で営農組合が組織されたことに始まる.設立にあたっては,前組合長と現組合長(以下,組合長)の父親が中心となり,営農組合時代は組合長の父親が代表を務めた.

表1. Y法人の概要
法人形態 農事組合法人
設立年次 1992年 法人化 2005年
組合員数 26戸45名(5名は域外居住)
研修生 2名(A氏:前組合長の義娘,B氏:域外出身者)※農の雇用事業
事業内容 営農,作業受託,農産物加工,集落放牧
経営面積 18.2ha(水稲13ha,転作作物5ha,施設野菜0.2ha)
販売先 JA,ふるさと納税,ネット直販,スーパー,地元の直売所,学校給食
売上高 約2,500万円(2020年)

資料:ヒアリング調査に基づき作成.

営農組合当時は,組合長の父親と法人化した後の初代組合長が不在地主の土地を預かっていたが,営農組合を設立して10年以上が経過し,機械が老朽化したことや不在地主との賃貸借契約が切れることなどを背景に,2005年に法人化されY法人となった.法人化にあたっては,農機具更新共済の積立金を出資金とし,当初8haの農地を集積した.

現在,Y法人の組合員は26戸45名であり,そのうち5名が地域外に居住している.組合員の平均年齢は68歳であり,42歳の組合長は最年少である.

組合員に加え,Y法人では「農の雇用事業」で研修生A氏(37歳),B氏(21歳)の女性2名を受け入れており,両者とも今年が事業最終年である4.現在,A氏は路地野菜や広報,B氏は施設野菜を担当している.A氏は前組合長の義娘であり,現在は法人会計も担当している.組合長によると,現在法人の活動にコアに関わる組合員は14名(うち男性6名,女性8名)と研修生2名であり,そのうち常時従事しているのは組合長と研修生2名の3名である.

事業内容について,設立当初は水稲と作業受託を行っていたが,2008年から農産物加工事業,2012年からは野菜栽培を開始した.2015年からは集落放牧を開始し,現在では牛を15頭飼育している.

経営面積は18.2haで,そのうち水稲13ha,大豆などの転作作物5ha,施設野菜0.2haとなっている.販売先は,JA,ふるさと納税,ネット直販,地元のスーパーや直売所,学校給食などである.2020年の売上高は約2,500万円で,内訳は44%が水稲,17%が加工品,9%が作業受託である.

1はY法人の組織構造を示している.役員は理事10名,監事2名である.理事には女性が3名入ることになっており,理事の任期は3年である.前組合長は2020年まで理事を務め,2021年からは監事を務めている.また,組合長の父親は2020年まで監事を務め,2021年からは法人のどの役職にもついていない.組合長と副組合長は各1名で,ともに理事である.その下に経理などを行う総務部,水稲・野菜栽培を行う営農部,作業受託を行う機械部,農産物加工を行う加工部がある.各部署には担当者が2名配置され,それぞれ理事も兼ねている.理事会は月1回開催され,参加者は理事10名に加え,法人会計を担当している研修生A氏,多面的機能支払交付金受け皿組織の代表をしている組合長の父親の12名が参加している5.理事には役員報酬として月1万円の手当があり,組合長と副組合長はそれにプラスして手当がある.また,会計担当にも手当が支払われている.総会は年1回開催され,全組合員が参加して会計や法人運営に関する報告や議論,役員や会計担当の選任が行われる.

図1.

Y法人の組織図(2020年)

資料:ヒアリング調査にもとづき作成.

4. 世代交代と環境整備のプロセス

(1) 後継者と農業との関わり(幼少期~Uターン)

組合長は幼い頃から実家の農業を手伝い,それが楽しい思い出として残っていたことから,将来的に農業をやりたいと考えていた.そのため,農業・畜産・水産が学べる関東の大学に進学した.在学中も帰省した時は,父親の声かけにより実家の農業を手伝っていた.また,大学時代は,農業に興味があったことから,下宿の近くで畑を借りて農業をしていた時期もあった.さらに,ホームページを作るのが好きであったことから,Y法人を応援するページを作成し運営していた.

大学卒業後,一般企業に就職したが2011年に就農のためにUターンを決意した.その際,いずれはY法人に関わりたいと考えていたが,父親は自身が農業で苦労をした経験から,組合長が地元で専業農家になることについては反対であった.このことから,他の農業法人で研修する道を選んだ.

