農林業問題研究
Online ISSN : 2185-9973
Print ISSN : 0388-8525
ISSN-L : 0388-8525
大会講演
コロナ禍における農業生産・販売
―地域からの実態報告―
松村 一善
著者情報
ジャーナル フリー HTML

2022 年 58 巻 1 号 p. 52-55

詳細

1. 背景と目的

本特別セッションの目的は,主に西日本地域における食と農に関連したコロナ禍への対応状況に関する情報を収集すること,特に農業生産・農産加工に関連した現場における様々な実務者からの報告を求め,情報を整理・共有することである.

新型コロナウイルス感染症は2019年12月に発生が確認されて以降,世界中に感染が拡大し,2020年3月11日には世界保健機関(WHO)がパンデミックになっていると宣言するに至った.わが国でも,2020年1月に最初の感染者が確認されて以降,感染者が増加し続け,同年4月に1回目の緊急事態宣言が発出された.緊急事態宣言とその前後でのまん延防止等重点措置の要請は,川上から川下に至るわが国のフードシステム全体に多大な影響を与えた.

新聞報道等を参照する限り,稲作・酪農においては,販売単価の低下や在庫水準の高止まりにより,経営環境の悪化が問題となっている.2021年9月に入って報道されたように新型コロナウイルス禍による業務需要の低迷で米の民間在庫量が適性水準を大きく超過していることから,21年産米の概算金は前年産から2~3割引き下げられている.一方で,直売所やインショップほか,消費者への直接販売における取引数量の拡大,販売単価の高位安定により,高い収益性が続く品目が存在することも指摘されており,農業生産へのコロナ禍の影響は品目による違いが大きく残っている.

コロナ禍がフードシステムに及ぼすインパクトについては,公式な記録としての統計利用が可能になるまでにタイムラグが存在するため,学会や関連する団体・大学等での議論が本格的に展開するまでには一定の時間を要した.2020年度農業経済学関連学会協議会(2021年3月28日)において,学術会議農業経済学分科会からの呼びかけに基づき,コロナ禍における農業・農村の現状に関連するテーマについて,学協会と学術会議の間の情報共有が提案され,関連学協会では2021年度に入り,様々な議論がはじまっている.そこで,当学会としても関連する特別セッションを企画することとした.その際に,今年度開催された各学協会のシンポジウムで対象としているのが,フードシステムの川中・川下を対象とした議論が中心であり,川上の生産に関わる議論が少ないこと,地域農林経済学会は「地域の実態に即して農林業問題に関する経済的・社会的研究を進め,農林業の発展に寄与する」ことを目的とし「地域の実態把握に基づく研究及び研究者・指導者・農業者の相互交流による農林業・農村問題の解決を目指した研究」を行ってきたという特徴をふまえ,主に西日本地域における食と農に関連したコロナ禍への対応状況に関する情報を収集すること,特に農業生産・農産加工に関連した現場における様々な主体からの報告を求めることとした.

その際,コロナ禍の影響の程度や影響の原因も品目によって異なること,コロナ禍に対する支援策の利用状況についても対応の違いがみられることから,特別セッションでは6つの事例報告を設けた.

2. 各報告の位置づけと概要

各報告と概要は以下のとおりである.

座長:松村一善(鳥取大学)

第1報告「新型コロナウイルス感染症による農業および周辺産業への影響―統計などによる概観―」吉田晋一(農研機構)

第2報告「島根県の事例:半農半X実践者の移住・就業・就農実態とアフターコロナに向けた課題と展開方向」山本善久(島根県農業技術センター)

第3報告「愛媛県の事例:農業労働力の産地間連携の取組と新型コロナへの対応」河野晃範(西宇和農業協同組合)

第4報告「鳥取県の事例:ビジネスチャンス到来!?在庫活用で新規顧客の獲得へ」田中里志((有)田中農場)

第5報告「岡山県の事例:加工業務用に生食用・小売用等を加えて販路と事業を拡大―大規模露地野菜作の事例―」大平貴之((有)エーアンドエス)