(2) 世代交代のプロセス

2は,ヒアリング調査にもとづき,Y法人における世代交代と環境整備のプロセス,それから組合長を支える前組合長や組合長の父親とY法人との関わりを時系列にまとめたものである.

表2. Y法人における世代交代と環境整備のプロセス(2011年~)
世代交代と環境整備のプロセス 前組合長,組合長の父親と法人の関係
世代交代(組合長の法人での役割) 環境整備 前組合長 父親
2011 組合長がUターン,法人でアルバイト ハウス整備,機械購入ため池整備 組合長
2012 法人で研修,施設野菜担当,多面的会計 組合員の裾野拡大 組合長・多面的 理事(総務部長)
2013 法人で研修,法人会計 組合長妻が地元で就職 組合長・多面的 理事(総務部長)
2014 法人運営全般を担当,組合員になる 従事分量配当の調整 組合長・多面的 理事(総務部長)
2015 理事(総務部長)に就任,中山間会計 組合長・多面的
2016 組合長・多面的
2017 組合長
2018 組合長に就任 理事(営農部長) 多面的・監事
2019 理事(営農部長) 多面的・監事
2020 理事(営農部長) 多面的・監事
2021 A氏は組合員,B氏は継続雇用(予定) 地代変更,従事数調整 監事 多面的

資料:ヒアリング調査に基づき作成.

1)“多面的”とは多面的機能支払交付金受け皿組織の代表であることを示している.

2011年から組合長は,「UIターンしまね産業体験事業」を活用し研修を始めたが,当初は施設野菜による新規就農を目指していたため,市内における他の農業法人で研修しつつ法人の事業にはアルバイトとして従事した6.翌2012年から2年間は「半農半X支援事業」の支援を受け,法人が組合長を研修生として受け入れた7.こうした中で,前組合長は,組合長が興味を持っている施設野菜を担当させ,さらに多面的機能支払交付金の会計処理を任せた.

2013年になると,当時総務部長であった父親から法人会計も任されるようになり,これを機に組合長は法人の経営状況を理解するとともに,法人の経営が比較的安定していることを知った.また,この時期,組合長は施設野菜で新規就農をしても収益を上げることの限界を感じていた.それに加え,結婚・長男の誕生という自身のライフスタイルにも大きな変化があった.そうした中で,施設野菜は多くの労働時間が必要であり,家族との時間が少なくなる.何より,法人の発展を考えると,法人事業の主力である水稲に注力すべきであると考えるようになった.

2014年には研修期間が終了したため,組合長は出資をして組合員となり,施設野菜担当から法人運営全体を任されるようになった.そして,2015年には父親の後を引き継いで理事(総務部長)になり,中山間地域等直接支払交付金の会計処理も任されるようになった.2017年度の総会で組合長の交代が承認され,前組合長は営農部長として理事に残り,組合長の父親は監事に就任することが決まった.

(3) 後継者受入の環境整備

ここでは,世代交代の際にどのような環境整備が行われてきたのかを整理する.

前組合長は,組合長がUターンしたタイミングで,施設野菜の栽培環境を整えた.具体的には,補助金などを用いて5棟あった水稲用の育苗ハウスを施設野菜用に改修した.また,組合長が興味を持っていたメロンの栽培ができるようにため池を整備し,ハウス3棟分の水を賄えるようにした.さらに,トラクターやコンバインを購入するなど設備を整えた.

2012年には,組合員をさらに確保するため,従来の世帯あたり1名の組合員という決まりから,組合員の家族にまで出資者を広げ,組合員になるよう呼びかけた.そして,定款を改正し,理事を8名から10名にし,うち3名を女性にした.これにより,24名の組合員が45名に増えただけでなく,女性や息子世代の加入が進んだ.中でも女性の加入は,農産物加工事業の拡大につながり,現在でも多くの女性が法人事業に積極的に関わっている.こうした施設野菜事業の開始や加工事業の拡大は,年間を通して働ける場を整備する目的もあった.

2013年には組合長の妻が公民館の職員として働くようになる.これについては,前公民館長と組合長の父親とが元職場の同僚という関係から声をかけられたということで,世代交代のための戦略的な取り組みではない.しかし,世代交代にあたり,組合長の妻の雇用が域内で確保されたことは,家計の安定という点でも重要なポイントである.