第6報告「広島県の事例:コロナ関連施策を活用したスマート農業化等による中山間農業創生の可能性―行政書士としての支援経験から―」古川充(合同会社なるさ|古川充行政書士事務所)

第1報告(吉田)では,コロナ禍によって川上から川下に至る経済活動にみられる変化を統計情報等によって跡付け,その後の各報告の背景となる国内外の状況を概観した.第1に,農業資材についてはサプライチェーンの大きな混乱はみられず,農業資材への影響は限定的であったこと,一方で農業資材の供給構造はグローバルなサプライチェーンに依存していることから,他産業のようなサプライチェーンの混乱にともなう減産が生じないのか検討が必要であることが指摘された.第2に,農業労働力への影響として,他産業のような大規模な生産への影響は報じられていないこと,一方で「人の移動制限」により労働力確保面で混乱し,現場や政府は柔軟な対応を求められたことが指摘された.第3に,農業経営自体への影響として,茶や肉用牛経営で影響が大きかったこと,外食産業や農産物直売所に出荷する経営は一定割合存在し,また野菜は重量ベースで約6割が加工業務用に仕向けられていることから,「接触・対面型のサービス」や「人の移動制限」の影響を強く受けた外食向け,直売所向けに出荷を行う経営では対応を求められたことが指摘された.第4に,加工流通への影響としては,家計調査から食料関係支出をみると,外食で著しい減少がみられ,緊急事態宣言期間以外も以前の水準を回復していないこと等が指摘された.第5に,消費への影響として,2020年の消費支出は過去10年で最大の6%の減少がみられたが,食料支出額は維持されていることから,食料消費は堅調であり,農業は概ね安定的な食料生産・供給を果たしていたことが指摘された.

以上をふまえて,今後の感染拡大や他のパンデミック,ひいては多様な危機に対する農業と周辺産業および食料供給のレジリエンス確保に資するため,詳細な分析が必要となることが提起された.

第2報告(山本)では,島根県における半農半X実践者の経営実態の分析をふまえ,アフターコロナに向けた課題を論じた.「田園回帰」による人の流れが全国的な広がりを持ちながら継続している中で,現在,新しい農村政策の在り方に関する検討会では,半農半X等の農業と様々な仕事を組み合わせた農村での暮らしの実現・支援にむけた検討が行われている.島根県では全国に先駆けて2010年度より,多様な担い手,就業形態のひとつとして半農半Xを位置づけ支援する事業を行ってきている.島根県の半農半X支援事業は,①県外からのUIターン者,②就農時年齢が65歳未満,③農業部門の売上50万円以上,④市町村が半農半X就農・定住モデルを策定,の4点を事業要件とし,①就農前助成(最長1年間),②就農後助成(最長1年間),③機械整備の助成を行っている.また,就農前助成を受ける前にUIターンしまね産業体験事業に参加することが一般的な就農ルートとなっており,篤農家等での就農前研修期間は平均で1.6年となっている.

島根県における2020年度の新規就農者数は2000年度以降では最高の185人であり,そのうち自営就農者数は60名,自営就農者のうちUIターン者は41人,半農半X認定者の数は11名であった.一方,2021年度は産業体験実施者数が過去最高の人数となったが,9月段階の半農半X認定者は0人であり,コロナ禍による移動制限等の影響が示唆された.

島根県農業技術センターが2017~19年度に実施した研究成果によれば,行政としては,事業を有効活用しながら「本格的自営就農」を目指すかたちへ誘導したい様子であり,経営実態をみても半農半X認定者の生計の主体は農業部門であった.ただし,X部門は農業での雇用や冬期限定の除雪作業等が多く,確実に現金収入を確保することに貢献しており,就農直後や中山間地域における冬場の収入確保に効果を発揮していた.また,Iターン者が多く,住居確保が大きな課題となっているが,空き家バンク等の公的機関の支援に加え,研修先農家・法人の紹介・仲介が住居確保に大きく貢献しており,地域のバックアップ体制が重要であること,移住・就業・就農に要する費用額が準備資金を大きく上回っており,各種給付金や資金の調達により不足部分を賄っている実態にあり,支援事業が新規就農者の移住・就業・就農安定化に大きく貢献していることが指摘された.以上をふまえて,今後は行政,地域からX部門についての具体的な提案が必要となること,半農半X認定者の「なりわい」が成立し,地域農業にもプラスの経済効果を与える方向性を目指すべきであることが指摘された.