2014年には前組合長が組合長の人件費を賄うために,まず250万円分を従事分量配当から引き,その残りを組合員に配当することを理事会,そして総会で提案し,承認された.当時は組合長の父親も理事を務めており,合意形成において父親の存在も大きかったのではないかと考えられる.組合長の人件費について,前組合長は島根県の平均年収や認定農業者の経営改善計画における収入基準を参考に,最低でも年間300万を確保したいと考えていた.このため,前述した250万円に,年間10万円の手当てがある各会計業務や20万円の手当てがある農業委員を任せることで,300万円の人件費を実現している.

ちなみに,2021年は研修生であった前組合長の義娘のA氏は組合員に,B氏は従業員として雇用される予定である.そのために,地代を10a当たり6,000円から3,000円にし,かつ組合員の従事数を制限することで,人件費の確保をはかっている.

5. 後継者へのサポート状況

水稲における後継者育成には時間がかかることや無形資産の継承は容易ではないことは,既往研究でも指摘されてきた(山本,2011).組合長は元々,水稲について学んだ経験はなく,経験豊富な組合員と一緒に作業をすることで技術を習得していった.そして,ある程度の経験を積むと,組合長は1人で作業を任されるようになった.こうした中で,前組合長は必要に応じて稲作技術に関するDVDを組合長に渡すなどのサポートもしている.現在,組合長は稲作に関する作業は一通りこなせるようになったが,水管理など経験に依存する作業は前組合長や父親のサポートを必要としている.

資材調達や作付について,施設野菜に関することは最初から組合長に全て任されていたが,水稲に関することは2016年ごろから組合長が関わるようになった.それからしばらくは,前組合長と一緒に作付などの意思決定を行なっていたが,昨年から1人で意思決定をするようになった.しかし,その際には前組合長のアドバイスを参考にしている.

販売について,前組合長は携帯電話を持っていないことから,商品に対してのクレーム対応やラベルの貼り間違え,値札の貼り忘れ,商品在庫の問い合わせなどは組合長自らが対応している.

地域住民との関係については継承が困難である.前組合長からは,地域住民からの相談には必ず第三者を立てることなど,組合員をはじめ地域住民に対する対応に関してその都度アドバイスを受けている.一方で,米の販売や農地の貸し借りについての相談は,依然として前組合長に入ってくることが多く,前組合長はその都度まずは組合長に話すよう相手に説明している.

この他,県やJAの農業普及員からは技術的なアドバイスを受けている.また,行政による研修がきっかけで知り合った他の法人の組合長などとも連絡を取り合い,相談や情報交換をしている.さらに,組合長にとって研修生のA氏が果たしている役割は大きい.A氏は1年目から法人会計を任され,組合長が行っていた事務作業の一部を担っている.これにより,組合長は補助金申請などに集中することが可能となった.

2は組合長への世代交代のプロセスで前組合長と組合長の父親が果たした主な役割を示したものである.まず,Y法人の世代交代は,主に組合長と前組合長の併走を軸に行われてきた.したがって,図2では組合長が加入してから組合長に就任するまでを併走期としている.ちなみに,ここでは組合長がUターンをし,アルバイトとして法人に関わる2011年からを加入としている.

図2.

世代交代のプロセスで前組合長と組合長の父親が果たした役割

資料:ヒアリング調査にもとづき作成.

組合長が法人に加入してから7年間,前組合長は伴走しながら組織設立時の思いや法人を核に農地を守る思いなどの経営理念を伝えてきた.前組合長は自身が参加する行政の研修や視察には必ず組合長を同行させており,こうした機会を通じて,組合長は経営理念や集落営農についての理解を深めていった.また,前述のように,前組合長は組合長の受け入れにあたり,施設野菜事業を行うための環境整備や組合長の給料を支払うための合意形成なども行っている.後継者がやりがいを感じて働く環境整備の重要性は,既往研究でも指摘されていたが,集落営農法人にとってはそのための合意形成が得られるかも重要となる.さらに,組合員や地域住民への対応については,その都度アドバイスをしている.一方,組合長の父親は,組合長に農業技術(特に水稲)のアドバイスを行い,水管理など経験に依存する作業をサポートしてきた.この他,組合長へのヒアリングから,父親は組合長の精神的な側面や家族をサポートする存在としても重要な役割を果たしている.

こうした様々なサポートを背景に組合長は,加入から5年目で理事に就任した.また,法人会計を任されたことが,法人の経営状態を理解することにつながり,施設野菜から法人全体の管理に関わるようになった.