第3報告(河野)では,「人の移動制限」が求められる中での労働力確保の取り組みが報告された.柑橘,とくに温州みかんの産地である愛媛県西宇和地域では,収穫時期の労働力確保が課題となっており,JAによる労働力支援の仕組みが構築されてきた.収穫時期の労働力確保については1994年より取り組んでおり,2017年より農繁期が異なる産地間(北海道富良野,沖縄,西宇和)での農業労働力の産地間連携の仕組みをつくりだしてきた.このような県域をこえた農業労働力の地域間移動を前提とするシステムが新型コロナにともなう「人の移動制限」に直面した.同地区では,11月10日から12月20日頃までの約40日間が温州ミカンの収穫適期であり,この時期に労働力を確保できない場合,約70戸分の収穫量に相当するみかんを適期に収穫できず,販売単価下落の可能性,収穫遅れによる品質低下・翌年以降の着果への影響,生産者の営農意欲の減退等の可能性が想定された.これらの状況を回避するために,県外からの労働力を安全に受け入れるための仕組み作りが模索され実施された.具体的には,県外居住の農作業従事希望者に対して,来県後に松山・新居浜市内のビジネスホテルで待機,PCRの検体採取後にJAが検査機関に検体送付,陰性確認後に農家に移動して作業を行うという仕組みを構築し,553名の検査を実施した.PCR検査,検査に係るホテル借り上げ,感染症対策のための宿舎改修等,募集広告費用,検査中の休業補償,受入宿舎借り上げ等には,県,市町等の助成を利用し,助成額は総事業費の約3/4であった.2021年度は,上記取り組みの改善をはかって実施予定である.具体的には来県前にPCR検査を行い,陰性確認後に移動し管内ホテルで再度PCR検査を行い,2回目の陰性確認後に農家のもとに送り,1週間経過後に抗原検査を実施するというものである.この改善は,前年度利用者の改善希望を反映させたものであり,特別セッション時点で当初の予定数を上回る検査数となる見込みであった.

第4報告(田中)では,大規模水田作経営が直面した新型コロナの影響とそれへの対策が報告された.報告者は鳥取県を代表する大規模水田作経営であり,118haの水田でコシヒカリ,山田錦等の水稲を96.7ha,豆類3.5ha,野菜3.5ha等の作付を行っている.同社は,これまでB to Bを中心に大ロットで実需者との取引を行ってきた.このような実需者を対象とした販売はコロナ禍による需要減少の影響を受けることになる.特に,飲食店への出荷量が大幅に減少することとなった.

このようなコロナ禍による影響に対して,同社では以下の対応を講じる.第1に,緊急事態宣言下で休業となった出荷先の飲食店店主,アルバイト難民となった大学生等を対象とする雇用である.春先の育苗から田植え時期まで農作業の臨時雇用を行い,1ヶ月の限定ではあったが県のコロナ対策補助金を活用して労賃の半額助成を受けている.第2に,水稲収穫前の7月から余剰在庫を活用したキャンペーンを開始する.これは,コロナ禍の状況下で「暗いニュースも多く,心が疲れてしまうこともあるでしょう.でも,どんなときでも自然のおいしいごはんを食べれば元気になれるはず!」という想いの下,「おいしい」と「笑顔」を届けることを目的とした.具体的には,期間限定で同社が生産するカレー専用香り米を定価の半額で販売し,レシピコンテスト参加者には割引クーポンをプレゼントするというものである.また,アルバイト先の休業等で困窮する学生の支援を目的として特別栽培コシヒカリ4kgとカレー専用香り米2kgを42%引き,支払は6ヶ月後の12月31日までとするセット販売も行った.なお,同キャンペーンは鳥取県のコロナ対策補助金を活用して送料無料で実施した.このようなキャンペーンに取り組んだ結果,地元や東京のカレー店,県外のコミュニティカフェ等の新規の顧客獲得に成功したことが報告された.