組合長に就任した後も,前組合長や父親は法人幹部としてサポートする後見人の役割を果たしている.したがって,図2では組合長に就任してからを後見期としている.当初は,前組合長や父親が見かねて指示を出すことが多く,指示系統が複数存在し混乱した時期もあったが,現在は組合長の活動に口を出すことはせず,必要に応じてサポートをしている.具体的に,前組合長は組合長と住民との交渉に同行したり,理事の世代交代を促進し,若手が組織運営に関わりやすい環境を整備したりしている.また,住民からの相談があれば,組合長に橋渡しをしている.父親は併走期と同様,経験に依存する作業や組合長の精神的側面,家族をサポートしている.

6. まとめ

本研究では,島根県Y法人を事例に,中山間地域における小規模な集落営農法人の世代交代のプロセスを考察した.

まず,中山間地域における小規模な集落営農法人の人材確保にあたり,地域内で後継者を確保することは容易ではない.しかしながら,集落営農法人という特性上,縁故者を後継者とすることが理想的である.本研究において,組合長は幼い頃から家の農業に関わることで,農業に興味を持つようになった.このことから,既往研究でも指摘されているように,縁故者を後継者とするには,幼少期から農業に関わる機会を提供するなどの働きかけが重要である.また,組合長が法人を担う決心をした背景には,法人の安定した経営と結婚・子育てという組合長自身のライフスタイルの変化も関係していた.

次に,組合員の裾野拡大は,子供世代や女性の加入を促進した点で評価できるが,何より組合長が加入しても父親が法人に残ってサポートできる体制が整えられたという点で重要な意味を持った.また,前組合長は組合長が加入した段階から後継者として目を付け,限られた資源を集中させ,組合長が働きやすい環境を整えた.このように,世代交代においては戦略的な資源の集中が重要である.この他,組合長の妻の雇用が地域内で確保された事は世帯収入をさらに安定させる意味でも重要であった.このことは,世代交代を行う本人だけでなく,その家族の生活までサポートする仕組みが重要であることを示唆するものである.

そして,本研究では組合長へのサポートにおいて重要な役割を果たした前組合長と父親に注目したが,実際はこの2名以外にも組合長をサポートする組合員が多く存在する.本研究では,この点について十分な考察をすることができなかったが,集落営農法人には比較的多くの役員が存在し,複数の関係者で役割分担をしながら後継者を育成することも可能である.ここに集落営農法人ならではの有利さがあるのではないかと考えることもでき,今後さらに着目していきたい.

さらに,世代交代においては,時間をかけた併走による世代交代が重要であるが,それでも経験知に基づく取り組みや住民との信頼関係などの継承にはさらに時間が必要である.この点において,世代交代後も前組合長や幹部が後見人として組合長をサポートすることが重要になってくる.本研究の事例では,前組合長と組合長の父親が緻密に連携し合いながら,世代交代を実現したという事実関係は確認できなかったが,ともに立ち上げメンバーでもあることから,両者は何らか連携を取りながら組合長をサポートしていた可能性もある.

最後に,中山間地域の集落営農法人は多様な環境下にあり,本研究から得られた知見の他地域での活用には課題が残る.今後は,複数の事例を分析し,これらの知見を更に検証していく必要がある.

謝辞

本研究はJSPS科研費JP18H02291の助成を受けて実施した.

1  県担当者へのヒアリングと県から提供された資料に基づく.

2  前掲資料に基づく.

3  山本・梅本(2008)は併走を経営者と後継者とが1つの事業に携わることとしており,本稿でもこれに従う.

4  「農の雇用事業」は農林水産省の事業で,就農希望者のタイプに応じて2~4年の期間に年間最大120万円が支給される.

5  2021年現在,総務部と機械部が各1名体制となり,理事は8名となった.したがって,現在の状況とは少し異なる可能性があるが,本文ではヒアリングにより詳細を把握している2020年現在の状況をまとめている.

6  「UIターンしまね産業体験事業」とは,公益財団法人ふるさと島根定住財団による支援であり,県外在住者が県内で一定期間(最長1年)産業体験を行う場合に,体験者に月12万円,受入先に月3万円などが支給される.

7  「半農半X支援事業」は県による就農支援であり,U Iターン者が行う農業研修を支援するものと,定住・就農開始後の助成をするものとがあり,どちらも最長1年で,月12万円が支給される.

引用文献
 
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