第5報告(大平)では,加工業務用の生産に特化した大規模露地野菜作経営における新型コロナの影響と対策が報告された.報告事例は,岡山県笠岡湾干拓地で生産を行う法人であり,2021年の経営耕地面積は83haである.同社は生食用カボチャの生産からスタートしたが,ALICのマッチングフェアを契機として2015年以降,加工業務用野菜の生産に転換し,経営耕地面積規模の拡大を図ってきた.同社が栽培するのは,輸入が増加しているキャベツ,タマネギ,カボチャであり,加工業務用野菜の実需者とはJAを介して播種前に価格・出荷量等の契約を行っている.また,代金決済,集出荷に係る配車業務等についてもJAを利用している.

同社の生産は加工業務用に特化していたため,新型コロナウイルス感染症の拡大にともなう外食需要の減少の影響を強く受けることになり,3haのタマネギ180tを圃場にすき込む事態となった.この報道をみた地元行政の提案で,ふるさと納税返礼品としてタマネギを利用することとなった.この機会に消費者から「おいしい」「品質が良い」という評価を得ることになる.この評価をふまえて,加工業務用に加えて,生協や地元スーパー,ふるさと納税返礼品として生食用の販売チャネルを確保した結果,売上高はコロナ禍前の水準を維持することとなった.

一方,コロナ禍にともない,中国からの加工業務用向けムキタマネギの輸入が激減する.このような環境変化に対して経済産業省の補助事業を活用して加工施設を整備し,ムキタマネギの生産体制を整備している.現状では原体販売よりも付加価値をつけて高価格で販売が可能となっている.また端境期の売上げと従業員の就業機会の確保にも繋がっている.このように,同社ではコロナ禍で生じた“加工業務用の需要減”と“中国産ムキタマネギの輸入減”という2つの「減」に対し,“販路拡大”と“事業拡大”という2つの「拡大」で対応した結果,コロナ終息後の経営の発展的展開を見い出している.

第6報告(古川)では,中山間地域の営農現場における新型コロナ関連施策の活用状況とその効果について,行政書士としての実務経験に基づいた報告がなされた.報告者が居住する地域は,中山間地域の水田地帯であり,地域の農地75haのうち75%が,1集落営農法人,2つの合同会社,2名の中核的農業者に集積されている.報告者はこれら担い手を中心としてコロナ関連施策等の活用支援を行った.具体的な内容は以下の通りである.第1に,経済産業省所管の給付金である持続化給付金,家賃支援給付金の申請を行い,担い手の主要な出荷先のひとつである農産物直売所での売上げ減少にともなう経営運転資金の確保に資することができた.第2に,農林水産省所管の補助金である経営継続補助金を活用して2法人2個人農業者への防除用ドローンの導入を図った.補助金利用者の集積農地面積は57haであり,作業性の向上が図られた.第3に,自治体独自のコロナ影響緩和交付金・補助金を活用し,農業者がリモート会議に参加するための環境整備等を行った.さらに,中山間地域等直接支払制度交付金の共同活動部分を用いて,ドローンオペレーターの講習費用助成,大型農業機械免許取得費用の助成等を行った.このように,新型コロナ関連施策と既存の施策を連携して活用することにより,施策を単独で利用するよりも利用効果が高まる可能性が示唆された.一方,新型コロナ関連施策は複数省庁から提供されており,担当する自治体職員段階での施策の周知,情報伝達,運用面等で課題が残されていることが指摘された.

以上,6名の報告者より新型コロナウイルス感染症拡大が農業生産や加工等に及ぼす影響について,地域のリアルな実態が報告された.これらの影響が,一過性のもので現場が元の姿に戻っていくのか,それとも今後構造的な変化につながっていくのかの検討については,われわれの今後の課題となる.

最後に,本特別セッションの実施に当たっては,企画立案から実行まで学会企画担当理事,および企画委員の皆様に大変お世話になった.記して感謝申し上げたい.

 
© 2022 地域農林経済学会
feedback
Top